ページ

2013年7月31日水曜日

2013年7月の教員不祥事報道

 月末恒例の教員不祥事報道の整理です。今月,私がWebニュース上にて把握した,教員の不祥事報道は53件でした。先月よりもちょっと増えています。

 定番のわいせつや体罰のほか,児童の口にガムテープを貼る,アンケで「いじめと書くな」と指導,保護者と性交,女子生徒と二股交際,といった事由も見受けられます。

 いつも通り,記事名の後に,当該教員の基本的な属性を記録しました。件の詳細を知りたい方は,記事名でググってみてください。

 明日から8月。暑い日が続きます。熱中症にはくれぐれもご注意ください。

<2013年7月の教員不祥事報道>
・10数回の補習で女子生徒にセクハラ 男性教諭停職3カ月
 (7/1,産経,神奈川,中,男性,50代)
・写真のモデルに」と女性の下半身触った疑い 中学教諭を逮捕
 (7/2,埼玉新聞,埼玉,中,男,30)
・元生徒に復縁迫るメール209件、高校教諭逮捕(7/2,読売,群馬,高,男,32)
・女子中学生にみだらな行為した疑いで小学校教師逮捕(7/3,TBS,大阪,小,男,27)
・男性教諭が生徒に暴行 山武市の市立中学校(7/3,千葉日報,千葉,中,男,42)
・男子生徒に頭突き 教諭を減給処分(7/3,産経,栃木,中,男,45)
・柔道顧問が暴力、PTSD=傷害容疑で書類送検(7/3,時事通信,大阪,高,男,26)
・マスク忘れた給食当番に教諭が用意したものは… (7/4,読売,栃木,小,男,30代)
・保護者の期待に応えようとして平手打ち…依願退職 (7/5,読売,広島,高,男)
・中2女子に淫行容疑、当時担任の教諭を逮捕(7/6,読売,栃木,中,男,32)
・電車内で痴漢の疑い、学校教諭を逮捕(7/7,朝日,大阪,特,男,25)
・中学教諭、女子生徒にわいせつ 愛知県教委が処分検討(7/9,朝日,愛知,中,男,50代)
・プール授業中 教諭が中2のほお十数回たたく (7/9,読売,佐賀,中,男,53)
・アンケに「いじめと書くな」と指導した女性教諭 (7/10,読売,栃木,小,女,30代)
・裸を撮影、20歳女性を脅迫容疑 「ばらまく」教諭逮捕(7/10,朝日,埼玉,小,男,28)
・女子部員に「犬以下だ」 私立高バレー部顧問、暴言・暴行で処分
 (7/10,河北新聞,宮城,高,男,30代)
・生徒にわいせつ行為 男性教諭を懲戒免職(7/11,産経,静岡,中,男,20代)
・体罰、盗撮、保護者と校内で性的関係などで教師処分
 (7/11,北海道新聞,北海道,盗撮:小男27,保護者と性交:小男42)
・盗撮認めた教諭を懲戒免…岐阜(7/11,読売,岐阜,小,男,34)
・傷害罪で略式命令、県立学校教諭が停職1カ月に(7/12,神奈川新聞,神奈川,特,男,43)
・担任に背中押され 小3転倒、首に痛み(7/12,産経,和歌山,小,男,55)
・体罰で教員6人を懲戒処分 神奈川県教委 76人も引き続き考査
 (7/12,産経,神奈川,高女29,高男26,高男58,高男48,高男45,中男59)
・バスケ部顧問の女性教諭、平手やげんこつ…減給処分(7/12,毎日,大阪,中,女,57)
・同上 (右腕の骨を折る重傷を負わせた:小男35,頭を切るけがをさせた:中男32)
・高校新体操部コーチが部員に体罰、暴言(7/13,読売,鳥取,高,男,48)
・教え子にみだらな行為 中学教諭を容疑で逮捕(7/13,産経,和歌山,中,男,25)
・麻薬輸入の教諭を広島県教委が懲戒免職(7/13,産経,広島,小,男,41)
・同上 (セクハラ行為:高男37,許可を得ずアパート経営:高男55)
・2年前、聴覚支援学校で体罰?県教委調査中(7/13,読売,宮城,特,男,30代)
・中学教諭が体罰、中1男子が肩を骨折する重傷(7/15,TBS,福岡,中,男,30代)
・37歳教諭、交際相手の20歳女性の目殴る(7/16,読売,北海道,高,男,37)
・わいせつ容疑で教諭逮捕=女子生徒に無理やりキス(7/17,時事通信,愛知,中,男,42)
・筆箱投げる女性教諭、児童「怖くて行けない」(7/18,読売,山口,小,女,50代)
・生徒にわいせつ、教室でアダルト映像(7/18,読売,香川,わいせつ:高男37)
・同上 (女子生徒1人にキス:高男26,アダルト映像を再生:中男56)
・同上 (公務用パソコンの保秘機能を無効にするソフトを作成:中50)
・泣いてる男児に手払われ…教諭、馬乗り平手打ち(7/18,読売,千葉,小,男,62)
・同上 (スカート内を盗撮:特男28)
・女性のリップクリーム使用不能にした教諭(7/18,読売,鳥取,高,男,38)
・教諭、ほうきの柄・手で高2女子20回超たたく (7/18,読売,熊本,高,男,50代)
・わいせつ教諭を懲戒免職 体罰の講師は減給処分(7/18,福島民友,福島,小,男,37)
・同上 (映画ポスターを盗む:高男40代,顔を平手でたたくなどの体罰:高男30代)
・勤務中に校内で抱き合い…中学教諭ら8人を懲戒処分(7/19,産経,兵庫)
 (体罰を加えた中学校の男性教諭(40),組み体操の練習でミスをした男児の頭を数回たたくなどした小学校の男性教諭(51),生徒の保護者と恋愛関係となり、勤務中に校内で抱き合うなどした中学校の男性教諭(59),生徒の写真データなどを無許可で校外に持ち出し盗まれた中学校の女性教諭(51))
・教諭を停職1カ月 娘が通う中学男子殴る(7/20,産経,奈良,中,男,50)
・教諭2900人の個人情報紛失(7/20,NHK,埼玉,高,男)
・「女性気になった」小学校長、電車で痴漢容疑(7/22,読売,大阪,小,男,56)
・中学に侵入し窓に体重・身長・趣味を書いた教諭 (7/23,読売,大阪,中,男,26)
・女子生徒に馬乗り体罰、はたまた交際申し込み(7/23,産経,兵庫,中,男,39)
・同上 (交際を申し込んだ:高男30代,乗用車で重傷事故:中男47)
・朝、傘の先端をスカートに近づける男…店が通報(7/25,読売,長野,小,男,28)
・中学教諭、女子の答案余白に「これが答えだよ」(7/25,読売,北海道,中,男,54)
・女子バスケ部員7人に体罰 顧問の中学教諭を戒告処分
 (7/25,伊勢新聞,三重,中,男,39)
・窃盗の疑い、小学校教諭を逮捕(7/25,神戸新聞,兵庫,小,27)
・相談に来た生徒にキス、教諭2人を停職処分(7/26,朝日,群馬,高,男35,中37)
・女子生徒2人と交際 県教委、高校教諭を懲戒免職(7/26,埼玉新聞,埼玉,高,男,31)
・<セクハラ>部下に 小学校校長懲戒免(7/27,毎日,東京,小,男,61)
・窃盗容疑、ゆり養護学校教諭を逮捕(7/28,さきがけ,秋田,特,48)
・体罰の2教諭を懲戒処分 鼓膜破れた生徒も(7/30,神奈川新聞,神奈川,中男44,中男50)
・小田原の中学校:「身の程わきまえ」支援学級生徒に書かす (7/31,毎日,神奈川,特)
・女子高生に傷害、宮津中講師を停職処分(7/31,産経,京都,中,男,24)

2013年7月29日月曜日

生活保護開始世帯の解剖図

 今野晴貴さんの新刊『生活保護-知られざる恐怖の現場-』(ちくま新書)を読み終えました。国民の生存権を保障する,最後のセーフティネットである生活保護の機能不全。その実態をまざまざと教えられました。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480067289/

 今野さんは,①保護開始前(受給段階),②保護受給中,および③保護からの締め出し,という3つの局面に分けて論を展開していますが,強い憤りを感じたのは,①の段階における,いわゆる「水際作戦」です。

 保護申請書を渡さない,受け取らない,ひどいケースでは職員が対応にすら出てこない・・・。福祉事務所を訪れる人の中には,所持金が数百円,ゼロ円という,切羽詰まった人もいます。これはもう,国家による間接的な殺人行為でしかありません。

 生活保護の件数というのは,社会病理の指標とみなされがちですが,この本を読むと,それは逆ではないか,という思いもします。25頁の国際統計をみると,わが国は,生活保護受給率,捕捉率とも,ヨーロッパ諸国に比して各段に低いのですが,これは褒められたことではなく,「貧乏人は死ね」という社会になっているのではないか,という危惧すら持たれます。

 しかるに,こういう事情はあるにせよ,生活保護の件数というのは,社会における貧困の広がりの程度を表す指標として読むことができるでしょう。厚労省の『福祉行政報告例』によると,生活保護開始世帯は,1997年度間では11,305世帯でしたが,2011年度間では20,521世帯となっています。1.8倍の増加。この期間中の社会状況を思えば,さもありなんです。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/38-1.html

