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2020年11月26日木曜日

同居者の有無による自殺率

  今年10月の自殺者は2000人を超えました。「日本は,たった1ヶ月の自殺者数が,1月以降のコロナ死者数を上回っている」と,海外メディアから驚かれています。2~10月のコロナ死者数は1765人ですから,確かにそうですね。

 前年同月に比して1.5倍近くに増えましたが,先日公表された厚労省の詳細統計によると,増加率は男性より女性で高くなっています。男性は1.26倍(992人→1246人)なのに対し,女性は1.9倍の増です(435人→826人)です。

 女性の中で見ると,20~40代の女性では2倍以上に増えています。10月の自殺者2000人越の衝撃を解剖してみると,コロナは若年・壮年女性の生に影を落としていることが知られます。女性は非正規雇用が多いので,まずは雇止めによる経済苦が考えられます。夫が在宅時間が増えたことによる,DV被害なんていう事情もあるでしょう。また,女性は男性よりも対面で人間関係を結んでいるとみられるが,それが一気に失われ,強い孤独感を感じているからではないか,とも言われています。

 「自殺とは孤独の病」とはよく言ったものです。人間は社会的な生き物で,持っておいたほうがいい資本には,お金や財といった経済資本のほか,言葉を交わして精神の安定を得る関係資本も含まれます。平たく言うと人間関係ですが,会社勤めではない在宅仕事で,かつ家族持ちでもないので,私はこの面の資本が乏しいです。

 同世代の作家の雨宮処凛さんが書かれていますが,コロナ禍に伴う不安は,話し相手がいない一人暮らしだと,よからぬ方向へと膨らみ「妄想」に転化しがちです。私はよく分かるのですが,一人だと考えがどんどんマイナス方向に流れていくのですよね。客観的な立場から,「そんなことないよ」「考えすぎだよ」と言ってくれる人がいない

 こういうわけですので,コロナ禍による自殺の危機は,同居者の有無によっても異なるとみられます。2015年の『国勢調査』のデータで,10歳以上の国民を同居者ありの人と,同居者なしの人に分けると,前者が9798万人,後者が1738万人ほどです。7人に1人が単身者なんですね。

 厚労省の自殺統計(上記リンク先)によると,2015年中の自殺者で,同居者ありの人は1万6244人,同居者なしの人は7333人です。自殺者では,同居者がいない単身者が3割を占めています。これだけでも,単身者のほうが自殺に傾きやすいことは明白ですが,ベース人口10万人あたりの自殺者数(自殺率)にすると,同居ありが16.6,同居なしが42.2となります。同居人がいない人の自殺率は,そうでない人の2.5倍です。やはり孤独は仇になるようですね。

 同居者の有無による自殺率の差は,年齢層(ライフステージ)によっても違っています。下表は,年齢層別の自殺率を計算したものです。分母の人口は『国勢調査』,分子の自殺者数は厚労省の自殺統計から得ました。


 どの年代でも,単身者の自殺率のほうが高くなっています。単身者の自殺率は40~50代で高く,同居人のいる人の自殺率の3倍以上です。40代では,同居人ありが17.1,同居人なしが53.6という具合です。

 生活費のこと,老後のことなど,いろいろ悩みが押し寄せるステージですが,一人暮らしだと話し相手がいないので,悪い方へ悪い方へと考え,妄想は膨らむばかり。コロナ禍の今,こうした悩みはさらに重くのしかかっていますが,独り身の中高年は要注意層といえるかもしれません。

 なお性差もあります。上表と同じデータを男女別に作成し,各年齢層の自殺率をつないだ折れ線グラフにすると以下のごとし。


 独り身の中高年の辛さは,男性で際立っています。(結婚できていない)単身の中高年男性は学歴や所得が低い,といった不利な条件があるためかもしれませんが,それを引いてもスゴイ差です。

 まさにわが身なんで,よく分かります。繰り返しますが,一人暮らしだと,悩みを同居人に話して精神の安定を得たり,妄想が膨らむのを客観的な立ち位置から阻止してももらえません。まあ今は,ネット相談なんてのもできますが,人間はやはりアナログ動物です。

 同居の家族がいなくとも,誰でも利用できる,公的な相談機関はあります。私はこれまで,著作権侵害などの問題には一人で対処してきました。しかしこの夏,初めて弁護士に相談してみて,「他人に相談すると,こんなに楽になれるんだ」と実感しました。

 私は「人の縁」はとても薄く,生活保護申請で「親族に連絡しますが,いいですか?」と聞かれても,誰に連絡がいくのか,自分でも分からないくらいです。両親はもういませんし,親代わりで育ててくれた叔父も2015年に亡くなりました。まさに「ぼっち」なんですが,それなら,見知らぬ外部の人に相談できるようなればいい。

 困ったら「相談できる人間」になりたいと思います。簡単なようですが,これを履行できる人間は多くないのが現実です。「恥」の文化といいますか,日本の働き盛りの自殺率が高い原因は,こういうところにもあるといえるでしょう。