読売新聞教育取材班の『大学の実力2013』(中央公論新社)を入手しました。今年の夏に,同社が全国の大学を対象に実施した調査の結果が集録されています。
642大学ということは,本年5月時点の全大学数(783校)の82.0%がカバーされていることになります。読売新聞の大学調査の回答率は,年々上がってきているようですね。
さて中身はといえば,表紙にあるように,各大学の退学率,卒業率,および就職状況などが仔細に明らかにされています。昨年までのものと違う点は,学部別の数値が掲載されていることです。これはスゴイ。
また,卒業後の状況調査も,カテゴリーの区分けが細かくなっています。就職者については,正規,契約,そしてパート等の3者の組成が分かるようになっています。就職率というと,「どうせ,バイトとかも含むんでしょ」などと揶揄されることが多いのですが,この資料の数値を使えば,そういう疑問もはねのけることができます。こちらもスゴイ。
このデータを使えば,各大学の学部ごとに,正規就職率のような指標を計算できます。この資料の表紙に書かれているような,「偏差値によらない進路選びの新基準」としても参考になることでしょう。
これから,本資料の数値をエクセルに入力して,データベースを作っていこうと思います。しかし,分析の欲望を抑えられません。私が非常勤として勤務する武蔵野大学の6学部のデータだけを入力し,各々の卒業生の進路構成を明らかにしてみました。
①~③の数は,当該資料に掲載されているものです。④は,卒業生数からこれらの数を差し引いて出しました。カッコ内の数値は,卒業生数です。
ほう。武蔵野大学は,学部を問わず,正規就職率が7割を超えています。全体の中での位置はどうだか分かりませんが,健闘している部類に入るのではないでしょうか。薬学部と看護学部は,正規就職率が95%超!。ただ,文系の学部で,無業者率が2割近くになっていることにも注意しなければなりませんが。
さあ,642大学の各学部について同じ統計をつくったらどうでしょう。明の部分(正規就職率)に注目するのもよし。暗の部分(無業率)に注意するのもよし。これらの指標の分布が,設置主体(国公私)でどう違うか,偏差値でどう違うか,という興味ある分析も待っています。
データベースが完成するまで,しばしお待ちください。
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2012年9月30日日曜日
2012年9月29日土曜日
教員の授業スタイルの国際比較
国際学力調査PISA2009のデータセットづくりに勤しんでいます。9月21日の記事で申したように,学校質問紙調査のデータセットは,何とか完成しました。しかし,生徒質問紙調査については,一筋縄ではいきません。ケース数が膨大であるからです。
下記のOECDサイトからダウンロードしたテキスト形式の圧縮データを,エクセルに取り込むことができません。しからば,必要な設問のデータだけを取り込めないかと,いろいろ悪戦苦闘した結果,ようやくその方法をマスターしました。現在,対象生徒の出身階層,学校観,教師観,および教師の授業スタイルの設問のデータセットを作り終えたところです。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php
74か国,51万5,958人分のデータです。とうてい一つのファイルに収まりきりませんので,いくつかに分割しています。ともあれ,このような膨大な数のデータを,自分の関心に即して自由に分析できることに感激を覚えます。
早速,このお宝に手をつけてみましょう。今回は,各国の生徒が日頃受けている授業がどのようなものかをみてみようと思います。調査票のQ37(日本語版では問33)では,対象の生徒に対し,「国語の授業で,先生は次のようなことをどのくらいしますか」と問うています。調査対象の生徒は,15歳の高校1年生です。
いずれの項目も,生徒中心主義の進歩的な授業スタイルに関わるものです。よって,選択肢の数字は,各国の教員の授業スタイルがどれほど進歩的かどうかを測る尺度として使えます。
このように考えると,教員の授業スタイルの進歩度は,7点から28点までのスコアで計測されます。全部4を選ぶような,バリバリの進歩的授業を受けている生徒は28点となります。逆に,全部1に丸をつける(不幸な)生徒は7点となります。
PISA2009の対象となった生徒の目線から,各国の教員の授業スタイルを評価してみましょう。なお,いずれかの項目に無回答ないしは無効回答がある生徒は,スコアの算定ができないので,分析から除きます。下表は,74か国,38万1,849人のスコア分布です。
19点をピークとした,きれいな山型の分布です。私は,この分布を参考にして,調査対象の生徒を3群に分かちました。まず,17点までの者は,伝統的な授業を受けている群に括りました。以下,伝統群といいます。一方,21点以上の者は,進歩的な授業を受けている者とみなし,進歩群ということにします。18~20点の者は両者の中間ということで,中間群と命名します。
< >内の数値から分かるように,3群の量は均衡のとれたものになっています。では,国ごとに,この3群の分布がどう違うかをみていきましょう。まずは,日本を含む主要先進国,お隣の韓国,そして学力上位常連のフィンランドのデータをご覧に入れます。( )内の数字は,各国のサンプル数です。
悲しいかな,わが国では,進歩的な授業を受けていると評される生徒は,全体のたった4.1%しかいません。逆にいうと,全体の7割が,上記のスコアが18点未満の伝統群に括られます。
このような分布は,わが国に固有のものであるようです。他のいずれの国でも,進歩群の比率が日本よりも高くなっています。ドイツでは,15歳の生徒の約半分が,進歩的な国語の授業を受けていると判断されます。ただ,学力上位のフィンランドにおいて,この群の比率が国際的な平均水準(3割)よりも少ないことはちょっと意外です。
以上は7か国のデータですが,残りの67か国では,3つの群の分布はどうなっているのでしょう。74本もの帯グラフを描くのは煩雑ですので,簡素な表現方法をとります。横軸に伝統群,縦軸に進歩群の比率をとったマトリクス上に,74か国をプロットした図をつくりました。これでもって,各国の教員の授業スタイルの進歩性を読み取っていただければと存じます。
図の見方はお分かりかと存じます。左上にあるのは,進歩群の比率が高く,伝統群の比率が低い国です。つまり,進歩的な授業を行っている教員が多い国と解されます。右下に位置する国は,その逆です。斜線は均等線であり,この上に位置するのは,伝統群よりも進歩群が多いことを示唆します。
ほう。わが国は,右下の極地にあります。教員の授業スタイルの進歩度が,74か国で最も低いことが知られます。それもそのはず。伝統群が73%,進歩群が4%という結果ですから。
一方,対極の左上には,ハンガリーやポーランドといった東欧の国が多く位置しています。ハンガリーでは,全生徒の6割が進歩的な授業を受けていると評されます。これはスゴイ。ドイツは,これらの東欧諸国の群に近い位置にあります。他の先進諸国は,おおよそ中間の位置です。
わが国の好ましくない状況が浮き彫りになったのですが,上記の7つの項目だけでもって,授業の進歩性を測ることは乱暴であることは分かっています。何をもって進歩性というのかと問われたら,返答に窮します。ですが,生徒に考えさせる,実生活との関連を分からせるというような項目への生徒の反応は,一つの目安にはなると思います。
教授のスタイルというのは,知識をひたすらつぎ込む注入主義と,考える力のような,子どもの諸能力の開発に重点を置く開発主義の2つに分かれます。どちらがよい,悪いという話ではなく,双方のバランスが重要なのですが,日本の場合,前者に明らかに偏していることが示唆されます。是正が要請されるところです。
ただ,ここでみたのは高校生のデータであることに注意しなければなりません。大学進学規範の強いわが国では,高校段階では,受験向けの授業の比重が殊に高くなる傾向にあります。検討する手筈はありませんが,小・中学生でみたら,また違う結果になるかもしれません。いや,そうであってほしいものです。
では,この辺りで。季節の変わり目です。体調管理にご注意ください。
下記のOECDサイトからダウンロードしたテキスト形式の圧縮データを,エクセルに取り込むことができません。しからば,必要な設問のデータだけを取り込めないかと,いろいろ悪戦苦闘した結果,ようやくその方法をマスターしました。現在,対象生徒の出身階層,学校観,教師観,および教師の授業スタイルの設問のデータセットを作り終えたところです。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php
74か国,51万5,958人分のデータです。とうてい一つのファイルに収まりきりませんので,いくつかに分割しています。ともあれ,このような膨大な数のデータを,自分の関心に即して自由に分析できることに感激を覚えます。
早速,このお宝に手をつけてみましょう。今回は,各国の生徒が日頃受けている授業がどのようなものかをみてみようと思います。調査票のQ37(日本語版では問33)では,対象の生徒に対し,「国語の授業で,先生は次のようなことをどのくらいしますか」と問うています。調査対象の生徒は,15歳の高校1年生です。
いずれの項目も,生徒中心主義の進歩的な授業スタイルに関わるものです。よって,選択肢の数字は,各国の教員の授業スタイルがどれほど進歩的かどうかを測る尺度として使えます。
このように考えると,教員の授業スタイルの進歩度は,7点から28点までのスコアで計測されます。全部4を選ぶような,バリバリの進歩的授業を受けている生徒は28点となります。逆に,全部1に丸をつける(不幸な)生徒は7点となります。
PISA2009の対象となった生徒の目線から,各国の教員の授業スタイルを評価してみましょう。なお,いずれかの項目に無回答ないしは無効回答がある生徒は,スコアの算定ができないので,分析から除きます。下表は,74か国,38万1,849人のスコア分布です。
19点をピークとした,きれいな山型の分布です。私は,この分布を参考にして,調査対象の生徒を3群に分かちました。まず,17点までの者は,伝統的な授業を受けている群に括りました。以下,伝統群といいます。一方,21点以上の者は,進歩的な授業を受けている者とみなし,進歩群ということにします。18~20点の者は両者の中間ということで,中間群と命名します。
< >内の数値から分かるように,3群の量は均衡のとれたものになっています。では,国ごとに,この3群の分布がどう違うかをみていきましょう。まずは,日本を含む主要先進国,お隣の韓国,そして学力上位常連のフィンランドのデータをご覧に入れます。( )内の数字は,各国のサンプル数です。
悲しいかな,わが国では,進歩的な授業を受けていると評される生徒は,全体のたった4.1%しかいません。逆にいうと,全体の7割が,上記のスコアが18点未満の伝統群に括られます。
このような分布は,わが国に固有のものであるようです。他のいずれの国でも,進歩群の比率が日本よりも高くなっています。ドイツでは,15歳の生徒の約半分が,進歩的な国語の授業を受けていると判断されます。ただ,学力上位のフィンランドにおいて,この群の比率が国際的な平均水準(3割)よりも少ないことはちょっと意外です。
以上は7か国のデータですが,残りの67か国では,3つの群の分布はどうなっているのでしょう。74本もの帯グラフを描くのは煩雑ですので,簡素な表現方法をとります。横軸に伝統群,縦軸に進歩群の比率をとったマトリクス上に,74か国をプロットした図をつくりました。これでもって,各国の教員の授業スタイルの進歩性を読み取っていただければと存じます。
図の見方はお分かりかと存じます。左上にあるのは,進歩群の比率が高く,伝統群の比率が低い国です。つまり,進歩的な授業を行っている教員が多い国と解されます。右下に位置する国は,その逆です。斜線は均等線であり,この上に位置するのは,伝統群よりも進歩群が多いことを示唆します。
ほう。わが国は,右下の極地にあります。教員の授業スタイルの進歩度が,74か国で最も低いことが知られます。それもそのはず。伝統群が73%,進歩群が4%という結果ですから。
一方,対極の左上には,ハンガリーやポーランドといった東欧の国が多く位置しています。ハンガリーでは,全生徒の6割が進歩的な授業を受けていると評されます。これはスゴイ。ドイツは,これらの東欧諸国の群に近い位置にあります。他の先進諸国は,おおよそ中間の位置です。
わが国の好ましくない状況が浮き彫りになったのですが,上記の7つの項目だけでもって,授業の進歩性を測ることは乱暴であることは分かっています。何をもって進歩性というのかと問われたら,返答に窮します。ですが,生徒に考えさせる,実生活との関連を分からせるというような項目への生徒の反応は,一つの目安にはなると思います。
教授のスタイルというのは,知識をひたすらつぎ込む注入主義と,考える力のような,子どもの諸能力の開発に重点を置く開発主義の2つに分かれます。どちらがよい,悪いという話ではなく,双方のバランスが重要なのですが,日本の場合,前者に明らかに偏していることが示唆されます。是正が要請されるところです。
ただ,ここでみたのは高校生のデータであることに注意しなければなりません。大学進学規範の強いわが国では,高校段階では,受験向けの授業の比重が殊に高くなる傾向にあります。検討する手筈はありませんが,小・中学生でみたら,また違う結果になるかもしれません。いや,そうであってほしいものです。
では,この辺りで。季節の変わり目です。体調管理にご注意ください。
2012年9月27日木曜日
高校のタイプ別にみた問題学校の出現率
9月21日の記事で申しましたが,PISA2009の学校質問紙調査のローデータを,エクセルファイルに取り込むことに成功しました。下記サイトからテキスト形式の圧縮データをダウンロードし,エクセルに取り込んだものです。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php
74か国,18,641校分の回答データを,自分の問題関心に即して,自由に分析することができます。今回やろうとしているこは,記事のタイトルに言い表されています。一定の手続きで「問題学校」を検出し,その出現頻度が,進学校,非進学校というような高校タイプとどう関連しているのかを明らかにしようと思います。
ここでいう問題学校とは,反学校的な文化が蔓延している学校のことです。PISAの調査対象は15歳の生徒です。よって,学校質問紙調査の対象となっているのは,高等学校ということになりますが,わが国の高校は,有名大学への進学可能性に依拠して,明にも暗にも序列づけられている側面があります。そして,こうした階層的構造の中で下位に位置する高校ほど,上でいうような反学校的な文化が蔓延しているといわれます。この点に関する実証研究として,渡部真「高校間格差と生徒の非行的文化」『犯罪社会学研究』第7号(1982年)などがあります。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002779743
私はここにて,このような病理的ともいえる分化(segregation)が,国際的にて普遍なものであるかどうかを検討してみようと思います。9月21日の記事では,非進学校よりも進学校において,教員への敬意の度合いが低い国があることを知りました。わが国の常識は,国際比較によって相対化してみる余地がありそうです。
PISA2009の学校質問紙調査には,調査対象校の雰囲気(クライメイト)を明らかにする設問が盛られています。その中から,生徒の反学校文化の程度を測るのに使えそうなものを拾ってみました。
7つの項目について,4段階で答えてもらっています。上記の数字をスコアに見立てると,各学校の反学校文化の蔓延度は,7点~28点までのスコアで計測されることになります。全部1に丸をつける超優良校は7点,全部4を選ぶ超問題校は28点です。
なお,7つの項目のうち,1つでも無回答ないしは無効回答がある学校は,スコアを正確に算定できないので,分析から除きます。このようなセレクトを経て,合計17,918校の反学校スコアを計算し,分布をとってみました。下表をご覧ください。
14点をピークとした分布ができています。まあ,こんなものでしょう。私は,この分布に依拠して,表中の17,918校を3つの群に分けました。具体的には,7~11点までを「優良校」,12~16点を「普通校,17点以上を「問題校」としました。これによると,配分比は順に,26.4%,49.0%,24.7%というように,バランスのよいものになります。「1:2:1」です。
日本の場合,ここでの分析対象は184校ですが,このうち,上記の基準によって問題学校と判定されるのは23校です。比率にすると12.5%であり,全体でみた出現率よりも低くなっています。アメリカなどは,161校のうち44校(27.3%)が問題校と判定されます。南米のブラジルは39.1%,最も高いトルコに至っては,77.8%が問題学校と評されます。
さて,ここでの課題は,このような問題学校の出現率が,進学校や非進学校というような高校のタイプ間でどう変異するかを明らかにすることです。高校のタイプ分けは,学校に対する保護者の進学期待を問うた設問への回答に基づきました。この設問で提示されている選択肢は,以下の3つです。
①:本校が非常に高い学業水準を設定し,生徒にこれに見合った高い学力をつけさせていくことを期待する圧力を多くの保護者から受けている。
②:生徒の学力水準を高めていくことを本校に期待する圧力を,少数の保護者から受けている。
③:生徒の学力水準を高めていくことを本校に期待する圧力を,保護者から受けることはほとんどない。
①を選んだ学校を「進学校」,②を選んだ学校を「準進学校」,③を選んだ学校を「非進学校」といたしましょう。これによると,日本の184校は,進学校54校,準進学校90校,非進学校40校というように分かたれます。きれいな分布です。
それでは,この3つのタイプごとに,先ほど明らかにした3群(優良,普通,問題)の分布を出してみましょう。下図は,わが国と中央アジアのキリジスタンの結果を図示したものです。
黒色は,反学校スコアが17点を超える問題学校のシェアを表します。日本の場合,予想通り,問題学校の出現率は非進学校で最も大きくなっています。非進学校では,全体の17.5%が問題校です。一方,進学校ではこの率はわずか1.7%です。逆をみると,このグループでは全体の6割が優良校なり。わが国では,大学進学という点からした階層構造上の位置と,各学校の荒れの程度が相関しています。
しかるに,右側のキリジスタンをみると,この国では,様相が真逆になっています。非進学校よりも準進学校,準進学校よりも進学校において,荒れている学校が多い傾向です。何かの間違いではないかと思い,何度か見直しましたが,やはりこうなります。この国では,進学,進学とせき立てるような学校は,生徒の反感を買う,ということでしょうか。
