4月も終わりです。私はここ毎日,お昼ご飯を食べた後,予約した本を借りにコミュニティセンターまで歩くのですが,汗ばむ陽気です。半袖と半パンを出しました。
しかし夕刻はまだ冷えます。5時に「夕焼け小焼け」が流れると,海辺のサイクリングに行きますが,この時は上下のジャージを着ます。荒崎公園の管理人の人には,いつも夕刻に来る「ジャージの兄ちゃん」と覚えられていることでしょう。
今月,私がネット上で把握した教員不祥事報道は27件です。北九州市の採用後間もない中学校教員が,児童ポルノ製造で逮捕された事件には驚きました。厳格な試験をパスした精鋭なのにと,地元の教委もさぞショックでしょう。
万引きや横領といった財産犯も目につきます。教員は融資が一発で通るので,ついつい借り過ぎ,借金で首が回らなくなる。後々の自分の給料もきっかり予測できますので,「これでは返せない」と,犯行に及ぶのでしょうか。「先が見える」って,ある意味不幸なことだなと感じます。
明日から5月です。よいGWをお過ごしください。私は谷間の明日か明後日に,出かける予定です。横須賀市北東の観音崎公園に行こうかなと思ってます。私が住んでいる長井地区(南西)とは,対極のエリアです。あるいは,三浦半島南端の城ケ島にするか。
ブログの背景を若葉模様に変えます。
<2017年4月の教員不祥事報道>
・教師が生徒暴行、白岡の中学校 市教委に報告せず
(4/1,埼玉新聞,埼玉,中,男,20代)
・中学教諭、生徒の尻を回し蹴り 6人に体罰(4/5,朝日,奈良,中,男,53)
・女児、教室に閉じ込め? 「担任指示で机並べられ」
(4/5,朝日,京都,小,女,51)
・小学校のテスト、返却も採点もせず 教諭「忙しくて」
(4/6,朝日,東京,小,男,35)
・わいせつ疑い中学教諭逮捕 防犯カメラ映像から浮上
(4/6,日刊スポ,栃木,中,男,36)
・高校教諭、17歳の女子高校生を買春(4/6,産経,新潟,高,男,30)
・酒気帯び疑いで中学教諭逮捕 付近の住民が通報(4/7,産経,島根,中,男,38)
・強盗容疑で小学校教諭を逮捕(4/9,神奈川新聞,神奈川,小,女,27)
・高校臨時教員を酒気帯び運転で逮捕(4/9,沖縄タイムス,沖縄,高,男,26)
・元職場の中学校で窃盗…犯行後に2階から飛び降り大けがで御用
(4/10,産経,和歌山,中,男,25)
・北九州の新任中学教諭逮捕 児童ポルノ製造疑い
(4/10,共同通信,福岡,中,男,22)
・公然わいせつ:下半身露出の高校教諭逮捕(4/12,毎日,茨城,高,男,599)
・「写真をネットにバラまくぞ」高校講師逮捕、交際女性に下着姿画像送らせる
(4/12,産経,兵庫,高,男,33)
・「別れたら復讐する」10代女性へのストーカー疑いで高校教諭を逮捕
(4/13,産経,北海道,高,男,49)
・懲戒処分:ストーカーなど中学2教諭
(4/15,毎日,富山,ストーカー:中男38,死亡事故:中男48)
・住宅に侵入40万円盗む 容疑の高校教諭逮捕(4/16,産経,静岡,高,男,32)
・私的流用で小学校校長を懲戒免職(4/18,RCCニュース,広島,小,男,)
・広島市立高教諭 ATMで現金盗んだ疑いで逮捕
(4/18,RCCニュース,広島,高,女)
・教諭、事前に問題と正解教える…全国学力テスト(4/19,読売,茨城,中,男)
・女子中学生に金を渡し淫行、中学教諭逮捕
(4/20,沖縄タイムス,沖縄,中,男,43)
・海城中高、生徒ら8千人の情報紛失 USB忘れる
(4/21,朝日,東京,高,男,47)
・小学校教頭がセクハラで懲戒処分 (4/21,テレビ長崎,長崎,小,男,57)
・不倫を暴露すると女性脅す 恐喝未遂容疑で小学校講師の男を逮捕
(4/22,産経,和歌山,小,男,30)
・ろう学校の教諭逮捕=コンビニで盗撮容疑
(4/25,時事ドットコム,高知,特,男,27)
・スーパーで食料品を万引、小学校女性教諭を免職(4/26,産経,兵庫,小,女,25)
・教え子2人にキスや性交渉、前教頭を懲戒免職(4/27,朝日,愛知,高,男,53)
・酒気帯び容疑で高校教諭を逮捕(4/30,河北新報,宮城,高,男,54)
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2017年4月30日日曜日
2017年4月28日金曜日
大学生の奨学金利用率の地域差
日本学生支援機構が,大学ごとに学生の奨学金利用率や返済遅延率が分かる資料を公開してくれました。
https://www.sas.jasso.go.jp/ac/HenkanJohoServlet
個々の大学ごとに検索をかけて逐一データを呼び出さないといけませんが,私は全国の700余りの大学のデータを採取し,データベースを作る作業をしました。昨日,それがようやく完了したところです。
苦労をねぎらってくれた人もいましたが,結構しんどかった。おカネのある研究者は,こういう作業は助手やバイトにさせるんでしょうが,私は自前でしないといけません。
https://twitter.com/never_be_a_pm/status/857530842138071040
これを使って,奨学金利用率や返済遅延率の分布などを出せますが,私がまず明らかにしたいのは,奨学金の利用率の地域差です。おそらく,所得水準の低い地方の大学の学生は,利用率が高いのではないか。借金を背負って学んでいる学生が多いのではないか。地方出身者なら,誰もが抱く仮説でしょう。
上記のデータベースでは,各大学の学部学生数(2015年度)と,そのうち奨学金の貸与を受けた者の数を打ち込んでいます。これを県ごとに集計し,割り算をすることで,大学生の奨学金利用率を都道府県別に計算できます。分析対象は,全国729大学の学生280万9526人です。
東京でいうと,2015年度の学部学生は100万9683人,このうち奨学金を借りた学生は24万2345人ですので,奨学金の利用率は24.0%となります。およそ4人に1人。しかし,私の郷里の鹿児島だと利用率は55.0%と半分を超えます。
違うもんですねえ。私は東京学芸大学と鹿児島大学で学生時代を過ごしましたが,後者のほうが奨学金を借りている学生が多かったであろうことは,肌感覚でも分かります。
では,他の県はどうでしょう。同じやり方で奨学金の利用率を出し,高い順に並べたランキング表にしてみました。断っておきますが,これは大学の所在地に基づくデータです。
どうでしょう。左上をみると,トップは青森の63.05となっています。この県の大学生は,6割が奨学金を借りて学んでいると。2位は沖縄で,そこから7位までは見事に九州県で占められています。うーん。
対して右下をみると,首都圏や中部の県では,奨学金利用率が相対的に低くなっていますね。最低は千葉の22.3%で,青森の約3分の1です。
地図に落としてみると,地域性が際立ちます。濃い色は50%超ですが,九州は福岡の除いて軒並み濃い色で染まっています。
むーん。各県の所得水準とリンクしているような気がしますねえ。青森や沖縄は所得低いですし。大学生の親世代(45~54歳)の男性の平均年収を県別に算出し,上表の奨学金利用率との相関をとってみました。前者の年収は,総務省『就業構造基本調査』(2012年)のデータをもとに計算したものです。
予想通り,強い相関関係が検出されました。年収が低い県ほど学生の奨学金利用率が高いという,マイナスの相関関係です。相関係数は-0.8近くにもなります。所得水準の低い県では,借金を負って学んでいる学生が多し。
まあ奨学金というのは,貧しい家庭の学生に貸与されるものですから,当然といえばそうです。上記の相関図は,地方の学生に対する高等教育機会の提供に,奨学金が一役買っていることの証左ともいえます。奨学金がなかったら,高等教育機会の地域格差は凄まじいものになるでしょう。
しかしご存知のように,奨学金とは「名ばかり」で,実質は返済義務のあるローンです。近年は有利子化も進んでいます。借りた奨学金を返せず,人生に破綻をきたす学生も少なくない。上記の図は,そうしたリスクにさらされる頻度が,地方の学生ほど高いことを示しています。
高等教育の機会均等を具現するには,奨学金を貸し付けるのではなく,大学の学費の減免枠を増やすのがいいと,私は前から思っています。今の高校では,一定の所得以下の家庭の生徒には,就学支援金が支給されますが,これを大学に適用するのもいいでしょう。
大学の授業料無償化がいわれていますが,一律にこれをやると,富裕層を優遇することになりかねない(金持ちだらけの大学もありますので)。やるなら,所得制限を設けるべきでしょうね。
それと,地域の所得水準(物価)を勘案し,大学の学費に傾斜がつけられてもいいでしょう。私が学んだ東京学芸大学も鹿児島大学も学費は同じ。しかるに,東京と鹿児島では,親世代の年収に1.5倍以上の開きがある(上記散布図の横軸)。前から,これはおかしいと感じていました。
今回のデータは,奨学金の順機能を言いたいがために出したのではありません。地方には,無理をしてリスクを負って学んでいる学生が多い。これを言いたかったからです。
https://www.sas.jasso.go.jp/ac/HenkanJohoServlet
個々の大学ごとに検索をかけて逐一データを呼び出さないといけませんが,私は全国の700余りの大学のデータを採取し,データベースを作る作業をしました。昨日,それがようやく完了したところです。
苦労をねぎらってくれた人もいましたが,結構しんどかった。おカネのある研究者は,こういう作業は助手やバイトにさせるんでしょうが,私は自前でしないといけません。
https://twitter.com/never_be_a_pm/status/857530842138071040
これを使って,奨学金利用率や返済遅延率の分布などを出せますが,私がまず明らかにしたいのは,奨学金の利用率の地域差です。おそらく,所得水準の低い地方の大学の学生は,利用率が高いのではないか。借金を背負って学んでいる学生が多いのではないか。地方出身者なら,誰もが抱く仮説でしょう。
上記のデータベースでは,各大学の学部学生数(2015年度)と,そのうち奨学金の貸与を受けた者の数を打ち込んでいます。これを県ごとに集計し,割り算をすることで,大学生の奨学金利用率を都道府県別に計算できます。分析対象は,全国729大学の学生280万9526人です。
東京でいうと,2015年度の学部学生は100万9683人,このうち奨学金を借りた学生は24万2345人ですので,奨学金の利用率は24.0%となります。およそ4人に1人。しかし,私の郷里の鹿児島だと利用率は55.0%と半分を超えます。
違うもんですねえ。私は東京学芸大学と鹿児島大学で学生時代を過ごしましたが,後者のほうが奨学金を借りている学生が多かったであろうことは,肌感覚でも分かります。
では,他の県はどうでしょう。同じやり方で奨学金の利用率を出し,高い順に並べたランキング表にしてみました。断っておきますが,これは大学の所在地に基づくデータです。
どうでしょう。左上をみると,トップは青森の63.05となっています。この県の大学生は,6割が奨学金を借りて学んでいると。2位は沖縄で,そこから7位までは見事に九州県で占められています。うーん。
対して右下をみると,首都圏や中部の県では,奨学金利用率が相対的に低くなっていますね。最低は千葉の22.3%で,青森の約3分の1です。
地図に落としてみると,地域性が際立ちます。濃い色は50%超ですが,九州は福岡の除いて軒並み濃い色で染まっています。
むーん。各県の所得水準とリンクしているような気がしますねえ。青森や沖縄は所得低いですし。大学生の親世代(45~54歳)の男性の平均年収を県別に算出し,上表の奨学金利用率との相関をとってみました。前者の年収は,総務省『就業構造基本調査』(2012年)のデータをもとに計算したものです。