 なお,保護開始世帯の内訳を解剖してみると,もっとまざまざしい側面がみえてきます。下の表は,世帯主の年齢層別,ならびに保護開始の理由別に数を整理したものです。


 生の実数の統計表ですが,よほどカンのいい人でない限り,これからは傾向が読み取れません。このデータをグラフにするとしたら,どうされますか。オーソドックスなやり方は,両年について,年齢層別の理由内訳の帯グラフをつくることでしょう。エクセルでちょちょいのちょいです。

 ですが,この図だと,各成分の絶対量をみてとることができません。分かるのは,各年齢層の中での理由構成比重だけ。欲張りな私としては,生活保護を受ける世帯の年齢構成も同時に知りたくなります。上表でいうと,ヨコの内訳です。

 そこで私は,各年齢・各理由カテゴリーの量を四角形の面積で表現する,面積図をつくってみました。ブツをみていただきましょう。丸囲いの数字は,上表の4つの年齢層をさします。


 2011年度の図形は,全体的にタテ長になっていますが,これは,1997年度に比して保護開始世帯数が1.8倍に増えたことと対応します。

 年齢層の内訳は,ヨコの幅で表現されていますが,1997年度では,半分近くが40~50代の世帯(②)だったのですね。しかし最近では,高齢層のシェアが高まっています。また,わずかながら若年層の比重が増していることにも注意しましょう。

 しかし,上図でもっとも注視すべきは,理由構成の変化です。失業,収入減少,および貯金減少といった貧困要因の比重が,絶対量・相対量ともに増しています。以前は,生活保護開始の理由の多くが「傷病」によるものでしたが,現在では,上記の3理由の幅が殊に広くなっています。現代ニッポンにおける貧困の広がりが可視化されていますね。

 このことに国が業を煮やしたのか,6月に可決された生活保護法改正法案では,親族の扶養義務の強化が盛り込まれています。扶養義務照会に対し「できない」と答えた場合,収入状況の証明も添えて,その理由を詳しく説明しなければならなくなるそうです。

 そうなった時,上図の模様は,再び1997年度のようなものに立ち返るかもしれません。生活保護は,ケガで働けないというような,よほどの理由でない限り受けさせない。生活苦は理由にならない。もっと働くか,親戚に面倒をみてもらえ,というわけです。

 それはそれで,大きな問題を含んでいるといえましょう。「子に迷惑をかけるくらいなら死んだほうがマシ」というような,高齢者の自殺が増えることも懸念されます。親族関係の悪化に苛まれる人間も確実に増えることでしょう。

 結局のところ,上図の3色(紫,水色,青)の減少分よりも,はるかに大きなコストが発生するのではないでしょうか。

 生活保護の削減は,当面の財政健全化につながることはあっても,長い目でみれば,貧困の蔓延,労働市場の崩壊(中間的就労に象徴される超低賃金労働増加),逸脱行動増加,刑務所の福祉施設化,というような副産物を確実にもたらすことでしょう。今野さんもいわれていますが,私も,まったくもってその通りであると思います。

 今から10年後,上図と同じ図を描いてみたとき,3色(紫,水色,青)の比重が減少しているならば,それは恐ろしいことであるといえます。犯罪増,自殺増のような統計的事実が間違いなく伴っていることでしょう。

2013年7月28日日曜日

末子の年齢別にみた母親の専業主婦率地図

 幼子がいる母親の就業率(専業主婦率)については,これまで何度か書いてきましたが,観察される値は地域によって大きく違います。

 私は,2010年の『国勢調査』のデータを使って,首都圏(1都3県)の243市区町村の専業主婦率を計算してみました。ここにて,その地図をご覧に入れようと思います。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 私が住んでいる多摩市を例にして,計算の方法を説明しましょう。2010年10月時点の当市でみると,末子が0歳である核家族世帯の数は1,001世帯です。ここでいう核家族世帯とは,夫婦がいる世帯であり,母子世帯,父子世帯は除きます。

 このうち,母親が就業している世帯(パート,バイト等も含む)は336世帯。よって,母親が就業していない世帯,すなわち専業主婦世帯の比率は,(1,001-336)/1,001 ≒ 66.4%となります。この値をもって,乳児がいる母親の専業主婦率とみなすことにします。

 これは,0歳の乳児を抱える母親の専業主婦率ですが,末子の年齢によって比率がどう変化するかをみると,下表のようになります。


 末子の年齢が上がるにつれて,母親の専業主婦率は減じていきます。子どもが大きくなるにつれて,手がかからなくなるためでしょう。

 私はこのやり方にて,首都圏243市区町村の母親の専業主婦率を明らかにしました。最初に,0~2歳の乳幼児がいる母親の専業主婦率地図をみていただきましょう。塗り分けの区分は,他の年齢層でみた分布も勘案して,40%未満,40%台,50%台,および60%以上としています。


 真っ赤ですね。子が乳幼児の段階でみると,ほぼすべての地域の専業主婦率が50%,半分を越えています。うち多くが6割以上。地域差がもっとあるかなと思っていましたが,ここまで一様であるとは驚きです。

 しかるに,子の年齢が上がるにつれて,専業主婦率は下がりますから,地図の色が全体的に薄くなってきます。また,地域間のバラつきも大きくなってきます。幼児がいる母親と,小学校に上がった児童がいる母親の専業主婦率地図をみてみましょう。


 地図上の濃い色がどんどん少なくなってきますね。子が小学校に上がった後になると,専業主婦率が4割を切る地域(白色)が,全体の3分の1を占めるようになります。

 しかし,この段階でも率が50%,60%を超える地域があり,多くが都心や政令指定都市内の区です。6割を超えるのは,東京・港区(61.3%),東京・世田谷区(62.0%),東京・武蔵野市(61.0%),横浜市青葉区(61.8%),川崎市宮前区(61.1%),そして川崎市麻生区(61.6%)なり。

 なお,地域差という点でいうと,子が3~5歳の幼児段階で最も大きいようです。ご覧のように,4つの色がほぼ満遍なく存在する形になっていますから。この段階での,都内や政令指定都市での濃い色が気になりますねえ。おそらく,各地域の保育所供給量のような指標と強く相関していることでしょう。この点については,3月26日の記事をご覧ください。

 ただ,上の地図は2010年10月時点のものです。より近況でみれば,図柄は大きく変わっていることと思われます。待機児童ゼロを達成した横浜市については,とりわけそうでしょう。2015年の『国勢調査』から描かれる,同市内の各区の色がどうなっているか見ものです。
 
 今では,『国勢調査』などの官庁データをネット上で収集することができ,かつ,MANDARAのような地図作成ソフトが同じくネット上で無償提供されています。おかげで,私のような人間でも,今回のような作品を簡単につくることができます。感謝です。今後も,この恩恵を活用して,情報発信に努めていきたいと思います。

2013年7月27日土曜日

卒業したら「センモン」行きます

 前期の担当授業は終わりましたが,今年は受講生の中に4年生が結構いました。リクスーで出てくる子がほとんどでしたが,ずっと普段着だった子も数名。

 大学院に行くのかなと思い,卒業後の進路志望を尋ねたところ,一人の男子学生は「センモン行きます」と明言してくれました。ここでいう「センモン」とは,専修学校の専門課程のことです。一般には,専門学校といわれています。

 専修学校は学校教育法第1条に規定されている正規の学校ではありませんが,大学等と並ぶ中等後教育機関の一つであり,実践的な職業教育を施す学校です。専修学校には,中卒者を対象とする①高等課程,高卒者を対象とする②専門課程,入学資格を問わない③一般課程がありますが,学生の大半は②に在籍しています。

 上記の学生は,デザインの勉強を本格的にやりたいとのこと。「でも,大学でやったことがもったいなくね?」と揺さぶりをかけてみると,「いやあ,大学の自由な時間の中でやりたいことを見つけられたんだから,別にいいっすよ。それに大卒の学歴もつくし」という答え。なるほど。そういう考え方もありますか。

 全国の大学のキャンパスにも,こういう学生さんが結構いるのかもなあ。文科省の『学校基本調査』をみると,専修学校専門課程の入学者のうち,大卒学歴を持つ者(大学卒業者)がどれほどいるかが載っています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 私が大学を出た1999年春から現在までの推移を跡づけてみました。もっと前まで遡りたいのですが,ネット上でみれるのはこの年までのようです。


 高卒者の大学進学率の高まりもあって,入学者全体は減じてきていますが,大学を出てから入ってきた者は,おおむね増加の傾向にあります。1999年では11,068人だったのが,2012年では17,705人にまで増えています。

 その結果,入学者に占める大卒者の割合はアップしており,現在では6.7%,およそ15人に1人が大卒者です。これから先,この数値がさらに高まり,「専門学校は,大学での『自分探し』を経た青年に,実践的な職業技術を授ける学校だ」などといわれるようになるかもしれません。

 これは極端な予測ですが,大卒者の進路統計にも当たってみましょう。最近は,『学校基本調査』の進路カテゴリーが細かくなっており,「専修学校・外国の学校等入学者」というものが設けられています。このうちのほとんどは専修学校専門課程への入学者でしょう。

 2012年春の大卒者は558,692人。このうち,上記カテゴリーに割り振られているのは11,173人です。よって,大卒者の専修学校等入学率は2.0%と算出されます。なお,この値は設置主体や専攻によって変異します。下表にて,その様をみていただきましょう。


 国公立よりも私立大学で率が高くなっています。専攻別にみると,芸術系,人文科学系,および学際系(その他)において率が高し。む-ん,分かる気がする。先ほど紹介したのは,私立の人文系の学生さんです。「自由な時間の中」で,デザインをやりたいという志望を固めた学生さんです。

