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2016年3月31日木曜日

ラーメン二郎・三田参り

 私のツイッターをご覧いただいている方はご存知でしょうが,昨年の秋頃より,ラーメン二郎巡りをしています。「ヒマな野郎だ」と思っている方もいるでしょうが,そう,私はヒマ人です。

 今は授業がないので,週2回行っています。ツイッターにアップした店舗とラーメンの写真も溜まってきました。あとちょっとで,首都圏(1都3県)は全店制覇です。

 さて,二郎の総本山は三田本店ですが,桜の時期に行こうと決めていました。今がそうですが,今日は晴天だったので行ってきました。JR田町駅から徒歩10分ほど,慶應義塾大学正門のすぐ近くです。


 時間は,午前中にしました(ここは朝早くからやっています)。10時半ころ着きましたが,この並びよう。店外に10人ほど。

 細長の建物の一階にある店舗は,小じんまりとしています。コの字型のテーブルに囲まれた厨房に,総帥と助手2名が立ち,矢継ぎ早の注文を裁いていました。

 初めて見る,ラーメン二郎の総帥こと,山田拓美氏。各店舗に飾られている写真や挿絵の通りです(黒縁メガネはかけていませんでしたが)。馴染みのお客と親し気に会話しながら,手を動かされていました。気さくな人柄とお見受けします。界隈では「オヤジ」と親しまれているとのこと,さもありなん。

 私は小ラーメンの食券(600円)を買い,一番奥の丸椅子に着席。ここは,水はセルフではなく,助手さんが大きなコップについで出してくれます。コールはいつも通り,「ヤサイマシ,ニンニクマシマシ!」。


 豪快にヤサイが盛ってあります。テーブルに醤油がなかったので,「カラメ」もコールすればよかった・・・。スープは他店と比して脂っこく,麺は程よい固め。ブタも柔らかくて美味しかったです。本店の味を,確かに経験しました。

 15分ほどで平らげて,机を拭いて「ごちそうさま」。「ありがとうー」という総帥の声に見送られ退店。時間は11時15分頃,店の外の行列はさらに倍増。午後から授業という,慶大の学生さんでしょうね。

 ちなみに三田本店の近くには,東京タワーもあります。上ってみようかと思いましたが,また今度ということで,真直ぐ帰ってきました。

 これで首都圏は,残り1店で全店制覇です。あとは北関東に2店,仙台・札幌・新潟に1店ずつあるんでしたっけ。北関東の2店は,暑くなる前に行ってみようかなと思っています(泊りがけになるかもしれませんが)。

 考えてみれば,今日は3月末日ですよね。明日からは新年度。ブログの背景を桜色にします。

2016年3月30日水曜日

結婚期の「女性/男性」比率

 「結婚したければ,どこそこに移住せよ」という趣旨の記事を見かけました。県別の性別人口比をもとにした主張のようです。
http://j-town.net/tokyo/column/allprefcolumn/223494.html

 戦後初期の頃は,「男1人に女がトラック一杯」なんて言われていましたが,結婚期の人口の男女比というのも,結婚のしやすさを規定する条件となるでしょう。

 2014年の総務省『人口推計年報』によると,同年10月時点の25~34歳男性は720万人,女性は694万人です。男性100人に対し,女性は96人。女性が少ないのは,出生数に違いがあるためです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001132435

 しかし,この比率は地域によって違っています。私の郷里の鹿児島でいうと,同年齢の男性は7.8万人,女性は8.7万人で,女性のほうが多くなっています。男性100人に対し,女性112人。この地方県では,大学進学や就職時に流出する若者が多いのですが,それは男性で顕著だからです。

 同じ値を47都道府県について計算し,地図にしてみました。結婚期の「女性/男性」比率のマップです。


 濃い色は,「女性>男性」の県ですが,地域性がありますね。おおよそ,西高東低の傾向です。トップは,わが郷里の鹿児島ではないですか。「結婚したけりゃ帰ってこい。同年齢の女性はたくさんいるぞ」と,高校時代の恩師から言われたことがありますが,数値でも出てるんだなあ。

 対して,今住んでいる東京をはじめ,首都圏は真っ白です。私のように,地方から流入してきた男性がひしめいているためと思われます。東京は,男性100人につき女性95人。最低の茨城は,たった89人です。

 各県のこの値は,男性の結婚のしやすさと関連しているでしょうか。2012年の『就業構造基本調査』をもとに,25~34歳男性の未婚率を県別に出し,上記の「女性/男性」比との相関をとってみました。


 「女性/男性」比が高い県ほど,結婚期の男性の未婚率は低い傾向にあります。相関係数は-0.5158で,1%水準で有意です。

 当然といえばそうですが,人口的な条件も,結婚に影響するのですなあ。若者のUターンや移住を促すにあたっては,地域の人口構造もアピールすべきかもしれません。冒頭で紹介した,今朝のJ-cast記事のように。

 ちなみに,結婚期の「女性/男性」比は,市区町村別に出すこともできます。資料は,『住民基本台帳人口報告』です。最新の2015年の資料をもとに,同年1月時点の市区町村別の数値を計算してみました。25~34歳の男性100人につき,同年齢の女性は何人かです。
https://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&listID=000001135862&requestSender=estat

 分布をみると,最低の40.8人から最高の157.7人まで幅広いレインヂが観察されます。上位30位までの顔ぶれを示すと,以下のようです。


 トップは,奈良県の川上村で,男性100人につき女性157.7人。過疎地で25~34歳人口が67人しかいないことに注意が要りますが,スゴイですね。

 田舎が多いですが,人口の多い大都市も含まれています。福岡市,京都市,郷里の鹿児島市,大阪市・・・。

 Uターンや移住を促すアピールポイントとして,こういう統計も使えるでしょうか。郷里に秘められている,これまで知らなかった可能性に気付きました。

2016年3月27日日曜日

職業別の刑務所入所率

 3月23日公開のプレジデント・オンラインの記事では,男性の学歴別の刑務所入所率を紹介しました。こういうデータは珍しいためか,見てくださる方が多かったようです。
http://president.jp/articles/-/17610

 今回は,職業別の刑務所入所率を計算してみようと思います。社会階層と犯罪という,犯罪社会学のテーマの一環としてです。

 分子は,法務省『矯正統計年報』に掲載されている,男性の職業別の新受刑者数を使います。分母は,総務省『就業構造基本調査』に載っている,男性の職業別人口を用いることにしましょう。後者の最新が2012年なので,分子の年次もこれに合わせることとします。
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_kousei.html
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 2012年中の男性の新受刑者は2万2555人,同年10月時点の15歳以上の男性人口は5341万3200人です。よって,ベース10万人あたりの入所者数は42.2人となります。これが,ここでいう刑務所入所率です。