さて,今みたのは2国ですが,他国はどうなのでしょう。キリジスタンのような,わが国の常識を相対視させてくれるケースは,どれほどあるのでしょうか。結果をコンパクトな形でご覧に入れましょう。
私は,各国の進学校群と非進学校群について,問題学校の出現率を計算しました。日本の場合は,上述のように,進学校では1.9%,非進学校では17.5%です。ただし,いずれかの群のサンプル数が20校に満たない国は,分析の対象から外しました。
下図は,横軸に進学校群,縦軸に非進学校群での出現率をとった座標上に,44か国をプロットしたものです。日本(1.9%,17.5%)の位置に注意ください。
図中の実線(Y=X)は均等線です。この線よりも下にある場合,非進学校よりも進学校において,荒れた問題学校の出現率が高いことになります。ほう。上でみたキリジスタンを含む5か国が,こうしたケースに該当します。旧ソ連と関連が深い3国,東南アジアのタイ,そしてヨーロッパのスイスです。
一方,他の39か国は,非進学校のほうが,問題学校の出現率が高くなっています。でも,その程度はまちまちです。Y=5Xよりも上方にある国は,5倍以上の差があることを意味します。日本のほか,イギリス,チェコ,ハンガリーが相当します。
チェコでは,問題学校の比率は進学校では6.0%ですが,非進学校では52.0%にもなります。すさまじい差です。この国では,わが国以上に,大学進学規範に由来する高校格差が大きいものと解されます。
それぞれの国の個別事情をお話することは,私の力量にあまります。ただ,大学進学可能性という点からした高校格差構造と逸脱文化の関連の仕方には,国際的なヴァリエイションがあることをお知りいただければと存じます。教育現象の社会的規定性とは,こういうことをいうのだろうなあ。
わが国でみられる現象は,普遍的なものではないようです。それは,高校格差と逸脱文化の関連の仕方に限ったことではありますまい。時代比較や国際比較によって,今のこの国の常識を相対視することは,「こうでなければいけない,こうあるはずだ」という思い込みから解き放たれるための道筋を提供してくれます。
「子どもは学校に行くべきだ」という,わが国では決して疑われることのないテーゼだって,相対化される余地を多分に秘めています。それをすることが,窮屈な思い込みから解放されて楽になることへの道筋であるといえないでしょうか。
悩んでいる人への定番の助言形式として,「ああいう人だっているよ」というものがあります。悩みを抱えた人というのは,たいてい,思い込みにかられたり視野狭窄に陥ったりしているものですが,そのような状態から脱却させるための言葉かけです。
ここでいう「人」を「社会」に変えたらどうでしょう。凝り固まった社会に新風を吹き込むには,「ああいう社会だってあるよ」という事実(データ)をできるだけ多く示すことがよいと思います。教育社会学の役割って,そういうところにもあるのではないかと考えています。
後期の授業が始まりました。教育社会学の初回の講義では,学生さんにこういうことをお話しした次第です。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php
74か国,18,641校分の回答データを,自分の問題関心に即して,自由に分析することができます。今回やろうとしているこは,記事のタイトルに言い表されています。一定の手続きで「問題学校」を検出し,その出現頻度が,進学校,非進学校というような高校タイプとどう関連しているのかを明らかにしようと思います。
ここでいう問題学校とは,反学校的な文化が蔓延している学校のことです。PISAの調査対象は15歳の生徒です。よって,学校質問紙調査の対象となっているのは,高等学校ということになりますが,わが国の高校は,有名大学への進学可能性に依拠して,明にも暗にも序列づけられている側面があります。そして,こうした階層的構造の中で下位に位置する高校ほど,上でいうような反学校的な文化が蔓延しているといわれます。この点に関する実証研究として,渡部真「高校間格差と生徒の非行的文化」『犯罪社会学研究』第7号(1982年)などがあります。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002779743
私はここにて,このような病理的ともいえる分化(segregation)が,国際的にて普遍なものであるかどうかを検討してみようと思います。9月21日の記事では,非進学校よりも進学校において,教員への敬意の度合いが低い国があることを知りました。わが国の常識は,国際比較によって相対化してみる余地がありそうです。
PISA2009の学校質問紙調査には,調査対象校の雰囲気(クライメイト)を明らかにする設問が盛られています。その中から,生徒の反学校文化の程度を測るのに使えそうなものを拾ってみました。
7つの項目について,4段階で答えてもらっています。上記の数字をスコアに見立てると,各学校の反学校文化の蔓延度は,7点~28点までのスコアで計測されることになります。全部1に丸をつける超優良校は7点,全部4を選ぶ超問題校は28点です。
なお,7つの項目のうち,1つでも無回答ないしは無効回答がある学校は,スコアを正確に算定できないので,分析から除きます。このようなセレクトを経て,合計17,918校の反学校スコアを計算し,分布をとってみました。下表をご覧ください。
14点をピークとした分布ができています。まあ,こんなものでしょう。私は,この分布に依拠して,表中の17,918校を3つの群に分けました。具体的には,7~11点までを「優良校」,12~16点を「普通校,17点以上を「問題校」としました。これによると,配分比は順に,26.4%,49.0%,24.7%というように,バランスのよいものになります。「1:2:1」です。
日本の場合,ここでの分析対象は184校ですが,このうち,上記の基準によって問題学校と判定されるのは23校です。比率にすると12.5%であり,全体でみた出現率よりも低くなっています。アメリカなどは,161校のうち44校(27.3%)が問題校と判定されます。南米のブラジルは39.1%,最も高いトルコに至っては,77.8%が問題学校と評されます。
さて,ここでの課題は,このような問題学校の出現率が,進学校や非進学校というような高校のタイプ間でどう変異するかを明らかにすることです。高校のタイプ分けは,学校に対する保護者の進学期待を問うた設問への回答に基づきました。この設問で提示されている選択肢は,以下の3つです。
①:本校が非常に高い学業水準を設定し,生徒にこれに見合った高い学力をつけさせていくことを期待する圧力を多くの保護者から受けている。
②:生徒の学力水準を高めていくことを本校に期待する圧力を,少数の保護者から受けている。
③:生徒の学力水準を高めていくことを本校に期待する圧力を,保護者から受けることはほとんどない。
①を選んだ学校を「進学校」,②を選んだ学校を「準進学校」,③を選んだ学校を「非進学校」といたしましょう。これによると,日本の184校は,進学校54校,準進学校90校,非進学校40校というように分かたれます。きれいな分布です。
それでは,この3つのタイプごとに,先ほど明らかにした3群(優良,普通,問題)の分布を出してみましょう。下図は,わが国と中央アジアのキリジスタンの結果を図示したものです。
黒色は,反学校スコアが17点を超える問題学校のシェアを表します。日本の場合,予想通り,問題学校の出現率は非進学校で最も大きくなっています。非進学校では,全体の17.5%が問題校です。一方,進学校ではこの率はわずか1.7%です。逆をみると,このグループでは全体の6割が優良校なり。わが国では,大学進学という点からした階層構造上の位置と,各学校の荒れの程度が相関しています。
しかるに,右側のキリジスタンをみると,この国では,様相が真逆になっています。非進学校よりも準進学校,準進学校よりも進学校において,荒れている学校が多い傾向です。何かの間違いではないかと思い,何度か見直しましたが,やはりこうなります。この国では,進学,進学とせき立てるような学校は,生徒の反感を買う,ということでしょうか。
さて,今みたのは2国ですが,他国はどうなのでしょう。キリジスタンのような,わが国の常識を相対視させてくれるケースは,どれほどあるのでしょうか。結果をコンパクトな形でご覧に入れましょう。
私は,各国の進学校群と非進学校群について,問題学校の出現率を計算しました。日本の場合は,上述のように,進学校では1.9%,非進学校では17.5%です。ただし,いずれかの群のサンプル数が20校に満たない国は,分析の対象から外しました。
下図は,横軸に進学校群,縦軸に非進学校群での出現率をとった座標上に,44か国をプロットしたものです。日本(1.9%,17.5%)の位置に注意ください。
図中の実線(Y=X)は均等線です。この線よりも下にある場合,非進学校よりも進学校において,荒れた問題学校の出現率が高いことになります。ほう。上でみたキリジスタンを含む5か国が,こうしたケースに該当します。旧ソ連と関連が深い3国,東南アジアのタイ,そしてヨーロッパのスイスです。
一方,他の39か国は,非進学校のほうが,問題学校の出現率が高くなっています。でも,その程度はまちまちです。Y=5Xよりも上方にある国は,5倍以上の差があることを意味します。日本のほか,イギリス,チェコ,ハンガリーが相当します。
チェコでは,問題学校の比率は進学校では6.0%ですが,非進学校では52.0%にもなります。すさまじい差です。この国では,わが国以上に,大学進学規範に由来する高校格差が大きいものと解されます。
それぞれの国の個別事情をお話することは,私の力量にあまります。ただ,大学進学可能性という点からした高校格差構造と逸脱文化の関連の仕方には,国際的なヴァリエイションがあることをお知りいただければと存じます。教育現象の社会的規定性とは,こういうことをいうのだろうなあ。
わが国でみられる現象は,普遍的なものではないようです。それは,高校格差と逸脱文化の関連の仕方に限ったことではありますまい。時代比較や国際比較によって,今のこの国の常識を相対視することは,「こうでなければいけない,こうあるはずだ」という思い込みから解き放たれるための道筋を提供してくれます。
「子どもは学校に行くべきだ」という,わが国では決して疑われることのないテーゼだって,相対化される余地を多分に秘めています。それをすることが,窮屈な思い込みから解放されて楽になることへの道筋であるといえないでしょうか。
悩んでいる人への定番の助言形式として,「ああいう人だっているよ」というものがあります。悩みを抱えた人というのは,たいてい,思い込みにかられたり視野狭窄に陥ったりしているものですが,そのような状態から脱却させるための言葉かけです。
ここでいう「人」を「社会」に変えたらどうでしょう。凝り固まった社会に新風を吹き込むには,「ああいう社会だってあるよ」という事実(データ)をできるだけ多く示すことがよいと思います。教育社会学の役割って,そういうところにもあるのではないかと考えています。
後期の授業が始まりました。教育社会学の初回の講義では,学生さんにこういうことをお話しした次第です。
2012年9月25日火曜日
専攻別にみた大学教員の構成変化
「就職決まった?」
「うん,決まった」
「なにそれ,正規?」
「うん,正規」
「おー!」
学生さんの間で,こういう会話が交わされるのをよく耳にします。いつからか,われわれは,正規就業か非正規就業かという区分に,とてもセンシティヴになっています。
それもそのはず。現在では,働く人間の4人に1人が,ハケンやバイトといった非正規就業です。新卒年齢の20代前半では,この比率は約4割にもなります(2010年の『国勢調査』より計算)。また,正規と非正規の間には,給与等の就労条件に歴然たる格差が横たわっていることもよく知られています。
「正規ですか,非正規ですか?」。この問いの根底には,前近代社会において,相手の身分を尋ねる時にも似た思惑があることが少なくありません。そして,返ってくる答え次第で,相手に対する態度をガラッと変えてしまう・・・。悲しいことです。
さて,大学教員などは,非正規の比重が高いとともに,正規と非正規の間に「身分格差」とでも呼べるような,大きな溝がある職業集団の典型といえましょう。
2010年の文科省『学校教員統計調査』をもとに,同年10月1日時点の大学教員の構成を明らかにしてみましょう。それによると,大学に正規に属する本務教員は172,728人です(①)。授業をするためだけに雇われている兼務教員(以下,非常勤教員)は202,294人です。この中には,大学の本務教員が他校に出校しているケースが含まれますので,それを除くと149,573人となります。
この149,573人は,作家や研究所勤務など,本職の傍らで教鞭をとっている「定職あり非常勤教員」と,それがなく,薄給の非常勤講師をメインとして生計を立てている「定職なし非常勤教員」に分かれます。数でいうと,前者が66,729人(②),後者が82,844人(③)なり。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
広義の大学教員は,上記の①~③の成分から構成されると考えられます。この3つの構成を百分率で表すと,下表のようです。比較の対象として,1989年(平成元年)の数値も添えています。
現在では,大学教員の約半分が非正規であり,4人に1人が職なし非常勤教員です。20年前とは,構成が様変わりしています。本務教員の減少,職なし非常勤教員の増加です。後者の比率は,9.0%から25.7%まで増えました。
1991年以降実施された大学院重点化政策の影響が大きいことでしょう。この点については,4月2日の記事で書きましたので,ここにて詳しくは申しません。また,職なし非常勤教員の待遇の劣悪さ,悲惨さについては,下記のJcastニュース記事をご覧いただければと存じます。
http://www.j-cast.com/2009/05/06040504.html?p=all
このような輩が大学教育の4分の1を担っていることは問題を含んでいると思いますが,それへの言及は後にして,もう少し分析を掘り下げてみましょう。上表のような大学教員の構成は,文系と理系ではかなり違うのではないかと思われます。私は,10の専攻系列について,同じ統計をつくってみました。
結果を一覧表ないしはベタな帯グラフで示すというのは芸がないので,表現上の工夫を試みました。横軸に本務教員,縦軸に職なし非常勤教員の比率をとった座標上に,各専攻系列の2時点の数値を位置づけ,線でつないでみました。矢印の始点(しっぽ)は1989年,終点は2010年の位置を表します。
全ての専攻が,右下から左上ゾーンへと動いています。まるで,鮭(サケ)の川上りです。このことの意味はお分かりかと思います。専攻を問わず,本務教員率の減少,職なし非常勤教員率の増加がみられる,ということです。
こうした変化が最も顕著なのは,赤色の人文科学系です。この20年間で,本務教員の率は51.9%から34.3%へと減り,代わって,職なし非常勤教員の比重が21.6%から55.1%へと激増しました。この専攻では,教壇に立つ大学教員の半分以上が,不安定な生活にあえぐ職なし非常勤教員です。
図の点線は均等線であり,この線よりも上にある場合,本務教員よりも職なし非常勤教員のほうが多いことを意味します。言葉がよくないですが,人文科学系と芸術系は,この「三途の川」を渡ってしまっています。私が出た教育系は,あとちょっとというところです。今度,『学校教員統計調査』が実施されるのは来年(2013年)ですが,どういう事態になっていることやら。おそらく,上図のような「恐怖の川上り」がますます進行していることでしょう。
「先生,質問があるんですけど,後で研究室に行っていいですか?」
「いや,私は非常勤だから・・・」
「じゃあ,ここで聞いていいですか?」
「いや,ちょっとゴメン。時間ないんだわ。もう別のとこ(大学)行かないと・・・」
これから先,各地の大学において,こういうやり取りが交わされる頻度が増していくことと思われます。学生さんの側にすれば,1度や2度ならまだしも,何度も何度もこのような(拒絶)反応を示された場合,勉学意欲も萎えてくることでしょう。「なに,この大学?先生は,みんなバイト??」
一方,職なし非常勤教員の側はというと,待遇の悪さに不満を高じさせ,投げやりな態度で授業を行っている輩もいます。事実,非常勤教員組合のアンケートの自由記述をみると,「専任との給与差を考慮して,質の低い授業を提供すべきと考えてしまう」,「もらえる分だけしか働きたくない」,「誰でも代わりがいる捨て駒と扱われていることが分かったので,熱意が大きく削がれた」というような記述が多々みられます。
http://www.hijokin.org/en2007/6.html
人件費の節約のため,多くの授業を職なし非常勤教員に外注している大学において,この手の輩が多いとしたら,空恐ろしい思いがします。まさに,「大学崩壊」です。
8月28日に,中教審は「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」と題する答申を出しました。そこでは,学士課程教育の質的転換の必要がいわれ,教育充実に向けたさまざまな方策が提示されています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm
しかるに,上図のような「川上り」現象を眺めると,どれも空々しいものに聞こえます。滑稽なのは,ここでみたような,教員の「非正規化」の問題について一言も触れられていないことです。職なし非常勤教員が全体の半分,7割,8割を占めるような大学で,「学士課程教育の質的転換」ができるかどうかは,甚だ疑問です。
あと一点。5月7日の記事では,大学教員社会のジニ係数を計算したのですが,悲観モデルを採用すると,私立大学のジニ係数は,暴動が起きかねない危険水準(0.4)の一歩手前です。2013年の『学校教員統計調査』からはじき出される係数値は,おそらくこのデッドラインを超えていることでしょう。上図のような「川上り」現象を放置することは,大学の維持存続そのものを脅かす可能性があることを,最後に申し添えたいと存じます。
「うん,決まった」
「なにそれ,正規?」
「うん,正規」
「おー!」
学生さんの間で,こういう会話が交わされるのをよく耳にします。いつからか,われわれは,正規就業か非正規就業かという区分に,とてもセンシティヴになっています。
それもそのはず。現在では,働く人間の4人に1人が,ハケンやバイトといった非正規就業です。新卒年齢の20代前半では,この比率は約4割にもなります(2010年の『国勢調査』より計算)。また,正規と非正規の間には,給与等の就労条件に歴然たる格差が横たわっていることもよく知られています。
「正規ですか,非正規ですか?」。この問いの根底には,前近代社会において,相手の身分を尋ねる時にも似た思惑があることが少なくありません。そして,返ってくる答え次第で,相手に対する態度をガラッと変えてしまう・・・。悲しいことです。
さて,大学教員などは,非正規の比重が高いとともに,正規と非正規の間に「身分格差」とでも呼べるような,大きな溝がある職業集団の典型といえましょう。