 ちなみに,上表の専攻系列の下にある小専攻ごとにみると,もっと高い率が観察されます。私立芸術系の音楽(7.4%),学際系の教養学(7.0%),人文科学系の哲学(5.5%)など。教養学や哲学専攻では,思索にふける時間が多く得られるでしょうしなあ。

 あと一点,地域差もみてみましょう。各県の大卒者のうち,専修学校等に入学した者が何%いるかを出し,地図をつくってみました。


 首都圏,近畿,および九州で率が高くなっています。地域性がくっきりと出ていますね。都市部では専修学校が多いからでしょうが,九州で「再入学率」が高いのはどうしてでしょう。なかなか就職が無く,需要のある分野の技能を身につけようと,看護専門学校等に行く大卒者が多いのかしらん。

 スタジオジブリの『耳をせませば』(1995年)の中で,主人公の雫が「お姉ちゃん,進路決まった?」と尋ねたところ,姉は「それを探すために大学に行っているの」と答えています。この言は,今の大学生の心の内を的確に言い表していると思います。

 今回のデータをもって,大学教育の機能不全の証左とみるか。それとも,大学は自己アイデンティティの模索の場でもあることにかんがみ,大学の「小・中・高校化」とでもとれるような,締め付け一辺倒の政策だけではいけない,という主張につなげるか。考え方はいろいろでしょう。

 役割模索期としての青年期が,いたずらに長くなることを歓迎するのではありませんが,私は,どちらかといえば後者に近い考えを持っています。

2013年7月25日木曜日

都道府県別・年齢層別のジニ係数

 社会における富の格差を測る代表的な指標として,ジニ係数があります。日本のジニ係数がどれほどかはちょっとググれば分かりますが,都道府県別にみたらどうでしょう。また,若年層の収入格差が大きいのはどの県か,という関心もおありかと存じます。

 今回は,そうした興味・関心に沿うデータをお見せしようと思います。私は,2012年の総務省『就業構造基本調査』の世帯統計を使って,都道府県別・年齢層別のジニ係数を軒並み明らかにしました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 私は,東京都に住む30代の世帯主です。2012年10月時点でみると,世帯主が30代である都内の世帯のうち,世帯年収が分かるのは110万世帯ほどです。この中には,非就業者世帯や単身世帯等も漏れなく含まれます。

 この110万世帯の世帯年収分布は,下表のようです。左端の世帯数の実数をご覧ください。


 年収400万円台の世帯が16万世帯で最も多く,全体の14.5%を占めています。しかし分布の幅は広く,年収200万円に満たない貧困世帯が1割いれば,年収1,000万以上の富裕世帯も1割ほど存在します。まあ,世帯主が30代の全世帯でみれば,こんなものでしょう。

 さて,この世帯年収分布からジニ係数を計算するのですが,各階層の量の分布と,それぞれの階層が手にした富量の分布がどれほどズレているかに注目するものです。

 階級値の考え方に依拠して,年収100万円台の世帯の年収は一律に150万円であるとみなし,この階級に行き渡った富量は,150万×57,300世帯≒860万円といたしましょう。こうした便法によると,世帯主が30代の全世帯にもたらされた富の総量は,6億1,728万円ほどと見積もられます。

 この6億円余りの巨額の富が各階級にどう分配されているかですが,当然,少なからぬ偏りがあるようです。右欄の累積相対度数をみると,年収が500万円に満たない世帯は全体のちょうど半分を占めていますが,これらの世帯に届いた富は,全体の3割弱ほどです。上層部をみると,世帯数の上では1割しか占めない年収1,000万以上の世帯が,全富の23%をもせしめています。

 こうした偏りは,ローレンツ曲線を描くことで可視化されます。横軸に世帯数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に,14の年収階層をプロットし,線でつないだものです。この曲線の底が深いほど,両者のズレが大きいこと,すなわち年収の格差が大きいことを示唆します。

 上表の累積相対度数をもとに,世帯主が30代の世帯の年収ローレンツ曲線を描くと下図のようです。比較対象として,高齢世帯の曲線も添えてみました。


 高齢世帯の曲線のほうが,底が深くなっていますね。高齢層の場合,就業しているかどうかや,年金等の社会保障の有無が影響しますから,収入格差の程度が大きいのは頷けます。

 われわれが求めようしているジニ係数とは,この曲線と対角線で囲まれた部分の面積を2倍した値です(計算方法の詳細は,2011年7月11日の記事をご覧ください)。算出された係数値は,30代世帯が0.327,高齢世帯が0.444です。

 一般にジニ係数が0.4を越えたらヤバいといわれますが,高齢世帯の係数値はこれを越えています。振り込め詐欺の電話1本で,何千万円もホイと出す高齢者もいれば,日常の食費にも事欠き,スーパーで惣菜を万引きするような高齢者も多いことを思うと,さもありなんです。

 計算に使った元データと計算の過程について,イメージを持っていただけたかと思います。それでは,全県・全年齢層のジニ係数一覧表を以下に掲げます。上位5位は赤字,全県中の最高値はゴチの赤字にしました。


 危険水域(0.4)を越えている場合,黄色のマークをしましたが,結構ありますね。世帯主が70以上の高齢世帯では,北海道と広島を除いて,全県でジニ係数が0.4を超えています。マックスは,徳島の0.477なり。

 世帯主が30歳未満の若者世帯でも,黄色が多くついています。若年層でワープア化や非正規化が進行していることも影響しているでしょう。マックスは山梨で,0.479にもなります。この値は,上表全体でみても最高です。

 7月13日の記事でみたように,山梨では,この5年間で20代有業者のワープア率と非正規率が最も伸びているのですが,このことの反映か,若年世帯の収入格差も大きくなっています。当県の関係者は,こういう問題について認識しているのかしらん。

 なお,働き盛りの中高年層の世帯収入格差は,南端の沖縄で最も大きいようです。沖縄と徳島は,赤字が多いですな。

 上表は資料としてみていただければと思いますが,最後に,全年齢層(左端)のジニ係数値を地図化しておきましょう。世帯年収の格差が相対的に大きい県の分布図です。


 色がついているのは,一般的な危険水準(0.4)を越えている県です。西日本はほとんどが色つきであり,わが郷里の九州をみると,福岡,熊本,鹿児島という,九州新幹線沿線の県が見事に濃い色で染まっています。東京が首都圏で唯一濃い色になっているのも気がかりです。

 メディア等で報道されるジニ係数は全国・全年齢一緒くたのものですが,細かく計算してみると,バラエティがあることに気づかされます。今回のデータが,各地域レベルでの格差解消の取組にいささかでも寄与するところがあれば幸いです。

2013年7月23日火曜日

成人の通学人口率地図

 社会の生涯学習化が進行するなか,大学等の組織的な教育機関で学ぶ成人が増えてきています。

 2010年の『国勢調査』の労働力集計をみると,伝統的就学年齢を過ぎた30歳以上の成人のうち,「就学の傍ら仕事」の者は50,123人,「通学」の者は95,847人となっています。合計すると約14万6千人。私が住んでいる多摩市の人口とほぼ同じくらいです。

 臨時教育審議会が,21世紀に向けた教育改革の目玉ポイントとして「生涯学習体系への移行」を打ち出したのは,1987年のことです。この少し前の1985年の同調査から分かる数値と比べてみましょう。下表をご覧ください。


 bとcを足した通学人口は,1985年では4万6千人であったのが,2010年では14万6千人になっています。この四半世紀の間で,10万人ほど増えたわけです。人口の高齢化が進んでいることを勘案して,ベース人口あたりの出現率を出しても,値の増加が観察されます(右欄)。

 上記の臨教審答申以降,人々の生涯学習推進に向けたさまざまな取組がなされてきています。1990年には生涯学習振興法が制定され,都道府県レベルでの生涯学習推進施策について定められました。2008年2月の中教審答申では,「学習成果の評価の社会的通用性の向上」が明言されました。大学等で学ぶ成人の量の増加は,こうした施策の賜物であるともいえましょう。

 さて,今回の主眼は,上記の通学人口率を都道府県別に明らかにすることです。先ほど出した通学人口率は,当然,地域によって大きく変異することでしょう。

 私は,同じやり方にて,30歳以上の成人の通学人口率を県別に計算し,値に基づいて各県を塗り分けた地図をつくりました。生涯学習施策が本格化する前の1985年と,2010年現在の地図の模様をみていただきたいと思います。


 この四半世紀にかけて,全体的に地図の色が濃くなっていますね。大学等に通う成人の量が増えているのは,地域を問わないようです。通学人口率の増加倍率が最も大きいのは岐阜で,3.3から12.4へと4倍近くにも伸びています。

 ただ,2010年現在の地図をみると,色が濃い高率県が,首都圏や近畿圏,ならびに地方中枢県に偏していることが気がかりです。大学等の高等教育機関が都市部に集中していることも影響しているでしょう。

 ちなみに標準偏差(S.D)も,1985年の2.38から2010年の4.86へと拡大しています。成人の通学人口率の地域格差が開いている,ということです。

 7月2日の記事でみたように,国際的にみれば,わが国の成人の通学人口率はお話にならない低さなのですが,それもさることながら,国内の格差が大きい,ということにも注意が要るかと思います。

 外的な条件に由来する教育上の格差を総称して「教育格差」といいますが,成人の場合,子どもにも増して,この問題が深刻化する恐れがあります。成人が学ぶ高等教育機関の地域的偏在という条件もありますが,それよりも大きいのは,生涯学習というのは,各人の自発的な意思に依拠してなされる,ということです。

