桜も散り,若葉が生い茂る季節になりました。ブログの背景も新緑バージョンにチェンジです。
今月,私がネット上で把握した教員不祥事報道は32件です。今月は,窃盗,横領,スリといった財産犯が目立つ印象です。
生活苦でおにぎりを万引きした校長(愛媛),パチンコの借金返済のため公金横領した教頭(埼玉)といった事案があります。
生活が安定している教員(それも管理職)でなぜ,という感じですが,教員は融資がバンバン通るので,ついお金を借り過ぎてしまうのでしょうか。それで首が回らなくなると。ストレスのあまり,パチンコにハマる教員が少なからずいることは,去年の夏,都の教員研修会で講演したときに聞きました。 教員と生活苦,教員とパチンコ・・・。想像しにくい組み合わせですが,太い糸でつながっているのかもしれません。
まあ,戦前期の教員の生活苦は,よく知られているのですが,
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/04/blog-post_14.html
GWが始まりました。私は過ごし方は変わりませんが,良い連休をお過ごしください。
<2016年4月の教員不祥事報道>
・住居侵入:小学校教諭逮捕 酔って別の学校教諭宅に(4/4,毎日,福岡,小,男,53)
・15歳中3女子を買春容疑 兵庫県立高教諭を再逮捕(4/4,産経,兵庫,高,男,25)
・男児に体罰、「一生許さへん」=男性教諭を戒告処分(4/5,時事通信,大阪,小,男,37)
・女子高生にわいせつ 支援学校講師を逮捕(4/7,鹿児島読売テレビ,兵庫,特,男,41)
・高校教諭、少女買春の疑い 愛知県警が逮捕(4/7,朝日,岐阜,高,男,29)
・中学教諭を酒気帯び運転で逮捕(4/9,朝日,鹿児島,中,男,46)
・中高一貫校校長、おにぎり万引き容疑 「金銭的に困窮」(4/12,朝日,愛媛,中高,男,63)
・卒業生の個人情報紛失=市立中教諭、生徒67人分
(4/12,時事ドットコム,岡山,中,男,50代)
・星城高女子バスケ部で監督が部員12人に体罰(4/13,読売,石川,高,女,40)
・盗撮容疑で中学教諭を逮捕 京都の阪急電車内(4/14,日刊スポーツ,京都,中,男,48)
・愛知・大治町で重体事故 小学校教諭を逮捕(4/14,中日,愛知,小,男,45)
・幼稚園教諭の女、窃盗で逮捕(4/14,京都新聞,京都,幼,女,45)
・中学校教諭が同僚にキス(福島県)(4/15,福島中央テレビ,福島,中,男,50)
・女子生徒をホテル駐車場へ 高校講師処分(4/15,鹿児島読売テレビ,愛知,高,男,60)
・元教え子にわいせつ行為 中学教諭を懲戒免職(4/16,佐賀新聞,佐賀,中,男,40代)
・「好きで、くっつきたくなっちゃう」「肩もみしましょう」女性職員にセクハラメール繰り返し
(4/16,産経,東京,中,男,27)
・高校教諭を盗撮容疑で逮捕(4/17,産経,新潟,高,男,44)
・生徒名簿使い署名活動 在職中、無断持ち出し(4/19,千葉日報,千葉,高,男,60代)
・京都府立高教諭 わいせつ行為で懲戒免職(4/20,毎日放送,京都,高,男,50代)
・県立高講師、採点ミス指摘の生徒殴る…訓告処分(4/21,読売,愛知,高,男,30代)
・小学校長と栄養教諭 千葉県教委が減給処分に
(4/21,千葉日報,千葉,調査書誤記:小男54,勤務中AV鑑賞:小男37)
・万引の男性教諭、停職6カ月 横浜市教委(4/22,神奈川新聞,神奈川,小,男,44)
・私立高校教諭 酒気帯び運転で現行犯逮捕(4/23,鹿児島読売テレビ,静岡,高,男)
・LINEで生徒に不適切メッセージ 教諭を懲戒免職(4/25,NHK,東京,中,男,28)
・児童買春容疑:小学校講師を逮捕(4/25,毎日,愛知,小,男,35)
・中学講師、女子生徒が更衣室として使用する教室にスマホ設置
(4/26,サンスポ,岡山,中,男,27)
・女性教諭が教え子の男子生徒とわいせつ行為(4/26,サンスポ,東京,高,女,30代)
・部活指導で暴力63回 中学ソフトボール部顧問を停職(4/27,朝日,大阪,中,男,26)
・教頭130万円横領 懲戒免職(4/27,NHK,埼玉,小,男,57)
・高校教諭 修学旅行中にゴルフ(4/29,毎日,岐阜,高,男,50,25)
・強制わいせつ未遂容疑で都立高校教諭を逮捕(4/29,産経,東京,高,男,25)
・さいたま市立小教諭を逮捕 電車内で財布盗んだ疑い(4/30,朝日,埼玉,小,男,23)
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2016年4月30日土曜日
2016年4月29日金曜日
稼げないオトコが結婚できない理由
3月4日の記事では,男性の結婚ジニ係数という指標を主要国について計算しました。「稼げないオトコが結婚できない」のレベルを測る指標です。日本の値は0.535で,7か国ではトップでした。
4月19日の記事では,フルタイム男性の年収が,フルタイム女性の年収の何倍かを国別に出しました。日本は1.731倍で,18か国の中でトップでした。
「もしや」と思い,2つの指標を絡めてみたところ,下図のような傾向が出てきました。
年収のジェンダー差が大きい社会ほど,男性の結婚チャンスは稼ぎに規定される度合いが高いようです。主要7か国のデータですが・・・。
女性が結婚相手に求める年収と,未婚男性のそれにはギャップがあることは,これまで何度もデータで示してきました。
https://twitter.com/tmaita77/status/721617130131558403
寄せられた反応は,「女性の要望は非現実的」「高望みしてけしからん」というものが大半でした。私も正直,そう思ってた伏しもあります。
しかし上図をみると,賃金面で男性と著しく差別されるので,結婚相手に高い年収を求めざるを得ない,という面もあるのかなと。結婚・出産というキャリア断絶の影響も大きいですし。
手元にある主要7か国のデータですが,もっと多くの社会のデータを集めて,考えてみたいと思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/721617130131558403
寄せられた反応は,「女性の要望は非現実的」「高望みしてけしからん」というものが大半でした。私も正直,そう思ってた伏しもあります。
しかし上図をみると,賃金面で男性と著しく差別されるので,結婚相手に高い年収を求めざるを得ない,という面もあるのかなと。結婚・出産というキャリア断絶の影響も大きいですし。
手元にある主要7か国のデータですが,もっと多くの社会のデータを集めて,考えてみたいと思います。
2016年4月28日木曜日
朝日新聞(学びを語る)に掲載
今朝の朝日新聞朝刊に,私の談話が掲載されました。「学びを語る」という企画で,月に2回のペースで教育面に載るようです。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12332070.html
19日に『全国学力・学習状況調査』が実施されましたが,この手の公的調査の生データ(ローデータ)を一般に広く公開してほしい,という要望を言わせていただきました。
莫大な費用をかけて作った「ビッグデータ」を,もっと有効活用したものです。一部の「お偉いさん」だけでなく,万人がいろいろな視点から徹底的にしゃぶり尽くす。前からツイッターでつぶやいていることですが,新聞に載せていただき,うれしく思います。
取材ではいろいろなことを話し(愚痴り)ましたが,以下の2点に絞ってまとめられています。
①:男女別の集計結果を出してほしい。理系学力や理系志向のジェンダー差などは,重要な分析課題です。国際学力調査PISAでは,男女別結果が出ており,「男子<女子」の社会も数多くあります。国内でも探せば,そういう地域や学校はあるでしょう。そういう事例を研究することにもつなげます。逆に「男子<女子」の伝統的性差が大きい学校には,女性の理数教員を加配するなどの対策もとれます。
②:社会経済条件が異なる地域(学校)をそのまま比較するのはアンフェア。地域条件から予測される値(期待値)を出し,それと実測値を照合する。実測値の水準だけでなく,それが期待値を上回っていることも「がんばっている」の目安にする。英国などでは,こういう基準が採用され,予算配分にも考慮されるそうです。この点は,2008年の拙稿「地域の社会経済条件による子どもの学力の推計」(『教育社会学研究』第82集)にも書いています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006793455
ささやかな主張ですが,データ公開の在り方を変えるきっかけになればと思っております。こういう場を設けてくださった,朝日新聞の杉原里美記者に感謝申します。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12332070.html
19日に『全国学力・学習状況調査』が実施されましたが,この手の公的調査の生データ(ローデータ)を一般に広く公開してほしい,という要望を言わせていただきました。
莫大な費用をかけて作った「ビッグデータ」を,もっと有効活用したものです。一部の「お偉いさん」だけでなく,万人がいろいろな視点から徹底的にしゃぶり尽くす。前からツイッターでつぶやいていることですが,新聞に載せていただき,うれしく思います。
取材ではいろいろなことを話し(愚痴り)ましたが,以下の2点に絞ってまとめられています。
①:男女別の集計結果を出してほしい。理系学力や理系志向のジェンダー差などは,重要な分析課題です。国際学力調査PISAでは,男女別結果が出ており,「男子<女子」の社会も数多くあります。国内でも探せば,そういう地域や学校はあるでしょう。そういう事例を研究することにもつなげます。逆に「男子<女子」の伝統的性差が大きい学校には,女性の理数教員を加配するなどの対策もとれます。
②:社会経済条件が異なる地域(学校)をそのまま比較するのはアンフェア。地域条件から予測される値(期待値)を出し,それと実測値を照合する。実測値の水準だけでなく,それが期待値を上回っていることも「がんばっている」の目安にする。英国などでは,こういう基準が採用され,予算配分にも考慮されるそうです。この点は,2008年の拙稿「地域の社会経済条件による子どもの学力の推計」(『教育社会学研究』第82集)にも書いています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006793455
ささやかな主張ですが,データ公開の在り方を変えるきっかけになればと思っております。こういう場を設けてくださった,朝日新聞の杉原里美記者に感謝申します。
2016年4月27日水曜日
虐待に影響するのは,同居か?共働きか?