2010年の文科省『学校教員統計調査』をもとに,同年10月1日時点の大学教員の構成を明らかにしてみましょう。それによると,大学に正規に属する本務教員は172,728人です(①)。授業をするためだけに雇われている兼務教員(以下,非常勤教員)は202,294人です。この中には,大学の本務教員が他校に出校しているケースが含まれますので,それを除くと149,573人となります。
この149,573人は,作家や研究所勤務など,本職の傍らで教鞭をとっている「定職あり非常勤教員」と,それがなく,薄給の非常勤講師をメインとして生計を立てている「定職なし非常勤教員」に分かれます。数でいうと,前者が66,729人(②),後者が82,844人(③)なり。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
広義の大学教員は,上記の①~③の成分から構成されると考えられます。この3つの構成を百分率で表すと,下表のようです。比較の対象として,1989年(平成元年)の数値も添えています。
現在では,大学教員の約半分が非正規であり,4人に1人が職なし非常勤教員です。20年前とは,構成が様変わりしています。本務教員の減少,職なし非常勤教員の増加です。後者の比率は,9.0%から25.7%まで増えました。
1991年以降実施された大学院重点化政策の影響が大きいことでしょう。この点については,4月2日の記事で書きましたので,ここにて詳しくは申しません。また,職なし非常勤教員の待遇の劣悪さ,悲惨さについては,下記のJcastニュース記事をご覧いただければと存じます。
http://www.j-cast.com/2009/05/06040504.html?p=all
このような輩が大学教育の4分の1を担っていることは問題を含んでいると思いますが,それへの言及は後にして,もう少し分析を掘り下げてみましょう。上表のような大学教員の構成は,文系と理系ではかなり違うのではないかと思われます。私は,10の専攻系列について,同じ統計をつくってみました。
結果を一覧表ないしはベタな帯グラフで示すというのは芸がないので,表現上の工夫を試みました。横軸に本務教員,縦軸に職なし非常勤教員の比率をとった座標上に,各専攻系列の2時点の数値を位置づけ,線でつないでみました。矢印の始点(しっぽ)は1989年,終点は2010年の位置を表します。
全ての専攻が,右下から左上ゾーンへと動いています。まるで,鮭(サケ)の川上りです。このことの意味はお分かりかと思います。専攻を問わず,本務教員率の減少,職なし非常勤教員率の増加がみられる,ということです。
こうした変化が最も顕著なのは,赤色の人文科学系です。この20年間で,本務教員の率は51.9%から34.3%へと減り,代わって,職なし非常勤教員の比重が21.6%から55.1%へと激増しました。この専攻では,教壇に立つ大学教員の半分以上が,不安定な生活にあえぐ職なし非常勤教員です。
図の点線は均等線であり,この線よりも上にある場合,本務教員よりも職なし非常勤教員のほうが多いことを意味します。言葉がよくないですが,人文科学系と芸術系は,この「三途の川」を渡ってしまっています。私が出た教育系は,あとちょっとというところです。今度,『学校教員統計調査』が実施されるのは来年(2013年)ですが,どういう事態になっていることやら。おそらく,上図のような「恐怖の川上り」がますます進行していることでしょう。
「先生,質問があるんですけど,後で研究室に行っていいですか?」
「いや,私は非常勤だから・・・」
「じゃあ,ここで聞いていいですか?」
「いや,ちょっとゴメン。時間ないんだわ。もう別のとこ(大学)行かないと・・・」
これから先,各地の大学において,こういうやり取りが交わされる頻度が増していくことと思われます。学生さんの側にすれば,1度や2度ならまだしも,何度も何度もこのような(拒絶)反応を示された場合,勉学意欲も萎えてくることでしょう。「なに,この大学?先生は,みんなバイト??」
一方,職なし非常勤教員の側はというと,待遇の悪さに不満を高じさせ,投げやりな態度で授業を行っている輩もいます。事実,非常勤教員組合のアンケートの自由記述をみると,「専任との給与差を考慮して,質の低い授業を提供すべきと考えてしまう」,「もらえる分だけしか働きたくない」,「誰でも代わりがいる捨て駒と扱われていることが分かったので,熱意が大きく削がれた」というような記述が多々みられます。
http://www.hijokin.org/en2007/6.html
人件費の節約のため,多くの授業を職なし非常勤教員に外注している大学において,この手の輩が多いとしたら,空恐ろしい思いがします。まさに,「大学崩壊」です。
8月28日に,中教審は「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」と題する答申を出しました。そこでは,学士課程教育の質的転換の必要がいわれ,教育充実に向けたさまざまな方策が提示されています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm
しかるに,上図のような「川上り」現象を眺めると,どれも空々しいものに聞こえます。滑稽なのは,ここでみたような,教員の「非正規化」の問題について一言も触れられていないことです。職なし非常勤教員が全体の半分,7割,8割を占めるような大学で,「学士課程教育の質的転換」ができるかどうかは,甚だ疑問です。
あと一点。5月7日の記事では,大学教員社会のジニ係数を計算したのですが,悲観モデルを採用すると,私立大学のジニ係数は,暴動が起きかねない危険水準(0.4)の一歩手前です。2013年の『学校教員統計調査』からはじき出される係数値は,おそらくこのデッドラインを超えていることでしょう。上図のような「川上り」現象を放置することは,大学の維持存続そのものを脅かす可能性があることを,最後に申し添えたいと存じます。
2012年9月22日土曜日
博士課程修了者の大学教員就職率
8月30日の記事でみたように,大学院博士課程修了生の中には無業や進路不明という状態になってしまう者が多いのですが,その一方で,修了(満期退学)と同時に,大学教員のポストをゲットできる幸運な輩もいます。
文科省の『学校基本調査(高等教育機関編)』では,博士課程修了者の進路が明らかにされているのですが,そこにて,就職者がどのような職業に就いたのかも知ることができます。2011年度の資料によると,同年3月の修了生数(満期退学含む)は15,892人で,そのうち大学教員に就職した者は2,369人と報告されています。よって,この年の大学教員就職率は14.9%となります,7人に1人です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037176&cycode=0
これは,有期の特任助教のような非正規採用も含む率です。まあ,こんなものかな,という気はします。これは現在値ですが,以前に比してどう変わったのかに興味が持たれます。1980年(昭和55年)以降の推移を,10年刻みでたどってみました。修了生全体に加えて,文系の3専攻系列の動向にも目配りしましょう。
まず全体からみると,大学教員就職率は,この30年間で30.5%から14.9%へと半減しました。とくに1990年代の減少が著しく,この期間中に値が10ポイントも落ちています。この時期に大学院重点化政策が実施され,博士課程院生が激増したのですが,そのことの影響もあるでしょう。
近年,やや盛り返していますが,これは,特任の助教・講師などの非正規採用の増加で賄われたものではないかしらん。
専攻系列別にみても,率は下がってきています。とりわけ,社会科学系での低下が顕著です。社会科学系の場合,1980年当時では,修了者の半分近くがストレートで大学教員になれていたのですね。しかし今では,ストレート就職率は2割を切っています。
私が出た教育系は比較的数字が安定しており,現在でも,28.2%が修了(退学)と同時に大学教員の職にありついています。まあ,非正規も含む数値ですので,こんなものでしょうか。近年は,学校教員の採用増を見越して,教育系学部の新設が相次いでいますが,そのことも寄与しているのではないでしょうか。
次に,性別による違いを観察してみましょう。以前は,男子のほうが圧倒的に有利でした。とある先生に聞いたところによると,女子が博士課程進学を希望しようものなら,「バカなことを考えないで,さっさと結婚しろ」などと,平然とたしなめられたそうな。1980年代の初頭あたりの話です。
しかし,今では状況が真逆になっています。研究者の女性比率を増やそうという政策があって,「女性の応募歓迎」,「業績が同等なら女性を採用」という気風がとみに強まっています。
はて,博士課程修了者のうちの大学教員就職率の性差は,どう変化してきたのでしょう。私は,上表の4つの時点について,修了生全体と3専攻系列の男女別就職率を計算しました。下図は,横軸に女子,縦軸に男子の大学教員就職率をとった座標上に,各グループの4時点の数値を位置づけ,線でつないだものです。
点線の斜線は均等線です。この線よりも下方に位置する場合,男子よりも女子の就職率が高いことを意味します。まず,青色の修了生全体の線をたどると,1980年から90年にかけて性差が縮まり,2000年以降は女子の率が男子を凌駕しています。人文科学系では,この傾向がもっと強く,2011年現在では,女子の就職率(23.9%)が男子(13.8%)を10ポイントも上回っています。
社会科学系はというと,今でも男子の優位が保たれています。しかるに,1980年当時の大きな差が縮小していることに注意しましょう。教育系の場合,男女にバラすと数が少なくなることもあって,傾向が安定しません。こちらは,参考程度ということで。
博士課程修了生の大学教員就職率は下がっていること,女子の優位性が時代とともに強まっているこを知りました。わが国の研究者の女性比率は国際的にみて最低水準ですので,後者の傾向は好ましいことだと思います。しかし,前者は・・・。
回を改めて,理系の専攻も交えた分析も行うつもりです。その場合,大学教員だけでなく,科学研究者への就職者数も考慮に入れなくてはなりますまい。後の課題とします。
文科省の『学校基本調査(高等教育機関編)』では,博士課程修了者の進路が明らかにされているのですが,そこにて,就職者がどのような職業に就いたのかも知ることができます。2011年度の資料によると,同年3月の修了生数(満期退学含む)は15,892人で,そのうち大学教員に就職した者は2,369人と報告されています。よって,この年の大学教員就職率は14.9%となります,7人に1人です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037176&cycode=0
これは,有期の特任助教のような非正規採用も含む率です。まあ,こんなものかな,という気はします。これは現在値ですが,以前に比してどう変わったのかに興味が持たれます。1980年(昭和55年)以降の推移を,10年刻みでたどってみました。修了生全体に加えて,文系の3専攻系列の動向にも目配りしましょう。
まず全体からみると,大学教員就職率は,この30年間で30.5%から14.9%へと半減しました。とくに1990年代の減少が著しく,この期間中に値が10ポイントも落ちています。この時期に大学院重点化政策が実施され,博士課程院生が激増したのですが,そのことの影響もあるでしょう。
近年,やや盛り返していますが,これは,特任の助教・講師などの非正規採用の増加で賄われたものではないかしらん。
専攻系列別にみても,率は下がってきています。とりわけ,社会科学系での低下が顕著です。社会科学系の場合,1980年当時では,修了者の半分近くがストレートで大学教員になれていたのですね。しかし今では,ストレート就職率は2割を切っています。
私が出た教育系は比較的数字が安定しており,現在でも,28.2%が修了(退学)と同時に大学教員の職にありついています。まあ,非正規も含む数値ですので,こんなものでしょうか。近年は,学校教員の採用増を見越して,教育系学部の新設が相次いでいますが,そのことも寄与しているのではないでしょうか。
次に,性別による違いを観察してみましょう。以前は,男子のほうが圧倒的に有利でした。とある先生に聞いたところによると,女子が博士課程進学を希望しようものなら,「バカなことを考えないで,さっさと結婚しろ」などと,平然とたしなめられたそうな。1980年代の初頭あたりの話です。
しかし,今では状況が真逆になっています。研究者の女性比率を増やそうという政策があって,「女性の応募歓迎」,「業績が同等なら女性を採用」という気風がとみに強まっています。
はて,博士課程修了者のうちの大学教員就職率の性差は,どう変化してきたのでしょう。私は,上表の4つの時点について,修了生全体と3専攻系列の男女別就職率を計算しました。下図は,横軸に女子,縦軸に男子の大学教員就職率をとった座標上に,各グループの4時点の数値を位置づけ,線でつないだものです。
点線の斜線は均等線です。この線よりも下方に位置する場合,男子よりも女子の就職率が高いことを意味します。まず,青色の修了生全体の線をたどると,1980年から90年にかけて性差が縮まり,2000年以降は女子の率が男子を凌駕しています。人文科学系では,この傾向がもっと強く,2011年現在では,女子の就職率(23.9%)が男子(13.8%)を10ポイントも上回っています。
社会科学系はというと,今でも男子の優位が保たれています。しかるに,1980年当時の大きな差が縮小していることに注意しましょう。教育系の場合,男女にバラすと数が少なくなることもあって,傾向が安定しません。こちらは,参考程度ということで。
博士課程修了生の大学教員就職率は下がっていること,女子の優位性が時代とともに強まっているこを知りました。わが国の研究者の女性比率は国際的にみて最低水準ですので,後者の傾向は好ましいことだと思います。しかし,前者は・・・。
回を改めて,理系の専攻も交えた分析も行うつもりです。その場合,大学教員だけでなく,科学研究者への就職者数も考慮に入れなくてはなりますまい。後の課題とします。
2012年9月21日金曜日
教員への敬意の学校差(45か国)
国際学力調査のPISAをご存知でしょうか。各国の15歳の生徒を対象に,OECDが3年おきに実施している大規模調査です。対象国の教育関係者は,本調査の結果に一喜一憂します。読解力の国際順位が何位,数学的リテラシーは何位,というように。
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html
しかるに,この調査は学力調査だけからなるのではなく,生徒質問紙調査や学校質問紙調査も含んでいます。その中には,生徒の生活意識や各学校の教授活動の有様などを明らかにする,興味深い質問が数多く盛られています。
むろん,これらの質問紙調査の結果も公表されてはいます。ですが,国ごとの単純集計だけではなく,設問と設問をクロスさせたり,複数の設問の回答結果から,関心のある尺度(反学校尺度など)を構成し,その多寡を規定する要因を探ったりする分析を,自前で行えたらいいのになあ,と前から思っていました。
現代は,インターネット時代です。OECDのサイトにて,回答結果がそのまま入力された段階のローデータをダウンロードできることは知っていました。このような,加工が施される前の原データを使って,独自の分析を手掛けた研究もあります。たとえば,須藤康介「学習方略がPISA型学力に与える影響」『教育社会学研究』第86集(2010年)など。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40017178243
では私もと,OECDサイトの該当箇所(下記)に当たってみたのですが,目的のデータセットは,SASやSPSSといった高度(価)なソフトのファイルで提供されています。私はそれを持っていないので,諦めかけたのですが,下のほうに,メモ帳のテキスト形式の圧縮データがアップされていることに気づきました。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php
これを展開し,エクセルに取り込めば,目的のデータセットを得ることができます。ここ3日ほど,ヒマをみつけて格闘してみたのですが,ようやく取り込みに成功しました。以下の写真は,学校質問紙調査のデータセットです。"School"の綴りが間違っていてすみません。
74か国,総計18,641校分のデータです。容量もかさんで,50MBにもなりました。起動や保存にも時間がかかりますが,まあ,これは仕方ありません。
さあこれで,PISA2009の学校質問紙調査のデータを,問題関心に即して,自前で分析できる手筈が整いました。何から始めたものやら・・・。
調査票をざっとみたところ,「生徒による教師への敬意が欠けていることが,支障となることがあるか」という設問に目がとまりました。デュルケムは,「道徳的権威(l'autorité morale)とは,教師にとって不可欠な資質である」と述べていますが,現代日本の教員は,この「不可欠」の資質をどれだけ備えているのか,興味を持ちました。
日本の場合,PISA2009の対象は15歳(高校1年生)の生徒です。よって,学校質問紙調査の対象は,高等学校ということになります。上記の設問に対する,わが国の185校(無回答,無効回答は除外)の回答分布は,「全くないが」18.4%,「非常に少ない」が57.3%,「ある程度はある」が23.2%,「よくある」が1.1%,です。
これだけでは「ふーん」でおしまいですが,本調査の対象は,高等学校です。わが国の高校は,有名大学への進学可能性に依拠して,明にも暗にもランクづけられています。集団による外的拘束性といいますか,どのランクの高校かによって,生徒の生活意識や行動が非常に異なることは,教育社会学において繰り返し明らかにされています。
そうならば,教員への敬意の度合いにも,相応の学校差がみられるでしょう。上記の185校のランクを測るのに使える設問はないかと,調査票に目を凝らしたところ,次のものが目につきました。
「あなたの学校(学科)に対する保護者の期待を最も特徴づけているのは,どれですか」という設問で,3つの選択肢が提示されています。
①:本校が非常に高い学業水準を設定し,生徒にこれに見合った高い学力をつけさせていくことを期待する圧力を多くの保護者から受けている。
②:生徒の学力水準を高めていくことを本校に期待する圧力を,少数の保護者から受けている。
③:生徒の学力水準を高めていくことを本校に期待する圧力を,保護者から受けることはほとんどない。
①を選んだ学校を「進学校」,②を選んだ学校を「準進学校」,③を選んだ学校を「非進学校」といたしましょう。各群の学校数は,順に,54校,91校,40校です。なかなかきれいな分布ではないですか。調査対象校が,精緻なやり方で抽出されたことがうかがわれます。
