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2017年12月31日日曜日

2017年の総括

 今年もあと,数時間でおしまいです。今年(2017年)の総括をしようと思います。

1)引っ越し
 3月の上旬に,東京都多摩市から神奈川県横須賀市に引っ越しました。前から,「海が見える街」に住みたいと考えていたからです。横須賀といっても,北東の横須賀中央ではなく,対極の南西の長井地区です。

 近くにソレイユの丘や荒崎公園などがあり,とてもいい所。自宅から自転車でちょっと走れば海に出れます。三崎口駅からバスで10分,バス停から徒歩15分と,アクセスはいささか不便ですが,家賃は激安で広い部屋。勤め人ではない私には,ありがたい限りです。移住っていいなあ。

 ただ三浦半島の南西に籠りっぱなしというのはよくないので,週に1回は上京することに決めています。都内の大きな書店をぶらついて,知の肥やしを得ませんとね。

2)単著刊行
 8月の初頭に,『データで読む 教育の論点』を晶文社から刊行しました。4冊目(電子書籍を合わせれば5冊目)の単著です。
http://www.shobunsha.co.jp/?p=4364


 本ブログの一部書籍化です。盛り込みたい内容は山ほどあり,編集者さんと相談して絞りに絞ったのですが,400ページの分量になりました。

 発売から5か月経ちましたが,新宿の紀伊国屋本店ではまだ平積みにしてくださっています。図書館ウケもしているようで,都内の60の公共図書館で所蔵されています(杉並区立図書館は5冊!)。ありがたや。

 統計の本ですが,四則演算しか使っていませんので,中高生でも十分理解できる内容です。高校の学校図書館にも結構入っているようで,うれしく思います。高校の数学には,「数学活用」という科目があると思いますが,「数字で社会現象を捉える」という単元の参考書としてでもお使いくださいませ。
 
3)裁判
 1月半ばに民事裁判を起こしました。3回の口頭弁論を経て,5月末日に判決。ちゃちな事案ですが,それでも5か月はかかるのですねえ。


 望む結果は得られませんでしたが,いい経験になりました。弁護士を立てない本人訴訟でやりましたので,訴状・書面作成,裁判所への出頭など,全部自分でやりました。法廷の原告席は座り心地がよかった…。

 私はいろいろトラブルを起こす人間ですが,問題解決のオプション(持ち駒)が増えたような気がします。「裁判ってこういうもんだ」っていうのが,肌身で分かりました。

 この体験学習に要した費用(授業料)は,1万6000円くらいです。内訳は,訴状に貼った印紙代1万3000円と,民事予納金3000円くらい。「舞田は負けたので,相手の弁護士費用も請求されて破産しているだろう」とかぬかしているアホがいますが,何も知らないのですねえ。

 裁判費用について誤解している人がいますが,負けても「訴状の印紙代と民事予納金はあなたの負担ですよ」と言われるだけです。だいたい,負けたら相手の弁護士費用も負担しないといけないとなったら,怖くて訴訟なんて起こせたものじゃありません。

 私がどういう事案で訴えたかを知りたい方は,東京地裁の14階に行ってください。裁判資料(訴状・答弁書・準備書面・判決文)を閲覧できます。ただし,身分確認が行われ,氏名・住所を記した閲覧申請書も一緒にファイルされますので,個人情報が後の人に筒抜けになることにご注意を。書記官曰く,悪用を防ぐため閲覧者の情報も記録・公開するのだそうです。

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 次に,ブログについてです。2010年末に開設してから,7年が経ちました。その間に執筆した記事数は,本記事を合わせて1370本です。7年=2555日ですので,2日に1本,隔日のペースで記事をアップしてきたことになります。

 このブログも,だいぶ知名度が上がってきました。自分の思うがままの情報を発信できるメディアを持てることを,うれしく思います。今後も,精魂込めて育てていこうと考えております。

 1370本の記事のうち,どの記事が読まれているか。全期間(通算)でみたPV数ベスト10は以下です。


 トップは,2014年2月9日に書いた「職業別の生涯未婚率」。こういうデータはあまり見かけないのか,多くに方に関心を持っていただけました。県別の大学進学率の記事もウケていますね。博士論文以来のテーマですので,今後も毎年,『学校基本調査』のデータで明らかにしていこうと思います。

 今年(2017年)にアップした記事で,通算上位10位の殿堂入りしたものはありませんでした。ちょっと残念です。

 2017年は,本記事を合わせて130本の記事を書きました。この中で,よく読まれた記事のベスト10を挙げると以下のようになります。


 トップは,奨学金の記事です。給付型奨学金の創設など,奨学金改革の時流があったためか,この記事が注目されました。先週の水曜に書いた「年収と子あり率の関連」もランクイン。藤田孝典さんがいう「結婚・出産なんてぜいたくだ」の可視化です。

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 あとはそうですねえ。今年になって,病院通いがとみに増えました。CTも3回撮りました(胸部,脳,歯茎)。歯茎を切開する歯根端切除手術も2回受けました。41になりましたが,体にガタがきているのでしょうか。

 私が出入りしていた大学で社会心理学を教えておられたH先生は,40代半ばの若さで急逝されましたが,私もそんなふうになりそうな予感がします。それならそれでもいいかな…。

 しからば,いつ逝っても悔いがないよう,やりたいことを思う存分したい。願わくは,大きな創作物(作品)を残したい。こういう気持ちでいます。来年の目標(抱負)なんてありません。これまで通り,適当に食い扶持を稼ぎながら,気ままに生きていくだけです。

 私は森高千里さんのファンなんですが,春先にでも,渡良瀬橋の聖地巡礼をしたいな。調べたら,最寄りの三崎口からたった2本で行けます。京急の直通で浅草,そこから東武線の特急で足利市までです。

 来年も,本ブログをよろしくお願い申し上げます。連載の記事(日本教育新聞,日経DUAL,ニューズウィーク)もお読みいただけますと幸いです。それでは皆様,よいお年をお迎えください。

