ページ

2011年11月29日火曜日

不登校,いじめ相談

前回は,児童相談所に寄せられた相談のうち,養護相談の件数の統計を分析しました。今回は,不登校といじめに関連する相談の件数に注目しようと思います。統計の出所は,厚労省の『社会福祉行政業務報告』の各年次版です。

 まずは,これらの事由に関する相談の件数が,どう推移してきたのかをみてみましょう。当局の統計に,「不登校」や「いじめ」という言葉が出てきたのは,1990年代以降のことです。


 左欄は,件数の実数の推移をとったものです。予想に反してといいますか,双方の事由とも,相談件数が減少の一途をたどっています。20歳未満の子ども人口で除した比率でみても然りです。まあ,文科省の統計から分かる,不登校の児童・生徒の数や,いじめの認知件数も最近は減ってきていますので,殊更におかしい,ということはありません。

 近年,これらの問題行動への対応に本腰が入れられるようになっています。不登校については,学校外の教育施設で指導を受けた日数を,学校の指導要録上の出席日数としてカウントするなど,柔軟な対応がとられるようになっています。いじめについては,2006年10月の文科省通知にて,加害者に対して毅然とした対応をとるなどの方針が明示されています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/06102402/001.htm

 上記の統計は,これらの政策的努力の賜物である,という見方もできるでしょう。

 これらの事由に関する相談は,どの年齢の子どもで多いのでしょうか。2009年度の不登校でみると,最も多いのは,13歳の子どもに関する相談で1,475件となっています。当該年度の不登校相談件数(6,878件)の21.5%を占めます。不登校相談の5件に1件は,13歳の子どもに関するものであることになります。

 この年の13歳人口は約118万人です。よって,ベース人口1万人あたりの相談件数に換算すると,12.5件となります。子どもの人口全体でみた比率(3.0件)の4倍以上です。13歳といえば,中学校に上がる年です。「中1ギャップ」という言葉がありますが,学校不適応の問題は,この年齢の子どもで起きる確率が高いようです。

 こうした年齢別のデータを,上表の各年次について算出し,例の社会地図で表現してみます。不登校といじめの図を立て続けに展示いたします。



 どの年でみても,13~14歳あたりの相談率が高くなっています。不登校の図をみると,緑色以上のゾーンが川のように横切っています。人生の関門といいますか,この(危険な)川を,全ての子どもが渡らなければならないことになります。ここでつまずかせないためにも,中学校入学当初では,適応上の支援などが要請されるところです。このことは,中学校学習指導要領にも記載されています。

 ところで,いじめの相談率は,10歳未満の低年齢の段階では低いようです。しかるに,11月18日の記事でみたように,潜在的ないじめ被害者は,低年齢の児童ほど大きいと推測されます。にもかかわらず,相談の件数が少ないということは,当人のSOSを保護者や教師が把握し得ていない可能性が示唆されます。低年齢の児童は,言語能力に乏しいだけに,とりわけ綿密な配慮が求められるでしょう。

 今回は,不登校やいじめといった問題行動の相談件数をみましたが,他にも,性格行動や適性に関する相談件数など,面白い統計があります。展示したい社会地図はまだまだあるのですが,次回は,主題を変えることにしましょう。

2011年11月27日日曜日

養護相談

前回は,児童相談所に寄せられた相談件数を分析しました。今回は,養護相談という事由に限定して,相談件数の統計をみてみようと思います。出所は,厚労省『社会福祉行政業務報告』です。

 同調査の解説によると,養護相談とは,「父又は母等保護者の家出・失踪,死亡,離婚,入院,稼働及び服役等による養育困難児,棄児,迷子、被虐待児,被放任児,親権を喪失した親の子,後見人を持たぬ児童等環境的問題を有する児童,養子縁組に関する相談」と定義されています。

 今問題になっている児童虐待(child abuse)に関する相談は,広くはこの養護相談のカテゴリーに含まれることになります。まずは,この養護相談の件数の時代推移をみてみましょう。前回と同様,1965年以降の2~3年刻みのデータをとっています。


 bの相談件数をみると,1997年度までは2~3万件台でしたが,2000年になると5万件を超え,2007年には8万件を超えています。この間,20歳未満の子どもの数は減ってきていますので,相談件数をベースで除した比率は,ぐんぐん上昇しています。

 比率の上昇は,2000年度以降で大きいようですが,これには理由があります。2000年5月に児童虐待防止法が制定され,児童虐待が社会問題として正式に認知されるに至りました。このことをきっかけに,虐待に関連する相談の件数がうなぎ昇りに増えたものと思われます。

 2009年度の養護相談の件数は88,009件ですが,このうちの51.6%(45,395件)は,児童虐待に関連する相談です。養護相談の半分以上が,虐待に関連する相談となっています。

 さて,この養護相談ですが,何歳の子どもに関連するものが多いのでしょうか。2009年度の統計では,0歳の子どもに関連する相談が6,583件と最も多くなっています。この年の0歳人口は約108万人ですから,ベース人口1万人あたりの件数に直すと,61.1件となります。上表に記載されている,子ども人口全体の比率(38.1)よりも,かなり高い値です。低年齢の児童において,養護上の問題が発生する確率が高いことがうかがれます。

 私は,上表の各年度について,養護相談件数の比率を年齢別に出し,結果を例の社会地図で表現してみました。


 黒色は,該当年齢人口1万人あたりの相談件数が50件を超えることを意味します。最近の0歳と2~4歳が,黒く染まっています。時代軸で相対化しても,最近の低年齢の児童の危機状況が際立っています。

 しかし,1990年代後半以降,どの年齢でも相談件数の率がじわじわと上がってきています。2009年度でいうと,青色(1万人あたり40件台)のゾーンが10歳まで,紫色(30件台)のゾーンは14歳まで垂れてきています。

 以前は,10代になった少年に関する養護相談は少なかったのですが,最近では,そうではなくなっています。このような状況が,90年代半ば以降に表れてきたことも不気味です。子どもの危機というのは,社会全体の危機と表裏であるのだな,と思います。

 次回は,また別の事由の相談件数の統計をお見せいたします。

2011年11月26日土曜日

児童相談(全般)

11月3日の記事では,全国の児童相談所に寄せられた相談の件数が,子どもの年齢別にみてどう違うかを明らかにしました。今回は,その時代変化をみてみようと思います。

 時代変化をみる場合,子どもの数(ベース)の変化を考慮しなければなりませんので,相談件数をベースで除した比率を出す必要があります。手始めに,1965年度と最新の2009年度の統計を比較してみましょう。出所は,厚労省『社会福祉行政業務報告』です。


 相談件数の概数は,27万件から37万件に増えています。年齢別にみると,3歳の子どもに関連する相談が最も多い構造は,変わっていないようです。

 少子化により,子どもの数が減っているにもかかわらず,相談件数は増加しています。よって,子どもの数あたりの比率は大きく伸びています。表の右欄は,相談件数を児童千人あたりの比率に直したものです。まず合計をみると,7.5件から16.0件へと,倍以上になっています。

 この比率は,どの年齢でも上昇しています。3倍以上になっているのは,2歳,16歳,17歳,および18歳以上です。18歳以上(18,19歳)では,相談件数の比率が0.7から10.2へと大きく伸びています。昔は,この年齢になると親から自立する者も多かったのですが,今日では,そうではなくなっています。年長少年に関する相談件数の増加は,親への依存期間の延長によるのではないか,と思われます。

 この期間中の変化をもっと仔細に表現してみましょう。私は,1965年以降の2~3年刻みで,年齢ごとの相談件数比率を計算し,結果を等高線グラフで表してみました。このブログを長くご覧頂いている方は,お分かりかと存じます。私の恩師の松本良夫先生が考案された,「社会地図」という図法です。これによると,各年齢の率の時代変化を,上から俯瞰することができます。


 青色は,該当年齢の児童千人あたりの相談件数が,5件以上10件未満であることを意味します。黒色は,25件を超える,ということです。

 図をみると,時代を問わず,3歳児に関連する相談が最も多いようです。その多くは,養護相談,障害相談,ならびに育児相談であることは,11月3日の記事で示しました。90年代の初頭あたりから,この年齢の箇所が黒く染まっています。前世紀の末からは,20件以上のゾーン(紫色)が,4~5歳の部分まで垂れてきています。近年,この年齢層の危機状況が強まっています。

 また,2009年度では,13~14歳の部分も紫になっています。11月3日の記事でみた,「2コブ」型は,最近になって生じたもののようです。この年齢の主な相談事由は,非行,性格行動,および不登校などです。思春期の危機の表れといえましょう。

 しかし,図を大局的に眺めると,1998年頃から,基調色が青色から赤色(緑色)に変化します。全体的に,相談件数の比率が伸びたことを示唆します。1998年といえば,自殺者が3万人の大台に突入した年です。子どもの危機というのは,社会全体の危機を正直に反映するのだな,と思います。

 上図を右に延ばしたら,どうなるのでしょうか。3~5歳と13~14歳の膿が,じわじわと広がっていくのでしょうか。

 今回みたのは,相談件数全体の比率ですが,事由ごとにみると,興味深いことが分かるかもしれません。非行,不登校,いじめ,性格行動など,主な事由の相談件数の比率についても,上記のような社会地図で表現してみようと思います。次回以降,作品を展示いたします。