 米国のピーターソンは,“Education more Education”という法則を提唱していますが,既に教育(学歴)を有している者ほど,生涯学習への欲求は高いことでしょう。おそらく,各県の成人の通学人口率は,住民の高学歴率のような指標と大変強く相関していると思われます。

 少子高齢化の進展により,生涯学習の重要性は高まりこそすれ,その逆はないでしょう。その中において,大学等の組織的な機関での学びというのは,大きな位置を占めています。それを推進する伝統的な施策は,社会人入学枠拡大,教育有給休暇取得促進,遠隔教育の充実,といったものでしょうが,これから先は,いわゆる「アウト・リーチ」政策に力点を置くことが求められるかもしれません。

 教育格差の問題は,多くの教育社会学者が関心を寄せるところですが,子どもだけでなく成人をも射程に入れた議論をすることが要請されると思います。

 現在,OECDの国際成人力調査(PIAAC)の結果集計がなされているそうですが,これなどは大変貴重なデータとなることでしょう。諸々の条件によって,「成人力」なる指標がどういう変異をみせるか。結果の公表を心待ちにしています。

2013年7月21日日曜日

若者にとってキツイ職業

 6月15日の記事では,若者にとってキツイ産業はどういうものかをみたのですが,今回は,職業に注目してみようと思います。

 各職業のキツさのバロメーターとしては,給与とか労働時間とかが使われるのが普通ですが,ここではそういう外的な指標ではなく,当該職業の従事者(正社員)がどれほど「ヤメタイ」と思っているかという,内的な側面に着目します。

 総務省の『就業構造基本調査』では,調査対象の有業者の就業希望意識を明らかにしています。用意されているカテゴリーは,「就業継続希望」,「追加就業希望」,「転職希望」,および「就業休止希望」です。私は,後2者の回答の比重を計算してみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 2012年調査の結果によると,20代の正規雇用者は617万人。そのうち,転職を希望している者は96万人,就業休止を希望している者は9万人ほどです。よって,若き正社員の転職・就業休止希望率は17.1%となります。およそ6人に1人。結構いるものですね。

 私は,66の職業について,同じ値を出してみました。下表は,高い順に並べたランキング表です。


 トップは経営・金融・保険専門業で,20代の正社員の転職・就業休止希望率は43.2%にもなります。

 日本職業標準分類の解説によると,「高度な企業経営・金融・保険に関する専門的知識や実務経験に基づき,他人の求めに応じて,財務会計,人事労務に関するコンサルティング,財務監査,税務指導などの仕事及び資産運用や金融取引に関する助言・リスクヘッジ・リスクマネジメント・投資戦略の設計などの仕事」だそうです。給与はいいのでしょうが,責任重大でストレスが多そうですね。

 ほか,印刷・製本労働者,接客・給士も上位に挙がっていますが,後者には,飲食店の店員さんも含まれるでしょう。

 教員はというと,9.0%で57位です。案外低いのですな。最近需要が高まっている介護サービス職は,19.1%で22位なり。

 上表は資料としてみていただければと思いますが,あと一つの作業として,正社員全体の転職・就業休止希望率も勘案して,66職業の位置構造を描いてみましょう。こうすることで,若年従業者に危機や困難が集中している度合いも可視化することができます。

 横軸に15歳以上の正規雇用者の転職・就業休止希望率,縦軸に20代の正規雇用者のそれをとった座標上に,66の職業を位置づけてみました。


 斜線は均等線ですが,ほとんどの職業において,全体よりも若者の転職・就業休止希望率が高くなっています。教員でいうと,全体は6.5%,20代は9.0%です。最近は,若い先生は大変だっていいますしね。

 お分かりかと思いますが,全体と20代の差は,斜線からの垂直方向の距離でみてとれます。上方に隔たっているほど,当該職業では,若者に危機や困難が集中する度合いが高いことを示唆します。

 ほう。経営・金融・保険専門業は,若年正社員の転職・就業休止希望率が高いのもさることながら,上の年齢層との格差も大きいようです。印刷・製本業や接客・給士も然り。これらの職業では,職業集団内における若年就業者の位置について点検する必要がありそうです。

 私見ですが,定期的に上記のような構造図をつくって,それぞれの業界ないしは職業集団に注意を呼び掛けるようなことをしたらどうかしらん。

 定期健診を必要としているのは,労働者個々人だけではありません。集団(社会)もそうです。私が専攻する社会病理学の仕事の一つはここにあり。

2013年7月19日金曜日

新刊のチラシ

 来週,拙著『教育の使命と実態-データからみた教育社会学試論-』が武蔵野大学出版会より刊行されます。私にとって,3年ぶりの著書刊行です。

 ①子ども,②家庭,③学校,④教員,⑤青年,そして⑥社会という6つの切り口(章)を据えて,教育現実の諸相を統計データで明らかにしています。分量は432頁,255点の図表を盛り込みました。

 人はえてして教育に理想を託しがちですが,目を凝らしてみると,その機能不全さらには逆機能の様相すら観察されることがしばしばです。教育社会学の役割の一つは,教育の「見えざる」病態をデータで可視化することではないか,と考えております。本書は,私なりのやり方でそれを実践したものであります。

 チラシを掲載いたします。お手に取っていただければ幸いに存じます。


 内容の詳細については,大学出版部協会の下記サイトをご覧ください。
http://www.ajup-net.com/bd/isbn978-4-903281-23-0.html

2013年7月18日木曜日

資料:性別・年齢層別の有業者のワープア化・非正規化

 2012年の『就業構造基本調査』の結果が公表され,「非正規雇用者数が過去最高」とか「働く人間の3人に1人が非正規」とか,いろいろ報じられています。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 しかるにそれは,10代の子どもや高齢者もひっくるめた全体の傾向であり,属性ごとにみるならば様相は多様でしょう。私は,性別・年齢層別に,有業者のワープア率と非正規雇用者率を計算してみました。

 ワープアとは「ワーキングプア」の略であり,年収200万円未満の有業者のことです。非正規雇用者とは,雇用者(役員除く)から正規雇用者を除いた数であり,パート,バイト,ハケン,契約,嘱託,その他,という要素からなります。

 下表は,バブル崩壊直後の1992年,リーマンショック前の2007年,および最新の2012年の数値の一覧です。字が小さくて見にくいかもしれませんが,ご容赦ください。


 注目ポイントにマークをするようなことはしていません。「すっぴん」の統計表です。コメントも添えません。資料として参照していただければと存じます。

2013年7月16日火曜日

再チャレンジ

 表題の言葉を聞いたことがない人はいないでしょう。やりなおしができる社会の創出を求めて,第1次安部内閣で盛んにいわれたキーワードです。現在でもこの方針は受け継がれているようであり,「再チャレンジ懇談会」なる機関が設置され,活発な議論が行われている模様です。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sai_challenge/

 しかるに,わが国は「再チャレンジ」が難しい社会であるといわれます。新卒時に就職に失敗し,やむなく非正規職に流れた者が,その後正社員に上げてもらえたなんていう話は,そう聞くものではありません。ロスジェネといわれる私の世代からすれば,このことはよく分かります。

 でもこれは,単なる印象かもしれません。非正規から正規へと移行を遂げる人間がどれほどいるか。この点に注目して,わが国の「再チャンレンジ」の現実態を統計で可視化してみようと思います。

 用いるのは,このほど公表された,2012年の『就業構造基本調査』の就業異動統計です。有業者の現職と初職の就業形態を知ることができます。同年10月時点における,25~34歳の正規雇用者は786万人。彼らの初職時の就業形態分布は,以下のようになっています。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 初職も正規雇用だった者が9割を占めています。非正規雇用(パート,バイト,ハケン,契約,嘱託等)だった者は9.6%なり。予想通りといいますか,非正規から上がってきたという者は多くないですね。

 これだけでは「ふーん」でおしまいですので,環境条件によって,この値がどう変異するかも観察してみましょう。私は業種による違いが大きいと考え,産業別の統計表がないか探しましたが,残念ながらそれはないようです。

 しかし,都道府県別の数値は出せるようなので,ここではそれをご覧に入れましょう。下表は,25~34歳の正規雇用者のうち,初職が非正規雇用だった者の比率の県別一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しました,上位5位の数値は赤色にしてあります。

 はて,「再チャンレンジ」の道が相対的に大きく開かれている県はどこでしょう。


 再チャレンジ達成率が最も高いのは,南端の沖縄です。この県では,25~34歳の正規雇用者の23.6%,およそ4人に1人が,非正規雇用から上がってきた者です。

 2位は大分,3位は宮崎,4位は高知,5位は福岡。ほとんどが九州ではないですか。ほか,北海道や北東北の件も2ケタになっています。相対差ですが,「再チャレンジの機は地方にあり!」というところでしょうか。

 上表の出現率の地図も掲げておきます。名づけて「再チャレンジ・マップ」。中央から周辺に行くにしたがって,色が濃くなっていく構造がみてとれると思います。


 むろん,色が濃い県では,非正規雇用の量が多いことを考慮せねばなりません。産業構造の違い,さらには都市から地方への人口移動というような条件もあることでしょう。ですが,沖縄では,25~34歳の正規雇用者の4分の1が「再チャレンジ組」という事実に,私はちょっと驚いています。

 なお,ここで出した再チャンレンジ指標の全国値は,2007年では8.2%でした。2012年は9.6%ですから,この5年間で値が伸びたことになります。微変動ですが,近年の再チャンレンジ促進施策の効果の表れともとれるでしょう。

