2019年3月4日月曜日

47都道府県の区市部・郡部の所得中央値

 総務省が5年おきに実施している『就業構造基本調査』は,有業者や世帯の所得を地域別に知れるスグレモノです。

 私は,鹿児島と東京の暮らしを知っていますので,地域差という視点を常に据えることにしています。「今年の平均所得はいくらだ!」と提示されても全国値では,地方の人にすれば「へっ」っていう感じなんですよ。鹿児島大学の中武先生も,同じ思いを抱かれているようです。鹿児島のデータが必要だと。

 私は『就業構造基本調査』のデータを使って,47都道府県の所得を何度も出してきました。そのたびに,ものすごい地域差があることに驚かされます。しかるに,各県の内部でも地域差があります。鹿児島は南北に長い県で離島が多いのですが,県庁所在地の鹿児島市と奄美諸島では,所得水準がかなり違います。広大な北海道では,札幌市が突き抜けているのはよく言われること。

 『就業構造基本調査』では,各県内の区市部と郡部(町村)に分けて,所得の分布表を得ることができます。今回はこれを使って,各県の区市部と郡部の世帯所得の中央値を出してみようと思います。世帯全体ではなく,世帯主が40~50代の世帯に絞ります。大学進学該当年齢の子がいる世帯です。

 2017年のデータをもとに,鹿児島県郡部の世帯所得の分布をとると,以下のようになります。県全体から市部の世帯数を引いて出したものです。


 2万3500世帯の所得の度数分布表です。最頻階級(Mode)は200万円台となっています。働き盛りの世帯ですが,最も多いのは年間所得200万円台であると。1000万円を越える世帯は全体の4.3%しかありません。

 この分布をもとに,フツーの世帯の所得がナンボかという代表値を出しましょう。計算に手間がかかりますが,平均値より中央値(Median)がベターです。右端の累積相対度数から,中央値は400万円台の階級に含まれることが分かります。

 中央値は,データを高い順に並べた時,ちょうど真ん中にくる値です。累積相対度数が50ジャストの値です。按分比例を使って,この値を推し量ります。以下の2ステップです。

 按分比=(50.0-46.4)/(59.1-46.4)= 0.283
 中央値=400万円+(100万円 × 0.283)= 428.3万円

 鹿児島県の郡部の世帯所得中央値は428万円です。世帯主が40~50代の世帯で,大学生の子がいる年代の世帯なんですが,この所得では,子を大学にやるのはキツそうです。都市部の大学に出すための下宿代もプラスされます。ちなみに『就業構造基本調査』でいう世帯所得は税込みですので,税引き後の手取り収入だともっと低くなります。

 鹿児島大学は,離島出身の学生の学費減免枠を設けているそうですが,こういう実態を認識しているのでしょう。これに加えて「住」の支援も必要(学生寮の拡充など)。空き家が多いご時世ですので,学生向けの物件のデータベースの整備などもしてほしいものです。

 私は同じやり方で,47都道府県の区市部・郡部の世帯所得の中央値を計算しました。以下の表は,結果をまとめたものです。黄色マークは47都道府県の最高値,青色マークは最低値です。500万円に満たない数値はゴチにしてみました。


 どうでしょう。区市部と郡部に分けてみると,各県の「知られざる」性格が見えてきます。東京は,区市部と郡部(島しょ部)の格差がスゴイですね。同じ40~50代の世帯ですが,704万円と400万円という具合です。高知県も,県内の市部と郡部の差が大きくなっています。

 郷里の鹿児島は,市部が498万円,郡部が428万円ですか。市部でみても500万円にいかないのだなあ。これは世帯所得であって,世帯員全員の稼ぎの合算です(それも税引き前)。これでは子を大学,ましてや県外の私大にやるなんてのは難しいでしょう。

 こうした所得の地域格差は,子ども世代の大学進学率の地域格差となって表れています(とくに女子)。鹿児島の女子の大学進学率は全国で最低です。
https://tmaita77.blogspot.com/2018/08/2018.html

 高等教育無償化政策により,住民税非課税世帯の学費が無償になることが決まりましたが,所得に応じて納入する学費に傾斜をつけてほしいものです。あるラインを境に,天国と地獄がくっきり分かれてしまう制度設計は望ましくない。想定されている制度では,年収300万未満の世帯は非課税世帯の3分の2,年収300~380万の世帯は非課税世帯の3分の1が支給されるとありますが。

 ところで,市部よりも郡部の所得が多い県もちらほらあります。その代表格が福井県で,市部が642万円,郡部が737万円と,郡部のほうが100万円近く多くなっています。福井の郡部は,東京の区市部より高いではないですか。

 ちと調べたところ,繊維産業に加え,メガネフレーム,電気機械,化学など,付加価値の高い産業が集積しているとのことですが,土地の安い郡部に生産拠点が多くあるのでしょうか。
https://www.projectdesign.jp/201605/pn-fukui/002862.php

 北陸や中部では,市部より郡部の所得が高い県が多し。こういうのも,移住を募るアピール材料になるかと思いますが,いかがでしょうか。一般的な地域単位である都道府県よりも一段降りてみると,意外性のあるファインディングが出てきて面白いです。