2011年11月24日木曜日

辞(病)める新人教員

11月8日の朝日新聞によると,新たに公立学校に採用された新人教員が,1年以内に退職する,というケースが増えているそうです。
http://www.asahi.com/national/update/1108/TKY201111080209.html

 私は,この手の報道記事に接すると,原資料にあたり,もっと詳しい統計を知りたくなります。この記事の統計のソースは,文科省『公立学校教職員の人事行政の状況調査』です。文科省のホームページや,同省の『教育委員会月報』(第一法規)に,詳しい調査結果が掲載されています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/11/attach/1312850.htm

 2010年度調査の結果によると,同年度の公立学校の新規採用教員25,743人のうち,1年以内に依頼退職をした者は288人だそうです。後者を前者で除した比率をとると,11.2‰(=1.1%)です。およそ100人に1人が,採用後1年を待たずして,自らの意志で教壇を去っていることになります。下表は,1997年度からの推移を跡づけたものです。


 1年以内の依頼退職者は,実数,比率ともに年々増加しています。実数(b)をみると,2003年からの伸びが顕著です。2003年から2004年にかけて107人から172人になり,2004年から2006年の間に281人にまでなっています。

 激戦の教員採用試験を勝ち抜いたのにモッタイナイ・・・。このように思われる方もいるでしょう。早期の依頼退職の理由として,どのようなものが考えられるでしょうか。

 まず制度的な面でいうと,1年間の条件附採用期間をクリアできなかった,ということが考えられます。公立学校の教員は,「すべて条件附のものとし,その職員がその職において1年を勤務し,その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする」と法定されています(教育公務員特例法第12条第1項)。教員の場合,じっくり慎重に適性を見極めるため,条件附任用の期間が,一般の公務員(6か月)の倍であることが特徴です。

 この期間中の脱落者は,「不採用」という烙印を押すのがカッコ悪いためか,依頼退職という形で処理されるケースが多いと聞きます。上表のbからcを引くと,自己都合による依頼退職者が出てきます。その主な中身は,教職への不適応感を抱いて自ら職を辞す者でしょうが,条件附任用期間中の脱落者(予備軍)も少なからず含まれていると推察されます。

 なお,病気による依頼退職者の増加も見逃せません。cをbで除した比率を出すと,2000年では15.6%でしたが,2010年では35.1%にまで高まっています。依頼退職理由に占める,病気(多くが精神疾患)のウェイトが増してきています。

 まさに,辞める(病める)教員の増加です。昨今の教員をとりまく状況を考えると,さもありなん,という感じがします。1年以内の早期での離職であるだけに,看過できることではありますまい。

 ところで,こうした辞める(病める)教員の量に,地域的差異はあるのでしょうか。私は,1年以内の依頼退職者の数を,47都道府県別に明らかにしました。指定都市の分は,当該都市を含む県に統計に入れています。2010年度採用者のデータです。


 先ほどみたように,全県の合計は288人です。これを県別にバラすと,かなりの違いがあります。首都の4都県,愛知,大阪,および兵庫は,早期の依頼退職者の数が10人を超えます。上位3位は,東京84人,大阪34人,神奈川31人,です。

 大都市県ばかりですが,これらの地域は,採用者数も多いので,当然といえば当然です。各県の依頼退職者は数が少ないので(白色は0人),採用者で除した比率を出しても意味がないのですが,上位の3都府県について比率を出すと,以下のようになります。


 東京の率の高さが際立っています。依頼退職率,病気による依頼退職率とも,全国値の倍を超えています。東京では,学校に理不尽な要求を突き付けるモンスター・ペアレントが多い,というような条件もあることでしょう。

 ケツの青い新人教員は,この種のモンスターの格好の餌食にされる確率が高いと思います。2006年5月に,東京で採用されて間もない新人教員(女性)が自殺する事件が起きましたが,その原因として,児童の保護者にあれこれと言われた,というようなことがあったそうです。

 でも,同じ大都市の大阪や神奈川の率は全国と同水準ですので,東京に固有の条件もあるのかもしれません。たとえば,条件附任用期間クリアの審査を厳格にしているなど。団塊世代の大量退職により,大量採用を余儀なくされている東京では,このような措置がなされているとしても,不思議ではありません。各県の条件附採用の評定がどういうものかは,上記文科省サイトの表6(PDF)から知ることができます。

 私は,教員の離職に注目してきましたが,早期離職率にも,これから注意していこうと思います。この指標は,各県の教員採用活動を評価する指標としても,使えるかもしれません。

2011年11月23日水曜日

自殺の観点別平均評点

前回の続きです。今回は,前回のデータを使って,自殺の苦痛度や迷惑度の平均量がどう変わってきたかを明らかにしようと思います。

 手始めに,2010年に起きた自殺の迷惑度の平均点を出してみましょう。鶴見さんの『完全自殺マニュアル』(太田出版,1993年)では,それぞれの自殺手段の迷惑度が5段階で評定されています。首つりは1,ガスは1,薬物は1,溺死は3,飛び降りは3,飛び込みは5,手首切りは2,感電は1,焼身は2,凍死は1,です。

 厚労省『人口動態統計』によると,2010年の自殺者(29,554人)の自殺手段の構成は,首つりが66.4%,ガスが13.3%,薬物が3.2%,溺死が2.8%,飛び降りが8.1%,飛び込みが2.1%,その他が4.2%,です。

 これらのデータから,この年の自殺の迷惑度平均点は,次のようにして求めることができます。厚労省の統計でいう「その他」の手段による自殺者(4.2%分)には,手首切り,感電,焼身,および凍死の迷惑度の平均点(1.5)を充てることとします。

 {(1.0×66.4)+(1.0×13.3)+・・・(5.0×2.1)+(1.5×4.2)}/100.0 ≒ 1.32点

 この迷惑度平均点の推移を10年刻みでたどると,1960年は1.60点,1970年は1.61点,1980年は1.55点,1990年は1.58点,2000年は1.38点,そして2010年が1.32点となります。

 予想に反するといいますか,自殺の迷惑度点は,昔よりも減ってきています。前回の面グラフでみたように,溺死や飛び込みといった,迷惑度の高い自殺手段の比重が減じてきているためです。

 同じやり方で,他の観点の平均評点の推移も明らかにしてみましょう。①苦痛,②手間,③見苦しさ,④迷惑,⑤インパクト,そして⑥致死度の平均評点が,1958年から2010年までの間に,どう変わってきたかをみてみます。

 ①については,苦痛の評点が定かでない薬物(前回の表を参照)による自殺者は除外して,平均点を出すこととします。2010年でいうと,薬物による自殺者(934人)を除いた28,620人の平均点を出すことになります。では,①から⑥の各観点について,評点の平均値の推移をご覧ください。


 まず目につくのが,致死度の平均量の増加です。前回述べたように,致死度がマックスの首つりのシェアが高まっていることによります。その一方で,手間や苦痛の平均点は減少傾向です。手間のかかる薬物や,苦痛の大きい溺死の比重が小さくなってきているためです。

 明らかなのは,「簡単」,「ラク」,「確実」を求める志向が増してきていることです。最もポピュラーな首つりは,この3条件を満たした手段であるといえます。なお,インパクトの平均点が上がってきていることも,注目に値します。

 各観点の平均評点は,性別や年齢層別に出すことも可能です。女性よりも男性,高齢者よりも若年者で,インパクトや迷惑度の平均点が高いのではないかしらん。また,時代×年齢層のマトリクスで平均点を出し,例の社会地図(等高線グラフ)で表現してみるのも面白いかも。

 これらの作業は,2004年度の厚労省『人口動態統計特殊報告』のデータを使って行うことができます。興味ある方は,どうぞトライしてみてください。
 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02010101.do

 私もやってみるつもりですが,自殺関係の統計ばかりいじっていると気が滅入ってきます。話題をチェンジさせてくださいまし。

2011年11月22日火曜日

自殺の手段

1993年7月,鶴見済さんの『完全自殺マニュアル』が太田出版より刊行されました。タイトルのごとく,自殺のやり方を詳細に解説したマニュアル本です。
http://www.ohtabooks.com/publish/1993/07/05202311.html

 この本は大変な反響を呼び,大ベストセラーとなりました。私は2009年4月にこの本を購入したのですが,奥付をみると,「2008年11月23日第104刷発行」と記されています。つまり,1993年の初版発刊以降,104回の重版を重ねた,ということです。現在では,もう少し版を重ねているものと思います。

 しかるに,この本はいろいろと「すったもんだ」を起こしたようであり,東京都の青少年条例にて有害図書に指定されるという,憂き目にも遭っています。少し大きな書店に行けばありますが,立ち読みができないよう,ビニールで封がされ,「18歳未満の青少年の購入禁止」という帯がつけられています。

 自殺を助長するとはけしからん,というような悪評が多数であると聞きます。しかし,鶴見さんの意図はそういうことではなく,むしろ逆のことであると思います。本の帯(上記の帯とは別)には,以下のように記されています。

 「世紀末を生きる僕たちが最後に頼れるのは,生命保険会社でも,破綻している年金制度でもない。その気になればいつでも死ねるという安心感だ!」

 事実,「本気で自殺を考えてこの本を手に取ったが,いつでも死ねる(逃げられる)という安心感のようなものが得られて,生きる意欲が湧いてきた」というような感想も多く寄せられているそうです。なるほど,確かにそういう効果も秘めている本だろうな,と私も思います。

