生態学とは,生物と環境の関連を扱う学問ですが,社会学の一部問として人間生態学というのがあります。「人間と制度の空間的・時間的な分布の過程ないしは構造を,体系として捉える」ことを目指す領域です(『社会学小辞典』有斐閣,1997年,484ページ)。下位分野として都市生態学や犯罪生態学などがありますが,食の生態学というのも成り立つのではないか,と思います。
それだけ,食には地域的なバラエティーがあるのです。今回は国内の47都道府県のデータを使って,その一端を描いてみようと思います。
総務省『家計調査年報』には,主な品目別に,1世帯あたりの年間支出額が掲載されています。各県の県庁所在地のデータも分かります。私は,原表(下記サイトの表11)から6品目の数値を採集しました。下表はその一覧です。47都道府県中の最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しています。
この表のデータを使って,3つの図表をつくってみました。順にご覧に入れましょう。まずは,納豆の年間支出額の都道府県地図です。4つの階級を設け,それぞれの県を濃淡で塗り分けてみました。
東高西低の図柄ができています。いろいろな食材の地図をつくってみましたが,地域性が最もクリアーなのは,まぎれもなく納豆です。
冬は雪で閉ざされる北国において,保存食として納豆が重宝されてきたのは,よく知られていること。近畿は真っ白ですが,あっさり嗜好の関西人は,どうもあの「ネバネバ」に抵抗があるみたいです。
次に,魚か肉かという,大雑把なタイプ分類をしてみましょう。年間支出額が「魚>肉」の県を魚派,その逆を肉派とします。上記の表によると,東京は魚より肉の支出額が多いので,肉派となります。私の郷里の鹿児島もそうです。
魚派を青,肉派をピンクで塗った地図にすると,下図のようになります。
東北は魚,西南は肉というように,おおむねきれいに分かれています。地理的ロケーションによって,こうも明瞭に分かれるのですねえ。
ただ例外もあり,若者の多い首都圏は肉派が多くなっています。西でも島根,山口,高知,佐賀は魚派です。高知が魚派というのは,よくわかる。九州では唯一,佐賀県民が魚を好んでいます。
最後に,食費全体に占める,外食費・調理品費のウェイトを計算してみましょう。単身化もあって,食の外部化・簡素化・省力化が進んでいますが,数値でみて,その比重はどれほどなのでしょう。上表の外食費と調理品費の合算を,食費全体で除して,外食・調理品依存率を県ごとに出してみました。下表は,そのランキング表です。
全国値でみると33.1%,ちょうど3分の1となっています。食全体の3分の1が,外食ないしは調理品(弁当やレトルトなど)で賄われていると。
しかし県別にみると,千葉の40.7%から青森の25.0%までのレインヂがみられます。上位5はいずれも都市県ですが,単身の若者が多いためでしょう。ちなみに私などは,この外食・調理品依存率がおそらく60%は超えると思います。今日は出勤日ですが,晩は駅前の中華料理屋で食べてくるつもりです。
『家計調査年報』の原表から,各地域の「食」の特色がいろんな角度から分かります。ここでお見せしたのは,ほんの一部です。「本県が一番!」の食材のリストを作ることもできます。精緻につくれば,食べ物の商売をしようという方の参考資料にもなるでしょう。
何度もいいますが,政府統計は国民の共有財産です。存分に活用しましょう。