 これは男性全体の値ですが,職業別ではどうか。下表は計算結果です。


 ムショ入りする確率は,職業によってかなり違っています。建設・採掘従事者が108.5で,ダントツです。その次が無職となっています。おそらく,高齢者が多いと推測されます。生活苦ゆえの窃盗かもしれません。

 無職者の犯罪率が高いのは,ハーシ流にいうと,ソーシャルボンドの欠如ということもあるでしょう。

 管理的職業も結構高いですね。詐欺や背任といった,知能犯でしょうか。

 罪種の名前が少し出ましたが,刑務所入所率の職業差は,どういう犯罪かによって異なるでしょう。上記の表で終わりではつまらないので,この点を掘り下げてみます。

 まず職業カテゴリーを,ホワイトカラー,グレーカラー,ブルーカラー,無職という4区分にまとめます。上表の色で区分していますが,ホワイトは管理~事務職,グレーは販売~保安職,ブルーは生産工程~運搬・清掃・包装職,です。このような措置をとるのは,分子の受刑者を罪種別にバラすと,数が少なくなるからです。

 このような大まかな職業分類に即して,分子と分母を計算し直し,再度割り算をしました。農林漁業は,分子がとても少なくなる罪種があるので,ここではオミットします。


 上段は罪種ごとの入所者数で,中断はベース10万人あたりの入所者数(入所率)です。窃盗犯は,職業の差が大きくなっています。ホワイトが1.1,グレーが4.7,ブルーが7.5,無職は35.1にもなります。無職者の率が高いのは,生活苦ゆえの高齢者の万引きのためと思われます。

 罪種ごとの職業差をはっきりさせるため,下段の倍率をグラフにしておきましょう。ホワイトカラーの入所率を1.0とした倍率値です。


 折れ線の傾斜が急なほど,職業差が大きいことを示唆します。窃盗犯と粗暴犯で差が大きいことが知られます。

 いずれも,近年の高齢者の苦境が影を落としているように思えます。生活苦ゆえの万引き,キレる高齢者(暴走老人)・・・ 解釈の素材はいろいろあるでしょう。

 これは若者も高齢者もひっくるめたデータですが,年齢の影響を除いたら,どういう結果になることか。若年層に限ったら,上図の折れ線の傾斜は,もっと急になるのでは。若い年齢層の男性では,働かない者,稼げない者に対する圧力はうんと強くなるでしょうし。

 学歴別に続いて,職業別の犯罪率格差も明らかになりました。利用できる官庁統計からのラフな試算ですが,「社会階層と犯罪」という古典的テーマは,もっと精緻なデータを揃える余地はありそうです。

2016年3月25日金曜日

ツリーマップ

 先月にパソコンを新調し,それまで使っていたエクセル2007が2013に変わりました。グラフ作成の操作法が変わっていて,ずいぶん戸惑いましたが,やっと慣れてきました。

 昨日,オフィスの自動バージョンアップにより,さらに最新のエクセル2016になりました。グラフの作り方は2013と同じですが,作成できるグラフの種類が増えています。

 新たなグラフとして,「ツリーマップ」というのが追加されています。データの階層構造(組成)を表すのに使えるのだそうです。
http://www.petitmonte.com/excel/excel2016_treemap.html

 ちょっと試してみると,これがなかなか面白い。私が属する30代後半男女の労働力状態を,この図法で表現してみましょう。下表は,2012年の『就業構造基本調査』から準備した元データです。


 男性476万人,女性464万人の内訳ですが,前者では正社員,後者では非正規職員が最も多くなっています。女性の無業者は,多くが専業主婦(家事従事)です。

 これを,件のツリーマップグラフで表現すると,下図のようになります。


 各カテゴリーの比重が,四角形の面積で表現されています。私がよく使うモザイク図では,縦に積み上げる方式しかなく,少量のカテゴリーは判別困難なほど細長の図形になってしまうのですが,上記の図法ではその弊がなくなっています。できるだけ判別可能になるよう,各カテゴリーの図形の位置が,柔軟に変更されるようになっています。これはいい。

 上図は2012年の断面ですが,1992年の図形と並べてみましょう。この20年間の変化が見て取れます。


 男性は,非正規の比重が増しています。1992年では2.7%でしたが,2012年では1割近くです。雇用の非正規化とは,このことです。

 女性は以前に比して無業者(主婦)の割合が,ちょっと減っています。これでもって,女性の社会進出進展と評されることが多いのですが,正社員よりも非正規職員の増分が多くなっています。正社員は25.9%から29.0%への微増ですが,非正規職員は22.0%から33.7%と,10ポイント以上の増です。非正規依存型の社会進出です。

 グラフのレパートリーが増えました。これもまた,いろいろな社会現象を可視化するのに使えそうです。

2016年3月22日火曜日

犯罪認知度の国際比較

 犯罪の原因とは大きく,逸脱主体と統制機関に関わるものに分けられます。前者は,生物学的・心理学的・社会学的要因に分かれます。「バイオ・サイコ・ソシオ」とカタカナにすると,覚えやすい。

 後者の統制機関とは,警察や世論などです。ある行為に犯罪というラベルを付与し,警察統計に計上する活動です。この有様によっても,犯罪量は大きく左右されます。統計上の犯罪量は,こちらに大きく依存しているともいえるでしょう。

 当局の統計によると,2013年中に刑法犯で検挙された人員は26万2486人です。法に触れることをして御用となった人間(14歳以上)の数ですが,実際の量はこれだけではありますまい。逮捕を免れている,あるいは事件そのものが発覚していない暗数が相当多いものとみられます。

 2010~14年に実施された『世界価値観調査』によると,日本の18歳以上の国民のうち,「この1年間で犯罪被害に遭ったことがある」と答えた者の比率は3.5%です。2013年の人口(1億2717万人)にこの比率を乗じると,年間の犯罪被害者数は443万人ほどと見積もられます。

 警察統計上の年間の犯罪検挙者数は26万人ちょっと。推定される年間の犯罪被害者数は443万人。うーん,両者は著しく乖離していますねえ。後者に占める前者の割合は,5.9%でしかありません。

