日が落ちるのが早くなりました。夕刻の散歩は,5時くらいに出ています。もう半袖じゃ肌寒いですね。
月末の教員不祥事報道の整理です。今月,私がネット上で把握した報道は44件です。赤字は珍事案。児童に無理やり給食を食べさせ,5人を嘔吐させたという,小学校のベテラン女性教師の事案が注目されます。
私の頃は,「お前が全部食わないと,みんなが昼休みに入れんぞ」とよく脅されました。保護者からも「偏食は厳しく直してほしい」という要望多数で,涙目になってゲロを吐く児童も結構いました(それがもとで,いじめに発展すると)。
しかしですねえ。これは「肉体的苦痛を与える」という,体罰の構成要件に該当するともとれますね。あまり,やり過ぎないようにしてほしいものです。
明日から10月,秋も深くなってきます。季節の変わり目,体調を崩されませぬよう。背景を秋晴れ模様に変えます。
<2017年9月の教員不祥事報道>
・女子更衣室にカメラ設置し盗撮企て、小学校教諭免職
(9/4,日刊スポーツ,兵庫,小,男,31)
・盗撮の41歳小学教諭を懲戒免職(9/4,日刊スポーツ,東京,小,男,41)
・「競馬や借金の返済に…」 90万円着服の元小学校校長に退職金返納命令
(9/4,名古屋テレビ,愛知,小,男,60)
・野球部物品購入費約30万円私的流用した中学校教諭を懲戒免職
(9/6,産経,宮城,流用:中男56,セクハラ:小男49)
・京都で生徒引率中に万引疑い…女性養護教諭を逮捕
(9/6,サンスポ,鳥取,中,女,35)
・無免許運転:支援学校教諭の処分検討(9/6,毎日,』岐阜,特,男,30代)
・生徒の指骨折させた教諭を懲戒戒告(9/7,MBC,鹿児島,男,40代)
・はがき偽造:学校講師、容疑で逮捕(9/8,毎日,愛媛,特,男,29)
・体罰と暴言で男性教諭処分 県教委、停職1カ月
(9/8,神奈川新聞,神奈川,高,男,51)
・北海道立高の教諭逮捕 速度測定器蹴った容疑
(9/8,産経,北海道,高,男,52)
・市立小学校男性臨時教師が盗撮 懲免処分(9/8,朝日放送,大阪,小,男,23)
・校内に大量の女性下着 「バザー販売用」男性教諭が保管
(9/9,西日本新聞,福岡,高,男,40代)
・<高知・公立中教諭>女子生徒3人に「校内外でキス」
(9/9,毎日,高知,中,男,40代)
・男児に強制わいせつ容疑、保育教諭の36歳男を逮捕
(9/11,日刊スポーツ,静岡,男,36)
・男性高校教諭が女子生徒30人に「正座」強要(9/14,福島民友,福島,高,男)
・大阪・市立高:無免許教科で授業 非常勤講師
(9/14,毎日,大阪,高,男,20代)
・わいせつ動画投稿疑いの高校教諭を懲戒免職
(9/15,サンスポ,滋賀,高,男,31)
・スマホ盗撮の高校教師「懲戒免職」 女子高生などのスカート内
(9/16,福島民友,福島,高,男,30)
・<わいせつ>SNSに下半身動画投稿 高校教諭を懲戒免職
(9/16,毎日,滋賀,高,男,31)
・支援学校の講師逮捕=女子中生にわいせつ容疑
(9/19,時事通信,兵庫,特,男,23)
・小学校教諭、男児にわいせつ未遂容疑 トイレ個室に押し込む
(9/20,京都新聞,茨城,小,男,37)
・酒気帯び運転の中学教諭2人懲戒免職 岩手県教委
(9/21,産経,中男57,中女52)
・<児童情報紛失>女性教諭、飲酒後転倒で意識失い
(9/21,毎日,大阪,小,女,50代)
・不正に口座開設 容疑で小学校教諭を逮捕(9/21,産経,茨城,小,男,43)
・女子高生の裸撮影した疑い 高校非常勤講師の男逮捕
(9/21,日刊スポーツ,千葉,高,男,23)
・下着窃盗容疑で小学校教諭逮捕、写真や動画を撮影
(9/21,日刊スポーツ,奈良,小,男,48)
・教え子の小6女児にわいせつ容疑 56歳教員を逮捕
(9/21,日刊スポーツ,茨城,小,男,56)
・中学講師が衣類“万引き” 試着室に何度も
(9/22,テレビ朝日,広島,中,女,47)
・中学校長、住宅侵入疑い 宮崎、呼気からアルコール
(9/22,産経,宮崎,中,男,59)
・小学校教諭が酒飲みノーヘルでミニバイク運転
(9/23,神戸新聞,兵庫,小,男,24)
・懲戒処分:万引き中学教諭、減給 横浜市教委
(9/23,毎日,神奈川,中,女,34)
・傷害容疑で高校教諭逮捕 茨城・取手の飲食店
(9/25,産経,東京,高,男,27)
・中学校侵入し女子生徒の上履き盗んだ疑いで支援学校講師を免職
(9/25,サンスポ,秋田,特,男,22)
・給食の完食指導で5人が嘔吐 小学校教諭を厳重注意
(9/26,朝日,岐阜,女,50代)
・覚醒剤所持で逮捕された中学教諭を懲戒免職(9/26,産経,埼玉,中,男,27)
・中学校の20代男性教師 勤務先の女子生徒にみだらな行為で書類送検
(9/27,東海テレビ,愛知,中,男,20代)
・部活中に女子生徒の脚触る 中学教諭、保護者に謝罪
(9/28,神戸新聞,兵庫,中,男,40代)
・男子生徒に“平手打ち”で骨折など全治3カ月
(9/28,TNC,福岡,高,男,30代)
・水泳授業中、腕立てする女子高生にまたがる 教諭を処分
(9/29,朝日,大阪,高,男,57)
・飲酒運転の車に同乗の教諭を懲戒停職処分(9/29,日テレ,山梨,小,男,20代)
・少女との淫らな行為撮影の男性講師ら懲戒免職
(9/29,産経,大阪,高,男,34)
・着服:元中学校長、PTA費など 室蘭、登別で計238万円
(9/29,毎日,北海道,中,男,60)
・女子生徒に「結婚して下さい」 高校の助手を停職処分
(9/30,朝日,神奈川,高,男,20代)
・酔って車にビールかけたうえ破損 男性教諭と講師を懲戒処分
(9/30,産経,大阪,中,男,29・31)
ページ
▼
2017年9月30日土曜日
2017年9月27日水曜日
親世代の所得と大学授業料の変化
昨日の文科省の発表によると,2015年度の私大の平均年間授業料は86万8447円で,過去最高を記録したそうです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/1396452.htm
記録更新は毎年のことですので,驚くに値しませんが,「高い」の一言に尽きます。その一方で,親世代の所得は減ってきていますので,家計の負担は大きくなっています。今や親を頼れず,学費稼ぎの無理なバイトをしたり,奨学金という借金をフルに借り込む学生も少なくありません。
私は,このトレンドをグラフで表してみたいと考えました。大学の授業料推移はググれば一発で出てきますが,親世代の所得の推移を重ねたものは見つかりません。あるにしても,全世帯の所得変化とリンクさせたものだけ。
全世帯の所得減少は,高齢化(乏しい年金暮らし世帯の増加)によりますので,これは使わないほうがよいでしょう。願はくは,大学生の親世代の世帯に限定したいもの。
厚労省の『国民生活基礎調査』に,世帯の年間所得分布を,世帯主の年齢層別に集計したデータがあります。年齢区分は10歳刻みになっていますが,世帯主が40~50代の世帯を,大学生の子がいる世帯と見立てることにしましょう。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html
最新の2016年版の資料には,前年(2015年)のデータが掲載されています。
両裾が低く,真ん中辺りに山があるノーマルカーブではないようです。最も多いのは,所得1200~1500万円の階級となっています。バリバリの働き盛りで,共働きの世帯も多いでしょうから,こうなるでしょうか。
この幅広い分布を,一つの代表値に集約しましょう。極端な値に引きずられる平均値ではなく,中央値(Median)にします。上記の3216世帯を所得が高い順に並べた時,ちょうど真ん中にくる世帯の所得がナンボかです。
右端の累積相対度数から,中央値は所得600~650万円の階級に含まれることが分かります。按分比例の考えを使って,中央値(50.0)がこの階級の中のどこにあるかを推し量ります。以下の2ステップです。
① (50.0-46.2)/(51.2-46.2)= 0.753
② 600万円+(50万円 × 0.753)≒ 637.7万円
世帯主が40~50代の世帯の年間所得の中央値は,637.7万円と出ました。まあ,違和感はない数値ですね。これは2015年のデータですが,上記の厚労省資料は1996年版までをネットで見れますので,1995年以降の20年間の推移を辿ることができます。
95年といえば,私が大学に入った年。当時と今では状況は変わっているでしょう。親世代の所得の変化と,国公私立大学の年間授業料のそれを併行させると,以下の表のようになります。国立の授業料は,2004年の独法化以降は,国が示した標準額です。公私立大学の額は平均値です。ソースは,冒頭のリンク先の文科省統計です。。
黄色マークは観察期間中の最高値,青色マークは最低値です。
予想通り,親世代の所得は減ってきています。ピークは96年の752.4万円でしたが,2015年現在では637.7万円までダウンしています。115万円の減です。
その一方で,大学の授業料は年々上昇しています。1995年と2015年の両端を比べると,国立は8.8万円,公立は9.7万円,私立は14.0万円の増です。私立の負担増が顕著ですが,私大の比重が高いわが国にあっては,家計へのダメージは大きい。
上表に示されたヤバいトレンドをグラフにしましょうと凹凸が結構ありますので,3年間隔の移動平均法で推移を滑らかにします。当該年と前後の年の数値(3年次)の平均をとるわけです。たとえば2000年の数値は,99年,00年,01年の平均をとります。
このやり方で,親世代の世帯の所得中央値と私大授業料のカーブを描くと,下図のようになります。
きれいな「X」になりました。家計の余裕のなくなりと,それを顧みない(冷酷な)学費増加。大学生のブラックバイトや奨学金返済地獄は,こういう条件に由来することを忘れてなりますまい。
この問題がようやく認識されてきたようで,大学の授業料無償化について議論されています。高等教育は個人的な投資の意味合いが強いので,無償化はどうかという意見もあるようですが,教育を受けることは,奢侈品を買うのとは違います。法律で規定された「権利」です。それが家庭の経済条件に左右されることがあってはならぬこと。
教育基本法第4条は「教育の機会均等」について定めていますが,それは初等・中等教育のみならず,高等教育にも適用されます。
ただ大学の場合,一律に無償化を図るのは,富裕層を優遇することにもなるでしょう。金持ちだらけの大学もありますので。
高等教育のどの部分を無償にするかが議論の焦点のようですが,まずは全体の学費の水準を下げ,貧困層に特化した授業料の減免枠を拡大するのがいいと,私は考えています。特定の部分に資源を注入する(狭く深く)ではなく,まずは「浅く広く」から始めたほうがいいと思います。
私は,大学院以降はずっと授業料免除をもらいましたが,これにはホント救われました。私のような貧乏人が大学院博士課程まで学べたのは,この制度のおかげです。しかるに今は,独法化の影響もあり,枠がうんと減っているとのこと。それでもって,特定の部分を無償化したり,奨学金の貸付を増やすというのは,教育の機会均等に寄与しないでしょう。
要は,「下」に手厚くする,ということです。2010年度に高校無償化政策が実施され,公立高校の学費が軒並み無償になりましたが,2014年度に制度改正されました。授業料の無償は止め,所得が一定水準以下の困窮家庭の生徒に就学支援金を支給する方式に変わりました。所得制限を設ける代わりに,浮いた財源で「下」に対する支援を手厚くする。これと類似のことを,大学段階でもやったらいいのではないか。
