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2015年2月28日土曜日

2015年2月の教員不祥事報道

 今日で2月もおしまいです。ということは,明日からもう春です。本当に早いですね。

 さて月末の教員不祥事報道の整理です。今月,私がネット上で把握した不祥事報道は25件でした。イスラム国の事件の影響からか,あの残忍ビデオを子どもに見せてしまったという事案が目立っています。

 私もだいぶ前,臨床社会学の授業で映画「バトル・ロワイヤル」を見せようとしたことがありますが,やはりちょっとヤバいかなと思いとどまりました。視聴覚教材はインパクトが強いので,選定には十分気をつけねばなりません。

 もう3月,ブログの背景もチェンジです。

<2015年2月の教員不祥事報道>
中3担任、学級通信に全員の受験高を記載し配布 (2/5,読売,神奈川,中,男,50代)
小5授業で日本人人質遺体画像 名古屋の市立小(2/5,中日,愛知,小)
「盗撮カメラ」調査せず廃棄、校長ら停職処分(2/5,朝日,大阪,小男58,小男47)
別の学校でも授業で遺体画像(2/6,Yニュース,愛知,小,男,40代)
桜宮高バスケ部体罰元教諭を無断でコーチに招く 中学顧問の処分検討
 (2/9,産経,大阪,中,男)
生徒に体罰、中学教諭4人処分(2/10,朝日,大阪,男61,男33,男29,男49)
授業で人質事件の殺害映像見せる 栃木の中学校教諭 (2/10,朝日,栃木,中,男,50代)
三重の中学校でも 授業で人質映像見せる(2/10,朝日,三重,中,男)
後輩にパワハラ、幼稚園教諭3人を懲戒処分(2/11,朝日,愛知,幼,女)
長野の支援学校で体罰 男女3教諭処分(2/13,産経,長野,特,女41、男41、女46)
セクハラで児童15人が被害 宮城県教委、教諭を停職(2/13,共同通信,宮城,小,男,59)
飲酒などで教員3人を処分
 (2/13,NHK,福島,飲酒:高男教諭47,金庫不適切管理:中男58,体罰:小男55)
女子高生に痴漢の疑い 市立高教諭を逮捕(2/14,神奈川新聞,神奈川,高,男,24)
「喫煙所が遠くて…」校舎内で吸い小学校長訓告(2/16,読売,高知,小,男,50代)
常習的な体罰で2中学教諭処分(2/17,河北新報,岩手,中男20代,中男50代)
地下鉄車内で痴漢行為の男性教諭、停職6カ月の懲戒処分に
 (2/19,サンスポ,愛知,中,男,52)
児童けがで非常勤の教諭が謝罪 千葉市の小学校 両肩つかみ壁に押しつける
 (2/20,千葉日報,千葉,小,男,20代)
学校に申請してPC購入、自宅に持ち帰った教諭(2/21,読売,大阪,高,男,48)
裸の写真送らせた教諭を懲戒免職(2/21,読売,大阪,小,男,26)
中学教諭がいす投げ、生徒2人けが 備品返却されず腹立てる
 (2/25,河北新報,秋田,中,男,50代)
路上で女性にわいせつ行為をしようとした疑い 小学校教師逮捕
 (2/26,フジテレビ,神奈川,小,男,23)
傷害容疑で高校教諭逮捕=酒に酔い従業員に頭突き(2/27,時事通信,福島,高,男,32)
わいせつ免職隠し、採用された小学教諭を懲戒免(2/27,読売,東京,小,男,47)
飲み会帰りの小学校教諭、車で男性はねた疑い(2/28,朝日,沖縄,小,男,47)
飲酒運転で事故、逃走 教諭逮捕 高松市(2/28,日本テレビ,香川,小,男,49)

2015年2月25日水曜日

パソコンを持たない若者

 私は大学で調査統計の授業(3年生対象)を持っていますが,エクセルで簡単な棒グラフを作れない学生さんが結構いることに驚いています。

 話を聞くと,「エクセルなんて,1年時のコンピュータ活用の授業以来,全然開いていない。きれいさっぱり忘れた」とのこと。それどころか,パソコンに触れることもあまりないのだそうです。じゃあ,彼らの生命線ともいえるネットはどうしているのかというと,言わずもがなスマホなどの小型機器です。仲間との通信,買い物,情報収集などはこれで十分。

 私などはその逆で,ケータイもスマホも持ちませんが,卓上のパソコンは必需品です。ネットはスマホでもできますが,私は目が悪いので,小さい画面はきつい。それに生業であるデータ分析や原稿執筆は,パソコンでないとどうにもなりません。

 私は,若者のデジタル事情について興味を持ち,データで実態を明らかにしてみました。国際比較によって,わが国の状況を相対化してみました。今回は,その結果をみていただこうと思います。

 内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年度)では,対象の13~29歳の若者に対し,所有しているデジタル端末について尋ねています。デスクトップパソコン,スマホなどの機器を提示し,持っているものを選んでもらう形式です。「あなたが持っているデジタル端末を次の中から選んでください」というワーディングですので,自分専用のものであると解されます。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 下の表は,それぞれの機器の選択率(所有率)をまとめたものです。各国の年齢層ごとの所有率です。黄色は最も高い国,青色は最も低い国を意味します。なお,以下のデータは,内閣府にローデータを申請し,私が独自に作成したものであることを申し添えます。


 ケータイ・スマホは,さすがにどの社会でも所有率が高くなっています。日本のように,年中スマホをいじくる若者が他国にどれほどいるのかは知りませんが,客観的な所有率は国を問わず9割を超えています。

 タブレット,ノート,デスクトップパソコンは国際差が結構あり,日本の若者の所有率は低くなっています。タブレットとデスクトップは最下位,ノートは下から2位です。その一方で,携帯ゲーム機はどの社会の若者よりも持っています。

 なるほど,「エクセルなんてここ2年ほど開いたことがない。パソコンなんて触れない」という,学生さんの言葉も分かるような気がしてきました。まあ,パソコンはデスクトップかノートのどちらかがあればいいのですが,両方とも持っていない者はどれほどいるのでしょう。

 上記調査のローデータを加工して,ノートとデスクトップの双方を選んでいない,つまりどちらも持っていない者を取り出し,全体に占める比率を出してみました。下の図は,7か国の出現率の年齢曲線です。


 昨日,ツイッターでも発信した図ですが,ちょっと衝撃的です。日本の13~15歳(≒中学生)では,7割がデスクトップもノートも持っていません。他国の1~2割とは大違いです。義務教育段階での情報教育の熱意度が,社会によって違うことの表れでしょうか。

