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2011年8月25日木曜日

気候と肥満

 東京都内49市区の統計でみると,生活保護世帯率が高い地域ほど,肥満児出現率が高い傾向にあります(1月12日の記事を参照)。貧困家庭における食生活の乱れや,ジャンクフードへの依存というようなことが考えられます。

 このように,子どもの肥満は社会的要因と結びついているのですが,自然的・風土的要因とも関連していることを示唆する統計があります。

 文部科学省の『学校保健統計』から,子どもに占める肥満傾向児の比率を県別に知ることができます。ここでいう肥満傾向児とは,「身長別標準体重から肥満度を求め,肥満度が20%以上の者」だそうです。最新の2010年度調査によると,10歳児の場合,この意味での肥満児の比率は9.3%となっています。この比率を県別に出し,地図化すると,以下のようです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001029865&cycode=0


 最大値は北海道の14.7%,最小値は鳥取の6.1%です。両地域では,率に倍以上の差があります。このような差の大きさもさることながら,もっと注目されるのは,高率地域が,東北や北海道といった北国に偏在していることです。

 このことは,気候と肥満児出現率が関連していることを意味します。具体的にいうと,寒い地域ほど肥満児が多い,ということです。事実,上記の県別の肥満児出現率は,各県の平均気温と負の相関関係にあります。下図をご覧ください。相関係数は-0.432で,1%水準で有意です。


 このデータをどう解釈したものでしょう。講義の受講生に,秋田出身の学生がいたので尋ねたところ,ご飯がおいしいからじゃないですか,という返答でした。とくに秋田では,イカの塩辛など,辛いものが美味いのだそうで,その分,ご飯もススムのだとのこと。ユニークな見解です。

 しかし,寒冷な気候との相関を考えると,雪に閉ざされた冬場の運動不足という要因が大きいのではないでしょうか。先の学生によると,冬場では子どもは外で遊べないばかりか,登下校も,保護者の車で送迎してもらうのだそうです。

 気候と肥満の結びつきの度合いが,低学年の児童ほど大きいことを考えると,なるほどと思います。6~14歳の各年齢について,肥満児出現率を県別に出し,平均気温との相関をとってみると,低年齢ほど,相関係数の絶対値が高い傾向にあります。


 肥満児率の地域差が大きいのも,低年齢の児童です。6歳では,最高の青森と最低の京都では,実に4倍を超える開きがあります。そうした差を規定する要因として,気候のような自然要因が大きい,ということです。低年齢の児童は,家族の庇護に依存する度合いが高いことによるものでしょう。雪の日に,車で送迎してもらう頻度も,低年齢の児童のほうが高いことと思われます。

 子どもの肥満化の問題は,当局も認識しているところであり,それへの対策として,食育の充実というようなことがいわれています。しかし,お上の政策文書をみると,肥満の要因として決して小さくない,社会的要因(貧困)や自然的要因(気候)に触れられていないことが気がかりです。

 寒冷な気候という自然条件を克服するための手がかりは,2番目の相関図の中に含まれています。当該の図によると,山形と長野は,平均気温は同じくらいですが,肥満児率が大きく異なっています。この差は何に由来するのか。長野県の教育実践の中身が注目されるところです。