 統計上の犯罪者数と推定犯罪被害者数を照合した結果ですが,やはり,統計に表れていない膨大な暗数がありそうです。前者が後者に占める比率は,警察統計によって犯罪がどれほど掬われているか,いうなれば警察のガンバリ度の尺度とも読めるでしょう。この値の国際データを作ってみましたので,紹介いたします。

 各国の犯罪検挙者数とベース人口は,国連薬物犯罪事務所の統計によります。国民の1年間の犯罪被害率は,上記の『世界価値観調査』(2010-14)によるものです。


 統計上の犯罪者数を推定被害者数で除した値(右端)が犯罪認知度ですが,日本は低いほうです。データを計算できた,24か国の順位は18位。

 ドイツやオランダは高いですねえ。半分超です。大国アメリカも4割を超えています。

 日本の統計の犯罪認知度は高くないことを知りましたが,日本の警察の検挙率は世界一。よって,事件そのものが発覚していない(届けられていない)という問題が大きいと思われます。万引きも説諭で済ます,羞恥心から性犯罪を届け出ないなど。わが国のカルチャーからして,頷けることです。海外では,軽微な犯罪もガンガン通報され,警察に捜査してもらうと。

 日本では事件の認知にバイアスがかかるのですが,その度合いは加害者の属性によっても異なります。よくいわれるのは,加害者が家族ないしは親戚である場合,通報が控えられるケースが多いことです。

 このことは,強姦の加害者の内訳を,警察統計と被害経験女性の申告で比較してみると,よくわかります。


 家族・親戚の割合は,警察の検挙統計では5.6%しか占めませんが,被害女性の申告では28.2%をも占めています。家族の絆(名誉)を重んじる日本では,家族間の犯罪は公になりにくいようです。

 三世代同居を推奨し,介護や保育を家族で担ってもらおうという目論見があるようです。家族というのは,政府にしたら,諸々の闇を封じ込めるのに使える,実に都合のよい「装置」です。情緒・情愛依存の病理。

 ちなみにわが国では,少年と成人の犯罪率に「異常」ともいえる乖離があります。大人は自分たちのことを棚上げして,少年ばかりを厳しくとり締まっている。少年の犯罪化,成人の非犯罪化の進行。恩師・松本良夫先生の言葉を借りると,「少年犯罪『多』ではなく,成人犯罪『少』」の病理。

 犯罪統計を,逸脱者の実際量ではなく,統制機関の姿勢の指標と考えると,当該社会の病理が見えてきます。今しがた述べた,犯罪認知の世代差にまつわる問題については,次回公表の日経デュアル記事で詳しくお話いたします。どうぞ,お楽しみに。

2016年3月20日日曜日

都道府県別の子どもの生活保護受給率

 山形大学が発表した,都道府県別の子どもの貧困率が注目を集めています。総務省『就業構造基本調査』から計算したそうですが,私の力量不足のゆえか,再現が叶いません。

 そのうち,計算方法の詳細を記した論文になるとのことですので,それを待つことにいたしましょう。

 しかし,県によって所得水準や物価も違いますので,県別の貧困率は,読み方に注意がいるかなとも思います。それもいいですが,生活保護を受けている子どもがどれほどいるか,という指標はどうでしょう。

 生活保護の認定基準は,地域の物価等を勘案して決められています。東京と沖縄は同じではありません。生活苦の状態にある子どもの量を測るには,こうした公的扶助の受給率に注目するのも,一つの手かと思います(これとても,各県の保護行政の影響は免れませんが)。

 分子となる,子どもの生活保護受給者数は,厚労省『被保護者調査』から知ることができます。最新の2014年調査によると,同年7月末時点における,15歳未満の生活保護受給者は20万1631人です。生活保護世帯で暮らす,15歳未満の子どもは全国で20万人超。

 これを,同年10月時点の15歳未満人口(1623万人)で除すと,1.24%という比率になります。これが,最新の子どもの生活保護受給者率です。この値は,今世紀初頭の2000年では0.69%でした。今世紀以降,子どもの生保受給率は1.8倍に増えています。子どもの貧困化が「見える化」されます。

 では,この指標を都道府県別に出してみましょう。下表は,数値が高い順に47都道府県を並べたランキング表です。


 子どもの生活保護受給率を県別に出すと,3.05%から0.08%までのレインヂがあります。トップは北海道で,33人に1人。北海道の次は,大阪,京都と続いています。

 マップにすると,下のようになります。3つの階級幅を設け,ラフに塗り分けたものです。大雑把にみて,西高東低となっています。


 いろいろな教育地図をつくっている私ですが,上記の生活保護受給率地図の模様は,少年の非行発生率のそれに似ていると感じました。

 相関をとってみましょう。2014年の非行少年出現率は,同年中に警察に検挙・補導された犯罪少年・触法少年(主要刑法犯による)の数を,同年10月時点の10代人口で除して出します。分子には10歳未満の少年も含まれますが,それはごく少数ですので,ベースを10代としてよいでしょう。

 2014年の非行少年出現率の全国値は,6万207人/1172万人=0.51%となります。分子の出所は,警察庁『2014年における少年の保護及び補導の概況』です。


 各県の非行少年出現率は,子どもの生活保護受給者率とプラスの相関関係にあります。後者が高い県ほど,前者も高い傾向。相関係数は+0.5122であり,1%水準で有意です。

 貧困と逸脱の可視化ですが,いろいろな経路が考えられます。子どもですので,生活困窮による盗みといった,生活型の非行は稀でしょう。それよりも,周囲と比した相対貧困による剥奪感,自我の傷つきによる生活態度の不安定化要素が大きいかと思います。

 思春期にもなれば,やれスマホだとか,仲間との交際にもカネがかかるようになりますが,それが叶わないとつまはじきにされる・・・。いじめ被害や不登校の発生率は,家庭の経済水準と相関していることは,前に明らかにした通りです。

 都道府県レベルのマクロ統計でしか,この手の問題を検討できないことに,もどかしさを覚えます。子どもの貧困が社会問題化している状況です。『全国学力・学習状況調査』において,家庭環境の変数を若干盛り込み,個人単位での分析ができるようになればと思います。

 そこから生み出された実証データが,子どもの貧困対策を押し進めるエビデンスになることでしょう。

2016年3月19日土曜日

保育士の離職率

 「保育所落ちたの私だ!」ブログが政治を動かしつつありますが,「保育士辞めたの私だ!」というツイッター投稿にも関心を持ちます。

 保育士の待遇が劣悪なのは,よく知られていること。保育所の設置には,土地・建物・ヒトが必要ですが,一番不足しているのは最後の「ヒト」ではないでしょうか。都市部では,「空きがあるのに入れない」事態になっているようです。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12263463.html