予想通り,強い相関関係が検出されました。年収が低い県ほど学生の奨学金利用率が高いという,マイナスの相関関係です。相関係数は-0.8近くにもなります。所得水準の低い県では,借金を負って学んでいる学生が多し。
まあ奨学金というのは,貧しい家庭の学生に貸与されるものですから,当然といえばそうです。上記の相関図は,地方の学生に対する高等教育機会の提供に,奨学金が一役買っていることの証左ともいえます。奨学金がなかったら,高等教育機会の地域格差は凄まじいものになるでしょう。
しかしご存知のように,奨学金とは「名ばかり」で,実質は返済義務のあるローンです。近年は有利子化も進んでいます。借りた奨学金を返せず,人生に破綻をきたす学生も少なくない。上記の図は,そうしたリスクにさらされる頻度が,地方の学生ほど高いことを示しています。
高等教育の機会均等を具現するには,奨学金を貸し付けるのではなく,大学の学費の減免枠を増やすのがいいと,私は前から思っています。今の高校では,一定の所得以下の家庭の生徒には,就学支援金が支給されますが,これを大学に適用するのもいいでしょう。
大学の授業料無償化がいわれていますが,一律にこれをやると,富裕層を優遇することになりかねない(金持ちだらけの大学もありますので)。やるなら,所得制限を設けるべきでしょうね。
それと,地域の所得水準(物価)を勘案し,大学の学費に傾斜がつけられてもいいでしょう。私が学んだ東京学芸大学も鹿児島大学も学費は同じ。しかるに,東京と鹿児島では,親世代の年収に1.5倍以上の開きがある(上記散布図の横軸)。前から,これはおかしいと感じていました。
今回のデータは,奨学金の順機能を言いたいがために出したのではありません。地方には,無理をしてリスクを負って学んでいる学生が多い。これを言いたかったからです。
2017年4月27日木曜日
幼子がいる母親の就業率マップ(2015年)
2015年の『国勢調査』の第2次集計結果が公表されました。国民の労働力状態の集計結果です。労働問題の研究者は「待ってました!」と,喝采の声を上げていることでしょう。私もそうです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001080615&requestSender=search
失業率,若者の無業率,女性の労働力率のM字カーブが過去に比してどう変わったか。地域別の傾向はどうか…。いろいろ明らかにできますが,私はまず,就学前の乳幼児がいる母親の就業率がどう変わったかに関心を持ちます。
ここ数年,この問題の重要性が認識され,保育所の増設,保育士の待遇改善などが図られてきました。上記の指標を手掛かりに,その成果を拝見といきましょう。
私は,6歳未満の子がいる核家族世帯(夫婦あり)のうち,妻が働いている世帯の割合を計算してみました。2015年の『国勢調査』のデータによると,分母が349万2147世帯(妻の就業状態が不詳の世帯は含まず),分子が179万7107世帯です。よって求めるパーセンテージは,51.5%となります。
2015年の最新データでみると,就学前の幼子がいる母親の就業率は51.5%ですか。5年前(2010年)の『国勢調査』のデータでは,同じ値は41.3%でした。この5年間で,10ポイントほど伸びていることになります。近年の政策の効果といえましょう。
これは全国の値ですが,地域単位でみるとどうか。都道府県よりも下った,より身近な生活圏の市区町村レベルで,上記の指標を出してみました。観察対象は,首都圏(1都3県)の市区町村です。
下図は,結果を地図に落としたものです。50%(半分)を超える市区町村に色がつくようにしてみました。
ほう。色つきの地域が増えていますね。2010年では28でしたが,5年を経た2015年では97の市区町村で,幼子がいる母親の就業率が50%を超えています。
しかるに,そのラインに満たない白色のゾーンが広いのは相変わらずで,私が住んでいる神奈川県は,2015年でも全体的にほぼ真っ白です。ちなみに,私が居を構えた横須賀市は40.4%なり。低い…。
さて,幼子がいる女性の社会進出チャンスは,色の濃淡で見て取れるのですが,言わずもがな,子どもを預けることができる保育所の量と相関しているでしょう。今回見ているのは核家族世帯のデータですので,三世代世帯の量の影響は除かれています(近居の影響はあるかもしれませんが)。
試みに,2013年の乳幼児の保育所在所率との相関をとってみましょう。分子は同年10月1日時点の認可保育所在所者数(厚労省『社会福祉施設等調査』)で,分母は3月31日時点の0~5歳人口(総務省『住民基本台帳による人口』)です。
この指標を横軸,幼子がいる母親の就業率(2015年)を縦軸にとった座標上に,1都3県の242市区町村を配置すると以下のようになります。
やはりですね。保育所に在籍している乳幼児の率が高い地域ほど,母親の就業率は高し。相関係数は+0.7147にもなります。まあ当たり前といえばそうですけど。
私が住んでいる横須賀市の位置も分かりました。状況改善の余地はまだあり,というところでしょうか。
最後に参考資料として,2015年の母親の就業率の市区町村別一覧表を掲げておきます。242の地域を高い順に並べたランキング表です。ご自分の地域の印をつけてみてください。
神奈川県の地域は,右下に寄ってしまっている。児童福祉関係の部署のみなさん,参考になさってください。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001080615&requestSender=search
失業率,若者の無業率,女性の労働力率のM字カーブが過去に比してどう変わったか。地域別の傾向はどうか…。いろいろ明らかにできますが,私はまず,就学前の乳幼児がいる母親の就業率がどう変わったかに関心を持ちます。
ここ数年,この問題の重要性が認識され,保育所の増設,保育士の待遇改善などが図られてきました。上記の指標を手掛かりに,その成果を拝見といきましょう。
私は,6歳未満の子がいる核家族世帯(夫婦あり)のうち,妻が働いている世帯の割合を計算してみました。2015年の『国勢調査』のデータによると,分母が349万2147世帯(妻の就業状態が不詳の世帯は含まず),分子が179万7107世帯です。よって求めるパーセンテージは,51.5%となります。
2015年の最新データでみると,就学前の幼子がいる母親の就業率は51.5%ですか。5年前(2010年)の『国勢調査』のデータでは,同じ値は41.3%でした。この5年間で,10ポイントほど伸びていることになります。近年の政策の効果といえましょう。
これは全国の値ですが,地域単位でみるとどうか。都道府県よりも下った,より身近な生活圏の市区町村レベルで,上記の指標を出してみました。観察対象は,首都圏(1都3県)の市区町村です。
下図は,結果を地図に落としたものです。50%(半分)を超える市区町村に色がつくようにしてみました。
ほう。色つきの地域が増えていますね。2010年では28でしたが,5年を経た2015年では97の市区町村で,幼子がいる母親の就業率が50%を超えています。
しかるに,そのラインに満たない白色のゾーンが広いのは相変わらずで,私が住んでいる神奈川県は,2015年でも全体的にほぼ真っ白です。ちなみに,私が居を構えた横須賀市は40.4%なり。低い…。
さて,幼子がいる女性の社会進出チャンスは,色の濃淡で見て取れるのですが,言わずもがな,子どもを預けることができる保育所の量と相関しているでしょう。今回見ているのは核家族世帯のデータですので,三世代世帯の量の影響は除かれています(近居の影響はあるかもしれませんが)。
試みに,2013年の乳幼児の保育所在所率との相関をとってみましょう。分子は同年10月1日時点の認可保育所在所者数(厚労省『社会福祉施設等調査』)で,分母は3月31日時点の0~5歳人口(総務省『住民基本台帳による人口』)です。
この指標を横軸,幼子がいる母親の就業率(2015年)を縦軸にとった座標上に,1都3県の242市区町村を配置すると以下のようになります。
やはりですね。保育所に在籍している乳幼児の率が高い地域ほど,母親の就業率は高し。相関係数は+0.7147にもなります。まあ当たり前といえばそうですけど。
私が住んでいる横須賀市の位置も分かりました。状況改善の余地はまだあり,というところでしょうか。
最後に参考資料として,2015年の母親の就業率の市区町村別一覧表を掲げておきます。242の地域を高い順に並べたランキング表です。ご自分の地域の印をつけてみてください。
神奈川県の地域は,右下に寄ってしまっている。児童福祉関係の部署のみなさん,参考になさってください。
2017年4月25日火曜日
大学進学展望のジェンダー差の国際比較
「どの段階の学校まで進みたいか?」。青少年を対象としたアンケートでよく設けられる問いですが,大学進学率が50%を超えている日本にあっては,多くが大学ないしは大学院まで行きたい,と答えるでしょう。
しかるに性別の差,ジェンダーの差もあると思います。昔は,女子には大学教育は不要という考えが強かったですから,勉強が好きでも進学を止められる少女が少なくありませんでした。私の母親(1940年生)もその一人で,進学を止められたそうです。
今でも,男女の子どもが2人いて,経済的事情で1人しか大学にやれないとなったら,勉強の出来に関係なく男子優先。こういう家庭もあるかもしれません。言いたくはないですが,私の郷里の鹿児島では,その度合いが顕著なような気がする。私は毎年,47都道府県の大学進学率を性別に出していますが,どの年でも,ジェンダー差が最も大きいのはこの県なのです。
2016年春の18歳人口ベースの大学進学率は,鹿児島でみると男子が41.4%,女子が30.1%で,10ポイント以上も開いています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/08/2016.html
これは国内比較ですが,視界を広げて国際比較をしたいなと思っていたところ,OECDの「PISA 2015」の生徒質問紙調査にて,以下ような設問があるのを知りました。問11です。
どの段階の教育まで終えることができると思いますか,という問いです。「want」ではなく「expect」ですので,自分の将来を予想してもらうものです。
選択肢は6つ提示されていますが,ISCEDとは教育の段階分けの国際標準をいいます。レベル2は義務教育,3B~Cは後期中等教育の職業課程,3Aは後期中等教育の進学準備課程,4は高等教育とはみなされない中等後教育,5Bは職業的な高等教育,5A~6はアカデミックな高等教育(3年以上)を指します。
日本でいうと,レベル2は中学,3B~Cは高校専門学科,3Aは高校普通科,4は専修学校,5Bは短大・高専,5A~6は大学・大学院ということになるでしょう。
「PISA 2015」の調査対象は15歳生徒ですが,当然,回答の分布は国によって違っています。レベル4以下は一つにまとめて,3段階の回答分布を日米で比べると下図のようになります。ジェンダー差も見ます。サンプルサイズは,日本の男子が3270人,女子が3281人,アメリカの男子が2974人,女子が2817人。無解答を除いた,有効回答分です。
「5A or 6」と答えた生徒が,自分は大学まで行けると思っている生徒です。アメリカのほうが高いですね。現実にも,この国大学進学率は日本を上回っているのですが。
しかるに注意すべきは,ジェンダーの差が日米では逆になっていることです。日本では男子が64.4%,女子が52.8%と,男子のほうが10ポイント以上高いのですが,アメリカでは女子のほうが高くなっています。