 この本では,主な10の自殺手段について1章ずつが充てられ,基礎知識,具体的なやり方,歴史上のエピソードなどが,若干のユーモアを交えながら淡々と記されています。各章の冒頭では,当該の章で解説する自殺手段について,①苦痛,②手間,③見苦しさ,④迷惑,⑤インパクト,および⑥致死度が5段階で評定されています。それをまとめてみると,以下のようです。


 一番上の「縊首」とは,首つりのことです。首つりは,苦痛がない一方で(1),確実に死ねる手段であるようです(致死度5)。焼身は,大きな苦痛を伴いますが,インパクト抜群で,致死度も高いと評されています。

 予想されることですが,鉄道自殺に代表される「飛び込み」は,迷惑度がマックスです。死体の見苦しさもハンパじゃありません。

 女性の場合,きれいな姿で死にたい,という要望もあるかと思いますが,ポピュラーな首つりは,失禁するなど,死体が結構見苦しいそうです。見苦しさが「1」なのは,ガス,薬物,手首切り(リスカ),ならびに感電とされています。

 どうでしょう。ラクに確実に死にたい,というのであれば,首つりや飛び降りが適していることになります。抗議の意味を込めたインパクト重視というなら,飛び込みや焼身がオススメということになります。現実の日本社会では,最近,年間3万人ほどが自殺していますが,どういう手段による自殺が多いのでしょうか。

 厚労省の『人口動態統計』によると,2010年の自殺者29,554人の自殺手段の構成は,縊首が66.4%,ガスが13.3%,薬物が3.2%,溺死が2.8%,飛び降りが8.1%,飛び込みが2.1%,その他が4.2%,となっています。「ラク」と「確実」を重視した,首つりと飛び降りが多くを占めます。鉄道自殺でよくニュースになる飛び込みは,わずか2.1%です。

 自殺手段の構成の時代推移をたどると,下図のようになりました。1958年(昭和33年)からの変化を,面グラフで明らかにしています。


 始点の1958年では,薬物による自殺が最も多くを占めていました。しかし,時代の経過と共に,首つりのシェアが増してきます。1970年に48%,1990年に57%となり,2010年の66%に至っています。

 80年代頃から,飛び降りの比重も高まってきます。高層団地などの建設により,飛び降りを図る環境条件が整ってきたからでしょうか。代わって,飛び込みや溺死の比率が少なくなってきます。鉄道自殺のような飛び込みは,昔のほうが多かったのですね。

 総じてみると,「ラク」と「確実」を求める傾向が強まっているようです。上図の構成比率のデータと,鶴見さんによる評点のデータを使えば,各時代の自殺の苦痛度平均点,インパクト平均点,迷惑度平均点のような指標を出せます。

 長くなりますので,この辺りで止めにしましょう。次回は,自殺の苦痛度や迷惑度の平均量が,昔から今までどう変わってきたのかを明らかにしてみようと思います。

2011年11月20日日曜日

指導が不適切な教員

文科省の『教育委員会月報』(第一法規)を定期購読しています。先日届いた,2011年11月号によると,2010年度間に「指導が不適切」と認定された教員の数は208人だそうです。

 当局の定義によると,指導が不適切な教員とは,「知識,技術,指導方法その他教員として求められる資質,能力に課題があるため,日常的に児童等への指導を行わせることが適当ではない教諭等のうち,研修によって指導の改善が見込まれる者であって,直ちに後述する分限処分等の対象とはならない者」とされています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/08022711/003.htm

 2007年の教育公務員特例法の改正により,指導が不適切と認定された教員は,指導の改善を図るための研修(指導改善研修)を受けることが義務づけられています(第25条の2)。この研修を経ても,指導の改善が不十分と認定された場合は,任命権者により,「免職その他必要な措置」が講じられます(第25条の3)。

 冒頭の資料によると,指導が不適切と認定された教員の数は,以下のように推移しています。公立学校(小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校)の統計です。


 最近10年間の統計ですが,ピークは2004年度の566人であり,その後は減少の傾向です。2010年度の数字は,さして多いものとは判断されません。

 2010年度間の認定者のうち,同年度に指導改善研修を受けた者は140人です(残りは次年度以降の研修対象者)。この140人にどういう裁定が下されたかをみると,現場復帰が62人,研修継続が30人,退職等が35人,その他が3人,となっています。

 研修対象者の現場復帰率は44.3%です。残りの半分以上が職場復帰を果たし得ず,退職等の形で職を辞した者が25%(4分の1)います。このほど導入された指導改善研修は,受講しさえすればよいというような形式的なものではなく,それなりに厳格に運用されていることがうかがれます。

 指導が不適切と認定されると,いろいろと厄介なようです。はて,こうした不名誉の烙印を押される確率は,どういう属性の教員で高いのでしょうか。年齢別でいうと,ケツの青い若年教員で認定率が高いような気がします。

 私は,冒頭の資料から,2010年度間の認定者数を,学校種別,性別,および年齢層別に明らかにしました。それを,それぞれの属性カテゴリーのベース(本務教員数)で除して,認定率を計算しました。ベースの数字は,同年度の文科省『学校基本調査』より得ました。

 下表は,公立学校の教員について,指導が不適切と認定された者の出現率を出したものです。年齢層別のベースの数字(a)は,60代と管理職(校長,副校長,教頭)を除いていますので,合計と一致しないことを申し添えます。


 まず,2010年度の認定者数208人が,公立学校全体の本務教員数のどれほどに相当するかをみると,10万人あたり23.1人です。約分すると,4,329人に1人。近年の自殺率(≒10万人あたり25人)と同じくらいの水準です。低いのですねえ。

 教員の属性別ではどうでしょう。学校種別では,中等教育学校を別にすると,中学校の出現率が最も高くなっています。性別では,男性が女性の3倍以上です。

 下段の年齢層別の箇所に目をやると,先の予想に反して,指導が不適切な教員の出現率は,年齢が上がるほど高くなっています。50代の出現率(44.1)は,20代の4倍以上であり,他のどの属性の率をも凌駕しています。

 6月3日の記事でも書きましたが,教員をとりまく近年の状況変化(教員評価の導入,住民の学校参画・・・)に対し,最も戸惑いを抱いているのは,長年異なる状況下で教職生活を営んできた50代の教員なのではないかと思われます。

 自分のやり方に固執するあまり,結果として,「指導が不適切」という烙印が・・・。こういうケースも少なくないのではないかと思います。

 私が非常勤をしている某大学では,学生の授業評価(意見,改善要望含む)に対する,教員のリプライをまとめた冊子が,学生ラウンジ等に置いてあります。それをみると,年輩の教授ほど,「回答の必要を認めず」,「学生のほうに問題があるのではないか」,というような(反発的な)コメントが多いように感じます。

 うーん。こうみると,上記の年齢層別のデータも,さもありなん,という感じです。まあ私も,性格はかなり頑固で,人の意見に素直に耳を傾けるタイプではないで,気をつけないといけないなあ,と自戒するところです。

 一つ,興味があるのは,上記の出現率を学歴別にみるとどうかです。指導が不適切と認定される確率は,大学院卒の教員と学部卒の教員とでは,どちらが高いのでしょうか。もしかすると,前者のほうが高かったりして。また,教員養成系大学卒業者と一般大学卒業者とで,どう違うかも気になります。大学(院)における教員養成の効果を検証する上でも,こうしたデータの公表を望むものです。

2011年11月18日金曜日

いじめの摘発度(学年別)

11月9日の記事にて,いじめの摘発度を県別に明らかにしました。その結果,熊本県の数字がダントツで高いことを知りました。

 当県では,毎年,公立学校の全児童・生徒に対し,いじめの被害経験の有無を尋ねるアンケート調査を行っているそうです。2009年度調査の結果を引くと,「今の学年になっていじめられたことがある」と答えた児童・生徒の比率は8.8%と報告されています(調査実施時期は11~1月)。およそ11人に1人。学年別の比率をグラフ化すると,下図のようになります。
http://kyouiku.higo.ed.jp/page2007/page3168/


 最も高いのは,小1で19.4%です。おおよそ,低年齢の児童ほど被害経験率が高い,右下がりの型になっています。文科省の統計にて,いじめの認知件数を学年別にみると,中1をピークとした山型になるのですが,上図の型状は,明らかにそれとは違っています。

 低学年では,被害を受けている児童が多いにもかかわらず,当局がそれを把握しきれていない可能性が示唆されます。熊本県の被害率を使って,全国の被害者数を学年別に推し量り,各学年の認知件数の統計と照らし合わせてみましょう。

 文科省の『学校基本調査』(2009年度版)に記載されている,全国の公立の小1児童数は1,121,965人です。この数字に,熊本の小1のいじめ被害率(19.4%)を乗じて,いじめ被害経験者の実数を推計します。その数,217,661人なり。

 2009年度の文科省『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』によると,当該年度間に,全国の公立学校で認知された小1のいじめ件数は3,810件です。この数は,先ほど推し量った,当該学年のいじめ被害経験者数(217,661人)の1.8%に相当します。当局の統計が,推定されるいじめ被害者数のどれほどを掬っているのかを表す尺度として使えます。