 保育士が来てくれない問題と同時に,出ていく(辞めてしまう)問題も大きいでしょう。「保育士辞めたの私だ!」という人は,統計でみてどれくらいいるのか。今回は,保育士の離職率の計算結果をご覧に入れようと思います。

 2014年の厚労省『社会福祉施設等調査』には,調査時点の前の1年間における,常勤保育士の離職者数が計上されています。2013年10月~14年9月の離職者数です。その数,3万2406人。1年間で,3万人超の常勤保育士が辞めているのですね。結婚・出産による離職も多いでしょうが。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/23-22.html

 この期間の始点(2013年10月時点)の常勤保育士数は32万196人。よって,上記の1年間における,常勤保育士の離職率は,32406/320196=10.1%と算出されます。ちょうど1割です。最近では,常勤保育士の10人に1人が,1年間で辞めると。

 この離職率を公私別に出すと,公立は5.4%,私立は12.0%となります。公私では,保育士の離職率の倍以上の差があります。

 これは全国の数値ですが,都道府県別に計算することもできます。常勤保育士の離職率が高いのは,どの県でしょう。下表は,計算結果の一覧です。黄色マークは最高値,青色マークは最低値,赤字は上位5位を意味します。*政令指定都市の分は,当該市がある県に含めて計算しています。


 まず総数をみると,常勤保育士の離職率は全国では10.1%ですが,県別にみると5.4%から14.6%までのレインヂが観察されます。鳥取は,保育士の離職率が低いですねえ。公立・私立の別でみても,軒並み最下位です。

 離職率トップの徳島は,公立の離職率が高くなっています(17.3%)。私立より公立が高い珍しい県ですが,何か特殊事情でもあったのでしょうか。

 量的に多い私立保育所でみると,こちらは,都市部で離職率が高い傾向がみられます。トップは奈良で,埼玉,神奈川,大阪といった都市県が赤色になっています。保育所不足が深刻で,定員をかなり超えた幼児を収容している保育所も少なくないだけに,業務負担も大きいゆえでしょうか。都市部では,保護者からの要求が厳しい,ということもありそうです。

 これは想像ですが,統計で可視化される事態があります。私立保育所の常勤保育士の離職率が,保育士の給与水準と相関していることです。後者は,保育士の年収が全職業の何倍かという倍率で,2014年11月23日の記事にて,県別の値を出しました。

 この指標を横軸,先ほど計算した私立の保育士の離職率を縦軸にとった座標上に,47都道府県を配置すると,下図のようになります。保育士の給与水準と離職率の相関図です。


 明瞭ではないですが,保育士給与の相対水準が低い県ほど,私立の保育士の離職率が高い傾向にあります。相関係数は-0.41318で,1%水準で有意です。

 大都市・東京では,保育士の給与は全職業の半分ちょいですが,こうした状況は,保育士らの不満を高めるのに十分でしょう。図の左上には,こういう県が位置しています。*福島は,震災という特殊事情を考慮する必要があるかと思います。

 マクロ統計から明らかになる,保育士の給与と離職率の相関。保育士の給与が月額1万円アップされることになりましたが,これで問題が解決されることにはなりますまい。保育士の「やりがい感情」によりかかっているばかりでは,いつ保育所内で悲劇が起きるか分かりません。やりがい疲労が内に向くのが離職としたら,外に向くのは・・・。考えるだけでも,恐ろしいこと。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/03/blog-post_6.html

 私が考えているのは,保育士の待遇改善のための公的な基金を設けること。非利用者から反発が出ること必至ですが,保育サービスを充実できるか否かは,社会の維持存続にかかわることです。上の世代は誰もが,老後は下の世代の世話になります。わが国の人口ピラミッドは「下」がやせ細っていますが,この部分に養分(資源)を傾斜配分し,太らせることが不可避です。

 保育士の待遇改善は,その政策の一環に他なりません。

2016年3月16日水曜日

業種別のブラックバイト率

 3月も中盤ですが,いかがお過ごしでしょうか。入試を突破し,4月から大学生という方は,さぞ希望に満ち溢れていることでしょう。大学生活を存分に楽しむぜー,と。

 大学生の生活は,大雑把に勉強,サークル,バイトに区切られますが,最近はバイトの比重が増してきているといいます。それは昔も同じですが,最近は遊興費目当てではなく,学費や生活費稼ぎのバイトが増えているといいます。家計が厳しくなり,親に頼れない学生さんも多いことでしょう。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/11/post-4152.php

 そうである以上,バイトも仕方ありませんが,学業に支障のない程度にとどめたいものです。しかし,人手不足のバイト先にメチャクチャこき使われ,勉強とバイトの比重が逆転してしまう学生もいます。試験前も休めない,辞めさせてくれない・・・。いわゆるブラックバイトの問題が,全国の至る所で噴出しています。

 こうした不当行為の被害に遭っている学生は,データで見てどれくらいいるのか。ブラックバイト被害の公的調査がないか,ちょっと探してみたら,あるではありませんか。昨年の11月に,厚労省の調査結果が公表されています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000103577.html

 バイト経験(週1日・3か月以上)のある大学生等を対象とした調査です。具体的な対象は,大学生,短大生,専門学校生,大学院生です。

 これらの学生に,バイト先で不当労働行為の被害に遭った経験を尋ねています。複数の項目を提示し,該当するものを全て選んでもらう形式です。私は,被害事例の多い2項目の被害経験率を業種ごとに整理してみました。「合意した以外の仕事をさせられた」と「合意した以上のシフトを入れられた」の経験率です。


 赤字は人数上位5位の業種ですが,コンビニ,個別指導塾,スーパー,居酒屋,チェーン飲食店でのバイト経験者が多くなっています。学生のメインバイトです。

 2項目の被害経験率をみると,合意以外の仕事は洋菓子店,合意以上のシフトはファミレスで最も高くなっています。ファーストフードは,両方とも値が高くなっています。

 上表のデータをビジュアル化してみましょう。横軸に合意以外の仕事,縦軸に合意以上のシフトの被害率をとった座標上に,28の業種をプロットしてみました。

 この図は,昨日ツイッターで発信したのですが,もう一工夫加え,ドットの大きさで人数も表現してみました。エクセルのバブルチャート機能で,このような図も簡単に作れます。