 ところで,新卒時(初職時)に非正規雇用に就くことは失敗であるかのようにみなす日本の常識は,国際的にみて普遍的なものではありません。

 たとえばフランス。五十畑浩平氏のレポートによると,この国では即戦力が重視される傾向にあり,「職務経験のない新卒者を採用し人材を育成する慣行」はないとのこと。よってこの社会の若者は,「不安定な雇用を繰り返すなかで職務経験を積み,段階的に労働市場に参入」し,「安定した職に就けるまで数年かかる」のが普通なのだそうです。
http://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/research/20130711.htm

 なるほど。上記レポートの表1によると,同国の若者の雇用形態分布は,初雇用時は非正規が66%を占め,正規は30%しかいませんが,3年後にはそれがほぼ逆転します。

 五十畑氏は,「有期雇用や派遣などの非正規雇用を経験し,職務経験を積んだうえで,日本の正社員に相当する無期限雇用にたどり着く」という,労働市場への参入形態を「段階的参入」とネーミングされています。

 最近では,わが国でも「即戦力人材がほしい」という企業が多くなってきていますが,それならば,こうした「段階的参入」をもっと認める必要があるでしょう。このことは,「シューカツ失敗自殺」というような,日本固有の社会病理現象の治療にもつかながると思われます。

 個人の側からみた「再チャレンジ」可能な社会は,産業界からすれば,即戦力人材の獲得が容易になる社会でもあります。昨今重視されている「再チャレンジ」促進施策をして,単なる慈善事業の範疇にとどまるものと捉えてはならないでしょう。

2013年7月14日日曜日

国公立大学志向の都道府県比較

 『週刊朝日』の「現役進学者が選んだ『本命』大学調査」というWeb新書をみていたら,「国公立現役進学率が高いのは地元志向の地方公立校」というフレーズが目につきました。
http://astand.asahi.com/webshinsho/asahipub/weeklyasahi/product/2013070100006.html

 同誌が行った調査によると,国公立大学への現役進学率が高いのは,地方の公立高校であるとのこと。全国1位は,長崎県の県立諫早高校。この高校では,卒業生の7割以上が現役で国公立大学に進学しているそうです。

 同校の進路主任の先生は,「本校では生徒も保護者も現役志向,地元志向が強い。親に経済的負担をかけぬよう,現役で国立大に進む生徒が多いように思います」と述べておられます。

 うーん,分かる。私は鹿児島出身ですが,地方では確かにこういうカルチャーがあるように思います。ちなみに,私の母校の県立甲南高校も上位20位の表にランクインしていました。

 私は,こういうレポートに接すると,その結果をマクロ統計で表現してみたくなります。今回は,大学進学者に占める国公立比率という点に着目して,各県の国公立大学志向を可視化してみようと思います。

 文科省『学校基本調査(高等教育機関編)』に,大学入学者の数が出身高校の所在県別に掲載されています。過年度卒業生(浪人)も含む数値です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 2012年度の資料によると,同年春における,鹿児島県の高校出身の大学入学者は6,290人です。このうち,国公立大学入学者は2,668人。したがって,当県出身の大学入学者に占める国公立比率は,2,668/6,290=42.4%となります。進学先の4割が国公立。私の周りは9割くらいがそうでしたが,県全体でみたらこんなものでしょう。

 私はこの値を全県について出し,結果を一覧表にまとめました。下表をご覧ください。分子,分母の数値も掲げています。また,算出された国公立比率の相対順も添えました。黄色は最高値,青色は最低値です。赤色は上位5位です。


 大学入学者の国公立比率には,非常に大きな地域差がみられます。最高の島根と最低の神奈川では,6倍以上も違っています。島根では進学先の半分近くが国公立ですが,神奈川では1割にも達しません。

 ほか,国公立比率が高い県は,山陰,九州,そして東北というように,地方県に多く分布しています。一方,44~47位の下位4位は,見事に首都圏の1都3県で占められています。地域性がクリアーですね。この点は,データを地図化してみるとよく分かります。


 地方周辺県の濃い青色と,首都圏の白一色のコントラストが目をひきます。北海道が薄い色になっているのは,旧帝大の北大は道外からの進学者が多く,地元の生徒が締め出されるからではないでしょうか。

 地方には私立大学が少ないからだろう,といわれればそれまでです。上位2位の島根と鳥取には,私立大学はありませんしね。しかるに,経済的事情から,私立大学に子どもを進学させるのは叶わない,ということもあると思います。冒頭で引いた,進路主任の先生のお話とも関連しますが。

 先ほど出した各県の国公立比率を,県民所得とリンクさせたらどうでしょう。最新の『日本統計年鑑』に,2009年度の一人あたり県民所得が載っていたので,それとの相関をとってみました。県民所得の原資料は,内閣府の『県民経済計算年報』です。


 県民所得が低い県ほど,進学先に占める国公立比率が高い傾向が明瞭です。相関係数は-0.738であり,1%水準で有意です。結構強く相関していることに驚いています。

 故・清水義弘教授の『地域社会と国立大学』(東大出版,1975年)にも書かれていましたが,地方の低所得層に対する高等教育機会提供に際して,(地方)国立大学が重要な役割を果たしていることが示唆されます。

 しかるに,毎日新聞(5/21)の香山リカさんの社説をみて知ったのですが,最近になって,国公立大学への進学に際しても家庭環境の影響が強くなってきているそうです。独法化の影響により国立大学の学費は上がり,授業料免除の枠もうんと削られているといいますしね。

 近年,大学進学率の地域格差が再び拡大している,という指摘を何かの論文で読んだ気がしますが,頼みの綱である国立大学の階層的閉鎖性が強まっていることを思うと,さもありなんです。

 2010年度より施行されている高校無償化政策により,公立高校の授業料は無償になり,私立高校の授業料には補助が得られることになりました。こうした施策を,一段上の高等教育段階にも段階的に適用していく必要があるでしょう。国際人権規約においても,高等教育の無償の規定が盛られています。

 21日は参院選の投票日です。こういう思いを抱いて投票所に足を運ばれた方もおられると思います。私もそのうちの一人です。

2013年7月13日土曜日

20代のワープア化・非正規化(2012年)

 昨日,2012年の『就業構造基本調査』の結果が公表されました。「非正規就業者数が過去最高」とか,結果のハイライトが新聞でも報道されている模様です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 私は,20代の若者の変化に興味を持ちます。それをみる視点はいろいろありますが,有業者に占めるワーキングプアや非正規雇用者の比率が,前回調査(2007年)と比してどう変わったか。この点に焦点を当てようと思います。

 「100年に一度の不況」とまで形容された,2008年のリーマンショックをはじめとして,この5年間はいろいろなことがありました。こうした社会状況のなか,おそらくはワープアや非正規雇用が増えているのではないかと推測されます。とくに若者にあっては。

 上記調査結果によると,2012年10月時点の20代の有業者数は982万人です。このうち,年収が200万円に満たないワーキングプアは363万人,非正規雇用者は340万人ほどです。後者は,雇用者(役員除く)から正規雇用者を差し引いた数であり,パート,アルバイト,派遣社員,契約社員,嘱託,その他,という成分からなります。

 この数をもとにすると,2012年の20代有業者のワープア率は37.0%,非正規率は34.7%と算出されます。

 私は,6月3日の記事において,各年齢層のワープア率と非正規率の変化を俯瞰できる図をつくりました。2012年のデータを継ぎ足してみましょう。下図をご覧ください。


 1本目の矢印は,バブル崩壊直後の1992年から2007年にかけての位置変化を表しています。2本目は,最近5年間の変化です。

 90年代以降の「失われた20年」にかけて,有業者のワープア化と非正規化の進行が最も著しいのは,20代の若者であることが知られます。ワープア率は27.4%から37.0%,非正規率は14.0%から34.7%へと増加をみました。バブルの余韻が漂う90年代の初頭において,こうした変化が起きることを誰が予測したでしょう。

 ただ最近5年間に限定すると,位置変化は30代で大きいようです。私の年齢層ですが,これは分かる気がする・・・。

 以上は全国統計ですが,20代の有業者のすがたがどう変わったかは,地域によっても異なると思われます。1992年から2007年の変化は6月4日の記事でみたので,ここでは07~12年の変化に注目します。

 下表は,20代有業者のワープア率と非正規雇用率の県別一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをしています。赤色の数字は,上位5位であることを示唆します。


 先の記事でもいいましたが,若者のワープア率・非正規率は,県によって大きく違っています。高いところはすこぶる高く,2012年でみると,沖縄の20代のワープア率は65.8%,非正規率は52.2%にもなります。

 また,最近5年間の変化も一様ではありません。若者のワープア化や非正規化が進んだ県もあれば,その反対の県もあります。山梨は,双方の増減ポイントが赤字になっています。若者の好ましくない状況変化が目立つ県です。製造工場の閉鎖等,何か事情があるのかな。

一方,中国の中枢県の広島では,ワープア率,非正規率とも,この5年間で減少しています。相対差ですが,減少幅は全国で1位です。

 これは両端ですが,47都道府県の若者の状況変化を視覚的にみてとれる図をつくってみました。横軸にワープア率,縦軸に非正規率の増減ポイントをとった座標上に,47県を散りばめたものです。


 お分かりかと思いますが,右上の象限に位置する県は,ワープア率,非正規率ともに増えた県です。左下の象限にあるのは,その逆です。

 若者のワープア化・非正規化が相対的に目立つ県としては,先の山梨のほか,長野,福岡,北海道などが挙げられます。その対極には,広島や島根といった中国地方の県が位置していますね。