唐突ですが,まずは一枚のグラフから見ていただきましょう。
乳幼児がいる世帯の共働き率と,乳幼児が被害者である虐待相談件数の相関図です(47都道府県)。後者は,0~5歳人口1万人あたりの数にしています。2014年度間の相談件数を,同年10月時点の0~5歳人口で除した値です。
共働き世帯率と虐待相談率の間には,有意なマイナスの相関関係がみられます。傾向としては,共働きが多い県ほど,虐待の相談件数が少ない。これが因果の関係を含むならば,育児ストレスの解放のような事態を想起できます。
しかし,本当の要因は核家族世帯率ではないか,とも思われます。同居の親のサポートがないと,イライラが募り,虐待が生じやすい。あり得る事態です。
この要因を考慮しても,共働き率の虐待抑止効果がみられるか。この問題を検討すべく,私は,県別の虐待相談率を目的変数,核家族世帯率と共働き世帯率を説明変数に立てた重回帰分析を行いました。
核家族世帯率と共働き世帯率は,6歳未満の子がいる世帯(一人親世帯は除く)の中での比率です。2012年10月時点の値で,総務省『就業構造基本調査』のデータより計算しました。
では,分析に使うデータを全部見ていただきましょう。47都道府県の指標の一覧です。繰り返しますが,虐待相談率とは,就学前の乳幼児が被害者である虐待相談が,0~5歳人口1万人あたりでみて何件かです。分子は2014年度間,分母は同年10月時点の数値を使って算出しました。
黄色は最高値,青色は最低値ですが,どの指標も大きな都道府県差がありますね。
47都道府県のデータを使って相関係数を出すと,虐待相談率と核家族世帯率は+0.3909,虐待相談率と共働き世帯率は-0.5414(最初の図)となります。
単相関係数で見る限り,虐待相談の多寡は,核家族世帯率より共働き世帯率と強く相関しています。しかし単相関係数でもって,目的変数に対する影響度を知ることはできません。両者が重なっている可能性もあります。そこで,2つを同時に投入して,目的変数への影響度を個別に析出する必要があります。
そのために使われるのが,重回帰分析です。重回帰分析とは,複数の説明変数から目的変数を予測する式を作る手法です。核家族世帯率(X1)と共働き世帯率(X2)から,虐待相談率(Y)を予測する式を作ると,以下のようになります。
Y=0.2542X1-1.7008X2+117.2373
この式から出される虐待相談率の理論値と,上表にある実測値の相関係数は+0.5434で,それを二乗した決定係数は0.2952です。この係数から,目的変数の都道府県分散の3割ほどが,ここで投入した2つの要因で説明されることが知られます。2要因の単純モデルとしては,この予測式の精度は合格です(p < 0.01)。
係数の符号から,核家族世帯率は各県の虐待相談率にプラス,共働き世帯率はマイナスの影響を有していることが知られます。係数の絶対値から,共働き世帯率のほうが影響が大きいように見えますが,X1とX2では単位が違いますので,この値をそのまま読んではダメです。
そこで,それぞれの要因の単位を考慮し,同列で比較できるように係数を標準化します。これが標準化偏回帰係数(β値)であり,目的変数への独自の影響度は,この値の絶対値でもって測られます。
下表は,標準化されたβ値です。
β値の絶対値から判断すると,各県の虐待相談率の規定力としては,核家族世帯率のプラス効果より,共働き世帯率のマイナス効果のほうがずっと大きくなっています。
簡単な言い回しで言うと,虐待防止に際しては,三世代の同居よりも,共働きの促進のほうが効果がある,ということです。そのための最良の戦略が,保育所の増設であることは言うまでもないことです。
このモデルは単純すぎる,もっと多くの要因を投入すべきだという意見もあるでしょうが,都市化率,県民所得,保育所在所率などを同時投入すると,多重共線が生じ,重回帰式の予測の精度が落ちることを知りました。核家族世帯率と共働き世帯率の組み合わせがベストなので,これらに絞ったことを申し添えます。
「同居か?共働きか?」。マクロ統計から分かる,ジャッジの判断材料をここに提示いたします。
乳幼児がいる世帯の共働き率と,乳幼児が被害者である虐待相談件数の相関図です(47都道府県)。後者は,0~5歳人口1万人あたりの数にしています。2014年度間の相談件数を,同年10月時点の0~5歳人口で除した値です。
共働き世帯率と虐待相談率の間には,有意なマイナスの相関関係がみられます。傾向としては,共働きが多い県ほど,虐待の相談件数が少ない。これが因果の関係を含むならば,育児ストレスの解放のような事態を想起できます。
しかし,本当の要因は核家族世帯率ではないか,とも思われます。同居の親のサポートがないと,イライラが募り,虐待が生じやすい。あり得る事態です。
この要因を考慮しても,共働き率の虐待抑止効果がみられるか。この問題を検討すべく,私は,県別の虐待相談率を目的変数,核家族世帯率と共働き世帯率を説明変数に立てた重回帰分析を行いました。
核家族世帯率と共働き世帯率は,6歳未満の子がいる世帯(一人親世帯は除く)の中での比率です。2012年10月時点の値で,総務省『就業構造基本調査』のデータより計算しました。
では,分析に使うデータを全部見ていただきましょう。47都道府県の指標の一覧です。繰り返しますが,虐待相談率とは,就学前の乳幼児が被害者である虐待相談が,0~5歳人口1万人あたりでみて何件かです。分子は2014年度間,分母は同年10月時点の数値を使って算出しました。
黄色は最高値,青色は最低値ですが,どの指標も大きな都道府県差がありますね。
47都道府県のデータを使って相関係数を出すと,虐待相談率と核家族世帯率は+0.3909,虐待相談率と共働き世帯率は-0.5414(最初の図)となります。
単相関係数で見る限り,虐待相談の多寡は,核家族世帯率より共働き世帯率と強く相関しています。しかし単相関係数でもって,目的変数に対する影響度を知ることはできません。両者が重なっている可能性もあります。そこで,2つを同時に投入して,目的変数への影響度を個別に析出する必要があります。
そのために使われるのが,重回帰分析です。重回帰分析とは,複数の説明変数から目的変数を予測する式を作る手法です。核家族世帯率(X1)と共働き世帯率(X2)から,虐待相談率(Y)を予測する式を作ると,以下のようになります。
Y=0.2542X1-1.7008X2+117.2373
この式から出される虐待相談率の理論値と,上表にある実測値の相関係数は+0.5434で,それを二乗した決定係数は0.2952です。この係数から,目的変数の都道府県分散の3割ほどが,ここで投入した2つの要因で説明されることが知られます。2要因の単純モデルとしては,この予測式の精度は合格です(p < 0.01)。
係数の符号から,核家族世帯率は各県の虐待相談率にプラス,共働き世帯率はマイナスの影響を有していることが知られます。係数の絶対値から,共働き世帯率のほうが影響が大きいように見えますが,X1とX2では単位が違いますので,この値をそのまま読んではダメです。
そこで,それぞれの要因の単位を考慮し,同列で比較できるように係数を標準化します。これが標準化偏回帰係数(β値)であり,目的変数への独自の影響度は,この値の絶対値でもって測られます。
下表は,標準化されたβ値です。
簡単な言い回しで言うと,虐待防止に際しては,三世代の同居よりも,共働きの促進のほうが効果がある,ということです。そのための最良の戦略が,保育所の増設であることは言うまでもないことです。
このモデルは単純すぎる,もっと多くの要因を投入すべきだという意見もあるでしょうが,都市化率,県民所得,保育所在所率などを同時投入すると,多重共線が生じ,重回帰式の予測の精度が落ちることを知りました。核家族世帯率と共働き世帯率の組み合わせがベストなので,これらに絞ったことを申し添えます。
「同居か?共働きか?」。マクロ統計から分かる,ジャッジの判断材料をここに提示いたします。
2016年4月26日火曜日
都道府県別・年齢別の保育所在所率
就学前の乳幼児のどれほどが保育所に入れているかは,地域によって異なります。それは,保育所の在所者数を乳幼児人口で除せば出てきます。
しかるに,乳幼児といっても年齢に幅があります。在所率を年齢別に出したらどうでしょう。いわゆる「0歳保育」が多いのはどこか。こういう関心もあろうかと思います。
私は47都道府県について,年齢別の保育所在所率を計算してみました。各年齢の認可保育所在所児数を,当該年齢人口で除して%を出しました。分子・分母とも,2014年10月時点の数値を使いました。分子の出所は厚労省『社会福祉施設等調査』,分母は総務省『人口推計年報』です。
分母の年齢は,県別の数値は5歳刻みの推定人口となっています。そこで,1~4歳人口は,0~4歳人口を5で割った値を使いました。5歳人口は,5~9歳人口の5分の1を充てました。やや粗い便法ですが,大まかな傾向を把握する分には許されるでしょう。
下表は,結果の一覧です。黄色マークは最高値,青色マークは最低値をさします。
0歳の在所率トップは青森の16.1%,その次は秋田で16.0%となっています。生後間もない乳児の7人に1人が,認可保育所に預けられていると。
1~2歳の在所率トップは島根,3~5歳は福井で最も高くなっています。首都圏は,どの年齢も在所率が低し。保育所が不足しているためです。
目ぼしい県の年齢別在所率をグラフにしましょう。下図は,秋田,埼玉,東京,福井の年齢グラフです。
違うものですね。秋田と福井を比べると,後者は「スロー・スターター」型です。3~5歳では,7割が保育所に通っています。埼玉や東京では,この年齢になると幼稚園に籍を置く子どもが多くなります。
学齢期と違って,乳幼児期に過ごし方は個々の家庭や地域によって,実に多様です。その違いが,後々の人間形成(学力,体力・・・)とどう相関するか。重要な分析課題です。大規模な追跡調査をする価値はあると思います。厚労省の『21世紀出生児縦断調査』で,それがされていないのが残念です。
2016年4月24日日曜日
都道府県別の保育士・介護職員の年収
『日経デュアル』にて,保育士の給与とやりがいについて論じた拙稿が公開されています。時宜にかなったテーマであるためか,読んでくださる方が多いようです。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=8317
この記事の図3にて,保育士の離職率の都道府県地図を掲げ,各県の離職率は,保育士の給与の相対水準と相関していると書きました。地方では,保育士の年収は全職種の8割ほどだが,東京や大阪のような大都市では6割,下手したら半分。こうした待遇の違いも,保育士の離職率と関連していると。
この箇所に関心をもった,ある保育園の園長さんから,「県別の保育士の年収を知りたい」というリクエストをいただきました。これについては,本ブログで前に紹介したことがありますが,最新のデータをご覧に入れましょう。ついでに,保育士と並んで需要が増している介護職員の年収も出してみます。
資料は,2015年の厚労省『賃金構造基本統計』です。この資料には,同年6月の月収(①)と,前年(2014年)の年間賞与額(②)が職種別に掲載されています。短時間労働者を除く,一般労働者のデータです。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
①を12倍した値に②を足せば,推定年収が出てきます。保育士は①が21.9万円,②が60.3万円ですから,推定年収は323.3万円となります。介護職員は316.1万円です(安い・・・)。
ちなみに,同じやり方で全職種の推定年収を出すと489.2万円です。よって,これを1.0とした相対水準にすると,保育士は0.661,介護職員は0.646となります。保育士と介護職員の年収は,全職種の6割くらいであると。
これは全国の値ですが,保育士と介護職員の年収とその相対水準は,県によって大きく違っています。下表は,算出された推定年収と,全職種を1.0とした場合の相対水準の一覧表です。黄色は最高値,青色は最低値を意味します。
どうでしょう。保育士の年収は201.5~383.3万円,介護職員は250.7~403.3万円のレインヂが観察されます。
しかるに,県によって一般的な収入水準が違いますので,保育士と介護職員の待遇の良し悪しを知るには,右側の相対水準を見るのがよいでしょう。全職種の年収を1.0とした場合,どれくらいになるかです。