 まあ,自分専用のパソコンを持たずとも,自宅にある家族共用のを使っている者もいるでしょう。最後に,この部分をも排した,パソコンを使わない者の比率を計算してみましょう。

 用いるのは,OECDの「PISA 2012」のデータです。この国際調査でも,各種のデジタル機器の所有状況を尋ねています。こちらは「自宅にあるか?」という尋ね方です。選択肢は,①「自宅にあり,私はそれを使う」,②「自宅にあるが,私は使わない」,③「自宅にない」の3つです。デスクトップとノートの双方について,②もしくは③と答えた生徒の割合を出してみました。
http://pisa2012.acer.edu.au/downloads.php

 日本の15歳生徒の場合,これに該当するのは1198人であり,対象生徒全体の18.9%に相当します。自宅にて,まったくパソコンに触れない生徒の比率の近似値とみてよいでしょう。この比率を国際ランキング図をつくると,下図のようになります。


 日本は43か国の中で4位です。米英仏が調査対象から漏れていますが,先進国の中でトップであるとみてよいでしょう。

 わが国は,若者のパソコン離れが国際的にみても進んでいることを知りました。2012年10月21日の記事では,日本の15歳生徒のコンピュータスキル(自己評定)が世界で最も低いことをみたのですが,「謙虚な回答をした生徒が多いから」という理由だけではないのかもしれません。

 若者のパソコン離れ,情報スキルの低下は議論になっているようです。これは「世代の差」で片づけてよい問題ではないと思います。高度情報社会を生き抜く上で,情報を収集する,データを分析する,文章を書く,それを発信するというのは必須のスキルであり,学習指導要領の上でも,こうした情報活用能力を身につけさせることと定められています。高校では,情報科という必修教科もあります。
http://matome.naver.jp/odai/2141302174505795301

 これらのスキルを体得するにあたってパソコンはなくてはならないものですが,わが国の青少年の非所有率(非使用率)がここまで高いのは,情報教育への熱心度という点で他国と差をつけられている状況の可視的な表れともいえます。

 今回のデータをもって,補助金でも交付して,若者の全てにパソコンを持たせるべきだと主張するのではありません。そんなことをしても,使わない者は使わず,宝の持ち腐れになるのが関の山。問題にすべきは,高度な情報処理技術の必要を感じない状況に若者が置かれていることでしょう。高度情報社会という社会状況が厳としてあることは,誰もが認めるはず。日本の若者はそれと隔絶されている,言い換えるなら「生きた」社会参画の機会を与えられていない・・・。こうした状況の表現として,今回のデータは読むべきであると思います。

2015年2月22日日曜日

モザイク図の効用

 朝食を食べている子どもほど学力が高い。「朝食パワーで学力アップ!」。よく聞くところですが,両者の相関が疑似相関である可能性が高いことは,多くの人が見抜いているところでしょう。

 最新の全国学力テストのデータから,小6児童のクロス表をつくると下表のようです。横軸が朝食の摂取頻度の群,縦軸は算数Bの正答率の四分位群を意味します。A層は上位4分の1・・・D層は下位4分の1の児童です。ここでは,正答率の個人分散が大きい算数Bの成績に注目しています。


 朝食を食べているa群では学力上位のA層が最も多く,他の3群ではD層が最多です。D層の割合は,a群では18.3%,b群では30.7%,c群では41.2%,d群では47.7%となっています。朝食をまったく食べない群では,半分近くが正答率D層であることが知られます。言わずもがな,A層の比率はこれとは逆の傾向です。

 朝食摂取頻度と学力の間に明瞭な相関関係があるのは明らかですが,これが「朝食食べる→学力アップ」の因果関係を表すとは限りません。最下段の合計をみると,朝食を食べないc群やd群の児童はごくわずかです。ちゃんと勉強できる環境が整っていない貧困家庭の児童・・・。こんな疑いが持たれます。

 上表のデータをグラフにするときは,それぞれの群の量的規模,すなわち各群の置かれた文脈を考慮しなければなりますまい。ここで,最近私がハマっているモザイク図が役に立ちます。クロス表の各セルの量を四角形の面積で表現する図法です。


 上の①は,当局の白書などによく載っている普通の帯グラフですが,これをみるととてもクリアーな傾向で,朝食摂取と学力の間には明瞭な相関,ひいては因果関係までがあるかのように思えますね。

 しかし,下の②のモザイク図をみると,印象が変わります。調査対象児童のほとんどはa群であり,朝食を食べていないc群やd群の子どもはマイノリティーです。「朝食を食べない」と「正答率が低い」という特性は,家庭の貧困のような共通の地盤から出ているものと察せられます。ゆえに,両者の相関は「見かけ」のものであると。

 食育啓発のポスターでは①のグラフが載っていることが多いのですが,私は②のほうを載せたほうがいいのではないかと思います。それが無理なら,せめて各群のN(サンプル数)を添えるべきかと。

 師匠の松本良夫先生は,社会階層と非行親和性の関連を図示するにあたって,このモザイク図を使われています。たとえばブルーカラー層の子弟であっても,ブルーカラー多住地区とホワイトカラー多住地区では,意識や価値観を大きく異にするでしょう。こうした文脈効果に思いをはせる上でも,各群の量を表現するモザイク図は有効です。

 何から何までモザイク図にする必要はありませんが,Nが大きく違っている場合は,この図法にしたほうがよいでしょう。朝食と学力の関連のデータは,この点を教えてくれるよい題材です。

2015年2月20日金曜日

何歳まで生きるんだろう?

 長生きしようとは思いませんが,「自分は何歳まで生きるんだろう」と思うことがあります。突発事故で明日逝くかもしれないし,まかり間違って90歳,いや100歳まで生きてしまうかもしれない・・・。

 それは神のみが知るところですが,自分と同世代の人間の何%が何歳まで生存するかということは,統計から見当をつけることができます。その統計とは,国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」です。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp

 この資料から,未来の各年の年齢別人口を知ることができます。東京オリンピックが開催される2020年には,私の世代(1976年生まれ)は44歳になりますが,この年の44歳人口は男性で90.4万人,女性で88.0万人です。2036年に60歳となりますが,その数は順に84.5万人,85.1万人と見込まれています(中位推計)。

 私はこの統計をつなぎ合わせて,自分の世代の推定生存率を出してみました。今年(2015年)で39歳ですが,その数を基準とした生存確率です。口で説明するより,表を見ていただいたほうが早いでしょう。