日本の大学の授業料はバカ高なのですが,問題なのは,このことによって,大学教育を受けるチャンスが家庭の経済力によって制約されることです。こういう事態は,法が定める「教育の機会均等」の理念にも反すること。先決なのは,この病理を治癒することです。特定部分の無償化よりも,全体の学費の水準を下げる,貧困層を対象とした学費の減免枠を増やす。私がこう主張する所以です。
高等教育の無償化という,インパクト100%の政策が目的化してしまってはいけない。何のためにそれを行うのか。原点を見失わないようにしたいものです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/1396452.htm
記録更新は毎年のことですので,驚くに値しませんが,「高い」の一言に尽きます。その一方で,親世代の所得は減ってきていますので,家計の負担は大きくなっています。今や親を頼れず,学費稼ぎの無理なバイトをしたり,奨学金という借金をフルに借り込む学生も少なくありません。
私は,このトレンドをグラフで表してみたいと考えました。大学の授業料推移はググれば一発で出てきますが,親世代の所得の推移を重ねたものは見つかりません。あるにしても,全世帯の所得変化とリンクさせたものだけ。
全世帯の所得減少は,高齢化(乏しい年金暮らし世帯の増加)によりますので,これは使わないほうがよいでしょう。願はくは,大学生の親世代の世帯に限定したいもの。
厚労省の『国民生活基礎調査』に,世帯の年間所得分布を,世帯主の年齢層別に集計したデータがあります。年齢区分は10歳刻みになっていますが,世帯主が40~50代の世帯を,大学生の子がいる世帯と見立てることにしましょう。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html
最新の2016年版の資料には,前年(2015年)のデータが掲載されています。
両裾が低く,真ん中辺りに山があるノーマルカーブではないようです。最も多いのは,所得1200~1500万円の階級となっています。バリバリの働き盛りで,共働きの世帯も多いでしょうから,こうなるでしょうか。
この幅広い分布を,一つの代表値に集約しましょう。極端な値に引きずられる平均値ではなく,中央値(Median)にします。上記の3216世帯を所得が高い順に並べた時,ちょうど真ん中にくる世帯の所得がナンボかです。
右端の累積相対度数から,中央値は所得600~650万円の階級に含まれることが分かります。按分比例の考えを使って,中央値(50.0)がこの階級の中のどこにあるかを推し量ります。以下の2ステップです。
① (50.0-46.2)/(51.2-46.2)= 0.753
② 600万円+(50万円 × 0.753)≒ 637.7万円
世帯主が40~50代の世帯の年間所得の中央値は,637.7万円と出ました。まあ,違和感はない数値ですね。これは2015年のデータですが,上記の厚労省資料は1996年版までをネットで見れますので,1995年以降の20年間の推移を辿ることができます。
95年といえば,私が大学に入った年。当時と今では状況は変わっているでしょう。親世代の所得の変化と,国公私立大学の年間授業料のそれを併行させると,以下の表のようになります。国立の授業料は,2004年の独法化以降は,国が示した標準額です。公私立大学の額は平均値です。ソースは,冒頭のリンク先の文科省統計です。。
黄色マークは観察期間中の最高値,青色マークは最低値です。
予想通り,親世代の所得は減ってきています。ピークは96年の752.4万円でしたが,2015年現在では637.7万円までダウンしています。115万円の減です。
その一方で,大学の授業料は年々上昇しています。1995年と2015年の両端を比べると,国立は8.8万円,公立は9.7万円,私立は14.0万円の増です。私立の負担増が顕著ですが,私大の比重が高いわが国にあっては,家計へのダメージは大きい。
上表に示されたヤバいトレンドをグラフにしましょうと凹凸が結構ありますので,3年間隔の移動平均法で推移を滑らかにします。当該年と前後の年の数値(3年次)の平均をとるわけです。たとえば2000年の数値は,99年,00年,01年の平均をとります。
このやり方で,親世代の世帯の所得中央値と私大授業料のカーブを描くと,下図のようになります。
きれいな「X」になりました。家計の余裕のなくなりと,それを顧みない(冷酷な)学費増加。大学生のブラックバイトや奨学金返済地獄は,こういう条件に由来することを忘れてなりますまい。
この問題がようやく認識されてきたようで,大学の授業料無償化について議論されています。高等教育は個人的な投資の意味合いが強いので,無償化はどうかという意見もあるようですが,教育を受けることは,奢侈品を買うのとは違います。法律で規定された「権利」です。それが家庭の経済条件に左右されることがあってはならぬこと。
教育基本法第4条は「教育の機会均等」について定めていますが,それは初等・中等教育のみならず,高等教育にも適用されます。
ただ大学の場合,一律に無償化を図るのは,富裕層を優遇することにもなるでしょう。金持ちだらけの大学もありますので。
高等教育のどの部分を無償にするかが議論の焦点のようですが,まずは全体の学費の水準を下げ,貧困層に特化した授業料の減免枠を拡大するのがいいと,私は考えています。特定の部分に資源を注入する(狭く深く)ではなく,まずは「浅く広く」から始めたほうがいいと思います。
私は,大学院以降はずっと授業料免除をもらいましたが,これにはホント救われました。私のような貧乏人が大学院博士課程まで学べたのは,この制度のおかげです。しかるに今は,独法化の影響もあり,枠がうんと減っているとのこと。それでもって,特定の部分を無償化したり,奨学金の貸付を増やすというのは,教育の機会均等に寄与しないでしょう。
要は,「下」に手厚くする,ということです。2010年度に高校無償化政策が実施され,公立高校の学費が軒並み無償になりましたが,2014年度に制度改正されました。授業料の無償は止め,所得が一定水準以下の困窮家庭の生徒に就学支援金を支給する方式に変わりました。所得制限を設ける代わりに,浮いた財源で「下」に対する支援を手厚くする。これと類似のことを,大学段階でもやったらいいのではないか。
日本の大学の授業料はバカ高なのですが,問題なのは,このことによって,大学教育を受けるチャンスが家庭の経済力によって制約されることです。こういう事態は,法が定める「教育の機会均等」の理念にも反すること。先決なのは,この病理を治癒することです。特定部分の無償化よりも,全体の学費の水準を下げる,貧困層を対象とした学費の減免枠を増やす。私がこう主張する所以です。
高等教育の無償化という,インパクト100%の政策が目的化してしまってはいけない。何のためにそれを行うのか。原点を見失わないようにしたいものです。
2017年9月24日日曜日
教員の病気離職率(2015年度)
今月の半ばに,2016年度の文科省『学校教員統計』の中間集計結果が公表されました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
教員の個人調査と異動調査に分かれていて,後者では,調査の前年度間に離職した教員の数を知ることができます。2016年調査では,2015年度間の離職者数が調べられているわけです。
離職といってもいろいろな理由があり,数としては「定年」によるものが最多です。ほか,理由のカテゴリーとしては,病気,死亡,転職,大学等入学,家庭の事情,職務上の問題,その他,があります。
このうちの「病気」による離職者数は,教職危機の指標として使えると私は考えています。精神を病んで学校を去る教員が増えているといいますが,そういうケースはこの中に含まれます,本資料に載っている病気離職者数の半分以上は精神疾患によるものです。
上記の中間報告によると,2015年度の公立小学校本務教員の病気離職者は540人となっています。同年5月時点の公立小学校本務教員数は41万397人(『学校基本調査』による)。よって,2015年度の公立小学校教員の病気離職率は,ベース1万人あたり13.2人となります。この値は,病気離職率とみなせるものです。
『学校教員統計』と『学校基本調査』のバックナンバーをたどることで,教員の病気離職率の長期推移を出せます。下表は,公立小・中・高の教員の病気離職率の変化を明らかにしたものです。
『学校教員統計』は3年間隔なので,データも3年刻みになっています。
分子・分母の数も掲げていますので,この表は参考資料としてご覧ください。小・中・高の病気離職率のカーブを描くと,下図のようになります。
80年代初頭は学校が荒れたためか,教員の病気離職率は高い水準にありました(とくに中学校)。その後,管理教育の徹底により荒れが鎮静化したためか,離職率は下がり,小・中・高とも1997年度にボトムになります。
しかし今世紀以降,病気離職率は上昇に転じます。急な右上がりです。21世紀になって,矢継ぎ早に大きな教育改革が実施されました。06年の教育基本法改正,07年の全国学力テスト再開,主観教諭・副校長の職階導入(組織の官僚制化の高まり),09年の教員免許更新制導入,外国語教育の早期化…。
短期間に,これほど多くの改革がなされたことは,かつてなかったと思われます。上図に描かれた病気離職率の急上昇は,現場がそれに翻弄されていることの表れかもしれません。だとしたら,何とも皮肉なことです。
ちなみに教員の病気離職率は,年齢層別に出すこともできます。先日公表された2016年度調査の中間報告では,このデータはまだ出ていませんが,2012年度のデータで私が計算したところ,入職して間もない20代前半と,定年直前の50代後半が高い「U字カーブ」になっています(拙著『データで読む・教育の論点』晶文社,2017年,260ページ)。
http://www.shobunsha.co.jp/?p=4364
危機は,教職生活の始めと終わりにあります。前者は,若手を手取り足取りサポートできない,今の職場環境によるでしょう。後者は,自分たちが入職した頃とはすっかり変わり果てた今の学校に対する,年輩教員の戸惑いではないでしょうか。詳細は,上記の拙著をお読みください。
2015年度の年齢層別の病気離職率カーブは,どういう型になっているか。もしかしたら,40代の中堅層が高い型になっているかもしれません。育児・介護のダブルケアを強いられる,中年女性教員の離職率の高まりによってです。
上記のグラフによると,教員の離職率は最近は下がっています(高校は上昇が止まらず)。しかし,80年代の学校が荒れた時代よりも高し。過去35年ほどのトレンド観察ですが,現在の教員は,危機的な状況に置かれているといってよいでしょう。
「働き方改革」を支持するエビデンスは,こういうところにも見受けられます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
教員の個人調査と異動調査に分かれていて,後者では,調査の前年度間に離職した教員の数を知ることができます。2016年調査では,2015年度間の離職者数が調べられているわけです。
離職といってもいろいろな理由があり,数としては「定年」によるものが最多です。ほか,理由のカテゴリーとしては,病気,死亡,転職,大学等入学,家庭の事情,職務上の問題,その他,があります。