保育士の収入の相対水準をみると,最高の秋田では全職種の9割ほどですが,最低の鳥取では半分ほど。これは苦しい。東京も0.566で,保育士の待遇の悪さが際立っています。介護職員のレインヂは0.613~0.804で,保育士に比して待遇のバラツキは小さくなっています。
この値はおそらく,各県の保育士や介護職員の求人倍率や離職率などと相関しているのではないでしょうか。すぐ出せる値を紹介すると,保育士の年収の相対水準は,平均勤続年収と+0.5687という相関関係にあります(1%水準で有意)。待遇の良し悪しと職場定着の因果関係を推測させるデータですね。
上表の右欄の相対水準値をグラフにしておきましょう。下図は,横軸に保育士,縦軸に介護職員の年収の相対水準値をとった座標上に,47都道府県を配置したものです。
図の見方はお分かりですね。右上は,重要な福祉職の待遇が相対的に良好な県,左下はその逆です。
保育士や介護職員の薄給は,イヤというほど指摘されますが,細かい地域別にみると様相が違っています。この手のデータも公開し,地域レベルでの状況改善につなげていきたいものです。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=8317
この記事の図3にて,保育士の離職率の都道府県地図を掲げ,各県の離職率は,保育士の給与の相対水準と相関していると書きました。地方では,保育士の年収は全職種の8割ほどだが,東京や大阪のような大都市では6割,下手したら半分。こうした待遇の違いも,保育士の離職率と関連していると。
この箇所に関心をもった,ある保育園の園長さんから,「県別の保育士の年収を知りたい」というリクエストをいただきました。これについては,本ブログで前に紹介したことがありますが,最新のデータをご覧に入れましょう。ついでに,保育士と並んで需要が増している介護職員の年収も出してみます。
資料は,2015年の厚労省『賃金構造基本統計』です。この資料には,同年6月の月収(①)と,前年(2014年)の年間賞与額(②)が職種別に掲載されています。短時間労働者を除く,一般労働者のデータです。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
①を12倍した値に②を足せば,推定年収が出てきます。保育士は①が21.9万円,②が60.3万円ですから,推定年収は323.3万円となります。介護職員は316.1万円です(安い・・・)。
ちなみに,同じやり方で全職種の推定年収を出すと489.2万円です。よって,これを1.0とした相対水準にすると,保育士は0.661,介護職員は0.646となります。保育士と介護職員の年収は,全職種の6割くらいであると。
これは全国の値ですが,保育士と介護職員の年収とその相対水準は,県によって大きく違っています。下表は,算出された推定年収と,全職種を1.0とした場合の相対水準の一覧表です。黄色は最高値,青色は最低値を意味します。
どうでしょう。保育士の年収は201.5~383.3万円,介護職員は250.7~403.3万円のレインヂが観察されます。
しかるに,県によって一般的な収入水準が違いますので,保育士と介護職員の待遇の良し悪しを知るには,右側の相対水準を見るのがよいでしょう。全職種の年収を1.0とした場合,どれくらいになるかです。
保育士の収入の相対水準をみると,最高の秋田では全職種の9割ほどですが,最低の鳥取では半分ほど。これは苦しい。東京も0.566で,保育士の待遇の悪さが際立っています。介護職員のレインヂは0.613~0.804で,保育士に比して待遇のバラツキは小さくなっています。
この値はおそらく,各県の保育士や介護職員の求人倍率や離職率などと相関しているのではないでしょうか。すぐ出せる値を紹介すると,保育士の年収の相対水準は,平均勤続年収と+0.5687という相関関係にあります(1%水準で有意)。待遇の良し悪しと職場定着の因果関係を推測させるデータですね。
上表の右欄の相対水準値をグラフにしておきましょう。下図は,横軸に保育士,縦軸に介護職員の年収の相対水準値をとった座標上に,47都道府県を配置したものです。
図の見方はお分かりですね。右上は,重要な福祉職の待遇が相対的に良好な県,左下はその逆です。
保育士や介護職員の薄給は,イヤというほど指摘されますが,細かい地域別にみると様相が違っています。この手のデータも公開し,地域レベルでの状況改善につなげていきたいものです。
2016年4月22日金曜日
首都圏の市区町村別の非正規公務員比率
雇用の非正規化が進んでいますが,公務員も例外ではありません。
2014年の総務省『経済センサス基礎調査・事業所統計』によると,産業中分類の「地方公務」の従業者(135万235人)のうち,正職員は114万4589人,比率にすると84.8%です。よって,それ以外の非正規公務員の占める割合は15.2%となります。
http://www.stat.go.jp/data/e-census/2014/index.htm
今や働く人間の3人に1人が非正規雇用といいますが,公務員の世界でも7人に1人がそうです。この値を都道府県別にみると,最高は沖縄の25.7%,最低は石川の10.4%となっています。
では,もっと下った市区町村レベルではどうか。このレベルのデータを紹介するのが,ここでの主眼です。私は,首都圏(1都3県)の非正規公務比率を同じ方式で出してみました。前後しますが,産業中分類の「地方公務」の中には,教員や警察官などは含まれません。大半が役所の職員とお考えください。
まずは,地図をみていただきましょう。4つの階級を設け,各市区町村に色をつけてみました。
都心部よりは,周辺の郡部で多い感じです。財政がひっ迫している自治体が多いためでしょうか。
では,マックスの値はどれくらいになるか。242市区町村の非正規公務員比率を高い順に並べたランキング表をご覧に入れましょう。
マックスは,千葉県柏市の44.3%です。埼玉西部の広域自治体の秩父市も,4割を超えています。私が住んでいる多摩市は14.6%で,「中の上」あたりです。
一方,非正規雇用の職員がほとんどいない自治体もあります。都内23区では,非正規公務員の比率が最も低いのは千代田区で6.3%です。
公務員は生活が安定するといいますが,それは賞与や福利厚生が充実しているからで,それらがない非正規公務員の悲惨はよく指摘されます。いわゆる,官製ワーキングプアというやつです。
現場のみなさん,上表のデータをみて「やはり」と思う部分がありますか。ご自分の勤務自治体はどこにありますか。資料として,提示しておきます。
2014年の総務省『経済センサス基礎調査・事業所統計』によると,産業中分類の「地方公務」の従業者(135万235人)のうち,正職員は114万4589人,比率にすると84.8%です。よって,それ以外の非正規公務員の占める割合は15.2%となります。
http://www.stat.go.jp/data/e-census/2014/index.htm
今や働く人間の3人に1人が非正規雇用といいますが,公務員の世界でも7人に1人がそうです。この値を都道府県別にみると,最高は沖縄の25.7%,最低は石川の10.4%となっています。
では,もっと下った市区町村レベルではどうか。このレベルのデータを紹介するのが,ここでの主眼です。私は,首都圏(1都3県)の非正規公務比率を同じ方式で出してみました。前後しますが,産業中分類の「地方公務」の中には,教員や警察官などは含まれません。大半が役所の職員とお考えください。
まずは,地図をみていただきましょう。4つの階級を設け,各市区町村に色をつけてみました。
都心部よりは,周辺の郡部で多い感じです。財政がひっ迫している自治体が多いためでしょうか。
では,マックスの値はどれくらいになるか。242市区町村の非正規公務員比率を高い順に並べたランキング表をご覧に入れましょう。
マックスは,千葉県柏市の44.3%です。埼玉西部の広域自治体の秩父市も,4割を超えています。私が住んでいる多摩市は14.6%で,「中の上」あたりです。
一方,非正規雇用の職員がほとんどいない自治体もあります。都内23区では,非正規公務員の比率が最も低いのは千代田区で6.3%です。
公務員は生活が安定するといいますが,それは賞与や福利厚生が充実しているからで,それらがない非正規公務員の悲惨はよく指摘されます。いわゆる,官製ワーキングプアというやつです。
現場のみなさん,上表のデータをみて「やはり」と思う部分がありますか。ご自分の勤務自治体はどこにありますか。資料として,提示しておきます。
2016年4月20日水曜日
2016年4月19日火曜日
年収の性差・地位差の国際比較
働く人間の収入(income)は男女で異なり,また正規と非正規でも違います。われわれにすれば,空気のように「当たり前」の現実になっていますが,他の社会ではどうなのでしょう。異国の空気にも触れてみましょう。
私は,フルタイム就業者の年収が男女でどう違うか,女性就業者の年収がフルタイムとパートでどう違うか。この2点を国ごとに調べてみました。フルタイムとパートの比較を女性で行うのは,男性ではパートのサンプルがあまりに少ないためです。
就業者全体の国際比較はよく見ますが,このように属性を絞った比較はあまりないのでは,と思います。
資料は,ISSPが2009年に実施した『社会的不平等に関する国際意識調査』です。ISSPの意識調査には,もっと新しい年次のものがありますが,就業者の地位(フルタイム or パート・・・)を訊いているのは,この調査だけのようです。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
下表は,日本の各群の年収分布です。上記調査のローデータを独自に集計して作成しました。年齢は,25~54歳に絞っています。年収の階級は,原資料では階級値で示されています。250万とは,年収200万円台のことです。
何の加工もしていない実数表ですが,女性より男性,パートよりフルタイムが高いほうに分布しているのが見て取れます。赤字は最頻値(Mode)です。
この分布から,それぞれの群の平均年収を出しましょう。フルタイム男性の平均年収は,以下のようにして出ます。
{(0円×2人)+(50万×1人)・・・+(2000万×4人)}/207人=515.7万円
フルタイム女性は298.0万円,女性パートは120.3万円です。
したがって,男女差は 515.7/298.0=1.731倍,女性内の地位差は 298.0/120.3=2.476倍となります。予想はしていましたが,やはり差があるものですねえ。
われわれからすれば「まあ,そんなものだろう」ですが,国際的にみると,どうでしょう。以下に掲げるのは,同じやり方で計算した,国別の格差倍率の一覧表です。各国の通貨による年収分布からはじき出した倍率であることを申し添えます。
「**」は,パート女性の分析対象サンプルが少なかったため(50人未満),計算を見送った箇所です。
日本は,男女差は中国に次いで2位,女性内の地位差は南アフリカに次いで2位となっています。男女差1.7倍,地位差2.5倍というのは,先進国の中では抜きん出ています。われわれの社会では見慣れている収入格差って,普遍的でも何でもないようです。
ベルギーは,格差が小さいですね。オランダの同一労働・同一賃金政策は知られていますが,隣のこの国でもそうなのでしょうか。
日本の外れっぷりが分かるグラフも載せておきましょう。横軸に性差,縦軸に地位差をとった座標上に,両方が分かる18か国を散りばめてみました。
現状では,右上に昇天していますが,左下に下っていかねばならないことは明らかです。
横軸の男女差ですが,これじゃあ,「政府が女性の社会進出を推奨するのは,人件費を抑制するためじゃないか」と言われても反論できますまい。
https://twitter.com/usagihara/status/722236541850943488
縦軸の地位差についても,フルタイムとパートの差が2.5倍にもなるようでは,多様な働き方は浸透しにくい。想像ですが,男性では差がもっと顕著でしょう。言葉がよくないですが,「正社員にあらずんば人にあらず」の社会です。