 この尺度(いじめの摘発度)を,他の学年についても算出してみましょう。下の表をご覧ください。


 表の右欄によると,いじめの摘発度は中2で最も高くなっています。20.0%です。当局の統計は,推定されるいじめ被害者数の2割を拾っていることになります。

 学年別の摘発度は,中2をピークとした,きれいな山型になっています。中学校段階でいじめが起きやすいと巷でいわれるので,いじめの摘発活動も,中学校で本腰が入れられる,ということでしょうか。

 ですが,ここでの推計結果によると,低学年の児童ほどいじめ被害者が多くなっています。実際に起きているいじめの数についても,同じようなことがいえるでしょう。にもかかわらず,当局の統計は,そのうちのごくわずかしか把握し得ていないようです。

 言語能力に乏しい低学年の児童の場合,いじめに遭ったことを,保護者や教師にうまく訴えることが叶わないのかもしれません。それだけに,小学校の低学年にあっては,いじめの摘発活動がもっと活発化されて然るべきではないか,と思います。

 2月25日の記事では,最近10年間における暴力的行為の増加率が最も大きいのは,小1の児童であることを明らかにしました。教師の言うことを聞かない,授業中立ち歩くといった,「小1プロブレム」の問題もよく知られています。

 夫婦の共働きや,養育の「施設化」の進行により,幼児期の社会化(Socialization)が十分でないまま,小学校に上がってくる子どももいることでしょう。今日,「難しいお年頃」は,低学年の児童にシフトしているといえるかもしれません。

2011年11月16日水曜日

学歴ロンダリング

原田ひ香さんの『東京ロンダリング』(集英社,2011年)を読んでいます。「死んだ人の部屋に住む」ことを仕事とする,32歳女性(離婚歴あり)の物語です。
 http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-771411-1&mode=1

 「死んだ人の部屋」とは,いわゆる事故物件のことです。事件後,不動産屋さんが当該の物件を貸す際は,事故物件であることを借り手に告知する義務があります。しかし,新しい住人が一定期間住んだ後は,そうした告知義務はなくなるのだそうです。

 この本の主人公は,事故物件に一定期間住まうことで,当該の物件をロンダリング(洗浄)していることになります。住む間の家賃は当然タダ。それどころか,仕事料として1日5千円もらえるとか。1月あたりにすると,およそ15万円の収入です。

 これなら,働かなくても食っていけます。不動産屋さんの依頼に応じて,頻繁に物件を移動するので,家具などは持てませんが,食事は外食で済まし,1日中寝ているか,好きな本でも読んでいればよいわけです。主人公も,そういう暮らしをしています。

 これは物語の中の仕事ですが,現実の社会でも,この種のビジネスに対する需要が出てくるのではないでしょうか。今後,日本では,高齢化と孤族化が同時進行することにより,アパートの一室で高齢者が孤独死するような事態が増えてくるでしょう。となると,事故物件の処理に頭を抱える業者さんも多くなってくると思います。「御社の物件のロンダリング請け負います!」というような,人材派遣会社も出てきたりして・・・。

 学生さんに,上記の本を紹介し,こういう仕事がもしあったらやりますか,と冗談混じりで尋ねてみました。「絶対やりません。気持ち悪い。」というような拒否反応が大半でしたが,「やるやる。そんなおいしいバイトはないっすよ。」という声もありました。

 原田さんは,今後の日本社会の行く末を見越して,こういう本を書かれたのでしょうか。先見性のある発想に,敬意を表します。

 さて,教育の領域でロンダリングといったら,直ちに「学歴ロンダリング」という単語が想起されます。(低い)学歴を洗い流す,という意味です。低ランクの大学から高ランクの大学に編入する,低ランクの大学から高ランクの大学の大学院に進学する,というような行為に,このような言葉があてがわれることがあります。

 蔑視のニュアンスを含む言葉でもありますが,大学間の流動性が高まるのは悪いことではありますまい。18歳の時点での一本勝負ではなく,後からでもやり直しができる制度を構築することは,好ましいことといえましょう。

 ひとまず,上記の意味での「学歴ロンダリング」がどれほど行われているのかを,大学院入学者の組成という観点からみてみましょう。文科省『学校基本調査(高等教育機関編)』から,関連のある数字を拾ってみます。

 2010年春の大学院修士課程入学者のうち,他大学出身者の比率は29.1%です。1990年の23.7%より増加しています。博士課程入学者の場合,この期間における他大学出身者の比率の伸び幅は,もっと大きくなっています(22.8%→34.8%)。この20年の間に,大学間の流動性が高まっているといえましょう。

 では,低ランク大学→高ランク大学の大学院という移動の量はどうでしょうか。ここでは,国立大学大学院の入学者に占める,私立大学出身者の比率の変化に注目してみます。下表をご覧ください。


 修士課程,博士課程とも,国立大学の入学者に占める私立大学出身者の比率が増しています。修士課程は8.0%から11.5%,博士課程は3.7%から8.5%への伸びです。大学院進学時という断面でみる限り,学歴ロンダリングの量は増えてきているようです。

 まだまだ微々たる量なのかもしれませんが,流動性のある,やり直しのできる制度が構築されつつあります。高校生のみなさん。18歳時の入試の結果が,その後の人生を決めるなどと思わないでください。後からやり直すチャンス,リターンマッチへの参加のチャンスというのは,結構あるものです。

 具体的な制度解説や,関連する実態データを盛り込んだ書物を出せば,売れるんじゃないかしらん。

2011年11月15日火曜日

ケータイ利用と非行の関連

前回は,子どものケータイ所有率を県別に明らかにしました。今回は,各県の子どものケータイ利用度が,非行少年の出現率とどう相関しているのかをみてみようと存じます。

 前回述べたことですが,ケータイは,子どもをして,外部社会の有害情報と直に接触せしめるツールでもあります。文科省や警察庁は,子どものケータイに,有害情報を選別的に排除する「フィルタリング」機能を備え付けることを推奨していますが,100%完全とまでは行っていないのが現状です。

 そうである以上,ケータイの利用度が高い子どもほど,非行を犯す確率は相対的に高いのではないでしょうか。県単位の統計でもって,この仮説を検証してみようと思います。

 文科省の『全国学力・学習状況調査』では,対象の児童・生徒に対し,「携帯電話で通話やメールをしていますか」と尋ねています。神奈川県の公立中学校3年生の回答分布は,「ほぼ毎日」が43.6%,「ときどき」が29.5%,「全く,または,ほとんどしない」が6.5%,「携帯電話を持たず」が20.3%,です(2009年度調査)。

 この回答分布をもとに,当該県の公立中学校3年生の「ケータイ利用度」を数量的に表現してみましょう。「ほぼ毎日」に3点,「ときどき」に2点,「全く,または,ほとんどしない」に1点,という点数を与えます。「携帯電話を持たず」は0点とします。こうした場合,当該県の公立中学校3年生の平均点(average)は,次のように算出されます。
 {(3点×43.6人)+(2点×29.5人)+(1点×6.5人)+(0点×20.3人)}/100人 ≒ 1.96点

 この平均点をもって,ケータイの利用度といたしましょう。私は,上記の文科省調査の対象となっている公立小学校6年生と中学校3年生について,このやり方で,ケータイの利用度を県別に出しました。2009年度調査の結果を用いています。下記サイトで閲覧可能です。
http://www.nier.go.jp/09chousakekkahoukoku/index.htm

 この指標と,非行者出現率の相関関係をとってみます。非行者出現率とは,2009年中に警察に検挙・補導された少年の数を,全児童・生徒数で除した値です。小学生と中学生について,同じく県別に計算しました。分子の検挙・補導人員数(非行少年数)は,警察庁『犯罪統計書-平成21年の犯罪-』より得ました。分母の小学生数,中学生数は,文科省の『学校基本調査』(2009年度版)よりハントしました。

 以上の統計指標を47都道府県について算出した一覧表を掲げます。下表をご覧ください。


 子どものケータイ利用度には,かなりの地域差があります。傾向は,前回みたケータイの所有率の地域差と近似しています。おおよそ,都市県で高く,農村県で低いようです。右欄の非行少年出現率にも相当の都道府県差がありますが,こちらは,傾向は不明瞭です。都市的な県で高いというような,単純な話でもなさそうです。

 では,両指標の相関をとってみましょう。aとcの相関係数は-0.2276,bとdの相関係数は0.4860となりました。後者は,1%水準で有意と判定されます。中学生の場合,ケータイ利用度と非行率の間に,統計的に有意な正の相関関係が観察されます。以下に,相関図を示しておきます。


 私はこれまで,各県の非行率と関連する統計指標を探査してきましたが,ここまで強く相関する指標には,あまりお目にかかったことはありません。ケータイは偉大な発明品ですが,子どもを悪の世界へと引きずり込む負の機能をも果たしかねないことが,マクロな統計分析の結果からも示唆されます。

 こうした事態を防ぐため,当局は,有害情報をブロックする「フィルタリング」機能の利用を強く推奨しているところです。しかるに,この機能の利用率にも,かなりの地域差があるそうです。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110825/crm11082517240031-n1.htm

