2018年12月31日月曜日

2018年の総括

 今年も,あとわずかとなりました。今日は,生協で取り寄せた天ぷら蕎麦を早めに食したのですが,またダックスフントの動画に見入ってしまい,こんな時間になっちゃいました。

 さて,2018年の総括です。今年は,取り立てて特記することはありません。普通に過ごせたというのでもなく,低空飛行の年だったと思います。A~Cの3段階評価をするなら,紛れもなくCですね。だらけた暮らしをしてしまいました。

 ワンコにのめり込んでいることもありますが,体力の低下も感じています。「40代の体力低下は下り坂ではなく落下」という比喩がありますが,その通りだと思います。40過ぎたくらいの若造が何をぬかすか,と言われるでしょうが,正直,こんな思いです。

 師匠の松本良夫先生は1935年のお生まれで,70年代後半にアラフォーであられたのですが,業績目録を拝見すると,バリバリと仕事をされています。ピークは80年代の半ば,アラフィフの頃で,『図説・非行問題の社会学』『学校の社会学』『作文アンケート・学校体験』など,単著を集中的に生産されています。私も,奮起したいものです。まあ,そのうち上昇気流に乗れると楽観もしています。

 自虐めいたことを書きましたが,新しいことがなかったわけではありません。4月から,公益財団法人・日本女性学習財団の機関紙『We Learn』にて,「データをジェンダーの視点で読み解く」という連載をもたせていただいています。先日,村松泰子理事長と担当編集者の方にお会いしたのですが,思いのほか好評であるとのこと。うれしく思います。

 日本教育新聞の連載も200回を越えました。全国の学校や教育委員会が定期購読している,わが国唯一の教育専門紙です。最初は後ろのほうだったのですが,現在は3面に載せていただいています。「日本教育新聞の記事を見て…」という問い合わせが来ることも多し。ありがたや。

 Webでは,ニューズウィーク日本版の連載がもうすぐ100回に達します。CCCメディアハウス社が運営する,知名度の高いメディアです。日経DUALのほうは,今年12月で終了しました(計64回)。「舞田のことだから,また揉め事を起こしたんだろう」と思われるかもしれませんが,さにあらず。方針転換のため連載終了という予告は,だいぶ前にされていました。ささやかな慰労の会合もしてくださり,笑顔でのお別れです。今後はさらにバージョンアップされるとのこと,私も陰ながら応援しています。

 実務教育出版の教員採用試験対策本の執筆も続けております。『教職教養らくらくマスター』は同社の看板商品の一つになっているそうで,業界でも売れ筋本として通っています。紀伊国屋でも最前列に平積みされていて,いとうれし。今後もさらに練り上げ,最強の対策本に仕立てていきます。

 私はこのように,「書く」ことを仕事にしており,自分を文筆家と意識するようになってきました。自分の勉強にもなって,おカネもいただけてありがたいです。元ネタは,ツイッターやブログで発信しているデータやグラフであり,好きなことを仕事にしているとも言えます。学者としての正道からは外れていますが,好き勝手,気の向くまま,いい暮らしをさせてもらっているなあと思います。

 よくあることですが,今年も作品盗用(剽窃)の被害に遭いました。先月下旬のことで,ブログに経緯を書き,ツイッターでも拡散しましたので,ご存知の方が多いでしょう。当人の謝罪と和解金の支払いで許しましたが,この人も,弁護士費用と決して少額ではない和解金を払うハメになり,さぞ懲りたと思います。深く反省し,二度と同じことを繰り返すなかれ。

 本件は匿名の情報提供(メール)で発覚したのですが,この手の情報を寄せてくださった方には薄謝をお支払いします。匿名で結構ですので,tmaita77[at]gmail.com までメールくださいませ。

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 ブログについてもまとめましょう。本ブログ「データえっせい」は2010年末に開設し,8年が過ぎました。これまで書いた記事総数は,本記事を合わせて1492本です。この中で読まれている記事はどれか。PVの上位10の記事は以下です。PV数は,本日の夕刻5時半頃の数値です。


 トップは,今年の7月14日に書いた「40代前半男性の所得中央値」です。2017年の『就業構造基本調査』のデータをもとに書いた記事ですが,これは読まれました。アラフォー男子の稼ぎが四半世紀でこんなに減っているのか,と印象付けるのに十分だったようです。

 言わずもがなロスジェネの影響なんですが,私がこの世代の当事者であることも伝わったのでしょうね。私は1976年生まれで,99年に大学を卒業した「真正ロスジェネ」です。これからも自身の体験(思い)を投影した記事を溜め,将来的にはロスジェネのデータ本を仕立てられたらと目論んでいます。未だにない試みです。

 黄色マークは今年に書いた記事ですが,1月6日の「女性の最貧国」も殿堂入りできました。殿堂入りした記事の本数でその年のガンバリ度が可視化されるのですが,一昨年や昨年がゼロだったことに比すと,よかったと思います。
 
 都道府県別の大学進学率は,『学校基本調査』のデータが公表されるたびに,毎年明らかにしていこうと思います。私の博士論文以来のテーマですのでね。亡き恩師・陣内靖彦先生のお顔が浮かびます…。