これは,短大やコミュニティカレッジなどは含まない,大学・大学院の進学展望率です。まあこの中にも,教養重視のコースや高度専門職の資格のコースなど,いろいろありますが,男女差が両国で反対なのは面白い。
はて国際的にみて,日本とアメリカのどっちのタイプがマジョリティなのでしょうか。私は53の国について,「5A or 6」の段階まで進むと思うと答えた生徒の割合を男女別に出してみました。大学進学展望率と名付けましょう。
下表は結果の一覧です。
色付きの主要国をみると,日本,韓国,アメリカは率の水準が高いですね。進学率が高く,大学教育がユニバーサル段階に達している国です。余談ですが,今朝,韓国の高学歴者の失業問題を報じた記事を見ました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170425-00027148-hankyoreh-kr
しかし注目すべきは男女差です。日本とドイツを除いて,どの国も「男子<女子」ではないですか。ドイツも微差で,日本ほど「男子>女子」の傾向がクリアーではありません。
表を全体的にみても,大学進学展望率は男子より女子が高い国がほとんどです。男子が女子より10ポイント以上高い国なんて,日本以外に見当たりません。
表の数値の羅列では分かりにくいので,男女差をグラフで「見える化」しちゃいましょう。横軸に男子,縦軸に女子の大学進学展望率をとった座標上に,53の社会を配置します。斜線は均等線で,この線より上にある国は「男子<女子」です。
ぐうう。日本とドイツを除く全ての国が斜線より上にあるじゃないですか。これは驚きです。短大のような短期高等教育は含まない,大学・大学院の進学展望率ですが,国際的にみると「男子<女子」の国がほとんどなのですね。
女子は教養重視の課程を志望する子が多いのかもしれませんが,それは日本も同じでしょう。にもかかわらず,日本の特異性が怖いくらい浮き出ている。
15歳の時点でコレです。日本は,教育アスピレーションのジェンダー分化(gender segregation)が最も早い社会といえるかもしれません。カリキュラムの専門分化が起きる前の,義務教育を終えて間もない時点でこうなってしまっている。
いつ頃からこうなるのか,どういう地域の学校でそれが顕著か。小6と中3を対象とした悉皆調査の『全国学力・学習状況調査』のローデータが研究者に提供されることになるそうですが,それをフルに使って,児童期・思春期における「ジェンダー的社会化」のプロセスが解明されるといいなと思います。
小6と中3のデータを同一世代で接合することで,こういう分析も可能になるでしょう。
しかるに性別の差,ジェンダーの差もあると思います。昔は,女子には大学教育は不要という考えが強かったですから,勉強が好きでも進学を止められる少女が少なくありませんでした。私の母親(1940年生)もその一人で,進学を止められたそうです。
今でも,男女の子どもが2人いて,経済的事情で1人しか大学にやれないとなったら,勉強の出来に関係なく男子優先。こういう家庭もあるかもしれません。言いたくはないですが,私の郷里の鹿児島では,その度合いが顕著なような気がする。私は毎年,47都道府県の大学進学率を性別に出していますが,どの年でも,ジェンダー差が最も大きいのはこの県なのです。
2016年春の18歳人口ベースの大学進学率は,鹿児島でみると男子が41.4%,女子が30.1%で,10ポイント以上も開いています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/08/2016.html
これは国内比較ですが,視界を広げて国際比較をしたいなと思っていたところ,OECDの「PISA 2015」の生徒質問紙調査にて,以下ような設問があるのを知りました。問11です。
どの段階の教育まで終えることができると思いますか,という問いです。「want」ではなく「expect」ですので,自分の将来を予想してもらうものです。
選択肢は6つ提示されていますが,ISCEDとは教育の段階分けの国際標準をいいます。レベル2は義務教育,3B~Cは後期中等教育の職業課程,3Aは後期中等教育の進学準備課程,4は高等教育とはみなされない中等後教育,5Bは職業的な高等教育,5A~6はアカデミックな高等教育(3年以上)を指します。
日本でいうと,レベル2は中学,3B~Cは高校専門学科,3Aは高校普通科,4は専修学校,5Bは短大・高専,5A~6は大学・大学院ということになるでしょう。
「PISA 2015」の調査対象は15歳生徒ですが,当然,回答の分布は国によって違っています。レベル4以下は一つにまとめて,3段階の回答分布を日米で比べると下図のようになります。ジェンダー差も見ます。サンプルサイズは,日本の男子が3270人,女子が3281人,アメリカの男子が2974人,女子が2817人。無解答を除いた,有効回答分です。
「5A or 6」と答えた生徒が,自分は大学まで行けると思っている生徒です。アメリカのほうが高いですね。現実にも,この国大学進学率は日本を上回っているのですが。
しかるに注意すべきは,ジェンダーの差が日米では逆になっていることです。日本では男子が64.4%,女子が52.8%と,男子のほうが10ポイント以上高いのですが,アメリカでは女子のほうが高くなっています。
これは,短大やコミュニティカレッジなどは含まない,大学・大学院の進学展望率です。まあこの中にも,教養重視のコースや高度専門職の資格のコースなど,いろいろありますが,男女差が両国で反対なのは面白い。
はて国際的にみて,日本とアメリカのどっちのタイプがマジョリティなのでしょうか。私は53の国について,「5A or 6」の段階まで進むと思うと答えた生徒の割合を男女別に出してみました。大学進学展望率と名付けましょう。
下表は結果の一覧です。
色付きの主要国をみると,日本,韓国,アメリカは率の水準が高いですね。進学率が高く,大学教育がユニバーサル段階に達している国です。余談ですが,今朝,韓国の高学歴者の失業問題を報じた記事を見ました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170425-00027148-hankyoreh-kr
しかし注目すべきは男女差です。日本とドイツを除いて,どの国も「男子<女子」ではないですか。ドイツも微差で,日本ほど「男子>女子」の傾向がクリアーではありません。
表を全体的にみても,大学進学展望率は男子より女子が高い国がほとんどです。男子が女子より10ポイント以上高い国なんて,日本以外に見当たりません。
表の数値の羅列では分かりにくいので,男女差をグラフで「見える化」しちゃいましょう。横軸に男子,縦軸に女子の大学進学展望率をとった座標上に,53の社会を配置します。斜線は均等線で,この線より上にある国は「男子<女子」です。
ぐうう。日本とドイツを除く全ての国が斜線より上にあるじゃないですか。これは驚きです。短大のような短期高等教育は含まない,大学・大学院の進学展望率ですが,国際的にみると「男子<女子」の国がほとんどなのですね。
女子は教養重視の課程を志望する子が多いのかもしれませんが,それは日本も同じでしょう。にもかかわらず,日本の特異性が怖いくらい浮き出ている。
15歳の時点でコレです。日本は,教育アスピレーションのジェンダー分化(gender segregation)が最も早い社会といえるかもしれません。カリキュラムの専門分化が起きる前の,義務教育を終えて間もない時点でこうなってしまっている。
いつ頃からこうなるのか,どういう地域の学校でそれが顕著か。小6と中3を対象とした悉皆調査の『全国学力・学習状況調査』のローデータが研究者に提供されることになるそうですが,それをフルに使って,児童期・思春期における「ジェンダー的社会化」のプロセスが解明されるといいなと思います。
小6と中3のデータを同一世代で接合することで,こういう分析も可能になるでしょう。
2017年4月21日金曜日
大学タイプ別の奨学金利用率・延滞率
日本学生支援機構が,「学校毎の貸与及び返還に関する情報」という資料をHP上で公開しました。字のごとく,学校ごとに奨学金の貸与者数や返還の延滞者数などが分かるものです。
https://www.sas.jasso.go.jp/ac/HenkanJohoServlet
私の母校の東京学芸大学のデータを呼び出してみると,2015年度の学生数は4824人で,このうち奨学金貸与者は1540人。よって奨学金の利用率は31.9%,およそ3人に1人となります。私も,その恩恵にあずかっていた学生の1人です。
奨学金といっても借金ですので,学生時代に借りていた人は卒業後にちょっとずつ返すわけですが,経済的理由などで返済が滞っている人の割合はどれくらいでしょう。
2010~14年度の5年間における,同大学の奨学金貸与終了者数は2646人です。借用書を提出し返済義務を負っている人たちですが,このうち,2015年度末の時点において,3か月以上返済が滞っている人(延滞者)は15人。出現率にすると0.6%ほどです。
これが東京学芸大学の奨学金利用者の返済延滞率ですが,まあ低い部類に入るでしょうね。教員養成大学の老舗で,卒業生の多くは教育公務員になりますので(私みたいな半フーテンもいますが)。
しかるに,大学によって値は大きく異なるでしょう。一口に大学といっても,国公私立の大学がありますし,量的に多い私立大学は,入試難易度によって精緻に階層化されています。
興味が持たれるのは,こうした大学のタイプによって,学生の奨学金利用率や,奨学金利用者の返済延滞率がどう異なるかです。ユニバーサル段階(大学進学率50%超)に到達している,わが国の大学教育の「見えざる」病理が明らかになるかもしれません。
私は上記サイトの資料をもとに,関東甲信越・東京の大学のデータベースを作ってみました。私立大学については,入試偏差値も明らかにしました(資料はココ)。擁している学部の偏差値を平均し,当該大学の偏差値とした次第です。
こんな感じのデータベースです。
関東甲信越・東京(1都9県)のデータですが,260の大学について,奨学金利用率,延滞率,入試偏差値を得ることができました。
私は,分析対象の260大学を,8つのグループに分けました。①国立,②公立,③私立A(偏差値60以上),④私立B(55~),⑤私立C(50~),⑥私立D(45~),⑦私立E(40~),⑧私立F(40未満),です。
まずは,この8つのグループごとに,学生の奨学金利用率がどう違うかをみてみましょう。分母の学生数と,分子の貸与者数をグループごとに集計し,割り算をしました。下表をご覧ください。
奨学金の利用率は,国立が29.9%,公立が40.0%,私立が27.8%となります。公立で高いには,地方の低所得層の学生が多いためでしょう。公立大学の機能は,こうした層の若者に高等教育の機会を供することです。
意外にも私立が最も低くなってますが,いわゆるランク(偏差値)によって値が違っています。偏差値60以上のAランクでは21.8%ですが,最低のFランクでは40.0%です。俗にいう「Fラン」では,経済的に苦しいが,無理をして大学に来ている学生も少なくないでしょう。私もこの手の大学で6年間教えましたが,その経験に照らしても頷けます。
では,借りた奨学金をちゃんと返せるものなのか。同じく大学のタイプ別に,奨学金返済の延滞率を出してみましょう。
むうう。こちらはきれいな傾向がありますね。国立よりも公立,私立大学の内部では,大よそランクが下がるほど,奨学金の延滞率が高くなっています。Aランクでは0.91%ですが,Fランクでは2.69%,およそ37人に1人です。