このうちの「病気」による離職者数は,教職危機の指標として使えると私は考えています。精神を病んで学校を去る教員が増えているといいますが,そういうケースはこの中に含まれます,本資料に載っている病気離職者数の半分以上は精神疾患によるものです。
上記の中間報告によると,2015年度の公立小学校本務教員の病気離職者は540人となっています。同年5月時点の公立小学校本務教員数は41万397人(『学校基本調査』による)。よって,2015年度の公立小学校教員の病気離職率は,ベース1万人あたり13.2人となります。この値は,病気離職率とみなせるものです。
『学校教員統計』と『学校基本調査』のバックナンバーをたどることで,教員の病気離職率の長期推移を出せます。下表は,公立小・中・高の教員の病気離職率の変化を明らかにしたものです。
『学校教員統計』は3年間隔なので,データも3年刻みになっています。
分子・分母の数も掲げていますので,この表は参考資料としてご覧ください。小・中・高の病気離職率のカーブを描くと,下図のようになります。
80年代初頭は学校が荒れたためか,教員の病気離職率は高い水準にありました(とくに中学校)。その後,管理教育の徹底により荒れが鎮静化したためか,離職率は下がり,小・中・高とも1997年度にボトムになります。
しかし今世紀以降,病気離職率は上昇に転じます。急な右上がりです。21世紀になって,矢継ぎ早に大きな教育改革が実施されました。06年の教育基本法改正,07年の全国学力テスト再開,主観教諭・副校長の職階導入(組織の官僚制化の高まり),09年の教員免許更新制導入,外国語教育の早期化…。
短期間に,これほど多くの改革がなされたことは,かつてなかったと思われます。上図に描かれた病気離職率の急上昇は,現場がそれに翻弄されていることの表れかもしれません。だとしたら,何とも皮肉なことです。
ちなみに教員の病気離職率は,年齢層別に出すこともできます。先日公表された2016年度調査の中間報告では,このデータはまだ出ていませんが,2012年度のデータで私が計算したところ,入職して間もない20代前半と,定年直前の50代後半が高い「U字カーブ」になっています(拙著『データで読む・教育の論点』晶文社,2017年,260ページ)。
http://www.shobunsha.co.jp/?p=4364
危機は,教職生活の始めと終わりにあります。前者は,若手を手取り足取りサポートできない,今の職場環境によるでしょう。後者は,自分たちが入職した頃とはすっかり変わり果てた今の学校に対する,年輩教員の戸惑いではないでしょうか。詳細は,上記の拙著をお読みください。
2015年度の年齢層別の病気離職率カーブは,どういう型になっているか。もしかしたら,40代の中堅層が高い型になっているかもしれません。育児・介護のダブルケアを強いられる,中年女性教員の離職率の高まりによってです。
上記のグラフによると,教員の離職率は最近は下がっています(高校は上昇が止まらず)。しかし,80年代の学校が荒れた時代よりも高し。過去35年ほどのトレンド観察ですが,現在の教員は,危機的な状況に置かれているといってよいでしょう。
「働き方改革」を支持するエビデンスは,こういうところにも見受けられます。
2017年9月22日金曜日
年収格差の変化
昨日の「日経DUAL」に,男性の学歴別の生涯賃金を試算した記事が載りました。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=11204
15~59歳までの現役時の賃金総額が,中卒でナンボ,高卒でナンボ,大卒でナンボ,というデータです。予想通り,大きな学歴差が出ています。学歴社会ニッポンの可視化です。興味ある方は,どうぞご覧ください。
私はこの記事の最後で,「今の子どもたちが働き始める頃はどうなっているか。大学進学率がますます高まり,『大学を出ていなければ人にあらず』の時代になっているか,それとも,雇われ労働の減少により,学歴など関係ない実力主義の時代になっているか。後者の可能性も否定できない」と述べました。今後の趨勢予測です。
これはフィーリングですが,過去数十年の変化(トレンド)をもとに,もう少し説得力のある展望をしたいなと思いました。私は今41歳でバリバリの働き盛りですが,キリのいい40歳時点の年収の学歴差が,過去からどう変わってきたか。
厚労省の『賃金構造基本統計』に,標準労働者の所定内月収と年間賞与額が細かい1歳刻みで出ています。標準労働者とは,学卒後すぐに就職し,現在までずっと同じ会社で勤めている者です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
年収は,月収の12倍に年間賞与額(ボーナス)を足して推し量りましょう。2016年の資料によると,大卒の40歳男性の所定内月収は42.99万円(a),年間賞与額は192.66万円(b)と出ています。よって年収は,12a+b=708.5万円となる次第です。
私と同世代の大卒男性の平均年収ですが,結構稼いでいるのですねえ。言わずもがな,私などはこれに遠く及びません。
この値が過去からどう変化してきたか。他の学歴群との差はどうか。1980(昭和55)年からの推移をラフなピンポイントで辿ってみました。
上段は年収の見積もり実額(万円)で,下段は高卒を1.0とした場合の指数です。学歴差は,この指数で見て取ることができます。
上段をみると,どの群も2000年までは年収が上がっていますが,2016年には下がっています。今世紀以降のお寒い状況が表れていますねえ。中卒は,478万円から350万円と,128万円も減っています。
大卒が高卒の何倍かをみると(下段),1990年で1.24倍とボトムになり,その後は上昇と一途で,2016年には1.3倍となっています。中卒は高卒の6割ちょい,大卒の半分以下です。
うーん,年収の学歴差はちょっとずつ広がってきているようです。企業が,労働者の採用・処遇・昇進を決める際,関便なシグナルとして学歴を使うのはよく知られていますが,昨今の人手不足の影響により,それが顕著になっているのでしょうか。
あるいは,私が昨日の日経DUAL記事に書いたように,大学進学率の高まりにより,高卒と大卒の段差がますます大きくなっていくのか…。
次に,企業規模の差をみてみましょう。年収を規定する条件として学歴が大きいのは分かっていますが,勤めている会社の規模,大企業か中小企業かも侮れません。大卒の40歳男性というように,学歴・年齢・性別を統制して,年収の企業規模差を出してみました。
小企業は従業員10~99人,中企業は100~999人,大企業は1000人以上の企業を指します。
同じ条件の男性でも,勤務先の企業規模によって年収は違いますね。どの群も今世紀になって年収が減っていますが,減り具合は小企業ほど大きくなっています。大企業は25万円ほどの減ですが,小企業は93万円のダウンです。
平成不況,グローバル化・国際化の荒波を被っているのは,零細企業のようです。生産の下請け競争は今や世界規模になっていますが,その影響もあるでしょう。下段の指数で分かるように,同じ大卒の働き盛りの男性でも,年収の企業規模差は拡大の傾向にあります。
実力主義の時代が到来しているという声も聞きますが,学歴や企業規模といった条件が収入を規定する度合いが増してきています。
もう一点,ジェンダーの差も押さえておきましょう。女性にすれば,男性との差がどうなっているか,興味がおありでしょう。40歳女性の年収推移を,学歴別に出してみました。下段は,男性の年収(最初の表参照)を1.0とした場合どうなるかという,ジェンダー差の指標です。
女性も男性と同じく,2000年から2016年にかけて年収が下がっています。大卒をみると,714万円から552万円と,162万円のダウンです。最初の表でみた男性の下落幅(761万円→709万円)よりもずっと大きくなっています。
その結果,男性との年収格差も開いています。大卒でいうと,2000年では,男性=1.0とした場合の指数は0.94とかなり接近していたのですが,2016年は0.78とかなり下がってしまいました。年収の性差は,学歴が低い群ほど顕著なようです。育児や介護により,中年の女性がバリバリ働くのが難しくなっているのか。
以上,年収の学歴差,企業規模差,ジェンダー差のトレンドを大雑把に見てきました。残念なことですが,今世紀以降になって,外的な属性による差が拡大していることが知られます。これが続けば,近代社会が否定したはずの(悪しき)属性主義が蘇ることにもなるでしょう。
そもそも,外的な属性によって収入に傾斜がつくのは,企業の側が能力査定において無精をしているからです。面倒だから,学歴のような分かりやすいシグナルを使おうと。採用活動の「学歴フィルター」などはその典型。
人手不足の時代の趨勢かもしれませんが,AIなどの活用により,人物査定がもっと精緻に行われるようになれば,状況は変わるかもしれません。
ここでみたのは,会社に雇われている雇用労働者のデータです。上からの査定を受ける必要のない自営業では,学歴主義の度合いは相対的に小さいでしょう。
下のグラフは,40代前半の男性の年収の学歴差を,正規職員と自営業で比べたものです。『就業構造基本調査』(2012年)の年収分布をもとに,階級値の仮定を設けて独自に計算しました。
組織に雇われている正社員では明瞭な学歴差ですが,自営業ではそれが比較的緩くなっています。
インターネットの普及により,個人が下請けを請け負う「クラウドワーク」が台頭しているといいます。クライアントにすれば仕事の出来栄えが全てで,当人の学歴など関係ありません。
私が日経DUAL記事で,「雇われ労働の減少により,学歴など関係ない実力主義の時代になっている可能性もある」と書いたのは,こういう状況変化の兆しを見越してのことです。私自身,今はこういう道に足を踏み入れているのですが。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=11204
15~59歳までの現役時の賃金総額が,中卒でナンボ,高卒でナンボ,大卒でナンボ,というデータです。予想通り,大きな学歴差が出ています。学歴社会ニッポンの可視化です。興味ある方は,どうぞご覧ください。
私はこの記事の最後で,「今の子どもたちが働き始める頃はどうなっているか。大学進学率がますます高まり,『大学を出ていなければ人にあらず』の時代になっているか,それとも,雇われ労働の減少により,学歴など関係ない実力主義の時代になっているか。後者の可能性も否定できない」と述べました。今後の趨勢予測です。
これはフィーリングですが,過去数十年の変化(トレンド)をもとに,もう少し説得力のある展望をしたいなと思いました。私は今41歳でバリバリの働き盛りですが,キリのいい40歳時点の年収の学歴差が,過去からどう変わってきたか。
厚労省の『賃金構造基本統計』に,標準労働者の所定内月収と年間賞与額が細かい1歳刻みで出ています。標準労働者とは,学卒後すぐに就職し,現在までずっと同じ会社で勤めている者です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
年収は,月収の12倍に年間賞与額(ボーナス)を足して推し量りましょう。2016年の資料によると,大卒の40歳男性の所定内月収は42.99万円(a),年間賞与額は192.66万円(b)と出ています。よって年収は,12a+b=708.5万円となる次第です。
