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2018年10月28日日曜日

性別・年齢層別の転居の理由

 10月も下旬,爽やかな秋晴れの日が続きますが,いかがお過ごしでしょうか。昨年の3月初頭に横須賀に越してきてから,1年8か月ほどになります。この地でも生活も落ち着いてきました。

 なぜ東京から転居したかというと,近くに海がある暮らしがしたかったからです。大学非常勤講師の職を辞し,家賃の高い東京にいる必然性がなくなったのもあります。

 ツイッターで何度も書いてますが,私は,居を固定する気にはなれないのですよね。家を建てる資金があったとしても,賃貸暮らしを選びます。変動の激しい時代,一つの場所に定住を強いられることの苦痛(リスク)は小さくないと思うのです。どういう土地での暮らしが有利になるかは,今後,目まぐるしく変わっていくでしょう。

 それに私自身,気が移ろいやすい人間です。理由は後述しますが,「また転居しようか」という気が芽生えてきています。

 転居をする人は,年間にどれくらいいるのでしょう。2017年10月に実施された『就業構造基本調査』によると,直近の1年間(2016年10月~2017年9月)に転居した15歳以上人口は616万人となっています。私も,そのうちの一人です。

 私の年齢層の40代前半だと,男性が27万人,女性が23万人ほどです。仕事,子育てといろいろ役割が課される時期ですが,どういう転居の理由はどういうものか。マイナー(曖昧)な理由の掃きだめである「その他」を除いて,理由の内訳を整理すると,以下の表のようになります。上記調査の全国編「人口・就業に関する統計表」の第192表から作成したものです。


 男性では「転勤」,女性は「子どもの養育・教育」という理由が最も多くなっています。性差に注目すると,差が飛び抜けて多いのは「家族の仕事の都合」です。男性は3.8%でしかないのに対し,女性では27.6%をも占めます。

 女性の場合,夫の転勤に付いて行く,いうものでしょう。転勤族の夫と結婚し,目まぐるしく居を変える妻のことを「転妻」と呼ぶのだそうです。

 これは40代前半のデータですが,当然,ライフステージによる違いもあります。5歳刻みの年齢層別に同じデータをつくり,年齢変化を滑らかに見て取れる面グラフにすると,以下のようになります。


 10代では大学進学等による転居(通学)が多く,20代前半では就職に伴う転居が多くなります。その後は結婚・子育てといった,家族形成に関する理由が幅を利かせ,50代以降では老親の介護という理由での転居が増えてきます。データは実に正直です。

 ジェンダーの差も出ており,働き盛りの男性では「転勤」,女性では「家族の仕事の都合」が幅を利かせています。先に指摘しましたが,男性と女性の一番の違いはココです。

 昔は,妻が夫の転勤についていくのは致し方ないことと諦められていましたが,今ではさにあらず。夫婦とも正社員の共働き家庭も多くなっており,「なぜ妻が辞めないといけないのか」という声も強くなっています。夫の転勤のたびに,これまで築いてきたキャリアや人間関係をリセットされ,どんどん無力化(奴隷化)されていく「転妻」の問題もクローズアップされるようになってきました。

 「家族の仕事の都合」という理由での転居者の実数にすると,男女の差がインパクトあるものになります。最初の表によると,40代前半では男性が6700人,女性が3万4700人でした。以下のグラフは,5歳刻みの数の年齢カーブです。


 男性より女性で圧倒的に多いことが知られます。女性の全年齢を合算すると,およそ29万人です(男性は約8万人)。これだけの女性が,家族の仕事の都合(≒夫の転勤に付いて行く)という理由で,転居をしているわけです。

 ピークは,20代後半から30代です。ちょうど結婚期と重なっています。一緒になった相手の転勤により,仕事を辞めないといけないのではないかと,気が気でない女性も少なくないでしょう。昔と違い,離職の損失が大きい正規雇用の職に就いている女性も多くなっています。もしかすると,未婚化の遠因はこういう所にもあるのかもしれません。

 こういうことで女性の労働力が失われるのはマズイという認識からか,地域間で人材を融通し合っている業界もあるようです。たとえば地銀で,転居前に銀行に勤めていた人が,転居先でも同種の仕事で働けるよう,人材のデータベースを作っているとのこと。
https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2017/01/0123.html

 ただ,転勤命令は場合によってはパワハラに当たる,という議論もあるようです。当人の家庭状況も考慮する必要がある,ということです。米国では,夫婦が同じ寝室で寝なくなったら夫婦関係の破たんを意味する,という考えから,著名な研究者を大学が引き抜く際は,配偶者のポストも用意しないといけないのだそうです。

 日本では,こんな話はまず聞きません。,家族の仕事の都合(≒夫の転勤に付いて行く)という理由で転居する女性は,年間およそ29万人。この数字の重みが伝わってきます。公共の福祉に反しない限り,国民は転居の自由を有すると憲法22条で規定されてますが,それを無慈悲に強いるのも,公共の福祉に反するといえるでしょう。

**********

 まあ私は,「転居の自由」をプラスの意味合いで行使させてもらっています。気が移ろいやすく,一つの所に留まっていられない性分です。昨年の春に越してきたばかりですが,上述のように「また転居しようかな」という風が吹き始めています。

 42歳になり,そろそろ独り身に疲れてきて,ペットを飼育しようかと思うのです。夕刻のウォーキングでいつも会うおじさんが連れている,ミニチュアダックスフンドの子犬にベタぼれし,飼いたいなあと思いました。

 今住んでいるアパートはペットは不可。今度,大家さんと顔を合わせた時,「小型犬を一匹いいですかね」と,さりげなく聞いてみようかと思いますが,多分ダメでしょう。しからば,転居をしないといけない。