 来年(2019年)はどういう年になるでしょう。国としては元号が変わる一大事なんですが,私個人としてはどうかな。ダックスフントを飼いたい,という思いに駆られており,転居する可能性がなきにあらず。気持ちとしては,この横須賀市長井という地を離れたくないのです。


 ソレイユの丘の海に面した露天風呂,長井水産の美味しい魚料理,名物母ちゃんとの会話,海辺のウォーキング…。いずれも捨てがたし。しかし,この辺にペット可の手ごろ物件がないのですねえ。一戸建ての賃貸があるにはあるのですが,家賃7万円は今の私には重い。家賃保証会社の審査も通らないでしょう。

 著名編集者の箕輪厚介さんは,駆け出しの頃は埼玉に住んでいたが,これではいい仕事はできないと,月収の3分の2以上のマンションを都心で借りたそうです(『死ぬこと以外かすり傷』マガジンハウス)。そのように自分を追い詰めたことが,大ブレイクするきっかけになったとのこと。私も,こういう「賭け」に出るのもありかな。そしたら,最近のたるんだ生活も一気に引き締まるでしょうし。ブログをマネタイズする,「有料note」を始めるなど,稼ぎを増やす術はあります。

 デカイことを書いて実現できなかったらみっともないので,これくらいにしましょう。皆さま,よいお年をお迎えください。来年も,私のブログ・ツイッターのデータ発信,各種連載を続けて参ります。よろしくお願い申し上げます。

2018年大晦日
舞田 敏彦

2018年12月30日日曜日

2018年12月の教員不祥事報道

 今年も残すところ,あと2日になりました。明日は今年の総括をするので,月末の教員不祥事報道の整理を今日しちゃいます。

 今月,私がネット上で把握した教員不祥事報道は54件です。毎年ですが,年末故に酒がらみの不祥事が目立ちます(飲酒運転等)。ネットに児童ポルノや自分のわいせつ画像を投稿し,御用となった事案もあり。いずれも20代前半の若手教員です。デジタルネイティブの世代ですが,教員研修でも情報モラルを取り上げる必要がありそうです。軽い気持ちからの悪ふざけ投稿で,人生を棒に振るのはあまりにも愚かです。

 こういう事件があると,すぐ「SNS禁止令」を出す自治体も出てきそうですが,闇雲な規制はよくないでしょう。度が過ぎると,表現の自由の侵害,言論弾圧につながります。教員も大いにSNSをやり,自身の実践の成果や,職場のブラックな状況を告発してもらいたいです。ブリーフ判事こと岡口裁判官ではないですが,面白い教員が全国各地に出てきてくれたらと願います。

 今月初旬は20度まで上がった日もあり驚きましたが,月末は寒気の影響で冬らしい日が続いています。去年は,電気ストーブをつけっぱなしにしたら電気代が大変なことになったので,室内の防寒用にと,イオンで厚手のガウンを買いました。セーターの上に重ね着すればバッチリ。暖かいです。


 明日は大晦日です。人口の1割が東京,3割が首都圏に住んでいるのですが,帰省で里帰りしている人が多いので,国内の人口の地域均衡がとれる時期ですね。私は7年ほど帰省していませんし,今後もする気もありません(親もいませんし)。