 右上にあるのは,ブラック度が高い業種です。円が大きいメインバイト(ファーストフード,コンビニなど)は,このゾーンに位置しています。

 これからバイトしようという新入生に注意を促す意味で,大学の学生支援課等で,こういう図を配布してはいかがでしょう。各業界の自浄作用を促すうえでも,効果があるかと思います。

 上記の厚労省調査では,他の不当行為被害率も調査されています。商品買取強制,賃金不払いなど。後者は,学習塾業界で飛びぬけて高くなっています。私の教え子にも,「初めの2週間は研修期間なので,給与は出ない」と言われた,という子がいました。そんなバカげたことはありません。

 当然,辞めるのも自由。2週間くらい前に「辞めます」と予告して,期限を務めたら,後は行かなければいいだけのこと。「損害賠償だ!」なんてのは脅しです。ただし,雇用期限の定まった契約の場合は,病気等の正当な理由がない限り,契約不履行ととられるそうです。大学非常勤講師は,これに該当するとのこと。

 大学の新入生オリエンテーションでは,こういう労働法規のガイダンスも行ってほしいものです。

2016年3月14日月曜日

世帯構造内の貧困分布

 貧困率。最近,よく耳目にする指標ですが,字のごとく,貧困状態にある人が国民全体の何%かです。ここでいう貧困とは,衣食住にも事欠くといった絶対貧困ではなく,当該社会の生活水準からした,相対的な意味合いのものです。

 具体的には,年収が中央値の半分に満たない世帯の割合をいいます。最新の厚労省『国民生活基礎調査』のデータを使って,計算してみましょう。

 2014年の調査対象となた6837世帯の年収分布は,以下のようです。下記サイトの表24より数値を採取して,作成しました。調査の前年(2013年)の世帯年収分布です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001031016


 最も多いのは,年収250万以上300万未満の世帯となっています。単身世帯や高齢世帯も含む全世帯の分布ですので,こんなものでしょう。

 この分布から相対的貧困率を出すのですが,まずは,貧困世帯を割り出すための貧困線(poverty line)を求めないといけません。貧困戦とは,中央値の半分のことです。このラインを下回る世帯が,貧困状態の世帯と判定されます。

 中央値(Median)とは,データを高い順に並べたとき,ちょうど真ん中にくる値ですよね。右端の累積相対度数から,年収400~450万のどこか,ということになります。按分比例の考えを使って,これを求めてみましょう。以下の2ステップです。

 ① (50.0-48.2)/(53.5-48.2)=0.338
 ② 400+(50×0.338)=416.9万円

 よって貧困線は,この半分の208.5万円ということになります。年収がこの繊に満たな世帯が,貧困世帯ということになります。ひとまず,年収208.4万円までの世帯としましょう。この場合,該当世帯の量は,以下のようにして推し量られます。

 A) 年収200万未満の世帯=82+366+456+491=1395世帯
 B) 年収200~208.4万の世帯=482×{(208.4-200.0)/50}=81世帯
 A+B=1476世帯

 したがって,この貧困世帯が全世帯に占める割合(相対的貧困率)は,1476/6837=21.6%となります。およそ5分の1,これが世帯単位でみた最新の貧困率です。

 これは世帯全体でみた貧困率ですが,世帯のタイプによって,値は大きく変異します。当然,単独世帯では,貧困率はうんと高くなるでしょう。原資料では,世帯構造別の年収分布も公表されています。これを使って,先ほどと同じやり方で,世帯タイプ別の貧困率を計算してみました。

 下図は,結果を図示したものです。ヨコの幅を使って,各世帯タイプの量も表現しています。


 どうでしょう。予想通り,単独世帯の貧困率は高くなっています。ジェンダーの差も出ていて,女性の単独世帯では65.9%,7割近くが貧困状態に置かれています。夫と死別した高齢女性が多いでしょうが,若年単身女性の貧困は,最近よく指摘されます。その表れかもしれません。

 ひとり親と未婚の子の世帯も,貧困率は結構高く,4分の1を超えています。ちなみに,子が学校段階のひとり親世帯に限ったら,貧困率は半分を超えます。2012年の値は54.6%で,世界一です(内閣府『子供・若者白書』2015年)。わが国は,ひとり親世帯の貧困化が最も進んだ社会ということになります。

 2人親の標準世帯を前提に,諸々の社会制度が組み立てられているためでしょう。随所で述べていますが,国全体は豊かであっても,こうした少数の層に強い圧力がかかる構造になっていることを,忘れるべきではありません。

 できれば,18歳未満の子がいる世帯に限定して,上記と同じ図を作ってみたいものです。子どもの貧困対策に際して,重点を置くべき層が見えてくるでしょう。現状の可視化。このことがまずもって求められるのは,どの社会問題についてもいえることです。

2016年3月12日土曜日

『速攻の教育時事・2017年度』

 拙著『教員採用試験・速攻の教育時事』(実務教育出版)の見本が届きました。発売は来週の火曜日,3月15日です。
http://jitsumu.hondana.jp/book/b214682.html


 教員採用試験の教職教養では,教育時事の問題も出題されます。その比重は結構高く,2016年度(昨年夏実施)の東京都試験では全問題の5分の1,大阪府では半分以上となっています。
https://twitter.com/jitsumu_2hen/status/707443568290471936

 既刊の『教職教養らくらくマスター』でも少しは触れていますが,この本は時事に特化しています。7章・70テーマ(見開き)の構成で,1日2テーマずつ読めば,1か月とちょっとで終わります。「速攻」の看板も偽りなしです。

 教育政策は目まぐるしく動いていますが,今年夏実施の2017年度採用試験で狙われそうな時事トピックを厳選し,細切れにして盛り込んでいます。道徳の教科化,小中一貫教育,チーム学校,高校生の政治活動解禁・・・。私が予想する,「今年はココが狙われる!」トピックベスト10は,以下です,本書の裏表紙に掲げました。


 試験で出題されるのは当局の政策文書(答申,通知など)ですので,その内容の紹介がメインですが,お堅い官僚文章の引用一色ではありません。

 政策というのは,現実に生起した問題を解決するために施行されますが,その問題がどういうものかがリアルに分かるよう,データ(グラフ)をたくさん載せています。「奨学金」のテーマでは,以下のようなグラフを載せました(111ページ)。


 政策文書には抽象的なことしか書かれていませんが,そうした「抽象」と「現実」を往復できるような仕掛けにしています。生き生きとした現実感をもって,教育の「今」を学んでいただけるかと思います。