 子どものケータイ利用度が高く,且つ,フィルタリング利用率が低い。こういう(要注意)県を割り出し,当該県の逸脱行動発生率を解析してみるのも,また一興です。考えられる要因指標を追加していくことで,知見の精度をより高めてゆこうと思っています。

2011年11月13日日曜日

子どもの携帯電話所有率

携帯電話(以下,ケータイ)は,現代の偉大な発明品です。どこにいても通信することができ,各種の情報収集を行うことも可能です。この文明機器は,大人のみならず,子どもの間にも相当出回っているようです。

 ですが,このことが教育の現場によからぬ事態をもたらしていることも,よく知られています。授業中に生徒がメールやゲームなどをすることで,学校の教授活動に支障が出るケースも少なくないと聞きます。

 こうした問題を認識した文部科学省は,2009年1月30日の通知にて,小・中学校ではケータイの持ち込みを「原則禁止」,高校では「使用制限」という方針を打ち出したところです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1234695.htm

 しかるにケータイは,外部社会の有害情報と子どもを直に接触させるツールでもあります。大人社会と子ども社会のボーダレス化(境界喪失)がいわれますが,ケータイが一役買っていることは,疑い得ないところです。学校にいる間だけ,使用を禁止ないしは制限すればよい,というわけでもなさそうです。

 このように,いろいろと問題をはらむケータイですが,子どものどれほどがそれを持っているのでしょうか。この点については,文科省の実態調査などで明らかにされていますが,公立と私立ではどう違うか,地域間の差はどうか,というようなことも気になります。今回は,こうした細かいデータをご覧に入れようと思います。

 文科省の『全国学力・学習状況調査』では,対象の児童・生徒に対し,「携帯電話で通話やメールをしていますか」と問うています。2009年度調査の結果でいうと,この問いに対し,「携帯電話を持っていない」と答えた者の比率は,公立小学校6年生で69.4%,公立中学校3年生で39.8%です。裏返すと,前者の30.6%,後者の60.2%がケータイを持っていることになります。この値をもって,ケータイの所有率といたしましょう。
http://www.nier.go.jp/09chousakekkahoukoku/index.htm

 学校の設置主体別,地域類型別に,ケータイの所有率を出すと,下表のようです。出所は,2009年度の上記文科省調査の結果です。


 学校の設置主体別の数字をみると,公立よりも国私立校でケータイの所有率は高くなっています。私立では,小6の児童でも,およそ7割がケータイを持っているようです。公立の倍以上です。幼い子どもを遠方に通わせる関係上,安全確認の手段として,ケータイを持たせる親御さんが多い,ということでしょうか。

 下段の地域類型別の欄に目を移すと,農村地域よりも都市地域で所有率が高いことが明白です。都市部では,夜遅くまで塾通いをする子どもが多いためと思われます。緊急時の連絡手段の意味合いで,ケータイを持たされる子どもも多いことでしょう。

 次に,都道府県別のケータイ所有率をみてみましょう。上記の文科省調査から,公立学校の児童・生徒の所有率を県別に知ることができます。


 予想されることですが,ケータイの所有率は県によってかなり違っています。小6では,最高の東京(45.9%)から最低の秋田(15.5%)まで,30.4ポイントの開きがあります。中3では,最高の神奈川(79.7%)から最低の山形(30.6%)まで,49.1ポイントもの開きが観察されます。

 東京や神奈川では,小6の児童でも4割以上がケータイを持っていますが,秋田では,おおよそ6人に1人という水準です。むーん。すごい差ですねえ。しかるに,県間の差は,中3になるともっと広がります。最大値から最小値を引いたレインヂのみならず,標準偏差でみても然りです。

 中3のケータイ所有率の都道府県別数値を地図化すると,下図のようになりました。10%区分で各県を塗り分けています。


 首都圏の1都3県と大阪は,黒く染まっています。これらの都市地域では,ケータイの所有率が7割を超える,ということです。赤色と黒色の高率ゾーンは,関東地方と近畿地方に偏在しています。その一方で,東北,中部,南九州などの諸県は,色が薄くなっています。

 ケータイの所有率には,相当の地域差があります。次なる関心事は,この率の高低によって,子どもの育ちがどう異なるか,ということです。この問題を追及することで,巷でいわれているケータイの悪しき効果の真偽を検証できるかと思います。

 たとえば,学力調査の上位県の常連である秋田や福井では,ケータイの所有率は低くなっています。ケータイを持つことで,勉強に手がつかなくなる,というような因果関係があるのでしょうか。

 また,子どもの福祉犯被害率との相関も気になるところです。子どもは,ケータイを介して,出会い系サイトなどの有害情報に接することが多いと思われます。実際に,両指標の間に正の相関関係が認められるかどうか・・・。

 文科省の上記調査では,「携帯電話で通話やメールをしていますか」という設問に対し,「ほぼ毎日」,「時々」,「ほとんどせず」,「携帯電話は持たず」という程度尺度で答えてもらっています。この回答分布から,各県の子どものケータイ利用度を数量的に可視化することができます。

 この指標を使って,先ほど述べた諸課題を追求してみたらどうでしょう。面白い結果が出ましたら,この場でご報告いたします。

2011年11月12日土曜日

生涯賃金の学歴格差

戦後間もない頃に生まれた団塊世代の方々は,1960年代後半から70年代の初頭あたりに入職され,多くは,最近になって定年を迎えられたことと思います。

 品のない問いですが,おおよそ40年間働く中で,どれほどの収入(income)が得られたのでしょうか。それは人によってさまざまでしょうが,学歴という観点からするとどうでしょう。この世代の場合,高卒がマジョリティーでしょうが,高卒と大卒では,現役時代に稼いだお金の額がどれほど異なるでしょうか。数字でもって,総決算してみようと思います。

 ひとまず,1946~1950年生まれ世代の男性の軌跡をたどってみます。この世代は,1970年には,20~24歳となります。厚生省(現在は厚生労働省)の『賃金構造基本調査』(1970年版)によると,この年の20~24歳男性の平均月収額(決まって支給される給与月額)は,高卒では4.6万円,大卒では4.8万円です。5年後の1975年には25~29歳となりますが,この年の当該年齢男性の場合,高卒は12.6万円,大卒は13.1万円という具合です。

 こうしたデータをつなぎ合わせると,加齢に伴う月収額の変化を明らかにすることができます。上記の官庁統計では,中卒,高卒,高専・短大卒,および大卒という,4つの学歴カテゴリーが設けられています。この4グループについて,変化の様相をたどってみます。

 なお,この4グループの組成を1975年(25~29歳)の時点でみると,中卒が21.8%,高卒が48.4%,高専・短大卒が3.2%,大卒が26.6%,となっています。高卒がおよそ半分を占めますが,この世代の場合,中卒が2割ほどいます。大卒は4人に1人です。


 どのグループでも,加齢に伴い,平均月収額がアップしています。しかるに注意すべきことは,年齢を重ねるにつれ,給与の学歴差が大きくなることです。高卒に対する大卒の倍率を出すと,25~29時点では1.07ですが,40~44歳時点では1.34となり,定年直前の55~59歳時点では1.48にまで上がります。中卒に対する倍率は1.69にもなります。

 これは月収額ですが,年収額に換算するとどうでしょう。上表の月収額を12倍した値に,年間賞与(ボーナス)や特別給与の額を加算することで,4グループの各時点の平均年収額を推し量ってみます。下表をご覧ください。


 一応,それらしい数字が出てきました。私は今35歳ですが,この世代の30代後半の年収額をみると,高卒は445万円,大卒は558万円です。50代後半では,順に,578万円,858万円です。両時点について,大卒/高卒の倍率をとると,1.25,1.48となります。ここでも,加齢に伴う学歴差の拡大がみられます。

 表に記載されている8つの時点の年収額を総計すると,高卒は3,496万円,大卒は4,711万円です。その差は1,215万円。これは8つの時点(8年間)の差の総額です。この額を5倍することで,現役時代(40年間)に発生した,高卒と大卒の収入差の総額を推し量ります。その額,6,075万円なり。

 団塊世代の男性の場合,高卒と大卒では,現役時代にかけて約6千万円の収入差が出たことになります。ちなみに,中卒と高卒の差は2,174万円,中卒と大卒の差は8,249万円です。中卒と大卒では,8千万以上の格差です。退職金の額なども計算に入れれば,生涯賃金の差はとてつもないものになるでしょう。

 先に記したように,この世代の男性労働者の学歴構成は,中卒2.0,高卒5.0,高専・短大0.5,大卒2.5,という具合です。現在と違って高卒が半数を占め,5人に1人が中卒でした。それだけに,学歴主義の壁にぶつかり,悔しい思いをした方も多いのではないでしょうか。

 私より少し上の団塊ジュニア世代は,親世代のこうした怨念により,「勉強せよ,勉強せよ」と尻に鞭を打たれた世代であるのかもしれません。私自身,身に覚えがないではありません。

 しかるに,最近の世代では,賃金の学歴差というのは縮小しているのではないでしょうか。学歴主義から実力主義への転換もいわれています。大学を出ても5人に1人が無職というご時世です。むろん,完全にマイノリティーと化した中卒を基準にすればこの限りではないと思いますが,高卒と大卒ではどうなのでしょう。後の検討課題にしようと存じます。