                             2017年大晦日
                               舞田 敏彦

2017年12月30日土曜日

2017年12月の教員不祥事報道

 月末の教員不祥事報道の整理ですが,明日は今年の総括記事にしますので,今日やってしまいます。

 今月,私がネット上でキャッチした報道は53件です。年末のためか,やや多くなっています。飲酒運転や酒がらみのトラブルが多いかと思いきや,教員への信用を失墜させるわいせつ行為が大半です。

 赤字の事案はネット犯罪です。生徒を装って中傷する,元交際相手の女性を装い援助交際を募る…。卑劣極まりありません。どっちも刑事事件となり御用となった次第ですが,匿名であろうと,警察が動けばすぐに身元は割れるのです。

 ツイッターの「ヘイト」投稿が問題になっていますが,手っ取り早い解決策は,有料・実名制にすることだと思うのですが,どうでしょう。言論の自由が脅かされるとか言われますが,自分の素性を明かせない者に,そういう権利を主張する資格はないと思います。ツイッター社としても,苦しい経営を立て直すのに,うってつけではないですか。

 早いもので,今年も明日で終わりです。今年は,いろいろありました。横須賀への転居,単著刊行,初の裁判,2度の歯根端切除術…。明日,主な出来事を記録しようと思います。今年読まれたブログ記事のランキングも出してみます。

<2017年12月の教員不祥事報道>
教材費など21万円、小学校教諭が盗む
 (12/1,北海道新聞,北海道,小,男,28)
タクシー運転手に暴行容疑 小学校教諭を逮捕
 (12/3,MBC,鹿児島,小,男,37)
女子生徒に私的メール/五所一高、男性教諭を懲戒免職
 (12/5,東奥新聞,青森,高,男,20代)
公立中の非常勤講師、児童買春の疑いで逮捕(12/4,TBS,神奈川,中,男,22)
通勤中に女子高生のスカートのぞき、中学教諭逮捕
 (12/5,産経,広島,中,男,23)
児童の着替えを盗撮、さいたま市立小学校の男性教諭を懲戒免職
 (12/7,TBS,埼玉,小,男,26)
<埼玉の中学>教諭が生徒装い中傷 ツイッターに書き込み
 (12/8,毎日,埼玉,中,男,28)
女性教諭が小4児童に性的発言 仙台市の小学校
 (12/9,産経,宮城,小,女,40代)
<懲戒処分>中学校教諭が生徒飲酒に同席、止められず
 (12/9,毎日,静岡,中,男,30代)
酒気帯び疑い高校教諭逮捕 那覇(12/9,産経,沖縄,高,男,45)
32歳小学校教諭、盗撮目的で住居侵入(12/10,日刊スポーツ,北海道,小,男32)
女子中学生にみだらな行為した疑い、埼玉県の私立高校教員を逮捕
 (12/11,TBS,埼玉,高,男,25)
「性欲を抑えられなかった」元小学校常勤講師、強制わいせつ容疑で再逮捕
 (12/11,産経,大阪,小,男,23)
小学校講師万引きで逮捕 「転売する目的」
 (12/11,朝日放送,和歌山,小,女,53)
小学校教諭、児童7人に体罰 平手打ちなど計21件
 (12/12,朝日,愛知,小,男,50代)
柔道中に生徒けが 教諭を業過致傷容疑で書類送検
 (12/12,朝日,愛知,高,男,60代)
高校教諭、生徒に「ぶっ殺す」 平手打ちで鼓膜破る
 (12/13,朝日,岩手,高,男,40)
中学教諭、盗撮目的でタブレット設置か
 (12/14,秋田魁新報,秋田,中,男,40代)
島根の養護学校教諭、大阪で盗撮…県教委、停職6カ月処分に
 (12/14,産経,島根,特,男,54)
「好きです」とメール、ハグも=女子生徒に、50歳教諭停職
 (12/15,時事通信,福島,高,男,50)
「やめられなかった」電車内でスカート内盗撮の小学校長を懲戒免職
 (12/15,神戸新聞,兵庫,小,男,59)
修学旅行中に羽田空港で体罰 秋田の高校教諭を戒告処分 
 (12/15,産経,秋田,高,男,50代)
4年前の追突事故 小学校教諭を戒告処分(12/18,IBC,岩手,小,男,47)
横浜市立中学教諭を逮捕 路上で強制わいせつ疑い
 (12/18,上毛新聞,神奈川,中,男,55)
運動部員に「死ね」発言 宮城、中学教諭を懲戒処分
 (12/18,日経,宮城,中,男,25)
教諭、はさみで女子生徒7人の髪切る 「言葉遣い悪い」
 (12/19,朝日,香川,高,女,20代)
<宮城県教委>体罰や暴言3教諭処分 平手打ち「死ね」「ばか」
 (12/19,河北新報,宮城,中男(24),中男性(55),小男(61))
女子生徒に抱き付き、頬を顔に接触 県教委、セクハラ行為で高校教諭を処分
 (12/20,埼玉新聞,埼玉,高,男,54)
中学生はねられ大けが 運転の男性教諭逮捕(12/20,TBC,宮城,高,48)
市立中学教諭を覚醒剤取締法違反容疑で逮捕
 (12/20,朝日,埼玉,中,男,50代)
女子高生のスカート盗撮 高校教諭を懲戒免職(12/20,産経,山梨,高,男,30)
千葉県立高の女性教諭 高速道路を168キロで走行し戒告「トイレ急いで」 
 (12/21,産経,千葉,高,女,27)
無免許運転容疑で中学教諭を逮捕 静岡(12/21,産経,静岡,中,女,27)
広島県立高の男性教諭をわいせつ行為で懲戒免職処分 
 (12/21,日刊スポーツ,広島,高,男,61)
体操部顧問、女子部員の前髪を抜く 体罰を認め依願退職
 (12/21,朝日,福島,高,男,20代)
中学教諭、男子生徒の下半身触る 愛知、懲戒免職に
 (12/22,朝日,愛知,中,男,35)
赤信号を無視して重傷事故 25歳の女性教師など 北九州市が3人を懲戒処分
 (12/22,TNC,福岡,小,女,25)
元交際相手になりすまし援助交際を募る虚偽の投稿 教諭を懲戒免職処分
 (12/22,産経,滋賀,高,男,25)
九九暗唱する児童の下着盗撮 元教頭の男性教諭を免職
 (12/22,サンスポ,長崎,小,男,61)
障害児作のツリー、教諭が4人分廃棄(12/23,京都新聞,滋賀,特,男,30代)
秋田市の小学教諭、傷害の疑いで逮捕 本人は否認
 (12/24,秋田魁新報,秋田,小,男,50)
酒気帯び運転の疑い 教諭逮捕(12/24,NHK,山形,中,男,55)
セクハラで中学教頭を停職処分 女性教員にキス迫る 
 (12/25,日刊スポーツ,山形,中,男,50代)
酒気帯び運転で教諭免職 静岡県教委が2人処分、窃盗停職も
 (12/26,静岡新聞,静岡,酒気帯び運転:中女27,窃盗:特男38)
小学校教頭がわいせつ行為か 元講師の女性が被害届
 (12/26,朝日,宮崎,小,男)
都教委:生徒に「おまえが死ね」発言の中学教諭を戒告処分
 (12/27,毎日,東京,中,男,28)
人身事故を起こした小学校長を減給処分(12/27,毎日,兵庫,小,女,57)
住居手当の不正受給で停職処分 仙台市立中の男性講師
 (12/27,産経,中,男,30代)
補助金不正受給、神奈川県レスリング協会元役員の教諭ら懲戒処分
 (12/28,TBS,神奈川,高,62歳,53歳,32歳,男性)
電車内で10人以上の女性撮影、公立中学校の教頭に懲戒処分
 (12/28,TBS,神奈川,中,男,58)
「絶対内緒ね」教諭が女子生徒に性的質問…退職
 (12/29,読売,埼玉,中,男,20代)
更衣室にカメラ設置 中学校教諭を逮捕(12/29,HBC,北海道,中,男,41)
勤務先の園児叩く 幼稚園の41歳女性教諭逮捕
 (12/30,産経,兵庫,幼,女,41)