 みなさま,よい年末をお過ごしください。

<2018年12月の教員不祥事報道>
教員免許更新せず小学校教諭が失職 東京
 (12/1,産経,東京,小,男,36)
西宮市立中の女子更衣室で盗撮疑い、29歳元教諭を逮捕
 (12/3,産経,兵庫,中,男,29)
生徒に暴行の疑い 養護学校教諭を書類送検 名古屋
 (12/3,NHK,愛知,特,男,59)
女児「体触られPTSD」 男性教諭を校外配置換え
 (12/4,千葉日報,千葉,小,男,30代)
今治の小学校長が警察に検挙(12/4,NHK,愛媛,小,男,60,飲酒運転)
給食の「ひつまぶし」投稿で個人情報が流出 東京・港区の教師
 (12/5,TOKYO MX,東京,小,男,50代)
20代女性の住居に侵入 県立高校講師の男を起訴
 (12/5,岩手放送,岩手,高,男,29)
児童ポルノ Tumblrで初の検挙(12/5,毎日,愛知,高,男,25)
キセル繰り返す 高校教諭を懲戒処分(12/5,NNN,北海道,高,男,40)
生徒に酒・体触る 教諭停職処分(12/5,NHK,静岡,高,男,40代)
県教委 講師2人を懲戒免職
 (12/7,NHK,茨城,強制わいせつ:小男22,領収書偽造:高男37)
女性教諭が車で女子高生はねる 頭打ち意識不明の重体
 (12/8,神戸新聞,兵庫,特,女,27)
自転車の男性死亡 高校教諭逮捕(12/8,NHK,千葉,高,男,55)
窃盗と詐欺容疑で小学校教諭逮捕 盗んだカードでゲーム購入|
 (12/8,上毛新聞,群馬,小,男,23)
女子部員の顔にボールぶつけ、バレー部顧問減給
 (12/8,読売,大阪,中,男,42)
名門私立中学校の男性教諭が生徒に暴行
 (12/10,中京テレビ,愛知,中,男,40代)
高校女子バレー部監督が体罰 部員らが寮抜けだし訴え
 (12/11,朝日,広島,高,男,53)
高校生とみだらな行為、市立中学の臨時講師を逮捕
  (12/11,日刊スポーツ,兵庫,中,男,28)
女性はねた疑い、教諭逮捕 搬送先で死亡(12/12,産経,千葉,小,男,48)
男性用下着を盗んだ疑い 県立高校の非常勤講師の男(27)を逮捕
 (12/12,中京テレビ,愛知,高,男,27)
太った子へ暴言「おかしいのか」と養護教諭
 (12/13,朝日,愛知,特,男,60)
女性臨時講師、女性同僚のカーディガン切り刻む
 (12/14,読売,秋田,特,女,20代)
女子生徒に「本当に好きか」=セクハラで高校教諭減給
 (12/14,神戸新聞,兵庫,高,男,53)
中学校教諭 酒気帯び運転容疑で逮捕(12/16,MBC,鹿児島,中,男,26)
新人小学校教諭が酒気帯び物損事故(12/17,京都新聞,滋賀,小,男,22)
女性触った疑い小学校教諭逮捕(12/18,NHK,神奈川,小,男,27)
万引きで逮捕の講師を懲戒免職 また、生徒の頭を3度平手で叩いた教師は減給3カ月の懲戒処分(12/18,仙道放送,宮城,万引き:特男46,体罰:特男61)
盗撮カメラ設置疑い高校講師逮捕(12/18,NHK,和歌山,高,男,25)
酒気帯び容疑で逮捕の教諭を処分(12/18,NHK,栃木,中,男,54)
妻殺害容疑で高校教諭逮捕 大阪・豊中(12/19,産経,大阪,高,男,26)
中学教諭みだら行為で懲戒処分(12/19,NHK,愛媛,中,男,50)
上越地方の中学校女性教諭 窃盗で停職6か月の処分
 (12/19,上越妙高タウン情報,新潟,中,女,30代)
既婚の教諭、卒業式終えた女子生徒と抱き合う
 (12/20,読売,北海道,高,男,51)
わいせつ教諭ら3人 懲戒処分(12/20,NHK,長野,わいせつ:高男40代,飲酒運転:中男55,交通事故:中男)
中3女子にみだらな行為 県立高元臨時教諭に罰金100万円 
 (12/20,神奈川新聞,神奈川,高,男,41)
他人のICカードで買い物 特別支援校講師に停職6カ月
 (12/20,千葉日報,千葉,特,男,25)
保健を教えず球技やらせる 教諭「生徒が好きだと…」
 (12/21,朝日,大阪,中,男)
自身のわいせつ画像投稿の小学教諭を懲戒処分「軽い気持ちでやった」
 (12/21,サンスポ,広島,小,男,23)
わいせつ教諭ら2人を懲戒免職(12/21,NHK,福岡,高男50代,小男27)
五輪都市ボランティア応募 都立高担任が「全員出して」
 (12/22,朝日,東京,高)
浜松の高校教諭 暴行容疑で逮捕(12/24,静岡新聞,静岡,高,男,40)
女子児童の個室にスマホ 校内のトイレで盗撮容疑 教諭を懲戒処分
 (12/25,サンスポ,兵庫,小,男,32)
鶴ヶ島市立中学校の男性教諭を逮捕(12/25,テレ玉,埼玉,中,男,25)
無免許運転で女性教諭停職「車の便利な部分しか見えず…」
 (12/25,サンスポ,大分,小,女,28)
終業式の朝 中学校教頭が”酒気帯び運転”で逮捕
 (12/25,北海道テレビ,北海道,中,男,57)
盗撮と飲酒運転、教諭2人を免職
 (12/26,産経,兵庫,盗撮:小男32,飲酒運転:小男33)
中学校バスケ部で男性教諭が体罰(12/26,NHK,山形,中,男,50代)
中学校教諭が児童ポルノDVD所持で懲戒処分
 (12/27,群馬テレビ,群馬,中,男,39)
盗撮の中学校教諭を停職6か月(12/27,NHK,富山,中,男,27)
中学校校長が勤務中に校長室で飲酒か(12/27,NHK,愛知,中,男,58)
男性教諭が体罰、暴行罪で罰金10万円(12/28,産経,山梨,中,男,30代)
交通費不正受給で高校教諭を処分、県教委 引率したと偽る
 (12/28,神奈川新聞,神奈川,高,男,58)
生徒に「死ね」と言われ、60歳講師が頭突き
 (12/28,読売,大阪,中,男,60)
酒気帯び運転の教諭逮捕(12/29,NHK,鳥取,小,男,43)

2018年12月29日土曜日

パートで働くということ

 働き方にはいろいろあって,フルタイム労働もあれば,パートタイム労働もあります。少子高齢化が進む中,高齢者の就業も増えきますが,それに伴いパートタイムの働き方も多くなってくるでしょう。

 それは教員の世界も同じです。人手不足の波が学校にも及んでいますが,定年退職した教員を再任用したり,特定の分野に秀でた地域人材を教壇に立たせたりする自治体も増えています。こうした人たちの多くは,勤務時間が少な目のパートタイムです。

 教員の「フルタイム/パートタイム」の構成比が分かる最新の調査データは,OECDの「TALIS 2013」です。今から5年前の調査ですが,これによると,日本の中学校教員のパートタイム勤務者率は3.8%となっています。26人に1人です。