では,この3つの学校群において,教員への生徒の敬意(respect)がどう異なるかを観察してみましょう。下図をご覧ください。
相対的な差ですが,教員への生徒の敬意は,非進学校ほど低くなっています。③と④の回答の比率は,進学校では9.3%ですが,ランクを隔てた非進学校では35.0%にもなります。上述のような階層的構造を持っている,わが国の高校教育システムの反映といえましょう。
ところで,このような傾向は,わが国に固有のものなのでしょうか。申すまでもなく,PISAは国際調査です。ローデータが手に入りましたので,他国についても,同じデータを簡単につくることができます。
私は,各国の調査対象校を同じやり方で3つの群に仕分け,両端の進学校群と非進学校群について,上図の③と④の回答率を明らかにしました。教員への生徒の敬意が欠けている学校の比率と読めます。ただし,いずれかの群のサンプル数が20校を下回る国は,分析から除外しました。
下図は,横軸に進学校群,縦軸に非進学校群の比率をとった座標上に,日本を含む45か国を位置づけたものです。日本(9.3%,35.0%)の位置がどこかに注意してください。
均等線(Y=X)よりも上方にあるのは,教員への敬意が欠けている学校の比率が,進学校よりも非進学校で高い国です。Y=3Xよりも上に位置する国は,その差が3倍を超えることを示唆します。
ほう。日本は,3倍超の位置にあります。日本のほか,チェコ,オーストラリア,ハンガリー,そして南米のチリなどがこのゾーンにプロットされています。これらの国では,わが国と同様,後期中等教育段階において,高等教育進学規範に由来する学校差が大きいものと推測されます。
日本よりも大学進学率が高いアメリカは2.5倍です。総合制ハイスクールの伝統があるこの国では,高校が階層化されている程度は,日本に比べれば小さいものと思われます。複線型の中等教育が廃止されたイギリスは,2.8倍というところです。
さて,図の右下に目をやると,日本的な感覚からすれば驚くべきといいますか,非進学校よりも進学校において,教員への敬意が欠けている学校の比率が高い国が見受けられます。多くが東欧の諸国です。これらの国の後期中等教育システムの仔細は存じませんが,基底にあるのは,平等的な社会主義のエートスでしょうか。こうした社会では,成績で生徒をしごくような教員は蔑視を受けるのかもしれません。むろん,調査に回答した各学校の校長の判断基準が異なる可能性も無視できませんが。
PISA2009のローデータを使って,私が最初に手掛けた分析は,以上のようなものです。記録にとどめておこうと思います。これからも,分析の結果を随時,この場で開陳していきます。
ところで,学校質問紙調査に加えて,生徒質問紙調査のローデータもエクセル形式でつくりたいのですが,メモ帳のテキストファイルからの取り込みがうまくいきません。容量が大きすぎるからです。必要な部分だけを取り込む方法はないものか。格闘中です。
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html
しかるに,この調査は学力調査だけからなるのではなく,生徒質問紙調査や学校質問紙調査も含んでいます。その中には,生徒の生活意識や各学校の教授活動の有様などを明らかにする,興味深い質問が数多く盛られています。
むろん,これらの質問紙調査の結果も公表されてはいます。ですが,国ごとの単純集計だけではなく,設問と設問をクロスさせたり,複数の設問の回答結果から,関心のある尺度(反学校尺度など)を構成し,その多寡を規定する要因を探ったりする分析を,自前で行えたらいいのになあ,と前から思っていました。
現代は,インターネット時代です。OECDのサイトにて,回答結果がそのまま入力された段階のローデータをダウンロードできることは知っていました。このような,加工が施される前の原データを使って,独自の分析を手掛けた研究もあります。たとえば,須藤康介「学習方略がPISA型学力に与える影響」『教育社会学研究』第86集(2010年)など。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40017178243
では私もと,OECDサイトの該当箇所(下記)に当たってみたのですが,目的のデータセットは,SASやSPSSといった高度(価)なソフトのファイルで提供されています。私はそれを持っていないので,諦めかけたのですが,下のほうに,メモ帳のテキスト形式の圧縮データがアップされていることに気づきました。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php
これを展開し,エクセルに取り込めば,目的のデータセットを得ることができます。ここ3日ほど,ヒマをみつけて格闘してみたのですが,ようやく取り込みに成功しました。以下の写真は,学校質問紙調査のデータセットです。"School"の綴りが間違っていてすみません。
74か国,総計18,641校分のデータです。容量もかさんで,50MBにもなりました。起動や保存にも時間がかかりますが,まあ,これは仕方ありません。
さあこれで,PISA2009の学校質問紙調査のデータを,問題関心に即して,自前で分析できる手筈が整いました。何から始めたものやら・・・。
調査票をざっとみたところ,「生徒による教師への敬意が欠けていることが,支障となることがあるか」という設問に目がとまりました。デュルケムは,「道徳的権威(l'autorité morale)とは,教師にとって不可欠な資質である」と述べていますが,現代日本の教員は,この「不可欠」の資質をどれだけ備えているのか,興味を持ちました。
日本の場合,PISA2009の対象は15歳(高校1年生)の生徒です。よって,学校質問紙調査の対象は,高等学校ということになります。上記の設問に対する,わが国の185校(無回答,無効回答は除外)の回答分布は,「全くないが」18.4%,「非常に少ない」が57.3%,「ある程度はある」が23.2%,「よくある」が1.1%,です。
これだけでは「ふーん」でおしまいですが,本調査の対象は,高等学校です。わが国の高校は,有名大学への進学可能性に依拠して,明にも暗にもランクづけられています。集団による外的拘束性といいますか,どのランクの高校かによって,生徒の生活意識や行動が非常に異なることは,教育社会学において繰り返し明らかにされています。
そうならば,教員への敬意の度合いにも,相応の学校差がみられるでしょう。上記の185校のランクを測るのに使える設問はないかと,調査票に目を凝らしたところ,次のものが目につきました。
「あなたの学校(学科)に対する保護者の期待を最も特徴づけているのは,どれですか」という設問で,3つの選択肢が提示されています。
①:本校が非常に高い学業水準を設定し,生徒にこれに見合った高い学力をつけさせていくことを期待する圧力を多くの保護者から受けている。
②:生徒の学力水準を高めていくことを本校に期待する圧力を,少数の保護者から受けている。
③:生徒の学力水準を高めていくことを本校に期待する圧力を,保護者から受けることはほとんどない。
①を選んだ学校を「進学校」,②を選んだ学校を「準進学校」,③を選んだ学校を「非進学校」といたしましょう。各群の学校数は,順に,54校,91校,40校です。なかなかきれいな分布ではないですか。調査対象校が,精緻なやり方で抽出されたことがうかがわれます。
では,この3つの学校群において,教員への生徒の敬意(respect)がどう異なるかを観察してみましょう。下図をご覧ください。
相対的な差ですが,教員への生徒の敬意は,非進学校ほど低くなっています。③と④の回答の比率は,進学校では9.3%ですが,ランクを隔てた非進学校では35.0%にもなります。上述のような階層的構造を持っている,わが国の高校教育システムの反映といえましょう。
ところで,このような傾向は,わが国に固有のものなのでしょうか。申すまでもなく,PISAは国際調査です。ローデータが手に入りましたので,他国についても,同じデータを簡単につくることができます。
私は,各国の調査対象校を同じやり方で3つの群に仕分け,両端の進学校群と非進学校群について,上図の③と④の回答率を明らかにしました。教員への生徒の敬意が欠けている学校の比率と読めます。ただし,いずれかの群のサンプル数が20校を下回る国は,分析から除外しました。
下図は,横軸に進学校群,縦軸に非進学校群の比率をとった座標上に,日本を含む45か国を位置づけたものです。日本(9.3%,35.0%)の位置がどこかに注意してください。
均等線(Y=X)よりも上方にあるのは,教員への敬意が欠けている学校の比率が,進学校よりも非進学校で高い国です。Y=3Xよりも上に位置する国は,その差が3倍を超えることを示唆します。
ほう。日本は,3倍超の位置にあります。日本のほか,チェコ,オーストラリア,ハンガリー,そして南米のチリなどがこのゾーンにプロットされています。これらの国では,わが国と同様,後期中等教育段階において,高等教育進学規範に由来する学校差が大きいものと推測されます。
日本よりも大学進学率が高いアメリカは2.5倍です。総合制ハイスクールの伝統があるこの国では,高校が階層化されている程度は,日本に比べれば小さいものと思われます。複線型の中等教育が廃止されたイギリスは,2.8倍というところです。
さて,図の右下に目をやると,日本的な感覚からすれば驚くべきといいますか,非進学校よりも進学校において,教員への敬意が欠けている学校の比率が高い国が見受けられます。多くが東欧の諸国です。これらの国の後期中等教育システムの仔細は存じませんが,基底にあるのは,平等的な社会主義のエートスでしょうか。こうした社会では,成績で生徒をしごくような教員は蔑視を受けるのかもしれません。むろん,調査に回答した各学校の校長の判断基準が異なる可能性も無視できませんが。
PISA2009のローデータを使って,私が最初に手掛けた分析は,以上のようなものです。記録にとどめておこうと思います。これからも,分析の結果を随時,この場で開陳していきます。
ところで,学校質問紙調査に加えて,生徒質問紙調査のローデータもエクセル形式でつくりたいのですが,メモ帳のテキストファイルからの取り込みがうまくいきません。容量が大きすぎるからです。必要な部分だけを取り込む方法はないものか。格闘中です。
2012年9月19日水曜日
成人の肥満率の国際比較
前回は,わが国の成人の肥満率がどう変わってきたかを明らかにしました。そこにて分かったのは,中高年層を中心に,肥満化が進行してきていることです。2010年でみると,BMIが25超の肥満者の比率は,50代では37.3%にもなります。およそ3人に1人です。
しかるに,米国のような社会では,国民の肥満化がもっと進んでいます。世界全体を見渡すなら,米国をも凌駕する社会が見受けられるかもしれません。今回は,できるだけ多くの国(社会)のデータをもとに,成人の肥満率の国際比較を手掛けてみようと思います。
用いる資料は,WHOの"World Health Statistics"の2012年版です。この資料から,2008年の成人(20歳以上)の肥満率を,189の国について知ることができます。ここでいう肥満率とは,BMIが30を超える者が全体に占める比率をさします。
http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/en/index.html
前回もいいましたが,BMIとは,Body Mass Indexの略称であり,人間の肥満度を測るための尺度です。体重(kg)を身長(m)の2乗で除すことで求められます。国際基準では,この値が30を超える者を肥満者とみなしています。BMIが30を超える人間についてイメージを持っていただくため,いくつかの例を挙げましょう。上記の式に依拠して,7つの身長ごとに,BMI30に相当する体重(kg)を計算してみました。
①:身長1.60mの場合 → 体重76.8kg以上
②:身長1.65mの場合 → 体重81.7kg以上
③:身長1.70mの場合 → 体重86.7kg以上
④:身長1.75mの場合 → 体重91.9kg以上
⑤:身長1.80mの場合 → 体重97.2kg以上
⑥:身長1.85mの場合 → 体重102.7kg以上
⑦:身長1.90mの場合 → 体重108.3kg以上
私と同程度の身長(④)の場合,体重91.9kg以上が肥満と判定されます。どうでしょう。原資料に書かれているような,"obese"(でっぷり肥った)という形容がまさにふわしい人間です。WHOの資料に載っている各国の肥満率は,BMIが30を超える"obese"な者の比率のことです。
2008年の日本の場合,この意味での肥満率は,成人男性で5.5%,成人女性で3.5%です。しかし米国の場合,順に30.2%,33.2%にもなります。この国では,成人男女の3人に1人が,上の例のような肥満者ということになります。
これは2国の数値ですが,他の多くの国も交えた比較を行いましょう。横軸に成人女性,縦軸に成人男性の肥満率をとった座標上に,189の国をプロットしてみました。日本を含む主要先進国の位置を読み取っていただければと思います。点線は,189国の平均値を意味します。
いやー,上には上がいるものです。米国とて,189国の中でみれば,成人の肥満化の程度は「中ほど」というところです。右上にあるのは,男女双方の肥満率が高い社会です。太平洋の南西部に浮かぶナウル共和国の肥満率は,男性は67.5%,女性は74.7%にもなります。この島国では,成人の約7割がBMI30超の肥満者です。
ほか,図の右上には,クック諸島,トンガ,パラオ,サモアなど,太平洋南部の島国が位置しています。これらの国における成人の肥満化は,日本や米国のような先進国の比ではありません。また,女性の肥満率が男性よりもかなり高いことも特徴です。マーガレット・ミードの『サモアの思春期』では,この島における「女性の男性的性質」というようなことが明らかにされていますが,こういう(逆)ジェンダーも影響しているのでしょうか。
さて,上図では,われわれに馴染み深い主要国の傾向が,左下の部分に凝縮されてしまっています。そこで,ピンク色の枠内を拡大した図もつくってみました。下図がそれです。
この図では,米国や南米諸国が右上に位置しています。アルゼンチンは,肉の生産量が多い国ですよね,一方,原点に近い左下には,日本や韓国のようなアジア諸国やアフリカ諸国がプロットされています。ヨーロッパ諸国は,だいたいその中間です。
図中の国名の位置から予想されることですが,各国の肥満化の程度は,経済発展の程度と関連しているようです。WHOの資料では,各国を経済発展の程度に応じて4つにグルーピングし,それぞれの肥満率の平均がとられています。ピンク色のドットから分かるように,富裕国の群ほど,肥満率が高いゾーンに位置しています。肥満とは,豊かさの病理であることも知られます。
国際比較は面白いものです。自分の国の立ち位置が分かると同時に,現象の社会的性質をも把握させてくれます。現在は,諸々の国際機関の原統計がネット上で見れるようになっています。今回使った"World Health Statistics"も然り。この資料は,大学院生の頃,松本良夫先生と自殺の国際比較研究を行った際に,統計局統計図書館で閲覧した覚えがあります。でも今は,そうした手間はかかりません。WHOのサイトにて,PDFファイルで全文を閲覧することができます。
私は,自前で下手に代表性の低い調査などをするよりも,信頼のおける公的調査の結果をしゃぶり尽くすことが大切であると考えています。そのための環境は着々と整備されてきています。こうした条件を使いこなせるようになりたいと思います。公的統計は,国民の共有財産なり。近く,『国勢調査』のオーダーメード集計の発注に挑戦してみるつもりです。
http://www.stat.go.jp/index/seido/2jiriyou.htm
しかるに,米国のような社会では,国民の肥満化がもっと進んでいます。世界全体を見渡すなら,米国をも凌駕する社会が見受けられるかもしれません。今回は,できるだけ多くの国(社会)のデータをもとに,成人の肥満率の国際比較を手掛けてみようと思います。
用いる資料は,WHOの"World Health Statistics"の2012年版です。この資料から,2008年の成人(20歳以上)の肥満率を,189の国について知ることができます。ここでいう肥満率とは,BMIが30を超える者が全体に占める比率をさします。
http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/en/index.html
前回もいいましたが,BMIとは,Body Mass Indexの略称であり,人間の肥満度を測るための尺度です。体重(kg)を身長(m)の2乗で除すことで求められます。国際基準では,この値が30を超える者を肥満者とみなしています。BMIが30を超える人間についてイメージを持っていただくため,いくつかの例を挙げましょう。上記の式に依拠して,7つの身長ごとに,BMI30に相当する体重(kg)を計算してみました。
①:身長1.60mの場合 → 体重76.8kg以上
②:身長1.65mの場合 → 体重81.7kg以上
③:身長1.70mの場合 → 体重86.7kg以上
④:身長1.75mの場合 → 体重91.9kg以上
⑤:身長1.80mの場合 → 体重97.2kg以上
⑥:身長1.85mの場合 → 体重102.7kg以上
⑦:身長1.90mの場合 → 体重108.3kg以上
私と同程度の身長(④)の場合,体重91.9kg以上が肥満と判定されます。どうでしょう。原資料に書かれているような,"obese"(でっぷり肥った)という形容がまさにふわしい人間です。WHOの資料に載っている各国の肥満率は,BMIが30を超える"obese"な者の比率のことです。
2008年の日本の場合,この意味での肥満率は,成人男性で5.5%,成人女性で3.5%です。しかし米国の場合,順に30.2%,33.2%にもなります。この国では,成人男女の3人に1人が,上の例のような肥満者ということになります。
これは2国の数値ですが,他の多くの国も交えた比較を行いましょう。横軸に成人女性,縦軸に成人男性の肥満率をとった座標上に,189の国をプロットしてみました。日本を含む主要先進国の位置を読み取っていただければと思います。点線は,189国の平均値を意味します。
いやー,上には上がいるものです。米国とて,189国の中でみれば,成人の肥満化の程度は「中ほど」というところです。右上にあるのは,男女双方の肥満率が高い社会です。太平洋の南西部に浮かぶナウル共和国の肥満率は,男性は67.5%,女性は74.7%にもなります。この島国では,成人の約7割がBMI30超の肥満者です。
ほか,図の右上には,クック諸島,トンガ,パラオ,サモアなど,太平洋南部の島国が位置しています。これらの国における成人の肥満化は,日本や米国のような先進国の比ではありません。また,女性の肥満率が男性よりもかなり高いことも特徴です。マーガレット・ミードの『サモアの思春期』では,この島における「女性の男性的性質」というようなことが明らかにされていますが,こういう(逆)ジェンダーも影響しているのでしょうか。