率の水準は高くはないですが,こうも明瞭な傾向が見出されることに,ちょっと驚かされます。「奨学金が支えるFランク」,「Fランクは,ATMのあるパチンコ屋のようなもの」という論もありますが,的を得ている気がしないでもない……。
http://toyokeizai.net/articles/-/114808
大卒学歴が欲しいばかりに,奨学金という借金を背負って,無理をして入ってくる。卒業後,それが返せなくて人生が破たんする。こういう「死」のコースに若者を呼び込んでいるのだとしたら,果たして存在意義はあるのか。先述のように,私はこの手の大学で6年間教えましたが,教育機関として機能してない……。在学中にかけて,学生の覇気がなくなってくるように感じました。
この大学の学生から,「先生は,俺らが食わせてるんですよね」と言われたことがありますけど,私は何も反論しませんでした。教育機関としてではなく,そこに在籍する教員を食わせるためにある。そんな思いがぬぐえなかったからです。
言葉がよくないですが,ユニバーサル化した,日本の大学教育の病巣を見る思いです。今後,この部分がますます広がるとしたら恐ろしい。
気が滅入ってきましたので,話題を変えましょう。上記の奨学金利用率,延滞率は,大学の立地するエリアによっても違っています。ここで分析対象としているのは,関東甲信越・東京の260大学ですが,東京の大学とそれ以外の大学に分けて,2つの指標を計算すると,差が見られます。
下図は,結果のグラフです。指標の定義は,先に掲げた2つの表をご覧ください。
学生の奨学金利用率は,東京では24.0%ですが,それ以外の9県(茨城,栃木,群馬,埼玉,千葉,神奈川,新潟,長野,山梨)では39.3%です。返済の滞り率も,東京以外の県の大学のほうがちょっと高くなっています。
所得水準の低い地方では,奨学金に依存せざるを得ない家庭が多いのでしょう。分析対象を全国に拡張したら,もっと明瞭な傾向が出てきそうです。沖縄や東北の奨学金利用率をざっと見てみると,6~7割の大学がザラです。延滞率も4~5%という,高率の大学も少なくありません。
その気になれば,47都道府県別に,奨学金の利用率と延滞率を計算することができます。データベース作りに時間がかかりますが,結果が出たら,この場で報告したいと思います。
https://www.sas.jasso.go.jp/ac/HenkanJohoServlet
私の母校の東京学芸大学のデータを呼び出してみると,2015年度の学生数は4824人で,このうち奨学金貸与者は1540人。よって奨学金の利用率は31.9%,およそ3人に1人となります。私も,その恩恵にあずかっていた学生の1人です。
奨学金といっても借金ですので,学生時代に借りていた人は卒業後にちょっとずつ返すわけですが,経済的理由などで返済が滞っている人の割合はどれくらいでしょう。
2010~14年度の5年間における,同大学の奨学金貸与終了者数は2646人です。借用書を提出し返済義務を負っている人たちですが,このうち,2015年度末の時点において,3か月以上返済が滞っている人(延滞者)は15人。出現率にすると0.6%ほどです。
これが東京学芸大学の奨学金利用者の返済延滞率ですが,まあ低い部類に入るでしょうね。教員養成大学の老舗で,卒業生の多くは教育公務員になりますので(私みたいな半フーテンもいますが)。
しかるに,大学によって値は大きく異なるでしょう。一口に大学といっても,国公私立の大学がありますし,量的に多い私立大学は,入試難易度によって精緻に階層化されています。
興味が持たれるのは,こうした大学のタイプによって,学生の奨学金利用率や,奨学金利用者の返済延滞率がどう異なるかです。ユニバーサル段階(大学進学率50%超)に到達している,わが国の大学教育の「見えざる」病理が明らかになるかもしれません。
私は上記サイトの資料をもとに,関東甲信越・東京の大学のデータベースを作ってみました。私立大学については,入試偏差値も明らかにしました(資料はココ)。擁している学部の偏差値を平均し,当該大学の偏差値とした次第です。
こんな感じのデータベースです。
関東甲信越・東京(1都9県)のデータですが,260の大学について,奨学金利用率,延滞率,入試偏差値を得ることができました。
私は,分析対象の260大学を,8つのグループに分けました。①国立,②公立,③私立A(偏差値60以上),④私立B(55~),⑤私立C(50~),⑥私立D(45~),⑦私立E(40~),⑧私立F(40未満),です。
まずは,この8つのグループごとに,学生の奨学金利用率がどう違うかをみてみましょう。分母の学生数と,分子の貸与者数をグループごとに集計し,割り算をしました。下表をご覧ください。
奨学金の利用率は,国立が29.9%,公立が40.0%,私立が27.8%となります。公立で高いには,地方の低所得層の学生が多いためでしょう。公立大学の機能は,こうした層の若者に高等教育の機会を供することです。
意外にも私立が最も低くなってますが,いわゆるランク(偏差値)によって値が違っています。偏差値60以上のAランクでは21.8%ですが,最低のFランクでは40.0%です。俗にいう「Fラン」では,経済的に苦しいが,無理をして大学に来ている学生も少なくないでしょう。私もこの手の大学で6年間教えましたが,その経験に照らしても頷けます。
では,借りた奨学金をちゃんと返せるものなのか。同じく大学のタイプ別に,奨学金返済の延滞率を出してみましょう。
むうう。こちらはきれいな傾向がありますね。国立よりも公立,私立大学の内部では,大よそランクが下がるほど,奨学金の延滞率が高くなっています。Aランクでは0.91%ですが,Fランクでは2.69%,およそ37人に1人です。
率の水準は高くはないですが,こうも明瞭な傾向が見出されることに,ちょっと驚かされます。「奨学金が支えるFランク」,「Fランクは,ATMのあるパチンコ屋のようなもの」という論もありますが,的を得ている気がしないでもない……。
http://toyokeizai.net/articles/-/114808
大卒学歴が欲しいばかりに,奨学金という借金を背負って,無理をして入ってくる。卒業後,それが返せなくて人生が破たんする。こういう「死」のコースに若者を呼び込んでいるのだとしたら,果たして存在意義はあるのか。先述のように,私はこの手の大学で6年間教えましたが,教育機関として機能してない……。在学中にかけて,学生の覇気がなくなってくるように感じました。
この大学の学生から,「先生は,俺らが食わせてるんですよね」と言われたことがありますけど,私は何も反論しませんでした。教育機関としてではなく,そこに在籍する教員を食わせるためにある。そんな思いがぬぐえなかったからです。
言葉がよくないですが,ユニバーサル化した,日本の大学教育の病巣を見る思いです。今後,この部分がますます広がるとしたら恐ろしい。
気が滅入ってきましたので,話題を変えましょう。上記の奨学金利用率,延滞率は,大学の立地するエリアによっても違っています。ここで分析対象としているのは,関東甲信越・東京の260大学ですが,東京の大学とそれ以外の大学に分けて,2つの指標を計算すると,差が見られます。
下図は,結果のグラフです。指標の定義は,先に掲げた2つの表をご覧ください。
学生の奨学金利用率は,東京では24.0%ですが,それ以外の9県(茨城,栃木,群馬,埼玉,千葉,神奈川,新潟,長野,山梨)では39.3%です。返済の滞り率も,東京以外の県の大学のほうがちょっと高くなっています。
所得水準の低い地方では,奨学金に依存せざるを得ない家庭が多いのでしょう。分析対象を全国に拡張したら,もっと明瞭な傾向が出てきそうです。沖縄や東北の奨学金利用率をざっと見てみると,6~7割の大学がザラです。延滞率も4~5%という,高率の大学も少なくありません。
その気になれば,47都道府県別に,奨学金の利用率と延滞率を計算することができます。データベース作りに時間がかかりますが,結果が出たら,この場で報告したいと思います。
2017年4月19日水曜日
県別・年齢層別の過労死予備軍率
新年度になりましたが,「働き方改革」の流れを受けて,企業も労働時間の短縮を考えざるを得ない状況に置かれています。
その先陣をきっているのがヤマト運輸で,配達時間指定の見直し,ドライバーへの直通電話の縮小などを打ち出しています。従業員の過重労働緩和に向けた取組で,今後も大いに進めていただきたいと思います。
2015年の暮れに,大手広告代理店・電通の若手社員が過労の末に自殺する悲劇が起きました。その引責で首脳陣が交代し,過労死防止の研修会などを催しているようですが,「形だけの改善は無意味,軍隊のような社風をなくして」と,遺族の思いは複雑なようです。
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/170412/cpb1704122330004-n1.htm
このような悲劇は二度とあってはなりませんが,残念ながら,その予備軍はおそらくかなりの量にのぼるでしょう。2012年の『就業構造基本調査』のデータをもとに,%値を見積もってみましょう。
この調査では,就業者の年間就業時間と週間就業時間を調査しています。マックスのカテゴリーは,前者が年間300日以上,後者が週75時間以上です。年間300日以上ってことは,月25日以上,週6日以上働いていることになります。1日あたりの労働時間は,75/6=12.5時間以上。
1日の法定労働時間は8時間ですので,1日の残業時間は4.5時間超。週にすると27時間以上,月当たりでは108時間以上の残業ということになります。
電通で過労自殺した社員の月当たりの残業時間(100時間超)に匹敵します。上記の統計資料にて,過労死予備軍の量を把握するには,「年間300日・週75時間以上」の就業者数を拾うのがよいでしょう。
はて,電通レベルの過労死予備軍は,数でみてどれほどいるか。働き盛りの40代の男性正規職員(正社員)でいうと,これに該当する就業者は9万9400人で,年間200日以上の規則的就業をしている40代男性正社員全体(609万4700人)の1.63%に当たります。61人に1人です。
量のイメージを持っていただくため,面積図を掲げましょう。
法定の「ホワイト」な働き方をしている労働者(左下)もいる一方で,いつ命を落としてもおかしくないレベルで働かされている労働者もいる(右上)。ブラックの病巣が広がることがあってはなりません。
ちなみに点線は,年間300日・週60時間以上の就業者です。実数は29万5200人で,全体に占める割合は4.8%となっています。参考までに,図示しておきました。
以上は40代の男性正社員のデータですが,他の年齢層はどうでしょう。20代,30代,40代,50代という10歳刻みの年齢層別に,男性正社員の過労死予備軍率(K)を出してみましょう。
なお最近の『就業構造基本調査』の公開データは充実していて,都道府県別の数値も出すことができます。県ごとに,年齢層別の過労死予備軍率を計算できるわけです。どの県のどの層がヤバいか? 言葉がよくないですが,病巣の分布を明らかにすることは,効果的な対策を行う上で意義あることでしょう。
結果の一覧表をみていただきましょう。200日以上就業の男性正規職員の中で,年間300日・週75時間以上働いている者(過労死予備軍)が何%かです。2.0%以上は黒色,1.8%以上2.0%未満は灰色のマークをしています。
どうでしょう。過労死予備軍率の高率ゾーンの分布ですが,黒色や灰色のマークが結構あることに気づきます。
表をタテにみると,働き盛りの30代でブラックが多いですね。16の道府県において,過労死予備軍の比率が2.0%(50人に1人)を超えています。マックスは奈良の3.48%,29人に1人です。これは危ない。