北欧のスウェーデンでは,幼子がいる場合,「夫婦ともパートでよい」という意見が強いのですが,パートという働き方をしても,ある程度の賃金が保証されるためでしょう。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html
労働力不足が深刻化する中,男性か女性か,フルタイムかパートかで敷居を作っている場合ではありません。わが国でも同一労働・同一賃金に向けた議論が出てきましたが,ようやく問題に気付き始めたということで,めでたいことです。かけ声だけでなく,実行に移さねばならない。それは,国際比較のグラフをみても支持されます。
私は,フルタイム就業者の年収が男女でどう違うか,女性就業者の年収がフルタイムとパートでどう違うか。この2点を国ごとに調べてみました。フルタイムとパートの比較を女性で行うのは,男性ではパートのサンプルがあまりに少ないためです。
就業者全体の国際比較はよく見ますが,このように属性を絞った比較はあまりないのでは,と思います。
資料は,ISSPが2009年に実施した『社会的不平等に関する国際意識調査』です。ISSPの意識調査には,もっと新しい年次のものがありますが,就業者の地位(フルタイム or パート・・・)を訊いているのは,この調査だけのようです。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
下表は,日本の各群の年収分布です。上記調査のローデータを独自に集計して作成しました。年齢は,25~54歳に絞っています。年収の階級は,原資料では階級値で示されています。250万とは,年収200万円台のことです。
何の加工もしていない実数表ですが,女性より男性,パートよりフルタイムが高いほうに分布しているのが見て取れます。赤字は最頻値(Mode)です。
この分布から,それぞれの群の平均年収を出しましょう。フルタイム男性の平均年収は,以下のようにして出ます。
{(0円×2人)+(50万×1人)・・・+(2000万×4人)}/207人=515.7万円
フルタイム女性は298.0万円,女性パートは120.3万円です。
したがって,男女差は 515.7/298.0=1.731倍,女性内の地位差は 298.0/120.3=2.476倍となります。予想はしていましたが,やはり差があるものですねえ。
われわれからすれば「まあ,そんなものだろう」ですが,国際的にみると,どうでしょう。以下に掲げるのは,同じやり方で計算した,国別の格差倍率の一覧表です。各国の通貨による年収分布からはじき出した倍率であることを申し添えます。
「**」は,パート女性の分析対象サンプルが少なかったため(50人未満),計算を見送った箇所です。
日本は,男女差は中国に次いで2位,女性内の地位差は南アフリカに次いで2位となっています。男女差1.7倍,地位差2.5倍というのは,先進国の中では抜きん出ています。われわれの社会では見慣れている収入格差って,普遍的でも何でもないようです。
ベルギーは,格差が小さいですね。オランダの同一労働・同一賃金政策は知られていますが,隣のこの国でもそうなのでしょうか。
日本の外れっぷりが分かるグラフも載せておきましょう。横軸に性差,縦軸に地位差をとった座標上に,両方が分かる18か国を散りばめてみました。
現状では,右上に昇天していますが,左下に下っていかねばならないことは明らかです。
横軸の男女差ですが,これじゃあ,「政府が女性の社会進出を推奨するのは,人件費を抑制するためじゃないか」と言われても反論できますまい。
https://twitter.com/usagihara/status/722236541850943488
縦軸の地位差についても,フルタイムとパートの差が2.5倍にもなるようでは,多様な働き方は浸透しにくい。想像ですが,男性では差がもっと顕著でしょう。言葉がよくないですが,「正社員にあらずんば人にあらず」の社会です。
北欧のスウェーデンでは,幼子がいる場合,「夫婦ともパートでよい」という意見が強いのですが,パートという働き方をしても,ある程度の賃金が保証されるためでしょう。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html
労働力不足が深刻化する中,男性か女性か,フルタイムかパートかで敷居を作っている場合ではありません。わが国でも同一労働・同一賃金に向けた議論が出てきましたが,ようやく問題に気付き始めたということで,めでたいことです。かけ声だけでなく,実行に移さねばならない。それは,国際比較のグラフをみても支持されます。
2016年4月17日日曜日
高齢期の夫の家事分担率
夫婦の家事分担率については随所で書いてきましたが,ライフステージによる差というものに興味を持ちます。
これまでは子育て期の夫婦を中心にみてきましたが,子育てが終わった中高年期,夫が仕事をリタイヤした老年期では,事態はどう変わるでしょう。
2011年の総務省『社会生活基本調査』から,有配偶男女の1日あたりの平均家事時間を,年齢層別に拾ってみました。そして,男女の合算に占める男性の割合(=夫分担率)を計算してみました。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm
私の年齢層(30代後半)でいうと,有配偶男性の1日の平均家事時間は10分(少!),有配偶女性は211分ですので,夫分担率は,10/(10+211)=4.5%となります。私の年代では,夫婦の家事全体の95%は妻が担っていると。
下図は,男女の平均家事時間と夫分担率の年齢グラフです。
女性は20代後半から40代前半にかけて,家事時間が増えます。子どもができて職を辞さざるを得なかったり,子が中高生になると弁当づくりなどが課せられるためでしょう。
一方,男性は仕事期はずっとフラットです。1日あたりの家事時間はずっと10分ちょい。夫婦の合算に占める分担率も5%くらい。仕事時間が長いとはいえ,目も当てられません。
職をリタイヤした60代になると,さすがに男性の家事時間もちょっとは増えてきます。分担率も,80代になれば2割ほどになります。
高齢期になると,夫の家事分担率も少しは上がってくるようですが,国際的にみてどれほどの水準にあるのでしょう。ISSPの『家族と性役割の変化に関する意識調査』(2012年)のデータを使って,世界30か国の高齢男性の家事分担率を出してみました。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
60歳以上の有配偶男女の平均家事時間(週あたり)によります。日本の場合,男性が5.1時間,女性が22.8時間ですから,夫の分担率は,5.1/(5.1+22.8)=18.3%となる次第です。上記の国内データの数値と,さほど隔たっていません。
この数値をランキングにすると,以下のようになります。なお,計算に使った男女の平均時間は,分布から独自に計算したことを申し添えます。
日本の18.4%という値は,世界で最下位です。北欧では4割がザラ。職を辞した高齢期にあっては,これくらい夫にしてもらわないと,妻としては「怒!」という感じでしょう。
「定年し,家事もしない夫がずっと家にいると思うと,気が遠くなる。離婚したい・・・」。こんな投書を読んだことがありますが,さもありなんです。ちなみに,国内の都道府県データで検討すると,高齢期の夫の家事分担率は,熟年離婚の発生率と相関しています。詳細は,1月4日の記事をご覧ください。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/01/blog-post_4.html
人生80年,90年の時代です。定年後の生活は,20~30年にも及びます。子が巣立ったことによる「エンプティー症候群」,夫婦の役割葛藤,そして介護・・・。長くなった人生の末期には,各種のトラブルが起きるようになっています。
これに備えるには,現役時代から「多様な顔」を持つことが大事かと思います。男性は仕事一辺倒ではなく,家事や趣味など,「私」の領域をもっと充実させること。定年間際になって,退職後の生活に備える講座をちょっと受けても,効果はあまりないでしょう。
今盛んにいわれている「ライフ・ワーク・バランス」は,現在だけではなく,長期化した引退期を充実させるための条件でもあるのです。男性の「家庭進出」は,少子化対策だけではなく,高齢化対策としての側面も有しています。
これまでは子育て期の夫婦を中心にみてきましたが,子育てが終わった中高年期,夫が仕事をリタイヤした老年期では,事態はどう変わるでしょう。
2011年の総務省『社会生活基本調査』から,有配偶男女の1日あたりの平均家事時間を,年齢層別に拾ってみました。そして,男女の合算に占める男性の割合(=夫分担率)を計算してみました。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm
私の年齢層(30代後半)でいうと,有配偶男性の1日の平均家事時間は10分(少!),有配偶女性は211分ですので,夫分担率は,10/(10+211)=4.5%となります。私の年代では,夫婦の家事全体の95%は妻が担っていると。
下図は,男女の平均家事時間と夫分担率の年齢グラフです。
女性は20代後半から40代前半にかけて,家事時間が増えます。子どもができて職を辞さざるを得なかったり,子が中高生になると弁当づくりなどが課せられるためでしょう。
一方,男性は仕事期はずっとフラットです。1日あたりの家事時間はずっと10分ちょい。夫婦の合算に占める分担率も5%くらい。仕事時間が長いとはいえ,目も当てられません。
職をリタイヤした60代になると,さすがに男性の家事時間もちょっとは増えてきます。分担率も,80代になれば2割ほどになります。
高齢期になると,夫の家事分担率も少しは上がってくるようですが,国際的にみてどれほどの水準にあるのでしょう。ISSPの『家族と性役割の変化に関する意識調査』(2012年)のデータを使って,世界30か国の高齢男性の家事分担率を出してみました。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
60歳以上の有配偶男女の平均家事時間(週あたり)によります。日本の場合,男性が5.1時間,女性が22.8時間ですから,夫の分担率は,5.1/(5.1+22.8)=18.3%となる次第です。上記の国内データの数値と,さほど隔たっていません。
この数値をランキングにすると,以下のようになります。なお,計算に使った男女の平均時間は,分布から独自に計算したことを申し添えます。
日本の18.4%という値は,世界で最下位です。北欧では4割がザラ。職を辞した高齢期にあっては,これくらい夫にしてもらわないと,妻としては「怒!」という感じでしょう。
「定年し,家事もしない夫がずっと家にいると思うと,気が遠くなる。離婚したい・・・」。こんな投書を読んだことがありますが,さもありなんです。ちなみに,国内の都道府県データで検討すると,高齢期の夫の家事分担率は,熟年離婚の発生率と相関しています。詳細は,1月4日の記事をご覧ください。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/01/blog-post_4.html
人生80年,90年の時代です。定年後の生活は,20~30年にも及びます。子が巣立ったことによる「エンプティー症候群」,夫婦の役割葛藤,そして介護・・・。長くなった人生の末期には,各種のトラブルが起きるようになっています。
これに備えるには,現役時代から「多様な顔」を持つことが大事かと思います。男性は仕事一辺倒ではなく,家事や趣味など,「私」の領域をもっと充実させること。定年間際になって,退職後の生活に備える講座をちょっと受けても,効果はあまりないでしょう。
今盛んにいわれている「ライフ・ワーク・バランス」は,現在だけではなく,長期化した引退期を充実させるための条件でもあるのです。男性の「家庭進出」は,少子化対策だけではなく,高齢化対策としての側面も有しています。
2016年4月16日土曜日
理系職志望の要因
4月10日の記事では,中学校2年生の数学学力と得意度が,国際データでみると逆相関にあることを知りました。
今回は,理系職志望率という変数も加味し,3者の関連を検討してみます。理系職志望と関連しているのは,学力か,それとも自己意識か。こういう問題です。