2017年12月29日金曜日

中学校の補助スタッフ数の国際比較

 日本の教員の激務は知られていますが,「教員免許がなくてもできる仕事はしたくない」。こういう思いでいる教員は多いでしょう。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/post-a126.html

 2012年の中教審答申で,教員は「高度専門職」と位置付ける方針が明示されました。専門職とは,特定の(狭い)業務に精通しており,業務の遂行に際して高度な自律性を認められた職業をいいます。

 しかし現実はそれとは遠く,各種調査への回答,給食費の徴収,部活指導など,まるで「何でも屋」のような扱いです。周囲からは専門職と仰がれ,自分自身もそう思いたいにもかかわらず,現実はそうではない。このギャップが,教員の心的葛藤をもたらしています。

 医師や自動車運転手をも凌ぐ長時間労働と同時に,心の内ではこうした葛藤が渦巻いている。このダブルパンチによって,教員は疲弊しきっています。

 願わくは,「教員免許がなくてもできる仕事」は教員以外の人間,いわゆる補助スタッフさんに担ってもらいたいもの。2013年にOECDが実施した国際教員調査「TALIS 2013」から,教員の業務をサポートするスタッフの数を国ごとに知ることができます。
http://www.oecd.org/edu/school/talis-2013-results.htm

 本調査では,各国の中学校の校長に対し,自校の教員数・スタッフ数を尋ねています。以下の5種類の人数を答えてもらっています(校長質問紙調査,問12)。

 a)教員
 b)授業等の補助スタッフ
 c)事務スタッフ
 d)管理職 *校長・副校長も含む
 e)その他のスタッフ

 私は,a~cの数値を国ごとに集計し,教員10人当たりでみて,補助スタッフ・事務スタッフが何人いるかを計算してみました。*ローデータの分析によります。

 日本でいうと,調査対象の192の中学校の教員数は8588人,授業等の補助スタッフは2673人,事務スタッフは1397人です。よって,教員10人あたりの補助・事務スタッフは4.7人となります。教員のおよそ半分です。

 はて,この値は他国と比してどうなのか。調査対象の32か国ついて同じ値を算出し,高い順に並べてみましょう。


 日本は下から4番目です。ざっと見て,教員と補助・事務スタッフが同じくらいという国が多くなっています。色をつけた主要国では,教員の1.5~1.7倍という国が多し。

 中南米の2国では,約2倍です。これらの国では,教員の総勤務時間に占める授業時間の比重が高い,つまり業務はほぼ授業に限定されているのですが,雑務を補助スタッフに委ねられるという条件の故なのでしょうか。

 32か国の平均値は,11.8人です。国際標準は,教員10人に対し,補助・事務スタッフは11.8人であると。後者が前者の半分にも満たない日本の状況は,アブノーマルのようです。

 なお日本国内でみても,学校の特性によって,値には幅があります。私は鹿児島の出身ですが,離島へき地では学校にスタッフがおらず,教員が何から何までしないといけない(だからへき地手当がつく!)。こういう話をよく聞きました。

 しからば,地方か都市の学校かで,上記の数値もだいぶ違うと思われますが,どうなのでしょう。日本の192の中学校を,所在する地域の人口規模で分け,教員10人あたりの補助・事務スタッフ数を計算してみました。


 人口が少ない小都市・村落では,教員あたりの補助・事務スタッフ数が少なくなっています。教員10人につき1人もいません。人口100万以上の大都市でも少ないですが,これはどういうことか…。

 ともあれ,日本では教員の業務をサポートするスタッフが国際的にみても少ない,ということが分かりました。「教員免許がなくてもできる仕事」を負わされ,教員の多くが肉体的に潰れ,心の内で葛藤を抱いています。

 まあ今回のデータは,2013年の国際教員調査のデータであり,来年(2018年)に実施される同調査では,違った結果になっている可能性はあります。「チーム学校」という枠組みの下,部活動指導員をはじめとした各種のスタッフが学校に導入されていますので。