角度を変えて表をヨコにみると,ヤバい県がどこかが見えてきます。ブラックが2つ以上あるのは,北海道,山形,群馬,東京,三重,京都,奈良,徳島,高知,福岡,熊本,宮崎,となっています。北海道と熊本は,20~40代の3つのセルがブラックになっています。若者の就労環境の点検が必要でしょう。
もっとも,これは5年前(2012年)のデータで,今年に実施される『就業構造基本調査』のデータではどうなっているか分かりません。ただ,こういう地域別・年齢層別のデータを出せることを紹介したいと考えました。
限りある資源で有効な対策を行うには,要注意層の分布を明らかにし,そこに資源を傾斜配分することです。
さて,冒頭で触れた電通の話に戻りますが,同社の新入社員の声に「仕事のキツさや上下関係の厳しさは分かっている。早く一人前になりたい」というのがありました。意気込みは結構ですが,異常な就労環境を受け入れることはあってはなりますまい。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/170403/bsd1704031154010-n1.htm
おかしいと思うことには,声を上げること。動くこと。自分や,自分を失ったら嘆き悲しむ家族を守るためです。今,学校教育で「生きる力」の育成が重視されていますが,自分の身を守る労働法規の教育は,高校や大学で必修にすべきではないかと感じます。文字通り,「生きる力」の中核の要素ではないですか。
教育社会学にあっては,児童・生徒が,ブラック労働を厭わない方向に,いかにして仕向けられるか(社会化されるか)を解明することが求められるでしょう。私の仮説ですが,教員がブラック労働のモデルを提供してしまっているように思えます。教員の就業状況の改善は,未来の健全な労働者を育む上でも必要なことなのです。
その先陣をきっているのがヤマト運輸で,配達時間指定の見直し,ドライバーへの直通電話の縮小などを打ち出しています。従業員の過重労働緩和に向けた取組で,今後も大いに進めていただきたいと思います。
2015年の暮れに,大手広告代理店・電通の若手社員が過労の末に自殺する悲劇が起きました。その引責で首脳陣が交代し,過労死防止の研修会などを催しているようですが,「形だけの改善は無意味,軍隊のような社風をなくして」と,遺族の思いは複雑なようです。
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/170412/cpb1704122330004-n1.htm
このような悲劇は二度とあってはなりませんが,残念ながら,その予備軍はおそらくかなりの量にのぼるでしょう。2012年の『就業構造基本調査』のデータをもとに,%値を見積もってみましょう。
この調査では,就業者の年間就業時間と週間就業時間を調査しています。マックスのカテゴリーは,前者が年間300日以上,後者が週75時間以上です。年間300日以上ってことは,月25日以上,週6日以上働いていることになります。1日あたりの労働時間は,75/6=12.5時間以上。
1日の法定労働時間は8時間ですので,1日の残業時間は4.5時間超。週にすると27時間以上,月当たりでは108時間以上の残業ということになります。
電通で過労自殺した社員の月当たりの残業時間(100時間超)に匹敵します。上記の統計資料にて,過労死予備軍の量を把握するには,「年間300日・週75時間以上」の就業者数を拾うのがよいでしょう。
はて,電通レベルの過労死予備軍は,数でみてどれほどいるか。働き盛りの40代の男性正規職員(正社員)でいうと,これに該当する就業者は9万9400人で,年間200日以上の規則的就業をしている40代男性正社員全体(609万4700人)の1.63%に当たります。61人に1人です。
量のイメージを持っていただくため,面積図を掲げましょう。
法定の「ホワイト」な働き方をしている労働者(左下)もいる一方で,いつ命を落としてもおかしくないレベルで働かされている労働者もいる(右上)。ブラックの病巣が広がることがあってはなりません。
ちなみに点線は,年間300日・週60時間以上の就業者です。実数は29万5200人で,全体に占める割合は4.8%となっています。参考までに,図示しておきました。
以上は40代の男性正社員のデータですが,他の年齢層はどうでしょう。20代,30代,40代,50代という10歳刻みの年齢層別に,男性正社員の過労死予備軍率(K)を出してみましょう。
なお最近の『就業構造基本調査』の公開データは充実していて,都道府県別の数値も出すことができます。県ごとに,年齢層別の過労死予備軍率を計算できるわけです。どの県のどの層がヤバいか? 言葉がよくないですが,病巣の分布を明らかにすることは,効果的な対策を行う上で意義あることでしょう。
結果の一覧表をみていただきましょう。200日以上就業の男性正規職員の中で,年間300日・週75時間以上働いている者(過労死予備軍)が何%かです。2.0%以上は黒色,1.8%以上2.0%未満は灰色のマークをしています。
どうでしょう。過労死予備軍率の高率ゾーンの分布ですが,黒色や灰色のマークが結構あることに気づきます。
表をタテにみると,働き盛りの30代でブラックが多いですね。16の道府県において,過労死予備軍の比率が2.0%(50人に1人)を超えています。マックスは奈良の3.48%,29人に1人です。これは危ない。
角度を変えて表をヨコにみると,ヤバい県がどこかが見えてきます。ブラックが2つ以上あるのは,北海道,山形,群馬,東京,三重,京都,奈良,徳島,高知,福岡,熊本,宮崎,となっています。北海道と熊本は,20~40代の3つのセルがブラックになっています。若者の就労環境の点検が必要でしょう。
もっとも,これは5年前(2012年)のデータで,今年に実施される『就業構造基本調査』のデータではどうなっているか分かりません。ただ,こういう地域別・年齢層別のデータを出せることを紹介したいと考えました。
限りある資源で有効な対策を行うには,要注意層の分布を明らかにし,そこに資源を傾斜配分することです。
さて,冒頭で触れた電通の話に戻りますが,同社の新入社員の声に「仕事のキツさや上下関係の厳しさは分かっている。早く一人前になりたい」というのがありました。意気込みは結構ですが,異常な就労環境を受け入れることはあってはなりますまい。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/170403/bsd1704031154010-n1.htm
おかしいと思うことには,声を上げること。動くこと。自分や,自分を失ったら嘆き悲しむ家族を守るためです。今,学校教育で「生きる力」の育成が重視されていますが,自分の身を守る労働法規の教育は,高校や大学で必修にすべきではないかと感じます。文字通り,「生きる力」の中核の要素ではないですか。
教育社会学にあっては,児童・生徒が,ブラック労働を厭わない方向に,いかにして仕向けられるか(社会化されるか)を解明することが求められるでしょう。私の仮説ですが,教員がブラック労働のモデルを提供してしまっているように思えます。教員の就業状況の改善は,未来の健全な労働者を育む上でも必要なことなのです。
2017年4月17日月曜日
職業別の高学歴率
学歴が高いのはどの職業か?所得と並んで,これなどもそれぞれの職業の威信(prestige)を測る尺度となります。
こういうデータは週刊誌でたまに見かけますが,就業者全体の大卒率などをとっていますので,各職業の年齢構成の影響が入ってしまっています。昔は大学進学率は低かったですから,高齢者が多い職業の大卒率は当然低くなると。
ここではそうした弊を除くべく,若年の就業者に限定して,大卒以上の学歴の%値を比較してみます。25~34歳の就業者のうち,大学・大学院卒が何%いるかです。
2012年の『就業構造基本調査』によると,最終学歴が分かる25~34歳の就業者は1183万人ほどです(10月の調査時点)。このうち,最終学歴が大卒ないしは大学院卒である者は474万人。よって,大卒・大学院卒比率はちょうど4割ということになります。
今は大学進学率が5割を超えていますが,そのちょっと前の世代ですので,まあこんなところでしょう。
では,職業別にみるとどうか。上記の資料の職業中分類統計を使って,68の職業について,同じ値を計算することができます。若い世代に限った,高学歴率の職業ランキングを見ていただきましょう。
若年の就業者の高学歴率は,職業によってかなり違っています。トップの医師は99.5%,ほぼ全員です。これは当然ですよね。2位は経営・金融・保険の専門職,3位は研究者となっていて,これら3つは9割を超えます。
8割を超えるのは,教員までです。幼稚園や小学校の教員には短大卒が結構いますので,大卒率は87%くらいになっています。
表の青い点線のラインは,全職業の高学歴率(40.04%)の位置です。このラインより上にあるのは,平均水準に比して,高学歴化が進んでいる職業ということになります。人数的に多い一般事務やアーティストなども,そうなのですね。
下のほうには労務系の職業がありますが,安定していて高収入の鉄道運転従事者の高学歴率が高くないのは,初めて知りました。上野に,電車の運転手を要請する専門の高校があると聞きますが,こういう学校の卒業者が多いのでしょう。実は私も中2の時,「鉄道系の高校に行く」と親に言って,驚かれたことがありますけど。
職業の学歴差が出るのは,求められる知識や技能の水準に違いがあるためです。医師や教員は,免許を取るのに大卒学歴が必須。一番わかりやすい,機能主義理論による説明です。
しかし,現実はそれだけでは説明できません。コリンズは名著『資格社会』において,「葛藤主義理論」を提唱しています。それぞれの職業集団が自らの威信を高めようと,機能的必要とは無関係に,参入者に高学歴を(競って)要求する。
今の日本には,こちらのほうがよくフィットするでしょう。企業が高学歴者を好んで雇うのは,彼らの知識や技術に期待してのことではありません。「大卒なら間違いなかろう,覚えがよかろう」と踏んで,自社への入社資格として大卒学歴を求めているだけのこと。
2012年の中教審答申で,今後は教員志望者には大学院修士の学位をつけさせようという案が出ましたが,これだって,子どもに教える知識内容の高度化といった,機能的必要から迫られたことではありません。今は保護者の多くが大卒なんで,箔をつけさせるべく,教員の学歴水準を一段高くしようと目論んでいるだけのこと。
こんなしょーもない「見栄」で競い合って,どの職業の要求学歴水準も,機能的必要とは無関係に高くなっていく。その結果,一人前のハードルが無意味に引き上げられ,保護者にすれば長期の教育費負担を強いられ,少子化が進行する。こういう病理が潜んでいることも,見抜かないといけません。
ちなみに日本は,「自分の学歴は,今の仕事に求められる学歴よりも高い」と考える労働者の割合が,世界で最も高いそうです(OECD「PIAAC 2012」)。
採用する側は,学歴という安易なフィルター(シグナル)に依存しすぎるのは慎むべきでしょう。
こういうデータは週刊誌でたまに見かけますが,就業者全体の大卒率などをとっていますので,各職業の年齢構成の影響が入ってしまっています。昔は大学進学率は低かったですから,高齢者が多い職業の大卒率は当然低くなると。
ここではそうした弊を除くべく,若年の就業者に限定して,大卒以上の学歴の%値を比較してみます。25~34歳の就業者のうち,大学・大学院卒が何%いるかです。
2012年の『就業構造基本調査』によると,最終学歴が分かる25~34歳の就業者は1183万人ほどです(10月の調査時点)。このうち,最終学歴が大卒ないしは大学院卒である者は474万人。よって,大卒・大学院卒比率はちょうど4割ということになります。