 ほう,多くの人が長生きすることが予想されますね。男性でみると,70歳時点で現在数の84%が生存していると見込まれ,半分を切るのは86歳になってからです。94歳の時点でも21%,つまり5人に1人が生き残っているようです。女性に至っては,もっと長し。

 現在の同世代人口の半分が85歳,5人に1人が94歳まで生きると(男性)。まあ私は,その中には入らないでしょうし,先のことなど考えない主義ですが,長期的な展望を持たざるを得ないのかなあ,とも思ったりします。

 なお上表の数字には,人口の国際移動の分も入っていますが,高齢になってから流入してくる人はそういないでしょうし,流入と流出が相殺するとみなし,大勢に大きな影響はないとみてもよいでしょう。

 39歳現在の人口を基準とした推定生存率をグラフにしておきます。


 これは1976年生まれのデータですが,後の世代では,曲線がもっと上にシフトすることでしょう。そういえば,リンダ・グラットン教授の『ワーク・シフト』では,今世紀以降に生まれた子どもの多くは100歳まで生きるであろう,という予言が記されていました。

 これから先,医療技術はさらなる進歩を見せるでしょうし,若返り細胞まで開発されるというのですから,あり得ないことはでありません。人生100年,150年の時代になったら,既存の人間生理学や生涯発達心理学のテキストは,大きく書きかえられねばなりません。30~40代は青年期なんていう記述がされたりするかもしれませんね。

 冒頭の問いに立ち返ると,私の世代の男性は,現在人口の半分が80代半ば,5分の1が90代半ばまで生きるであろうことを知りました。今年の学生さん(1990年代生まれ)の世代は,どうかな。統計法の授業でやらせてみたい課題です。

2015年2月18日水曜日

結婚市場のリアル

 婚活産業が繁盛しているそうですが,出会いの会合に足を運ぶ男女の多くは腹の底で,「収入が合格ライン以上の男性がいるかしら」(女性),「こんな年収の僕でも選んでくれる人はいるかな」(男性),ということを考えているのではないでしょうか。

 明治安田生活福祉研究所の調査(2013年)によると,20代の未婚女性の31%は,年収400万円台の結婚相手を希望しているのだそうです。2012年の『就業構造基本調査』に載っている,20代の未婚女性数は496万人。先ほどの比率をこれに乗じると,154万人となります。年収400万円台のお相手を希望する,20代の未婚女性の実数です。
http://www.myilw.co.jp/life/enquete/07_marriage.html
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 一方,上記の『就業構造基本調査』から分かる,年収400万台の20代の未婚男性は33万人ほど。隔たっていますねえ。

 このやり方にて,結婚相手に求める年収別の未婚女性と,年収別の未婚男性の実数を明らかにし,表にまとめてみました。20~30代のデータです。


 官庁統計の20~30代の未婚者数は,女性が738万人,男性が896万人であり,男性のほうが余っています。しかし,「男性>女性」であるのは一番下の年収300万未満(無業含む)の層だけで,それ以外の層では軒並み女性のほうが多くなっています。

 さて,年収400万台の相手を希望する女性が,その望みを叶えられる確率を考えてみましょう。一番上の①をみると,このレベルの年収を希望する女性は238万人です。この基準をクリアしている男性,すなわち年収400万以上の男性は134万人(④)。

 しかし競争相手として,より下のレベルの年収でもいいという女性も入ってきますから,競争率計算に使う分子は,下の2つの階級も足して511万人となります(③)。

 したがって,年収400万円台の相手を希望する女性が,意中の相手を奪い合う競争率は,511/134=3.8倍ということになります。これは20代と30代をひっくるめた計算結果ですが,20代だけに限ると,この値は8.0倍にまで跳ね上がります(344/43≒8.0)。20代の若造では,そんなに稼いでいる男性は多くないですしね。

 上表の③を④で除すことで,相手に求める年収のレベルに応じた,女性の側からの競争率を計算することができます。400万円台の相手を希望する女性の場合,意中のオトコを奪い合う競争率はどれほどかです。計算結果をご覧いただきましょう。


 まずは20代と30代をひっくるめた値からみると,要求レベルが年収500万円台になると競争率は10倍を超え,1000万超を望むとなると338倍にまで急騰します。最高レベルとなると,市場に参入してくる全女性が競争相手になりますが(737万人),この条件を満たす相手はたった2万2千人ですので。

 ましてや,1000万超を望む20代女性が,同年齢の意中の男性をつかまえられる確率は,1457人に1人です。宝くじのレベルですね。30代になると競争率は下がりますが,20代の未婚女性を競争相手(分子)に加えると,値が跳ね上がるのは言うまでもありません。

 20代と30代の値は,同年齢層どうしが求め合うという仮定を置いて出したものですが,30代のオトコでもいいという20代女性も多くいることでしょう。よって,年齢層ごとの競争率は参考値とみていただき,右端の20~30代の計算結果に注目していただければと思います。

 夫に全面的に養ってもらおうというなら,年収600万円台くらいを求めたいところですが,そうなると,30倍もの競争を勝ち抜かなくてはなりません。思い切って,年収300万円台にまで下げれば競争率は1.0を割りますぜ。

 どれくらいのレベルが現実的か。一つの試算結果として,婚活イベントに臨まれる女性の方々の参考になればと思います。

2015年2月17日火曜日

アラフォー男女の年収別の未婚率

 一昨日,アラフォー男性有業者の年収別の未婚率グラフをツイッターで発信したところ,見てくださる方が多いようです。アラフォーとは,40歳近辺の年齢層をいいます(アラウンド・フォーティー)。上記のグラフは,35~44歳の男性有業者のものです。
https://twitter.com/tmaita77/status/566913249950453761

 元データをみたい,女性の折れ線も見たい・・・。こういう声がありましたので,ここにてお応えしようと思います。

 まずは素材の提示ですが,件のグラフは,2012年の総務省『就業構造基本調査』のデータからつくったものです。下記サイトの表23から,35~44歳男性の年収別の有業者総数と未婚者数を採取して,割り算をした次第です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048182&cycleCode=0&requestSender=search

 以下に素の計算表を掲げます。女性のデータも加えています。繰り返しますが,アラフォー=35~44歳としています。


 一昨日のグラフでも分かるように,男性では,年収が低い層ほど未婚率が高い傾向にあります。収入が低い男性は,女性に見限られるのか,なかなか結婚がしにくい。残念ながら,これが現実のようです。