 横須賀を離れるつもりはなく,同市内で今の部屋と同じくらいの家賃で,ペット可の物件を探してみたら,結構あるじゃありませんか。

 飼う犬は,ミニチュアよりも更に小型のカニンヘンダックスがいいかな。ブリーダーのページを眺める日が続いています。
https://kaninchen-dachshund.min-breeder.com/

 ネットで調べてみたら,年間の飼育費用のトータルは25万円ほど。今の稼ぎを,1か月あたり2万円増やせばいいだけです。これくらいなら,難しくはありません。今連載しているメディアの記事掲載頻度を増やす,有料「note」を始める,不本意ですがブログのマネタイズを始めるなど,いろいろ手はあります。

 どうなるか分かりませんが,来年は,私にとって初の「同居者(犬)」ができる年になるかもしれません。

2018年10月23日火曜日

20代後半の未婚男性の所得中央値

 29歳で年収550万円の男性が,「普通の男の婚活」という記事をブログに投稿したところ,「その年でその年収は普通か?」という反応が相次いでいるそうです。
http://news.livedoor.com/article/detail/15475640/

 今時,29歳で500万以上も稼ぐ人なんて,そういないでしょう。この人は婚活中ということですので未婚者かと思いますが,20代後半の未婚男性の所得分布をとってみましょうか。2017年の『就業構造基本調査』から,データを作ることができます。都道府県編の「人口・就業に関する統計表」の表23です。


 「DB」ボタンを押して,「性別 × 年齢 × 配偶関係 × 所得」のクロス表を作るといいでしょう。この資料でいう所得とは,税引き前の年間所得額です。

 下の表は,20代後半の未婚男性有業者(204万人)の所得分布表です。所得の階級区分は,原資料によります。


 一番多いのは,300万円台となっています。全体の28.4%がこの階層に属します。冒頭のブログの主は年収550万とのことですが,上記の全国統計によると,所得が500万円を超えるのは全体の7.1%しかいません。ご自身を「普通の男」と称していますが,全然普通じゃないですね。

 では,この年代の「普通の男」の収入はどれくらいか。上記の度数分布表から代表値を出してみましょう。よく使われる平均値よりも,中央値(Median)がベターです。中央値は,全データを高い順に並べた時,ちょうど真ん中にくる値をいいます。

 このブログを長くご覧いただいている方はお分かりでしょうが,度数分布から中央値を出すときは,按分比例を考えを使うのですよね。累積相対度数が50ジャストの中央値は,300万円台の階級に含まれることが分かります。

 按分比例を使って,その値を割り出しましょう。以下の2ステップです。

① 按分比=(50.0-48.8)/(77.3-48.8)=0.042
② 中央値=300+(100×0.042)=304.2万円

 はじき出された中央値は,304.2万円です。これが,20代後半の「普通の男」の所得です。冒頭のブログ主の男性(29歳,年収550万円)は,これから大きく隔たっています。「普通じゃねえだろ!」という反発(嫉妬)が寄せられるのは当然なり。

 結婚期のフツーの未婚男子の所得は300万円ちょっと,税引き後の手取り年収だと,確実に200万円台です。婚活中の若い女性にすれば,頭をガツンと殴られる感じでしょうね。しかるにこれが現実。

 地域別にみると,もっと悲惨な状況が露わになります。同じやり方で,20代後半の未婚男性の所得中央値を,47都道府県別に計算してみました。一昨日,ツイッターで発信したところ,非常に多くの方が見てくださっています。ここに,結果を再掲いたしましょう。


 20代後半の未婚男性の所得中央値が300万円を越えるのは12県だけです。先ほどみた全国値(304.2万円)は,人口が多い大都市に引きずられたものであることが知られます。全国値だけを見ていてはダメですね。

 35の県では,所得中央値が300万円を下回っており,250万円に届かない県も5県あります。郷里の鹿児島はここに含まれちゃっています。本県の婚活女性は,300万稼ぐ男性に出会えたら「御の字」というところです。婚活イベントにやってくる,フツーの若い男性の所得が244万円なんですから。繰り返しますが,これは税引き前の所得で,手取りにしたらもっと悲惨な数値になります

 このデータは,各地の婚活業者の参考になるかと思うのですが,どうですかねえ。「400万,できれば500万の収入がある人を」と口にする女性が目にしたら,ぐうの音も出なくなるでしょう。

 ツイッターのリプで「これは未婚者のデータで,稼ぐ人は早く結婚するんじゃないか」という疑問がありましたが,既婚者も含む全体のデータも大して変わりません(右欄)。鹿児島は,244万円から263万円にアップする程度です。既婚者を含めても,300万円のラインには程遠し。

 これまで何度も申していますが,夫婦二馬力じゃないとやっていけない時代になっているのですね。専業主婦という選択肢は,現実問題としてかなり難しい。

 しからば,二馬力が可能になるように保育所を増設しないといけないのですが,政府がしていることを見るとどうでしょう。認可保育所の費用が無償になる一方で,保育士の給与は月額3000円ほど上げるだけとのこと。これでは保育士のなり手は増えず,待機児童問題は解消されないでしょう。消費税アップで得られた財源の用途を,間違えないでほしいものです。

 ブロゴスで,「アマゾン本社に6000匹の犬が出社 増えるペットOKの職場 認められる効果」という記事が出ていますが,子連れ出勤を広めることはできないものか。イタリアやニュージーランドで,子連れで出勤する議員の姿には勇気づけられます。
http://blogos.com/outline/333312/