今は大学進学率が5割を超えていますが,そのちょっと前の世代ですので,まあこんなところでしょう。
では,職業別にみるとどうか。上記の資料の職業中分類統計を使って,68の職業について,同じ値を計算することができます。若い世代に限った,高学歴率の職業ランキングを見ていただきましょう。
若年の就業者の高学歴率は,職業によってかなり違っています。トップの医師は99.5%,ほぼ全員です。これは当然ですよね。2位は経営・金融・保険の専門職,3位は研究者となっていて,これら3つは9割を超えます。
8割を超えるのは,教員までです。幼稚園や小学校の教員には短大卒が結構いますので,大卒率は87%くらいになっています。
表の青い点線のラインは,全職業の高学歴率(40.04%)の位置です。このラインより上にあるのは,平均水準に比して,高学歴化が進んでいる職業ということになります。人数的に多い一般事務やアーティストなども,そうなのですね。
下のほうには労務系の職業がありますが,安定していて高収入の鉄道運転従事者の高学歴率が高くないのは,初めて知りました。上野に,電車の運転手を要請する専門の高校があると聞きますが,こういう学校の卒業者が多いのでしょう。実は私も中2の時,「鉄道系の高校に行く」と親に言って,驚かれたことがありますけど。
職業の学歴差が出るのは,求められる知識や技能の水準に違いがあるためです。医師や教員は,免許を取るのに大卒学歴が必須。一番わかりやすい,機能主義理論による説明です。
しかし,現実はそれだけでは説明できません。コリンズは名著『資格社会』において,「葛藤主義理論」を提唱しています。それぞれの職業集団が自らの威信を高めようと,機能的必要とは無関係に,参入者に高学歴を(競って)要求する。
今の日本には,こちらのほうがよくフィットするでしょう。企業が高学歴者を好んで雇うのは,彼らの知識や技術に期待してのことではありません。「大卒なら間違いなかろう,覚えがよかろう」と踏んで,自社への入社資格として大卒学歴を求めているだけのこと。
2012年の中教審答申で,今後は教員志望者には大学院修士の学位をつけさせようという案が出ましたが,これだって,子どもに教える知識内容の高度化といった,機能的必要から迫られたことではありません。今は保護者の多くが大卒なんで,箔をつけさせるべく,教員の学歴水準を一段高くしようと目論んでいるだけのこと。
こんなしょーもない「見栄」で競い合って,どの職業の要求学歴水準も,機能的必要とは無関係に高くなっていく。その結果,一人前のハードルが無意味に引き上げられ,保護者にすれば長期の教育費負担を強いられ,少子化が進行する。こういう病理が潜んでいることも,見抜かないといけません。
ちなみに日本は,「自分の学歴は,今の仕事に求められる学歴よりも高い」と考える労働者の割合が,世界で最も高いそうです(OECD「PIAAC 2012」)。
採用する側は,学歴という安易なフィルター(シグナル)に依存しすぎるのは慎むべきでしょう。
2017年4月14日金曜日
男性のWLBと出生率の相関
WLBとは,「ワーク・ライフ・バランス」の略称です。和訳すると「仕事と生活の調和」で,今やこのフレーズを知らない人はいないでしょう。
この理念がどれほど具現されているかは社会によって違っていますが,この尺度の上に諸国を並べた場合,おそらくは日本は低い位置に来るでしょう。
WLBの具現度の指標(measure)としてはいろいろ考案されていますが,ISSPの『家族と性役割の変化に関する調査』(2012年)の個票データを使って,独自に指標を作ってみました。25~54歳の男性有業者のうち,家事・家族ケア時間が仕事時間より長い人の割合です。
生産年齢の有業オトコで,こんな人は滅多にいないとは思いますが,%を出すとどれほどでしょう。上記の調査では,週当たりの①家事時間,②家族ケア時間,③仕事時間を尋ねています。日本の25~54歳の有業男性で,この3つの全てに有効回答を寄せているのは218人です。
この218人のうち,家事・家族ケア時間(①+②)が仕事時間(③)より長い人は5人で,比率にすると2.3%しかいません。43人に1人,予想はしていましたが少ないですねえ。
しかしこれは日本のデータであり,国ごとに同じ指標を出すと,値にはバリエーションがあります。下図は,調査対象の38か国を高い順に並べたランキングです。
働き盛りのオトコで,仕事よりも家事・家族ケアをやっている人なんてわずかしかいない。これが日本の状況(常識)ですけど,世界を見渡せば,%値が高い社会もあるじゃありませんか。
インド,フィリピン,ベネズエラでは3割です。これらの国では男性は怠け者で,女性がバリバリ働くという話をよく聞きますが,家事・家族ケア時間と仕事時間の対比から出されるWLB指標が高いのは事実です。
欧米の主要国も日本よりは高し。その日本はといえば,38か国の中で見事に最下位となっています。ぐうの音も出ませんが,自国の常識が世界で普遍的であるなどと思ってはいけません。
実はこの指標は,それぞれの国の出生率と相関しています。総務省統計局の『世界の統計 2017』という資料から,2013年近辺の合計特殊出生率を採取し,上記の%値と絡めてみました。両方の数値が分かる,28か国の相関図です。
仕事より家事・育児をする男性が多い国ほど,出生率が高い傾向にあります。相関係数は+0.6226で,1%水準で有意です。
これが因果関係を意味するとは限りませんが,夫が家事をする夫婦ほど,第2子以降の出生率が高い,という調査レポートはよく目にします。女性の負担が小さくなるわけですから,男性(夫)のWLBと出生率アップの関連は想像に難くありません。
上記の図は,そのマクロ的な表現とみてもいいかもしません。
現実問題として,男性の家事・家族ケア時間と仕事時間を逆転させるのは不可能でしょうけど,両者の比重を改善する余地はあるでしょう。夫と妻の家事・家族ケアの分担率も然り。前に,ニューズウィーク記事で報告しましたが,日本の男性の分担率は世界で最下位です。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/03/post-4607.php
こういう状況を改善するのは,社会の維持・存続に関わる至上命令ともいえるステージに達しています。労働時間の短縮には,生活の便利性のレベルが下がること(24時間営業の縮小……)が伴いますが,そんな副作用を気にしている場合ではありません。いい加減,便利になりすぎた生活を見直す段階に,わが国は来ているのです。
この理念がどれほど具現されているかは社会によって違っていますが,この尺度の上に諸国を並べた場合,おそらくは日本は低い位置に来るでしょう。
WLBの具現度の指標(measure)としてはいろいろ考案されていますが,ISSPの『家族と性役割の変化に関する調査』(2012年)の個票データを使って,独自に指標を作ってみました。25~54歳の男性有業者のうち,家事・家族ケア時間が仕事時間より長い人の割合です。
生産年齢の有業オトコで,こんな人は滅多にいないとは思いますが,%を出すとどれほどでしょう。上記の調査では,週当たりの①家事時間,②家族ケア時間,③仕事時間を尋ねています。日本の25~54歳の有業男性で,この3つの全てに有効回答を寄せているのは218人です。
この218人のうち,家事・家族ケア時間(①+②)が仕事時間(③)より長い人は5人で,比率にすると2.3%しかいません。43人に1人,予想はしていましたが少ないですねえ。
しかしこれは日本のデータであり,国ごとに同じ指標を出すと,値にはバリエーションがあります。下図は,調査対象の38か国を高い順に並べたランキングです。
働き盛りのオトコで,仕事よりも家事・家族ケアをやっている人なんてわずかしかいない。これが日本の状況(常識)ですけど,世界を見渡せば,%値が高い社会もあるじゃありませんか。
インド,フィリピン,ベネズエラでは3割です。これらの国では男性は怠け者で,女性がバリバリ働くという話をよく聞きますが,家事・家族ケア時間と仕事時間の対比から出されるWLB指標が高いのは事実です。
欧米の主要国も日本よりは高し。その日本はといえば,38か国の中で見事に最下位となっています。ぐうの音も出ませんが,自国の常識が世界で普遍的であるなどと思ってはいけません。
実はこの指標は,それぞれの国の出生率と相関しています。総務省統計局の『世界の統計 2017』という資料から,2013年近辺の合計特殊出生率を採取し,上記の%値と絡めてみました。両方の数値が分かる,28か国の相関図です。
仕事より家事・育児をする男性が多い国ほど,出生率が高い傾向にあります。相関係数は+0.6226で,1%水準で有意です。
これが因果関係を意味するとは限りませんが,夫が家事をする夫婦ほど,第2子以降の出生率が高い,という調査レポートはよく目にします。女性の負担が小さくなるわけですから,男性(夫)のWLBと出生率アップの関連は想像に難くありません。
上記の図は,そのマクロ的な表現とみてもいいかもしません。
現実問題として,男性の家事・家族ケア時間と仕事時間を逆転させるのは不可能でしょうけど,両者の比重を改善する余地はあるでしょう。夫と妻の家事・家族ケアの分担率も然り。前に,ニューズウィーク記事で報告しましたが,日本の男性の分担率は世界で最下位です。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/03/post-4607.php
こういう状況を改善するのは,社会の維持・存続に関わる至上命令ともいえるステージに達しています。労働時間の短縮には,生活の便利性のレベルが下がること(24時間営業の縮小……)が伴いますが,そんな副作用を気にしている場合ではありません。いい加減,便利になりすぎた生活を見直す段階に,わが国は来ているのです。
2017年4月10日月曜日
東京都内23区の死亡率
人は年老いたら死にますが,同じ年齢層であっても,「死」の確率が社会的属性によって異なることは知られています。これを総称して「いのちの格差」などと言ったりします。
この点に関するデータとしては,平均寿命の社会階層差・地域差などがありますが,死亡率という単純な指標によっても可視化できます。
東京都の『人口動態統計』(2015年)を眺めていたら,都内23区別に同年中の死亡者数が計上されています。これを,2015年の『国勢調査』から分かる,同年10月時点の人口で除して,死亡率にしてみました。
下表が数値の一覧です。分子の死亡者数は日本人のものなので,分母の人口も同じく日本人の数値を使っています。繰り返しますが,分母の人口は2015年10月時点,分子の死亡者数は2015年中の数値です。
同じ大都市でも,死亡率は区によってかなり違いますね。最低の中央区では64.5ですが,マックスの北区では109.3にもなります。100を超える区は,台東区,北区,荒川区,そして足立区です。
うーん。まあ高齢者が多い区では死亡率が高くなるのは当然ですが,死亡率が高い区の顔ぶれをみると,住民の年齢構成の影響だけではないような気がします。
東京都全体の年齢層別の死亡率と,各区の住民の年齢構成から,23区の死亡率の期待値を出し,上記の死亡率と照らし合わせてみましょう。都全体の年齢層別の死亡率は,以下のようになっています。先ほどと同じく,ベース1万人あたりの死亡者数です。
当然ですが,年齢が上がるにつれ,死亡率はぐんぐん高くなってきます。80歳以上の死亡率は7.65%,13人に1人です。
上表の年齢層別の死亡率を,各区の住民の年齢構成比で重みづけして,23区の死亡率の期待値を計算してみます。たとえば足立区の日本人人口の年齢構成比は,0~5歳が4.0%,5~9歳が4.0%,……75~79歳が5.4%,80歳以上が6.8%,となっています(『国勢調査』,2015年10月時点)。