私と同世代の大卒男性の平均年収ですが,結構稼いでいるのですねえ。言わずもがな,私などはこれに遠く及びません。
この値が過去からどう変化してきたか。他の学歴群との差はどうか。1980(昭和55)年からの推移をラフなピンポイントで辿ってみました。
上段は年収の見積もり実額(万円)で,下段は高卒を1.0とした場合の指数です。学歴差は,この指数で見て取ることができます。
上段をみると,どの群も2000年までは年収が上がっていますが,2016年には下がっています。今世紀以降のお寒い状況が表れていますねえ。中卒は,478万円から350万円と,128万円も減っています。
大卒が高卒の何倍かをみると(下段),1990年で1.24倍とボトムになり,その後は上昇と一途で,2016年には1.3倍となっています。中卒は高卒の6割ちょい,大卒の半分以下です。
うーん,年収の学歴差はちょっとずつ広がってきているようです。企業が,労働者の採用・処遇・昇進を決める際,関便なシグナルとして学歴を使うのはよく知られていますが,昨今の人手不足の影響により,それが顕著になっているのでしょうか。
あるいは,私が昨日の日経DUAL記事に書いたように,大学進学率の高まりにより,高卒と大卒の段差がますます大きくなっていくのか…。
次に,企業規模の差をみてみましょう。年収を規定する条件として学歴が大きいのは分かっていますが,勤めている会社の規模,大企業か中小企業かも侮れません。大卒の40歳男性というように,学歴・年齢・性別を統制して,年収の企業規模差を出してみました。
小企業は従業員10~99人,中企業は100~999人,大企業は1000人以上の企業を指します。
同じ条件の男性でも,勤務先の企業規模によって年収は違いますね。どの群も今世紀になって年収が減っていますが,減り具合は小企業ほど大きくなっています。大企業は25万円ほどの減ですが,小企業は93万円のダウンです。
平成不況,グローバル化・国際化の荒波を被っているのは,零細企業のようです。生産の下請け競争は今や世界規模になっていますが,その影響もあるでしょう。下段の指数で分かるように,同じ大卒の働き盛りの男性でも,年収の企業規模差は拡大の傾向にあります。
実力主義の時代が到来しているという声も聞きますが,学歴や企業規模といった条件が収入を規定する度合いが増してきています。
もう一点,ジェンダーの差も押さえておきましょう。女性にすれば,男性との差がどうなっているか,興味がおありでしょう。40歳女性の年収推移を,学歴別に出してみました。下段は,男性の年収(最初の表参照)を1.0とした場合どうなるかという,ジェンダー差の指標です。
女性も男性と同じく,2000年から2016年にかけて年収が下がっています。大卒をみると,714万円から552万円と,162万円のダウンです。最初の表でみた男性の下落幅(761万円→709万円)よりもずっと大きくなっています。
その結果,男性との年収格差も開いています。大卒でいうと,2000年では,男性=1.0とした場合の指数は0.94とかなり接近していたのですが,2016年は0.78とかなり下がってしまいました。年収の性差は,学歴が低い群ほど顕著なようです。育児や介護により,中年の女性がバリバリ働くのが難しくなっているのか。
以上,年収の学歴差,企業規模差,ジェンダー差のトレンドを大雑把に見てきました。残念なことですが,今世紀以降になって,外的な属性による差が拡大していることが知られます。これが続けば,近代社会が否定したはずの(悪しき)属性主義が蘇ることにもなるでしょう。
そもそも,外的な属性によって収入に傾斜がつくのは,企業の側が能力査定において無精をしているからです。面倒だから,学歴のような分かりやすいシグナルを使おうと。採用活動の「学歴フィルター」などはその典型。
人手不足の時代の趨勢かもしれませんが,AIなどの活用により,人物査定がもっと精緻に行われるようになれば,状況は変わるかもしれません。
ここでみたのは,会社に雇われている雇用労働者のデータです。上からの査定を受ける必要のない自営業では,学歴主義の度合いは相対的に小さいでしょう。
下のグラフは,40代前半の男性の年収の学歴差を,正規職員と自営業で比べたものです。『就業構造基本調査』(2012年)の年収分布をもとに,階級値の仮定を設けて独自に計算しました。
組織に雇われている正社員では明瞭な学歴差ですが,自営業ではそれが比較的緩くなっています。
インターネットの普及により,個人が下請けを請け負う「クラウドワーク」が台頭しているといいます。クライアントにすれば仕事の出来栄えが全てで,当人の学歴など関係ありません。
私が日経DUAL記事で,「雇われ労働の減少により,学歴など関係ない実力主義の時代になっている可能性もある」と書いたのは,こういう状況変化の兆しを見越してのことです。私自身,今はこういう道に足を踏み入れているのですが。
2017年9月20日水曜日
高齢者の幸福度・生活満足度
楠木新さんの『定年後』(中公新書)を読んでいます。話題本になっているようですが,「人生100年の時代」が到来し,べらぼうに長い定年後の生き方を真剣に考える人が多くなっているからでしょう。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/04/102431.html
29~31ページに,「東京と地方の定年後は異なる」という話があります。地方には,定年後も農作業や自治会の役員などいろいろな仕事(役割)があるが,都会ではそうではない。都会では,「組織を離れると社会とつながる機会がとても少ない」と(30ページ)。
探せばデータはあるでしょうが,高齢者の幸福度や生活満足度は,都会より地方で高いかもしれませんね。しかるに私は,この箇所を読んで別の分析課題を思いつきました。就業・非就業によって,高齢者の幸福度や生活満足度がどう違うかです。
この課題を検討できるデータとしては,ISSP調査や世界価値観調査がありますが,サンプル数が多い後者を使うことにしましょう。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp
私は,日本の60歳以上の高齢男性のサンプルを取り出し,就業者と非就業者に分け,幸福度と生活満足度を比べてみました。幸福度は4段階,生活満足度は10段階で尋ねられています。下の表は,回答の分布です(無回答・無効回答は除く)。
就業者とは,フルタイム,パート,自営のいずれかの形態で働いている人で,その他を非就業者としました。
就業者のサンプル数は165人,非就業者は226人です。日本の60歳以上の男性の就業率は,4割ほどとなっています。
この2群で幸福度を比較すると,就業者のほうが高いようです。「とても幸福」という回答比率は,就業者が42.4%,非就業者が24.3%となっています。
生活満足度は10段階で自己評定してもらってますが,8以上の高い満足度を示している人の割合は,就業者が53.7%,非就業者が40.7%で,こちらも働いている人のほうが高くなっています。
わが国の高齢男性のデータですが,いかがでしょう。やっぱり,仕事(役割)があるかどうかは重要なんですね。人間は社会的存在であることからして当然ですが,社会参画の度合いの高い男性にあっては,とりわけ該当するようです。
ただ女性は違っていて,同じ60歳以上のサンプルでみると,「とても幸福だ」の回答比率は就業者が36.6%,非就業者が37.0%でほぼ同じ。8以上の生活満足度を答えた人の割合も,50.0%と52.5%で大差なしです。
女性は,仕事の他にも役割を見いだせるからでしょうね(趣味や地域活動など)。しかし,仕事一辺倒できた男性はさにあらず。会社を定年になったら,直ちに居場所や役割を喪失してしまいます。
男性は,どの国でも同じだろうと思われるでしょうが,そうではないようです。高齢男性の幸福度や生活満足度が,就業者と非就業者でここまで違うのは,主要国で見る限り,日本だけです。
サンプル数の多いアメリカを引き合いにして,就業者と非就業者の距離を「見える化」してみましょう。横軸に「とても幸福だ」と答えた人の比率,縦軸にレベル8以上の生活満足度を答えた人の割合をとった座標上に,日米の就業者と非就業者のドットを置き,線で結んでみました。青色は男性,オレンジ色は女性です。
色付きは就業者,色なしは非就業者のドットです。ご覧のように,日本の高齢男性は,両者の距離が大きくなっています。幸福度や生活満足度が,仕事の有無に規定される度合いが高い,ということです。
前に書いたように,現役時に仕事一辺倒の人が多いので,仕事以外に社会との接点(役割)を見いだせないのでしょう。現役時から,多様な顔を持っておきたいものです。
少子高齢化に伴い,人手不足が深刻化することから,高齢者も「支えられる」から「支える」存在への変身が求められるようになります。四角いオフィスではなく,自分が住んでいる地域社会においてです。
自治会の役員はむろん,最近は学校も教員不足が進んでおり,長年培った高度な知識やスキルを拝借したいという依頼も舞い込んでくるかもしれません。
ただ高齢男性が地域活動に参画する場合,よく聞かれるのが「態度がデカイ」ということです。千葉県は,退職した元校長の人材を活用し,新人教員の指導に当たらせているそうすが,私がこの取組をツイッターで拡散したところ,「コチコチ頭の老人が,自分たちの古いやり方を押し付けることにならないといいけど」という懸念が多く寄せられました。
「下は上の言うことを聞くもの」という,年齢規範の強い日本ならではの病理と思えますが,こういうことも,高齢男性の役割の幅を広げるのを阻んでいます。
これから先,高齢者の就業率も自ずと上がっていきますので,今回のデータを取り立てて問題視する必要はないかもしれませんが,社会との接点(役割)が仕事だけというのは寂しい。日本の男性において,それが最も顕著であることが示唆されます。
最後になりますが,高齢者の自殺率が高いのは,病苦や年金等の不足による生活苦のためではありません。社会から切り離された「孤独」によるものです。デュルケムのいう「自己本位的自殺」に通じるもの。『自殺論』に書いてある通り,「人は集団に属さずして,自分自身を目的にしては生きられない」のです。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/04/102431.html
29~31ページに,「東京と地方の定年後は異なる」という話があります。地方には,定年後も農作業や自治会の役員などいろいろな仕事(役割)があるが,都会ではそうではない。都会では,「組織を離れると社会とつながる機会がとても少ない」と(30ページ)。
探せばデータはあるでしょうが,高齢者の幸福度や生活満足度は,都会より地方で高いかもしれませんね。しかるに私は,この箇所を読んで別の分析課題を思いつきました。就業・非就業によって,高齢者の幸福度や生活満足度がどう違うかです。
この課題を検討できるデータとしては,ISSP調査や世界価値観調査がありますが,サンプル数が多い後者を使うことにしましょう。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp
私は,日本の60歳以上の高齢男性のサンプルを取り出し,就業者と非就業者に分け,幸福度と生活満足度を比べてみました。幸福度は4段階,生活満足度は10段階で尋ねられています。下の表は,回答の分布です(無回答・無効回答は除く)。
就業者とは,フルタイム,パート,自営のいずれかの形態で働いている人で,その他を非就業者としました。