 今回のデータから若者の貧困化が痛いくらい分かりますが,その挽回を,当事者にのみ委ねるのは酷というものです(夫婦でもっと働け,というように)。聞けば,企業の内部留保は過去最高になっているとのこと。それでいて,労働者の給与(取り分)は惨憺たる状況。労働者への配分率を高めるべきかと思います。それが,消費の活性化,出生率の向上となって,社会全体に潤いをもたらすでしょう。

 「若者の**離れ」が言われますが,それは「おカネの若者離れ」に由来する部分が大きいことも,今回のデータからうかがえるかと思うのです。

2018年10月22日月曜日

ヴェルニー公園

 今日は天気がよかったので,ちょいと出かけてきました。行先は,横須賀市の名所,ヴェルニー公園です。横須賀製鉄所の建設を指導し,日本の近代化に貢献した,フランス人技師のヴェルニーに因むそうです。
http://www.kanagawaparks.com/verny-mikasa/verny/


 JR横須賀駅前に入り口があります。海に沿った長細い公園で,園内の至る所にバラが咲いています。欧風の作りで,気品の良さが漂っています。夕刻や夜間は,カップルも多くなるのでしょうね。横浜の山下公園に勝るとも劣らない,デートスポットなのかな。

 園内には,コルセールというカフェレストランがあります。ちょうどお昼前でしたので,ここで昼食をとりました。海を見ながらくつろげるお店です。テラス席も用意されています。


 注文したのは,横須賀海軍カレー。ここは本場のようで,1200円とやや値が張りますが,出てきたのはアートと呼べるような代物です。マンゴージャムが入っていて,程よい甘さが添えられているのもいい。


 海軍カレーは市内のいろいろな店で食べましたが,私が経験した限りでは,ここのがベストかな。

 この店はオシャレなんで,会合にもいいなあ。横須賀駅までお出ましいただき,海を見ながら店までご案内。平日は予約もOKとのこと。会合に使うお店のオプションが増えました。

 ただ京急の横須賀中央駅とは違い,JRの横須賀駅は都心からのアクセスがやや不便です。横須賀線は,大船,鎌倉,逗子をぐるっと迂回してきますので。やはり,横須賀中央駅から徒歩3分,三笠商店街にある南蛮茶屋が第一候補ですね。

 ヴェルニー公園を出て,異国情緒漂う「どぶ板通り」を冷やかした後,その南蛮茶屋に久々に行きました。

 店主夫人に挨拶し,「ツイッターを始めたのですね」と言ったら,「お店紹介のツイートをRTしてくれましたか?それを見せてくれれば,コーヒー一杯無料ですよ」と言われました。ツイッター開設記念のサービスだそうです。


 いやあ,ありがたい。おかげで,アイスコーヒーとシナモントーストのセットに420円でありつけました。
 

 横須賀においでになった時は,上記リンク先のツイートをRTし,南蛮茶屋に行きましょう。ヨコスカの雰囲気が漂ったお店で,至福の時を過ごせます。

 10月も下旬になり,朝晩は冷え込むようになりました。季節の変わり目,体調管理には気を付けましょう。

2018年10月18日木曜日

チャンスが開けている県

 「チャンス」とは,響きのいい言葉です。一攫千金のチャンス,一旗揚げるチャンス…。こういうフレーズをよく聞きますが,本記事でいう「チャンス」とは,こういう文脈のものではありません。

 また,前途ある若者とセットで語れることが多いですが,チャンスというのは,若者の占有物ではありません。どのステージの人にも,等しく開かれたものです。

 私は,自分が属するアラフォー年代について,ライフチャンスが開けている度合いを県ごとに比較することを思い立ちました。これまでとは異なる,21世紀型のライフコースをとれるチャンスです。やり直しができるか,自由な働きができるか,基本的な観点はコレです。この観点のもと,以下の5つのチャンスを考えてみます。

 1)結婚するチャンス
 2)事業を興すチャンス
 3)フリーで働くチャンス
 4)学び直しのチャンス
 5)非正規から正規に上がれるチャンス

 伝統的な意味合いの結婚期を過ぎたアラフォーでも,結婚を望む人は数多し。起業やフリーランスは,21世紀型の働き方として推奨されています。学び直しは,生涯学習社会の要請に応えるもの。最後の5番目は,「再チャレンジ!」です。

 各項目を可視化すべく,以下の統計指標を計算しました。分析対象は,35~44歳のアラフォー年代です。

1)婚姻率
 分子=2015年中に婚姻(初婚)を届け出た夫の数
 分母=2015年10月時点の未婚男性数
 *分子は厚労省『人口動態統計』,分母は総務省『国勢調査』

2)起業者率
 分子=2017年10月時点の起業者数
 分母=同時点の就業者総数
 *分子・分母とも,総務省『就業構造基本調査』

3)フリーランス率
 分子=2015年10月時点の雇人のいない業主者数
 分母=同時点の就業者総数
 *分子・分母とも,総務省『国勢調査』

4)通学人口率
 分子=2015年10月時点において,労働力状態が「通学のかたわらで仕事」ないしは「通学」の者
 分母=同時点の総人口(労働力状態が不詳は除く)
 *分子・分母とも,総務省『国勢調査』

5)非正規から正規への移動率
 2017年10月時点の正規職員のうち,初職が非正規雇用であった者の比率。
 *総務省『就業構造基本調査』

 これらの5つの指標をもとに,21世紀型のライフチャンスの開放度を,47都道府県別に比べてみようという目論見です。

 まずは,合成する前の数値から見ていただきましょう。指標によって単位が違うので注意してください(‰は,千人あたりの数です)。黄色マークは最高値,青色は最低値を意味します。赤字は上位5位です。