 これは国際調査なんで,他国との比較もできます。調査対象の35か国のパートタイム率を出すと,値は幅広く分布しており,50%(半分)を超える国もあります。高い順に並べたグラフにすると,以下のようになります。データは,下記サイトのリモート集計にて作成しました。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/


 ブラジル,メキシコ,オランダ,ジョージアでは,中学校教員の半分以上がパートタイム勤務です。前回みたように,中南米の諸国では「教員の仕事は授業!」という割り切りが強いのですが,そのこととリンクしているように思えます。

 オランダは,パート天国という異名をとるだけあって,さもありなんという感じです。賃金や各種の社会保障も,フルタイム勤務者と遜色ないのでしょう。

 日本の3.8%は,下から5番目です。しかし,冒頭で述べたような事情から,今後は変わってくるでしょう。

 ところで,パートタイムといっても,契約の形態はさまざまです。雇用期間の定めのないパーマネントの人もいれば,細切れの有期雇用で働いている人もいます。この点の国際比較をすると,日本の特異性が見えてきます。

 下図は,パートタイム教員の人に,雇用期限の有無を尋ねた結果です。無期雇用,有期雇用(1年より長期),有期雇用(1年以下),という3カテゴリーの内訳をとっています。無期雇用(パーマネント)の割合が高い順に,データがとれる32か国を並べました。


 全体的にみて,青色の無期雇用が幅を利かせています。23か国で,パートタイムの無期雇用率が半分を超えます。しかし日本は特異で,パートタイム教員のうち,パーマネントの契約を結んでいる人は1.2%しかいません。多いのは,1年以下の有期雇用です(86.0%!)。

 このグラフから,パートで働くことの意味合いが,国によって違うことがうかがわれます。日本では,パート労働はあくまで雇用の調整弁です。汚い言葉でいえば,雇う側の都合でいつでも首を切れる使い捨て要員です。フルタイムの正社員と,賃金でも差をつけられています。

 諸外国ではそうではなく,パート天国のオランダでは,同一労働・同一賃金の原則が徹底されています。賃金はあくまで労働時間の関数です。各種の社会保障から疎外されることもなく,パートも立派な働き方と認められています。ゆえに,仕事を分け合うワーク・シェアリングも進行すると。

 少子高齢化が極限まで進む日本は,ゆるい働き方を認めないと立ち行かなくなります。幸いなことに,AIの台頭によりそれが可能になる見通しも立っています。「働かざる者食うべからず,1日8時間のフルタイム勤務をして一人前」という価値観は払拭されるべきです。パートターム労働者を社会保障から外したり,給与で差をつけたりするのは,それが根強いことの表れでもあります。生活保護受給者に就労指導が入る際,いきなり1日8時間以上のフルタイムで働くことを促されるといいますが,考えてみればおかしなことですよね。

 20世紀は「フルタイム」の時代でしたが,21世紀は「パート」の時代になるでしょう。いや,そうでないと社会が回りそうにありません。国民の多数が,体力の弱った高齢者になるのですから。基底的な仕事はAIに任せ,人間はゆるい働き方をするにとどめ,機械が生産してくれた物品やサービスを消費する側に移ればいいのです。

 元号が変わる来年が,そういう動きが胎動する元年になればいいなと思います。

2018年12月26日水曜日

授業時間の比重

 先週の金曜日(21日),横須賀中央の南蛮茶屋にて,公益財団法人・日本女性学習財団の方々とお会いしました。月刊『We Learn』という機関誌に連載を持たせていただいているご縁です。
http://www.jawe2011.jp/

 理事長の村松泰子先生もお越しになられました。わが母校・東京学芸大学の前学長で,私が学部時代,ジェンダーの社会学を習った先生です。20年ぶりにお目にかかり,ちょっとばかり感激を覚えました。

 教員養成大学の首領という立場であられたことから,教員問題には関心をお持ちで,今の連載と絡め,教員のジェンダー統計に関する話が弾みました。最近の『学校教員統計』では,中高の教科担任の性別集計がされなくなっているという,驚きの話もうかがいました。どういう意図なのやら…。

 後は,日本の教員の労働時間の異常性,とりわけ海外に比して専門性が薄い,という話題も出ました。それは,労働時間に占める授業時間の比重で見て取れます。教員の労働時間の統計はいろいろ出してきたつもりですが,この点の国際比較はまだやっていませんでした。ここにて,その穴を埋めてみましょう。

 データは,2013年のOECDの国際教員調査「TALIS 2013」より得ることができます。個票データに当たって独自に集計するまでもありません。誰でも参照できる統計表の形で,計算済みの数値が公表されています。下記サイトの表6-12です。
http://www.oecd.org/education/school/talis-excel-figures-and-tables.htm

 この表から日本の中学校教員の数値を拾うと,週間の平均総勤務時間は53.9時間で,うち授業時間(Hours spent on teaching)は17.7時間となっています。後者が前者に占める割合は32.8%,およそ3分の1でしかありません。残りの3分の2は,部活指導やら事務作業やらに食われています。

 教員の仕事は「教えること」なんですが,これはどういうことなんやら。日本の特異性は,他国と比較することで鮮明になります。以下は,データが得られる34か国・地域の一覧表です。