さて,上図では,われわれに馴染み深い主要国の傾向が,左下の部分に凝縮されてしまっています。そこで,ピンク色の枠内を拡大した図もつくってみました。下図がそれです。
この図では,米国や南米諸国が右上に位置しています。アルゼンチンは,肉の生産量が多い国ですよね,一方,原点に近い左下には,日本や韓国のようなアジア諸国やアフリカ諸国がプロットされています。ヨーロッパ諸国は,だいたいその中間です。
図中の国名の位置から予想されることですが,各国の肥満化の程度は,経済発展の程度と関連しているようです。WHOの資料では,各国を経済発展の程度に応じて4つにグルーピングし,それぞれの肥満率の平均がとられています。ピンク色のドットから分かるように,富裕国の群ほど,肥満率が高いゾーンに位置しています。肥満とは,豊かさの病理であることも知られます。
国際比較は面白いものです。自分の国の立ち位置が分かると同時に,現象の社会的性質をも把握させてくれます。現在は,諸々の国際機関の原統計がネット上で見れるようになっています。今回使った"World Health Statistics"も然り。この資料は,大学院生の頃,松本良夫先生と自殺の国際比較研究を行った際に,統計局統計図書館で閲覧した覚えがあります。でも今は,そうした手間はかかりません。WHOのサイトにて,PDFファイルで全文を閲覧することができます。
私は,自前で下手に代表性の低い調査などをするよりも,信頼のおける公的調査の結果をしゃぶり尽くすことが大切であると考えています。そのための環境は着々と整備されてきています。こうした条件を使いこなせるようになりたいと思います。公的統計は,国民の共有財産なり。近く,『国勢調査』のオーダーメード集計の発注に挑戦してみるつもりです。
http://www.stat.go.jp/index/seido/2jiriyou.htm
2012年9月17日月曜日
成人男性の肥満率
2010年の12月20日の記事では,子どもの肥満化が進んでいることを明らかにしました。外遊びの減少や,食習慣の乱れのためと解されます。こうした問題を受けて,今の学校現場では,食育の実践が重視されています。
しかし,肥満化が進んでいるのは,成人についても同じでしょう。長時間のデスクワークの増加など,運動不足を招いている要因は数多く想起されます。食習慣の乱れについても,昨年の1月29日の記事でみたように,朝食欠食率のような指標が若年層を中心として高まってきています。
今回は,20歳以上の成人男性について,肥満と判定される者の比率を明らかにしてみようと思います。以下,簡単に肥満率ということにします。
まずは,成人男性の肥満率がどう変わってきたかをみてみましょう。1980年(昭和55年)以降の時期について,5年刻みのピンポイントで比率を拾ってみました。ソースは,厚労省『国民健康・栄養調査報告』の2010年版です。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h22-houkoku.html
前後しますが,この資料に載っている肥満率とは,BMIという指標の値が25を超える者の比率です。BMIとは,Body Mass Indexの略で,体重(kg)を身長(m)の2乗で除した値だそうです。私の身長は1.76mですが,この場合,体重77.4kg以上の者が肥満と判定されることになります。私は今,だいたい70kgほどですが,公的統計の基準では,まだ肥満の域に達していないようです。安堵。しかし,出っ腹は隠しようがないのですが。
下表は,この意味での肥満率の推移をとったものです。年齢によって様相は異なるでしょうから,10歳ごとの年齢層別の数値も掲げています。
最下段の全体の推移からみると,この30年間で成人男性の肥満率は上昇してきています。1980年では17.8%であったのが,1990年には22.3%と2割を超え,2010年現在では29.3%と3割に迫る勢いです。しかるに,今の中高年層では,既に3割を超えています。2010年でいうと,最も高い50代男性の肥満率は37.3%です。3人に1人が肥満と判定されることになります。
上表のデータを,統計図によって表現しておきましょう。下図は,それぞれの年の各年齢層の率を等高線図で表したものです。本ブログを長くご覧頂いている方はお分かりかと存じます。時代×年齢の「社会地図」図式です。時代と年齢による値の変異を,上から俯瞰できる仕掛けになっています。
近年,中高年層の箇所に,高率ゾーンが広がっていることを読み取っていただけたらと思います。黒色は,35%を超えることを示唆します。今後,このような膿(うみ)がますます広がっていくとしたら,それは怖いことです。
ところで,よく話題になることですが,米国では,国民の肥満化が日本とは比較にならないほど進行しています。国際基準では,BMI30超が肥満とされています。"OECD Health Data 2012"によると,BMIが30を超える者の比率は,米国では35.5%にもなります(2010年)。日本は,3.8%です。
http://www.oecd.org/health/healthpoliciesanddata/oecdhealthdata2012.htm
BMIが30超ということは,私と同じ身長(1.76m)の人間の場合,体重が93kgを超える計算になります。1.65mの場合は,82kg超です。米国では,国民3人に1人がそのような輩であることになります。このような状況を受けてか,大都市のニューヨークでは,「糖分の多い炭酸飲料などについて,16オンスを超える大型の容器で販売することを禁じる措置」を取ったとのこと。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20120916-OYT1T00514.htm
しかるに,この国において,肥満状態になっている人間の多くが貧困層であることもよく知られています。安価なジャンクフードに依存する度合いが高いからです。こうした貧困と肥満の結びつきは,わが国においても観察されます。昨年の1月12日の記事では,東京都内49市区の統計を使って,生活保護世帯率と小学生の肥満児率が強く相関していることを示しました。
国民の肥満化は,各人の運動不足や食習慣の乱れに起因することは疑い得ないところですが,その基底には,格差社会化のような社会変化があることを看過すべきではありません。わが国において,肥満化の進行が止まるかどうかは,食育基本法や食育推進基本計画に盛られた理念や数値目標の実現の度合いと同時に,もっと大きな政策の有様にも依存すると考えられます。
しかし,肥満化が進んでいるのは,成人についても同じでしょう。長時間のデスクワークの増加など,運動不足を招いている要因は数多く想起されます。食習慣の乱れについても,昨年の1月29日の記事でみたように,朝食欠食率のような指標が若年層を中心として高まってきています。
今回は,20歳以上の成人男性について,肥満と判定される者の比率を明らかにしてみようと思います。以下,簡単に肥満率ということにします。
まずは,成人男性の肥満率がどう変わってきたかをみてみましょう。1980年(昭和55年)以降の時期について,5年刻みのピンポイントで比率を拾ってみました。ソースは,厚労省『国民健康・栄養調査報告』の2010年版です。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h22-houkoku.html
前後しますが,この資料に載っている肥満率とは,BMIという指標の値が25を超える者の比率です。BMIとは,Body Mass Indexの略で,体重(kg)を身長(m)の2乗で除した値だそうです。私の身長は1.76mですが,この場合,体重77.4kg以上の者が肥満と判定されることになります。私は今,だいたい70kgほどですが,公的統計の基準では,まだ肥満の域に達していないようです。安堵。しかし,出っ腹は隠しようがないのですが。
下表は,この意味での肥満率の推移をとったものです。年齢によって様相は異なるでしょうから,10歳ごとの年齢層別の数値も掲げています。
最下段の全体の推移からみると,この30年間で成人男性の肥満率は上昇してきています。1980年では17.8%であったのが,1990年には22.3%と2割を超え,2010年現在では29.3%と3割に迫る勢いです。しかるに,今の中高年層では,既に3割を超えています。2010年でいうと,最も高い50代男性の肥満率は37.3%です。3人に1人が肥満と判定されることになります。
上表のデータを,統計図によって表現しておきましょう。下図は,それぞれの年の各年齢層の率を等高線図で表したものです。本ブログを長くご覧頂いている方はお分かりかと存じます。時代×年齢の「社会地図」図式です。時代と年齢による値の変異を,上から俯瞰できる仕掛けになっています。
近年,中高年層の箇所に,高率ゾーンが広がっていることを読み取っていただけたらと思います。黒色は,35%を超えることを示唆します。今後,このような膿(うみ)がますます広がっていくとしたら,それは怖いことです。
ところで,よく話題になることですが,米国では,国民の肥満化が日本とは比較にならないほど進行しています。国際基準では,BMI30超が肥満とされています。"OECD Health Data 2012"によると,BMIが30を超える者の比率は,米国では35.5%にもなります(2010年)。日本は,3.8%です。
http://www.oecd.org/health/healthpoliciesanddata/oecdhealthdata2012.htm
BMIが30超ということは,私と同じ身長(1.76m)の人間の場合,体重が93kgを超える計算になります。1.65mの場合は,82kg超です。米国では,国民3人に1人がそのような輩であることになります。このような状況を受けてか,大都市のニューヨークでは,「糖分の多い炭酸飲料などについて,16オンスを超える大型の容器で販売することを禁じる措置」を取ったとのこと。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20120916-OYT1T00514.htm
しかるに,この国において,肥満状態になっている人間の多くが貧困層であることもよく知られています。安価なジャンクフードに依存する度合いが高いからです。こうした貧困と肥満の結びつきは,わが国においても観察されます。昨年の1月12日の記事では,東京都内49市区の統計を使って,生活保護世帯率と小学生の肥満児率が強く相関していることを示しました。
国民の肥満化は,各人の運動不足や食習慣の乱れに起因することは疑い得ないところですが,その基底には,格差社会化のような社会変化があることを看過すべきではありません。わが国において,肥満化の進行が止まるかどうかは,食育基本法や食育推進基本計画に盛られた理念や数値目標の実現の度合いと同時に,もっと大きな政策の有様にも依存すると考えられます。
2012年9月15日土曜日
卒業生・修了生の惨状の段階比較
8月30日の記事では,大学院博士課程修了生の惨状を紹介したのですが,この記事をみてくださる方が多いようです。ツイッターを拝見すると,「博士課程に行くのはやめようかな」という類のつぶやきが散見されます。
いたずらに危機感を煽るものではありませんが,生半可な考えで進学すると,悲惨な末路をたどるハメになる確率が高いことをお知りいただければと存じます。まあ,言わずもがなですが。
でも,修士課程までなら進んでもいいかな,とお思いの方はたくさんおられると思います。9月9日の記事でみたように,大学卒業者の約1割が修士課程に進学しているとみられます。理系の専攻では,修士課程への進学率はもっと高いことでしょう。
8月30日の記事では博士課程修了生,9月9日の記事では大学卒業生の進路(惨状)をみました。今回は,その中間に位置する修士課程修了生の状況にも目配りします。
ただ,先の2つの記事と同じことをベタに繰り返しても面白くありません。私がここにてやろうとしていることは,タイトルのごとく,卒業生・修了生の惨状の度合いが,3つの段階(学部,修士,博士)でどう異なるかを比較することです。どの段階まで進もうかしらん,とお考えの方の参考になればと存じます。
まずは,3段階の卒業生・修了生の進路構成を比べることから始めましょう。2011年の文科省『学校基本調査(高等教育機関編)』によると,同年春の大学卒業者は55万2千人,修士課程修了者は7万5千人,博士課程修了者(単位取得満期退学者含む)は1万6千人です。下図は,各々の進路構成を図示したものです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528
赤色は就職率(非正規含む)ですが,ほう,修士課程修了者が72.3%と最も高くなっています。その分,この段階では,⑤~⑦の無業・死亡・進路不明率が最小です。ざっとみた限りでは,惨状の度合いが最も低いのは,修士課程の修了者のようです。
これをどうみたものでしょう。理系の場合,修士まで出たほうが就職に有利ということをよく聞きますが,理系専攻の修士(Master)らが健闘している,ということでしょうか。大学院の場合,理系専攻の学生が多くを占めますし。
どうやら,専攻別に観察してみる必要がありそうです。細かい専攻分野まで下りると数が少なくなりますので,大まかな専攻系列ごとの統計を出してみましょう。3つの段階について,専攻系列別の無業者率と死亡・進路不明率を計算しました。無業者率とは,上図でいう⑤と⑥の者が全体に占める比率です。死亡・進路不明率は,⑦の者の比率です。
無業者率と死亡・進路不明率の合算値をもって,惨状の度合いのバロメーターとしましょう。全専攻をひっくるめた全体の傾向でいうと,この意味での惨状値は修士課程で最も低くなっています。これは,先の図でみた通りです。
しかるに,様相は専攻によって違っています。学生数が多い理系の専攻は,全体の傾向に即していますが,文系の専攻はさにあらず。人文科学系は,学部→修士→博士と段階を上がるにつれて,惨状の度合いが増していきます。この専攻の場合,両指標の合算値は,学部卒は28.9%,修士卒は36.9%,博士卒は63.2%です。修士と博士の溝が明確ですなあ。
一方,工学専攻の場合は,順に,11.9%,6.7%,27.4%となります。人文系の右上がり型とは違ったV字型(谷型)です。
それぞれの専攻系列について,3段階の変化を可視的に表現してみましょう。横軸に無業者率(⑤+⑥),縦軸に死亡・進路不明率(⑦)をとった座標上に,各専攻の3段階の数値を位置づけて,線で結んでみました。aは学部,bは修士課程,cは博士課程です。
10の専攻の折れ線を一つの座標に盛り込むと,グチャグチャになりますので,2専攻ごとに分けています。なお,中間のbの記号の記載を省略している図もあります。
いかがでしょう。人文系と芸術系は,学士,修士,博士となるにしたがい,右上のデンジャラス(デッド)・ゾーンに昇っていきます。言葉がよくないですが,まさに「昇天」です。人文系では,bとcの距離が大きくなっています。先に申したように,修士と博士の断絶が大きい,ということです。
社会科学系や私が出た教育系は,bとcの垂直方向の距離が大きいようです。これは,博士課程に行くと死亡・進路不明率が殊に高まることを示唆します。
理系の専攻はというと,L字を斜めにしたような型です。修士まではいいが,それより上はヤバイ,ということです。まあ,その程度は文系の専攻に比したら小さいのですが。
以上をもって,卒業・修了生の惨状の段階比較を終わります。人文系,社会系,教育系,および芸術系の分野において,博士課程進学を希望される方は,上図を部屋の壁にでも貼って,気を引き締めていただければと存じます。
いたずらに危機感を煽るものではありませんが,生半可な考えで進学すると,悲惨な末路をたどるハメになる確率が高いことをお知りいただければと存じます。まあ,言わずもがなですが。
でも,修士課程までなら進んでもいいかな,とお思いの方はたくさんおられると思います。9月9日の記事でみたように,大学卒業者の約1割が修士課程に進学しているとみられます。理系の専攻では,修士課程への進学率はもっと高いことでしょう。
8月30日の記事では博士課程修了生,9月9日の記事では大学卒業生の進路(惨状)をみました。今回は,その中間に位置する修士課程修了生の状況にも目配りします。
ただ,先の2つの記事と同じことをベタに繰り返しても面白くありません。私がここにてやろうとしていることは,タイトルのごとく,卒業生・修了生の惨状の度合いが,3つの段階(学部,修士,博士)でどう異なるかを比較することです。どの段階まで進もうかしらん,とお考えの方の参考になればと存じます。
まずは,3段階の卒業生・修了生の進路構成を比べることから始めましょう。2011年の文科省『学校基本調査(高等教育機関編)』によると,同年春の大学卒業者は55万2千人,修士課程修了者は7万5千人,博士課程修了者(単位取得満期退学者含む)は1万6千人です。下図は,各々の進路構成を図示したものです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528
赤色は就職率(非正規含む)ですが,ほう,修士課程修了者が72.3%と最も高くなっています。その分,この段階では,⑤~⑦の無業・死亡・進路不明率が最小です。ざっとみた限りでは,惨状の度合いが最も低いのは,修士課程の修了者のようです。
これをどうみたものでしょう。理系の場合,修士まで出たほうが就職に有利ということをよく聞きますが,理系専攻の修士(Master)らが健闘している,ということでしょうか。大学院の場合,理系専攻の学生が多くを占めますし。
どうやら,専攻別に観察してみる必要がありそうです。細かい専攻分野まで下りると数が少なくなりますので,大まかな専攻系列ごとの統計を出してみましょう。3つの段階について,専攻系列別の無業者率と死亡・進路不明率を計算しました。無業者率とは,上図でいう⑤と⑥の者が全体に占める比率です。死亡・進路不明率は,⑦の者の比率です。
無業者率と死亡・進路不明率の合算値をもって,惨状の度合いのバロメーターとしましょう。全専攻をひっくるめた全体の傾向でいうと,この意味での惨状値は修士課程で最も低くなっています。これは,先の図でみた通りです。
しかるに,様相は専攻によって違っています。学生数が多い理系の専攻は,全体の傾向に即していますが,文系の専攻はさにあらず。人文科学系は,学部→修士→博士と段階を上がるにつれて,惨状の度合いが増していきます。この専攻の場合,両指標の合算値は,学部卒は28.9%,修士卒は36.9%,博士卒は63.2%です。修士と博士の溝が明確ですなあ。
一方,工学専攻の場合は,順に,11.9%,6.7%,27.4%となります。人文系の右上がり型とは違ったV字型(谷型)です。
それぞれの専攻系列について,3段階の変化を可視的に表現してみましょう。横軸に無業者率(⑤+⑥),縦軸に死亡・進路不明率(⑦)をとった座標上に,各専攻の3段階の数値を位置づけて,線で結んでみました。aは学部,bは修士課程,cは博士課程です。