 アラフォーの未婚男子の結婚チャンスですが,首位は東京です。遅まきながらの結婚チャンスは大都市にあり。しかし,2位以降はバラけており,わが郷里の鹿児島も上位5位にランクインしています。男が県外に出て行っているので,未婚男女の女性比が相対的に高いですしね。

 起業者率の首位も東京。フリーランス率の首位は和歌山となっています。通学人口率のトップは京都です。大学が多い故でしょう。その次は沖縄ですが,本県は生涯学習の先進県として注目されています。私の修士時代のボスも,沖縄にベタ惚れしていて,沖縄の社会教育の本を何冊か出しています。

 非正規から正規への移動率は,沖縄が飛び抜けて高くなっています。アラフォーの正社員の22.8%(5人に1人)が,非正規から上がってきた者です。開けていますねえ。新卒時の正社員就職率が高い北陸や中部の県では,この値は低くなっています。

 東京と沖縄は,赤字が4つあります(高知は3つ)。

 これらの5指標を合成して,単一の「チャンス」尺度を作りましょう。これらは値の水準が全然違うので,単純に平均するようなことはできません。同列に操作できる指数に加工する必要があります。最高値を1.0,最低値を0.0とした場合の相対値にしてみます。

 計算式=(当該県の値-最低値)/(最高値-最低値)

 このやり方で,鹿児島県のフリーランス率を指数にすると,(45.0-28.4)/(52.2-28.4)=0.695 となります。

 下の表は,この方式で加工した相対指数の一覧です。お分かりかと思いますが,最高値は1.0,最低値は0.0となります。


 これで,5つの指標が同じ性質のものになりましたので,均すことが可能です。右端は5つの指標の指数を平均したものです。これをもって,チャンスの開放度の指標としましょう。

 ほう。最高値は南端の沖縄ですね。最下位は秋田。子ども期のステージでは,「学力トップの秋田,劣勢の沖縄」という構図がよく言われるのですが,アラフォー年代に舞台を移すと,状況が逆転します。

 沖縄の次は,首都の東京です。やはり大都市は強い。しかし全体的に見渡すと,チャンスが開けている県は,西日本で多いようです。赤字は総合指数が0.4を超える県ですが,近畿と四国・九州が染まっています。

 これらの県に色をつけた,アラフォーのチャンスマップは以下です。


 地域性が実に明瞭ですね。21世紀型の新たなライフチャンスは「西南」にあり。幕末期の野望の分布図と近似しているのが,何とも象徴的です。

 都道府県別の「住みやすさ」ランキングでは,いつも北陸や中部の県が上位になるのですが,要素として使われる指標をみると,子どもの学力とか,三世代同居率とか,正社員率とか,伝統的に「よし」とされるものばかりです。

 しかし今回のように,観点(素材)をちょっと変えてみると,地図の模様がガラッと変わるのは面白い。手前味噌ですが,21世紀型の価値観を反映したランキング(地域評価)としては,今回の試みのほうがベターかと思います。

 沖縄がトップという結果になりましたが,それは人口移動統計にも出ていて,アラフォー年代の転入超過率も高いのですよね。この年代では,大まかにいって「人は西に動く」傾向にあるのですが,今回のチャンス開放度の分布と一致します。
https://tmaita77.blogspot.com/2017/02/blog-post_21.html

 チャンスが開けた地に人は動く。人口を呼び寄せたいならば,やり直しができる,21世紀型の自由な(緩い)働き方ができる,といったチャンスの水準を上げる努力をすべきかと思います。白々しいPRよりも,こちらがずっと重要です。

 現在は,明治維新の頃に劣らぬ大変化の時代ですが,当時と同じく,それを牽引するのは「西南」の地なのかもしれません。

2018年10月15日月曜日

ペーパーティーチャー

 人手不足が深刻化していますが,教員の世界にもその波が及んできています。「教員は魅力的な仕事なんで,なり手はいくらでもいるだろう」と思われるかもしれませんが,さにあらず。教員のブラックぶりも知れ渡ってきていますしね。

 通常の採用試験だけでは,一定の質が担保された人材を十分に確保できないと,自治体間で現職教員を奪い合う動きも出てきています。福岡県は,昨年の冬に都内で現職教員対象の選考会を実施し,都の現職教員45人が合格したそうです。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181014-00000016-pseven-soci

 手塩にかけて育てた人材を奪われる都にとっては,たまったものではないでしょう。しかし,自治体間でこういう競争がなされることは,教員の労働条件改善の競争が行われることでもあるので,一概に悪いとは言えないと思います。福岡県は,さぞいい条件を提示したのでしょう。東京も,地方から飛んでくる「ハゲタカ」の襲来に備え,教員の労働条件改善に取り組まないといけません。

 目を向けるべきは,現職教員だけではありません。外国語に堪能であるとか,国際競技大会への出場実績があるとか,優れた資質・能力を持つ人材は,世の中に数多くいます。教員免許状を持たずとも,こういう人たちが教壇に立てるよう,特別免許状や臨時免許状を付与するのも一つの手です。上記記事によると,京都府はこういう取組を積極的に実施しているようです。

 あとは,ペーパーティーチャーです。教員免許状を持っているが別の仕事をしている,ないしは無職である人は数多し。「即戦力にならない」と頭ごなしに決めつけないで,潜在保育士ならぬ「潜在教員」のプールに目を向けてみてはどうか。新卒時の採用試験が激戦だった,われわれロスジェネには,こういう人が多くいるでしょう。
https://twitter.com/tmaita77/status/1010750439501938689

 私の世代(1976年生まれ)は,99年春に大学を卒業し,2016年では40歳になっています。文科省の『教員免許状授与件数等調査』によると,99年春の小学校普通免許状取得者は2万205人。2016年10月時点の40歳の小学校本務教員は7517人(『学校教員統計調査』2016年)。