よって,住民の年齢構成から期待される足立区の死亡率は,以下のようにして算出されます。
{(5.0×4.0)+(0.9×4.0)+……+(245.2×5.4)+(765.4×6.8)}/100.0 = 92.8
年齢構成から期待される足立区の2015年の死亡率は92.8ですが,実際の死亡率は最初の表にあるように103.8です。この区では,住民の年齢構成から期待される水準よりも,実際の死亡率はかなり高くなっています。
では,他の区はどうでしょう。同じやり方で死亡率の期待値を出し,最初の表でみた実測値と照合しています。
どうでしょう。足立区と同じく実測値が期待値を上回る区は12で,その逆は11となっています。ちょうど半々ですね。
世田谷区は足立区と真逆で,実際の死亡率は,年齢構成から期待される死亡率よりもかなり低くなっています。
実際の死亡率が期待値よりも高いということは,年齢以外のファクターによる死亡が多い,ということです。考えられる大きな要因として,貧困があるでしょう。貧困層は医者にかかれない,健康への関心が低い。こうした事情から,高齢者でなくても生活習慣病などで命を落としやすい……。あり得ることです。
事実,死亡率の残差(=実測値-期待値)は,各区の平均世帯年収とプラスの相関関係にあります。下図は,横軸に平均世帯年収,縦軸に死亡率の残差をとった座標上に,23の区を配置した相関図です。平均世帯年収は,総務省『住宅土地統計』(2013年)から独自に計算しました。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/03/2013.html
ご覧のように,平均年収が低い区では,死亡率の残差が大きくなっています。先ほど述べたように,年齢以外の要因の死亡率が相対的に高い,ということです。住民の経済力とリンクしていることから,貧困が大きな影を落としているとみてよいでしょう。
都内23区の死亡率からうかがわれる,厳として存在する「いのちの格差」。貧困に由来する生活習慣病の死亡などが想起されますが,もしかすると,若者の展望不良による自殺率の違いも,その中に含まれるかもしれません。
はて,死亡率全体ではなく自殺率の残差分析をしても,同じような結果がみられるか。経済力とのリンクがみられるか。興味ある分析課題です。
ともあれ今回の結果から分かるのは,不利益の地域的集積の傾向であり,住民に対する保健指導の徹底などが求められるところです。健康に無関心な地域のクライメイトは,子ども世代の健康を害することにもつながっているように思えます(健康格差)。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/03/blog-post_12.html
こうした負の連鎖を断ち切るに際して,学校が大きな役割を果たすべきであるのは言うまでもありません。
この点に関するデータとしては,平均寿命の社会階層差・地域差などがありますが,死亡率という単純な指標によっても可視化できます。
東京都の『人口動態統計』(2015年)を眺めていたら,都内23区別に同年中の死亡者数が計上されています。これを,2015年の『国勢調査』から分かる,同年10月時点の人口で除して,死亡率にしてみました。
下表が数値の一覧です。分子の死亡者数は日本人のものなので,分母の人口も同じく日本人の数値を使っています。繰り返しますが,分母の人口は2015年10月時点,分子の死亡者数は2015年中の数値です。
同じ大都市でも,死亡率は区によってかなり違いますね。最低の中央区では64.5ですが,マックスの北区では109.3にもなります。100を超える区は,台東区,北区,荒川区,そして足立区です。
うーん。まあ高齢者が多い区では死亡率が高くなるのは当然ですが,死亡率が高い区の顔ぶれをみると,住民の年齢構成の影響だけではないような気がします。
東京都全体の年齢層別の死亡率と,各区の住民の年齢構成から,23区の死亡率の期待値を出し,上記の死亡率と照らし合わせてみましょう。都全体の年齢層別の死亡率は,以下のようになっています。先ほどと同じく,ベース1万人あたりの死亡者数です。
当然ですが,年齢が上がるにつれ,死亡率はぐんぐん高くなってきます。80歳以上の死亡率は7.65%,13人に1人です。
上表の年齢層別の死亡率を,各区の住民の年齢構成比で重みづけして,23区の死亡率の期待値を計算してみます。たとえば足立区の日本人人口の年齢構成比は,0~5歳が4.0%,5~9歳が4.0%,……75~79歳が5.4%,80歳以上が6.8%,となっています(『国勢調査』,2015年10月時点)。
よって,住民の年齢構成から期待される足立区の死亡率は,以下のようにして算出されます。
{(5.0×4.0)+(0.9×4.0)+……+(245.2×5.4)+(765.4×6.8)}/100.0 = 92.8
年齢構成から期待される足立区の2015年の死亡率は92.8ですが,実際の死亡率は最初の表にあるように103.8です。この区では,住民の年齢構成から期待される水準よりも,実際の死亡率はかなり高くなっています。
では,他の区はどうでしょう。同じやり方で死亡率の期待値を出し,最初の表でみた実測値と照合しています。
どうでしょう。足立区と同じく実測値が期待値を上回る区は12で,その逆は11となっています。ちょうど半々ですね。
世田谷区は足立区と真逆で,実際の死亡率は,年齢構成から期待される死亡率よりもかなり低くなっています。
実際の死亡率が期待値よりも高いということは,年齢以外のファクターによる死亡が多い,ということです。考えられる大きな要因として,貧困があるでしょう。貧困層は医者にかかれない,健康への関心が低い。こうした事情から,高齢者でなくても生活習慣病などで命を落としやすい……。あり得ることです。
事実,死亡率の残差(=実測値-期待値)は,各区の平均世帯年収とプラスの相関関係にあります。下図は,横軸に平均世帯年収,縦軸に死亡率の残差をとった座標上に,23の区を配置した相関図です。平均世帯年収は,総務省『住宅土地統計』(2013年)から独自に計算しました。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/03/2013.html
ご覧のように,平均年収が低い区では,死亡率の残差が大きくなっています。先ほど述べたように,年齢以外の要因の死亡率が相対的に高い,ということです。住民の経済力とリンクしていることから,貧困が大きな影を落としているとみてよいでしょう。
都内23区の死亡率からうかがわれる,厳として存在する「いのちの格差」。貧困に由来する生活習慣病の死亡などが想起されますが,もしかすると,若者の展望不良による自殺率の違いも,その中に含まれるかもしれません。
はて,死亡率全体ではなく自殺率の残差分析をしても,同じような結果がみられるか。経済力とのリンクがみられるか。興味ある分析課題です。
ともあれ今回の結果から分かるのは,不利益の地域的集積の傾向であり,住民に対する保健指導の徹底などが求められるところです。健康に無関心な地域のクライメイトは,子ども世代の健康を害することにもつながっているように思えます(健康格差)。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/03/blog-post_12.html
こうした負の連鎖を断ち切るに際して,学校が大きな役割を果たすべきであるのは言うまでもありません。
2017年4月7日金曜日
アラフィフ婚の増加
アラサー,アラフォーに次いで「アラフィフ」というステージへの関心も高まってきました。around fifty,50歳近辺という意味です。
現在40歳の私より一回り上の年齢層ですが,人数的に多い「団塊ジュニア」の世代が,間もなくこのステージに達しようとしています。「アラフィフ」という片仮名をメディアで目にする頻度も高くなってくることでしょう。
先日,この言葉をタイトルに掲げた記事を目にしました。アラフィフの結婚が増えている,というものです。記事では,40代後半から50代女性の初婚数が増えていることを示すグラフが紹介されています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170402-00005923-bengocom-life
私はこういう記事に接すると,自分でデータソースに当たり,より詳しいデータを作ってみたくなります。厚労省の『人口動態統計』の時系列統計をもとに,45~54歳(アラフィフ)男女の初婚件数がどう推移してきかたを,5年間隔の折れ線グラフにしてみました。各年に結婚を届け出た夫と妻の数です(初婚に限る)。
グラフは,下記リンク先の表9-7(1)のデータから作図しました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001157966
ほう。確かに増えていますね。とりわけ,90年代以降の男性の増加が凄まじい。45~54歳男性の初婚届出件数は,1990年では2,848件でしたが,四半世紀を経た2015年現在では11,746件に膨れ上がっています。4.1倍の増です。
これは,団塊(ジュニア)のような量的に多い世代がこのステージに達したからという,人口的な要因によるものではありません。ベース人口の変動とは無関係に,結婚するアラフィフが増えている,ということです。
伸び幅は,女性より男性のほうがずっと大きくなっています。これだけ男女差があるってことは,自分よりかなり下の(若い)女性と結婚するアラフィフ男性が増えている,ということでしょうか。
このグラフをツイッターで発信したところ,面白い解釈をしてくれた方がいます。スクショで,該当ツイートを紹介させていただきましょう。
https://twitter.com/CH0BBY/status/849862995932889088
なるほど。農家の男性が跡継ぎ確保のため,外国人の若い奥さんをもらう,という構図ですか。確かに,こういう話はよく聞くところです。
しからば,アラフィフの初婚の増加は,都市よりも地方で顕著と思われますが,実態はどうなのでしょう。先ほどのグラフは全国のものですが,都道府県別に変化を出すこともできます。
私は『人口動態統計』の内部保管統計に当たって,1995年から2015年の20年にかけて,45~54歳男性の初婚件数がどう変わったかを,47都道府県別に明らかにしました。
全国値でいうと,1995年の5,820件から2015年の11,746件へと,2.02倍の増加です。しかるに,この倍率は県によって結構違っています。下表をご覧ください。
増加倍率が高い県がありますねえ。マックスは鳥取で,この20年間でアラフィフ男性の初婚数が4.75倍に増えています。その次が長崎の3.57倍,それに次ぐのが岩手の3.49倍……。
赤字は2.5倍超,黄色マークは3.0倍超ですが,ほとんどが地方県ですね。地図にはしませんけど,北東北,北陸・中部,北九州で,アラフィフ男性の初婚の増加が顕著である傾向が見えてきます。
上記のツイッターで言われているような,国際婚の増加の影響がなきにしもあらずです。ブローカーの暗躍というのは,話が穏やかではありませんが。
ちなみに,最初に紹介した記事において,地方では親や親戚からの「結婚しろ攻撃」がハンパでないことが言われています。私にも,よく分かります。それが嫌で,すっかり帰省から遠のいていますから。
山内太地さんが「地方都市では中学時代のスクール・カーストが一生続く」という,面白い見解を表明しておられますが,都会への転出者のUターンが進まないことの原因は,こういう所にもあるかもしれません。
