厚労省の発表によると,2019年の年間自殺者は1万9959人で,統計が始まって以来初めて2万人を下回ったのだそうです。
厚労省だから『人口動態統計』かなと思ったのですが,統計開始が1978年と書かれていますので,警察庁のデータみたいですね。「ホンマかいな」と元資料に当たったところ,『2019年(令和元年)中における自殺の状況』に確かに当該の数字が出ています。
「統計史上初の2万人割り!」というのが目玉みたいですので,その様をグラフにしてみましょう。警察の自殺統計が始まった1978年から2019年までの,年間自殺者数の推移をたどると以下のようになります。
1976年生まれの私が生きてきた時代とほぼ重なります。自殺者数は90年代の半ばに急増し,1998年に3万人のラインを越えます。前年に山一証券が倒産し,日本経済が急速に悪化したためです(98年問題!)。増分の多くは,50代の男性でした,無慈悲なリストラによるものでしょう。
その後,2011年まで年間自殺者3万人越えの時代が続きます。悲しいかな,私の世代の就職・結婚期はこの暗黒時代と重なっていました。ロスジェネと呼ばれる所以です。
自殺者は2009年に3万2845人に達した後,坂を転げるように減少してきています。景気回復に加え,中高年や高齢層を対象とした自殺対策が功を成したのかもしれません。報じられたとおり,2019年の自殺者は1万9959人で2万人を割りました。
しかしこれは人口全体の自殺者数で,国民は社会的な役割を異にする層からなっています。それを分かつ基準は性別や年齢なんですが,年齢層別にバラして変化をみてみると,「おや」という傾向が出てきます。2019年の年齢層別数値はまだ出てませんので,前年の2018年の年齢層別自殺者数を,ピークだった2009年と比べると以下のようです。
この9年間で自殺者は大幅に減り,どの年齢層でも減っていると言いたいのですが,10代だけは増えてしまっています。565人から599人への増加です。少子化により10代人口が減っていることを思うと,若き青少年が自殺に傾く傾向は殊に強まっているといえます。
子どもの自殺のニュースはよく報じられますよね。いじめを苦にした自殺が多いと思われがちですが,警察庁の自殺の動機統計に当たってみると,多いのは「学業不振」や「親の叱責」です。「友人関係の不和」というような動機よりも,これらのほうが多くなっています。
少子化で,子どもが激的に減っています。2019年の出生数は86万人と予測を大きく下回り,前年よりも6万人減です。こうなると,保護者からの期待圧力は殊に強くなるでしょう。もうすぐ中学受験が始まりますが,背中に包丁をつきつけて勉強させる毒親もいるとのこと。
こういう状況の中,生活態度を不安定化させた子どもがスマホを覗くと,自殺勧誘サイトのようなものが目に触れ,同志とつながって最悪の結果となってしまう…。
・プッシュ要因=少子化による期待圧力の高まり。
・プル要因=スマホで,SNS上の自殺勧誘サイトの類が容易に目につく。
この2つの要因が揃ってしまっていると。
厚労省の『人口動態統計』では,より長期的なスパンで自殺者数の推移をとれます。10~14歳の年間自殺者数を,ベース人口10万人あたりの数(自殺率)にし,1950年からの推移を描いてみます。年による凹凸が激しいので,3年次の移動平均の曲線も添えましょう。2010年の自殺率は,2009年,2010年,2011年という前後の年も合わせた3年次の平均とするわけです。こうすることで推移を滑らかにできます。
青色の自殺率は凹凸が激しいですが,赤色の移動平均で大局的なトレンドをみれます。なんと,10代前半の青少年の自殺率は戦後最高ではないですか。
2010年頃からの伸びが大きいですが,スマホが普及し出した頃ですよね。先ほど指摘したプル要因(SNS上の自殺勧誘サイトの類)と接触しやすくなったことが大きいでしょう。言わずもがな,プッシュ要因(期待圧力)も時代と共に強まっています。
対策は,これらのプッシュとプルの要因を除去することです。保護者は養育態度の歪みが出ないよう注意し,警察や事業者はネットパトロールを強化し,よからぬ情報を一掃すること。言い古されていることですが,こういうことが基本となるでしょう。とくに,長期休暇明けの時期は要注意です。内閣府の過去40年間のデータによると,子どもの自殺者は9月1日がダントツで多くなっています。
https://twitter.com/tmaita77/status/1214060294491652096
子どもの自殺のサインは,SNS上に吐露されやすいもの。自殺勧誘サイトの駆除も含め,こういうSOSを汲み取るネットパトロールに際して,ネットスキルに長けたひきこもりの中高年の力を動員するのもいいでしょう。対人関係は苦手だが,こういうことは得意という人はいるはず。彼らの社会参加を促すことにもなれば,一石二鳥です。
国民全体の自殺者減少が注目されていますが,目を凝らすと,子どもだけは増えています。自殺対策の重点を,中高年や高齢層から子ども・若者にシフトする時です。