私は,IEAの「TIMSS 2011」のデータを使って,中学校2年生の以下のデータを国別に作りました。
①:科学(science)が得意という生徒の比率
②:科学の平均点
③:理系職志望率
①は,「科学が得意だ」という項目に,「とても当てはまる」ないしは「少し当てはまる」と答えた生徒の比率です。③は,「理系職(job that involved using science)に就きたい」という項目に,「とても当てはまる」ないしは「少し当てはまる」と答えた生徒の比率を指します。
下の表は,3つのデータが得られる26か国の数値一覧です。下記サイトのリモート集計で出しましたので,粗い整数値になっていることをお許しください。黄色は最高値,青色は最低値です。
http://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
日本は,科学の得意率は11%,理系職志望率は21%と,すこぶる低くなっています。両者とも26か国の中では最低です。マックスは,アフリカのガーナ。この国では,中学校2年生の8割以上が科学は得意と答え,9割近くが理系職を志望しています。
しかし科学の平均点は,ガーナは最低です。一方,日本の値は高い水準にあります。
学力か,それとも意識か。どういう事態になっているか予測できますが,それをハッキリ「見える化」してみましょう。上記の3変数の関連が分かるグラフを作ってみました。横軸に得意率,縦軸に平均点をとった座標上に,26の社会をプロットし,ドットの大きさを使って,各国の理系職志望率を表現する図法です。
中2生徒の科学の得意率と平均点は,マイナスの相関関係にあります。得意な生徒が多い国ほど,科学の学力は低い。
「?」という傾向ですが,これは,「得意」という意識が各国の文脈に規定されるためです。学校で教えられる理科の内容や,求められる到達水準も国によって違いますしね。それに,出来の絶対水準と関係なく,周囲との対比によって,生徒の得意・不得意意識も影響されます。
さて,問題の理系職志望率が学力と得意意識のどちらと強く関連しているかですが,ドットが大きい国は右下に多くなっています。軍配は明らかに後者です。やはり,生徒に自信をつけさせることが大切なようです。
一国の危機にかんがみ,「理系学力の強化を!」とよくいわれますが,学力を鍛えても,それを活かし社会に貢献しようという若者,すなわち理系職志望者が増えなければ何にもなりますまい。日本のように,集団内での順位をつける相対テストに繰り返し晒される国では,生徒の理系有能感が剥奪されています。左上に,日本,韓国,台北,シンガポールといった,受験競争が激しい社会が位置しているのも象徴的です。
相関係数も示しておきましょう。26か国のデータによると,中2生徒の理系職志望率は科学得意率と+0.766,科学平均点と-0.809という相関です。パッと見,「なんじゃこりゃ?」って感じですね。
生徒の自信を剥奪する相対テストを減らすこと,過密カリキュラムをちょっと緩めること,選り分けることを主眼とする入試においても「関心・意欲・態度」を重視することなど,なすべきことは色々あります。
国の科学力を高める方策は,当該社会がどの発展段階にあるかによって異なるようです。日本のように成熟を遂げた社会では,生徒の自信を高めることが重要であるのは明らかです。現在進行中の大学入試改革,そして2018年の学習指導要領改訂では,このテーゼを念頭に置いていただきたいと思います。
今回は,理系職志望率という変数も加味し,3者の関連を検討してみます。理系職志望と関連しているのは,学力か,それとも自己意識か。こういう問題です。
私は,IEAの「TIMSS 2011」のデータを使って,中学校2年生の以下のデータを国別に作りました。
①:科学(science)が得意という生徒の比率
②:科学の平均点
③:理系職志望率
①は,「科学が得意だ」という項目に,「とても当てはまる」ないしは「少し当てはまる」と答えた生徒の比率です。③は,「理系職(job that involved using science)に就きたい」という項目に,「とても当てはまる」ないしは「少し当てはまる」と答えた生徒の比率を指します。
下の表は,3つのデータが得られる26か国の数値一覧です。下記サイトのリモート集計で出しましたので,粗い整数値になっていることをお許しください。黄色は最高値,青色は最低値です。
http://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
日本は,科学の得意率は11%,理系職志望率は21%と,すこぶる低くなっています。両者とも26か国の中では最低です。マックスは,アフリカのガーナ。この国では,中学校2年生の8割以上が科学は得意と答え,9割近くが理系職を志望しています。
しかし科学の平均点は,ガーナは最低です。一方,日本の値は高い水準にあります。
学力か,それとも意識か。どういう事態になっているか予測できますが,それをハッキリ「見える化」してみましょう。上記の3変数の関連が分かるグラフを作ってみました。横軸に得意率,縦軸に平均点をとった座標上に,26の社会をプロットし,ドットの大きさを使って,各国の理系職志望率を表現する図法です。
中2生徒の科学の得意率と平均点は,マイナスの相関関係にあります。得意な生徒が多い国ほど,科学の学力は低い。
「?」という傾向ですが,これは,「得意」という意識が各国の文脈に規定されるためです。学校で教えられる理科の内容や,求められる到達水準も国によって違いますしね。それに,出来の絶対水準と関係なく,周囲との対比によって,生徒の得意・不得意意識も影響されます。
さて,問題の理系職志望率が学力と得意意識のどちらと強く関連しているかですが,ドットが大きい国は右下に多くなっています。軍配は明らかに後者です。やはり,生徒に自信をつけさせることが大切なようです。
一国の危機にかんがみ,「理系学力の強化を!」とよくいわれますが,学力を鍛えても,それを活かし社会に貢献しようという若者,すなわち理系職志望者が増えなければ何にもなりますまい。日本のように,集団内での順位をつける相対テストに繰り返し晒される国では,生徒の理系有能感が剥奪されています。左上に,日本,韓国,台北,シンガポールといった,受験競争が激しい社会が位置しているのも象徴的です。
相関係数も示しておきましょう。26か国のデータによると,中2生徒の理系職志望率は科学得意率と+0.766,科学平均点と-0.809という相関です。パッと見,「なんじゃこりゃ?」って感じですね。
生徒の自信を剥奪する相対テストを減らすこと,過密カリキュラムをちょっと緩めること,選り分けることを主眼とする入試においても「関心・意欲・態度」を重視することなど,なすべきことは色々あります。
国の科学力を高める方策は,当該社会がどの発展段階にあるかによって異なるようです。日本のように成熟を遂げた社会では,生徒の自信を高めることが重要であるのは明らかです。現在進行中の大学入試改革,そして2018年の学習指導要領改訂では,このテーゼを念頭に置いていただきたいと思います。
2016年4月12日火曜日
保育所在所率と虐待相談率の相関
2014年5月9日の『日経DUAL』に,県別の共働き世帯率と乳幼児の虐待相談率の相関を出した記事を寄稿しました。この手のデータが珍しいからか,読んでくださる方が多いと聞きます。
「そもそも人間は、一つではなく多様な顔(役割)を持ったほうがよいといいます。男性にしても、職業人のみならず、家庭人や地域人としての顔も持たねばなりません。それがないと、自らが手がける仕事に「社会性」が生まれません。顧客(多くは家庭人)の気持ちを汲み取ることができず、営利追求一辺倒に陥りやすくなるでしょう。女性の側も、家庭人という枠の中に自分を押し込めてばかりいると、よからぬことが起きる可能性が高くなります」。
以上です。
結果は,有意なマイナスの相関。共働きが多い県ほど,虐待相談の件数が少ない。逆をいえば,母親が一人家に籠って育児をしている県ほどヤバい,ということです。これがなぜかについては,取り立てて書くまでもないでしょう。
この記事を読んだという方から,保育所に入れている乳幼児の率と虐待との相関が見たい,という要望がありました。なるほど,興味あるデータですよね。まだ作ってなかったので,これを機に作成してみました。
私は,以下の3つの数値を都道府県別に収集しました。*は出所です。政令指定都市の分は,当該市が立地する県の中に含めています。
a 2014年10月時点の0~5歳人口 *総務省『人口推計年報』(2014年)
b 2014年10月時点の認可保育所在所者数 *厚労省『社会福祉施設等調査』(2014年)
c 2014年度間に児童相談所が対応した虐待相談件数(就学前の児童が被害者のもの) *厚労省同『福祉行政報告例』(2014年度)
この3つの数値を使うことで,各県の乳幼児の保育所在所率と虐待相談率(≒被害率)を出すことができます。後者はあくまで見立て値ですが。
下の表は,計算結果の一覧表です。算出された率の黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。赤色は,上位5位の数値を指します。虐待相談率は,ベース1万人あたりの相談件数です。
乳幼児の保育所在所率は,最低の埼玉が24.5%,最高の島根が61.9%,違うものですね。右側の虐待相談率に至っては,すさまじいまでの地域差があります。これは,各県の福祉行政方針の影響もあるでしょうが。
さて,この2つの指標はどういう相関関係にあるのか。横軸に保育所在所率,縦軸に虐待相談率をとった座標上に47都道府県を配置すると,下図のようになります。
バラけていますが,傾向は右下がりです。保育所に入れている乳幼児が多い県ほど,虐待相談が少ない。相関係数は-0.3427であり,5%水準で有意です。
左上の都市県と,右下の日本海沿岸県のコントラストが,何とも鮮やか。個人レベルで解釈するならば,幼子を保育所に預け,社会進出が叶っているママほど,育児ストレスに苛まれにくい,ということでしょうか。
ちなみに女性の「イライラ」の火柱は,キャリアの中断期に最も高くなっています。
無精ですが,2014年4月11日に『日経DUAL』に書いた記事の文言を引用し,データの解釈に代えます。
以上です。
2016年4月10日日曜日
数学得意率と数学得点の相関
国際学力調査としては,OECDが3年おきに実施している「PISA」が有名ですが,IEA(国際教育到達度評価学会)が5年おきに実施している「TIMSS」もよく知られています。各国の数学と理科の学力を計測する調査です。対象は,小学校4年生と中学校2年生です。
http://www.nier.go.jp/timss/2011/index.html
日本の児童・生徒の理系学力は高い水準にあります。これは当局の報告書でもいわれていますが,教科の得意度と絡めてみると,「はて?」という傾向が出てきます。中2の数学に着目して,それを紹介しましょう。
上記調査では,「数学が得意だ」という項目に,自分がどれほど当てはまるかを訊いています。「とてもそう思う」ないしは「そう思う」と答えた生徒の率を,数学得意率としましょう。下記サイトにて,リモート集計ができます。
http://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
この指標を横軸,数学の平均点をとった座標上に,調査対象の42か国を配置すると下図のようになります。最新の「TIMSS 201」のデータをもとに作った図です。
数学が得意な生徒が多い国ほど数学学力が高いと思いきや,現実は逆になっています。相関係数は,-0.7158にもなります。
右下の発展途上国は,数学学力は低いが,数学得意率が際立って高い。日本をはじめとしたアジア諸国はその逆。教科の内容や,要求される到達水準の差によるでしょうが。右下の社会の生徒のほうが幸福度は高そうですね。
私の中学校の数学教師が,こんな愚痴をこぼしていました。「本当は,教科書の後ろの問題ができれば十分なんだよ。社会生活を送れるんだよ。でも,高校入試で選り分けないといけない,それには奇問難問を出さないといけない。「できない子」が強制的に生み出される。困ったもんだよ」と。
「みんな100点では困る,順位をつけないといけない」。こうした相対テストを日本の生徒は何度も受けさせられるのですが,それでは「出来の絶対水準」とは無関係に,自尊心(自信)を剥奪される生徒が多くなるのも,無理からぬことです。