 ただ,スタッフを増やして現状の膨大な業務を分担するというだけでなく,学校に課される業務そのものを減らす,という発想も必要でしょう。教頭等の管理職が一番負担に感じている業務は,国や教育委員会の各種調査への回答だそうです。

 確かに,無駄や重複が多いですからねえ。2年ほど前,都の先生方への講演をしたとき,某小学校の副校長先生が,「本当に無駄な調査が多い。『業務で負担なものは何ですか?』という設問があったが,よっぽど『てめえらの調査への回答だ!』と書こうと思った」とおっしゃり,思わず吹き出してしまいました。

 教員の負担を減らすには,1)補助スタッフを増やす,2)学校に課される業務を減らす,という2つの方策があり,どちらも進めないといけません。

 最初のグラフをもう一度見てほしいのですが,教員の勤務時間が短いイタリアやスペインも,教員あたりのスタッフ数は少なくなっています。推測ですが,これらの国では,学校に課される業務そのものが多くないのでしょう。こういう面の国際比較もできたらなと思います。

2017年12月27日水曜日

年収と子あり率の関連

 「結婚・出産なんてぜいたくだ」。藤田孝典さんの名著『貧困世代』(講談社新書)の帯に,こんなフレーズが出ています。
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062883580

 そうですねえ。私も,男性の年収と未婚率の関連を繰り返し明らかにしてきましたが,その知見からしても,さもありなんです。若者の貧困化が進む中,結婚し子を持つことは,一部の層にしかできなくなっていることではないかと。

 わが国では少子化が進んでいますが,「子を持てる(持てない)のは誰か?」という視点を据えないといけません。子育て年代を経済力のレベルで仕分けて,子がいる者の率を比較する。こういう分析も必要になります。今回は,それをやってみることにしましょう。国際比較で,日本の特徴も浮かび上がらせてみます。

 データは,OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」です。成人の学力調査ですが,年収や子の有無といった事項も調査されています。分析対象は,30~40代の男性にしましょう。私の年代ですが,結婚して育児をしているパパもいれば,私のように未婚・子なしのオトコもいる。この分岐が経済力と関連しているのではないか。こういう仮説です。
http://www.oecd.org/skills/piaac/publicdataandanalysis/

 まずは,この年代の男性のうち,子がいる者は何%かという基本事項を明らかにしましょう。日本は,子の有無を答えた1013人のうち,子ありの者は608人,比率にすると6割ちょうどです。戦後初期の頃なら8割,9割だったかもしれませんが,最近はこんなものでしょう。

 上記調査のローデータから,25か国の数値を計算できます。下図は,高い順に並べたランキング図です。アメリカとドイツは年齢を訊いていないので,ここでの分析に含めることはできません。


 日本は下から2番目です。最下位はイタリア。両国で少子化が進んでいるのは知られていますが,子育て年代の子あり率という指標でも,それが表れています。

 では本題に入りましょう。分析対象の30~40代男性を収入レベルで群分けし,群ごとの子あり率を出してみます。上記の調査では,対象者に年収を尋ね,国全体の分布の中での位置に依拠した階層に割り振っています。以下の6つです。

 Ⅰ Less than 10
 Ⅱ 10 to less than 25
 Ⅲ 25 to less than 50
 Ⅳ 50 to less than 75
 Ⅴ 75 to less than 90
 Ⅵ 90 or more

 これでは各群のサンプル数が少なくなりますので,3つにまとめましょう。ⅠとⅡを「下位25%未満」,ⅢとⅣを「中間」,ⅤとⅥを「上位25%以上」とします。

 各国の30~40代男性をこの3群に分け,子がいる者の比率を計算しました。下表は,結果の一覧です。


 日本の30~40代男性の子あり率は60%でしたが,年収階層別にみると大きく違っています。下位25%未満のプアが32.7%,ミドルが48.5%,上位25%以上のリッチが76.4%と,直線的な傾向です。

 「プア < ミドル < リッチ」という傾向は多くの国で同じですが,傾斜が最も急なのは日本です。それは,リッチがプアの何倍かという倍率(右端)からうかがうことができます。日本は2.3倍で,他を圧倒しています。

 リトアニアやスロベニアでは,階層格差がほとんどないですね。後者では,リッチよりプアが高いくらいです。国民皆平等の共産主義の名残りでしょうか。

 日本は,経済力と結婚・出産の関連が最も強い社会,藤田さんが言う「結婚・出産なんてぜいたくだ」のレベルが,最も高い社会であるようです。*25か国の比較ですが。

 しかし,日本のプア中年男性の子あり率は32.7%と,飛び抜けて低くなっています。これは,2つの局面に分けられるでしょう。1)低収入で結婚できない,2)子育てにカネがかかるので出産に踏み切れない,です。

 1)については,女性が結婚相手の男性に高い年収を求めるからですが,女性は結婚すると稼げなくなるので,そうせざるを得ないのは道理。男女の収入格差を是正する,保育所の増設など,既婚女性の社会進出を促す条件を整える。これが対策になります。
https://twitter.com/tmaita77/status/930769137592184833

 2)は,言わずもがなでしょう。日本の教育費はバカ高。前回記事の試算によると,標準コースでも,子を大学まで出すのにかかる費用は1000万円超えです。子を持てるかどうかが,経済力とリンクするのは当然です。

 「結婚・出産なんてぜいたく,カネ次第」。こういう社会はいかにもおかしい。「貧乏人の子だくさん」という言葉があったように,戦後初期の頃まではわが国もそうではなかった。男性の給与が上がるという展望が開け,上級学校進学率も低く,教育費もかからなかったこと。自営業も多かったので,子は労働力という位置づけでもありましたから。

 そのような条件がなくなっている現在では,国のテコ入れ(支援)が必要なわけです。教育の無償化は教育費(支出)の軽減策ですが,子育て世帯の収入を増やす施策も必要。児童手当のような支給型に加え,夫婦二馬力で稼げるようにすること,そのために欠かせないのが保育所の増設(保育士の待遇改善)ですが,先日公表された「新しい経済政策パッケージ」を見ると,この部分が蔑ろにされているようで,残念な思いがします。
http://tmaita77.blogspot.jp/2017/12/blog-post_9.html