 教育時事の知識は,筆記試験だけでなく,面接や討議でも必要になります。「こんなことも知らないの?」と言われないよう,「知」の武装をしておきましょう。

 『教職教養らくらくマスター』,『教職教養の過去問224』,そして『速攻の教育時事』の3冊を学習していただければ,教職教養対策は万全かと思われます。『速攻の教育時事』は,来週の火曜(15日)発売です。教員採用試験を受験される皆さん。お手にとっていただけますと幸いです。

2016年3月11日金曜日

家事・家族ケア時間の格差

 先般のニューズウィーク記事にて,日本の子持ち男性の家事・育児分担率が,世界最下位であることを知りました。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/03/post-4607.php

 日本の男性の週間平均時間は12.0時間,女性は53.7時間ですから,男性の分担率は,12.0/65.7=18.3%となる次第です。しかし,週平均時間が12時間というのも,いかにも短い。1日2時間未満です。それに対し,アメリカは週平均38時間。この大国では,男性も1日5時間以上,家事ないしは家族ケアをしているわけです。

 これは全体を均した平均値ですが,日本の男性の分布をみると「おや?」という感じがします。分散が大きいことです。ISSPの『家族と性役割に関する調査』(2012年)にて,週間の家事・家族ケア時間が判明する,子持ちの有配偶男性は125人ですが,ゼロから94時間と,非常に幅広く分布しています。

 大雑把なカテゴリー区分でみても,週5時間未満が35.2%いるのに対し,週20時間以上も17.6%と,そこそこいます。欧米では,平均近辺の層が厚い,ノーマル分布のような印象です。

 むむう。日本は,男性の家事・家族ケア時間が短いことに加え,する者としない者の分化(格差)が大きいのではないか。こんな予感がしてきました。数値で,そのレベルを可視化してみましょう。

 下表は,18歳未満の子がいる,有配偶男性125人の週間家事・家族ケア時間(h)の分布です。上記のISSP調査のローデータより作成しました。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4


 125人のうち最も多いのは,週2時間です(15人)。時間量は,時間に人数を乗じた数値です。

 人数と時間量の分布は,かなりズレています。週30時間以上するカジメンは,人数の上では8.8%しかいませんが,時間量では全体の36.0%をも占めています(黄色マーク)。逆に週5時間未満の層は,人数では35.2%もいますが,時間量ではたった5.6%しか占めません。

 両者のズレの大きさは,右端の累積相対度数をグラフにすることで,「見える化」されます。横軸に人数,縦軸に時間量の累積相対度数をとったマトリクスに,35の時間区分のドットを配置し,線でつなぐと,下図のようになります。


 曲線の底の深さによって,家事・家族ケアの格差の度合いが測られます。色付きの面積を2倍して,それを表すジニ係数を計算すると,0.549となります。一般にジニ係数は,0.4を超えると絶対水準として大きいと判断されますので,日本の男性の家事・家族ケア時間の分化,する者としない者の格差は大きい,ということになります。

 他国と比べた相対評価もしてみましょう。同じやり方で,日本を含む33か国の男性の家事・家族ケア時間ジニ係数を計算しました。調査の対象は38か国ですが,分析対象となる男性サンプルが少ない国は,除外しています。


 上図のランキングによると,日本は台湾に次いで2位です。3位は韓国。東アジアでは,男性の家事・家族ケア時間格差が相対的に大きくなっています。

 平均時間の絶対量と併せると,これら3国は,平均時間が短いと同時に,する者としない者の格差が大きい,という問題も提起されます(下図)。


 日本のサンプルは125人しかいませんが,家事をする者としない者を分かつ要因は何か。適当なラインを設けて,する群としない群に分け,予想される要因変数とのクロス集計をすれば,ある程度の解は得られるでしょう。

 仕事時間,妻が正社員であるか否か,三世代同居か,といった基本条件に加えて,どういう教育を受けたか(学歴)などとの関連も気になるところ。家事・育児格差も,子細な分析のメスが入れられるべき現象の一つです。

2016年3月8日火曜日

高校就学支援金制度の効果

 2014年度より,高校就学支援金制度が施行されています。2010年度施行の高校無償化制度の後を継ぐものです。

 新制度では,対象者に所得制限を設ける代わりに,浮いた財源で「」に対する支援を手厚くすることとされました。全日制高校では月額9900円の支援金が支給されますが,私立の場合,世帯の収入に応じて,額が1.5~2.5倍されます。

 たとえば,年収250万未満の貧困世帯の場合,月額9900円を2.5倍し,年額29万7000円が支給される,という具合です。

 はて,一連の政策の効果は如何。2008年のリーマンショック以降,学費稼ぎのバイトに明け暮れる高校生,経済的理由による高校生の中退問題がたびたびメディアで報じられました。これを受け,2010年度より一連の就学支援政策が施行された経緯です。

 施行前年の2009年度と,データが分かる最新の2014年度で,経済的理由による高校中退者数はどう変わったか。文科省の統計によると,2009年度が1647人,20014年度が1208人です。439人の減,およそ3割弱の減少です。

 しかし,公立と私立に分けてみると,様相が違っています。


 経済的理由による高校中退者数は,公立では減っていますが,私立では増えています。政策の効果は,私立高校には届いていないのでしょうか。

 まあ私立の場合,年額11万8800円(9900円×12か月)では足りないかもしれません。私立は高い授業料のほかに,設備費とかもありますしね。

 高校でかかる教育費総額を,本制度による就学支援金はどれほどカバーしているのでしょう。この点に関するデータを作ってみました。


 生徒1人にかかる教育費年額は,学年によって違います。1年時にお金がかかるのは,制服代などがかさむためです。私立の場合は,入学金もバカ高。

 支給される高校就学支援金の標準年額は11万8800円ですが,教育費全体のどれほどをカバーしているかというと,公立では2~3割,私立では1割くらいです。私立の場合,貧困世帯には割増されますが,マックスの29万7000円でも,教育費総額の2~3割を賄うにすぎません。

 私立の場合,教育費の絶対額が多額ですので,貧困世帯でも大きな負担が課せられることになります。私立高校に子を通わせる家庭は,支援金をマックスもらっても,1年時で88万円,2年時で64万円,3年時で56万円を負担しないといけません(aからcを差し引いた額)。