 日本の総勤務時間(53.9時間)は,最も長くなっています。よく言われる「日本の教員労働時間は世界一」の根拠です。それでいて,授業時間は短い部類に入ります。

 右端の授業時間比重は,そうしたアンバランス(不自然)の表れです。日本の教員の労働時間は長いけれど,その多くは授業以外のこと(雑務)に食われている。言葉がよくないですが,あたかも「何でも屋」扱いです。

 日本の教員は何をしているのか,教えることの専門職ではないのか。こういう疑問が,異国の人から呈されるでしょう。まあ日本の場合,教員という職業の性格が曖昧で,「教員は専門職か?」という議論にも決着がついていません。単純労働者ではないが,医師や研究者等に匹敵する専門職ともいえない。そこで「準専門職」などという苦肉の表現が使われています。

 対して南米のチリでは,教員という仕事の性格が非常にはっきりしています。トータルの労働時間は日本のおよそ半分で,そのうちの9割が授業です。メキシコ,ブラジルも授業時間の比重が高く,中南米の社会では「教員の仕事は授業」という割り切りが強いことが知られます。

 欧米の諸国は,この両極の中間です。チリ,フィンランド,日本という3つの社会を取り出せば,変化のグラデーションが分かりやすいでしょう。総勤務時間と授業時間の長さを,正方形の面積で表した図にしてみました。上表の数値の平方根をとれば,一辺の長さが出てきます。


 「教員の仕事は授業」という割り切りが明瞭なチリ,それが薄く教員に何でもやらせる日本,その中間のフィンランド,という構図です。

 これを文化の違いと片付けてしまっては,事態の改善は望めません。教育政策で操作可能な要因も多分に関与していると思われます。たとえば「TALIS 2013」のデータから,中学校教員10人あたりの事務職員数を計算すると,チリは9.5人であるのに対し,日本はわずか1.6人です。こういう条件の違いも大きい。こんなだから,日本ではプリント刷りのような作業も教員がしないといけない。

 校務のICT化を進めれば,プリント刷りを無くすことだってできます。北欧諸国では,教員が紙のプリントを大量に配るなんてしません。教材の配布や学校行事の出欠の伝達用は,軒並みネット経由だそうです。しかし日本は未だに「紙の洪水」で,そのことが「重すぎるランドセル」の要因にもなっています。
https://twitter.com/tmaita77/status/993085132264226816

 ここで提示したデータは2013年のもので,5年を経た現在では,事態の改善が志向されています。教員の働き方改革です。チーム学校という形で,教員の仕事を補助する外部スタッフを学校に入れると同時に,部活指導を単独で担える部活動指導員の職も制度化されました。校務のICT化にしても,昨年夏に出された「学校における働き方改革に係る緊急提言」にて,それを推進することが明記されています。

 業務を効率的にこなすことに加えて,業務そのものをスリム化することも欠かせません。今年2月に出された文科省通知では,学校の業務改善の参考資料として,業務の仕分けの手引きを載せてます。以下のようなものです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hatarakikata/1401366.htm

A:基本的には学校以外が担うべき業務
 ①登下校に関する対応
 ②放課後から夜間などにおける見回り,児童生徒が補導されたときの対応
 ③学校徴収金の徴収・管理
 ④地域ボランティアとの連絡調整
B:学校の業務だが,必ずしも教師が担う必要のない業務
 ⑤調査・統計等への回答等
 ⑥児童生徒の休み時間における対応
 ⑦校内清掃
 ⑧部活動
C:教師の業務だが,負担軽減が可能な業務
 ⑨給食時の対応
 ⑩授業準備
 ⑪学習評価や成績処理
 ⑫学校行事等の準備・運営
 ⑬進路指導
 ⑭支援が必要な児童生徒・家庭への対応

 こんな感じです。このリストを,今年夏の教員採用試験で出題した自治体もあり,現場で関心を持たれているようです。「よくぞ,お上がここまで出してくれた!」という思いなんでしょう。

 ③の給食費等の徴収ですが,教員がすることじゃありません。住民税と一緒に徴収するか,児童手当から天引きすればいいでしょう。

 ⑤の調査回答も結構負担になっているそうです。私は2015年夏,都の教職員の方々に講演しましたが,終了後の昼食会で「ホント,国や都からの調査多いんですよ。それも内容がかぶっていてね」と,小学校の副校長先生から聞かされました。「最も負担になっている業務を答えてください」という設問があったそうですが,よほど「てめえらの調査への回答だ!」と書こうと思ったそうな。

 調査も精選しないといかんですよね。「こんな調査を新規にしなくても,『全国学力・学習状況調査』の個票データ分析すれば分かることなのになあ」と思うことがしばしばあります。今から5年後くらいには,誰でも,こういう調査のローデータへのアクセスが可能になっていることを切に願います。「PISA」や「TIMSS」といった国際学力調査は,既にそうなっているわけでして。

 ⑪の学習評価や成績処理は,教員免許を持つ教員がしないといけないのですが,ICT化による負担軽減の余地は多分にあり。AIが活用される日も訪れるでしょうね。保育所の入所選考が,数週間かかっていたのが,AIを使うことで数秒でできるようになったというニュースには驚かされます。
https://www.asahi.com/articles/ASLBB62SGLBBUTIL04D.html