 この5年間で事態が好転した広島ですが,何かやったのかしらん。県のホムペをみると,ひろしま若者しごと館における「若者の就職に関する相談,情報提供,職業適性診断など多様なサービス」,若者交流館における「就職活動に踏み出せないニートの支援」,U・Iターン無料職業相談コーナーにおける「広島県への就職に関する相談,情報提供」,というような実践を行っているようです。
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/68/1176968923039.html

 以上が,『就業構造基本調査』から分かる,若者の状況変化のあらましです。むろん,ジェンダー差はどうか,業種間の差はどうかなど,分析を深める余地はまだまだあります。加えて,過労自殺が問題化していることから,労働時間という点も見逃せません。

 昨日アップされたばかりのホカホカの統計表をみていると,他にもやってみたいことがわんさと出てきます。今月は,『就業構造基本調査』の分析にかかりきりになるかも。まあ,それもまたよし。

 では皆様,よい連休を。

2013年7月11日木曜日

キャリア教育の国際比較

 今日(7/11)は,職業教育の日だそうです。1975(昭和50)年の今日,学校教育法の改正により,専修学校制度が発足したことにちなんでいるそうな。専修学校は,同法第1条が定める正規の学校ではありませんが,わが国の職業教育の重要な一翼を担っています。
http://www.zensenkaku.gr.jp/event/

 さて,職業教育に関連してですが,現在の学校教育ではキャリア教育が重視されています。キャリア教育とは,「一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育」のことです(2011年1月31日,中教審答申)。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1301877.htm

 よく知られていることですが,キャリア教育においては,いわゆる実習が大きな位置を占めています。高等学校学習指導要領では,「学校においては,キャリア教育を推進するために,・・・産業現場等における長期間の実習を取り入れるなどの就業体験の機会を積極的に設ける」ことと定められています。

 これは主として専門高校に関わる規定ですが,普通科においても,総合的な学習の時間,特別活動,ないしは教育課程外の活動等にて,就業体験学習(インターンシップ)の機会を積極的に設けることが推奨されています(上記中教審答申)。

 “Learning by Doing”(なすことによって学ぶ)。現実態として,この理念がどれほど具現されているのか。今回は,後期中等教育(高校)段階に焦点を当てて,国際比較をしてみようと思います。

 用いるのは,PISA2006の学校質問紙調査のデータです。キャリア教育に関する設問群があり,その中に,企業や産業界との連携頻度を問うものがあります。私は,以下の4つの設問への回答に注目することにしました。


 選択肢の数字は,調査対象の学校(高校)が,地元の企業や産業界とどれほどコラボしているかを測る尺度として使えます。全部3に丸をつける学校は,バリバリの実践型キャリア教育を行っている学校ということになります。

 4問への回答数字を合算した数をもって,キャリア教育スコアということにしましょう。各高校の実践型キャリア教育の程度を測る指標です。このスコアは,4~12点の値をとります。マックスは,3点×4=12点です。

 私は,OECDサイトから上記調査のローデータをDLし,それを加工して,54か国・12,391高校のキャリア教育スコアを計算しました。いずれかの設問に無効回答がある学校は,分析対象から除いています。
http://pisa2006.acer.edu.au/downloads.php

 手始めに,日本とドイツのスコア分布を比べてみましょう。デュアル・システムの本場ドイツでは,スコア平均が高いんじゃないかなあ。下図は,日本の185校,ドイツの209校のスコア分布を図示したものです。54か国全体の分布も描いてあります。


 54か国全体のカーブは,中間あたりにピークがあるノーマル・カーブですが,日本とドイツはきれいな対照型をなしています。日本はスコアが低いほうに分布が偏っており,ドイツはその逆です。

 上記分布からスコアの平均点を出すと,日本は5.64点,ドイツは9.54点となります。56か国全体は7.21点です。

 日本とドイツでは大きな差がありますね。先に書いたデュアル・システムとは,企業での訓練と学校での授業を並行して進め,生徒を一人前の職業人に育てるシステムですが,ドイツでは,これが伝統的に発達しているためでしょう。さもありなん,という感じです。

 対して日本のスコアは低いのですが,54か国全体の中ではどういう位置にあるのでしょう。下図は,同じスコアを各国について計算し,高い順に並べたものです。主要国のバーは色を違えています。


 日本の5.64点は,下から2番目です。お隣の韓国も近い位置にあります。受験競争が激し社会であることにもよるでしょう。

 上層部に目をやると,先ほどサシで比較したドイツは堂々の1位。ほか,上位国はほとんどがヨーロッパ諸国です。大国ロシアも含まれています。アメリカは,中より少し上というところです。
 
 ふうむ。わが国は,早い段階での職業教育が脆弱であるといわれますが,上図において,その様相が可視化されているように思えます。日本では普通科(academic course)が多いからだろう,といわれるかもしれませんが,青年期の初頭において,学校教育が実社会から乖離している度合いが高い社会であることは確かです。

 ただ,今回みたのは2006年のデータであり,より近況でみればどうかは分かりません。2004年のキャリア教育研究会の報告を皮切りに,キャリア教育の充実に向けた取組が着々となされきています。国立教育政策研究所の調査結果をみても,高校のインターンシップ実施率は年々上がってきており,その傾向はとりわけ普通科で顕著です。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/detail/1312386.htm
 
 冒頭で引いた中教審答申がいうように,高等学校段階では「勤労観・職業観等の価値観を自ら形成・確立する」ことが期待されます。そのためには,座学だけでなく,“Learning by Doing”の機会を意図的に創出することが求められます,それに際して,地元の産業界の協力を得ることは,戦略上重要な位置を占めています。

 昨年実施されたPISA2012において,キャリア教育の設問が盛られているのかは知りませんが,今回と同じスコアが出せる場合,わが国はどのあたりの位置になるか。興味が持たれます。

2013年7月9日火曜日

学童保育の効果

 国際比較ばかり続きますので,ちと話題を変えましょう。今日は,学童保育のお話です。

 子どもが小学校に上がったら仕事を続けられるだろうか,という不安を持っているママさんも多いことでしょう。学校は保育所と違って,子どもを長時間預かってくれません。小1児童の場合,給食を食べたらすぐに帰される日がほとんど。

 10歳くらいになれば一人にしていても大丈夫でしょうが,低学年の児童の場合,そうはいきません。居場所が必要です。そこで児童福祉法では,「市町村は,児童の健全な育成に資するため,地域の実情に応じた放課後児童健全育成事業を行うとともに,・・・児童の放課後児童健全育成事業の利用の促進に努めなければならない」と規定されています(第21条の10)。

 ここでいう放課後児童健全育成事業とは,「小学校に就学しているおおむね十歳未満の児童であつて,その保護者が労働等により昼間家庭にいないものに,・・・授業の終了後に児童厚生施設等の施設を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて,その健全な育成を図る事業」のことです(第6条の3)。これがいわゆる学童保育です。

 場所は「児童厚生施設等」とありますが,実際のところ,小学校内に学童保育クラブが設置されるケースがほとんどであると聞きます。

 しかるに,上記の第21条の10にあるように,この事業の実施はあくまで努力義務です。低学年の児童数と同じくらいの定員を準備している自治体もあれば,それとは程遠い自治体もあることでしょう。

 今回は,こうした条件の違いによって,6~9歳の子を持つ母親の就業率がどう変異するかをみてみようと思います。用いるのは都道府県単位の統計です。

 まずは各県について,6~9歳の子がいる母親の就業率を出してみましょう。2010年の総務省『国勢調査』によると,末子の年齢が6~9歳である核家族世帯の数は164万1,310世帯です。このうち,母親が就業(パート等も含む)している世帯は95万1,237世帯。よって,就業率は58.0%となります。約6割。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 次に,学童保育の供給量の指標です。全国学童保育連絡協議会の調査によると,2010年5月1日時点における,全国の学童保育入所児童数は80万4,309人と報告されています。このイスを求めている需要量として,6~9歳の子がいる核家族世帯の数を充てましょう。先ほどみたように,その数164万1,310世帯なり。よって学童保育供給率は,80,4309/1,641,310=49.0%となります。需要の充足率は半分ほどですか。
http://www2s.biglobe.ne.jp/Gakudou/

 以上は全国統計ですが,両指標とも,県別にみれば値はかなり違っています。下表は,都道府県別数値の一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました,赤色は,上位5位を意味します。


 まず母親の就業率をみると,最高の富山と最低の神奈川では,値が30ポイント近くも違っています。同じ6~9歳の子を持つ母親であっても,就業率は違うものですね。上位5位は,北陸と山陰というように,地域性がはっきりと出ています。

 次に説明変数である学童保育供給率ですが,こちらはもっと地域差がスゴイ。東北の山形は99.7%であり,需要のほとんどが充足されていますが,神奈川では需要の2割ほどしかイスが供されていません。

 むーん。保育所ほどではありませんが,学童保育の供給量には大きな地域差があります。いや,地域格差という語をあてがったほうがいいかもしれません。

 では,この2つの指標の相関分析をしてみましょう。横軸に学童保育供給率,縦軸に母親の就業率をとった座標上に47都道府県をプロットしました。


 学童保育の供給量が多い県ほど,低~中学年の子がいる母親の就業率が高い傾向です。相関係数は+0.713であり,1%水準で有意です。かなり強い相関とみてよいでしょう。

 上位の東北・北陸・山陰県では,三世代家族が多いためではないか,といわれるかもしれませんが,ここで出した母親の就業率は,核家族世帯のものです。よって,そういうことではないと思います。むろん,近くに親が住んでいる,というような条件があるかもしれませんが。