2017年12月23日土曜日

子どもを大学まで出すのにいくらかかるか

 文科省『子供の学習費調査』(2016年度)の結果が公表されました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/1268091.htm

 各学年の保護者が2016年度間に支出した教育費の平均額を知ることができます。原資料では「学習費」という言葉になっていますが,ここでは「教育費」ということにしましょう。授業料・PTA会費・給食費・修学旅行費等の学校教育費と,学習塾費・習い事月謝等の学校外教育費からなります。

 言わずもがな,学年によってかなり違います。公立小学校1年生は34.3万円ですが,中学校3年生になると57.1万円になります。高校受験のため,塾通いをさせる家庭が多いためです。

 公私の差も大きく,小学校1年生でいうと,公立は上述の通り34.3万円であるのに対し,私立は184.3万円にもなります。高額な授業料に加え,制服代や通学費などもかさむためでしょう。

 上記の資料には,幼稚園3歳から高校3年生までの保護者が,2016年度間に支出した教育費の平均額が掲載されています。公立と私立に分けてです。これらをつなぎ合わせることで,子どもを高校まで出すのに必要な教育費のトータルを明らかにできます。

 しかるに大学進学率が50%を超える現在,「子ども一人を育てる」=「大学まで出す」という意味合いになってます。願わくは,大学段階までの教育費も知りたいもの。この部分については,日本学生支援機構の『学生生活調査』(2014年度)のデータを使いましょう。国・私立大学の各学年の年間学費(授業料のほか,課外活動費や通学費等も含む)を充てます。
http://www.jasso.go.jp/about/statistics/gakusei_chosa/2014.html

 以上の仮定を置いたうえで,幼稚園3歳から大学4年生までの年間教育費を公立と私立に分けて整理すると,以下の表のようになります。大学の公立欄は,国立大学の数値です。


 どうでしょう。一番下の数値によると,幼稚園から高校まで公立で,大学は国立に進んだ場合,トータルは803万円です。対して,幼稚園から大学までオール私立だと2274万円にもなります。

 右側の累積によると,オール私立の場合,小学校を上げるまでに1000万円かかることが知られます。

 まあ,オール私立のコースをたどる子どもは少数派でしょう。小学生のうち,私立に通う児童は100人に1人くらいですので。多くの子どもがたどるのは,幼稚園は私立,小学校から高校は公立,大学は私立,というコースではないでしょうか。

 この標準コースの教育費総額は,黄色マークの数値を合算することで出せます。結果は右下の赤字の数値で,1120万円です。子ども一人育てるのに必要な教育費は,1120万円。1000万円超えですが,違和感はない数値です。

 安倍政権の「人づくり革命」とやらで,幼児教育と高等教育(一部)の費用が無償化されるとのことですので,額は今後下がるかもしれませんが,そういう楽観を許さない事実があります。

 冒頭の調査結果のエッセンスを各紙が報じていますが,2014年度から2016年度にかけて,学習塾費が増えているとのこと。

 両年度について,各学年の保護者が支出した学習塾費の平均値を採取し,対比させてみると,以下の表のようになります。人数的に多い公立校のデータです。


 右端の増分をみると,ほとんどの学年で増えていますね。小4と小5,高1と高2は,5000円以上の増です(黄色マーク)。高校生で大幅に増えているのは,国から支給される高校就学支援金で浮いた分を,学習塾費に充てる家庭が多いためでしょうか。

 学習塾費の増加について,日本経済新聞のツイッターでは,「安部政権が進める教育無償化。家計は浮いたお金で塾代を増やすことになるような気もします。となるとこれは教育産業への補助金?」と揶揄されていますが,言い得て妙だと思います。
https://twitter.com/nikkei/status/944228808265048065

 多額の税金(1億円!)をかけて育てた(行き場のない)博士が,塾・予備校に流れているといいますが,国が教育費を投じるほど,こういう業界が潤う仕組みになっているのですかねえ。

 それはひとまず置いといて,最初の表を参考に,お子さんに辿らせようとしているコースを想定し,大学まで出すのにかかる教育費総額をシュミレートしてみてください。東京の場合,「幼稚園は私立,小学校は公立,中学から大学は私立」というコースも多いでしょう。地方では,「高校まで公立,大学だけ私立」という家庭も多いかな。

 各段階の公私組み合わせによって,教育費総額を試算するためのツールとして提供いたします。

2017年12月19日火曜日

クルマか生活保護か

 生活保護費の大幅削減がなされるそうです。大方,保護を受けていない低所得世帯よりも,生活保護世帯のほうが多く貰っているなどというデータに飛びついてのことでしょうが,だとしたら浅はかです。

 を向いてばかりいると,全ての人の生活水準が競い合うようにして奈落の底に落ちていく。こうした「負のスパイラル」に,われわれは気づかないといけません。

 保護を受けられるのはまだいい方で,それに至るハードルが高い問題もあります。生活困窮(要保護)と認められても,「生活保護世帯は**の所有は認められない,処分しなさい」と,行政指導が入ることです。

 中3の公民の授業で,「生活保護世帯は,クーラーを持っていいか」という議題で議論した覚えがあります。今から四半世紀以上前の話ですが,現在では,クーラーは必需品です。真夏の熱中症事故が問題化していますし。

 しかし,今になってもビミョーなのが自動車です。交通の便が著しく悪い地域に住み,通勤に自家用車が欠かせない場合を除き,原則として,生活保護世帯は自動車の所有は認められないとのこと。昨日のブロゴスに,「子育て世帯を直撃する生活保護の自動車保有問題」という記事が出ています(赤石千衣子氏)。「保護かクルマか」。二者択一を迫られる,シングルマザーの悲劇です。
http://blogos.com/article/265794/