 一方,女性のほうはそうではないようです。むしろ年収が上がるにつれて未婚率も上がるというような,男性とは逆の傾向がうっすらとみられます。

 数値では分かりにくいので,上表の年収別の未婚率を折れ線グラフにしてみましょう。一昨日の図は男性の曲線ですが,女性の曲線も添えるとこんな感じになります。


 男性は,哀れとも形容すべき右下がりの型ですが,女性はそうではなく,大よその傾向としては右上がりです。まあこれは,ガシガシ稼ぐキャリアウーマンが敬遠されるというよりも,家計補助のパート就業が多い既婚女性の年収が低いため,とみるべきでしょう。因果の方向が男性とは反対で,結婚の結果こうなったと。

 しかし量的に多くないとはいえ,年収800万や1000万超の富裕層では,男女の未婚率にこうも開きがあることには驚かされます。これにはジェンダーの問題が絡んでいるようにも思えます。『世界価値観調査』(2010-14)にて,「妻が夫よりも稼ぐと,トラブルの原因になる」という項目への反応をみると,北欧のスウェーデンでは「そう思わない」という否定の回答が70.2%であるのに対し,日本はわずか16.5%です。残りの85%は,「そう思う」ないしは「どちらともいえない」と考えているわけです。

 最後に,各年収階層の量を考慮した,年収別の未婚率のモザイク図を提示しておきます。最初の原表から察せられるように,極端な貧困層や富裕層は量的に多くありません。たとえば男性でいうと,年収1000万超の比率は全体のたった3%です。この点を落とすと,全体の構造を見誤る恐れがあります。

 下の図は,100万円区切りの年収階層別の未婚率(男性)をモザイク図で表したものです。横幅を使って,各層の比重を表しています。


 35~44歳の男性の図ですが,量的に多いのは年収300~500万台ですね。年収200万未満や1000万超の層はわずかです。この手のモザイク図は,エクセル統計2012というソフトで簡単につくることができます。お持ちのエクセルに埋め込むことができます。お勧めの統計ソフトです。
https://software.ssri.co.jp/ex/function/mosaicchart.html

 話がそれましたが,年収別の未婚率のジェンダー差については,昨年7月の日経デュアル誌に書かせていただきました。興味ある方は,こちらもご覧いただけますと幸いです。

2015年2月15日日曜日

非親族世帯人員の割合

 最近,ルームシェアなるものが流行っているそうですが,これをやっている学生さんにたまに出会うことがあります。「友達と住んでるんで・・・」ってやつです。

 基幹統計の『国勢調査』では,この種の者は非親族世帯の人員としてカウントされます。「2人以上の世帯員からなる世帯のうち,世帯主と親族関係にない者がいる世帯」で暮らしている者です。以下では,非親族世帯人員ということにしましょう。

 こういう人間は若者に多いと思われますが,2010年の『国勢調査』によると,20代の非親族世帯人員は31万人ほどとなっています。ベースの20代人口は1372万人ですので,出現率にすると2.35%,およそ43人に1人です。ほう,結構いるのですね。

 非親族世帯人員の出現率を1歳刻みで出しグラフにすると,下図のようになります。全国と東京の曲線を描いてみました。


 20代後半に山があるきれいな型です。全国よりも,大都市の東京で出現率は高くなっています。東京のピークは27歳の4.39%です。23人に1人が,非親族世帯の住人ということになります。

 この中には,友人などと一緒に住んでいるルームシェアのほか,恋人との同棲も含まれます,遠い親類の家に下宿なんていうのは「下宿・間借り」の世帯とみなされますので,含まれないと思われます。会社の寮に入っている者や入院中の者なども,別個のカテゴリーがありますので,ここでみている非親族世帯の中には入らないと考えられます。

 上図からもうかがえるように,この指標は都市部の若年層で高いのですが,首都圏(1都3県)の20代の出現率マップをつくってみましたので,ご覧にいれましょう。各区市町村の20代の非親族世帯人員数を,ベースの20代人口で除した値です。単位は%です。


 首都圏の中でも,東京都内の特別区部に濃い色が多くなっています。やはり都市性と関連があるようですね。マックスは東京の新宿区の8.48%となっています。およそ12人に1人なり。

 1都3県の243区市町村のランキング表も作成しましたので,上位40位までの部分を載せておきます。若者のルームシェアや同棲が相対的に多い地域の顔ぶれとみても,大きな間違いではないでしょう。


 ここで注目した非親族世帯は,最近定義が変わったようなので,過去との比較ができないのが残念なのですが,以前に比して増えていることは確かでしょう。新たなライフスタイルの浸透度の指標として,これから先,注視していきたい指標です。

2015年2月13日金曜日

同性愛への寛容度の国際比較

 東京の渋谷区が,同性愛カップルに対し「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行する方針を打ち出しています。全国初の試みだそうです。
http://www.asahi.com/articles/ASH2D63DQH2DUTIL03Z.html

 わが国では,憲法にて「婚姻は,両性の同意のみに基づいて成立」(第24条1項)と定められていますので,同性の結婚はできないことになっています。そこで,「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行し,性的少数者の権利を保護しようということなのでしょう。

 しかるに世界を見渡せば,同性婚が認められている社会もあります。イギリス,フランス,オランダ,スペイン,スウェーデンなど・・・。
http://matome.naver.jp/odai/2136724610721983601

 これは制度の話ですが,国民の意識という点ではどうでしょうか。『世界価値観調査』(2010-14)にて,同性愛(homosexuality)への寛容度を尋ねた設問があります。国別の回答結果を整理し,日本の位置を明らかにしてみましょう。今後のわが国の行く末を占う,手立てになるかもしれません。

 上記の設問は,同性愛への寛容度を10段階で問う形式です。16歳以上の回答者全体の平均点を出すと,スウェーデンが8.47点,ドイツが6.09点,アメリカが5.40点,日本が5.14点,韓国が3.52点となっています。

 日本はニュートラルな5点近辺ですが,細かいデータを出してみると,ある特異性が浮かび上がります。それは,世代差が大きいことです。20代の若者と60歳以上の高齢者について,同性愛への寛容度得点の分布を図示すると,下図のようになります。左は日本,右はスウェーデンの分布曲線です。


 瑞国では,若者も高齢者もマックスの10点が極端に多くなっていますが,日本は両者が対照的な型になっています。若者では10点が最多ですが,高齢者では一番寛容度が低い1点が最も多いのです。

 まあ,どの社会でも若者は先進的な意識を持っているものですが,こうまで世代差が大きいとはちょっと驚きです。こういう社会って他にあるのでしょうか。53の社会について,若者と高齢者の寛容度の平均点を計算し,グラフにしてみました。横軸に高齢者,縦軸に若者の平均点をとったマトリクス上に,各々の社会を散りばめた布置図です。