 単純に考えると,免許を持っているがそれを使っていない人は,前者から後者を引いて1万2688人となります。予想はしていましたが,教員免許の活用度って低いのですね。私の世代では,小学校の免許取得者の3人に2人がペーパーティーチャーです。

 これは,採用試験が厳しかった私の世代のデータで,他の世代では様相は違うでしょう。私は手元の資料を使って,1963~86年生まれ世代について,同じやり方でペーパーティーチャー数を推し量ってみました。新卒時の普通免許状取得者数と,2016年時点の年齢の本務教員数を照合することによってです。

 下表は,その結果です。97年春の免許取得者だけでは,原資料でなぜか得られませんでしたので,ペンディングにしています。


 算出されたペーパーティーチャー数は,上の世代ほど多くなっています。現在教壇に立っている人も多いですが,世代の人口量が多いので免許取得者も多かった。新卒時はバブルの好況期だったので,教員にならず民間に流れた人も多数でした。

 しかし最近の世代では,ペーパーティーチャー数は1万人を割っています。少子化で人口量が減っていることもあるでしょうが,取得した免許の活用率がアップしているためです。一番下の86年生まれ世代をみると,免許の活用率(b/a)は54.4%となります。

 参考までに,この指標の世代変化を描くと下図のようになります。新卒時の免許取得者のうち,2016年10月時点で教壇に立っている人の率です。上表のbをaで割った値になります。


 70年代半ば生まれ,私の世代がボトムですね。教員採用試験が厳しかったことの影響がはっきり出ています。その後の世代では,免許取得者が教員になる率は高まっています。採用試験の競争率低下と同時に,大学の教職課程の質が担保されるようになっているためと思われます。「やる気のある人じゃないと,教育実習は受けさせない!」など。

 おっと,話が逸れてしまいました。最初の表によると,2016年10月時点の30~53歳(42歳除く)のペーパーティーチャー数は,27万4526人です。同年齢の小学校本務教員(21万3260人)よりも多くなっています。

 このうち,一定の社会経験を積んでおり即戦力となり得る人材が半分とすると,13万7263人。結構な数ではないですか。新卒時の試験が激戦だったばかりに,夢破れて他の職業に流れた人にカムバックしてもらうのもいい。
 
 前に,ニューズウィーク記事で明らかにしましたが,日本の教員の社会人経験者比率は低くなっています。教員不足解消の救世主は,内の人材だけではありません。学校に新風を吹き込ませるうえでも,外に目を向けてほしいものです。

2018年10月12日金曜日

地元の大学への進学率

 朝日新聞で,都道府県別の大学進学率の連載が組まれています。本日は,「なぜ女子に家賃補助? 東大男子が知らない進学不平等」という記事が出ています。
https://www.asahi.com/articles/ASLBC6335LBCUUPI003.html?iref=comtop_8_07

 有料記事で最初のちょっとしか読めないのですが,インタビューに答えている,四本裕子・東大准教授の言葉に目がとまりました。「講演で地方の公立高校に行くと,女子生徒から『兄は東京の大学に行っている。だけど,自分は女の子だから家から通える大学にしなさいと親から言われている』という話を本当によく聞きます」。

 地方出身の私にすれば,非常によく分かります。高校の頃,九大に行ける力があるのに「女子なんだから,地元の鹿大にしなさい」と,親に言われていた女子生徒がいました。勿体ないなあ,と思ったのを覚えています。

 ふと,次の疑問がわきました。県別・性別の大学進学率はこれまで何度も出したけれど,地元の大学への進学率に限ったら,男子より女子が高い県が多いのではないか。性差が大きいのは,県外進学でしょうからね。

 2018年度の『学校基本調査』によると,今年春の大学入学者は62万8821人で,出身高校と同じ県(以下,地元)の大学に入ったのは26万9382人,その他(県外)は33万9553人,となっています。*地元と県外の合算が全体に等しくならないのは,高卒認定試験経由者等がいるためです。

 半分以上が,地元から離れた大学に入っているのですね。わが国の大学の地域的偏在を考えると,さもありなんです。性別にみると,県外進学者の比重は女子より男子で高くなっています。

 下の表は,県内と県外に分けた大学入学者数を,男女別に整理したものです。この数を推定18歳人口で割れば,地元の大学,県外の大学への進学率が出てきます。分子には上の世代も含まれますが,今年春の18歳人口からも,浪人経由で大学に入る者が同程度いると仮定します。

 注釈を繰り返しますが,県内と県外の和が合計に一致しないのは,高卒認定試験経由者や,外国の学校卒業者等がいるためです。


 県内・県外をひっくるたた合計をみると,今年春の大学進学率は53.3%となっています。「同世代の半分が大学に行く」という今の状況の数値的な表現です。性別にみると,男子が56.3%,女子が50.1%です。朝日新聞でも問題にされていますが,ジェンダー差が出ています。

 しかし県内と県外にバラすと,様相は違っています。地元の大学への進学率は,男子より女子がちょっと高いではないですか(黄色マーク)。「男子>女子」なのは県外進学率です。やっぱり,大学進学機会の性差は,県外進学が可能かどうかによるのですねえ。

 47都道府県別にみると,地元の大学への進学率が「男子<女子」である県は数多し。以下の表は,県別・性別に地元の大学への進学率を出したものです。黄色マークは最高値,青色マークは最低値を意味します。


 首都の東京をみると,地元(都内)の大学への進学率は,男子より女子が高くなっています。右端の数値(女子-男子)をみると,こういう県が多いことに気づきます。多くの県の値がプラス(男子<女子)です。