 こうみると,制度の恩恵が私立高校に届いていないというのは,分かる気もします。うろ覚えですが,どこかの新聞で,私立高校の教員による「今の就学支援金制度では不十分だ」という趣旨の投稿を目にしたことがあります。

 この制度の有効性については,現場はどう考えているか。意識調査を実施し,必要とあらば,設計を見直すことも求められるでしょう。

2016年3月6日日曜日

やりがいによる搾取

 「保育所に落ちたの私だ!」という掛け声のもと,国会前でデモが行われたようですが,ツイッター上では「保育士を辞めたの私だ!」という主張が次々に投稿されています。

 保育所不足と保育士の待遇の悪さの問題ですが,両者がリンクしているのは,誰もが知っていること。保育士が集まらないから,保育所ができない(増やせない)。保育士の給与については,厚労省『賃金構造基本統計』のデータで明らかにしたことがありますが,東京都の保育士実態調査に,より細かいデータがありましたので,それを使ってグラフをつくってみました。

 2013年の夏に,都内で就業している保育士に年収を尋ねた結果です。正規職員,有期フルタイム,有期パートという就業地位別の分布が明らかにされています。これら3群の量的規模も分かる,モザイク図にしてみました。


 どうでしょう。有期のパートでは9割以上が年収200万未満で,正規職員でも6割が年収300万未満です。昨日,ツイッターでこの図を発信したのですが,「ここまで低いのか。それも東京で・・・」という感想が多数聞かれます。「これじゃあ,なり手がいるわけない」という声も。

 現在就業している保育士も,給与にさぞ不満を抱いていることでしょう。同じ調査では,10の項目を提示して,それぞれの満足度を尋ねています。横軸に満足という者の割合,縦軸に不満足という者の割合をとった座標上に,10の項目を配置すると,下図のようになります。


 10の項目のうち8項目は,不満足より満足の割合がずっと高くなっています。労働時間や職場の人間関係などについては,保育士の満足度は高いようです。

 不満は,もっぱら給与面に集中しています。ある方がツイッターで言われていましたが,どこを改善したらいいか,これほど分かりやすい職場というのも珍しいでしょうね。

 10の項目のうち満足度が最も高いのは,仕事のやりがいです。現役保育士の7割以上が「満足」と言い切っています。人の命を預かり,人生初期の人間形成にも関与する,重大な仕事です。それなりの専門性も要求され,誰にでもできる仕事ではありません。やりがいに関する満足度は高くなるでしょう。自分は崇高な仕事をしている,というセルフ・エスティームも感じられるでしょう。

 それだけに,腹の底に渦巻いている給与への不満を表出しにくいのかもしれません。「崇高な仕事を,カネ目当てでやるのか」と言われそうで・・・。日本の保育の現場は,保育士たちの「やりがい」感情にもっぱら支えられているといえます。

 これは,介護業界にも当てはまります。介護労働者の給与も激安なのですが,項目別の満足・不満足率のグラフを作ると,上記の保育士の図とそっくりになります。他の項目はオミットして,給与とやりがいのドットを置いたグラフをお見せしましょう。ピンクは保育士,青色は介護労働者のドットです。後者のデータは,介護労働安定センターの『介護労働者実態調査』(2014年度)によるものです。


 双方とも,やりがいへの満足度が高く,不満は給与面に集中しています。前者によって,後者が表出(噴出)するのが抑えられている。こういう構造です。「やりがいによる搾取」と呼んでもよいでしょう。

 ちなみに「やりがい搾取」という概念は,2008年に本田由紀教授が提唱されたものです。(『軋む社会-教育・仕事・若者の現在-』双風舎)。手元に現物がありませんので,はてなキーワードの解説を引用すると,「企業風土が従業員にやりがい報酬を意識させて,金銭報酬を抑制する搾取構造になっていること。賃金抑制が常態化したり,無償の長時間労働が奨励されたりすること。働き過ぎの問題として」,本田教授が名付けた概念とあります。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%E4%A4%EA%A4%AC%A4%A4%BA%F1%BC%E8

 なるほど,保育や介護の現場では,こうした事態になっていると考えられます。

 上記のように,やりがいと給与に関する意識が対峙する仕事というのは,そう多くないと思われます。これに該当するのは,人のケアを職務とし,顧客に対する気配り(思いやり)が求められる職業です。

 ホックシールド流にいうと「感情労働」の仕事ということになりますが,保育士や介護労働者は,その典型です。「顧客のためなら,劣悪な労働条件も厭わない,それに不平を言うべきでない」。こうした思いが労働者の内に生まれやすい仕事で,学校の教師も該当するでしょう。超過勤務を求める際の殺し文句は,「子どもが可哀想と思わないか」です。これを言われると,反論しづらい。

 ホックシールドによると,こういう仕事では,「思いやり疲労」というバーンアウトが生まれやすいとのこと。近年の教員の離職率上昇などは,それに起因する面もあるでしょう。

 離職や休職の増加は,そうしたバーンアウトが内に向いた結果ですが,それが外に向くと恐ろしい。体罰や虐待の増加となって,現れるでしょう。現に,そうなっています。

 保育・教育・介護といった世界は,労働者の「やりがい感情」に支えられている面が強いのですが,それは砂上の楼閣のようなもので,いつ崩れてもおかしくありません。それによりかっていてはいけないことは,確かです。「保育所に落ちたの私だ!」デモ,ツイッター上の「保育士を辞めたの私だ!」投稿をみて,こういうことを思いました。

2016年3月4日金曜日

オトコが結婚するのに「収入」がモノをいう社会

 長ったらしいタイトルになりましたが,今回の記事で明らかにしたいことです。女性が結婚相手の男性に求める一番の条件は,ズバリ「収入」でしょう。

 これは,女性たちの依存気質への批判につなげるべきではなく,男女の給与格差が大きいこと,女性にすれば結婚・出産が,バリバリ働くことを妨げる足かせになること,という現実と関連して考えるべきです。

 こういうわけから,男性にあっては,収入と未婚率(既婚率)は強く相関しています。それは本ブログでも繰り返し明らかにしました。最近のものでは,ニューズウィークに寄稿した記事のグラフがありますので,興味ある方はご覧ください。下記記事の2つ目のグラフです。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/09/post-3882.php

 しかるに,これは日本の現実です。どの国でも,男性の収入と結婚チャンスは関連しているでしょうが,その程度は国によって異なるでしょう。予想ですが,共稼ぎが主流で女性もバリバリ働く北欧では,関連は小さいのではないかと思われます。

