OECDは,各国の国民の幸福度を計測する統計指標を開発しています。名称は,"Better Life Index",和訳すると「より良い暮らし指標」でしょうか。
このほど公表された最新の資料によると,日本のBLIの順位は21位で,昨年の19位よりも後退したとのことです。「幸福じゃない日本人・・・」,このようなフレーズを掲げた報道記事も見受けられます。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/120523/trd12052312150012-n1.htm
OECDのBLIは,収入やワーク・ライフバランスなど,11の項目を測る複数の統計指標の値を合成したものです。このような一元化処置は,各国を平面の上で序列づけるのには適していますが,現実の複雑性が捨象されてしまう難点もあります。
日本は,どの項目が突出していて(優れていて),どの項目がそうでない(凹んでいる)のか。こういう情報は,総合処理された一つの値から知ることはできません。
私が知りたいと思うのは,結果に至るまでの過程の部分です。BLIで設定されている11の項目ごとに,日本の幸福度の水準を明らかにし,それを視覚化した,多角的な幸福度プロフィール図をつくってみようと存じます。
最初に,BLIを構成する11項目と,各項目を測る統計指標がどういうものかを確認しましょう。OECDのサイトに当たって調べてみました。
http://www.oecdbetterlifeindex.org/
さすがはOECD。適切な指標選択がなされています。合計24指標。日本の各指標の値はどうなのでしょう。上記サイトの"Download the index data"をクリックすれば,各国の全指標の値が掲載されたエクセルの統計表が出てきます。
日本の値は,世帯収入が23,458ドル,世帯金融資産が71,717ドル,就業率が70%,年間個人所得が33,900ドル,短期雇用(不安定)就業率が10.23%,長期失業率が1.88%,・・・となっています。
ご覧のとおり,各指標の値の水準は大きく異なります。そこでOECDの資料では,それぞれの指標値を,0.0~1.0までの標準スコアに換算する方法が提案されています。全対象国(36か国)の分布の中でどのような位置を占めるか,という尺度です。計算式は以下の通り。
(当該国の指標値-36か国中の最小値)/(36か国中の最大値-36か国中の最小値)
たとえば,上表のPISA平均点でいうと,日本は529点,36か国中の最大値は543点(フィンランド),最小値は401点(ブラジル)です。よって,日本のPISA平均点の標準スコアは,(529-401)/(543-401)=0.901点と算出されます。お分かりかと思いますが,最高のフィンランドのスコアは1.00点,最低のブラジルのそれは0.00点となります。
このような操作を施すことで,水準を異にする各指標の値を同列に扱うことが可能になります。なお,▼印のついたネガティブ指標の場合は,上記式で出したスコア値を,1.00から差し引く処置をします。こうすることで,ネガティヴ指標であっても,スコアが高いほど(1.0に近いほど),幸福度が高いという性格を持たせることができます。
以上の方法にて,日本の24指標の値をスコア化すると,下表のようになります。OECD平均の数値も掲げておきます。
どうでしょう。日本は,安全面の指標は2つとも1.0に限りなく近くなっています。この面での幸福度がきわめて高いことが知られます。反対に,WLバランス面は芳しくありません。長時間労働率のスコアは0.314,余暇や個人ケアの時間は0.300です。健康状態良好の者の比率(健康良好度)は0.00で,36か国中最下位であることが知られます。
それでは,項目ごとのスコア平均を出し,11の極からなる幸福度プロフィール図を描いてみましょう。収入面の幸福度は,日本の場合,(0.520+0.696)/2 ≒ 0.608となります。他の項目の平均も同じようにして出し,線で結びました。
日本の幸福度がOECD平均を凌駕するのは,収入,仕事,教育,および安全の項目においてです。他の7項目は,国際的な平均水準を下回ります。とりわけ,WLバランス面の陥没が目立ちます。この部分の是正が急務です。
それと,生活満足度が低いことにも要注意。収入のような経済面の幸福度が高い一方で,人々の意識における生活満足度は低くなっています。人間の幸福は,経済と直線的に比例するものではなさそうです。36か国のデータを動員した相関分析をすれば,この点がクリアーになるでしょう。それは,後々の課題ということで。
次回は,目ぼしい国の幸福度プロフィール図を紹介いたします。主要先進国,福祉国家といわれる北欧諸国,および物騒な発展途上国について,上記のようなチャート図を描いてみたら,どういう図形になるでしょう。お楽しみに。