 今時,クルマは必須だと思いますがねえ。2014年の『全国消費実態調査』によると,2人以上の世帯でみた場合,自動車の普及率(保有率)は84.8%で,1000世帯当たりの台数は1377台です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001073908

 この値は地域によって違うでしょう。都市部では低く,地方では高いと思います。47都道府県別の数値を整理すると,以下の表のようになります。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。山形は普及率97.4%で,千世帯当たり2111台,均すと1世帯につき2台以上クルマがある計算になります。交通網が発達した東京では,さすがに値は低くなっています。

 ざっと見て,都市部を除いて,クルマが必須という県が多いように思います。世帯普及率9割超の県がほとんどです。赤字は普及率95%超,千世帯当たりの台数1800台超ですが,北関東や中部の県で,クルマの普及度(必要度)が高いようです。

 上表の普及率を地図にしてみましょう。90%未満,90%以上95%未満,95%以上,の3つの段階で各県を塗り分けると,下図のようになります。


 濃い色(普及率95%超)の県で,「生活保護を希望するならクルマを売り払え」と言われるのはキツイでしょう。自家用車がなくても生活しやすい都市部(白色ゾーン)に引っ越せ,とでもいうのでしょうか。それこそ,地方創生に逆行することです。

 広大な北海道が白色になっていますが,札幌市が率を押し下げているためでしょう。県内地域差にも注意しないといけません。

 なお低所得層であっても,自動車を持っている世帯が多いことがうかがわれます。千世帯当たりの自動車数は,年収5分位階層別の数値を知ることができます。最も低い層の数値を取り出し,47都道府県を高い順に並べたのが下表です。貧困世帯1000世帯につき,保有自動車が何台かです。


 貧困世帯に限定しても,多くの県で,1世帯に1台以上ある計算になります。昭和30年代ならいざ知らず,21世紀の今では自動車は奢侈品ではありません。とりわけ地方では,移動に必要な「下駄」のようなものです。

 繰り返しますが,自動車の普及度(必要度)が高い地域において,生活保護の条件としてクルマを手放すことを課されるのは,非常にキツイでしょう。生活困窮状態にありながらも,この条件を受け入れられず,保護を受けるのをためらう(諦める)世帯も多いのではないか。

 この点を統計で可視化する術があります,貧困世帯における自動車普及度(上表の数値)と,生活保護受給世帯率の相関図を描くことです。後者は,2015年7月時点の被保護世帯数を,同年10月時点の一般世帯数で除して出しました。

 下のグラフをご覧ください。


 マイナスの相関関係です。貧困層の自動車所有量が多い県,すなわちクルマの必要度が高い県ほど,生活保護世帯率が低い傾向にあります。

 生活保護世帯率のファクターとしては,都市か地方かといった基底的特性に加え,各県の生活保護行政の方針のようなものも考えられますが,自動車保有問題との関連もうかがわれますねえ。冒頭で紹介した赤石氏の記事でも,そのようなことが言われています。

 年収5分位の最下層には,母子世帯が多く含まれるでしょう。保護の代償にクルマを取り上げられるとあっては,通勤や子どもの送迎もままならなくなる。しからばと保護申請を断念し,困窮状態を耐え忍ぶ…。地方では,「クルマか生活保護か」の選択を迫られるシングルマザーが少なからずいると推測されますが,どうでしょうか。

 なお,母子世帯の中での生活保護世帯率に限ると,貧困世帯の自動車保有量(上図の横軸)とは,もっと強く相関しています。相関係数は-0.84にもなります。
https://twitter.com/tmaita77/status/943306554803085317

 低所得世帯を対象とした調査で,この説の裏付けのデータが得られたらなと思います。各県の行政がその気になれば,すぐにだってできるでしょう。まずは,母子世帯に限定してもいいです。埋もれている貧困を掘り出すための一歩を踏み出さないといけません。

 しかしこんなデータを待たずとも,交通網に乏しいエリアでは,生活保護世帯であっても自動車の所有は認められるべきと考えます(高級車以外)。また今後,移動という機能だけを目的としたミニカー(1~2人乗り)もどんどん出てきますので,こういうマシンの貸与なども考えられてよいでしょう。

 赤石氏の記事では,「データをさらに集めながら,生活保護の自動車保有の問題を正面からとりあげるべきなのではないだろうか」と書かれています。ここで示した都道府県単位のマクロデータが,その礎石になれば幸いです。

2017年12月15日金曜日

職業別の生涯未婚率(2015年)

 2015年の『国勢調査』の抽出詳細結果(産業・職業)が公表されました。これをもとに,細かい職業中分類別の生涯未婚率を計算することができます。

 職業別の生涯未婚率は,2012年の『就業構造基本調査』をもとに出したことがあります。下記リンク先の記事ですが,本ブログで最も読まれています。結婚しづらい職業は? こういう関心があるのでしょうか。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/02/blog-post_9.html

 3年を経た2015年の『国勢調査』のデータでは,どういう結果になるでしょう。それをご覧に入れようと思います。

 生涯未婚率とは,字のごとく生涯未婚にとどまる人の割合のことで,統計上は,50歳時点の未婚率とされます。この年齢以降は,結婚する人はほぼ皆無であろう,という仮定を置くわけです。

 5歳刻みの官庁統計から生涯未婚率を出す場合,40代後半と50代前半の未婚率を平均する,という便法がとられます。全職業の男性就業者でいうと,40代後半の未婚率は21.6%,50代前半は16.6%ですから,両者を均して生涯未婚率は19.1%となります。女性は14.1%となります。男性のほうが高いのですね。

 これは全就業者の生涯未婚率ですが,職業別にみると,値にはバラツキがあります。男女差の傾向も違っています。

 下記サイトの表7のデータをもとに,57の職業に従事する男女の生涯未婚率を計算してみました。配偶関係不詳者を分母から除いて出した,40代後半と50代前半の未婚率の平均値です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001097278&cycleCode=0&requestSender=search