近年では,相対評価はあまりよくないということで,絶対評価や個人内評価が重視されるようになっています。後者は,前と比べてどうかというように,当該個人内部の基準(過去,他教科・・・)に依拠する評価方式です。
他人との比較にばかり晒されている日本の生徒さん,自分の指導に自信をなくしている先生方に上記の図を見ていただきたいのですが,あと一つの図を掲げておきましょう。数学得意度と数学得点のクロス集計結果です。
左は日本,右は国際平均の図です。横幅によって,得意群・不得意群の比重も表現しています。
日本は不得意群が大半なのですが,その多くが,国際標準でみた高い水準に到達しています。他国の得意群よりも,はるかに高いアチーブメントです。
理系学力が高い生徒の育てること,理系教科に得意感(親近感)を持つ生徒を育てること。国の科学力を強化するに際してはどっちも大事ですが,現実には相反することが多いようです。しかし日本は,後者があまりに弱い。理系学力を鍛えても,それを活かして理系職を望む生徒が少ない(とくに女子)。何とももったいないことです。
過密カリキュラムをちょっと緩めること,入試で度の過ぎた奇問難問を出すのを禁じ,科学に対する意欲・態度の面をもっと重視すること・・・。今進んでいる大学入試改革は,この方向に動いていますが,良いことだと思います。人員増員といった条件整備と並行して,ぜひとも具現してほしいものです。
国際比較をいろいろしているのですが,国内しか見渡せないことって,ホント不幸だと感じます。自分の置かれた状況を相対視できない。その檻から自らを解き放ち,改革の筋道(可能性)を示してくれる。国際比較の意義というのは,こういうことです。
http://www.nier.go.jp/timss/2011/index.html
日本の児童・生徒の理系学力は高い水準にあります。これは当局の報告書でもいわれていますが,教科の得意度と絡めてみると,「はて?」という傾向が出てきます。中2の数学に着目して,それを紹介しましょう。
上記調査では,「数学が得意だ」という項目に,自分がどれほど当てはまるかを訊いています。「とてもそう思う」ないしは「そう思う」と答えた生徒の率を,数学得意率としましょう。下記サイトにて,リモート集計ができます。
http://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
この指標を横軸,数学の平均点をとった座標上に,調査対象の42か国を配置すると下図のようになります。最新の「TIMSS 201」のデータをもとに作った図です。
数学が得意な生徒が多い国ほど数学学力が高いと思いきや,現実は逆になっています。相関係数は,-0.7158にもなります。
右下の発展途上国は,数学学力は低いが,数学得意率が際立って高い。日本をはじめとしたアジア諸国はその逆。教科の内容や,要求される到達水準の差によるでしょうが。右下の社会の生徒のほうが幸福度は高そうですね。
私の中学校の数学教師が,こんな愚痴をこぼしていました。「本当は,教科書の後ろの問題ができれば十分なんだよ。社会生活を送れるんだよ。でも,高校入試で選り分けないといけない,それには奇問難問を出さないといけない。「できない子」が強制的に生み出される。困ったもんだよ」と。
「みんな100点では困る,順位をつけないといけない」。こうした相対テストを日本の生徒は何度も受けさせられるのですが,それでは「出来の絶対水準」とは無関係に,自尊心(自信)を剥奪される生徒が多くなるのも,無理からぬことです。
近年では,相対評価はあまりよくないということで,絶対評価や個人内評価が重視されるようになっています。後者は,前と比べてどうかというように,当該個人内部の基準(過去,他教科・・・)に依拠する評価方式です。
他人との比較にばかり晒されている日本の生徒さん,自分の指導に自信をなくしている先生方に上記の図を見ていただきたいのですが,あと一つの図を掲げておきましょう。数学得意度と数学得点のクロス集計結果です。
左は日本,右は国際平均の図です。横幅によって,得意群・不得意群の比重も表現しています。
日本は不得意群が大半なのですが,その多くが,国際標準でみた高い水準に到達しています。他国の得意群よりも,はるかに高いアチーブメントです。
理系学力が高い生徒の育てること,理系教科に得意感(親近感)を持つ生徒を育てること。国の科学力を強化するに際してはどっちも大事ですが,現実には相反することが多いようです。しかし日本は,後者があまりに弱い。理系学力を鍛えても,それを活かして理系職を望む生徒が少ない(とくに女子)。何とももったいないことです。
過密カリキュラムをちょっと緩めること,入試で度の過ぎた奇問難問を出すのを禁じ,科学に対する意欲・態度の面をもっと重視すること・・・。今進んでいる大学入試改革は,この方向に動いていますが,良いことだと思います。人員増員といった条件整備と並行して,ぜひとも具現してほしいものです。
国際比較をいろいろしているのですが,国内しか見渡せないことって,ホント不幸だと感じます。自分の置かれた状況を相対視できない。その檻から自らを解き放ち,改革の筋道(可能性)を示してくれる。国際比較の意義というのは,こういうことです。
2016年4月8日金曜日
大卒グレー・ブルーカラー
2013年10月24日の朝日新聞Web版に,「日本人,学歴高すぎ? 仕事上の必要以上に『ある』3割」という記事が載りました。OECDの国際成人学力調査「PIAAC 2012」のデータが紹介されています。
今の仕事に必要と思われる以上の学歴を持っている労働者の割合は,日本は31.1%で,世界トップだとのこと。OECDの原資料にあたって,値のランキングの図をつくってみました。
日本はトップです。大学進学率が50%を超えている状況を思うと,さもありなんです。しかし,日本以上に大学進学率が高いアメリカでは,「オーバー・クオリフィケーション」の値は意外に低くなっています。世界をリードする技術先進国ですので,膨らんだ高等教育修了者を吸収する受け皿があるのでしょうか。
最近では,大卒者が販売職やサービス職などに就くのは珍しくありませんが,彼らの多くは,上記のような意識を腹の底で抱いていると思われます。
1970年代初頭に,「大卒グレー・ブルーカラー」の存在が話題になりました。「大学まで出たのに,仕事は店員,運転手,工場労働者 親の嘆き・・・」。当時の新聞や週刊誌をみると,この手の記事がわんさと出てきます。高度経済成長に陰りが見え,大卒を吸収できる高度な職業が増えなくなった一方で,大学進学率はどんどん伸びる。こうした状況から,学歴と職業のミスマッチが露わになりました。
また国としても,こういう状況は好ましくない,と考えていたようです。高等教育には多額の税金を投入するのですが,大学レベルの知識や技術を要さない職に就く者が多いとあらば,世論を説得できない。大学は多すぎると。ご存知の方はおられるでしょうが,就職しても,数年で結婚して家庭に入る女子に,税金を投じて高等教育を与えるのはよくないという,「女子学生亡国論」がいわれたのもこのころです。
こうした声もあって,1975年に,大学や短大とは別の中等後教育機関として専修学校ができたのはよく知られています。
当時から40年ほどの歳月がたちましたが,現在における「大卒グレー・ブルーカラー」の量はどれくらいでしょう。他国との違いは? ISSPの『家族と性役割に関する意識調査』(2012年)のローデータを使って,データをつくってみました。それをご覧に入れましょう。
この調査では,最終学歴と現在職業を訊いています。これらの回答を使って,25~54歳の大卒就業者のG・Bカラー比率を出してみました。G・Bカラーとは,管理職,専門技術職,事務職(ホワイトカラー)以外の職をいいます。比率の計算に際しては,軍人と職業不詳者はベースから除きました。
下表は,結果の一覧です。大卒のG・Bカラー率の性格を知るため,就業者全体での比率と照合しています。
日本の大卒者のG・Bカラー率は18.8%となっています。これは高い部類で,アメリカは8.6%,最低のチェコではわずか1.8%しかいません。その一方で,インドやベネズエラのように,大卒者の6~7割がG・Bカラーという社会もあります。
これは社会全体の職業構成の影響もあるでしょう。そこで,大卒者のG・Bカラー率(b)を就業者全体のそれ(a)で除して,出現率を尺度を計算してみました。こうすることで,当該社会の職業構成の影響を除去できます。
算出された出現度をみると,日本は0.446で,37か国中7位です。大卒がG・Bカラーになる確率は,通常の半分よりちょい下。アメリカは0.222,最下位のチェコに至っては0.036です。この小国では,大卒の優位性が際立っています。
インドやベネズエラの値はバカ高なのですが,これらの国の大卒者比率(右端)は高くありません(10%ちょい)。大卒者が溢れているわけではないのですが,大卒者の多くがG・Bカラーなる社会です。大学を出てもしょーもない社会ってことでしょうか。
表では分かりにくいので,社会全体の職業構成を考慮した,大卒のG・Bカラー出現度をグラフにしておきます。
インドとベネズエラを除いて,上位は大卒者が多い国々です。この値はおおよそ,それぞれの社会の大卒者割合とプラスの相関関係にあります。大卒が多いほどプレミアが下がる,ということです。
今回は25~54歳のデータを使いましたが,若年層に限ったら,日本の大卒のG・Bカラー率はもっと高くなるとみられます。
これを見て,「社会の機能的必要以上に大学が膨張している,もっと減らせ」というのは短絡に過ぎるでしょう。グローバル化が進んだ現在,修了生の活躍の場は国内に限られません。お隣の韓国は,大卒者の多くが国外に出ていくといいますが,国外で活躍している大卒者も含めたら,上記の値はもっと低くなるでしょう。
今キンドルで読んでいる,堀江貴文さんの本(『君はどこにでも行ける』徳間書店,2016年)にも書いてありますが,世界規模でみれば,躍進を可能性を秘めている国がたくさんあります。高度な専門職への重要が生まれそうな国々です。日本国内の「萎んでいく」市場だけを見据えると,「大学を減らせ」となるでしょうが,今後の人材養成は,国境のない「ボーダレス」社会を想定して考えないといけません。
ただそれが過ぎると,国内でコストをかけて育成した高度人材が他国に流れる一方,という事態になってしまいますが。
2016年4月5日火曜日
新規学卒就職者の組成の変化
教育の役割(機能)は,社会が求める人材を育て,輩出することですが,学校から送り出される人材の組成は昔に比して変わってきています。
大雑把に学校段階別にみると,昔は義務教育卒(中卒)がマジョリティーだったのですが,今は超マイノリティーです。代わって,以前はわずかしかいなかった大卒者が多くを占めるようになっています。社会が高度化したためですが,「こんなに大卒が要るもんかいな」と腹の底では思っている人も多いでしょう。
おっと,つまらない推測を挟む前にデータをみてみましょう。高度経済成長期の只中の1960年,そして2015年現在について,中卒,高卒,大卒の就職者数を調べ,その内訳をとってみました。資料は,文科省の『学校基本調査』です。各年3月卒業の就職者数(就職進学含む)です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528
高卒は普通科と専門学科(普通科以外),大卒は文系と理系に分けています。下表は,これら5つの群でみた,新規学卒就職者の組成の変化です。学校から社会に送り出される就職者には,専門学校卒,短大卒,大学院卒もいますが,大まかな変化を把握する分には,メジャーな3段階(中卒,高卒,大卒)を拾えば十分でしょう。
中卒・高卒・大卒の就職者の数は,1960年では167万人,2015では60万人です。少子化もあり,社会に送り出される若き労働力は大幅に減っています。
組成をみると,昔は中卒が4割を占めていました。「金の卵」と重宝され,地方から都市へと,大量の中卒就職者が集団就職列車で移動したことはよく知られています。その次に多いのは高校専門学科卒(当時でいう職業学科)で,こちらも4割ほど。高度経済成長を担う中堅技術者を育てようという意図から,当時の高校では専門学科の比重が高かったことと対応しています。