これに乗っかっていうと,「結婚しろ,お見合いしろ」攻撃も,Uターンを妨げている面があるような気がするなあ。時代は変わっています。上の世代は,自分たちの価値観を子ども世代に押し付けることは慎むべきでしょう。それが,異世代の共存につながります。
地方におけるアラフィフ婚の増加。その原因として,1)国際婚の増加,2)未だにある「結婚しろ攻撃」,の2点があることがうかがわれます。後者を突き詰めたら,地方における家族葛藤いう問題が出てくるかもしれません。
現在40歳の私より一回り上の年齢層ですが,人数的に多い「団塊ジュニア」の世代が,間もなくこのステージに達しようとしています。「アラフィフ」という片仮名をメディアで目にする頻度も高くなってくることでしょう。
先日,この言葉をタイトルに掲げた記事を目にしました。アラフィフの結婚が増えている,というものです。記事では,40代後半から50代女性の初婚数が増えていることを示すグラフが紹介されています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170402-00005923-bengocom-life
私はこういう記事に接すると,自分でデータソースに当たり,より詳しいデータを作ってみたくなります。厚労省の『人口動態統計』の時系列統計をもとに,45~54歳(アラフィフ)男女の初婚件数がどう推移してきかたを,5年間隔の折れ線グラフにしてみました。各年に結婚を届け出た夫と妻の数です(初婚に限る)。
グラフは,下記リンク先の表9-7(1)のデータから作図しました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001157966
ほう。確かに増えていますね。とりわけ,90年代以降の男性の増加が凄まじい。45~54歳男性の初婚届出件数は,1990年では2,848件でしたが,四半世紀を経た2015年現在では11,746件に膨れ上がっています。4.1倍の増です。
これは,団塊(ジュニア)のような量的に多い世代がこのステージに達したからという,人口的な要因によるものではありません。ベース人口の変動とは無関係に,結婚するアラフィフが増えている,ということです。
伸び幅は,女性より男性のほうがずっと大きくなっています。これだけ男女差があるってことは,自分よりかなり下の(若い)女性と結婚するアラフィフ男性が増えている,ということでしょうか。
このグラフをツイッターで発信したところ,面白い解釈をしてくれた方がいます。スクショで,該当ツイートを紹介させていただきましょう。
https://twitter.com/CH0BBY/status/849862995932889088
なるほど。農家の男性が跡継ぎ確保のため,外国人の若い奥さんをもらう,という構図ですか。確かに,こういう話はよく聞くところです。
しからば,アラフィフの初婚の増加は,都市よりも地方で顕著と思われますが,実態はどうなのでしょう。先ほどのグラフは全国のものですが,都道府県別に変化を出すこともできます。
私は『人口動態統計』の内部保管統計に当たって,1995年から2015年の20年にかけて,45~54歳男性の初婚件数がどう変わったかを,47都道府県別に明らかにしました。
全国値でいうと,1995年の5,820件から2015年の11,746件へと,2.02倍の増加です。しかるに,この倍率は県によって結構違っています。下表をご覧ください。
増加倍率が高い県がありますねえ。マックスは鳥取で,この20年間でアラフィフ男性の初婚数が4.75倍に増えています。その次が長崎の3.57倍,それに次ぐのが岩手の3.49倍……。
赤字は2.5倍超,黄色マークは3.0倍超ですが,ほとんどが地方県ですね。地図にはしませんけど,北東北,北陸・中部,北九州で,アラフィフ男性の初婚の増加が顕著である傾向が見えてきます。
上記のツイッターで言われているような,国際婚の増加の影響がなきにしもあらずです。ブローカーの暗躍というのは,話が穏やかではありませんが。
ちなみに,最初に紹介した記事において,地方では親や親戚からの「結婚しろ攻撃」がハンパでないことが言われています。私にも,よく分かります。それが嫌で,すっかり帰省から遠のいていますから。
山内太地さんが「地方都市では中学時代のスクール・カーストが一生続く」という,面白い見解を表明しておられますが,都会への転出者のUターンが進まないことの原因は,こういう所にもあるかもしれません。
これに乗っかっていうと,「結婚しろ,お見合いしろ」攻撃も,Uターンを妨げている面があるような気がするなあ。時代は変わっています。上の世代は,自分たちの価値観を子ども世代に押し付けることは慎むべきでしょう。それが,異世代の共存につながります。
地方におけるアラフィフ婚の増加。その原因として,1)国際婚の増加,2)未だにある「結婚しろ攻撃」,の2点があることがうかがわれます。後者を突き詰めたら,地方における家族葛藤いう問題が出てくるかもしれません。
2017年4月4日火曜日
子ども・若者1人あたりの公的教育費
日本は経済大国ですが,教育にカネを使わない国であることは,もうすっかり知れ渡っています。その証拠として出されるのが,公的教育費の支出額がGDPの何%か,という指標です。
OECDの「Education at a Glance 2016」にて,最新の2013年の数値を拾うと,日本はわずか3.25%で,OECD加盟国では下から2番目となっています。
https://twitter.com/tmaita77/status/848342449005117441
しかし,対GDP比でみるのは不適切ではないか,日本は少子化が進んで子どもが少ないのだから,教育費のシェアが小さくなるのは当たり前ではないか,という意見も聞かれます。
これに対しては,「教育の対象は子どもだけではない。生涯学習社会では,教育の対象は大人も含めた全国民である」という反論ができますが,それは脇に置きましょう。
それでは,GDPに対する割合ではなく,子ども・若者1人あたりの公的教育費の額を算出してみましょう。上記の比率を,国内総生産(名目GDP総額)に乗じると,公的教育費の実額が出てきます。それを,25歳未満の子ども・若者人口で除せば,目的の数値が得られます。
先ほどみたように,2013年の日本の公的教育費支出額の対GDPは3.25%です。総務省統計局『世界の統計 2015』によると,同年の名目GDPは4,920,680(百万ドル)。よって公的教育費の支出額は,前者を後者に乗じて,159,779(百万ドル)となります。
国連の人口推計サイトによると,2013年の日本の25歳未満人口は28,891(千人)。したがって,子ども・若者1人あたりの公的教育費支出額は,5,530ドルとなる次第です。1ドル=110円とすると,1人あたり60万円くらいですか。
はて,これは他国に比してどうなのか。同じやり方で,29か国の数値を計算してみました。計算に使った要素も含む,結果の一覧表をご覧いただきましょう。
右端が目的の数値ですが,日本よりも高い値が多いですねえ。マックスは北欧のノルウェーで,1人あたり20,230ドル(222万円)。日本の4倍近くです。デンマーク,スウェーデン,スイスも5ケタです。大学の授業料無償,充実したICT教育環境などは,こういう条件によるのですね。
欧米の先進国をみると,アメリカが6,722ドル,イギリスが7,070ドル,ドイツが7,256ドル,フランスが6,854ドルと,いずれも日本よりは高くなっています。
お隣の韓国をはじめ,日本より低い国もちらほらありますが,先進国の中では最下位で,29か国全体では19位という有様。子どもが少ないという点を考慮しても,日本が教育にカネを使わない国ということは言えるでしょう。
これは,初等教育から高等教育までを含めた全教育費の結果ですが,高等教育に限ったら,悲惨な結果が出てきそうですねえ。日本は大学進学率50%超で,高等教育を受けている人口が多いのですが,公的な高等教育費支出の対GDPは最下位です。
https://twitter.com/tmaita77/status/848783584722731008
「学費メチャ高」&「実質ローン奨学金」という,ダブルパンチになるはずです。日本のユニバーサル型の高等教育は,家計に費用負担を押し付けることで成り立っていることを忘れてはいけません。
高等教育機関の学生1人あたりの額を出したら,どういう結果が出てくるか。やりたくもない計算ですが,興味ある結果が出てきたら,ここで報告することにいたしましょう。
OECDの「Education at a Glance 2016」にて,最新の2013年の数値を拾うと,日本はわずか3.25%で,OECD加盟国では下から2番目となっています。
https://twitter.com/tmaita77/status/848342449005117441
しかし,対GDP比でみるのは不適切ではないか,日本は少子化が進んで子どもが少ないのだから,教育費のシェアが小さくなるのは当たり前ではないか,という意見も聞かれます。
これに対しては,「教育の対象は子どもだけではない。生涯学習社会では,教育の対象は大人も含めた全国民である」という反論ができますが,それは脇に置きましょう。
それでは,GDPに対する割合ではなく,子ども・若者1人あたりの公的教育費の額を算出してみましょう。上記の比率を,国内総生産(名目GDP総額)に乗じると,公的教育費の実額が出てきます。それを,25歳未満の子ども・若者人口で除せば,目的の数値が得られます。
先ほどみたように,2013年の日本の公的教育費支出額の対GDPは3.25%です。総務省統計局『世界の統計 2015』によると,同年の名目GDPは4,920,680(百万ドル)。よって公的教育費の支出額は,前者を後者に乗じて,159,779(百万ドル)となります。
国連の人口推計サイトによると,2013年の日本の25歳未満人口は28,891(千人)。したがって,子ども・若者1人あたりの公的教育費支出額は,5,530ドルとなる次第です。1ドル=110円とすると,1人あたり60万円くらいですか。
はて,これは他国に比してどうなのか。同じやり方で,29か国の数値を計算してみました。計算に使った要素も含む,結果の一覧表をご覧いただきましょう。
右端が目的の数値ですが,日本よりも高い値が多いですねえ。マックスは北欧のノルウェーで,1人あたり20,230ドル(222万円)。日本の4倍近くです。デンマーク,スウェーデン,スイスも5ケタです。大学の授業料無償,充実したICT教育環境などは,こういう条件によるのですね。
欧米の先進国をみると,アメリカが6,722ドル,イギリスが7,070ドル,ドイツが7,256ドル,フランスが6,854ドルと,いずれも日本よりは高くなっています。
お隣の韓国をはじめ,日本より低い国もちらほらありますが,先進国の中では最下位で,29か国全体では19位という有様。子どもが少ないという点を考慮しても,日本が教育にカネを使わない国ということは言えるでしょう。
これは,初等教育から高等教育までを含めた全教育費の結果ですが,高等教育に限ったら,悲惨な結果が出てきそうですねえ。日本は大学進学率50%超で,高等教育を受けている人口が多いのですが,公的な高等教育費支出の対GDPは最下位です。
https://twitter.com/tmaita77/status/848783584722731008
「学費メチャ高」&「実質ローン奨学金」という,ダブルパンチになるはずです。日本のユニバーサル型の高等教育は,家計に費用負担を押し付けることで成り立っていることを忘れてはいけません。
高等教育機関の学生1人あたりの額を出したら,どういう結果が出てくるか。やりたくもない計算ですが,興味ある結果が出てきたら,ここで報告することにいたしましょう。