 フィリピンやジンバブエのような例外もありますが,ほとんどの社会において,高齢者よりも若者の寛容度が高くなっています(実斜線よりも上)。点斜線よりも上は,その差が2.0ポイントを超える社会であり,日本を含む6か国が該当します。

 日本はこのゾーンの中でも最も高い位置にあり,同性愛への寛容度の世代差が最も大きい社会であることが知られます。20代の平均点が7.25,高齢者が3.44であり,その差が3.81ポイントもある社会ですから。

 日本の若者の寛容度は,オランダ,スウェーデン,オーストラリア,スペインに次いで5位です。若者だけでみると,同性婚が法的に認められている社会と遜色ないではありませんか。この部分だけを切り取ると,同性愛者への差別は将来なくなるのではないかという希望的観測すら持てます。

 わが国は短期間で激しい社会変動を経験したのですが,それだけに,同性愛への寛容度に限らず,もろもろの意識・考え方の世代差が大きい社会であるのかもしれません。このことが,幾多の社会問題を解決を滞らせている面もあろうかと思います。国会議員をはじめ,国を動かす指導層の多くは高齢者ですし。

 若者の政治参画の重要性に思いをはせないわけにはきません。その代表的な手段は選挙での投票ですが,彼らの棄権率は高く,投票所に足を運ぶ人間の年齢構成は,人口にも増して完全な逆ピラミッド型になってしまっています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/12/blog-post_14.html

 指導者層の女性比に関心が集まっていますが,若者比のような指標にも関心がもたれるべきではないかと思います。この値の高低が,社会変革の可能性のバロメーターであるといっても言い過ぎではないでしょう。今回の世代差のデータをみて,こうした思いを強くした次第です。

2015年2月12日木曜日

小学校6年生の地理認識

 2008年ころ,大学生の3割が宮崎県の位置を間違えたという調査報告が日本地理学会より発表され,話題になりました。私は『47都道府県の子どもたち』『47都道府県の青年たち』という本を書いているくらいですので,全県の地図上の位置を即座に言い当てることができます(自慢にはなりませぬが)。

 日本は47の都道府県から構成されているのですが,各県の名称と位置はマニア知ではなく,全ての子どもが身につけるべき「教育知」として,学習指導要領にて定められています。小学校3・4年生の社会科の内容です。

 小学校社会科の『学習指導要領解説』では,47都道府県の名称と位置の学習を通して,「自分たちの住んでいる県の位置を広い視野からとらえ,その特色を考える手掛かりとなるようにする」といわれています。また,「小学校修了までには確実に身につけ,活用できるようにする必要がある」とも書かれています。

 はて,当の子どもたちは,この内容をどれほど修得しているのでしょう。国立教育政策研究所が小学校6年生を対象に調査した結果がありますので,ここにて紹介しようと思います。2008年6月に公表された調査報告であり,Web上で見ることができます。

 名称から位置を答えさせる問題(A)と,位置から名称を答えさせる問題(B)を課しているようです。下の表は,それぞれの県について双方の正答率をまとめたものです。正答できた児童が全体の何%いるかです。


 両端の北海道と沖縄の正答率はさすがに高いようですが,全体的にみて,出来はあまりよくないようです。正答率50%以下,つまり半分以上の児童が間違えた県の数値は赤色にしていますが,結構多いではありませんか。福井や徳島の位置,島根の名称に至っては6割の子どもが間違えています。

 最終学年の6年生のテスト結果ですが,47都道府県の位置と名称は「小学校修了までには確実に身につけ,活用できるようにする必要がある」という学習指導要領の規定は,具現されていないようです。大学生の3割が宮崎の位置を知らないという調査結果も,さもありなんです。

 ただ,全問正解の猛者も少しはいるようで,Aを全問正答した者は全体の12.7%,Bの全問正答率は14.6%と報告されています。

 上表のA(位置)の正答率を地図にしておきましょう。70%以上,60%台,50%台,50%未満の4階級で各県を塗り分けてみました。


 おおよそ東高西低ですが,九州の色が白いのだなあ。南端の沖縄と鹿児島以外は,正答率50%未満なり。

 先ほど申したように,47都道府県の位置と名称はオタク知ではなく,全ての子どもが身につけるべき教育知です。何事にかけても,自らの置かれた位置を知るのは重要。学術論文でも,論を展開する前に,まずは先行研究の検討,関連テーマ全体の中での位置を明確にすることが求められます。そうすることで,これから報告する研究は単なる個人趣味ではなく,社会性のあるものなのですよという説得力が備わります。

 自分の県の位置を知ることは,それぞれの県で暮らしている子どもたちに,県を超えた全国的視野を持たせ,国民として日本を協働して支えようという認識を植え付けることにもつながります。拡張すると,世界の中での日本の位置を教えることは,地球市民としての自覚を持たせることと同義です。

 さて,上記の調査では位置と名称という視点を据えていますが,それぞれの県の形(shape)というのはどうでしょう。私は,冒頭の日本地理学会調査報告が出たころ,授業の受講生を対象に次のようなテストをしてみました。


 お分かりでしょうか。正答は②です。確か120人ほどの受講生のうち,正答できたのは10人ほどだったと記憶しています。正答率1割以下でした。⑤の山形県と間違えた学生さんが多かったなあ。

 まあ,これなどはどうでもいいオタク知かもしれませんが,教員採用試験の問題にいいんじゃないかしらん。私だったら,こういう問題を出すかな。県への愛着レベルを測る問題として・・・。来年度の授業で,同じテストをまた受講生諸氏にやっていただこうと思っています。

2015年2月11日水曜日

パラサイト・シングルの不幸感

 お気楽といわれているパラサイト・シングル。親に寄生(パラサイト)し続けている独身者(シングル)ですが,最近,彼らの苦労や困難を指摘するネット記事が目につきます。

 最近の記事では,藤田孝典氏の「家を借りることがリスクな時代-檻のない『牢獄』と化した実家-」というのがあります。リッチと思われているパラサイト・シングルですが,フタを開けてみると所得が低く,家を出ようにも出れない人が多いのだそうです。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/fujitatakanori/20150204-00042801/

 1999年に出た山田教授の『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)では,リッチで生活満足度も高いというふうに描かれていましたが,最近では様相が変わっているみたいです。

 実家を出て一人暮らしするにもお金がかかります。雇用の非正規化も進んでいるなか,その費用を捻出できない者もいることでしょう。そこで仕方なく,親に小言を言われるのを我慢しながら実家に居続ける。出るのを遮る檻があるわけではないが,出たくても出れない。なるほど,藤田さんの「檻のない『牢獄』」という比喩は上手いですね。