 赤字はその度合いが大きい県ですが,京都,兵庫,岡山,徳島では,女子の地元大学進学率は,男子より5ポイント以上高くなっています。徳島は,トータルの大学進学率でも女子のほうが高いのですが,その秘密はココにあったのですね。地元の四国大学,鳴門教育大学が受け皿になっているのでしょうか。

 ここでお伝えしたいのは,地元の大学への進学率に限ると,男子より女子が高い県が多い,という事実です。該当する県に色を付けた地図にすると分かりやすいかと思うので,以下に掲げておきます。


 言わずもがな,県外の大学への進学率にすると,全県で「男子>女子」となります。ゴチャゴチャするので,その一覧表を提示するのは控えましょう。先ほども申しましたが,大学教育を受ける機会のジェンダー差は,県外に行けるかどうか,ということによる部分が大きいようです。

 朝日新聞の記事で四本准教授も言われているように,地方では,女子を外に出したくない,行かせるにしても自宅から通える大学でないとダメだ,という家庭がたくさんあります。

 これは偏狭なジェンダー観念だけの問題ではないでしょう。よく知られているように,自宅外進学にはコストがかかります。ある方がツイッターで教えてくれたのですが,自宅・私立より,下宿・国立のほうが大学4年間の総コストは高いのだそうです。
https://twitter.com/look_mam_look/status/1049908513852575749

 そうでしょうねえ。アパート代,食費・光熱費等の生活費はバカになりませんから。これの4年間トータルは,国立と私立の学費差をはるかに上回るでしょう。

 このコスト負担は非常に大きい。都会の大学に出せるのは,兄弟姉妹で1人だけ。しからば男子優先(勉強の出来に関係なく)。こういう家庭が多くても不思議ではありません。ずっと昔から言われていることですが,大学の地域的偏在,地方から都市への移動進学者への支援の不足,というのも一役買っています。

 ツイッターでも書きましたが,大学の地方分散が進むか,東大のように女子学生の家賃補助をする大学が増えれば,高等教育機会のジェンダー差も幾分か緩和されるかもしれません。冒頭の朝日新聞記事を最後まで読めないのが残念ですが,記事の最後のほうには,地方の女子が置かれた厳しい状況(自宅外に出してもらえない!)について書かれているのだと推測します。女子限定の家賃補助は,それを少しでも和らげるための制度であると。

 地元の大学への進学率に限れば,男子より女子が高い県が数多くある。地方に埋もれた女子の才能。東大の家賃補助は,それを掘り起こす策であるのではと思います。

2018年10月9日火曜日

「家族より国に頼れ」と言ってみろ

 日本の一人親世帯の貧困率は50%超で世界一。シングルマザーの多くは困窮状態に置かれているのですが,最後のセーフティネットとして生活保護があります。

 しかしこの公的扶助を使わず,風俗で働くことを選ぶ母親が多いとのこと。「生活保護よりデリヘルで働く 隠れシングルマザーの選択 制約より自由をなのか…」と題する記事が目に止まりました。
http://news.livedoor.com/article/detail/15407773/

 タイトルからすると,いろいろ縛りが生じる生活保護を使うのを躊躇うシングルマザーが多い,という内容を想起しますが,そればかりではないようです。生活保護を申請すると,親や親戚に扶養照会がいき,自分の今の状態が分かってしまう。世間体を気にする地方都市では,それを嫌う人が非常に多いのだそうです。

 私は親戚付き合いはゼロなんで,堂々と申請に行けるかな。

 「援助してくれる親戚はいませんか?」
 「いません」
 「こちらで調べて連絡しますが,いいですか?」
 「どうぞ,ご自由に」

 こんな感じでしょう。しかし,付き合いの多い人はそうはいかない。2番目の問いに青ざめることになります。数としてはこちらが大半で,私のような「世捨て人?」は超マイノリティです。

 だいたい,扶養照会を受けて「はい,面倒みます」と回答する人なんているのでしょうか。申請を妨害するための水際作戦としか思えません。「申請したら,今の惨めな状態が親族にバレるぞ」とね。

 悪名高き扶養照会ですが,「扶養照会 申請」という語でググったら,「政治家なら『家族に頼れ』じゃなくて『国に頼れ』と言ってみろ」というタイトルのブログ記事が出てきました。絶妙のタイトルだと,中身も読まずツイッターで拡散しちゃいました。
https://www.continue-is-power.com/entry/2018/01/27/190000

 困窮者(要保護者)の世話を誰がすべきか? この問いに対する多数派の答えは,社会によって違います。「家族」という国があれば,「国(政府)」という国もある。「高齢者の世話は誰がすべきか?」という問いに対する答えを,主要国で比較すると,以下のようになります。2012年のISSPの調査データです。


 18歳以上の国民の意見ですが,日本は「家族」という回答が6割を占めます。自己責任の風潮が強いアメリカではもっと高く,66.0%です。

 お隣の韓国では,家族が37.0%,政府が54.1%となっています。ちょっと意外ですね。「子が親の面倒をみるべし」という儒教的価値観は,廃れつつあるようです。それでいて年金等の社会保障は未整備なんで,この国の高齢者の自殺率はべらぼうに高くなっています。「ヘル朝鮮」は,過渡期の悲劇の産物です。

 フランスでは,「家族」「政府」「その他」の回答にほぼ3分されていますね。家族でも政府でもない「その他」とは,NPOや民間団体等です。市民社会発祥の地であるこの国では,こういう団体も育っているのでしょう。

 きわめつけは,右端のスウェーデンです。84.1%の国民が,高齢者の世話は政府がすべきと答えています。日本やアメリカとコントラストをなしています。税金をがっぽり取られるとはいえ,福祉先進国の姿が出ていますね。