 3月27日の記事にて,保育所供給率と幼子がいる母親の就業率との相関係数を出したところ+0.877でした。今回の値はそれよりも低いですが,子どもが学校に上がった後においても,公的な育児支援の多寡が,母親の就業可能性を左右する重要な条件になっていることが知られます。

 ところで上表の母親の就業率は,末子の年齢を6~9歳ととったものです。しかるに,学童保育量が母親の就業可能性に与える影響は,子の年齢によって一様ではないでしょう。最後に,末子の年齢ごとに母親の県別就業率を出し,上記の学童保育供給率との相関係数を計算してみました。


 学童保育供給率と母親の就業率の相関は,子の発達段階によって違っています。幼い子を持つ母親の就業率のほうが,学童保育供給量に強く規定されているようです。このことに説明は要りますまい。

 働くママさんたちの間で「小1の壁」ということがいわれているそうです。小学校に上がったらもう保育所は使えない,かといって6歳のわが子をほったらかしにできない。よって仕事を辞めないといけない。こういう意味合いとのこと。

 子を持つ母親の就業の問題は,就学前の乳幼児段階に焦点が当てられがちですが,学齢以降の段階にも目を向けねばならないことを知りました。3月27日の記事でも書いたように,その視点は「預ける」だけでなく,「仕事を休む」「父親も共に育てる」などのバラエティを持っています。

 こうした多角視点を据えて,47都道府県の「育児環境指数」なるものを出せないかと思案しているところです。

2013年7月7日日曜日

女子生徒の専業主婦希望率の国際比較

 昨年の11月5日の記事では,15歳生徒の志望職業の国際比較をしたのですが,そこで分かったのは,日本の生徒の志望職業未定率が高いことです。約2割の生徒が,30歳頃就いていたい職業が何かを明言できずにいます。

 この分析に使ったのは,国際学力調査“PISA2006”の生徒質問紙調査のデータです。対象の15歳生徒に対し,「30歳頃の時点において,あなたはどういう仕事に就いていたいか」と尋ねています(Q30)。

 職業の名称を自由に記入してもらい,それを後から分類するアフター・コード形式ですが,分類コードの中に「専業主婦(Housewife)」というものがあることに気づきました。このコードが振られた回答の比率をとることで,各国の生徒の専業主婦(夫)希望率を出すことができます。

 私はこのやり方に依拠して,調査対象となった,56か国の女子生徒の専業主婦希望率を明らかにしてみました。「男は仕事,女は家庭」というようなジェンダー観念は,昔に比べてだいぶ弱まったといわれますが,21世紀日本の女子生徒の専業主婦希望率はどれほどなのか,国際的な位置は如何。この点をみてみましょう。

 上記の設問に有効回答(無回答,意味不明な回答を除く)を寄せた,日本の女子生徒は2,562人です。このうち「専業主婦」というコードを振られているのは103人となっています。「分からない」は163人,「曖昧」は361人です。後者は,「会社員,OL」というような曖昧な記述であり,どういう職業か判別し難いと判断された回答です。この3つの合算を全体から差し引いた分が,明確な職業志望を持っている生徒ということになります。

 下図は,日本と主要先進国について,この4カテゴリーの回答分布を図示したものです。カッコ内の数は,分析対象とした有効回答数です。前後しますが,OECDのサイトから上記調査のローデータをダウンロードして,私が独自に作成した統計であることを申し添えます。
http://pisa2006.acer.edu.au/downloads.php


 どの社会でも,明確な将来展望を持っている生徒が多数派のようですが,日本はその割合が相対的に少なくなっています。何らかの明確な職業名を記した生徒は,他国では9割前後ですが,わが国では4分の3ほどなり。その分,「曖昧」という回答コードの比重が高くなっています。

 この点は,昨年の11月5日の記事でもみたところですが,今回の主眼の専業主婦希望率はどうかというと,国を問わず,赤色の幅はごくわずかです。フランスや北欧国では皆無。まあ,幾多の夢を抱いている青少年の回答結果ですから,当然といえばそうです。

 しかるに相対差という点でみると,日本の値が最も高くなっています。日本の15歳女子生徒の専業主婦希望率は4.0%,25人に1人です。

 絶対量としては多くありませんが,他の先進国に比べて高いのですね。比較の対象をもっと広げるとどうでしょう。56か国の女子生徒の専業主婦希望率を計算し,高い順に並べてみました。


 ほう。日本がトップではないですか。2位の韓国との開きが大きいことにも注目。相対差ですが,わが国は,うら若き女生徒の専業主婦希望率が,世界で最も高い社会であることが知られます。

 昨年の11月8日の記事では,わが国の女子生徒の理系志向が国際的にみて最下位であることをみました。このことを併せて考えると,日本の学校教育では,女子生徒が自らの可能性を封じ込めてしまう,能力開花の機会を放棄してしまうように仕向けられる「見えざる」過程があるのではないか,という疑いを持ちます。

 全体の4.0%(25人に1人)にだけ関わる問題として,上記のデータを読むべきではないでしょう。青少年期におけるジェンダー的社会化の過程という,もっと大きな問題が提起されているのだと思います。

 こうした過程が,個人の成長の時間軸において本当に存在するのか。この点を吟味するには,長期にわたる追跡調査のような作業も必要です。ここでみた専業主婦希望率等によって構成される,ジェンダー観念強度の年齢曲線とかを描いた研究ってあるんかな。

 私の予想ですが,発達の段階を上がるにつれ,生徒(とりわけ女子生徒)のジェンダー観念は強くなるのではないかと思われます。「中1ギャップ」ではありませんが,小6と中1の境が大きいのではないかなあ。私の頃みたいに,女子は家庭科,男子は技術科というようにカリキュラムが分化することはなくなっていますが,時間割の上に表れない「隠れた」カリキュラムの影響も侮りがたし。

 話が大きくなりますが,わが国では今後,少子高齢化が加速度的に進行します。労働力不足の問題も深刻化することでしょう。こうした状況のなか,女性の力を「活かす」方向に舵を切ることが求められています。

 そのための施策は,女性が働きやすい環境をつくるという外的な要素と,人々のジェンダー観念の撤廃という内的な要素からなります。前者にウェイトを置いている社会がほとんでしょうが,わが国は,後者の面にも力点を置かねばならない社会です。人生の初期段階におけるジェンダー・フリー教育の充実は,その重要な一角を構成します。

 その指針を得る上でも,ジェンダー観念強度の年齢曲線のようなものが精緻な手法で描かれることが望まれるでしょう。ここでみたのは,15歳という「一時点」における,専業主婦希望率という「一指標」ですが,これだけからも,日本の特異な位置が明らかになりました。

 観測地点(年齢)や観測用具(指標)を増やすことで,より多くの知見が得られること間違いなしです。そうした科学的知見に依拠して,ジェンダー・フリー教育のカリキュラムの体系化を図る。研究と実践の連携って,こういうことなのではないかと思っています。

2013年7月5日金曜日

年齢層別のジニ係数の国際比較

 完全失業率,自殺率・・・。世間の耳目をひく統計指標は数多いのですが,富の格差の程度を測るジニ係数も,そのうちの一つであると思われます。

 昨年の5月8日の記事では,このジニ係数の国際比較を行ったのですが,今回は年齢層別の比較を手掛けてみようと思います。若年層ないしは高齢層に限定した場合,わが国の収入格差の程度は国際的にみてどうなのか。この点を知りたく思うのです。

 6月3日の記事では,雇用の非正規化・ワープア化が著しいのは20代であることを明らかにしました。若年層だけでみれば,持てる者と持たざる者の格差が顕著なのかもしれません。高齢層では,年金の有無等の条件がありますから,国民全体でみた場合よりも,収入格差が際立っているのではないかと思われます。各年齢層の格差の程度を,他の社会と比べてみましょう。

 『世界価値観調査』(5wave,2005-2008)では,15歳以上の対象者に対し,自分が属する世帯の年収(月収)の額を尋ねています。個人ではなく世帯の統計ですが,世帯は共同生活の基本的な単位ですので,まあよしとしましょう。

 上記の資料から,18の国について,年齢層別の月収ないしは年収の分布を知ることができます(現地通貨による)。私は,25~34歳と65歳以上の収入分布を明らかにしました。これを使って,各国の若年層と高齢層のジニ係数を出すのですが,一つの社会を例に,計算の過程をご覧いただきましょう。
http://www.wvsevsdb.com/wvs/WVSAnalize.jsp

 その社会とは,南米のコロンビアです。殺人発生率が飛びぬけて高く,「世界最国」などといわれますが,この国の若年層の収入格差はどれほどなのでしょうか。下表は,25~34歳が属する世帯の月収分布を,現地通貨(ペソ)で示したものです。


 最も多いのは,22万以上47万未満の世帯に属する者であり,その次が22万未満の最貧困層です。ほう。全体の6割近くの者が,この2つの階級に収まっています。人数の棒グラフからお分かりのように,下が厚く上が細いピラミッド型になっています。

 人数的には貧困世帯の住人が大半であるようですが,言わずもがな,彼らに配分される富の量はさして多くありません。

 階級値の考え方に依拠して,各階級の世帯の月収は,一律に中間の値であるとみなします。たとえば,22~47万の世帯の月収は,中間の34.5万ペソであると仮定します。最上位の250万以上の階級は上限がありませんが,一つ下の階級のレンジを適用し,250~330万の階級とみなし,中間の290万ペソを一律月収とします。