2011年11月11日金曜日

中高生の性犯罪被害率

「可憐な制服少女を見ると,男は欲情を掻き立てられる。よって,制服少女たちと常日頃接する教員らは,性犯罪に傾斜する確率が,常人と比べてとてつもなく高い」。このような趣旨の文章を,何かの本で読んだ覚えがあります。

 なるほど。生徒に対するわいせつ行為などで,教員が処分を受けたというニュースは,よく見聞するところです。統計でみても,最近,教員の性犯罪の件数が増えていることは,8月7日の記事でみたとおりです。

 ところで,少子化により,「制服少女」たちの実数はどんどん減ってきています。その一方で,性犯罪者予備軍たる成人男性の数は増えてきています。こうした状況変化のなか,女子生徒らが性犯罪に遭遇する確率は高くなってきているのではないでしょうか。

 警察庁の『犯罪統計書』から,中高生が被害者となった性犯罪事件の件数を知ることができます。ここでいう性犯罪とは,強姦と強制わいせつをさすものとします。この中には,男子生徒が被害者となった事件も含まれていますが,その数はほんのわずかとみてよいでしょう。

 この数を,文科省『学校基本調査』から分かる女子中高生の数で除せば,女子中高生の性犯罪被害率を計算できます。被害者の職業別に事件の数が集計されているのは,1972年からです。まずは,1972年と2010年とで,性犯罪被害率がどう変わったのかをみてみましょう。女子中高生の特徴をみるため,女子人口全体の被害率と対比してみます。


 1972年でいうと,年間で認知された性犯罪事件の数は7,816件です。この年の女子人口は約5,477万人です。よって,女子人口全体の性犯罪被害率は,10万人あたりでみて,14.3となります。中学生の被害率は23.5,高校生のそれは29.8です。中高生の被害率が,全体よりも高くなっています。

 はて,およそ40年を経た2010年ではどうでしょう。人口全体の被害率は減っていますが,中高生のそれは増えています。とくに高校生の被害率の伸びが顕著で,29.8から101.2と,3.4倍になっています。悪い予感が的中といいましょうか,性犯罪被害が中高生に集中する度合いが高まっているようです。

 いつ頃から,このような事態になったのでしょう。女子中高生の被害率と,女子人口全体のそれを逐年で出し,その推移をグラフにしました。


 女子中高生の被害率は,1990年代頃から上昇し,全体の被害率曲線と乖離してきます。2003年にピークを迎えた後,減少しますが,最近,微増に転じています。

 緑色の曲線は,女子中高生の被害率が全体の何倍かを示す倍率です。1972年では1.9倍でしたが,最新の2010年では5.4倍にまで高まっています。女子中高生が被害に遭う確率は,通常の5倍以上ということです。

 上記のグラフの期間中,女子中高生の絶対数は,1987年の564万人をピークに,その後は減少を続けます。その一方で,成人男性の数は増え続けます。被害者層の減少,加害者層の増加です。様相をクリアーにするため,下表をつくってみました。aとbの単位は千人です。2050年の数字は,国立社会保障・人口問題研究所の中位推計をもとにつくりました。


 加害者層/被害者層の倍率が急騰するのは,1990年代以降です。奇しくも,女子中高生の性犯罪被害率が上昇する時期と重なっています。この数値は,今から40年後の2050年には,20.8になることが見込まれます。どういう事態になることやら。

 子どもの犯罪被害というのは,こうした社会の基底構造の側面からも考察する必要があるのではないか,と思っております。

2011年11月9日水曜日

いじめの摘発度(県別)

 前回の続きです。今回は,いじめの摘発度を都道府県別に出してみようと思います。いじめの摘発度とは,当局が認知したいじめの数と,いじめを容認する児童・生徒の数を照らし合わせて算出するものです。

 いじめを容認する児童・生徒の数は,子どもの間で実際に起こるいじめの数を近似(相似)的に表す尺度とみなすことができます。当局が認知したいじめの件数が,この数のどれほどを掬っているのかに注目します。当局のいじめ摘発(認知)活動を評価するための指標として,独自に考案したものです。

 前回は,小学校6年生と中学校3年生のいじめの摘発度を出しましたが,いじめの認知件数の学年別データを,県別に得ることはできません。ここでは,小学校全体,中学校全体のいじめの摘発度を計算することとします。

 2009年度の文科省『全国学力・学習状況調査』の結果によると,「いじめはどんな理由があってもいけないことと思うか」という問いに対し,最も強い否定の回答(「そう思わない」)を選んだ者の比率は,公立小学校6年生で1.3%,公立中学校3年生で2.3%です。

 文科省『学校基本調査』から分かる,同年5月1日時点の小学生数は7,063,606人,中学生数は3,600,323人です。この数に,先ほどの比率を乗じて,いじめを容認する児童・生徒の数を推し量ります。その数,小学校では91,827人,中学校では82,807人です。これらの数値をもって,実際に起きたいじめの数(真数)の相似尺度とみなします。

 2009年度の文科省『児童・生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』によると,同年度間に認知されたいじめの数は,小学校で34,776件,中学校で32,111件です。この公的な認知件数を,先ほど明らかにした,いじめの真数尺度で除すと,小学校は0.38,中学校は0.39となります。この数字が,いじめの摘発度となります。

 分母に充てる数(いじめを容認する児童・生徒数)は,あくまでいじめの真数の相似的な尺度ですので,ここでいう摘発度の絶対水準を問題にしてもあまり意味はありません。ですが,各県の数値を比較することで,各県のいじめ摘発活動のがんばり具合を可視化することは可能かと思います。

 では,同じ手続きに依拠して,47都道府県のいじめの摘発度を算出してみましょう。下表をご覧ください。


 いじめの摘発度は,小・中学校とも,熊本県で最も高くなっています。1.0を超えるということは,いじめを容認している児童・生徒数(いじめの真数尺度)よりも,当局が認知したいじめの数のほうが多い,ということです。小学校では4.25にもなります。驚異的な高さです。

 いじめの摘発度が1.0を超えるのは,小学校では5県,中学校では3県です(赤字)。これらの県では,いじめの摘発にかなり本腰を入れているのでしょう。熊本では,「公立学校のすべての児童生徒を対象に無記名の『いじめアンケート』を行っており,結果を踏まえて教師が『いじめ』認知件数をカウントしている」そうです。
http://mainichi.jp/life/edu/juniorhighschool/archive/news/2011/08/20110805ddlk43100496000c.html

 その一方で,いじめの摘発度がかなり低い県もあります。小学校の下位5位は,低い順に,和歌山,佐賀,福島,鳥取,福岡,です。中学校は,和歌山,福島,佐賀,京都,および滋賀です。ほとんど県で,摘発度が0.1を下回っています。分子の認知件数が,分母の仮真数の1割をも拾っていない,ということです。

 中学校のいじめの摘発度を地図化してみましょう。下図は,0.2の区分で各県を塗り分けたものです。


 いじめの摘発度が高い県は,中部地方に多いようです。九州は,高い県(熊本,大分)と低い県(福岡,佐賀,宮崎)とに分極化しています。それと,あと一点気になるのは,近畿地方のゾーンが白く染まっていることです。近畿の府県では,いじめの摘発度が低い傾向にあります。潜在しているいじめが多いものと思われます。

 ここで明らかにした,いじめの摘発度の地域差は,アンケートや綿密なカウンセリングといった取組の頻度と関連していることは,間違いないでしょう。しかるに,そうした取組がどれほど実施可能かは,外的な教育条件の整備状況に規定される側面も否定できません。

 条件整備のような支援もなしに,労力を要する取組を現場に求めるだけというのは,お上の責任放棄であると思います。自県のTP比やスクールカウンセラー配置率といった条件指標を勘案の上で,上記の試算データをご活用いただければと存じます。

2011年11月8日火曜日

いじめの摘発度

 文科省の『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』には,各年度間のいじめの件数が記載されています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016708

 しかるに,この資料に載っているのは,公的に認知されたいじめの件数であって,子どもたちの間で実際に起きたいじめの件数とイコールでないことは,いうまでもありません。いじめとは外部から見えにくいものである関係上,公的統計にはカウントされずに,闇へと葬られたいじめの数も,かなりの数にのぼることでしょう。いわゆる,暗数というやつです。

 いじめの真数に,もっと接近できる測度はないものでしょうか。当事者たる子どもたちの意識をフィルターにして考えてみましょう。

 文科省『全国学力・学習状況調査』では,対象の児童・生徒(小6,中3)に対し,「いじめは,どんな理由があってもいけないことだと思うか」と尋ねています。「そう思う」,「どちらかといえば,そう思う」,「どちらかといえば,そう思わない」,「そう思わない」,という選択肢から一つを選んでもらう形式です。

 2009年度調査の結果によると,最後の「そう思わない」を選んだ者の比率は,小6で1.3%,中3で2.4%となっています。
http://www.nier.go.jp/09chousakekkahoukoku/index.htm

 下表をご覧ください。aは,2009年度調査の上記設問に対し,「そう思わない」と答えた者の比率です。bは,文科省『学校基本調査』から分かる,同年5月1日時点の児童・生徒数です。aの比率をbに乗じれば,いじめを平然と容認する者の実数を割り出すことができます。