就業者のサンプル数は165人,非就業者は226人です。日本の60歳以上の男性の就業率は,4割ほどとなっています。
この2群で幸福度を比較すると,就業者のほうが高いようです。「とても幸福」という回答比率は,就業者が42.4%,非就業者が24.3%となっています。
生活満足度は10段階で自己評定してもらってますが,8以上の高い満足度を示している人の割合は,就業者が53.7%,非就業者が40.7%で,こちらも働いている人のほうが高くなっています。
わが国の高齢男性のデータですが,いかがでしょう。やっぱり,仕事(役割)があるかどうかは重要なんですね。人間は社会的存在であることからして当然ですが,社会参画の度合いの高い男性にあっては,とりわけ該当するようです。
ただ女性は違っていて,同じ60歳以上のサンプルでみると,「とても幸福だ」の回答比率は就業者が36.6%,非就業者が37.0%でほぼ同じ。8以上の生活満足度を答えた人の割合も,50.0%と52.5%で大差なしです。
女性は,仕事の他にも役割を見いだせるからでしょうね(趣味や地域活動など)。しかし,仕事一辺倒できた男性はさにあらず。会社を定年になったら,直ちに居場所や役割を喪失してしまいます。
男性は,どの国でも同じだろうと思われるでしょうが,そうではないようです。高齢男性の幸福度や生活満足度が,就業者と非就業者でここまで違うのは,主要国で見る限り,日本だけです。
サンプル数の多いアメリカを引き合いにして,就業者と非就業者の距離を「見える化」してみましょう。横軸に「とても幸福だ」と答えた人の比率,縦軸にレベル8以上の生活満足度を答えた人の割合をとった座標上に,日米の就業者と非就業者のドットを置き,線で結んでみました。青色は男性,オレンジ色は女性です。
色付きは就業者,色なしは非就業者のドットです。ご覧のように,日本の高齢男性は,両者の距離が大きくなっています。幸福度や生活満足度が,仕事の有無に規定される度合いが高い,ということです。
前に書いたように,現役時に仕事一辺倒の人が多いので,仕事以外に社会との接点(役割)を見いだせないのでしょう。現役時から,多様な顔を持っておきたいものです。
少子高齢化に伴い,人手不足が深刻化することから,高齢者も「支えられる」から「支える」存在への変身が求められるようになります。四角いオフィスではなく,自分が住んでいる地域社会においてです。
自治会の役員はむろん,最近は学校も教員不足が進んでおり,長年培った高度な知識やスキルを拝借したいという依頼も舞い込んでくるかもしれません。
ただ高齢男性が地域活動に参画する場合,よく聞かれるのが「態度がデカイ」ということです。千葉県は,退職した元校長の人材を活用し,新人教員の指導に当たらせているそうすが,私がこの取組をツイッターで拡散したところ,「コチコチ頭の老人が,自分たちの古いやり方を押し付けることにならないといいけど」という懸念が多く寄せられました。
「下は上の言うことを聞くもの」という,年齢規範の強い日本ならではの病理と思えますが,こういうことも,高齢男性の役割の幅を広げるのを阻んでいます。
これから先,高齢者の就業率も自ずと上がっていきますので,今回のデータを取り立てて問題視する必要はないかもしれませんが,社会との接点(役割)が仕事だけというのは寂しい。日本の男性において,それが最も顕著であることが示唆されます。
最後になりますが,高齢者の自殺率が高いのは,病苦や年金等の不足による生活苦のためではありません。社会から切り離された「孤独」によるものです。デュルケムのいう「自己本位的自殺」に通じるもの。『自殺論』に書いてある通り,「人は集団に属さずして,自分自身を目的にしては生きられない」のです。
2017年9月15日金曜日
夫の家事・育児分担率の変化(2011~16年)
本日,2016年の『社会生活基本調査』の生活時間統計が公表されました。1日あたりの各種行動の平均時間が分かるデータです。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2016/kekka.htm
このデータが公表されたら,真っ先にやろうと思っていた作業があります。共働き夫婦の夫の家事・育児分担率がどう変わったかです。このデータは何度も出してきましたが,ここ数年の変化をみてみましょう。
『社会生活基本調査』は5年間隔ですので,2011年のデータとの比較を行います。この年以降,女性の社会進出の促進と並行して,男性の家庭進出(家事・育児参画)を促す取り組みもなされてきました。この問題に対し,最も熱心に情報を発信している『日経DUAL』が創刊されたのは,2013年のことです。さて,成果が見られるかどうか。
http://dual.nikkei.co.jp/
観察対象は,6歳未満の乳幼児がいる共働き夫婦です。手のかかる幼子がいる夫婦ですが,夫婦の家事・育児時間の総計のうち,夫がしている分は何%を占めるか。これが,家事・育児分担率の概念です。
では,原資料から採取したデータをご覧いただきましょう。各曜日の1日あたりの平均時間です。
平日と土日をひっくるめた週全体の数値をみると,夫の家事・育児の平均時間(1日あたり)は,2011年が54分,2016年が67分です。13分増えています。妻のほうは,329分から327分へと微減です。
その結果,夫の分担率は14.1%から17.0%にちょっと上がっています。家事・育児の8割以上を妻がやっている状況は変わりませんが,よい方向に向かってはいるようです。曜日ごとにみると,土曜日の増加幅が大きくなっています(21.0%→25.1%)。
これは全国のデータですが,続いて,47都道府県別のデータもみてみましょう。結論を先取りすると,この5年間の変化の様相は県によって多様です。全国トレンドより増加傾向が顕著な県もあれば,悲しいかな,夫の分担率が下がってしまっている県もあります。
週全体でみた1日あたりの平均時間をもとに,同じ指標を都道府県別に計算してみました。計算式は,夫/(夫+妻)です。全国値は上表にあるように,2011年が14.1%,2016年が17.0%ですが,県ごとにみると大きな地域差があります。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。2016年でみると,東京の25.2%から福岡の9.6%までのレインヂがあります。東京の夫の分担率は4分の1ですが,福岡は10分の1にも満たないと。
この5年間の変化をみると,東京は16.7%から25.2%と,かなりアップしていますね。全国値でみた伸び幅を上回っています。逆に陥落が大きいのは,2011年にトップであった島根です。22.4%から13.2%に落ちています。
はて,この分岐は何によるのか。夫の仕事時間の変化でしょうか。同じ属性の男性(6歳未満の子がいる共働き夫婦の夫)の平日1日あたりの平均仕事時間をみると,東京は2011年の573分から,2016年の529分へとかなり減っています。逆に島根は,488分から534分に増えています。なるほど,合点がいきますね。
ただこれは両端で,仕事時間の増加倍率と,家事・育児分担率のそれ(上表の右端)との間には,有意な相関関係はありません。「男性が家事をしない要因は,仕事時間だけではない」と言いますが,他にもファクターはあるでしょう。
良好なアチーブメント?を出している県は赤字にしてみました。2016年の数値が全国値(17.0%)を上回っており,かつ,この5年間の増加倍率が1.5を超える県です。この基準でノミネートされるのは,東京,兵庫,奈良,山口,宮崎の5都県なり。
これらの都県では,この5年間にどういうことをやったのか。5都県の男女共同参画関係のHPに当たって,政策の一覧表を作るのもいいですね。その作業は,他日を期すことにいたしましょう。
ひとまず,客観的な数値の提示まで。上記の47都道府県の変化表をみて,「わが県の変化は,こういうことではないか」という意見を頂戴できれば幸いです。ここで紹介させていただこうと思います。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2016/kekka.htm
このデータが公表されたら,真っ先にやろうと思っていた作業があります。共働き夫婦の夫の家事・育児分担率がどう変わったかです。このデータは何度も出してきましたが,ここ数年の変化をみてみましょう。
『社会生活基本調査』は5年間隔ですので,2011年のデータとの比較を行います。この年以降,女性の社会進出の促進と並行して,男性の家庭進出(家事・育児参画)を促す取り組みもなされてきました。この問題に対し,最も熱心に情報を発信している『日経DUAL』が創刊されたのは,2013年のことです。さて,成果が見られるかどうか。
http://dual.nikkei.co.jp/
観察対象は,6歳未満の乳幼児がいる共働き夫婦です。手のかかる幼子がいる夫婦ですが,夫婦の家事・育児時間の総計のうち,夫がしている分は何%を占めるか。これが,家事・育児分担率の概念です。
では,原資料から採取したデータをご覧いただきましょう。各曜日の1日あたりの平均時間です。
平日と土日をひっくるめた週全体の数値をみると,夫の家事・育児の平均時間(1日あたり)は,2011年が54分,2016年が67分です。13分増えています。妻のほうは,329分から327分へと微減です。
その結果,夫の分担率は14.1%から17.0%にちょっと上がっています。家事・育児の8割以上を妻がやっている状況は変わりませんが,よい方向に向かってはいるようです。曜日ごとにみると,土曜日の増加幅が大きくなっています(21.0%→25.1%)。
これは全国のデータですが,続いて,47都道府県別のデータもみてみましょう。結論を先取りすると,この5年間の変化の様相は県によって多様です。全国トレンドより増加傾向が顕著な県もあれば,悲しいかな,夫の分担率が下がってしまっている県もあります。
週全体でみた1日あたりの平均時間をもとに,同じ指標を都道府県別に計算してみました。計算式は,夫/(夫+妻)です。全国値は上表にあるように,2011年が14.1%,2016年が17.0%ですが,県ごとにみると大きな地域差があります。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。2016年でみると,東京の25.2%から福岡の9.6%までのレインヂがあります。東京の夫の分担率は4分の1ですが,福岡は10分の1にも満たないと。
この5年間の変化をみると,東京は16.7%から25.2%と,かなりアップしていますね。全国値でみた伸び幅を上回っています。逆に陥落が大きいのは,2011年にトップであった島根です。22.4%から13.2%に落ちています。
はて,この分岐は何によるのか。夫の仕事時間の変化でしょうか。同じ属性の男性(6歳未満の子がいる共働き夫婦の夫)の平日1日あたりの平均仕事時間をみると,東京は2011年の573分から,2016年の529分へとかなり減っています。逆に島根は,488分から534分に増えています。なるほど,合点がいきますね。
ただこれは両端で,仕事時間の増加倍率と,家事・育児分担率のそれ(上表の右端)との間には,有意な相関関係はありません。「男性が家事をしない要因は,仕事時間だけではない」と言いますが,他にもファクターはあるでしょう。
良好なアチーブメント?を出している県は赤字にしてみました。2016年の数値が全国値(17.0%)を上回っており,かつ,この5年間の増加倍率が1.5を超える県です。この基準でノミネートされるのは,東京,兵庫,奈良,山口,宮崎の5都県なり。