それから55年の歳月を経た現在では,学校から社会に輩出される人間の組成は大きく変わりました。2015年春では,文系の大卒者が半分となっています。人文・社会系を中心に,大学進学率が上昇していることを思えば,さもありなんです。
上表の組成をビジュアル化してみましょう。最近覚えた,ツリーマップグラフを使います。1960年と2015年の組成図を左右に並べてみました。
数の激減もさることながら,学校から社会に送り出される若き労働力の組成も大きく変わっています。先ほど述べたように,最近では文系の大卒が半分。果たしてこれは,社会が高度化した故なのかどうか・・・。
教育というのうは,社会の機能的必要とは無関係に自己増殖する傾向も持っています。それに踊らされ,一人前になるためのハードルが(無意味に)引き上げられ,保護者にすれば子どもを育てるのにかかる教育費が高騰する。今の日本は,こんな状態です。
時計の針を巻き戻すことはできませんが,1960年のような組成図になったら,出生率はさぞ上がるだろうなと思います。教育費がかからなくなるからです。社会の機能的必要とも,それほど大きくはズレていないと感じます(さすがに高卒学歴は要るでしょうが)。ズレているのは,右側の現在の組成ではないか。
選挙年齢が20歳から18歳に引き下げられましたが,18歳時(高卒)での就職・自立を意図的に促してもよいのではないか。無職博士を雇ったら500万円とかいう政策がありましたが,高卒者に適用したらどうでしょう。高卒者を雇ったら報奨金なんてね。昨年の12月27日の記事でみましたが,専門高校の正社員就職率は高し,侮るべからず。
大学は,後から行けるようにすると。いわゆるリカレント教育ですが,これを阻んできた日本的条件(終身雇用,年功序列賃金)は徐々に崩れてきています。個々の労働者が自分のスキルをウリにして,複数の組織を渡り歩くような時代もくるでしょう。
人生の初期に教育機会が集中しない,本当に必要を感じたときに学べる。こうなったら,どれほど素晴らしいでしょう。学校から社会に送り出される新卒労働者の組成図(上記)において,もっとオレンジ色の比重が増えていい。灰色に押しつぶされてはならない。こんなふうに思います。
大雑把に学校段階別にみると,昔は義務教育卒(中卒)がマジョリティーだったのですが,今は超マイノリティーです。代わって,以前はわずかしかいなかった大卒者が多くを占めるようになっています。社会が高度化したためですが,「こんなに大卒が要るもんかいな」と腹の底では思っている人も多いでしょう。
おっと,つまらない推測を挟む前にデータをみてみましょう。高度経済成長期の只中の1960年,そして2015年現在について,中卒,高卒,大卒の就職者数を調べ,その内訳をとってみました。資料は,文科省の『学校基本調査』です。各年3月卒業の就職者数(就職進学含む)です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528
高卒は普通科と専門学科(普通科以外),大卒は文系と理系に分けています。下表は,これら5つの群でみた,新規学卒就職者の組成の変化です。学校から社会に送り出される就職者には,専門学校卒,短大卒,大学院卒もいますが,大まかな変化を把握する分には,メジャーな3段階(中卒,高卒,大卒)を拾えば十分でしょう。
中卒・高卒・大卒の就職者の数は,1960年では167万人,2015では60万人です。少子化もあり,社会に送り出される若き労働力は大幅に減っています。
組成をみると,昔は中卒が4割を占めていました。「金の卵」と重宝され,地方から都市へと,大量の中卒就職者が集団就職列車で移動したことはよく知られています。その次に多いのは高校専門学科卒(当時でいう職業学科)で,こちらも4割ほど。高度経済成長を担う中堅技術者を育てようという意図から,当時の高校では専門学科の比重が高かったことと対応しています。
それから55年の歳月を経た現在では,学校から社会に輩出される人間の組成は大きく変わりました。2015年春では,文系の大卒者が半分となっています。人文・社会系を中心に,大学進学率が上昇していることを思えば,さもありなんです。
上表の組成をビジュアル化してみましょう。最近覚えた,ツリーマップグラフを使います。1960年と2015年の組成図を左右に並べてみました。
数の激減もさることながら,学校から社会に送り出される若き労働力の組成も大きく変わっています。先ほど述べたように,最近では文系の大卒が半分。果たしてこれは,社会が高度化した故なのかどうか・・・。
教育というのうは,社会の機能的必要とは無関係に自己増殖する傾向も持っています。それに踊らされ,一人前になるためのハードルが(無意味に)引き上げられ,保護者にすれば子どもを育てるのにかかる教育費が高騰する。今の日本は,こんな状態です。
時計の針を巻き戻すことはできませんが,1960年のような組成図になったら,出生率はさぞ上がるだろうなと思います。教育費がかからなくなるからです。社会の機能的必要とも,それほど大きくはズレていないと感じます(さすがに高卒学歴は要るでしょうが)。ズレているのは,右側の現在の組成ではないか。
選挙年齢が20歳から18歳に引き下げられましたが,18歳時(高卒)での就職・自立を意図的に促してもよいのではないか。無職博士を雇ったら500万円とかいう政策がありましたが,高卒者に適用したらどうでしょう。高卒者を雇ったら報奨金なんてね。昨年の12月27日の記事でみましたが,専門高校の正社員就職率は高し,侮るべからず。
大学は,後から行けるようにすると。いわゆるリカレント教育ですが,これを阻んできた日本的条件(終身雇用,年功序列賃金)は徐々に崩れてきています。個々の労働者が自分のスキルをウリにして,複数の組織を渡り歩くような時代もくるでしょう。
人生の初期に教育機会が集中しない,本当に必要を感じたときに学べる。こうなったら,どれほど素晴らしいでしょう。学校から社会に送り出される新卒労働者の組成図(上記)において,もっとオレンジ色の比重が増えていい。灰色に押しつぶされてはならない。こんなふうに思います。
2016年4月3日日曜日
生まれが「モノ」をいう社会
大それたタイトルを掲げました。緻密な統計解析を元にするならば一冊の本ができるテーマですが,各国の国民の意識という点から,国際的な布置構造図を描いてみましょう。
資料は,ISSPが2009年に実施した「社会的不平等に関する国際意識調査」です。この調査では,対象国の国民に対し,出生に際して重要と思う条件を答えてもらっています。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
私は,「裕福な家庭に生まれること」と「高学歴の親を持つこと」を重要と考える国民が,全体の何%いるかに注目してみました。横軸に前者,縦軸に後者の比率をとった座標上に,調査対象の41か国を配置すると,下図のようになります。「Essential(不可欠)」ないしは「Very important(とても重要)」と答えた者の比率です。*ドイツは,東西に分けて回答が集計されています。
右上には,中国が位置しています。この大国では,国民の8割が,出世に際しては裕福な家庭に生まれ,高学歴の親を持つことが重要と考えています。その次は南アフリカで,イスラームのトルコや東欧諸国も,ライフチャンスの社会的規定性についてセンシティブです。人々の生き方への社会的統制が強いので,こういう結果になるのでしょう。
左下はその逆の社会ですが,日本と北欧諸国が該当するようです。人々の意識の上では,生まれに関係なく,ライフチャンスが開かれていると考えられている社会。
私はこれまで,数々の国際的な布置図を作成してきましたが,日本と北欧諸国が同じゾーンに位置するのはとても珍しいことです。教育や福祉の基本的性格が,日本は「私」型,北欧は「公」型なので,両者は対峙することがほとんどなのですが,上記の図では仲良く近隣に位置しています。
北欧は教育にカネを使う社会で,大学の学費も原則無償。よって,上図から分かるように,ライフチャンスの階層的規定性は現実面でも大きくはないように思えますが,日本については,そうは思えません。
ご存知のように,教育費はバカ高。教育の機会均等を具現する策である奨学金も,実質ローン(それも有利子が大半)。昨年の11月26日の記事でみたように,教育にカネを使わない社会だからです。私の感覚では,図の真ん中辺りに位置づいてもいいのではないかと思ったりしますが,そうなっていません。
日本の特異性が分かる図を作ってみましょう。下図は,公的教育支出額の対GDP比と,「出世に際して裕福な家庭に生まれることは重要だ」の回答比率の相関図です。双方が分かる26か国のデータをもとに作成しています。
教育費支出が多い国ほど,ライフチャンスの階層的規定性を感じる国民が少ない傾向にあります。相関係数は-0.5752であり,1%水準で有意です。教育は,社会移動(social mobility)の重要な経路ですので,さもありなんです。
しかし日本は,傾向から外れた所に位置しています。教育費支出が最下位にもかかわらず,ライフチャンスの階層的規定性に対する意識が薄い。そういう奇異な社会です。誤謬があるかもしれませんが,お上にとって都合のよい事態になっているといえるでしょう。
最近,教育と貧困・格差の問題がメディアで多く取り上げられ,この問題への関心が高まってきました。日本でも,ライフチャンスは「生まれ」によってかなり制約されているのではないかと。上図の縦軸は2009年,今から7年も前のデータですが,近年では,日本ももっと上に位置しているでしょうか。そうでなければなりますまい。
最初の図では,日本と北欧諸国が近隣にありますが,2つ目の図では,両者が乖離している。この事実から,社会の怠慢が巧みに隠蔽されている,日本の病理が見て取れるように思います。
資料は,ISSPが2009年に実施した「社会的不平等に関する国際意識調査」です。この調査では,対象国の国民に対し,出生に際して重要と思う条件を答えてもらっています。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
私は,「裕福な家庭に生まれること」と「高学歴の親を持つこと」を重要と考える国民が,全体の何%いるかに注目してみました。横軸に前者,縦軸に後者の比率をとった座標上に,調査対象の41か国を配置すると,下図のようになります。「Essential(不可欠)」ないしは「Very important(とても重要)」と答えた者の比率です。*ドイツは,東西に分けて回答が集計されています。
右上には,中国が位置しています。この大国では,国民の8割が,出世に際しては裕福な家庭に生まれ,高学歴の親を持つことが重要と考えています。その次は南アフリカで,イスラームのトルコや東欧諸国も,ライフチャンスの社会的規定性についてセンシティブです。人々の生き方への社会的統制が強いので,こういう結果になるのでしょう。
左下はその逆の社会ですが,日本と北欧諸国が該当するようです。人々の意識の上では,生まれに関係なく,ライフチャンスが開かれていると考えられている社会。
私はこれまで,数々の国際的な布置図を作成してきましたが,日本と北欧諸国が同じゾーンに位置するのはとても珍しいことです。教育や福祉の基本的性格が,日本は「私」型,北欧は「公」型なので,両者は対峙することがほとんどなのですが,上記の図では仲良く近隣に位置しています。
北欧は教育にカネを使う社会で,大学の学費も原則無償。よって,上図から分かるように,ライフチャンスの階層的規定性は現実面でも大きくはないように思えますが,日本については,そうは思えません。
ご存知のように,教育費はバカ高。教育の機会均等を具現する策である奨学金も,実質ローン(それも有利子が大半)。昨年の11月26日の記事でみたように,教育にカネを使わない社会だからです。私の感覚では,図の真ん中辺りに位置づいてもいいのではないかと思ったりしますが,そうなっていません。
日本の特異性が分かる図を作ってみましょう。下図は,公的教育支出額の対GDP比と,「出世に際して裕福な家庭に生まれることは重要だ」の回答比率の相関図です。双方が分かる26か国のデータをもとに作成しています。
教育費支出が多い国ほど,ライフチャンスの階層的規定性を感じる国民が少ない傾向にあります。相関係数は-0.5752であり,1%水準で有意です。教育は,社会移動(social mobility)の重要な経路ですので,さもありなんです。