 40代後半~50代前半の就業者が1000人に満たない職業は計算を見合わせ,「**」としています。


 25%(4人に1人)を超える数値には,黄色マークをしました。男性のマックスは包装従事者で63.2%で,女性は著述家・記者・編集者で35.4%となっています。男性は労務職,女性は専門職で生涯未婚率が高い傾向にあります。

 うーん,私が関わった女性編集者さんには,未婚の方が結構いるような…。

 右端の数値は,女性の生涯未婚率が男性の何倍かを表す倍率です。赤字は1.5倍超ですが,管理職や専門職で「男性<女性」の度合いが高くなっています。研究者もジェンダー差が大きく,男性は13.3%であるのに対し,女性は26.3%です(2倍)。

 上表のデータをグラフにすると,生涯未婚率のジェンダー差の構造が分かりやすくなります。横軸に男性,縦軸に女性の生涯未婚率をとった座標上に,双方が分かる52の職業のドットを置いてみましょう。


 斜線は均等線で,このラインより上にある職業は,生涯未婚率が「男性<女性」であることになります。

 赤枠の内部にあるのは,女性の生涯未婚率の絶対値が高く,かつ性差が大きい職業です。著述家,編集者,アーティスト,研究者…。高度な専門性を要し,多大なコミットメントを求められる職業ですが,家庭との両立が難しい現実もあるでしょう。

 ちなみに,2012年の『就業構造基本調査』では「医師」という職業カテゴリーがありましたが,この職業の生涯未婚率の性差は非常に大きなものでした(冒頭のリンク先記事参照)。2015年の『国勢調査』では,医師の生涯未婚率のジェンダー差が見れないのが残念です。

 その代わりといっては何ですが,教員に注目してみましょう。教員も高度専門職で,生涯未婚率は男性より女性のほうがかなり高くなっています(男性10.5%,女性17.0%)。教員の激務はよく指摘されますが,女性にあっては,親のサポートが得られるなどの条件がない限り,家庭との両立は甚だ困難である面もあるでしょう。

 ところで,教員の生涯未婚率は県によって大きく違っています。2015年の『国勢調査』では,職業別の生涯未婚率を都道府県別に計算することができます。下表は,教員男女の生涯未婚率を高い順に並べたランキング表です。


 女性教員の生涯未婚率のトップは,わが郷里の鹿児島ではないですか。3割を超えています。中学の時,「小学校の先生になりたい」と言った女子生徒に,担任が「ヨメの貰い手がなくなるぞ」と言い放ったのを思い出します。

 その一方で,当県の男性教員の生涯未婚率は7.2%。差が大きいですねえ。同じ九州の長崎は性差がもっと激しく,男性は最下位なのに,女性は3位です。女性教員の生涯未婚率は,男性の5倍以上です。

 「女性教員の生涯未婚率/男性教員の生涯未婚率」の倍率を地図にすると,地域性が浮かび上がります。2倍未満,2倍以上3倍未満,3倍以上の3段階で,47都道府県を塗り分けると,以下のようになります。


 むうう。九州県の多くが濃い色で染まっています。トップの長崎は5.3倍,郷里の鹿児島は4.3倍…。

 男性教員は結婚しやすいが,女性はその逆。九州では,家庭生活において女性にかかる負荷が大きく,教員という激務の職業と「妻」の二足の草鞋を履くのが困難ということか。女性教員の側も,そんな生活は願い下げと思っているのかも。

 最近の世論調査をみると,性別役割分業意識は九州はさほど強くなく,「九州は男尊女卑」ってのは昔のことで,今は変わった。こんなふうに言われますが,上記のような統計をみると,「まだまだ」っていう感じかなあ。

 口先の意見ではなく,実際にどういう行動をとっているか。本ブログで繰り返しデータを示したように,男性の未婚率は所得とマイナスの相関,女性はプラスの相関関係にあります。職業別の散布図のグラフ(2番目)からも,それはうかがえるでしょう。

 人間の行動は,とても正直です。世論調査の時系列データでもって,「性役割意識はかなり薄くなった」といわれますが,男女の結婚行動を子細に観察すると,上記の通りです。

 人がどういう動いているかという事実(fact)に注目することの重要性を,強調しないわけにはいきません。

2017年12月9日土曜日

教員給与の段階比較

 「新しい経済政策パッケージ」なるものが閣議決定されました。
http://www5.cao.go.jp/keizai1/package/package.html

 目玉は,幼児教育と高等教育の無償化です。前者についていうと,3~5歳の幼稚園・認可保育所の費用は一律無償,3歳未満は非課税世帯に限って無償にするそうです。ここにかなりの財源が投入されるのですが,懸案の保育士の給料はというと,月額3000円上がるだけ…。

 うーん。待機児童問題の原因は保育所不足,保育所不足の原因は保育士不足,保育士不足の原因は生活が成り立たぬほどの超薄給であること。すっかり知れ渡っていることですが,この部分を蔑ろにしていいものか。保育所を無償にしても,入れなければどうしようもないですからね。

 データを出すのも嫌になりますが,2016年の厚労省『賃金構造基本統計』によると,保育士の所定内平均月収は21.6万円で,46.7%,半分近くが月収20万円未満となっています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 この手のデータは至る所で提示されますので,「そんなもんだろう」という感覚が定着してしまっていますが,他の段階の教員給与と比較することで,その異常性を改めて浮き彫りにしてみましょう。

 幼稚園から大学までの各段階の教員給与は,文科省『学校教員統計』から知ることができます。最新の2016年度の統計から,平均月収と月収20万未満の者の割合を拾ってみます。ここでいう月収とは,諸手当は含まない本俸額です。高校以下のデータは,下記サイトの表15から拾うことができます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001094519&cycode=0

 下表は,採取したデータの一覧表です。


 想像通りですが,上の段階ほど給与は高くなります。しかし,就学前と初等・中等教育の段差が大きいですねえ。平均月収は10万円以上,月収20万未満の薄給率に至っては全然違います。

 教員の年齢構成や学歴構成などの違いにもよるでしょうが,この落差はひどい。人格の礎が築かれる時期の教育(保育)には,高い専門性が求められるはず。にもかかわらず,ここまでの給与差があるのはどういうことか。