これらの都県では,この5年間にどういうことをやったのか。5都県の男女共同参画関係のHPに当たって,政策の一覧表を作るのもいいですね。その作業は,他日を期すことにいたしましょう。
ひとまず,客観的な数値の提示まで。上記の47都道府県の変化表をみて,「わが県の変化は,こういうことではないか」という意見を頂戴できれば幸いです。ここで紹介させていただこうと思います。
2017年9月13日水曜日
歯根端切除手術を受ける
一昨日から昨日にかけて,2泊の泊りがけで出かけてきました。歯根端切除の手術を受けるためです。
手術は12日でしたが,当日の朝に満員電車に乗るのは嫌だったので,前日の11日に上京しました。1日都内を自由に動き回れる時間ができるとなると,私の場合,行く場所は一つ。総務省統計局の統計図書館です。
新宿駅からバスで15分ほど。総務省の1階の統計図書館には,官庁統計がバックナンバーを含めて全て所蔵されています。私にとっての聖地です。
http://www.stat.go.jp/library/
目当ての資料は,厚労省『賃金構造基本統計』のバックナンバー。この資料は,2001年以降はネットで見れるのですが,それより前のものは冊子でないと見れません。目的のデータが載っている冊子を棚から抜き出し,該当ページのコピーを取りました。
今では,官庁統計はネットで見れますが,だいぶ前の資料となると,冊子に当たらざるを得ません。この統計図書館には,それが全て揃っているのです。書庫にある資料も,頼めばすぐに出してくれます。国会図書館のように,申し込み冊数に制限があり,長時間待たされることもありません。
統計の調べものをするならココが一番。どんな用事も片付きます。私が首都圏を離れるのを躊躇うのは,ここに自由に通えなくなってしまうからです。
お昼まで作業をした後,職員さんに交じって食堂でランチ。私のような,だらしない身なりの風来坊は浮きますなあ…。
午後は,新宿の紀伊国屋本店に行きました。3階の教育,社会問題,教育フェアの3か所で,拙著『データで読む・教育の論点』が平積みになっているのを見て,うれしく思いました。2階の教員採用試験コーナーでは,『教職教養らくらくマスター』が売れ筋本として前面に平積みされていました。
その後,中央線で立川に行き,ホテルに入りました。夕飯は,近くの中華料理屋で食べましたが,ちょっと酷かった。炒飯はベチャベチャ,餃子は「レンチンですか?」と言いたくなるような代物。まあ,こういうハズレもある。
翌日の午前10時に,立川病院に入院しました。南武線の西国立駅からすぐです。きれいな新棟が建っています。病室は,一泊一万円の個室にしました。相部屋だったら3000円ほどなのですが,滅多にない機会なんで奮発ってことで。
体温と血圧を測って,点滴をつないでもらったら,手術開始まですることなし。ベッドを適当な角度に起こして,読書タイム。治験なら,これでおカネももらえるのですよね。私は年齢でアウトですけど。
薄味の病院食の昼食を食べて,念入りに歯磨きをして,午後2時から手術開始。私が受けたのは,歯根端切除手術です。
前居の多摩市のかかりつけ歯科で,「上前歯の歯根に大きな膿の袋ができている,手術して取り除いたほうがいい」と進言され,立川病院の歯科口腔外科を紹介されました。年間の手術数が250もあり,歯根端切除手術ならココという定評があるそうな。
http://www.tachikawa-hosp.gr.jp/shinryo/21/index.html
歯茎を切開し,歯根にこびりついた膿をガリガリと取り除き,汚染された歯根の先端を切除。切除した先っぽに細菌が繁殖しないようスーパーボンドで封鎖して,歯肉を縫い付けておしまい。
手術時間はおよそ2時間。痛みはあまりありませんでしたが,後頭部が圧迫されてキツかった。柔らかい枕でも敷けばよかった。
術後は,上の唇がタラコのように腫れあがりました。固いものはNGなんで,夕食はお粥。テレビでお笑いをやってましたが,笑うと,歯肉を縫い付けた糸が張るので辛い。来週の抜糸までは,上の唇は極力動かすべからず。
翌日の朝,手術した歯茎を消毒しレントゲンを撮って,退院の許可が出ました。会計窓口で請求された金額は,入院費込みで6万6170円。
「さて生保を初めて使うか」と電話をしたら,歯根端切除手術は支払い対象外だそうです。払われるのは入院費だけ。うう,結構な出費になりました。
以上,一昨日から昨日までのお出かけの記録です。今年になって,病院通いがとみに増えました。CTも3回撮りました(歯茎,脳,胸部)。41歳になりましたが,体にガタが出始めているのでしょうか。健康には留意したいものです。
さて明日から,通常通り仕事です。月末に,新学習指導要領関係の単行本の締め切りがあります。2016年の『社会生活基本調査』や『学校教員統計』のデータも公表されます。夫の家事分担率の都道府県比較や,教員の離職率などをブログに載せますので,どうぞ,お楽しみに。
手術は12日でしたが,当日の朝に満員電車に乗るのは嫌だったので,前日の11日に上京しました。1日都内を自由に動き回れる時間ができるとなると,私の場合,行く場所は一つ。総務省統計局の統計図書館です。
新宿駅からバスで15分ほど。総務省の1階の統計図書館には,官庁統計がバックナンバーを含めて全て所蔵されています。私にとっての聖地です。
http://www.stat.go.jp/library/
目当ての資料は,厚労省『賃金構造基本統計』のバックナンバー。この資料は,2001年以降はネットで見れるのですが,それより前のものは冊子でないと見れません。目的のデータが載っている冊子を棚から抜き出し,該当ページのコピーを取りました。
今では,官庁統計はネットで見れますが,だいぶ前の資料となると,冊子に当たらざるを得ません。この統計図書館には,それが全て揃っているのです。書庫にある資料も,頼めばすぐに出してくれます。国会図書館のように,申し込み冊数に制限があり,長時間待たされることもありません。
統計の調べものをするならココが一番。どんな用事も片付きます。私が首都圏を離れるのを躊躇うのは,ここに自由に通えなくなってしまうからです。
お昼まで作業をした後,職員さんに交じって食堂でランチ。私のような,だらしない身なりの風来坊は浮きますなあ…。
午後は,新宿の紀伊国屋本店に行きました。3階の教育,社会問題,教育フェアの3か所で,拙著『データで読む・教育の論点』が平積みになっているのを見て,うれしく思いました。2階の教員採用試験コーナーでは,『教職教養らくらくマスター』が売れ筋本として前面に平積みされていました。
その後,中央線で立川に行き,ホテルに入りました。夕飯は,近くの中華料理屋で食べましたが,ちょっと酷かった。炒飯はベチャベチャ,餃子は「レンチンですか?」と言いたくなるような代物。まあ,こういうハズレもある。
翌日の午前10時に,立川病院に入院しました。南武線の西国立駅からすぐです。きれいな新棟が建っています。病室は,一泊一万円の個室にしました。相部屋だったら3000円ほどなのですが,滅多にない機会なんで奮発ってことで。
体温と血圧を測って,点滴をつないでもらったら,手術開始まですることなし。ベッドを適当な角度に起こして,読書タイム。治験なら,これでおカネももらえるのですよね。私は年齢でアウトですけど。
薄味の病院食の昼食を食べて,念入りに歯磨きをして,午後2時から手術開始。私が受けたのは,歯根端切除手術です。
前居の多摩市のかかりつけ歯科で,「上前歯の歯根に大きな膿の袋ができている,手術して取り除いたほうがいい」と進言され,立川病院の歯科口腔外科を紹介されました。年間の手術数が250もあり,歯根端切除手術ならココという定評があるそうな。
http://www.tachikawa-hosp.gr.jp/shinryo/21/index.html
歯茎を切開し,歯根にこびりついた膿をガリガリと取り除き,汚染された歯根の先端を切除。切除した先っぽに細菌が繁殖しないようスーパーボンドで封鎖して,歯肉を縫い付けておしまい。
手術時間はおよそ2時間。痛みはあまりありませんでしたが,後頭部が圧迫されてキツかった。柔らかい枕でも敷けばよかった。
術後は,上の唇がタラコのように腫れあがりました。固いものはNGなんで,夕食はお粥。テレビでお笑いをやってましたが,笑うと,歯肉を縫い付けた糸が張るので辛い。来週の抜糸までは,上の唇は極力動かすべからず。
翌日の朝,手術した歯茎を消毒しレントゲンを撮って,退院の許可が出ました。会計窓口で請求された金額は,入院費込みで6万6170円。
「さて生保を初めて使うか」と電話をしたら,歯根端切除手術は支払い対象外だそうです。払われるのは入院費だけ。うう,結構な出費になりました。
以上,一昨日から昨日までのお出かけの記録です。今年になって,病院通いがとみに増えました。CTも3回撮りました(歯茎,脳,胸部)。41歳になりましたが,体にガタが出始めているのでしょうか。健康には留意したいものです。
さて明日から,通常通り仕事です。月末に,新学習指導要領関係の単行本の締め切りがあります。2016年の『社会生活基本調査』や『学校教員統計』のデータも公表されます。夫の家事分担率の都道府県比較や,教員の離職率などをブログに載せますので,どうぞ,お楽しみに。
2017年9月9日土曜日
1つの中華料理店にいくらのおカネが落ちるか
国民の消費性向を知れる便利な資料として,総務省の『家計調査年報』があります。細かい品目ごとに,1世帯あたりの年間支出額を知ることができます。
http://www.stat.go.jp/data/kakei/npsf.htm
この資料の目玉は,47都道府県の県庁所在地別のデータも載っていることです。「納豆の首位は水戸市」「ギョーザは宇都宮市」といったフレーズが新聞によく踊りますよね。商売を始めようという人が開業の地を考える際の参考にもなるでしょう。
しかるに,支出額が多い(消費性向が強い)ことだけをもって,開業の地を決めるのは危険です。当然そこは競合店も多く,激戦であることでしょう。商売敵がどれほどいるか,またお客さんが落としてくれるおカネの絶対額も考慮したいもの。
私は,メジャーな外食産業の中華料理店を例に,これらの条件を勘案した参考指標を計算してみました。タイトルに記した通り,「1つの中華料理店にいくらのお金が落ちるか」です。
2014年の総務省『経済センサス』の産業小分類統計によると,同年7月時点の全国の中華料理店は5万5095店です(a)。個人営業店のほか,チェーン店なども含みます。
『家計調査年報』によると,2014年の1年間における,1世帯あたりの中華そば・中華食(外食)の年間支出額は1万481円(b)。単身世帯もひっくるめた,総世帯でみた額です。『住民基本台帳』に掲載されている,同年1月時点の世帯数は5595万2365世帯(c)。
よって2014年の1年間に,全国の中華料理店に流れたおカネの総額は5864億3674万円と見積もられます(b×c)。これを全国の中華料理店数(a)で除すと,1店舗あたりの額は1064万円となります。
店舗の維持費,原材料費,従業員の給料等の諸経費が半分かかるとしたら,アガリは500万ちょっとくらいでしょうか。まあ全体の分布をみれば,年に500万円も儲けているラーメン屋さんは,そう多くないでしょう。一部の超有名店(チェーン)によって釣り上げられた額と考えられます。