しかし日本は,傾向から外れた所に位置しています。教育費支出が最下位にもかかわらず,ライフチャンスの階層的規定性に対する意識が薄い。そういう奇異な社会です。誤謬があるかもしれませんが,お上にとって都合のよい事態になっているといえるでしょう。
最近,教育と貧困・格差の問題がメディアで多く取り上げられ,この問題への関心が高まってきました。日本でも,ライフチャンスは「生まれ」によってかなり制約されているのではないかと。上図の縦軸は2009年,今から7年も前のデータですが,近年では,日本ももっと上に位置しているでしょうか。そうでなければなりますまい。
最初の図では,日本と北欧諸国が近隣にありますが,2つ目の図では,両者が乖離している。この事実から,社会の怠慢が巧みに隠蔽されている,日本の病理が見て取れるように思います。
2016年4月1日金曜日
2016年3月の教員不祥事報道
昨日は月末でしたが,二郎・三田参りのレポートに充てちゃいました。恒例の教員不祥事報道整理を,今日いたします。
先月,私がネット上で把握した教員不祥事報道は44件でした。年度末ゆえか,酒がらみの不祥事が多くなっています(送別会の帰りの飲酒運転など)。
規定の回数のテストをしなかった事案も2件ありますが,年間30回近くのテスト実施を求められる,教育課程の過密さにも驚かされます。
あと,難病の生徒を保健室に行かせなかった事案もありました(神奈川,中学校)。この種の病気への理解不足からくるものです。近年の教員採用試験では,こうした特別な配慮を要する子どもへの接し方についてもよく問われます。教員志望の学生さんは,よく勉強しておきましょう。
年度が変わりました。本年度も,本ブログをよろしくお願いいたします。
<2016年3月の教員不祥事報道>
・体罰:生徒に、中学教諭処分 2人に神戸市教委(3/1,毎日新聞,兵庫,中男38,中男58)
・18歳未満女性の身体触るなどした教職員2人を停職に
(3/2,ライブドアニュース,奈良,いせつ:中男38、盗撮:小男29)
・高校教諭逮捕、列車乗客に暴行 容疑で倉敷署 飲酒し帰宅中
(3/2,山陽新聞,岡山,高,男,50)
・もしかして見てもうた?小学校の教室に成人向けDVD…拾った教諭が保管し忘れ
(3/5,産経,兵庫,小,男,50代)
・中学校長酒気帯び容疑で摘発 宇佐市教委が謝罪(3/6,大分合同新聞,大分,中,男,55)
・公然わいせつ容疑で私立高講師の米国人を逮捕(3/7,産経,静岡,高,男,33)
・校長がわいせつ画像をメール 「エスカレートした」(3/8,朝日,愛知,小,男,57)
・札幌の元高校教諭起訴 男子生徒へ強制わいせつ罪
(3/8,北海道新聞,北海道,高,男,31)
・校長、修学旅行中にゴルフ…引率教諭3人誘い(3/10,読売,兵庫,中,男,60)
・パチンコ店でカード盗み校長処分(3/10,NNNテレビ,小,男,59)
・2人出産最も大切と中学校長 全校集会で、処分検討(3/11,共同通信,大阪,中,男,61)
・酒気帯び運転で事故 長野県立高教諭を懲戒免職
(3/11,産経,長野,酒気帯び運転:高男38,営利事業:小男53,体罰:高男29)
・区立中教員26人が私立高から接待 弁当に酒、金券も
(3/12,朝日,東京,中,属性は非公表)
・買春容疑で25歳の県立高校教諭を逮捕 中3女子生徒に2万2千円渡す
(3/14,産経,兵庫,高,男,25)
・教職員2人を懲戒免職処分(3/15,鹿児島テレビ,鹿児島,飲酒運転,小,男)
・いじめ自殺で4人懲戒処分、山形 天童市立中の担任や部顧問ら
(3/15,西日本新聞,山形,中男20代,男30代,50代,50代)
・中学養護教諭、無免許で29年勤務 栃木県教委が「採用無効」
(3/17,下野新聞,栃木,中,女,55)
・都教委 下半身露出の教諭免職83/17,NHK,東京,小,男,25)
・校庭60周、児童に「バカ」 体罰で小学校教諭厳重注意
(3/18,千葉日報,千葉,小,女,50代)
・校外活動で出会った児童母と性行為(3/18,Jキャスト,東京,小,男,28)
・岡山県の高校男性教諭2人を懲戒処分
(3/18,日刊スポーツ,岡山,窃盗未遂:高男33,暴行:高男50)
・酒気帯び運転など教諭2人を停職処分
(3/18,NNNテレビ,富山,飲酒運転:特女20代,死亡事故:中男51)
・飲酒運転容疑で教諭逮捕 千葉・成田、女性にけが(3/19,産経,千葉,小,男,31)
・教員免許偽造、告発へ 40代の元講師、来週にも福島県教委
(3/19,福島民友新聞,福島,中高,女,40代)
・小学教諭、29回テストせず成績 「授業に力入れてた」83/20,朝日,静岡,小,男,30)
・中学校教諭の女、清涼飲料を箱ごと盗む 容疑で逮捕(3/20,産経,愛媛,中,女,43)
・男児の裸を自宅で撮影…公立小の男性教諭を懲戒免職処分
(3/22,サンスポ,東京,小,男,38)
・懲戒処分:助手に平手打ち、教諭を減給処分(3/23,毎日,福島,高,男,46)
・授業中、難病生徒に保健室行き許可せず…市立中(3/24,読売,神奈川,中)
・教科書閲覧問題で男性教諭を戒告(3/24,毎日,埼玉,小,男,63)
・私立高教諭が試験問題漏えい 出勤停止(3/26,西日本新聞,大分,高,男,50代9
・交通死亡事故の校長と臨時教諭を減給処分(3/26,産経,群馬,小男59,高女58)
・青森の小学教諭 万引で停職処分(3/28,デーリー東北新聞,青森,小,男,58)
・元教え子を脅迫した県立高教諭免職(3/29,産経,兵庫,高,男,37)
・死亡事故で小学校教員逮捕83/29,NHK東海,愛知,小,女,40)
・淫行:中学教諭を容疑で逮捕 元教え子、LINEで誘う(3/29,毎日,佐賀,中,男,40代)
・人身事故の女性教諭を戒告処分/県教委(3/29,四国新聞,香川,小,女,55)
・23回分テストをしなかった小学校の先生を減給処分(3/29,産経,京都,小,男,35)
・わいせつ動画「もっとすごいの」 小3に見せた教員処分(3/30,朝日,愛知,小,男,27)
・痴漢の教諭ら懲戒免職 県教委、停職など処分5件
(3/3.,中日新聞,滋賀,痴漢:高男52,ドラッグ輸入:中男51,無免許運転:中男49,窃盗:高男57)
・児童に“からし” 教諭を処分(3/30,鹿児島読売テレビ,北海道,小,女,20代)
・退職金3千万円、初の返納命令 買春の元校長に(3/30,神奈川新聞,神奈川,中,男,65)
・「真面目な気持ちだったが…」教え子と性行為の講師が免職処分
(3/30,サンスポ,東京,高,男,27)
・兵庫県西脇市の男性教諭、下半身露出で逮捕(3/31,読売テレビ,兵庫,小,男,30)
先月,私がネット上で把握した教員不祥事報道は44件でした。年度末ゆえか,酒がらみの不祥事が多くなっています(送別会の帰りの飲酒運転など)。
規定の回数のテストをしなかった事案も2件ありますが,年間30回近くのテスト実施を求められる,教育課程の過密さにも驚かされます。
あと,難病の生徒を保健室に行かせなかった事案もありました(神奈川,中学校)。この種の病気への理解不足からくるものです。近年の教員採用試験では,こうした特別な配慮を要する子どもへの接し方についてもよく問われます。教員志望の学生さんは,よく勉強しておきましょう。
年度が変わりました。本年度も,本ブログをよろしくお願いいたします。
<2016年3月の教員不祥事報道>
・体罰:生徒に、中学教諭処分 2人に神戸市教委(3/1,毎日新聞,兵庫,中男38,中男58)
・18歳未満女性の身体触るなどした教職員2人を停職に
(3/2,ライブドアニュース,奈良,いせつ:中男38、盗撮:小男29)
・高校教諭逮捕、列車乗客に暴行 容疑で倉敷署 飲酒し帰宅中
(3/2,山陽新聞,岡山,高,男,50)
・もしかして見てもうた?小学校の教室に成人向けDVD…拾った教諭が保管し忘れ
(3/5,産経,兵庫,小,男,50代)
・中学校長酒気帯び容疑で摘発 宇佐市教委が謝罪(3/6,大分合同新聞,大分,中,男,55)
・公然わいせつ容疑で私立高講師の米国人を逮捕(3/7,産経,静岡,高,男,33)
・校長がわいせつ画像をメール 「エスカレートした」(3/8,朝日,愛知,小,男,57)
・札幌の元高校教諭起訴 男子生徒へ強制わいせつ罪
(3/8,北海道新聞,北海道,高,男,31)
・校長、修学旅行中にゴルフ…引率教諭3人誘い(3/10,読売,兵庫,中,男,60)
・パチンコ店でカード盗み校長処分(3/10,NNNテレビ,小,男,59)
・2人出産最も大切と中学校長 全校集会で、処分検討(3/11,共同通信,大阪,中,男,61)
・酒気帯び運転で事故 長野県立高教諭を懲戒免職
(3/11,産経,長野,酒気帯び運転:高男38,営利事業:小男53,体罰:高男29)
・区立中教員26人が私立高から接待 弁当に酒、金券も
(3/12,朝日,東京,中,属性は非公表)
・買春容疑で25歳の県立高校教諭を逮捕 中3女子生徒に2万2千円渡す
(3/14,産経,兵庫,高,男,25)
・教職員2人を懲戒免職処分(3/15,鹿児島テレビ,鹿児島,飲酒運転,小,男)
・いじめ自殺で4人懲戒処分、山形 天童市立中の担任や部顧問ら
(3/15,西日本新聞,山形,中男20代,男30代,50代,50代)
・中学養護教諭、無免許で29年勤務 栃木県教委が「採用無効」
(3/17,下野新聞,栃木,中,女,55)
・都教委 下半身露出の教諭免職83/17,NHK,東京,小,男,25)
・校庭60周、児童に「バカ」 体罰で小学校教諭厳重注意
(3/18,千葉日報,千葉,小,女,50代)
・校外活動で出会った児童母と性行為(3/18,Jキャスト,東京,小,男,28)
・岡山県の高校男性教諭2人を懲戒処分
(3/18,日刊スポーツ,岡山,窃盗未遂:高男33,暴行:高男50)
・酒気帯び運転など教諭2人を停職処分
(3/18,NNNテレビ,富山,飲酒運転:特女20代,死亡事故:中男51)
・飲酒運転容疑で教諭逮捕 千葉・成田、女性にけが(3/19,産経,千葉,小,男,31)
・教員免許偽造、告発へ 40代の元講師、来週にも福島県教委
(3/19,福島民友新聞,福島,中高,女,40代)
・小学教諭、29回テストせず成績 「授業に力入れてた」83/20,朝日,静岡,小,男,30)
・中学校教諭の女、清涼飲料を箱ごと盗む 容疑で逮捕(3/20,産経,愛媛,中,女,43)
・男児の裸を自宅で撮影…公立小の男性教諭を懲戒免職処分
(3/22,サンスポ,東京,小,男,38)
・懲戒処分:助手に平手打ち、教諭を減給処分(3/23,毎日,福島,高,男,46)
・授業中、難病生徒に保健室行き許可せず…市立中(3/24,読売,神奈川,中)
・教科書閲覧問題で男性教諭を戒告(3/24,毎日,埼玉,小,男,63)
・私立高教諭が試験問題漏えい 出勤停止(3/26,西日本新聞,大分,高,男,50代9
・交通死亡事故の校長と臨時教諭を減給処分(3/26,産経,群馬,小男59,高女58)
・青森の小学教諭 万引で停職処分(3/28,デーリー東北新聞,青森,小,男,58)
・元教え子を脅迫した県立高教諭免職(3/29,産経,兵庫,高,男,37)
・死亡事故で小学校教員逮捕83/29,NHK東海,愛知,小,女,40)
・淫行:中学教諭を容疑で逮捕 元教え子、LINEで誘う(3/29,毎日,佐賀,中,男,40代)
・人身事故の女性教諭を戒告処分/県教委(3/29,四国新聞,香川,小,女,55)
・23回分テストをしなかった小学校の先生を減給処分(3/29,産経,京都,小,男,35)
・わいせつ動画「もっとすごいの」 小3に見せた教員処分(3/30,朝日,愛知,小,男,27)
・痴漢の教諭ら懲戒免職 県教委、停職など処分5件
(3/3.,中日新聞,滋賀,痴漢:高男52,ドラッグ輸入:中男51,無免許運転:中男49,窃盗:高男57)
・児童に“からし” 教諭を処分(3/30,鹿児島読売テレビ,北海道,小,女,20代)
・退職金3千万円、初の返納命令 買春の元校長に(3/30,神奈川新聞,神奈川,中,男,65)
・「真面目な気持ちだったが…」教え子と性行為の講師が免職処分
(3/30,サンスポ,東京,高,男,27)
・兵庫県西脇市の男性教諭、下半身露出で逮捕(3/31,読売テレビ,兵庫,小,男,30)