 生活保護申請者の親族への扶養照会など,考えられないことでしょう。稲葉剛氏は,扶養照会は前近代的な制度で,社会保障の利用を阻んでいるとし,厚労省の審議会で段階的な廃止を直言されています。
http://inabatsuyoshi.net/2017/09/02/2955

 上述のように,扶養照会は生活保護の申請を躊躇わせる水際作戦の一環だと,私も思います。これがために,シングルマザーの最後のセーフティネットが,公的扶助ではなく風俗になってしまっている。

 困窮状態にもかかわらず,生活保護を受けていない世帯数って,どれくらいなんでしょう。2016年の厚労省『国民生活基礎調査』に,世帯単位の所得階級と貯蓄階級のクロス表が出ています。両方が分かる9006世帯のうち,「所得150万円未満・貯蓄ゼロ」の世帯は407世帯です。比率にすると4.52%となります(以下は,量のイメージ図)。


 2015年の『国勢調査』から分かる,国内の総世帯数は5344万8685世帯。先ほど比率をかけると,約242万世帯です。これが生活保護相当の困窮世帯の見積もり数ですが,最新の今年7月時点の生活保護世帯数(約163万世帯)よりもずっと多くなっています。

 捕捉率にすると,163/242=67.3%,7割にも達しません。保護を受けて然るべき79万世帯が,公的なセーフティネットから取りこぼされ,別のセーフティネットに依存しています。扶養照会が,それに一役買っていることは間違いないでしょう。

 スウェーデンの政府は「家族より国に頼れ」と堂々と言ってのけていますが,日本の政府にもこう言ってほしい。稲葉氏の進言を受け入れ,扶養照会という前近代的な制度を段階的に廃止していくという,具体的な行動で,その思いを示してほしいと思います。

2018年10月5日金曜日

高齢男性の家事の国際比較

 本ブログを長くご覧いただいている方は,「またか」と思うテーマでしょう。ですが,高齢男性に焦点を合わせているのがポイントです。

 昨日の『日経スタイル』に,「人生100年,定年シニアは家事力を高めよう」という記事が出ています。そうですよね。60歳で退職し,その後ずっと家事もしないで家にいるだけの夫など,妻にしたら「お荷物」以外の何物でもありません。

 子育て期の夫の家事時間や,妻との分担率については,これまで何度もデータを出してきました。しかるに,高齢夫婦に注目したことはまだありませんでした。超高齢社会が到来する中,このステージをどう生きるかは非常に重要となります。

 定年の延長(撤廃)により,仕事をする期間は長くなるでしょうが,高齢期では仕事の時間は減り,家庭で過ごす時間が長くなります。言わずもがな,そこでは家事という名の労働があります。日本の高齢男性は,どれくらい家事をしているのか。

 用いるのは,ISSPが2012年の実施した『家族と性役割の変化に関する調査』の個票データです。各国の対象者に,週に家事(household work)を何時間するかを訊いています。私は,60歳以上の有配偶男女を取り出し,平均値を計算してみました。事実婚のパートナーがいる人も含みます。

 日本の有効サンプル数は,男性が156人,女性が154人です。週の平均家事時間は男性が5.1時間,女性が22.8時間となっています。予想通り,男性は少ないですね。均すと,1日に1時間もやっていません。60歳以上の夫婦の家事分担比は,「夫:妻=1:4」と見積もられます。

 これは日本のデータですが,他国はどうでしょう。以下に掲げるのは,データが得られた41か国の一覧表です。


 パートナーのいる高齢男性の家事時間は,日本は台湾と並んで最も低くなっています。最も高いのはスロバキアの17.9時間,その次はラトビアの17.8時間ですか。東欧では,男性の家事時間が比較的長いですね。

 主要国をみると,お隣の韓国が8.5時間,アメリカが9.3時間,イギリスが9.7時間,ドイツが9.0時間,フランスが7.2時間,スウェーデンが10.7時間,となっています。

 右端は,女性(妻)との間の分担率ですが,日本の男性(夫)の18.4%は,41か国の中で最低のようです。妻がいる日本の高齢男性の家事時間,分担率とも国際的にみて最も低い,という結果が出てしまいました。

 戒めの意味を込め,2012年の調査データで出たこの惨状を,グラフで視覚化しておきましょう。横軸に家事時間,縦軸に分担率をとった座標上に,41か国を配置します。


 アメリカやスウェーデンでは,高齢夫婦の家事分担比は「夫:妻=2:3」くらいですね。

 これからAIの普及により,家事も省力化されるでしょう。また,ジェンダー意識の希薄化により,夫の分担率もアップするでしょう。ゆえに,多くの国が左上にシフトしていくと思われます。

 しかし日本の現況をみると,夫が家事をやらないので,高齢夫婦の家庭生活の負荷は妻にかかっています。「定年後,家事もしない夫がずっと家にいると思うと,気が遠くなる。離婚したい」。こんな投書を新聞で見たことがありますが,高齢の妻の心的葛藤をうかがわせるデータがあります。気分障害(鬱を含む)の外来患者数です。


 2014年の『患者調査』から作ったグラフですが,男女ともピークは40代前半になります。働き盛りで,負荷が大きいためでしょう。女性の場合,育児,早い人では介護ものしかかってきますし。

 ところが女性では,65~74歳にもう一つの山があるのです。これは何なのでしょう。

 前に明らかにしましたが,47都道府県別に高齢夫婦の夫の家事分担率を出し,熟年離婚の発生率との相関をとると,マイナスの相関が認められます。これなども示唆的ですよね。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/09/post-5864.php