 こういう状況ですので,パラサイト・シングルの意識も変わってきていることでしょう。『世界価値観調査』(2010-14)のデータを使って,最近の状況を観察してみましょう。この調査では,配偶関係や親との同居状況を尋ねていますので,パラサイト・シングル(未婚の親同居者)を取り出すことが可能です。
http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp

 私は,日本の20~40代のサンプルを使って,パラサイト・シングルとその他の群で,不幸を感じる者の比率を比較してみました。「あなたはどれほど幸福か」という問いに対し,「あまり幸福でない」もしくは「まったく幸福でない」と答えた者の割合です。

 20代のサンプルは260人で,このうちパラサイト・シングルは183人です。よって,残りの77人がその他の群となります。はて,この183人と77人では,不幸を感じる者の割合がどう違うか。30代,40代ではどうか。こういうことを明らかにしてみました。以下に,計算の原表を掲げます。


 どの年齢層でも,不幸感はパラサイト・シングルのほうが大きくなっています。パラサイト・シングルの場合,30代になると率がぐんと大きくなり,40代では3割近くになります。加齢に伴い不幸感が増すのはその他の群も同じですが,伸び幅が違いますね。

 さすがに30代や40代になるまでパラサイト生活を続けていると,将来への不安がもたげてくることでしょう。今は世話をしてくれている親も,やがては逆に世話が必要な存在になります。いつ要介護状態になるか,はては亡くなってしまうか・・・。山田教授の喩えを借りると,これまで浸かっていた心地よいぬるま湯がだんだん冷たくなってくることに対する,焦りの表れともとれます。

 また,同年代の中でどんどんマイノリティー化してくるという文脈変化の影響もあると思われます。20代ではパラサイト・シングルのほうが多数派ですが(260人中183人),40代になると413人中42人というように1割ほどになってしまいます。こういう位置変化も,先ほど述べたような焦燥感を駆り立てるのではないでしょうか。

 このようなことも勘案しつつ,加齢に伴う事態の変化をビジュアル化してみましょう。上表の6群(2群×3年齢層)の量的比重を四角形の面積で表現し,それそれを不幸感の比率の水準で塗り分けた図をつくってみました。


 パラサイト・シングルは年齢を上がるにつれ少なくなってきますが,その分,不幸が凝縮されてくる様が見受けられます。先述のように,40代の高年パラサイト・シングルでは,不幸を感じている者が3割近くになります。

 基礎的生活条件を親に依存しつつ,リッチな生活を送っているパラサイト・シングル・・・。こういうイメージがありますが,最近の状況はそれとは逆であることが知られます。

 少し前では,親同居税などにより実家から引きずり出すことが議論されていましたが,近年では,「檻のない『牢獄』と化した実家」が焦点であるといえましょう。要するに,支援の対象となり得るわけです。

 未婚の親同居者の性格変化がみて取れます。パラサイト・シングルというと親の脛をかじり続ける独身者ですが,「閉じ込められた独身者」の意味の英訳を充てたらどうかという気がします。

2015年2月9日月曜日

単身無業アラフォー男性の1日

 最近よく耳にする「アラフォー」とは,おおよそ40歳あたりの人をいうのだそうです。アラウンド・フォーティーです。今年で39になる私はまさにこれに該当し,加えて独身であるものですから,アラフォー独身男子ということになります。

 これに単身や無業という要素が加わると,家族や職業集団という縁を持たない,単身無業アラフォー男性となります。はて,こういう人たちはどういう暮らしをしているのか。ちょっとばかり興味が持たれます。2011年の総務省『社会生活基本調査』のデータを使って,彼らの1日の過ごし方を拝見といきましょう。

 上記調査の時間帯統計では,1日の各時間帯(15分間隔)における,主な生活行動の実施率をまとめた表があります。たとえば18:00~18:15の時間帯に,食事をしている者が何%,雑事をしている者が何%,というデータです。

 私は,35~44歳の単身無業男性について,平日の各時間帯における生活行動分布図をつくってみました。調査対象のサンプル数はわずか46人ですが,母集団全体ではおよそ7万人ほどいると見積もられています。

 それでは,ブツをみていただきましょう。


 平日ですが,どの時間帯でも仕事(バイト含む)をしている人は皆無です。1日の多くを,休養やマスコミ接触が占めています。夜型の人も少なくなく,4分の1ほどが夜中の3時くらいまでテレビなどを観ていて,1割ほどが昼前まで寝ていると。予想通り,面白い図柄になっています。

 昼間は病院に行っている者もちょっといるようですが,病気という理由で職に就けない人も含まれるためでしょう。午後から夕方の時間帯では,学習や自己啓発をしている者も見受けられます。資格試験の勉強などでしょうか。

 こういう,いささか「ぶっ飛んだ」暮らしをしている単身無業アラフォー男性の推計数は,全国でおよそ7万人。35~44歳の男性人口963万人(2011年)のうち0.7%,143人に1人の出現率となります。

 2011年9月2日の記事でも書きましたが,私は,こういう「ぶっ飛んだ」生き方をしている方々に若干の敬意を持っています。彼らこそ,今の社会に新風を吹き込んでくれるのではないか。こういうことすら,思っています。普通のリーマンとは違った角度から,社会を眺める位置にいるわけですから。

 同世代の143人に1人くらい,こういう「ぶっ飛んだ」暮らしをしている人間がいてもいいのでは…。逆にいえば,100人中100人が会社員をするような社会のほうが異常です。そういう社会では多様性も活気も出にくいし,社会を変革しようという機運もなかなか生まれますまい。

 作家の雨宮かりんさんの『反撃カルチャー・プレカリアートの豊かな世界』角川学芸出版(2010年)にも,似たようなことが書いていました。いい本ですので,記して紹介しておこうと思います。

2015年2月6日金曜日

失業と自殺の時系列的相関

 あらゆる財やサービスが貨幣を通じて交換される現在にあっては,働いて収入を得ることが,生存の条件になります。よって,仕事に就けず収入が得られないことは,「生」を脅かす死活問題となります。

 このことはとりわけ男性に顕著であり,男性の失業率と自殺率の時系列曲線は,まことによく近似しています。失業率とは,働く意欲のある労働力人口のうち,職に就けないでいる完全失業者が何%いるかです。自殺率は,人口10万人あたりの自殺者数です。前者は『労働力調査』,後者は『人口動態統計』に計算済みの数値が掲載されています。