 表の右欄によると,いじめを容認する者の数は,小6で15,525人,中3で29,481人です。合算すると,45,006人となります。公的な認知件数よりも,この数のほうが,いじめの真数に近いものと思われます。少なくとも,子どもの世界で実際に起きるいじめの件数を近似的に表現する測度とみなす分には,問題はないでしょう。

 さて,今しがた明らかにした,いじめを容認する児童・生徒の数と,いじめの認知件数を照らし合わせることで,「いじめの摘発度」を計算することができます。学校当局のいじめ摘発(認知)活動を評価するための尺度です。

 冒頭の文科省資料の2009年度版によると,同年度中に全国の学校で認知されたいじめの件数は,小6では6,530件です。いじめを容認する小6の児童数は15,525人です(上表)。前者を後者で除すと,0.42となります。当該学年の場合,当局が認知したいじめの数は,いじめの仮真数の4割ほどに相当することになります。中3になると,この値は0.18に下がります。当局の統計は,仮真数の2割弱しか拾っていないことになります。


 いじめの摘発度は,学校の設置主体によっても違います。その数値は,国立や私立学校で低い傾向があります。中3でいうと,私立学校の認知件数142件は,仮真数(3,133件)の5%ほどしか掬っていないことになります。経営上,恥部を多くさらすのはマズイ,ということでしょうか。

 次回は,いじめの摘発度を都道府県別に明らかにしようと思います。結果を先取りしてコメントすると,いじめの摘発(認知)活動のがんばり具合には,とても大きな地域差があります。何と,上表のaの数がbを上回る県もあります。それはどこでしょう。お楽しみに。

2011年11月7日月曜日

博士号取得率②

 前々回の続きです。今回は,人文科学系,社会科学系,ならびに教育系の下位に位置する,学問専攻ごとの博士号取得率を出してみようと思います。

 ここでいう博士号取得率とは,①ある年度の博士課程入学者数と,②3年後の博士号所得者数を照合して算出するものです。具体的にいうと,②を①で除すことになります。単位は%です。①と②の数字は,文科省『学校基本調査(高等教育編)』から得ることができます。

 まずは,前々回と同様,1987年度入学者の学位取得率を出してみましょう。当該年度の文学専攻の博士課程入学者は390人です。3年後(1990年春)の文学専攻の博士課程修了者のうち,学位取得者数は26人です。よって,この専攻でいうと,1987年度入学者の学位取得率は26/390≒6.7%となります。およそ15人に1人。驚異的な低さです。

 なお,分子の学位取得者数には,1987年度よりも前の入学生も含まれますが,当該年度入学生からも,最短修業年限(3年)を超えた後に学位取得に至る者が同じくらい出るものと仮定します。

 では,人文系,社会系,および教育系を構成する9つの専攻について,1987年度入学者の学位取得率をみてみましょう。*この頃は,教員養成系の博士課程はまだありませんでしたので,当該専攻の欄はペンディングにしてあります。


 理系に近い性格を持つ体育学を除いて,学位取得率は軒並み10%台と低くなっています。この頃では,文系のどの専攻でも,博士号学位の授与基準がきわめて厳しかったことがうかがわれます。もっとも,院生の多くが,博士論文を在学中に認めようと考えてはいなかったものと思われます。単位取得満期退学→就職というコースが一般的であったのではないでしょうか。

 しかし,現在では状況は大きく様変わりしています。1987年度入学生と2007年度入学生の学位取得率を比較しましょう。この20年間の変化はドラスティックです。後者の率は,2010年春の学位取得者数を,2007年度入学者数で除した値です。


 かつては10%を割っていた文学専攻の学位取得率も,2007年度入学者ではほぼ4割にまで増えています。入学者の5人に2人が学位取得に至る,ということです。

 私は教員養成系の博士課程を出て学位を取りましたが,この専攻では,学位取得率が6割を超えます。むーん。高いですねえ。だから,私のような輩でも学位が取れたのかしらん。

 現在では,人文・社会科学系の博士課程に行っても,4~5割ほどの確率で博士号をゲットできます。オトクといえばオトクです。一昔前に博士課程で学んだ方々からすれば,憤りすら感じる状況になっているといえましょうか。

 ですが,学位を取りやすくなったといっても,その後の行き場がなくなっていることは周知のとおりです。食えなくなってもいい,世捨て人同然になってもいい。生涯,自分のテーマを追い求めていきたい。そういう気概のある方は,どうぞ,博士課程の門戸を叩いてください。

 私自身,もう一度20代前半の頃に返れるとしても,やはり博士課程に進学する道を選ぶつもりです。研究が好きですから。

2011年11月6日日曜日

高校無償化政策の効果

すみません。ちょっと話題を変えさせてください。11月5日の朝日新聞に,「経済的理由の私立高中退者,4割減:全国私教連調査」と題する記事が載っていました。
http://www.asahi.com/national/update/1104/TKY201111040603.html

 それによると,経済的理由で私立高校を中退した生徒の数が,9月時点でみて,昨年度よりも4割減ったとのことです。周知のとおり,2010年度から実施されている高校無償化政策の一環として,私立高校の授業料には国からの助成金が下りるようになっています。こうした政策の効果が表れてきた,ということでしょう。

 高校無償化政策のもう一つの目玉は,公立高校の授業料を無償(タダ)にすることです。そうである以上,公立高校の状況も気になります。また,政策が実施されたのは2010年度からですので,政策の実質的な効果をみるには,2009年度と2010年度の統計を比較するのがよいかと思います。

 文科省が毎年実施している『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』では,高校中退者の数が事由別に集計されています。経済的理由による高校中退者の実数と,経済的理由による中退者が中退者全体に占める比率の長期的な推移をとると,下図のようです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016708


 経済的理由による中退者の数は,1980年代にかけて減少し続けますが,平成不況に入った90年代半ばから上昇し,2000年に3,493人に達した後,減少に転じています。中退理由全体に占める経済的理由のウェイトも,似たような推移をたどっています。

 高校無償化政策が実施される前の2009年度と,それが実施された後の2010年度の数字を比べると,経済的理由による中退者の数は,1,647人から1,007人へと減っています。ほぼ4割の減です。経済的理由の比重も,2.9%から1.9%へと大きな減少をみせています。

 グラフをみても,2009年度から2010年度にかけての減少幅の大きさが見てとれます。高校無償化政策の実施は,それなりの効をもたらしたといってよいでしょう。

 次に,政策の実施前と実施後にかけての変化を,公立と私立に分けてみてみましょう。下の表をご覧ください。


 経済的理由による中退者は,公立では807人から498人へと減っています。私立では,840人から509人へと減っています。減少率は双方とも拮抗していて,ほぼ4割ほどです。

 経済的理由による中退者の具体的な状況をみると,公立では,授業料減免の対象となっていた者が242人から31人へと激減しています。授業料が無償となったことの影響でしょう。私立では,授業料の滞納者の減少率が大きいようです。国から就学支援金が出るようになったことで,学費の負担が緩和されたことが大きいと思われます。

 公立と私立に分けてみても,高校無償化政策の効果が看取されます。あと一つ検証してみたいのは,経済的理由による高校非進学が減少したか,ということです。4月30日の記事では,東京都内の高校非進学率の地域差が,教育扶助世帯率のそれとリンクしていることを明らかにしました(2009年度データ)。はて,このような現象が消失しているのかどうか。機会をみつけて,検証してみようと存じます。

*高校無償化政策は,意図せざる結果をもたらした側面もあります。2012年2月11日,12日の記事も参照いただけますと幸いです。

2011年11月5日土曜日

博士号取得率①

 仮に,あなたが(まかり間違って)大学院博士課程に進学した場合,どれほどの確率で博士号学位を取得できるのでしょう。この点を考えるには,ある年度の入学者の数と,3年後の学位取得者の数を照合してみる必要があります。これらの数字は,文科省の『学校基本調査(高等教育機関編)』から得ることができます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 まずは,時計の針を20年ちょっと戻して,1987年度入学者の学位取得率を明らかにしてみましょう。この頃は,博士課程に進学する者は多くはありませんでした。また,理系はいざ知らず,文系の博士号の授与基準は大変厳しく,学位取得に至る者はほんのわずかであったと思われます。

 1987年度の博士課程入学者は6,848人です。3年後の1990年3月の博士課程修了者のうち,博士号学位取得者は3,790人です。よって,1987年度の博士課程入学者の学位取得率は55.3%となります。半分ちょっとというところです。

 分子の3,790人には,87年度より前の入学者も含まれているでしょう。しかるに,87年度入学者からも,最短修業年限(3年)を超えた後に学位取得に至る者が同じくらい出るものと仮定します。*このような仮定は,浪人込の大学進学率を算出する際にも用いられています。

 この方法にて,1987年度入学者の学位取得率を各専攻について出すと,下表のようになります。


 理系の専攻では,学位取得率が半分を超えていますが,人文科学系,社会科学系,および教育系のそれは10%台と,すこぶる低くなっています。この頃はまだ,人文系の博士号=研究者としての集大成の証,というような意味合いが付与されていたのでしょう。

 しかるに,現在では状況はかなり変わっているものと思われます。大学院重点化政策により,博士課程入学者の数がかなり増えました。博士号取得者の絶対数が1990年代以降激増していることも,10月28日の記事でみたとおりです。