 行政の役目は,教員が本来の業務(授業)に注力できる環境を整えることです。元号が変わる来年が,教員の働き方改革が進行し,専門職としての教員像が確立する方途が見える元年になることを期待します。

2018年12月20日木曜日

日経DUAL連載終了

 師走も20日を過ぎましたが,いかがお過ごしでしょうか。

 本日の日経DUALに,拙稿「日本のワーママよハッピーであれ,幸福度を国際比較」が掲載されています。これが最終回で,同ウェブ誌で続けてきた連載も終了となりました。

 2014年3月末から,5年近くにわたって続けてきました。記事の本数は64本。われながら,よく継続してきたなと思います。「自分の原稿は場違いなのではないか」と常に懸念していましたが,日経DUALの書き手の中では「異色」の存在で,かえってそれが好都合だったそうです。
https://dual.nikkei.co.jp/article/023/63/

 17日の月曜に,横須賀中央の南蛮茶屋にて,編集長の片野温氏と,担当編集者の福本千秋氏とお会いしました。ささやかな慰労会?です。

 その場で話題になったのは,過ぎ去った過去ではなく,今後のことです。日経BP社は,女性向けのいろいろなウェブ誌を運営しているそうですが,来年の2月から体制が大きく変わるとのこと。日経ウーマンオンラインが,日経doors日経ARIAという別媒体に分割されるそうです。
 
 片野氏からいただいたパンフによると,日経doorsは20~30代の独身女性,日経ARIAは40~50代の女性向けのウェブ誌とのこと。


 若年期と壮年期という,2つのステージに分けたわけですね。確かに,この2つのステージでは,発信すべき情報の内容もかなり異なります。読者のニーズにより即した情報を発信しよう,という姿勢の表れのように思えます。

 既存の日経DUALは,共働きのママ・パパ向けのメディアですが,新しくできる2つの媒体の双方にかぶっています。適切かどうか分かりませんが,図解すると,以下のような感じでしょうか。


 片野氏の説明を聞きながら,私が頭の中で描いた模式図です。今後は,「doors,DUAL,ARIA」の3姉妹でいくと。いろいろな道を模索する若年期,大変な子育て期,子育てが一段落した後の壮年期,という3つのステージにより密接した有用な情報が提供されることになるでしょう。よく練られた戦略だなあと感心します。

 ちなみに,最年長のARIAの編集長は羽生祥子氏です。知る人ぞ知る,日経DUALの創刊編集長です。私と同じ1976年のお生まれで,ご自身も「ARIA」のステージに入られています。3月にお会いしたとき,「学び直しなど,これからやりかたいことがたくさんある」と語っておられましたが,その思いが誌面に投影されることと思います。

 ウェブメディア隆盛の時代で,中にはPV至上主義の低俗メディアも多いのですが,来年2月にスタートする「日経3姉妹」は,それとは一線を画した,社会性・公共性のある媒体です。スウェーデンの女流教育家のエレン・ケイは,20世紀は「児童の世紀」になると言いました。この伝で言うと,21世紀は「働く女性」の世紀です。こういう時代を牽引することになると確信します。

 多少なりとも関わりを持った身の上として,私も陰ながら応援しております。来年2月の始動が楽しみです。

2018年12月16日日曜日

あなたの稼ぎは多いか,少ないか

 40代男性で年収650万円は高収入かが議論になり,大多数の人が「そうではない」と否定したそうです。
http://news.livedoor.com/article/detail/15743624/

 うーん,どうなんですかねえ。多くの人は自分の経験やフィーリングをもとに判断しているのでしょうが,正確なジャッジを下すにはデータに当たるのが一番。2017年の『就業構造基本調査』から,40代前半男性の所得分布をとると,以下のようになります。税引き前の年間所得額の度数分布です。所得の階級区分は,原資料によります。


 所得が判明した439万人の分布ですが,400万円台に山があるノーマル分布です。問題の650万円は,黄色の階級に含まれます。この階級のちょうど真ん中ですので,右端の累積%値から,全体の上位25%値であることが知られます(累積%値 ≒ 75.0)。

 上位4分の1に相当する値ですので,高い部類に入ると判断されます。冒頭の議論への参加者がどういう人たちなのか存じませんが,印象やフィーリングには齟齬が生じるもの。横着しないで,ちゃんとデータに当たってみるものですね。

 これで終わりでは面白くないので,上記の度数分布表をもとに,所得の高低を測る目安を作ってみましょう。以下の5つの値を計算してみます。

 下位10%値 下位25%値 中央値 上位25%値 上位10%値

 下位10%値は200万円台前半,下位25%値は300万円台,中央値は400万円台,上位25%値は600万円台,上位10%値は800万円台の階級に含まれることが分かります。按分比例を使って,それぞれの値を推し量りましょう。

