ページ

2013年6月18日火曜日

産業別の正規就業者の就業時間

 某報道機関の記者さんとコラボして,現代の雇用の歪みを可視化する作業をしています。これまでは,ワーキングプアや非正規というような,給与や雇用形態の面に焦点を当ててきましたが,今回は,労働時間に注目してみようと思います。

 ここでみるのは,短時間雇用が多い非正規を除いた,正規就業者の週間就業時間分布です。

 総務省『就業構造基本調査』から,規則的就業をしている正規就業者の週間就業時間分布を知ることができます。ここでいう「週間就業時間」とは,「就業規則などで定められている時間ではなく,ふだんの1週間の実労働時間」とされています。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2007/index.htm

 最新の2007年調査のデータをもとに,15歳以上の正規就業者の週間就業時間分布を明らかにしてみましょう。参考までに,一般飲食業の分布もお見せします。外食チェーン等ですが,こちらはおそらく,長時間労働が多いのではないかと思われます。


 全産業の3,354万人の分布をみると,35~42時間という者が最も多くなっています。ちょうど真ん中です。週5日勤務とすると,1日あたり7~8時間であり,おおむね法定労働時間とマッチしていますね。

 しかし一般飲食業では,分布の山がマックスの65時間以上の階級にあります。65時間といったら,1日13時間ほど働いていることになります。完全な過労状態です。この業界の正社員では,こういう人間がマジョリティーであることに驚かされます。25%,4人に1人です。

 上表の就業時間分布を,簡易な代表値で要約してみます。まずは平均値(average)です。カッコ内の階級値を使うと,全産業の正規就業者の週間平均就業時間は,次のようにして算出されます。

 [(12.5時間×0.8人)+(17.5時間×0.4人)+・・・(70.0時間×7.2人)]/100.0人 ≒ 47.5時間

 法定の週間労働時間(40時間)を上回っていますが,これは置くとして,一般飲食業の平均値を出すと54.0時間にもなります。1日10時間超・・・。平均でみてコレです。巷でいわれる長時間労働常態化の様が可視化されています。

 これは全体を均した値ですが,あと一つの測度を計算してみましょう。週60時間以上就業者の比率です。1日12時間以上働いている長時間就業者率ですが,上表から分かるように,全産業では15.2%,一般飲食業では41.2%となります。

 週間平均就業時間と長時間就業者率。この2指標をもとに2次元のマトリクスを構成し,98の産業の正規就業者を位置づけてみました。下図がそれです。点線は,全産業の値を意味します。


 右上にあるのは長時間労働が常態化している業種ですが,先ほどみた一般飲食のほか,漁業,運送業,商品先物取引業などが位置しています。分かるような気がする・・・。ネットで頼んだ商品がその日のうちに届く「Todayサービス」なんかは,こういう長時間労働に支えられてのものなのだろうなあ。それなら,2~3日かかってもいいのに(外国では当たり前)。

 対極の左下にあるのは労働時間が短い業種ですが,公務員は分かるとして,介護や児童福祉(保育士等)がこのゾーンに位置するのはちと意外です。当直等,勤務時間管理がきちんとなされているためでしょうか。教員等の学校教育は,平均水準よりも少しばかり上というところです。

 以上は週間就業時間に着目した分析ですが,『就業構造基本調査』では年間就業日数も調査されており,週間就業時間と絡めたクロス表が掲載されています。私は,98の産業の正規就業者について,「年間300日以上就業&週60日以上就業」という者の比率を出してみました。

 単純にみて,12時間労働を月に25日こなしている者の比率です。まさにスーパー過重労働率とでもいい得るものです。

 98産業の平均値は3.6%でした。28人に1人。かなりの少数派です(そうでなくちゃ困る!)。しかし産業別にみると,この恐ろしい指標の値が1割,2割を超える業種もあります。

 1割を超えるのは6業種です。高い順に示すと,①宗教(20.6%),②一般飲食(19.0%),③遊興飲食(18.4%),④漁業(17.7%),⑤農業(12.8%),⑥飲食料品小売業(11.3%),であります。ひたすらな帰依を求められる宗教,自然を相手にする農業や漁業では,こういう超長時間労働が少なくないのですね。飲食業がランクインしているのは,イメージ通りです。

 以上,『就業構造基本調査』の統計を加工して,現代の正社員の労働時間を明らかにしてみました。まあ,週休2日制の普及等により,わが国の労働時間は,総体として昔よりも短くなっていることでしょう。

 ですが,年齢層ごとにみるとどうでしょうか,とくに若年層は,今の大変な不況のなか,正社員の地位を剥奪されたくないという強迫観念から,違法な長時間労働を粛々と受け入れている向きもあります。2月22日の記事でみたように,そういうように仕向けられる側面もあり。

 年齢層別の分析を今後の課題としたいと思います。