 2007年度の博士課程入学者は16,926人です。3年後の2010年春の博士課程修了者のうち,博士号学位取得者は11,807人です。後者を前者で除して,2007年度の入学者の学位取得率は69.8%となります。およそ7割。1987年度入学者の率よりも,14.4ポイント増しています。

 では,各専攻について,1987年度入学者と2007年度入学者の博士号取得率を比較してみましょう。下表をご覧ください。


 ほとんどの専攻において,博士号学位取得率が大幅に上昇しています。家政系は院生の数がかなり少ないので,数字が安定しないことに要注意です。

 2007年度入学者でみると,理学,工学,農学では,博士号取得率が8割を超えています。また,かつては学位取得が困難であった社会科学系や教育系でも,最近では,4割以上の確率で学位が取得できるようになっています。最難関の人文科学系でも,11.9%から38.3%へと,著しい伸びをみせています。

 いやはや,時代は変わったものです。しかるに,こうした変化には,無職博士問題という,重大な副作用が伴っていることを忘れるべきではありません。

 次回は,人文科学系,社会科学系,ならびに教育系という系列の下に位置する,細かい専攻学問別の博士号取得率を出してみようと思います。

 たとえば,人文科学系は,文学,史学,および哲学という細かい専攻から構成されます。こうした細かい専攻ごとに学位取得率を出すとどうでしょうか。哲学なんて,学位取得率が低そうだなあ。

2011年11月3日木曜日

子育てが大変な時期

 児童相談所という機関をご存じでしょうか。児童福祉に関する相談に応じ,必要に応じて,当該の児童や家庭に対し調査や指導を行う機関です。2011年7月1日時点でみて,全国に206あります。均すと,一つの県につき4~5というところです。

 2009年度の厚労省『福祉行政報告例』によると,同年度中に児童相談所に寄せられた相談の件数は368,539件だそうです。1997年度間では,326,515件でした。相談件数が増えていることが知られます。

 上記の厚労省の資料では,子どもの年齢別に相談件数が集計されています。2009年度に寄せられた相談のうち最も多いのは,14歳の子どもに関連する相談です。その数は24,989件で,全体の6.8%を占めています。14歳といったら,思春期の只中に位置する難しいお年頃です。それだけに,子育てにまつわる保護者の苦労や悩みも多い,ということでしょう。

 なお,一口に相談といっても,いろいろな事由があります。私は,①児童虐待,②障害,③非行,④性格行動,⑤不登校,⑥育児・躾,⑦いじめ,に関する相談の件数を,子どもの年齢別に明らかにしました。

 これらの事由に関連する相談件数は,どの年齢の子どもで多いのでしょう。まずは,7つの事由の相談件数を年齢別に累積した面グラフをご覧ください。


 7つの事由による相談件数の累積が2万件を超えるのは,3歳,5歳,13歳,および14歳です。奇しくも,発達心理学がいうところの,第一次反抗期と第二次反抗期に該当します。

 ちなみに,事由の内訳は,どの年齢でも障害が多くを占めるのですが,12~15歳あたりでは,非行,性格行動,ならびに不登校といった事由の比重も大きくなっています。児童虐待関連の相談は,低年齢の子どもで多いようです。

 次に,各事由の相談件数が年齢別にどう分布しているのかをみてみましょう。こうすることで,それぞれの年齢の子どもが抱える危機の様相が,よりいっそうはっきりします。私は,各事由の相談件数の年齢別構成比(%)を出し,年齢ごとのドットを折れ線で結んだグラフを描いてみました。


 非行に関する相談は,年齢別の偏りが大きく,13歳の件数だけで全体の3割が占められています。デンジャラス・エイジとでもいいましょうか,不登校,いじめ,および性格行動の件数のピークも,この年齢に位置しています。

 曲線の目立った山が他にないか探してみると,育児・躾関連の山が2歳にあります。この年齢の件数だけで,全体のほぼ2割が占められています。

 俯瞰していうと,子育てが大変な時期というのは,「2~5歳」の時期と,それから10年を経た「12~15歳」の時期といえましょうか。前者の時期では「育児・躾」関連,後者の時期では「問題行動」関連の苦労がついてまわります。

 この年齢のお子さんがいるご家庭は大変でしょうが,わが子だけが異常なのだと思わないでください。この時期の苦労は,多くの家庭が経験することです。危機はやがては過ぎ去り,再びやってきては,また過ぎ去る・・・。こうした長期的な展望を持つことが大切かと存じます。

 狭い生活世界で生きている個々人に俯瞰的な視野を与えてくれること。マクロな統計の効用は,こういう部分にあるものと思っています。

2011年11月1日火曜日

校内暴力の警察沙汰率

 やや古い記事ですが,2009年12月7日の朝日新聞に,「暴力への対応,警察頼り『問題なら通報』連携強める学校」と題する記事が載っています。生徒による暴力事件があったら,容赦なく警察にバンバン通報する学校が増えているそうです。
http://www.asahi.com/edu/tokuho/TKY200912070198.html

 人を殴る,校内の備品を壊すなどの行為は,傷害罪や器物損壊罪といった刑法犯に該当します。一般社会でこのようなことをしでかしたら,直ちに「御用」となるところです。よって,生徒に殴られた教員が電話にすがりつき,110番のダイヤルを回すというのは,しごく自然な行為です。

 しかるに,学校の生徒の場合,警察沙汰にされることは滅多になく,保護的・指導的な対応がとられることがほとんどです。学校とは教育機関である以上,生徒の問題行動への対処を100%警察任せにするというのは,ある意味,自らの責任の放棄であるといえます。警察依存の傾向が強まっていることに対し,「単に排除するために動いていないか」という自戒の声も出ているようです(前掲記事)。

 私は,ちょうど上記の新聞記事が出た頃,非常勤先の学生さんとトラブルを起こしたことがあります。授業態度が悪い学生を注意したところ,反抗的な態度をとってきたので,つい怒鳴りつけてしまいました。すると,当人は逆上し,席を立って,暴力行為スレスレの威嚇行為に出てきました。

 すっかり頭にきた私は,当該の学生の授業履修を拒否する旨,大学の事務係に通告しました。事務係による事実確認調査の後,課程の主任の先生も交えて,当該の学生の処分について協議する機会が設けられました。

 主任の先生はこうおっしゃいました。「舞田さん。『切る』のは簡単です。大切なのは,『育てる』ことではないのですか」。こう言われた時,私は,穴があったら入りたいような,とても恥ずかしい思いに駆られました。安易な解決手段に訴えようとしていたのだなあ,と心底反省しました。

 関係ない話をしてしまいましたが,警察が取り扱った校内暴力事件の数は,最近増えてきています。警察庁の『平成22年中における少年の補導および保護の概況』によると,警察沙汰になった校内暴力事件の数は,2001年では848件でしたが,2010年では1,211件となっています。対教師暴力事件は,同じ期間中に,470件から688件に増えています。
 http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/hodouhogo_gaiyou_H22.pdf

 でも,この期間中,学校で認知された校内暴力の数も増えてきていることでしょう。学校で認知された校内暴力事件のうち,どれほどが警察沙汰にされているのかに興味が持たれます。学校で認知された校内暴力事件の数は,文科省の『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』から知ることができます。警察が扱った事件の数は,上記の警察庁資料から得られます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016708

 後者を前者で除すと,校内暴力事件の警察沙汰率が算出されます。私は,2006年から2009年までの期間について,学校段階別に,校内暴力事件の警察沙汰率を明らかにしました。2010年の文科省統計には,東日本大震災に被災した地域の数字が含まれていないとのことなので,2009年までにしています。始点を2006年にしているのは,2005年までの文科省統計では,国立・私立学校のデータが含まれていないためです。


 2009年度間に,全国の中学校で認知された校内暴力の件数は39,382件です。2009年中に警察が取り扱った校内暴力事件の数は1,050件です。よって,中学校の場合,警察沙汰率は後者を前者で除して2.7%と算出されます。約37件に1件の割合です。警察沙汰率は,中学校で飛びぬけて高くなっています。

 なお,警察沙汰率は,表中の4年間で減少の傾向にあります。学校で認知された事件の数は増えているのですが,警察沙汰になる事件の数が減っているためです。はて,私がつくった統計では,冒頭の新聞記事がいう傾向と違っているようですが,これはいかに?

 ですが,校内暴力のうち,対教師暴力事件に限定すると,やや違った側面がみえてきます。


 対教師暴力事件の場合,警察沙汰率が跳ね上がります。2009年の中学校では10.1%,10件に1件です。中学校についていえば,警察沙汰になる事件の実数も増えてきています。校内暴力のうち,シリアスな部分については,冒頭の記事がいうように,警察依存の傾向が強まっているようです。

 しかるに,絶対水準でいうと,校内暴力事件の警察沙汰率は相当に低い,といってよいのではないでしょうか。アメリカでは,警察官が常駐しているハイスクールも少なくないといいますが,諸外国の数字に比したら,とても低い水準と判断されるのではないかしらん。

 極力,保護的・指導的な対応をとっておられる,学校の先生方のご努力に敬意を表します。私のように,単細胞で激しやすい人間だったら,どういうことになるやら・・・

 問題行動を起こす生徒に対しては,「毅然たる態度」で臨むことが必要といいますが,それは外部に丸投げすることでは決してないことを,私自身,肝に銘じたいと思います。