下位10%値:
 按分比=(10.0-7.9)/(14.4-7.9)=0.324
 下位10%値=200+(50×0.324)=216万円

下位25%値:
 按分比=(25.0-20.9)/(37.4-20.9)=0.250
 下位25%値=300+(100×0.250)=325万円

中央値:
 按分比=(50.0-37.4)/(55.0-37.4)=0.717
 中央値=400+(100×0.717)=472万円

上位25%値:
 按分比=(75.0-70.0)/(80.7-70.0)=0.466
 上位25%値=600+(100×0.466)=647万円

上位10%値:
 按分比=(90.0-88.1)/(92.5-88.1)=0.439
 上位10%値=800+(100×0.439)=844万円

 この5つのポールをもとに,6つの階級を設定できます。こんな感じです。


 働き盛りのアラフォー男子の皆さん,あなたの所得はどのゾーンに入りますか?私は…… むーん,自分の稼ぎの相対位置がはっきり分かっちゃうのも辛いですねえ。

 上位10%のスタープレイヤーのラインは,844万円です。このラインを越えれば,40代前半の男性の中では「やり手」に属します。

 これは40代前半の男性の診断表ですが,他の年齢層のも見たい,という要望があるでしょう。同じやり方で,他の年齢層(5歳刻み)についても,5本のポールを立ててみました。それに依拠すると,6つの階層分けは,以下の表のようになります。


 どうでしょう。20代前半は学生バイトが多いので,見方に注意してください。50代になると,上位10%入りのラインは1000万超に跳ね上がります。

 結婚期の20代後半をみると,所得が325万円あれば,中央値超えの高い部類に入ります。女性が結婚相手に求める年収は500万円とかいう記事を目にしたことがありますが,このレベルの稼ぎがある人は,20代後半男性では10人に1人です。よほどの幸運がない限り,叶わぬ夢といえるでしょう。

 これは全国のデータから作ったものですが,言わずもがな,地域差もあります。私は,鹿児島と東京という両極の生活を知っていますので,この点は肌身で感じますね。この2都県の診断表も試作してみましたので,ご覧に入れましょう。


 やっぱり違いますね。私の年齢層(40~44歳)だと,フツーと判断される中央値は,東京は556万円,鹿児島は411万円です。私の場合,鹿児島の基準でみても,フツーのラインに達していないのですが…。

 40代前半でスタープレイヤーと判断されるラインは,東京は1069万円,鹿児島は688万円なり。こちらも大きく違っています。東京では普通よりちょっと上は,鹿児島ではスターです。

 赤字は,所得300万円がどのグループに含まれるかを示します。東京では,30代以降は,下位25%値にも満たないプアと判定されます。鹿児島の結婚期(20代後半)でいうと,所得300万円といったら,上位3分の1ほどにある「稼ぎ手」の部類です。前に書いたことがありますが,本県では,300万稼ぐ男性に会えたら「御の字」です。

 「年収**万円は高収入といえるか?」。こういうネタの記事をよく見かけますが,本記事では,データをもとにした判断の手法の例を紹介してみました。度数分布表から按分比例で5つの区分線を出し,それに依拠して6つの階層に分けるやり方です。その気になれば,もっと細かい階層分けも可能です。

 忘年会の季節ですが,「てめえの稼ぎは多いのか」という話題が出た時,スマホで本記事の診断表を見ていただき,盛り上がっていただければと思います。

2018年12月12日水曜日

各年齢時点の性行動の経験済み率

 日本性教育協会は,大よそ6年間隔で,青少年の性行動について調査しています。最新の調査(第8回)は2017年に実施されたもので,報告書は今年の8月に出ています。

 学生の頃,よくチラチラとみていましたが,年を経るにつれ,調査事項も充実してきているようです。最近のデータはどういうものかと興味を持ち,上記サイトで報告書を注文しました。送料込みで1250円なり。

 目玉は性行動の経験率です。2017年調査によると,大学生男子の4つの行為の経験率は,以下のようになっています。これまでに,当該行為をしたことがあると答えた者の比率です。

 告白  …  67.7%
 デート  …  71.8%
 キス  …  59.1%
 性交  …  47.0%

 まあ,こんなものでしょうね。報告書時系列グラフによると,どの行為の経験率も,2005年のピークに下がってきています。これをもって「草食化」などと言われたりします。

 では,当該の行為を初めて経験したのはいつか。当該行為の経験者に,初めて経験した年齢を尋ねた結果は,以下のようになります。原資料の数値を採取してまとめたものです。


 赤字は最頻値(Mode)です。好きな人への告白は14歳,デートとキスは15歳,性交は18歳となっています。思春期の只中の中2でコクって,翌年にデート&キス,自由な空間が持てるようになる大学1年で初体験,というパターンが多いみたいです。

 これは経験者のデータで,未経験の人は蚊帳の外です。私としては,「*歳の時点では,同年代の*%がキスを経験済み」というような情報に興味を抱きますね。多感なティーンも,「自分は,周囲に比して早い(遅い)のかしら」と内心思っているもの。

 上記で示したデータを加工することで,それを得ることができます。上表の初経験の年齢分布を,最初で示した経験率にかけ,全数ベースの比率にし,下から累積すればいいだけです。

 たとえば,15歳で初めてデートをしたという人の比率を全数ベースにすると,17.3% × 0.718 = 12.4%となります。

 以下の表は,このような形に加工したデータです。「*歳の時点で,同年代の*%が★★を経験済み」というふうに読めます。


 2割を超える年齢の数値に青色,半分を超える年齢の数値に黄色のマークをしました。同年代の経験済み率が2割を超えるのは,告白は13歳,デートは14歳,キスは15歳,性交は18歳です,半分超えは,告白とデートは16歳,キスは19歳となっています。性交は,大学卒業の時点までに半分に達することはないようです。