それはひとまず置いて,この値を47都道府県の県庁所在地別に計算してみました。計算に使った3つの値(a~c)と,算出された値の一覧表を以下に掲げます。上記と同様,2014年のデータによる試算結果です。
最高は大津市の2190万円,最低は宮崎市の554万円です。大津市は店舗が少なく,近郊都市で市場もそこそこ大きいので,1店当たりの額が多くなっています。大津市民が中華料理の外食に費やしたおカネの全てが,市内の63店舗に流れたとは限りませんが。
マーケットが最大の東京都区部(23区)は,店舗数が7176店とケタ違いに多いので,1店あたりの配分額は827万円と少ないですね。
競合店の数,落としてくれるおカネの総額を勘案した,1店舗あたりのベネフィットの試算値です。お客さんの地域移動を度外視していますが,流入と流出がトントンになる(相殺する)という仮定を置くならば,全く的外れということにはなりますまい。
今回は中華料理店を例にしましたが,ハンバーガー店,すし店などについても,同じ値を出すことが可能です。『経済センサス』の産業小分類統計に店舗数は出てますし,1世帯あたりの年間支出額は『家計調査年報』に出ています。興味ある方は,どうぞ計算してみてください。私が上表のデータを作成するのにかかった時間は,およそ30分です。
ところで,青森市の1店舗あたりの額は768万円とあまり多くないですね。しかるに最近,この北の地にとても魅力的な中華料理店があるのを知りました。王味(わんみ)というお店です。
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2010/04/post_1488.html
とくに,ニンニクたっぷりの餃子が絶品であるとのこと。青森はニンニクの産出量がダントツでトップですが,そういう地の利が出ていますね。ニンニク大好きの私にとっては,たまりません。写真を見るだけで,唾液反応が出ます。
秋の旅行で,この店に行ってみようかなと考えています。青森まで開通した新幹線にも乗ってみたいですし。晩秋の楽しみができました。
http://www.stat.go.jp/data/kakei/npsf.htm
この資料の目玉は,47都道府県の県庁所在地別のデータも載っていることです。「納豆の首位は水戸市」「ギョーザは宇都宮市」といったフレーズが新聞によく踊りますよね。商売を始めようという人が開業の地を考える際の参考にもなるでしょう。
しかるに,支出額が多い(消費性向が強い)ことだけをもって,開業の地を決めるのは危険です。当然そこは競合店も多く,激戦であることでしょう。商売敵がどれほどいるか,またお客さんが落としてくれるおカネの絶対額も考慮したいもの。
私は,メジャーな外食産業の中華料理店を例に,これらの条件を勘案した参考指標を計算してみました。タイトルに記した通り,「1つの中華料理店にいくらのお金が落ちるか」です。
2014年の総務省『経済センサス』の産業小分類統計によると,同年7月時点の全国の中華料理店は5万5095店です(a)。個人営業店のほか,チェーン店なども含みます。
『家計調査年報』によると,2014年の1年間における,1世帯あたりの中華そば・中華食(外食)の年間支出額は1万481円(b)。単身世帯もひっくるめた,総世帯でみた額です。『住民基本台帳』に掲載されている,同年1月時点の世帯数は5595万2365世帯(c)。
よって2014年の1年間に,全国の中華料理店に流れたおカネの総額は5864億3674万円と見積もられます(b×c)。これを全国の中華料理店数(a)で除すと,1店舗あたりの額は1064万円となります。
店舗の維持費,原材料費,従業員の給料等の諸経費が半分かかるとしたら,アガリは500万ちょっとくらいでしょうか。まあ全体の分布をみれば,年に500万円も儲けているラーメン屋さんは,そう多くないでしょう。一部の超有名店(チェーン)によって釣り上げられた額と考えられます。
それはひとまず置いて,この値を47都道府県の県庁所在地別に計算してみました。計算に使った3つの値(a~c)と,算出された値の一覧表を以下に掲げます。上記と同様,2014年のデータによる試算結果です。
最高は大津市の2190万円,最低は宮崎市の554万円です。大津市は店舗が少なく,近郊都市で市場もそこそこ大きいので,1店当たりの額が多くなっています。大津市民が中華料理の外食に費やしたおカネの全てが,市内の63店舗に流れたとは限りませんが。
マーケットが最大の東京都区部(23区)は,店舗数が7176店とケタ違いに多いので,1店あたりの配分額は827万円と少ないですね。
競合店の数,落としてくれるおカネの総額を勘案した,1店舗あたりのベネフィットの試算値です。お客さんの地域移動を度外視していますが,流入と流出がトントンになる(相殺する)という仮定を置くならば,全く的外れということにはなりますまい。
今回は中華料理店を例にしましたが,ハンバーガー店,すし店などについても,同じ値を出すことが可能です。『経済センサス』の産業小分類統計に店舗数は出てますし,1世帯あたりの年間支出額は『家計調査年報』に出ています。興味ある方は,どうぞ計算してみてください。私が上表のデータを作成するのにかかった時間は,およそ30分です。
ところで,青森市の1店舗あたりの額は768万円とあまり多くないですね。しかるに最近,この北の地にとても魅力的な中華料理店があるのを知りました。王味(わんみ)というお店です。
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2010/04/post_1488.html
とくに,ニンニクたっぷりの餃子が絶品であるとのこと。青森はニンニクの産出量がダントツでトップですが,そういう地の利が出ていますね。ニンニク大好きの私にとっては,たまりません。写真を見るだけで,唾液反応が出ます。
秋の旅行で,この店に行ってみようかなと考えています。青森まで開通した新幹線にも乗ってみたいですし。晩秋の楽しみができました。
2017年9月4日月曜日
やっぱり教員の勤務時間は長い
教員の過重労働が世に知れ渡るようになってきました。
最近出た,妹尾昌俊さんの『先生が忙しすぎるをあきらめない』(教育開発研究所)の第1章では,教員の勤務時間が異常に長いことが豊富なデータで示されています。
http://www.kyouiku-kaihatu.co.jp/class/cat/desc.html?bookid=000489
私も,教員の長時間労働についてはデータを作ってきましたが,初めてみるデータがいろいろ提示されており,勉強になりました。とくに興味を持ったのは,小・中学校の週間勤務時間分布を,他の産業と比較している表です(25ページ)。
これによると,教員の勤務時間は,キツイといわれる運輸業・宿泊業・飲食業よりもずっと長し。「大変なのは教員だけではない」という声を聞きますが,他の職業と比べてみても,教員の世界は異常なんだなと感じました。
私は,この職業比較のデータをもっと精緻化させてみたいと考えました。妹尾氏は,『労働力調査』のラフな産業分類のデータを使っていますが,『就業構造基本調査』に,もっと細かい職業中分類の就業時間の統計が出ています。
このデータから描ける,全職業の布置図の中に,小・中学校教員のドットを置いてみようと思います。
まずは,小・中学校教員の勤務時間分布を代表値に集約することから始めましょう。下表は,2016年度の文科省『教員勤務実態調査』(速報)による,学校内の週間勤務時間の分布です。原資料では,教諭と管理職(副校長・教頭)に分けられています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/04/1385174.htm
5時間刻みの階級に該当する教員の数が,%値で示されています。最頻階級(Mode)は,小教諭・中管理職が55~59時間,中教諭・小管理職が60~64時間,となっています。現場の感覚からすれば「そんなもんだろう」でしょうが,法定の週間労働時間(40時間)から大きく隔たっています。労基法などどこ吹く風です。
週60時間以上働いている教員の割合は,小教諭が33.5%,中教諭が57.6%,小管理職が62.8%,中管理職が57.8%,です。1日12時間以上勤務している教員が多し。
階級値(階級の真ん中の値)を用いて,週間の勤務時間の平均値(average)を出すと,小教諭が57.3時間,中教諭が63.2時間,小管理職が63.4時間,中管理職が63.5時間,となります。平均でコレとは酷い。
これは,学校内の勤務時間によるものです。自宅での授業準備や持ち帰り残業等も含めれば,事態はもっと悲惨なものになります。
小・中学校教員の週間勤務時間分布を,2つの代表値(週間平均勤務時間,週60時間以上勤務者比率)で表してみました。ここでの目標は,この2指標のマトリクス上に,教員を含めた全職業のドットを配置したグラフを作ることです。
他の職業についても,同じ値を計算しましょう。2012年の『就業構造基本調査』に,週間の勤務時間の分布を職業別に集計した表があります(下記サイトの表34)。これをもとに,上記の2つの代表値を職業別に明らかにしました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search
下表は,算出されたデータの一覧表です。資料的意味合いもこめて,省略はしないで全部掲げましょう。週間平均勤務時間が50時間以上,週60時間以上比率が30%以上の数値は赤字しました。キツイ職業の目安です。
教員の勤務時間は,他の職業に比して長くなっています。長時間労働がいわれる医師,飲食物調理,自動車運転業をも凌駕しています。
グラフにすると,教員が他を抜きん出ている様が分かります。横軸に週間平均勤務時間,縦軸に週60時間以上勤務率をとった座標上に,教員を含む70の職業のドットを配置すると,下図のようになります。
教員は,全職業の標準(点線)からはるかに隔たった,右上のゾーンのあります。教員のデータは,学校内の勤務時間に基づきますが,自宅での仕事時間も加味したら,もっと右上にぶっ飛ぶことでしょう。
タイムカードや残業代という概念が存在しない。公立学校の教員は,月給の4%の調整手当で「使いたい放題」。学校では,一般社会では考えられないことがまかり通っています。かつてデューイは,学校を「陸の孤島」と形容しましたが,労働者の管理についてもそれは当てはまるようです。
先月末に中教審が出した緊急提言によると,ようやく,この異常な環境が是正される見通しが立ってきました(タイムカード導入!)。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20170829-OYT1T50068.html
タイムカードとは,時間を切り売りして給料を得る労働者の世界では欠かせないアイテムですが,教員の世界ではそれがずっとなかった。教員はカネ勘定で働く労働者とは異なる,「教師=聖職者」というような,昔ながらの教師像が残存しているのでしょう。
働き方改革の徹底と同時に,こうした社会の眼差しを正すことも必要です。時代と共に,教師像は「聖職者→労働者→専門職」というふうに移行するといいますが,日本は未だに,最初のステージにとどまっています。
個々の教員は,「やりがい搾取」(本田由紀教授)という罠にはまっていることにも要注意。「子どものためなら」と,現況の異常事態を受け入れてはなりません。ブラック労働を厭わぬ精神を,子どもに植え付けることにもなります。