 今回は,その関連のレベルを国別に可視化してみようと思います。タイトルに記した,「オトコが結婚するのに,収入がモノをいう社会」はどこかです。まあ,答えは分かり切っていますが,客観的な数値を出してみましょう。

 ISSPが2012年に実施した「家族と性役割に関する意識調査」のデータを使って,25~54歳の未婚男性と既婚男性の年収分布を出し,両者がどれほどズレているかを明らかにします。下の表は,日本のデータです。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4


 年収が判明する未婚者73人,既婚者153人の分布です。原資料では,年収区分が階級値で示されています。たとえば,年収250万とは,年収200万円台を意味します。

 当たり前ですが,両群の年収分布は大きく異なっています。相対度数をみると,年収200万未満の割合は,未婚者では54.8%と半分を超えますが,既婚者ではわずか14.4%です(黄色マーク)。年収500万以上の比重は,これとほぼ逆になっています。

 両群の年収分布のズレは,右端の累積相対度数をグラフにすることで「見える化」されます。横軸に未婚者,縦軸に既婚者の年収累積相対度数をとった座標上に,14の年収階層のドットを配置し,線でつなぐと下図のようになります。

 統計学の素養がある方はご存知の,ローレンツ曲線です。ひとまず,結婚ローレンツ曲線を名付けておきましょう。


 この曲線の底が深いほど,未婚男性と既婚男性の年収分布のズレが大きいこと,つまり,結婚に際して「収入」がモノをいう度合いが高いことになります。

 色付きの面積を2倍したジニ係数を出すと,0.535になります。年収と結婚チャンスの関連の強さを教えてくれる数値です。この結婚ジニ係数を,他の目ぼしい国についても出してみました。上記のISSP・2012調査の対象は38か国ですが,計算に手間がかかるので,現段階で算出した9か国のデータを紹介します。


 日本の0.535という値は,9か国の中ではトップです。主要国の比較では,オトコが結婚するのに,収入がモノをいう社会は,わが国であるようです。その次は,お隣の韓国。

 予想通り,共働きが主流の北欧は係数値が低くなっています。既婚女性でもガツガツ稼ぐチャンスが開かれているので,こうなるのでしょうか。中国などは,もっとそうです。この大国では,オトコが結婚するのに収入はほとんど関係ないようです。国民皆労働のお国柄が出ていますね。

 このデータをどうみるかですが,「女性は旦那を頼って,けしからん」などという解釈は筋違いです。同じ仕事をしても給与に性差がある,女性にとって,結婚・出産が仕事の足かせになる…。こういう現実を変えろ,というメッセージを発するデータと読むべきでしょう。

 同じフルタイム就業をしても,給与にジェンダー差があるのは,前にツイッターで発信したところです。
https://twitter.com/tmaita77/status/704133769087717378

2016年3月2日水曜日

妻の就業状態別の年収比較

 女性の社会進出の必要がいわれますが,労働力不足への対応といった,社会的要請だけからそれが求められるのではありません。

 個々の家庭でみても,今後は夫婦二馬力でないと,やっていけなくなるでしょう。随所でいわれていますが,男性の腕一本で家族を養える時代など,とうに終わっています。

 さて,ここで素朴な疑問。妻が働いているかどうかで,世帯の年収はどれほど違うのか。もちろん,妻が就業している世帯のほうが高いに決まっているでしょうが,その程度を数値で可視化してみましょう。

 2012年の総務省『就業構造基本調査』から,夫が有業の核家族世帯(夫婦と子のみ)の年収分布を,妻の就業状態別に知ることができます。子の年齢については制限はないようですが,学校に通っている子が大半とみてよいでしょう。*最近は,成人後も親と同居し続けるパラサイト・シングルも少なくないですが。

 私は,①妻が無業,②妻が非正規雇用,③妻が正規雇用の3群に分けて,上記の核家族世帯の年収分布を明らかにしました。下表は,全国統計です。下記サイトの表82と83から数値を採取して,作成しました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048183&cycleCode=0&requestSender=search


 3群の世帯数のトータルは1137万世帯であり,妻無業が43%,妻非正規が38%,妻正規が19%という構成になっています。わが国の核家族世帯では,「夫有業・妻無業」の世帯がマジョリティーのようです。

 3群の世帯年収分布をみると,やはり違っていますね。妻が「無業→非正規→正規」となるにつれ,分布の山が高年収のゾーンにシフトします。妻が正社員の世帯では,最頻階級(Mode)が年収1000超です。やはり,二馬力は強し。

 階級値を使って,3つの群の平均世帯年収を計算すると,①妻無業世帯が653.1万円,②妻非正規世帯が694.3万円,③妻正規世帯が927.8万円となります。②と③の断絶が大きくなっています。妻が正規就業できるかどうかは,デカいようです。

 ちなみに,このデータは都道府県別に作ることもできます。47都道府県について,同じやり方で3群の平均世帯年収を出してみました。下の表は,その一覧です。あなたの県では,妻が働いているか(パートか正社員か)によって,核家族世帯の年収がどれほど違うか。ご覧ください。


 どの県でも,「無業<非正規<正規」となっています。これは当然ですが,その程度は県によって異なり,妻正社員世帯が妻無業世帯の何倍かを出すと,東京では1.36倍ほどですが,沖縄では1.68倍にもなります。ゴチは,この倍率が1.5倍を超える県です。

 しかし私が驚くのは,夫婦が正社員で共稼ぎしても(夫は大半が正社員でしょう),東京の「夫のみ就業」の世帯に年収が及ばない県が結構あることです。

 たとえば,私の郷里の鹿児島は,妻が正社員の世帯の平均年収は763.1万円ですが,これは,東京の「夫のみ就業」の世帯(820.6万円)に及びません。こういう県は,他にもあります。薄い青色マークをつけた県です。

 妻の正社員率マックスの島根もそうみたいですが,夫婦共稼ぎでないと,やっていけないのでしょうね。私が県別の共働き世帯率のデータを提示すると,「率が高い県は,共働きでないと子を大学にやれないからだ」という意見がよく出されますが,なるほどと思います。

 こうみると,女性の(正社員)就業チャンスの制限は,子どもの教育機会の制限(格差)にも通じる問題であることがうかがえます。よく知られているように,わが国の教育費はバカ高。子を2人以上大学にやっている家庭の4割は,年収1000万超です。
https://twitter.com/tmaita77/status/673455209901756418

 妻が正規就業することのベネフィットは,小さくないことが分かりました。