 1953~2013年という60年間の長期スパンを据えて,男性の失業率と自殺率の推移線を描くと,下図のようになります。先日のツイッターでは60年代以降の図を発信しましたが,ここでは50年代の初頭まで射程を延ばしてみます。


 むうう・・・両者は気持ち悪いくらい同調しています。相関係数は+0.891にもなります。これはもう,失業率が分かれば自殺率をほぼ正確に言い当てることのできるレベルです。働こうにも職がなく,収入が得られない人間が増えるほど,自殺率が高まる。上図の共変関係は,因果関係的な部分を多く含んでいるとみてよいでしょう。

 また,デュルケムもいうように,社会的な存在たる人間にあっては集団が「生」の目的となり得るのですが,男性にとっては職業集団が重要な位置を占めています。これを喪失(はく奪)される状態に置かれることは,大きな苦痛の源泉になると思われます。失業と自殺の強い関連は,単に経済的な次元でのみ考えられるべきではないでしょう。

 以上は男性の経験データですが,女性のほうはどうでしょう。女性にあっても,上図のような強い相関関係が観察されるでしょうか。両性について,失業率と自殺率の相関模様が分かる散布図をつくり,左右に並べてみました。横軸に失業率,縦軸に自殺率をとった座標上に,それぞれの年のドットをプロットした図です。最新の2013年のドットは,赤色で強調しました。


 男性にあっては失業と自殺は強い正の相関関係にありますが,女性はさにあらず。むしろ,右下がりの負の相関すらみられます。失業率と自殺率の相関係数は,男性は先ほど示したように+0.891ですが,女性は-0.223とマイナスの値です。

 まあ,われわれが薄々感じていたことが可視化されただけのことかもしれませんが,男女の役割期待差によるのでしょうね。寅さんではないですが,「男はつらいよ」・・・。

 上記は,20世紀後半から21世紀初頭の経験データですが,未来の研究者が21世紀全般の時系列統計を観察したら,女性にあっても,失業と自殺の間に強い相関が認められるようになるでしょうか。皮肉なことですが,今世紀の男女共同参画施策の効果,男女の役割差の縮小レベルは,こういう面で表現されることになるかもしれません。

 ところで,「生」の目的となる重要な集団は,職業集団だけではありません。それよりももっとプライマリーな「濃い」集団があります。言わずもがな,それは家族です。今の日本では,職業集団の持つ意味合いは男女で異なるでしょうが,家族にあっては,大きな性差はないような気がします。男女双方にとて,情緒安定機能を提供してくれる第1次集団でしすね,

 しかるに,データでみるとどうでしょう。離婚率と自殺率の相関を観察することで,その手がかりが得られそうです。それは,来週公開される日経デュアルの拙稿にて行うこととしましょう。どうぞ,お楽しみに。

2015年2月5日木曜日

東大生の父母の職業

 東京大学の『学生生活実態調査』から,東大生の家庭環境を知ることができます。前々回は家庭の年収をみましたが,今回は父母の職業をみてみましょう。
http://www.u-tokyo.ac.jp/stu05/h05_j.html

 参照したのは,学部学生を対象とした2012年調査のデータです。これに載っている東大生の父母の職業分布を,45~54歳男女全体のそれと照らし合わせてみました。後者は,大学生くらいの子どもがいる年代の男女です。この一般群のデータは,2012年の総務省『就業構造基本調査』から作成しました。

 下表は,東大生の父親と45~54歳男性全体,東大生の母親と45~54歳女性全体の職業分布(%)を並べたものです。


 東大生の父母は,一般群に比べて管理職と専門・技術職従事者が多くなっています。東大生の父親では管理職が実に43.4%も占めており,一般群のわずか3.4%とはえらい違いです。企業経営者なども多いことでしょう。この層から東大生が出る確率は,通常期待されるよりも13倍近く高いことになります。

 母親でも管理職と専門・技術職の優位性が目立っていますが,東大生の母親では無職(≒専業主婦)が39.5%と最多です。へえ,付きっきりで勉強をみてきた母親が多いのでしょうか。私もですが,某雑誌の編集者さんも驚いていました。

 では,例によって,上表のデータをグラフにしましょう。前々回の年収と同様,タテの帯グラフにします。


 注目すべきは,父親の管理職比と母親の主婦比の高さでしょうか。先の記事で東大生の家庭の57%が年収950万超であることを知ったのですが,今回の職業分布をみるとさもありなんです。見事にリンクしています。

 最高峰の東京大学学生の階層的閉鎖性。今日でもはっきりと可視化されます。

2015年2月3日火曜日

職業別の趣味・娯楽のタイプ分け

 ブルデューが名著『ディスタンクシオン』で明らかにしていますが,趣味や嗜好は職業によって大きく違います。昨年の9月7日の記事では,1年間の美術鑑賞実施率とパチンコ実施率のマトリクス上に31の職業を散りばめたのですが,専門職やホワイトカラー職は「美術高・パチンコ低」のゾーンに多く分布しており,ブルーカラー職はその対極のゾーンに多く位置していました。

 今回は,30あまりの趣味・娯楽の実施率を多変量解析にかけて,各職業の趣味・娯楽の総合タイプを引き出してみようと思います。

 総務省『社会生活基本調査』(2011年)には,過去1年間の生活行動の実施率が掲載されています。趣味・娯楽のカテゴリーの表をみると,33項目の実施率が職業別に明らかにされています。スポーツ鑑賞,美術鑑賞,音楽鑑賞,おどり,書道,カラオケ,パチンコ・・・などです。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 私は,31職業の30行動(線形結合している3つを除外)の年間実施率を主成分分析にかけ,これらの情報を集約する2つの主成分軸を取り出してみました。第1軸の固有値は17.50,第2軸のそれは4.95です。合算すると22.45であり,全情報(30行動)の75%ほどの情報価値が,この2つの軸に集約されていることになります。まずまずの精度とみてよいでしょう。

 それでは,検出された2つの軸の性格づけを行いましょう。主成分得点に基づいて,30の趣味・娯楽行動がこれらの軸の上に位置づいているのですが,軸の両端にどういう行動が位置しているのかをみてみます。


 第1軸をみると,プラス方向には芸術的な趣味が多くあり,マイナス方向には大衆的な行動品目が並んでいます。これにちなんで,第1軸は「芸術的-大衆的」の性格を分かつ軸とみなしましょう。

 続いて第2軸ですが,プラス方向には室内でのゲームや鑑賞行動が目立ち,マイナス方向では園芸,おどり,ダンス,創作活動などが目につきます。そうですねえ・・・。ひとまず,「受動-能動」の軸とでもいたしましょうか。