教員は,社会(子ども,保護者,教育委員会…)からの眼差しを意識して演技する「役者」のような存在です。制度レベルでの労働条件改善は重要ですが,根本的には,教師像を問い直す作業も必要になるでしょう。
時代比較や国際比較で,今の日本社会で,常識と信じて疑われない教師像を相対視する。亡き恩師・陣内靖彦先生の著書『日本の教員社会』(東洋館出版,1988年)は,歴史社会学の視点からそれをやっている名著です。
最近出た,妹尾昌俊さんの『先生が忙しすぎるをあきらめない』(教育開発研究所)の第1章では,教員の勤務時間が異常に長いことが豊富なデータで示されています。
http://www.kyouiku-kaihatu.co.jp/class/cat/desc.html?bookid=000489
私も,教員の長時間労働についてはデータを作ってきましたが,初めてみるデータがいろいろ提示されており,勉強になりました。とくに興味を持ったのは,小・中学校の週間勤務時間分布を,他の産業と比較している表です(25ページ)。
これによると,教員の勤務時間は,キツイといわれる運輸業・宿泊業・飲食業よりもずっと長し。「大変なのは教員だけではない」という声を聞きますが,他の職業と比べてみても,教員の世界は異常なんだなと感じました。
私は,この職業比較のデータをもっと精緻化させてみたいと考えました。妹尾氏は,『労働力調査』のラフな産業分類のデータを使っていますが,『就業構造基本調査』に,もっと細かい職業中分類の就業時間の統計が出ています。
このデータから描ける,全職業の布置図の中に,小・中学校教員のドットを置いてみようと思います。
まずは,小・中学校教員の勤務時間分布を代表値に集約することから始めましょう。下表は,2016年度の文科省『教員勤務実態調査』(速報)による,学校内の週間勤務時間の分布です。原資料では,教諭と管理職(副校長・教頭)に分けられています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/04/1385174.htm
5時間刻みの階級に該当する教員の数が,%値で示されています。最頻階級(Mode)は,小教諭・中管理職が55~59時間,中教諭・小管理職が60~64時間,となっています。現場の感覚からすれば「そんなもんだろう」でしょうが,法定の週間労働時間(40時間)から大きく隔たっています。労基法などどこ吹く風です。
週60時間以上働いている教員の割合は,小教諭が33.5%,中教諭が57.6%,小管理職が62.8%,中管理職が57.8%,です。1日12時間以上勤務している教員が多し。
階級値(階級の真ん中の値)を用いて,週間の勤務時間の平均値(average)を出すと,小教諭が57.3時間,中教諭が63.2時間,小管理職が63.4時間,中管理職が63.5時間,となります。平均でコレとは酷い。
これは,学校内の勤務時間によるものです。自宅での授業準備や持ち帰り残業等も含めれば,事態はもっと悲惨なものになります。
小・中学校教員の週間勤務時間分布を,2つの代表値(週間平均勤務時間,週60時間以上勤務者比率)で表してみました。ここでの目標は,この2指標のマトリクス上に,教員を含めた全職業のドットを配置したグラフを作ることです。
他の職業についても,同じ値を計算しましょう。2012年の『就業構造基本調査』に,週間の勤務時間の分布を職業別に集計した表があります(下記サイトの表34)。これをもとに,上記の2つの代表値を職業別に明らかにしました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search
下表は,算出されたデータの一覧表です。資料的意味合いもこめて,省略はしないで全部掲げましょう。週間平均勤務時間が50時間以上,週60時間以上比率が30%以上の数値は赤字しました。キツイ職業の目安です。
教員の勤務時間は,他の職業に比して長くなっています。長時間労働がいわれる医師,飲食物調理,自動車運転業をも凌駕しています。
グラフにすると,教員が他を抜きん出ている様が分かります。横軸に週間平均勤務時間,縦軸に週60時間以上勤務率をとった座標上に,教員を含む70の職業のドットを配置すると,下図のようになります。
教員は,全職業の標準(点線)からはるかに隔たった,右上のゾーンのあります。教員のデータは,学校内の勤務時間に基づきますが,自宅での仕事時間も加味したら,もっと右上にぶっ飛ぶことでしょう。
タイムカードや残業代という概念が存在しない。公立学校の教員は,月給の4%の調整手当で「使いたい放題」。学校では,一般社会では考えられないことがまかり通っています。かつてデューイは,学校を「陸の孤島」と形容しましたが,労働者の管理についてもそれは当てはまるようです。
先月末に中教審が出した緊急提言によると,ようやく,この異常な環境が是正される見通しが立ってきました(タイムカード導入!)。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20170829-OYT1T50068.html
タイムカードとは,時間を切り売りして給料を得る労働者の世界では欠かせないアイテムですが,教員の世界ではそれがずっとなかった。教員はカネ勘定で働く労働者とは異なる,「教師=聖職者」というような,昔ながらの教師像が残存しているのでしょう。
働き方改革の徹底と同時に,こうした社会の眼差しを正すことも必要です。時代と共に,教師像は「聖職者→労働者→専門職」というふうに移行するといいますが,日本は未だに,最初のステージにとどまっています。
個々の教員は,「やりがい搾取」(本田由紀教授)という罠にはまっていることにも要注意。「子どものためなら」と,現況の異常事態を受け入れてはなりません。ブラック労働を厭わぬ精神を,子どもに植え付けることにもなります。
教員は,社会(子ども,保護者,教育委員会…)からの眼差しを意識して演技する「役者」のような存在です。制度レベルでの労働条件改善は重要ですが,根本的には,教師像を問い直す作業も必要になるでしょう。
時代比較や国際比較で,今の日本社会で,常識と信じて疑われない教師像を相対視する。亡き恩師・陣内靖彦先生の著書『日本の教員社会』(東洋館出版,1988年)は,歴史社会学の視点からそれをやっている名著です。
2017年9月2日土曜日
同一条件の夫婦の家事・育児分担率
夫婦の家事・育児分担率については,何度もデータを出してきました。共働き夫婦でみても,夫の家事・育児分担率はきわめて低い。一貫したファインディングは,コレです。
しかるに共働きといっても,夫と妻では働いている時間が違うだろう,雇用(勤務)形態が違うだろう,という疑問が度々寄せられました。
この疑問に答えられず歯がゆい思いでいたのですが,『社会生活基本調査』(2011年)の公表統計を丹念に見たら,夫婦の働き方を揃えることができるデータが出ているではありませんか。下記サイトの表20~22です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001040666&cycode=0
これらを使うことで,同じくらい働いている夫婦,双方とも正社員(フルタイム就業)の夫婦に限定して,家事・育児分担率を計算することができます。はて,このように就業の条件を揃えた場合,夫婦の家事・育児分担率はどうなるか。ちょっとはマシな数値が出てくるでしょうか。
1)就業時間,2)雇用形態,3)勤務形態,の3つを統制して,夫の家事・育児分担率を出してみましょう。夫婦の平均時間の合算に占める,夫の割合(%)です。就学前の乳幼児がいる夫婦に注目します。
下の表は,平日・土曜・日曜の平均時間から算出した,夫の家事・育児分担率の一覧表です。
双方とも週35時間以上働いている夫婦の平日でみると,夫が43分,妻が284分。就業時間を揃えても,違うものですねえ。夫の分担率は,43/(43+284)=13.1%となります。およそ8分の1です。
まあ,「夫有業+妻無業(主婦)」の伝統的夫婦の5.2%に比したら高いですが,大きな差とはいえません。雇用形態や勤務形態を統制しても,正社員(フルタイム)夫婦の数値は,伝統的夫婦のそれと大差なしです。
むろん,条件をもっと統制する余地はあるでしょうが,基本的な就業条件を揃えても,夫の家事・育児分担率は低い,という事実は知っておくべきでしょう。
なぜ夫は家事(育児)をしないか。仕事時間と当人の意識のクロスから導き出した,「家事をしない夫の4類型」を,先日公表の日経デュアル記事で提示しました。仕事時間を短くすれば,夫は家事をするとは限らない。こういう問題提起です。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=11011
今月の半ばに,2016年の『社会生活基本調査』の生活時間統計が公表されます。上記の同じデータを作ったら,どういう数値になっているでしょうか。事態の改善が見られるでしょうか。ここ数年の「ワーク・ライフ・バランス」施策の評価にもなります。データの公表を,期して待つことにいたしましょう。
しかるに共働きといっても,夫と妻では働いている時間が違うだろう,雇用(勤務)形態が違うだろう,という疑問が度々寄せられました。
この疑問に答えられず歯がゆい思いでいたのですが,『社会生活基本調査』(2011年)の公表統計を丹念に見たら,夫婦の働き方を揃えることができるデータが出ているではありませんか。下記サイトの表20~22です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001040666&cycode=0
これらを使うことで,同じくらい働いている夫婦,双方とも正社員(フルタイム就業)の夫婦に限定して,家事・育児分担率を計算することができます。はて,このように就業の条件を揃えた場合,夫婦の家事・育児分担率はどうなるか。ちょっとはマシな数値が出てくるでしょうか。
1)就業時間,2)雇用形態,3)勤務形態,の3つを統制して,夫の家事・育児分担率を出してみましょう。夫婦の平均時間の合算に占める,夫の割合(%)です。就学前の乳幼児がいる夫婦に注目します。
下の表は,平日・土曜・日曜の平均時間から算出した,夫の家事・育児分担率の一覧表です。
双方とも週35時間以上働いている夫婦の平日でみると,夫が43分,妻が284分。就業時間を揃えても,違うものですねえ。夫の分担率は,43/(43+284)=13.1%となります。およそ8分の1です。
まあ,「夫有業+妻無業(主婦)」の伝統的夫婦の5.2%に比したら高いですが,大きな差とはいえません。雇用形態や勤務形態を統制しても,正社員(フルタイム)夫婦の数値は,伝統的夫婦のそれと大差なしです。
むろん,条件をもっと統制する余地はあるでしょうが,基本的な就業条件を揃えても,夫の家事・育児分担率は低い,という事実は知っておくべきでしょう。
なぜ夫は家事(育児)をしないか。仕事時間と当人の意識のクロスから導き出した,「家事をしない夫の4類型」を,先日公表の日経デュアル記事で提示しました。仕事時間を短くすれば,夫は家事をするとは限らない。こういう問題提起です。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=11011
今月の半ばに,2016年の『社会生活基本調査』の生活時間統計が公表されます。上記の同じデータを作ったら,どういう数値になっているでしょうか。事態の改善が見られるでしょうか。ここ数年の「ワーク・ライフ・バランス」施策の評価にもなります。データの公表を,期して待つことにいたしましょう。