10の専攻の折れ線を一つの座標に盛り込むと,グチャグチャになりますので,2専攻ごとに分けています。なお,中間のbの記号の記載を省略している図もあります。
いかがでしょう。人文系と芸術系は,学士,修士,博士となるにしたがい,右上のデンジャラス(デッド)・ゾーンに昇っていきます。言葉がよくないですが,まさに「昇天」です。人文系では,bとcの距離が大きくなっています。先に申したように,修士と博士の断絶が大きい,ということです。
社会科学系や私が出た教育系は,bとcの垂直方向の距離が大きいようです。これは,博士課程に行くと死亡・進路不明率が殊に高まることを示唆します。
理系の専攻はというと,L字を斜めにしたような型です。修士まではいいが,それより上はヤバイ,ということです。まあ,その程度は文系の専攻に比したら小さいのですが。
以上をもって,卒業・修了生の惨状の段階比較を終わります。人文系,社会系,教育系,および芸術系の分野において,博士課程進学を希望される方は,上図を部屋の壁にでも貼って,気を引き締めていただければと存じます。
2012年9月14日金曜日
東京都内49市区のいじめ発生率
大津市の中学生いじめ自殺事件を受けて,いじめ問題への関心が全国的に高まっています。昨日,東京都教育委員会は,「いじめの実態把握のための緊急調査」の結果を公表しました。今年の4~7月にかけて,都内の公立学校において認知されたいじめの件数が明らかにされています。
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2012/09/20m9d100.htm
上記の期間中に,都内の公立小・中学校では3,433件のいじめが認知されたそうです。正式に認知されずとも,いじめの疑いあると思われるケースは7,042件。合計すると10,475件であり,1万件を超えます。
都の『学校基本調査』の速報結果から分かる,今年の5月1日時点の公立小・中学校の児童生徒数は787,192人です。先ほどのいじめ件数(10,475件)をこれで除すと,13.3‰という比率が得られます。この4か月間で,児童生徒千人あたり13.3件のいじめが起きた計算です。この値をいじめ発生率とし,小学校と中学校とに分けて計算すると,下表のようになります。
予想通りですが,小学校よりも中学校で率が高くなっています。文科省の全国統計でみても,年を問わず,いじめの認知件数は中学校で最も多い傾向があります。学年別にみると,とりわけ中学校1年生の数値が際立っています。このような中学校1年時の危機は,「中1ギャップ」と呼ばれています。
ところで,上記の都教委調査では,上表のaとbが都内の市区町村別に公表されています。各地域の公立小・中学校の児童生徒数(c)は,都の『学校基本調査』から分かります。これらの統計を使えば,都内の地域別にいじめ発生率を計算することができます。
私は,都内の49市区について,公立小学校と中学校のいじめ発生率を明らかにしました。児童生徒数が少ない町村については,率の計算は見送ります。下表は,49市区のいじめ発生率の一覧です。順位も添えています。
いじめの発生率は,地域によって大きく異なります。黄色は最大値,青色は最小値ですが,昭島市の公立小学校のいじめ発生率は,目黒区の55倍にもなります。
なお,都全体の傾向では,中学校の発生率のほうが高いのですが,地域別にみると,それとは違うケースも見受けられます。いじめは,思春期の危機というような心理学的視点で説明されることが多いようですが,それが適合するかどうかは,環境によって一様ではないことが示唆されます。
しかるに,上表の数値が各地域のいじめの発生実態を的確に表現しているのかという,根源的な疑問もあります。上記の都教委調査に際しては,各学校が「今年4月以降のいじめについて,児童・生徒へアンケートを行い,保護者への聞き取り調査も実施した」とされています。しかしながら,「学校によって調査方法が異なるため,極端に認知件数が少ない自治体もあることから,・・・必ずしもいじめの実態を反映しているとは限らない」と都教委も認めています(読売新聞下記サイト記事)。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20120913-OYT8T00933.htm
しからば,ここにて試算した地域別の数値が何の意味もないかというと,そういうことでもなさそうです。公立中学校にあっては,上表のいじめ発生率が高い地域ほど,不登校生徒の出現率が高い傾向にあります。後者の指標は,2010年度間に「不登校」という理由で30日以上欠席した生徒数を,同年の全生徒数で除して出したものです。分子と分母の数値は,都教委『公立学校統計調査報告(学校調査編)』から得ました。
公立中学生の市区別統計を使って,いじめ発生率と不登校生徒出現率の相関図を描くと,下図のようになります。
撹乱はありますが,いじめが多い地域ほど,不登校生徒も多い傾向です。両指標の相関係数は+0.413であり,1%水準で有意と判定されます。小学校段階では,このような相関は検出されませんが,中学校段階では,いじめと不登校の相関が認められます。
次に興味が持たれるのは,いじめ発生率が高い地域はどういう地域か,ということです。この点について,各市区の一人親世帯率や就学援助受給率のような貧困指標を説明変数に充ててみましたが,有意な相関はみられませんでした。また,貧富の差が大きい地域ほどいじめが起きやすいのではないかと考え,昨年の12月22日の記事で計算した,49市区のジニ係数との相関をとってみましたが,こちらも無相関でした。
このほど公表された都教委のいじめ調査結果の信憑性は完全とまではいきませんが,市区町村レベルの数値が公にされたことの意義は大きいと存じます。おそらく,全自治体の中で初ではないでしょうか。
願わくは,文科省の『全国学力・学習状況調査』の結果も,県よりも下った市町村別に知ることができるようになってほしいものです。文科省の学力調査の中には,「いじめは,どんな理由があってもいけいないことだと思うか」など,重要な設問が盛り込まれています。この設問への回答分布を市町村別に知ることができれば,いじめの社会的要因のかなりの部分を解明できるのではないでしょうか。多額の資金を投じて実施する,せっかくの全国調査です。結果を隅から隅までしゃぶり尽くすことができますよう。
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2012/09/20m9d100.htm
上記の期間中に,都内の公立小・中学校では3,433件のいじめが認知されたそうです。正式に認知されずとも,いじめの疑いあると思われるケースは7,042件。合計すると10,475件であり,1万件を超えます。
都の『学校基本調査』の速報結果から分かる,今年の5月1日時点の公立小・中学校の児童生徒数は787,192人です。先ほどのいじめ件数(10,475件)をこれで除すと,13.3‰という比率が得られます。この4か月間で,児童生徒千人あたり13.3件のいじめが起きた計算です。この値をいじめ発生率とし,小学校と中学校とに分けて計算すると,下表のようになります。
予想通りですが,小学校よりも中学校で率が高くなっています。文科省の全国統計でみても,年を問わず,いじめの認知件数は中学校で最も多い傾向があります。学年別にみると,とりわけ中学校1年生の数値が際立っています。このような中学校1年時の危機は,「中1ギャップ」と呼ばれています。
ところで,上記の都教委調査では,上表のaとbが都内の市区町村別に公表されています。各地域の公立小・中学校の児童生徒数(c)は,都の『学校基本調査』から分かります。これらの統計を使えば,都内の地域別にいじめ発生率を計算することができます。
私は,都内の49市区について,公立小学校と中学校のいじめ発生率を明らかにしました。児童生徒数が少ない町村については,率の計算は見送ります。下表は,49市区のいじめ発生率の一覧です。順位も添えています。
いじめの発生率は,地域によって大きく異なります。黄色は最大値,青色は最小値ですが,昭島市の公立小学校のいじめ発生率は,目黒区の55倍にもなります。
なお,都全体の傾向では,中学校の発生率のほうが高いのですが,地域別にみると,それとは違うケースも見受けられます。いじめは,思春期の危機というような心理学的視点で説明されることが多いようですが,それが適合するかどうかは,環境によって一様ではないことが示唆されます。
しかるに,上表の数値が各地域のいじめの発生実態を的確に表現しているのかという,根源的な疑問もあります。上記の都教委調査に際しては,各学校が「今年4月以降のいじめについて,児童・生徒へアンケートを行い,保護者への聞き取り調査も実施した」とされています。しかしながら,「学校によって調査方法が異なるため,極端に認知件数が少ない自治体もあることから,・・・必ずしもいじめの実態を反映しているとは限らない」と都教委も認めています(読売新聞下記サイト記事)。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20120913-OYT8T00933.htm
しからば,ここにて試算した地域別の数値が何の意味もないかというと,そういうことでもなさそうです。公立中学校にあっては,上表のいじめ発生率が高い地域ほど,不登校生徒の出現率が高い傾向にあります。後者の指標は,2010年度間に「不登校」という理由で30日以上欠席した生徒数を,同年の全生徒数で除して出したものです。分子と分母の数値は,都教委『公立学校統計調査報告(学校調査編)』から得ました。
公立中学生の市区別統計を使って,いじめ発生率と不登校生徒出現率の相関図を描くと,下図のようになります。
撹乱はありますが,いじめが多い地域ほど,不登校生徒も多い傾向です。両指標の相関係数は+0.413であり,1%水準で有意と判定されます。小学校段階では,このような相関は検出されませんが,中学校段階では,いじめと不登校の相関が認められます。
次に興味が持たれるのは,いじめ発生率が高い地域はどういう地域か,ということです。この点について,各市区の一人親世帯率や就学援助受給率のような貧困指標を説明変数に充ててみましたが,有意な相関はみられませんでした。また,貧富の差が大きい地域ほどいじめが起きやすいのではないかと考え,昨年の12月22日の記事で計算した,49市区のジニ係数との相関をとってみましたが,こちらも無相関でした。
このほど公表された都教委のいじめ調査結果の信憑性は完全とまではいきませんが,市区町村レベルの数値が公にされたことの意義は大きいと存じます。おそらく,全自治体の中で初ではないでしょうか。
願わくは,文科省の『全国学力・学習状況調査』の結果も,県よりも下った市町村別に知ることができるようになってほしいものです。文科省の学力調査の中には,「いじめは,どんな理由があってもいけいないことだと思うか」など,重要な設問が盛り込まれています。この設問への回答分布を市町村別に知ることができれば,いじめの社会的要因のかなりの部分を解明できるのではないでしょうか。多額の資金を投じて実施する,せっかくの全国調査です。結果を隅から隅までしゃぶり尽くすことができますよう。
2012年9月13日木曜日
職業別の年収と労働時間
前回は,『国勢調査』のデータをもとに,232の職業について,就業者の女性比率と非正規率と明らかにしました。
これは,それぞれの職業従事者の属性分析ですが,各職業の年収や労働時間というような待遇面はどうか,という関心をお持ちの方が多いと思います。事実,職業別の年収ランキングというような類の週刊誌記事が,世間の耳目を集めることがしばしばです。
この問題については,昨年の9月21日の記事でも扱いましたが,そこにおいては,性別や年齢といった要因を統制していません。前回の記事でみたように,職業によって女性比率は大きく違いますし,年齢構成も異なります。たとえば,大学教授などは多くが男性で,大半が40歳以上です。
今回は,性別と年齢を揃えた比較を行うこととします。また,先の記事では,それぞれの職業の月収に注目したのですが,ここでは,賞与などの諸手当をも含んだ「年収」を出してみようと思います。上記リンク先の記事と今回の記事の違いは,このようなものです。
依拠する資料は,2011年の厚労省『賃金構造基本統計調査』です。この資料から,自分が属する30代後半の男性について,118の職業の年収と月あたりの労働時間を明らかにしました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chingin_zenkoku.html
本資料によると,2011年の30代後半男性の高校教員の所定内月収は41.6万円です。同年中の賞与等の平均額は169.6万円。よって,この職業の年収は,(41.6×12か月)+169.6 ≒ 669.0万円と算出されます。ほう。自分と同年齢の高校の先生は,700万円近く稼いでいるのだなあ。顔が浮かぶのが何人かいます。イイナ。
次に,もう一つの勤務条件指標である所定内労働時間はというと,月あたり170時間。月20日勤務とすると,1日あたり8.5時間という計算になります。多忙な先生方からすると,リアリティのかけらもない数字に思えるでしょうが,所定内実労働時間(総実労働時間数から超過実労働時間数を差し引いた時間数)は,このようになっています。
では,他の職業についても,同じ数字をみていただきましょう。118の職業の数値をベタな一覧表で示すというのは芸がないので,前回と同様,2指標のマトリクス上に各職業を位置づけてみます。横軸は労働時間,縦軸は年収です。点線は,118職業の平均値を意味します。
予想通りといいますか,年収のトップは医師です。30代後半にして,年収1,112万円なり。次が歯科医師(865万円),大学教授(860万円),記者(844万円),弁護士(799万円),という具合です。なお,これらの年収ベスト5のうち,弁護士だけは,労働時間が平均よりもかなり長くなっています。
赤字のドットは教員の位置を示唆します。大学の先生は,給与が高い上に,労働時間も短くていいなあ,と思われるかもしれませんが,そう単純な話ではありません。大学教員は,週3~4日出校というのが相場ですが,大学に行かない日だって,自宅で原稿を書いたり,各種の雑務をしたりしています。大学教員にとっては,本を読んで知識を吸収することも,見方によっては,研究という名の「労働」といえるでしょう。こういうことを勘案すると,大学教員のドットは,図の右側に大きくシフトします。まあ,他の専門職でも同じでしょうが。
今回は,30代後半男性のデータをみましたが,もっと年齢を上がれば,労働時間や年収の分布幅はもっと広がることと思います。たとえば,50代後半男性の医師の年収を同じやり方で推し量ると1,669万円にもなります。高校教員は933万円。30代後半時点よりも,差が開いています。
また,女性でみるとどうか,という関心もあるでしょう。30代後半女性の高校教員の年収は589万円であり,先ほどみた男性の額(669万円)とかなりの差がありま。給与の男女差が大きい職業を探り当てるのも,また一興です。後の課題として,取っておきましょう。
これは,それぞれの職業従事者の属性分析ですが,各職業の年収や労働時間というような待遇面はどうか,という関心をお持ちの方が多いと思います。事実,職業別の年収ランキングというような類の週刊誌記事が,世間の耳目を集めることがしばしばです。
この問題については,昨年の9月21日の記事でも扱いましたが,そこにおいては,性別や年齢といった要因を統制していません。前回の記事でみたように,職業によって女性比率は大きく違いますし,年齢構成も異なります。たとえば,大学教授などは多くが男性で,大半が40歳以上です。
今回は,性別と年齢を揃えた比較を行うこととします。また,先の記事では,それぞれの職業の月収に注目したのですが,ここでは,賞与などの諸手当をも含んだ「年収」を出してみようと思います。上記リンク先の記事と今回の記事の違いは,このようなものです。
依拠する資料は,2011年の厚労省『賃金構造基本統計調査』です。この資料から,自分が属する30代後半の男性について,118の職業の年収と月あたりの労働時間を明らかにしました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chingin_zenkoku.html
本資料によると,2011年の30代後半男性の高校教員の所定内月収は41.6万円です。同年中の賞与等の平均額は169.6万円。よって,この職業の年収は,(41.6×12か月)+169.6 ≒ 669.0万円と算出されます。ほう。自分と同年齢の高校の先生は,700万円近く稼いでいるのだなあ。顔が浮かぶのが何人かいます。イイナ。
次に,もう一つの勤務条件指標である所定内労働時間はというと,月あたり170時間。月20日勤務とすると,1日あたり8.5時間という計算になります。多忙な先生方からすると,リアリティのかけらもない数字に思えるでしょうが,所定内実労働時間(総実労働時間数から超過実労働時間数を差し引いた時間数)は,このようになっています。
では,他の職業についても,同じ数字をみていただきましょう。118の職業の数値をベタな一覧表で示すというのは芸がないので,前回と同様,2指標のマトリクス上に各職業を位置づけてみます。横軸は労働時間,縦軸は年収です。点線は,118職業の平均値を意味します。
予想通りといいますか,年収のトップは医師です。30代後半にして,年収1,112万円なり。次が歯科医師(865万円),大学教授(860万円),記者(844万円),弁護士(799万円),という具合です。なお,これらの年収ベスト5のうち,弁護士だけは,労働時間が平均よりもかなり長くなっています。
赤字のドットは教員の位置を示唆します。大学の先生は,給与が高い上に,労働時間も短くていいなあ,と思われるかもしれませんが,そう単純な話ではありません。大学教員は,週3~4日出校というのが相場ですが,大学に行かない日だって,自宅で原稿を書いたり,各種の雑務をしたりしています。大学教員にとっては,本を読んで知識を吸収することも,見方によっては,研究という名の「労働」といえるでしょう。こういうことを勘案すると,大学教員のドットは,図の右側に大きくシフトします。まあ,他の専門職でも同じでしょうが。
今回は,30代後半男性のデータをみましたが,もっと年齢を上がれば,労働時間や年収の分布幅はもっと広がることと思います。たとえば,50代後半男性の医師の年収を同じやり方で推し量ると1,669万円にもなります。高校教員は933万円。30代後半時点よりも,差が開いています。
また,女性でみるとどうか,という関心もあるでしょう。30代後半女性の高校教員の年収は589万円であり,先ほどみた男性の額(669万円)とかなりの差がありま。給与の男女差が大きい職業を探り当てるのも,また一興です。後の課題として,取っておきましょう。
2012年9月12日水曜日
232職業の女性率・非正規率