 ふうむ。16歳(高1)にして,同年代の半分が好きな人に告白し,デートしたことあるんですね。

 表をヨコに読むと,各年齢時点における周囲との比較の目安が得られます。セブンティーン(17歳)をみると,告白とデートは半分,キスは3人に1人,性交は8人に1人,という具合です。

 上表の累積比率のデータをグラフにしましょう。4つの行為の経験済み率曲線です。


 乳幼児の発育の標準を知れる「発育曲線」というのが母子手帳に載っているかと思いますが,思春期・青年期の性行為の標準をうかがうデータとして,参考にしていただければ幸いです。

 なお,ここで申し上げたいのは,恋愛にも「格差」があることです。前にニューズウィーク記事で言及したことがあるのですが,20代男性を正規と非正規に分け,恋人がいる者の率を比較すると,前者が後者より明らかに高くなっています。
 
 恋愛したくともできない若者が増えている可能性もあるでしょう。恋をしない若者の増加,ひいては未婚化を,価値観の変化とか草食化とか,メンタリティの変化だけに要因を帰してはいけないと思います。

 あと,奨学金の影響も見逃せません。大学進学率の上昇により,奨学金を使う学生が増え,「借金漬け」の若者が多くなっているのですが,これが男女の結びつきを阻害していないか。「奨学金,どれくらい借りてます?」というのは,最近の婚活イベントの定番の質問だそうです。

 「Fランは,ATMのあるパチンコ屋のようなもの」とは,見事な比喩だと思いますが,「教育の押し売り」の度が過ぎていないか,そろそろ考え直すべきでしょう。

2018年12月1日土曜日

教員と生徒のネットでのやり取り

 私は,教員不祥事報道を集めており,月末のブログ記事で整理するのですが,いろいろやってくれるなあと思います。大半が,生徒へのわいせつ行為です。

 文科省の統計でみても増えているのですが,教員の振る舞いへの目線が厳しくなり,以前に比して発覚しやすくなっていることがあるでしょう。しかし,それだけではないかもしれません。ネットで,教員と生徒が容易につながれるようになったこともあるのではないか。

 それは当局も認識している所で,教員と生徒がメールをしたり,SNSでやり取りしたりするのを禁じている自治体がほとんどです。

 OECDの国際学力調査「PISA 2015」では,15歳の生徒に対し,「教員とやり取りしたり,宿題を提出したりする用途でメールをどれほど使うか」と訊いています。日本の生徒の回答をみると,92.4%が「全くしない」です。さもありなん。
http://www.oecd.org/pisa/data/2015database/

 しかし,他国は違っています。いつも取り上げる主要国の回答分布をみてみましょう。アメリカは,「PISA 2015」のICT調査に参加していないので,データがありません。


 5つの選択肢による回答分布ですが,国によって模様が違っています。日本では「全くしない」が大半ですが,他国はさにあらず。イギリスやスウェーデンでは,3人に1人以上が「週1回以上する」と答えています。

 教員とどういうコミュニケーションを取っているのか分かりませんが,メールで課題を提出する,個別指導を受ける,といった用途が多いのではないかと推測します。周知のように,北欧ではICT教育が進んでいますからね。

 「PISA 2015」のICT調査では,「教員とやり取りする用途で,SNS(フェイスブック等)をどれほど使うか」も尋ねています。この設問への回答も興味深し。

 双方の設問に対し,「週に1回以上する」と答えた生徒の割合を国ごとに計算してみました。分母から無回答・無効回答は除いて出した比率です。横軸にメール,縦軸にSNSをとった座標上に,データが分かる45か国を配置したグラフにしてみましょう。教員と生徒のITコミュニケーションの国際比較図です。


 日本は,メールで教員とやり取りする生徒は3.8%,SNSでは6.0%で,両方とも45か国の中では最も低くなっています。こういう形でのやり取りを禁じている自治体が多いのだから,当然といえばそうです。

 しかし,対極のタイはスゴイですね。15歳生徒の半分以上がメール,7割以上がSNSで,週に1回以上教員とやり取りする,と答えています。メキシコ,コロンビアといった発展途上国でもITコミュニケーションの頻度が高いようですが,学校に来れない生徒が多いためでしょうか。

 日本では,よからぬことが起きるからと,教員と生徒がネット上でやり取りするのを禁じていますが,度が過ぎてはなりますまい。21世紀型のICT教育を阻害することにもなります。

 SNSは,題材に関する意見や疑問点をあらかじめ共有し,授業の場で討議する「反転授業」にも使えます。教師が指導の書き込みを入れることも可能です。今後,学校の教授活動向けのアプリが続々と開発されるでしょう。2025年頃には,上記のグラフにおける位置が変わっているかもしれません。いや,そうあってほしいです。

 文明の恩恵は利用すべきです。参加者限定の学びのコミュニティの上であるならば,教員と生徒のやり取りを解禁してもいいのではないか。むろん,教員の労働時間に際限がなくならないよう,ログインできる時間を制限するなどの配慮は要ります。

 教育的コミュニケーションが行われる場は,今となっては,教員と生徒が直に向き合い教室だけではありません。そのリアルの場での教授活動を充実したものにすべく,デジタル空間でのやり取りも併用したいものです。それができないうちは,ICT教育後進国と後ろ指を指されても仕方ありません。