 生涯現役社会といっても,高齢になれば仕事の時間は減り,家庭で過ごす時間が長くなります。寿命の延長により,その期間は延びる一方です。このステージの家庭生活を平穏に過ごすためにも,冒頭の『日経スタイル記事』でいわれている通り,家事力を身に付ける必要があるでしょう。

 定年後に即席で訓練しても,一朝一夕に身に付くものではありますまい。現役時から,心がけておきたいものです。

 家庭に籠るだけでなく,外に出ることも大切です。「キョウヨウ・キョウイク」が大事といいます。「今日,用事」「今日,行くところ」がある,という意味です。生活構造に幅を持たせることです。

 現役時,仕事一辺倒だった人は,定年後に生活の場が「会社一色」から「家庭一色」になるだけ。ずっと家にいるとなると,どうしても夫婦間の葛藤が起きやすくなる。現役時から趣味を持つ,副業をするなど,「複数の顔」を持っている人は,この災を免れることができます。

 年金がどうとか,老後の心配をする人が多いですが,もうどうにもならないことです。今の生活に幅を持たせることが,老後を充実させるための条件といえましょう。

2018年10月1日月曜日

高校入学と勉強時間減少

 厚労省は『21世紀出生児縦断調査』という調査を継続しています。2001年に生まれた子ども2万6000人ほどを追跡する調査です。

 毎年,調査対象の子どもの家庭に調査票を送り,質問に答えてもらっています。これにより,各年齢時点での子どもの生活を知ることができ,タテにつなげば加齢に伴う変化を跡付けることができます。同一世代を追跡した調査ですので,説得力は満点です。

 先週の金曜に,16歳児を対象とした第16回調査の結果が公表されました。今世紀初頭に生まれた世代も,もう高校生になったわけです。

 公表された統計表の一覧をみると,興味深いクロス表が満載ですが,メディアでは,家庭での学習時間のデータが注目されています。曰く,中3から高1になると,家庭での学習時間が激減すると。

 第15回調査(15歳対象)と第16回調査(16歳対象)のデータを使って,分布のグラフを作ってみましょう。原資料では,8つの時間カテゴリーが設けられていますが,3時間台,4時間台,5時間台,6時間以上は「3時間以上」とまとめます。以下のグラフは,平日1日あたりの家庭での学習時間の分布です。


 中3時では半分近くが2時間以上でしたが,高校に上がるや16.2%にまで減っちゃいます。代わって,1時間も机に向かわない子が55.6%にもなります。ゼロ勉の子は4人に1人です。

 高校受験から解放されたためでしょうが,スゴイ減りようですね。私は,ガンガン宿題を出す高校に入ったので,中3の受験期よりも勉強時間はさらに増したような気がしますが,高校1年生全体ではこうなっています。

 入試のセレクションで,ランクが下の方の高校に入った生徒が意欲を無くすことにもよるでしょう。わが国に高校は威信や進学実績に応じて階層化されており,どの高校に入るかで,卒業後の進路は大よそ察しがつく。生徒は,自己選抜をしてしまうわけです。80年代の教育社会学で繰り返し実証されたことですが,30年を経た現在でも,この現象は健在と思われます。

 中3から高1にかけて宅習時間がどれほど減ったかに応じて生徒をグループ分けし,入った高校の偏差値とのクロスをとったら,おそらく明瞭な相関関係がみられるでしょう。

 あいにくこのような分析はできませんが,上記で出てきた「自己選抜」に関連して,気になるデータがあります。高校1年生のアルバイト実施率です。高校生にもなればバイトをする生徒は出てきますが,男子と女子では実施率が違っています。容易に想像がつきますが,家庭の年収による差もあります。

 以下のグラフは,両親の年収別のバイト経験率曲線を,男女で分けて描いたものです。


 貧困家庭の生徒ほど,バイト実施率が高くなっています。女子はその傾向が明瞭で,年収200万未満の家庭の群では,4割近くがバイトしています。

 私は前に,『黒の女教師』という番組のデータ監修をやったことがありますが,母子家庭の女子生徒が,友人グループとの交際費(スマホ代)を稼ぐために,風俗店でバイトをするシーンが出てきます。上記のグラフを見て,家計補助や学費稼ぎかなと思いましたが,緊密な関係を求める女子では,こういう子も結構いるのではないかと推測しました。

 しかるに,武蔵大学の千田有紀教授が別の解釈を教えてくださいました。貧困家庭の女子生徒は,大学進学を諦める自己選抜をするので,勉強よりもバイトをするようになるのではないかと。
https://twitter.com/chitaponta/status/1046631524785770498

 同じ貧困家庭でも,男子のバイト率は低くなっています。千田教授曰く,「大学進学によって貧困から抜け出そうとするのだろうか」と。なるほどと思います。

 貧困家庭の子どもが教育から疎外されがちなことはよく知られていますが,それにはジェンダー差があるようです。貧困という生活状況がどう作用するかは,男子と女子では違う。男子では,逆境から抜け出そうというバネになり得ますが,女子にあっては,自分の将来を閉ざす「自己選抜」という名の蓋(ふた)にしかならない。

 子どもに対する,親の教育期待(どの学校まで行かせたいか)にも性差がありますが,余裕のない貧困家庭では,それはとりわけ大きいでしょう。「男子は多少無理をしてでも大学に行かせるが,女子はそうはいかない」。こういう親の眼差しも,女子の自己選抜を促しています。

 貧困家庭の子どもに対する支援が盛んになっていますが,経済的支援だけでは,こういうジェンダーの問題は解決できそうにありません。貧困のインパクトは,男子と女子では異なる。困窮家庭の女子生徒に対しては,認知の歪み(自己選抜)を正したり,奨学金等の情報を積極的に提供したりといった,意図的な実践が求められるかもしれません。