 この2軸を交差させることで,4つの趣味・娯楽タイプが設定されます。このマトリクス上に,31の職業を位置づけたらどうなるでしょう。各行動の主成分得点を実施率に乗じて合算することで,それぞれの職業の主成分総得点が出てきます。たとえば教員でいうと,第1成分軸の総得点は9.352,第2成分軸のそれは1.200です。

 この値に依拠して,2つの軸の座標上に31の職業を散りばめると,下図のようになります。


 第1象限(芸術×受動)に位置するのは,鑑賞型と命名しましょう。第2象限(大衆×受動)はオタク型,第3象限(大衆×能動)はアクティヴ型,最後の第4象限(芸術×能動)は創造型なんていうネーミングでいかがでしょうか。

 各タイプに含まれる職業をみると,結構特徴が出ています。鑑賞型には専門職やホワイトカラー職が多くなっています。お隣のオタク型は,生産工程職がほとんどです。男性が多いという,性別の影響もあるでしょうが。

 左下のアクティヴ型では労務職,右下の創造型ではサービス職が幅を利かせています。高齢者と接する機会の多い介護職従事者にあっては,詩や和歌などを作る創作趣味が自ずと身に付くのでしょうか。

 上記の図には,目ぼしい位置の職業名しか入れていませんが,他の職業はどうかという関心もあるでしょう。そこで,31職業すべてのタイプ一覧表を掲げておきます。ご自身で先ほどの布置図に位置づけられるよう,各成分軸の総合得点も掲げておきます。


 専門職は鑑賞型,サービス職は創造型,ブルーカラー職はオタク型,労務職はアクティヴ型というように,きれいに性格づけることができるように思えます。

 これぞ,「ジャパニーズ・ディスタンクシオン」。日本でも,趣味や嗜好の階層差ははっきりと存在するようです。教育社会学の授業でブルデューの学説を話しても,いまいちピンとこない学生さんが多いのですが,このデータを教材にして話そうかなと思っております。

2015年2月2日月曜日

東大生の家庭の年収分布

 1月31日,フランスの経済学者トマ・ピケティ氏が東京大学で講演されたそうです。氏の大著『21世紀の資本』を読んでいるのですが,4分の1ほどで止まっちゃってます・・・。

 上記の記事に書いてあったのですが,『21世紀の資本』では,米国ハーバード大の学生の家庭の平均年収が,全米上位2%に相当するというデータが示されているそうです。これに触発されて,東大学生の家庭の年収分布図を今朝ツイートしたところ,見てくださる方がたくさんおられます。そこで,ブログにも載せておこうと思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/562025488399364096

 図をそのまま転載というのは芸がないので,大学学部学生全体の年収分布も加え,①一般群,②大学学部生,③東大学部生,という3段階の比較をしてみましょう。

 ①は,世帯主が40~50代の世帯の年収分布です。大学生の子どもがいる世帯全体と見立てても大きな間違いはないでしょう。元資料は,厚労省の『国民生活基礎調査』(2012年)です。②は,大学昼間部の学生の家庭の年収分布です。日本学生支援機構の『学生生活調査』(2012年)に掲載されている数値を使います。③は,東京大学の『学生生活実態調査』(2012年)から知ることができます。東大学部学生の家庭の年収分布です。

 ただ,③の東大調査の年収区分はちょっと変わっていて,「350万未満」「350万~」「450万~」・・・「1550万以上」というような区切りになっています。②は,「300万未満」「300万~」「400万~」・・・「1500万以上」というようにノーマルなものです。①は細かい50万区切りになっていますので,どちらにも合わせることができます。

 そこで,①の一般群のカテゴリーを②と③に別個に合わせることにしました。「①×②」と「①×③」の2つの比較データをつくったわけです。双方とも,8つの年収階層を設けて比べてみました。下表は構成比の原表です。


 大学に子をやるにはやはりカネがかかるようで,学部生全体,東大生とも,家庭の年収は一般群よりも高い層に多く分布しています。マックスの階級をみると,学部生は31.8%,東大生では実に57.0%が該当します。

 東大生の6割ほどが,年収950万以上の家庭の子弟ということです。この層は,大学生くらいの子がいるとみられる世帯全体(一般群)では2割ほどしかいないことを考えると,かなりの偏りといえます。右端の倍率から,この層から東大生が出る確率は通常よりも2.6倍高いことも知られます。

 では,上表の構成比をタテの帯グラフにしてみましょう。年収区分のカテゴリーが違うので,グラフは2つに分けます。


 注目すべきは,一般群と東大生の家庭の隔たりでしょう(右側)。マックス階級の幅の違いが一目瞭然です。

 近年,東大では授業免除の枠が増やされるなど,貧しい家庭の子弟でも入れるような施策がなされていると聞きますが,現実は上図のごとし。やはり,幼少期からの通塾や早期受験をはじめとした,長期にわたる教育投資の差が出ているとみられます。

 それがどういう問題をはらんでいるかは随所で述べましたので,ここでは繰り返しません。昨年の『プレジデント・ファミリー』誌に掲載された拙稿をご覧いただけますと幸いです。

2015年2月1日日曜日

若者の失職・子育て不安の国際比較

 20代といえば,どの社会でも仕事や子育てが大きな関心事であると思われますが,当人らはこれらにどれほどの不安を抱いているのでしょう。

 『世界価値観調査』(2010-14)では,「失職や仕事が見つからないことが不安だ」と「子どもによい教育を与えられないことが不安だ」という項目を提示し,その反応を訪ねています。私は,各国の20代のうち,「とても不安だ(very much)」と答えた者の比率をとってみました。
http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp

 下の図は,横軸に失職不安,縦軸に子育て不安をとった座標上に,55の社会を位置づけたものです。点線は,55か国の平均を意味します。


 やはり仕事と子育ては関連しているようであり,この2指標の相関係数は+0.9194と大変高くなっています。

 右上には,アフリカや南米の国々が多く位置づいています。若者の失業率が何十%にもなる社会ですので,そうだろうなという気がします。その対極には,ワークシェアリングの本場オランダがあります。ちょっと上にはスウェーデンとドイツ。若者の不安が小さい社会です。

 日本は真ん中より少し下の辺りですが,先進国の中では,失職・子育てへの不安ともトップです。上記の数値は,「とても不安だ」という最も強い不安を表明している若者の比率です。今の日本では,失職への強い不安を持っている若者が半分以上という事実に注意しましょう。*南欧の社会は,もっと上かもしれませんが。