 上表のデータを二次元グラフにすると,就学前教育段階の外れっぷりがよく分かります。


 最も悲惨なのは,創設されて間もない認定こども園(幼保連携型)。そして,幼稚園と保育所が近い位置にあります。

 保育士の薄給問題に隠れて,あまり取り沙汰されることはないのですが,幼稚園教員の待遇の悪さも際立っています。幼稚園は,3歳から5歳の幼児の教育を行う「学校」ですが,そこで働く教員の大変さもよく言われます。小学校にもまして,モンスター・ペアレンツの出現度が高いとか…。

 それにもかかわらず,上図から分かるように,待遇は劣悪。そのせいかは分かりませんが,幼稚園教員の病気離職率は,小学校以降の段階に比して,各段に高くなっています。以下の表は,6つの段階の病気離職率です。2015年度間の病気離職者数を,同年5月時点の本務教員数で除して算出しました。前者の出所は『学校教員統計』(2016年度),後者は『学校基本調査』(2015年度)に出ています。


 あまり強調されることはないのですが,教員の問題が最も深刻なのは,就学前段階かもしれません。

 ここでご覧に入れたデータから,初等以降の段階に比して,想像以上の薄給であることが分かってしまいました。富裕層を優遇することにもなりかねない一律無償化よりも,保育士や幼稚園教員の待遇を改善し,待機児童問題の解消や「質」の担保に重点を置くべきかと思います。

 日本の高等教育費の対GDP比が低いのはよく知られていますが,就学前教育費の対GDP比も低し。2014年の国際統計によると日本は0.24%で,OECD加盟国では下から4番目です(OECD平均は0.84%)。
http://www.oecd.org/edu/education-at-a-glance-19991487.htm

 消費税アップで得られる財源を教育振興に充てるのは結構ですが,優先順位を誤らないようにしていただきたいと思います。

2017年12月5日火曜日

女子の理系タレントの活用度

 日本は,リケジョが少ない国であることは,もうすっかり知れ渡っています。自然科学・数学専攻の高等教育機関入学者に占める女子比は,2015年でみるとわずか25%,4人に1人です。
http://www.oecd.org/edu/education-at-a-glance-19991487.htm

 国際的にみて,日本は女子の理系学力が高いのに,これはどうしたことか。異国の人からすれば甚だ疑問のようで,OECDのスキル局長は,理系の成績が優秀な「女子生徒が理系を志望しないことが問題」と指摘しています。
http://benesse.jp/kyouiku/201710/20171018-1.html

 そうですねえ。たとえば,理科の成績が優秀な高校生を取り出し,男女の内訳を観察してみると,そんなに大きな偏りはありません。OECD「PISA 2015」において,科学的リテラシーの成績が優秀な15歳生徒(習熟度レベル5・6)の性別内訳は,男子が59%,女子が41%です。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 にもかかわらず,理系専攻の大学入学者の女子比は,冒頭で記したように25%でしかないと。女子の理系タレントがフル活用された場合の期待値(41%)より,だいぶ低くなっています。

 しかし,他国はさにあらず。日本と北欧のノルウェーを対比してみると,下図のようになります。


 理科が得意な生徒の性別構成は,日本もノルウェーも同じです。しかしながら,理系の大学入学者のそれは大きく違っている。日本は「3:1」ですが,ノルウェーはちょうど半々です。ノルウェーでは,期待値を上回ってすらいます。

 なるほど。OECDの局長が言うように,日本では,理系の成績が優秀な女子生徒が「理系を志望しない」というのは,確かなようです。上記は日諾比較ですが,比較の対象を増やすと,日本の特異性が分かってしまいます。

 以下に掲げるのは,横軸に理科が得意な15歳生徒の女子比,縦軸に理系専攻の高等教育機関入学者の女子比をとった座標上に,OECD加盟の26か国を配置したグラフです。米仏は,縦軸のデータが得られないので,分析対象に含めていません。


 ご覧のように,日本は諸国の群れから外れた位置にあります。縦軸の値が極端に低いからです。理科が得意な高校生の女子比は中ほどですが,理系の大学入学者のそれは,他国と大きく水を開けられています。

 図の斜線の数値は,縦軸の値が横軸の何倍かという倍率です。この値が高いほど,女子の理系タレントが活用されていることになります。

 1.0は,女子高生の理系タレントがフル活用された場合の期待値ですが,これを大幅に下回っているのは日本だけです。横軸が41%,縦軸が25%ですので。

 他の国はいずれもこのラインよりも上にあり,ポルトガルなどの4国は1.5倍以上です。ポルトガルは,理科が得意な生徒の女子比は35%ですが,自然科学専攻の大学入学者の女子比は59%にもなります。わが国と全然違いますね。

 女子の理系タレントの活用度を可視化すべく,この倍率が高い順に26か国を並べてみましょう。


 何も言いますまい。日本の活用度は最下位,裏返すと浪費度がダントツでトップです。

 昨日のニューズウィーク日本版に「イスラム圏にリケジョが多い理由」という記事が載っています。答えはズバリ,試験の成績によって専攻が(機械的に)振り分けられるからだそうです。
https://twitter.com/noguchi_y/status/937658966976466944

 極端な話,日本もこうすれば,リケジョが増えることは間違いありません。しかしこれは当人の意向を無視することで,現実の選択肢としてはあり得ないでしょう。

 やはり内発的なアスピレーションそのものを高めないといけないのですが,理系教科ができる女子を特別視しなこと。まずは,これに尽きます。

 それと,進路選択を控えた中高生の女子生徒に,リケジョの役割モデルを見せること。そのための一番の戦略は,中高の理系教員の女性比率を高めることです。日本は,この部分でも弱い。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/06/blog-post_28.html

 理科・数学教員の女性比率と,女子中学生の理系職志望率の間に相関関係がみられるか。『全国学力・学習状況調査』のデータに設問をちょっと潜ませ,学校単位・市区町村単位のデータで分析してみるのもいいと思いますが,どうでしょうか。