 この仮定によると,22万未満の世帯に配分された富は,11万×199=2,189万ペソとなります。22~47万の世帯にあてがわれた富は,34.5万×245=8,453万ペソです。10階級の合計値は,表の最下段にあるように4億2,935万ペソになります。

 この莫大な富が,10の階級にどう分配されたかは,中央の相対度数の欄に示されています。しかるに,人数の分布とのズレをみてとるには,右欄の累積相対度数のほうがベターです。どうでしょう。月収47万未満の貧困世帯は,数の上では6割近くを占めますが,この階級に行き届いている富は,全体の24.8%でしかありません。

 一方,黄色のマークの箇所をみれば分かるように,全体の1割を占めるにすぎない富裕層(月収115万以上)が,全富の34.0%をもせしめています。

 こうした歪みを可視化してみましょう。横軸に人数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に10の階級をプロットし,線でつなぎました。これがいわゆる,ローレンツ曲線です。曲線の底が深いほど,人数の分布と富量の分布のズレが大きいこと,すなわち収入格差が大きいことを示唆します。


 コロンビアの特徴を見出すため,北欧のスウェーデンの曲線も描きましたが,コロンビアは底が深いですねえ。若者が属する世帯の収入格差が大きい,ということです。

 われわれが求めようとしているジニ係数とは,図中の対角線とローレンツ曲線で囲まれた弓型図形の面積を2倍した値です。0.0~1.0の値をとります。*ジニ係数の計算方法の詳細は,2011年の7月11日の記事をご覧ください。

 算出された係数値は,スウェーデンは0.285,コロンビアは0.457にもなります。

 一般にジニ係数が0.4以上になるとヤバいといわれますが,コロンビアは,この危険水準を越えてしまっています。むーん。この社会で凶悪犯罪が多いのは,血の気ある若年層の収入格差が激しいことによるのかも知れません。

 私は,同じやり方にて,各国の若年層と高齢層の収入ジニ係数を計算しました。下図は,横軸に25~34歳,縦軸に65歳以上が属する世帯の収入ジニ係数をとった座標上に,18の社会を位置づけたものです。


 斜線は均等線ですが,やはりというか,若年層よりも高齢層で収入格差が大きい国が多いようです。もらえる年金はナンボか,養ってくれる(同居の)親族がいるか,というような条件が大きいでしょうしね。

 しかるに,ペルーやアメリカのように,若年層のジニ係数のほうが大きい社会もあります。最近のアメリカでは,若年層の貧困化(格差拡大)がすさまじいようですが(堤未果『ルポ・貧困大国アメリカ』岩波書店,2008年),その様相が可視化されているように思えます。

 さて,2次元のマトリクス上でみた日本の位置をみると,国際平均よりもちょっと下という辺りでしょうか。日本の係数値は,若年層が0.308,高齢層が0.330なり。しかし,これは2005年データのもの。より近況でみれば,右上にシフトしているのではないか,という懸念もあります。国内データでみると,ここ数年にかけてわが国の世帯ジニ係数はじわりじわりと上がっていますし。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/11/blog-post_30.html

 その(恐怖の)右上ゾーンには,先ほど例としたコロンビアのほか,同じく南米のペルー,そして中米のメキシコが位置しています。これは分かる気がする・・・。

 あと一つ,これは意外な点ですが,若年層の収入格差が18国で最も小さいのがフランスであることです。この国では,若年層の失業率がべらぼうに高くなっている,というニュースをよく見聞きするのですが,どういうことかしらん。2005年近辺というようにデータが古いためか,それとも若者が遠慮なく生活保護をガンガン受ける,というような事情によるのか。

 細部のコメントはこれくらいにするとして,あまり明らかにされたことのない,国別・年齢層別のジニ係数は,以上のように試算されたことをご報告いたします。来年には,2010年頃に実施されたWVSのデータが利用可能になります。その時,また同じ作業をしてみるつもりです。

2013年7月2日火曜日

成人学生の国際比較

 現代は生涯学習社会ですが,こういう社会状況のなか,組織的な教育機関(学校)で学ぶ成人の数も増えてきていることと思います。

 文科省は,大学や短大で学んでいる社会人の数を把握する方針を打ち出しているとのこと。おそらく,『学校基本調査』の調査項目に加えられるのでしょう。喜ばしいことです。

 これはまだ少し先のことですが,学校に在籍している成人の数は,国の基幹統計である『国勢調査』からも知ることができます。本調査の労働力集計において,「通学の傍らで仕事」ないしは「通学」というカテゴリーに括られた人間の数です。

 伝統的な在学年齢を過ぎた30歳以上に注目すると,2010年の「通学の傍らで仕事」の者は50,123人,「通学」の者は95,847人。今のわが国では,大学等で学んでいる30歳以上の成人の数は,14万6千人ほどということになります。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 言わずもがな,この数は年々増えてきています。下図は,1980年以降の推移を跡づけたものです。『国勢調査』は5年間隔実施ですので,5年刻みの統計になっています。


 臨教審答申で「生涯学習体系への移行」が明言されのが1987年。3年後の1990年には生涯学習振興法が制定され,以降,国民の生涯学習推進に向けた条件整備が着々となされてきています。上図にみられる成人学生の増加は,こうした時代状況の所産であるともいえましょう。

 さて,今回の記事の主眼は,タイトルにあるように「国際比較」です。伝統的在学年齢を過ぎた30歳以上の成人のうち,学校に在籍している者はどれほどいるか。わが国の現在値を,国際データの中に位置づけてみようと思います。

 参照する資料は,OECDの“Education at a Glance 2013”です。OECD加盟の25か国について,30代と40代以上の学生人口比率が掲載されています(2011年データ)。当該年齢人口のうち,教育機関に在籍している学生がどれほどいるかです。ここでいう学生(Students)には,フルタイムとパートタイムの双方が含まれます。
http://www.oecd-ilibrary.org/education/education-at-a-glance-2013_eag-2013-en

 日本の欄はペンディングになっていますので,2010年の『国勢調査』から計算した値を充てることにします。30代の通学人口(通学の傍らで仕事+通学)は87,924人ですが,これを当該年齢人口で除すと4.9‰という比率が得られます。千人あたり4.9人という意味です。40代以上の率は0.8‰なり。

 この値を,国際データのマトリクス上に置いてみましょう。横軸に30代,縦軸に40代以上の学生人口比率をとった座標上に,日本を含む26か国をプロットすると下図のようになります。点線は,OECD加盟国の平均値です。


 ほう。日本は,左下の極地にありますね。この30年間で,30歳以上の成人学生の数は大きく増えてきたのですが,人口比という点でいうと,諸外国よりも格段に低くなっています。30代でも4.9‰,204人に1人という程度ですから。

 北欧のフィンランドでは,30代の学生比率は156.8‰(15.7%)です。私くらいの年齢層でも,6人に1人が学生ということになります。40歳以上の学生人口率が最も高いのはオーストラリアであり,この社会では,中高年層でみてもおよそ20人に1人が学校に通っています。わが国の比ではありません。

 学校に籍を置いている成人の量という指標でみる限り,日本は,生涯学習化が最も遅れた社会であるように思えます。人口構成の上では,少子高齢化が世界で最も進行しているにもかかわらず。こうした不均衡は何とも奇異ですし,望ましいことでもありません。*少子高齢化の進行があまりに速く,諸々の制度条件の整備が追いついていない,という事情も考慮しないといけませんが。

 高校進学率95%超,大学進学率50%超という数字に象徴されるように,わが国は,子ども期・青年期の「学校化」が著しく進行した社会です。しかるに,それを過ぎた成人期になると,潮がサーと引くかのごとく,学生人口は急激に少なくなります。

 この点を可視化する図をつくってみました。上記OECD資料に載っている,年齢層別の学生人口比率の折れ線グラフです(日芬比較)。日本の15歳以上の数値は,2010年の『国勢調査』から計算したものであることを申し添えます。


 10代までは日本のほうが高いのですが,成人期以降になると逆転します。日本では,三十路を過ぎると学生はほぼ皆無です。わが国において,教育を受ける(受けられる)時期が,子ども期・青年期に偏っている様が分かります。

 子ども期において,意義も分からぬ勉学を無理強いされる一方で,勉学の欲求を喚起した成人には,その機会が与えられない社会ともいえます。少子高齢化という不可避の人口構造変化も勘案すると,こうした偏りを人為的に是正し,段階的にフィンランド型に移行していくことが求められるでしょう。

 社会人入学枠の拡大,教育有給休暇制度の充実などは,そのための具体策の一つです。北欧のスウェーデンでは,職業経験を評価するなど,成人(25歳以上)が大学に入りやすい制度が整っているのだそうな。

 今述べたことは,教育期(E)と仕事期(W)ないしは引退期(R)の間を自由に往来できるようにする,リカレント教育システムを構築することと同義です。1970年代の初頭に,各国の経済発展を促す戦略としてOECDが提唱したものですが,このシステムの実現は,そういう面に限られない効用を持っています。少子高齢化社会における「生」の充実,子ども期の社会化の歪みの是正・・・。他にもいろいろあるでしょう。

 私は前期,埼玉の武蔵野学院大学で「リカレント教育論」という授業を担当しています。学生さんに上記のような統計をつくらせて,それを眺めながら,リカレントシステムの構築による教育改革の可能性について議論しています。

 追記:誤解なきよう,補足しておきます。日本の成人は,大学等での学習欲求を持っていないわけではありません。持ってはいますが,諸々の阻害条件により,その実現が阻まれている状況にあります。この点については,昨年の10月27日の記事をご覧ください。