職業とは,人間のアイデンティティの拠り所となるものですが,現在の日本には,どれくらいの数の職業が存在するのでしょう。2010年の総務省『国勢調査』の職業小分類では,232の職業カテゴリーが設けられ,各々に従事している者の数が計上されています。また,それぞれの職業従事者のうち,女性が何人,非正規形態の就業者が何人ということも分かります。
学校の教員や医師・法曹等について,女性比率と非正規就業者率を計算してみました。非正規就業者とは,「労働者派遣授業所の派遣社員」と「パート・アルバイト・その他」という就業形態カテゴリーを足し合わせたものです。下記サイトの表7-1から数字を採集し,統計をつくりました。抽出速報結果であるため,粗い数字になっていることに注意ください。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001032402&cycode=0
小学校教員は40万8千人。幼稚園から大学までの教員数を合算すると,128万1千人。結構な数ですね。全国民を1億2千万人とすると,国民94人につき1人がこれらの学校の教員ということになります。一方,裁判官や弁護士のような法曹はわずか2万6千人。国民4,598人に1人です。
女性比率をみると,教員では,下の段階の学校ほど値が高くなっています。保育士や幼稚園教員は,9割以上が女性です。小学校が6割,中学校が4割,高校が3割,大学では4人に1人というところです。
下段の3つの職業では,女性比率はさらに低くなっています。現在,「ゴーストママ捜査線」という,女性警官(ユーレイ)が主人公のドラマが放映されていますが,警察官の女性比率は低いのですね。性犯罪やDV被害等,女性警官の対応が望まれるケースも多いとあって,現在,女性警官を増員する方針が打ち出されています。目標値は「1割(10%)」とのこと。
http://www.yomiuri.co.jp/job/news/20120724-OYT8T00785.htm
次に,右欄の非正規率に注目すると,保育士の4割が非正規就業者です。幼稚園教員は18.4%,次に高いのは大学教員で17.9%が非正規教員です。かくいう私は大学非常勤教員ですから,上表の29,600人の中に含まれることになります。法曹や警察官では,さすがに非正規雇用は皆無のようです。
以上は,10の職業のデータですが,232の職業の全てについて,女性比率と非正規率を出してみました。結果を,視覚的な統計図でお見せします。横軸に女性比率,縦軸に非正規率をとった座標上に,232の職業をプロットしてみました。縦長の図になっていますが,これは,職業名をできるだけ多く記載するスペースをとるためのもので,他意はないことを申し添えます。点線は,就業者全体でみた女性率と非正規率を示唆します。
赤のドットは,上表でみた保育士ならびに各学校の教員です。緑色は,医師,法曹,および警察官・海上保安官です。全職業の中での,学校教員の位置を読み取っていただきたいと思います。
しかし,司書・学芸員の非正規率は高いのですねえ。また,介護関係職の非正規率の高さも目につきます。訪問介護職の非正規率は73.5%です。少子高齢化,生涯学習社会化が進行する中,これらの職への需要が高まっていますが,(安上がりの)非正規雇用の増加で対処されていることがうかがわれます。
あなたの職業の位置はどこでしょう。興味ある方は,上記サイトの表7-1から,ご自身の職業の女性率,非正規率を出し,上図のドットのどれに当たるかを突き止めてみてください。10分ほどの作業です。
なお,職業別の労働時間と給与については,昨年の9月21日の記事で明らかにしています。ソースは,2010年の厚労省『賃金構造基本統計調査』です。関心ある方は,ご覧ください。
学校の教員や医師・法曹等について,女性比率と非正規就業者率を計算してみました。非正規就業者とは,「労働者派遣授業所の派遣社員」と「パート・アルバイト・その他」という就業形態カテゴリーを足し合わせたものです。下記サイトの表7-1から数字を採集し,統計をつくりました。抽出速報結果であるため,粗い数字になっていることに注意ください。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001032402&cycode=0
小学校教員は40万8千人。幼稚園から大学までの教員数を合算すると,128万1千人。結構な数ですね。全国民を1億2千万人とすると,国民94人につき1人がこれらの学校の教員ということになります。一方,裁判官や弁護士のような法曹はわずか2万6千人。国民4,598人に1人です。
女性比率をみると,教員では,下の段階の学校ほど値が高くなっています。保育士や幼稚園教員は,9割以上が女性です。小学校が6割,中学校が4割,高校が3割,大学では4人に1人というところです。
下段の3つの職業では,女性比率はさらに低くなっています。現在,「ゴーストママ捜査線」という,女性警官(ユーレイ)が主人公のドラマが放映されていますが,警察官の女性比率は低いのですね。性犯罪やDV被害等,女性警官の対応が望まれるケースも多いとあって,現在,女性警官を増員する方針が打ち出されています。目標値は「1割(10%)」とのこと。
http://www.yomiuri.co.jp/job/news/20120724-OYT8T00785.htm
次に,右欄の非正規率に注目すると,保育士の4割が非正規就業者です。幼稚園教員は18.4%,次に高いのは大学教員で17.9%が非正規教員です。かくいう私は大学非常勤教員ですから,上表の29,600人の中に含まれることになります。法曹や警察官では,さすがに非正規雇用は皆無のようです。
以上は,10の職業のデータですが,232の職業の全てについて,女性比率と非正規率を出してみました。結果を,視覚的な統計図でお見せします。横軸に女性比率,縦軸に非正規率をとった座標上に,232の職業をプロットしてみました。縦長の図になっていますが,これは,職業名をできるだけ多く記載するスペースをとるためのもので,他意はないことを申し添えます。点線は,就業者全体でみた女性率と非正規率を示唆します。
赤のドットは,上表でみた保育士ならびに各学校の教員です。緑色は,医師,法曹,および警察官・海上保安官です。全職業の中での,学校教員の位置を読み取っていただきたいと思います。
しかし,司書・学芸員の非正規率は高いのですねえ。また,介護関係職の非正規率の高さも目につきます。訪問介護職の非正規率は73.5%です。少子高齢化,生涯学習社会化が進行する中,これらの職への需要が高まっていますが,(安上がりの)非正規雇用の増加で対処されていることがうかがわれます。
あなたの職業の位置はどこでしょう。興味ある方は,上記サイトの表7-1から,ご自身の職業の女性率,非正規率を出し,上図のドットのどれに当たるかを突き止めてみてください。10分ほどの作業です。
なお,職業別の労働時間と給与については,昨年の9月21日の記事で明らかにしています。ソースは,2010年の厚労省『賃金構造基本統計調査』です。関心ある方は,ご覧ください。
2012年9月11日火曜日
都道府県別の就学援助受給率
9月7日の記事で申しましたが,『都道府県別・市町村別の教育・社会・経済指標データセット』という電子資料を,文科省より提供いただきました。県別,市町村別に,さまざまな教育指標のほか,教育と関連する各種の社会経済指標も計算することができるスグレモノです。
最近10年ほどの時系列推移も出ているので,関心のある指標の推移を,地域別にたどることも可能です。
さあ,このお宝をどう活用したものでしょう。手始めに,47都道府県の就学援助受給率が最近どう変化してたかを明らかにしてみました。
就学援助とは,義務教育学校の就学年齢(学齢)の子がいる保護者のうち,生活保護法が定める要保護者,ならびにそれに準じる程度に生活が困窮していると認められる準要保護者に対し,学用品費などが援助される制度です。
就学援助受給率とは,就学援助の対象者の子弟(要保護児童生徒,準要保護児童生徒)が,公立の小・中学校の児童生徒のうちどれほどを占めるか,という指標です。県別のトレンドをみる前に,まずは全国の傾向を追ってみましょう(下表)。指標の計算過程についてイメージを持っていただくため,分子,分母のローデータも漏れなく提示いたします。
分子の就学援助受給者数は,最近10年間において,106万人から155万人へと増えました。公立小・中学生あたりの比率(受給率)にすると,9.7%から15.3%に上昇しています。今日では,小・中学生の約7人に1人が就学援助を受けていることになります。
上表は全国の傾向ですが,変化の様相は,都道府県によって異なります。私は,上記のデータセットの統計をもとに,最近10年間の就学援助受給率の変化を,都道府県ごとにたどってみました。グラフにすると,47本の曲線が描かれることになりますが,それは煩雑ですので,ベタな一覧表の形で結果を提示します。資料としてご覧いただければと存じます。
細かいコメントはしませんが,全県中の最大値は大阪,最小値は静岡,というように固定されています。各県の値の高低は,義務教育学校に通うこともままならない貧困児童生徒の量を示していますが,就学援助の認定基準が自治体によってかなり異なる可能性があることもお含みおきください。この点については,9月6日の記事をご覧いただければと思います。
ちなみに,この10年間の増加倍率が最も大きいのは,福島で2.29倍です(4.6%→10.6%)
上記の表を作成するのはかなり大変そうにみえるかもしれませんが,何のことはありません。文科省の上記データセットにおいては,各種のローデータがエクセルファイルに入っています。よって,県別の就学援助受給率に必要な分子(要保護,準要保護児童生徒数)と分母(公立小・中学生数)をコピペし,割り算をするだけで,直ちに目的を達成できました。所要時間10分。これは便利!
これで終わりというのは芸がないので,2010年の県別数値を地図化しておきましょう。10%未満,10%以上15%未満,15%以上20%未満,20%以上,という4つの階級を設けて,各県を塗り分けてみました。黒色は,20%(5人に1人)を超える県です。北海道,東京,大阪,広島,山口,高知,および福岡が該当します。
これからも随時,上記データセットから地域別の諸指標の変化を計算し,資料としてご覧に入れようと存じます。ただし,私は気まぐれですので,約束が履行されるかどうかは分かりません。データセットをご希望の方は,文科省生涯学習政策局調査企画課に申請なさってください。簡単な手続きにて,無償でブツを送ってくれます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/1322611.htm
最近10年ほどの時系列推移も出ているので,関心のある指標の推移を,地域別にたどることも可能です。
さあ,このお宝をどう活用したものでしょう。手始めに,47都道府県の就学援助受給率が最近どう変化してたかを明らかにしてみました。
就学援助とは,義務教育学校の就学年齢(学齢)の子がいる保護者のうち,生活保護法が定める要保護者,ならびにそれに準じる程度に生活が困窮していると認められる準要保護者に対し,学用品費などが援助される制度です。
就学援助受給率とは,就学援助の対象者の子弟(要保護児童生徒,準要保護児童生徒)が,公立の小・中学校の児童生徒のうちどれほどを占めるか,という指標です。県別のトレンドをみる前に,まずは全国の傾向を追ってみましょう(下表)。指標の計算過程についてイメージを持っていただくため,分子,分母のローデータも漏れなく提示いたします。
分子の就学援助受給者数は,最近10年間において,106万人から155万人へと増えました。公立小・中学生あたりの比率(受給率)にすると,9.7%から15.3%に上昇しています。今日では,小・中学生の約7人に1人が就学援助を受けていることになります。
上表は全国の傾向ですが,変化の様相は,都道府県によって異なります。私は,上記のデータセットの統計をもとに,最近10年間の就学援助受給率の変化を,都道府県ごとにたどってみました。グラフにすると,47本の曲線が描かれることになりますが,それは煩雑ですので,ベタな一覧表の形で結果を提示します。資料としてご覧いただければと存じます。
細かいコメントはしませんが,全県中の最大値は大阪,最小値は静岡,というように固定されています。各県の値の高低は,義務教育学校に通うこともままならない貧困児童生徒の量を示していますが,就学援助の認定基準が自治体によってかなり異なる可能性があることもお含みおきください。この点については,9月6日の記事をご覧いただければと思います。
ちなみに,この10年間の増加倍率が最も大きいのは,福島で2.29倍です(4.6%→10.6%)
上記の表を作成するのはかなり大変そうにみえるかもしれませんが,何のことはありません。文科省の上記データセットにおいては,各種のローデータがエクセルファイルに入っています。よって,県別の就学援助受給率に必要な分子(要保護,準要保護児童生徒数)と分母(公立小・中学生数)をコピペし,割り算をするだけで,直ちに目的を達成できました。所要時間10分。これは便利!
これで終わりというのは芸がないので,2010年の県別数値を地図化しておきましょう。10%未満,10%以上15%未満,15%以上20%未満,20%以上,という4つの階級を設けて,各県を塗り分けてみました。黒色は,20%(5人に1人)を超える県です。北海道,東京,大阪,広島,山口,高知,および福岡が該当します。
これからも随時,上記データセットから地域別の諸指標の変化を計算し,資料としてご覧に入れようと存じます。ただし,私は気まぐれですので,約束が履行されるかどうかは分かりません。データセットをご希望の方は,文科省生涯学習政策局調査企画課に申請なさってください。簡単な手続きにて,無償でブツを送ってくれます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/1322611.htm
2012年9月9日日曜日
大学卒業者の無業者率,死亡・進路不明率
8月30日の記事では,大学院博士課程修了者の無業率,死亡・進路不明率を明らかにしました。この記事に興味をもってくださる方が多いようですが,博士課程修了者は,数的にはごくわずかです。文科省の『学校基本調査(高等教育機関編)』によると,2011年春の修了生は16,248人。同世代の100人に1人というところでしょう。
それに比べて,同年春の大学卒業者は552,358人と,それよりもはるかに多くなっています。34倍です。それもそのはず。今日,大学進学率は50%を超えています。博士課程修了者は100人に1人ほどでしょうが,大学卒業者は2人に1人です。
今日では,多くの若者にとって,学校から職業への移行(Transition from School to Work)を期待されるのは,大学卒業時点(22歳の時点)であるとみてよいでしょう。世人,とりわけ子を持つ親御さんが関心をお持ちなのは,大学卒業者の進路(行く末)がどうなのか,ということではないでしょうか。
今回は,大学卒業者について,上記の記事と同じ分析をしてみようと思います。大学卒業者の場合,博士課程修了者ほどの惨状は観察されないでしょうが,どれほどの無業者率,死亡・進路不明率が出てくるでしょうか。また,細かい学科別にみるとどうでしょうか。この点に関するデータをご覧に入れようと存じます。
まずは,2011年春の大学卒業者55万2千人の進路構成を概観することから始めましょう。2011年調査では,7つの進路カテゴリーが設けられています。その構成を円グラフにしました。
就職が61.6%と多くを占めます。この中には非正規就職も含まれますが,今日の大卒者の就職率は6割ですか。進学は12.8%です。ほとんどが大学院への進学者でしょう。
次に,おめでたくない部分に目をやると,⑤と⑥と合わせた無業者が19.4%います。約2割。なるほど。新聞等で,大卒者の5人に1人が無業といわれますが,それに合致する数字です。死亡・進路不明者は2.4%,実数にすると,13,541人。このうち,死亡者というのはほぼ皆無でしょうが,就職失敗を苦にした大学生の自殺が取りざたされているご時世です。もしかしたら,侮れない数かもしれません。仮に1%だとしたら135人,0.1%だとしたら13人となります。
5人に1人が無業,42人に1人が死亡・進路不明。これが大卒者全体の傾向です。では,博士課程修了者の場合と同様,細かい学科別の数字を出してみましょう。私は,大卒者の無業者率と死亡・進路不明率を,63の専攻ごとに明らかにしました。下記サイトの表77より必要な数字を採取し,率を計算しました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037175&cycode=0
下図は,横軸に無業者率,縦軸に死亡・進路不明率をとった座標上に,63の学科をプロットしたものです。縦長の図になっていますが,これは,学科名を書き込むスペースをとるためのもので,他意はございません。ブログの幅の関係上,ヨコには伸ばせないので,タテに伸ばした次第です。
点線は,大学卒業者全体でみた比率を示唆します。右上には,音楽,美術,デザインといった芸術系の学科が位置しています。音楽学科卒業者の場合,無業率は37.7%,死亡・進路不明率は6.9%です。5人に2人が無業,14人に1人が死亡・進路不明です。ゲージュツの道は厳しい。
中央付近よりも右上には,人文科学系や社会科学系の学科が群がっています。赤色は人文系のメイン3学科,緑色は社会系のメイン3学科です。数が多い文学関係学科卒業生の場合,無業率は26.0%,死亡・進路不明率は3.5%。約分すると,4人に1人が無業,29人に1人が死亡・進路不明ということになります。
法学・政治学関係学科卒業生は,博士課程修了生と同様,死亡・進路不明率が高いのですが(4.5%),これは,司法試験浪人の存在ゆえでしょうか。しかし,この手の輩は,上記円グラフの⑥のカテゴリーに含まれるような気もしますが,どうなのでしょう。
それはさておいて,図の左下には,理系の学科が多く位置しています。無業率,死亡・進路不明率とも低い「安泰」ゾーンです。まあ,理系の場合,大学院に進学する者が多いこともあるでしょうが。
いかがでしょう。8月30日の図は,同世代の100人に1人にしか関係のないものですが,今回の図は,同世代の2人に1人が関係するものです。とくとご覧ください。
ちなみに,学科は度外視して,47の都道府県を上記マトリクス上に散りばめると,どういう図柄になるでしょう。大卒者の無業率が県によってかなり異なるのは,昨年の2月8日の記事でみた通りですが,死亡・進路不明率という軸も加味した2次元の上で,47都道府県の大卒者の状況を評価するのもまた一興です。後の課題といたします。
それに比べて,同年春の大学卒業者は552,358人と,それよりもはるかに多くなっています。34倍です。それもそのはず。今日,大学進学率は50%を超えています。博士課程修了者は100人に1人ほどでしょうが,大学卒業者は2人に1人です。
