2020年4月20日月曜日

パソコンを使わない生徒の率

 コロナの影響で学校が休校になり,児童生徒は家にいるのですが,教員は涙ぐましいことをしています。家を一軒一軒回って,紙の課題を届けているのだそうです。今の時期では,命に関わる危険な行為ともいえます。

 IT業界の人にすれば,「学校は昭和の時代を引きずっているのか?」と言いたくなるでしょう。メールで送る,ないしは学校サイトでダウンロードできるようにすればいいこと。しかし,自宅にネット環境がない子もおり不公平になるので,それはできないとのこと。それなら,宅配の対象はそういう家庭に限定すればいいと思うのですが,それは置いておきましょう。

 確かに,自宅にネット環境がない子は,日本では多いと思われます。それは,パソコンの使用率(所持率)で見て取れます。OECDの国際学力調査「PISA 2018」では,15歳生徒に「自宅にデスクパソコン,ノートパソコンがあるか,あなたはそれを使うか?」と問うています。回答の選択肢は以下の3つです。
https://www.oecd.org/pisa/

 1.家にあり,自分も使う。
 2.家にあるが,使わない。
 3.家にない。

 個票データを用いて,デスクとノートの回答をクロスさせると,以下のようになります。双方に有効回答を寄せた5977人のデータです。比較対象として,アメリカのデータもお見せします。数値は全体に占める%で,トータルで100%となります。


 アメリカでは,半分近くの生徒がデスク,ノートとも家にあり,自分も使うと答えています(左上のセル)。しかし日本では,こういう生徒は2割しかいません。

 その代わり,「家にあるが,使わない」ないしは「使わない」の回答比率が高くなっています。色をつけた4つのセルは,パソコンを使わない生徒の率と読めます。日本は49.6%,アメリカは18.0%です。

 15歳生徒(高1)のデータですが,日本では,家でPCに触れない子が半分もいるのですね。小・中学生ではもっと多いでしょう。なるほど,教員が宿題のポスティングに,家を回らないといけないわけです。

 「PISA 2018」のICT調査の対象は50か国ですが,同じ値を計算して,高い順に配列すると以下のようになります。昨晩,ツイッターでも発信した,PCを使わない生徒の率の国際ランキングです。


 日本の49.6%は,50か国の中で3位となっています。主要先進国と比して際立って高く,発展途上国のゾーンに位置しています。数値化すると強烈ですねえ。

 ICT教育先進国のデンマークでは,パソコンを使わない生徒なんてほとんどいません。庶務連絡や課題提出もネット経由なんで,PCは自ずと必須です。生徒の家に課題を宅配する教員の話なんて聞いたら,仰天するでしょう。

 日本は校務のICT化など全然進んでおらず,学校生活を送るに際してPCを使う必要性に迫られることはありません。仲間と交信したり,面白おかしい情報を収集するためのスマホで十分。上記のような惨状になっているのは,PCを使う必要に迫られないことが大きいかと思います。

 これと関連し,私は大学で教えていた時のことを思い出しました。3年の調査統計の授業をもった時,エクセルで簡単な棒グラフも作れぬ学生が多く,話を聞いたら「エクセルなんて,1年時の情報処理の授業以来開いたことがない」と言われました。これは,PCを使う課題を出さない大学の責任だな,と思いましたね。2012年の話です。

 下の学校でも事情は同じでしょう。小・中・高の総合的な学習(探求)の時間等で,PCを使う課題を出すべきです。課題の指示ややり取りはネット経由でする。PCを必須ならしめる環境を意図的に作るのです。経済的理由でPCを用意できない家庭はどうするのか,と言われるかもしれないですが,今となっては,パソコンは,昔でいう筆記具やノートとと同様,必須の学用品とみなすべきです。それが賄えぬ家庭には,就学援助の範疇で支給(貸与)すればよろしい。

 PCに触れない生徒の率が高いことの要因は,①そもそも家にPCがない,②家にあるけど使わない,という2つに分解することができます。最初の表をみると,デスクもノートも家にないという生徒の率は,日本では15.5%となっています(右下の濃い色のセル)。デスクもノートも使わない生徒の率(49.6%)との差が大きくなってます。こうみると,②の要因が大きいように思えてきます。

 先ほどはPCを使わない生徒の率を国別に出しましたが,家にPCそのものがない生徒の率を出し,2つの数値を照らし合わせてみましょう。ベタな統計表は見づらいので,横軸に前者,縦軸に後者をとった座標上に各国を配置したグラフにします。


 横軸は,先ほどの表と同じです。PCを使わない生徒の率,日本は3位です。しかし,家にPCがない生徒の率(縦軸)は,日本は10位となっています。

 日本の特徴は,横軸と縦軸のギャップが大きいことです。それは,斜線の均等線からの距離で見て取れます。PCを使わない生徒は49.6%,PCが家にない生徒は15.5%,30ポイント以上も開いているのは日本だけです。

 発展途上国では,貧困ゆえにPCが家にないことが効いていますが,日本では家にあっても使わないことが大きいようです。親は仕事の必要からPCを使うけれど,子どもはそうではないと。このブログで何度も書いてますが,学校が情報化社会から隔離された「陸の孤島」になっているともいえるでしょう。

 コロナの襲来により,日本の学校もオンライン授業への梶切りを強いられるようになってます。しかし生徒のPC使用率(所持率)がこうでは,全面実施は躊躇われるというもの。コロナの補償金10万円は,困っている人にだけあげればいい。浮いた分を,子どもがいる困窮家庭へのPC支給に充てたらどうか。非常事態ではありますが,未来を担う子どもたちの教育機会が侵害されるのは,何としても避けねばならないことです。