今日では,多くの若者にとって,学校から職業への移行(Transition from School to Work)を期待されるのは,大学卒業時点(22歳の時点)であるとみてよいでしょう。世人,とりわけ子を持つ親御さんが関心をお持ちなのは,大学卒業者の進路(行く末)がどうなのか,ということではないでしょうか。
今回は,大学卒業者について,上記の記事と同じ分析をしてみようと思います。大学卒業者の場合,博士課程修了者ほどの惨状は観察されないでしょうが,どれほどの無業者率,死亡・進路不明率が出てくるでしょうか。また,細かい学科別にみるとどうでしょうか。この点に関するデータをご覧に入れようと存じます。
まずは,2011年春の大学卒業者55万2千人の進路構成を概観することから始めましょう。2011年調査では,7つの進路カテゴリーが設けられています。その構成を円グラフにしました。
就職が61.6%と多くを占めます。この中には非正規就職も含まれますが,今日の大卒者の就職率は6割ですか。進学は12.8%です。ほとんどが大学院への進学者でしょう。
次に,おめでたくない部分に目をやると,⑤と⑥と合わせた無業者が19.4%います。約2割。なるほど。新聞等で,大卒者の5人に1人が無業といわれますが,それに合致する数字です。死亡・進路不明者は2.4%,実数にすると,13,541人。このうち,死亡者というのはほぼ皆無でしょうが,就職失敗を苦にした大学生の自殺が取りざたされているご時世です。もしかしたら,侮れない数かもしれません。仮に1%だとしたら135人,0.1%だとしたら13人となります。
5人に1人が無業,42人に1人が死亡・進路不明。これが大卒者全体の傾向です。では,博士課程修了者の場合と同様,細かい学科別の数字を出してみましょう。私は,大卒者の無業者率と死亡・進路不明率を,63の専攻ごとに明らかにしました。下記サイトの表77より必要な数字を採取し,率を計算しました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037175&cycode=0
下図は,横軸に無業者率,縦軸に死亡・進路不明率をとった座標上に,63の学科をプロットしたものです。縦長の図になっていますが,これは,学科名を書き込むスペースをとるためのもので,他意はございません。ブログの幅の関係上,ヨコには伸ばせないので,タテに伸ばした次第です。
点線は,大学卒業者全体でみた比率を示唆します。右上には,音楽,美術,デザインといった芸術系の学科が位置しています。音楽学科卒業者の場合,無業率は37.7%,死亡・進路不明率は6.9%です。5人に2人が無業,14人に1人が死亡・進路不明です。ゲージュツの道は厳しい。
中央付近よりも右上には,人文科学系や社会科学系の学科が群がっています。赤色は人文系のメイン3学科,緑色は社会系のメイン3学科です。数が多い文学関係学科卒業生の場合,無業率は26.0%,死亡・進路不明率は3.5%。約分すると,4人に1人が無業,29人に1人が死亡・進路不明ということになります。
法学・政治学関係学科卒業生は,博士課程修了生と同様,死亡・進路不明率が高いのですが(4.5%),これは,司法試験浪人の存在ゆえでしょうか。しかし,この手の輩は,上記円グラフの⑥のカテゴリーに含まれるような気もしますが,どうなのでしょう。
それはさておいて,図の左下には,理系の学科が多く位置しています。無業率,死亡・進路不明率とも低い「安泰」ゾーンです。まあ,理系の場合,大学院に進学する者が多いこともあるでしょうが。
いかがでしょう。8月30日の図は,同世代の100人に1人にしか関係のないものですが,今回の図は,同世代の2人に1人が関係するものです。とくとご覧ください。
ちなみに,学科は度外視して,47の都道府県を上記マトリクス上に散りばめると,どういう図柄になるでしょう。大卒者の無業率が県によってかなり異なるのは,昨年の2月8日の記事でみた通りですが,死亡・進路不明率という軸も加味した2次元の上で,47都道府県の大卒者の状況を評価するのもまた一興です。後の課題といたします。
2012年9月7日金曜日
都道府県・市町村別の教育・社会・経済指標データセット
統計資料の紹介です。やや長ったらしい名前ですが,『都道府県・市町村別の教育・社会・経済指標データセット』というものが,文科省より提供されています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/1322611.htm
詳細は上記サイトをご覧いただければと思いますが,タイトルのごとく,県別・市町村別に,各種の教育・社会・経済指標が掲載されています。前回の記事では,就学援助受給率を都道府県別に出したのですが,元データは,本資料より得ました。
下の写真は,分子として用いた,要保護児童生徒数の部分です。
写真から分かると思いますが,最近10年間ほどの時系列データも載っています。これは便利!。その気になれば,各都道府県ごとに,最近の就学援助率の推移をたどることができます。
ほかにも,有用なデータが満載です。教育や子どもの発達と関連すると思われる,各種の社会・経済指標の計算に必要な数値もついています。前回の記事では,市区町村別の課税所得額,一人親世帯率を計算しましたが,分子・分母のローデータは,この資料からコピペしました。
データがエクセルに収められているので,入力の手間はかかりません。必要なデータをコピペして,割り算などをするだけで,目的の指標を計算することができます。
欲しいですか?欲しいでしょう。そういう方は,文科省生涯学習政策局調査企画課に電話すれば,利用申請書を送ってくれます。それに必要事項を記入し,送付するだけでOK。3~4日ほどで現物(CD-R)が送られてきます。費用は,申請書送付代(80円切手)のみ。データセットそのものは無償。これはオトクです。
申請者には,上の写真のようなブツが送られてきます。これで,マクロな地域データを使った,さまざまな分析が自前で行えるようになります。修業中の大学院生の方に申したいのですが,安易にアンケートなどをしようと考える前に,まずは,こういう既存データをしゃぶり尽くすことが大切です。本データセットは,研究のみならず,調査関係の授業の教材にも使えるでしょう。
私が上記サイトをみて,本データセットの入手方法を電話で問い合わせたところ,担当者は「??」という反応でした。おそらく,利用申請が少ないのではないかと思われます。これはモッタイナイ。入手希望の方は,文科省生涯学習政策局調査企画課にお電話を。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/1322611.htm
詳細は上記サイトをご覧いただければと思いますが,タイトルのごとく,県別・市町村別に,各種の教育・社会・経済指標が掲載されています。前回の記事では,就学援助受給率を都道府県別に出したのですが,元データは,本資料より得ました。
下の写真は,分子として用いた,要保護児童生徒数の部分です。
写真から分かると思いますが,最近10年間ほどの時系列データも載っています。これは便利!。その気になれば,各都道府県ごとに,最近の就学援助率の推移をたどることができます。
ほかにも,有用なデータが満載です。教育や子どもの発達と関連すると思われる,各種の社会・経済指標の計算に必要な数値もついています。前回の記事では,市区町村別の課税所得額,一人親世帯率を計算しましたが,分子・分母のローデータは,この資料からコピペしました。
データがエクセルに収められているので,入力の手間はかかりません。必要なデータをコピペして,割り算などをするだけで,目的の指標を計算することができます。
欲しいですか?欲しいでしょう。そういう方は,文科省生涯学習政策局調査企画課に電話すれば,利用申請書を送ってくれます。それに必要事項を記入し,送付するだけでOK。3~4日ほどで現物(CD-R)が送られてきます。費用は,申請書送付代(80円切手)のみ。データセットそのものは無償。これはオトクです。
申請者には,上の写真のようなブツが送られてきます。これで,マクロな地域データを使った,さまざまな分析が自前で行えるようになります。修業中の大学院生の方に申したいのですが,安易にアンケートなどをしようと考える前に,まずは,こういう既存データをしゃぶり尽くすことが大切です。本データセットは,研究のみならず,調査関係の授業の教材にも使えるでしょう。
私が上記サイトをみて,本データセットの入手方法を電話で問い合わせたところ,担当者は「??」という反応でした。おそらく,利用申請が少ないのではないかと思われます。これはモッタイナイ。入手希望の方は,文科省生涯学習政策局調査企画課にお電話を。
2012年9月6日木曜日
首都圏の市区町村別の就学援助受給率
学齢(6~14歳)の子を持つ保護者は,当該の子を義務教育学校に就学させるこを義務づけられています。これを就学義務といいます。
しかし,この義務を履行するには,何かとお金がかかります。公立の小・中学校の場合,授業料はタダですが,各種の学用品,給食費,諸行事参加費(遠足,修学旅行・・・)など,結構物入りです。このご時世ですので,こうした費用負担ができないという親御さんもいることでしょう。*教育費の内訳については,5月31日の記事をご覧ください。
そこで学校教育法第19条は,「経済的理由によつて,就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては,市町村は,必要な援助を与えなければならない」と定めています。これがいわゆる,就学援助です。
就学援助の対象となるのは,生活保護法が定める要保護者,およびそれに準じる程度に生活が困窮していると認められる準要保護者です。その子ども(学齢)は,要保護児童生徒,準要保護児童生徒と呼ばれます。
近年,就学援助を受けている要保護・準要保護児童生徒が増えてきています。2001年では106万人でしたが,2010年現在では155万人です(文科省『都道府県・市町村別の教育・社会・経済指標データセット』2012年)。この10年間で,就学援助受給者が約1.5倍に増えたことになります。
2010年の公立小・中学校の全児童生徒数は1,014万人ほどですから,学齢の子どもの15.3%(7人に1人)が就学援助を受けている計算になります。以下では,この値を就学援助受給率ということにしましょう。
さて,この15.3%というのは全国統計でみた就学援助受給率ですが,地域別にみると値はかなり変異します。2010年の都道府県別の受給率を出すと,最低の5.6%(静岡)から最高の28.1%(大阪)まで,大きな開きがあります。静岡では18人に1人ですが,大阪は4人に1人です。
ここまでは,新聞等のメディアでもよく報じられるところですが,都道府県よりも下った市区町村別にみると,もっと広い分布がみられることと思います。この点を明らかにするのが,今回の課題です。
各県内の市区町村別の要保護・準要保護児童生徒数が分かる資料がないものかと探したところ,文科省『平成21年度・要保護及び準要保護児童生徒数について(学用品費等)』というものを見つけました。何と何と,全県内の市区町村別の数字が漏れなく掲載されているではありませんか。また,分母として使う,公立小・中学校児童生徒数も併せて載っています。これはスゴイ!。
私はこの資料をもとに,首都圏(埼玉,千葉,東京,神奈川)の213市区町村の就学援助受給率を計算しました。このように細かい地域ごとにみると,値はかなり多様です。結果をどうお見せしようか迷いますが,5%区分で塗り分けた地図(東京の島嶼部は除く)をご覧に入れましょう。
百聞は一見に如かず。細かいコメントは控えますが,東京は全体的に色が濃くなっていますね。23区のほとんどは黒色(20%超)です。一方,千葉はといえば,15%を超える地域はありません。213市区町村中の最大値は,東京の某区の38.2%でした。およそ5人に2人が就学援助受給者です。
このような地域差がなぜ生まれるのでしょう。常識的に考えられるのは,子どもを義務教育学校にやるのもままならない貧困層が多い地域ほど,就学援助受給率が高い,ということです。
この点を確認してみましょう。各地域の住民の富裕度を測る代表的な指標は所得ですが,住民1人あたり所得のような指標を市区町村別に得ることはできません。そこで,次善の策として,税務統計を使ってみます。
文科省の上記データセットから,課税対象となった所得の総額を市区町村別に知ることができます。私が住んでいる多摩市の場合,2,720億5,400万円です(2009年度)。同年の納税義務者数は7万943人。したがって,納税義務者1人あたりの課税対象所得額は383.5万円となります。この値が高い地域ほど,住民の富裕度が高いと考えてよいでしょう。
私はこの指標を213市区町村について出し,各々の就学援助受給率との相関をとってみました。下図は相関図です。なお,1人あたりの課税対象所得額が際立って高い3区(東京都内)は,図には含めていないことを申し添えます。
相関係数は+0.325であり,統計的に有意な正の相関です。むむ。これはどういうことでしょう。課税対象所得額が高い地域(富裕地域)ほど,就学援助受給率が高い傾向が検出されました。常識的に考えれば,両指標は負の相関を呈するはずなのですが・・・。
住民の富裕度を計測する指標として,1人あたりの課税対象所得額はマズかったということでしょうか。しからば,母子・父子世帯が一般世帯総数に占める比率(一人親世帯率)を充ててみるとどうでしょう。出所は,2010年の『国勢調査』です。
213市区町村のデータを使って,一人親世帯率と就学援助受給率の相関係数を出すと-0.133です。これは無相関と判断されます。一人親世帯が多い地域ほど就学援助受給率が高い,という傾向はみられません。
むーん。首都圏の213市区町村のデータでみる限り,貧困と就学援助の関連は明確ではありません。となると,先の地図でみたような地域差は,各市区町村の就学援助認定基準の違い,というような要因によるものでしょうか。
2009年10月26日の朝日新聞に,「就学援助,自治体で格差」と題する記事が載っていますが,そこでは,このような見方がとられています。就学援助制度の周知や啓発に熱心に取り組んでいる自治体もあれば,そうでない自治体もあるとのこと。
http://www.asahi.com/edu/tokuho/TKY200910260123.html
記事で紹介されている調査結果によると,小規模な自治体ほど,この種の活動の徹底の度合いが低いそうです。「小規模な自治体では,援助を受けるべき児童や生徒の捕捉ができていない。底抜け状態」といわれています。
なるほど。ここで使っている213市区町村のデータから,人口と就学援助受給率の相関係数を出すと+0.293であり,有意な正の相関です。上記の新聞記事に即していうと,就学援助制度の周知に熱心な大規模自治体ほど,就学援助受給率が高い,ということになります。
また記事によると,財政が厳しい自治体では,援助の認定基準が引き上げられる,制度の周知活動がなおざりにされるなどの傾向があるそうな。こうみると,上記の相関図は別の視点から読めます。税収が多く,財政が相対的に豊かな地域ほど,就学援助の認定基準を緩和し,周知活動も徹底することから,就学援助受給率が高くなると。上記マップの黒色(受給率2割超)の地域には,東京の港区のような,1人あたり課税対象所得額が1千万を超える地域も含まれます。
ここで明らかにしたことを総括すると,就学援助制度はうまく機能していないのではないでしょうか。貧困家庭の救済という,本来の機能が全うされているなら,貧困指標と就学援助受給率との間には明瞭な正の相関関係がみられるはずです。しかし現実はそうではなく,制度運用者のさじ加減がモノをいうような状況になっています。上記新聞記事中の言葉を借りると,「就学援助制度がうまく活用されていない」状況です。
就学援助の実施主体は市町村ですが,市町村が負担した援助費用の半分は国が補助する定めとなっています。しかるに,2005年度以降,準要保護者に対する援助費用の国庫補助は廃止されました。就学援助の対象者は,要保護者と準要保護者ですが,数的には後者が多くを占めます,このような改革は,各市区町村にとって痛手になっているのではないでしょうか。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/05010502/017.htm
貧困指標と就学援助率の無相関(逆相関)という奇妙な傾向が,最近に固有のものなのかどうか。この点を追究することが今後の課題です。過去の市区町村別の援助受給率を計算するための資料が見当たらないのですが,見つかり次第,手がけてみようと思っています。
しかし,この義務を履行するには,何かとお金がかかります。公立の小・中学校の場合,授業料はタダですが,各種の学用品,給食費,諸行事参加費(遠足,修学旅行・・・)など,結構物入りです。このご時世ですので,こうした費用負担ができないという親御さんもいることでしょう。*教育費の内訳については,5月31日の記事をご覧ください。
そこで学校教育法第19条は,「経済的理由によつて,就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては,市町村は,必要な援助を与えなければならない」と定めています。これがいわゆる,就学援助です。
就学援助の対象となるのは,生活保護法が定める要保護者,およびそれに準じる程度に生活が困窮していると認められる準要保護者です。その子ども(学齢)は,要保護児童生徒,準要保護児童生徒と呼ばれます。
近年,就学援助を受けている要保護・準要保護児童生徒が増えてきています。2001年では106万人でしたが,2010年現在では155万人です(文科省『都道府県・市町村別の教育・社会・経済指標データセット』2012年)。この10年間で,就学援助受給者が約1.5倍に増えたことになります。
2010年の公立小・中学校の全児童生徒数は1,014万人ほどですから,学齢の子どもの15.3%(7人に1人)が就学援助を受けている計算になります。以下では,この値を就学援助受給率ということにしましょう。
さて,この15.3%というのは全国統計でみた就学援助受給率ですが,地域別にみると値はかなり変異します。2010年の都道府県別の受給率を出すと,最低の5.6%(静岡)から最高の28.1%(大阪)まで,大きな開きがあります。静岡では18人に1人ですが,大阪は4人に1人です。
ここまでは,新聞等のメディアでもよく報じられるところですが,都道府県よりも下った市区町村別にみると,もっと広い分布がみられることと思います。この点を明らかにするのが,今回の課題です。
各県内の市区町村別の要保護・準要保護児童生徒数が分かる資料がないものかと探したところ,文科省『平成21年度・要保護及び準要保護児童生徒数について(学用品費等)』というものを見つけました。何と何と,全県内の市区町村別の数字が漏れなく掲載されているではありませんか。また,分母として使う,公立小・中学校児童生徒数も併せて載っています。これはスゴイ!。
私はこの資料をもとに,首都圏(埼玉,千葉,東京,神奈川)の213市区町村の就学援助受給率を計算しました。このように細かい地域ごとにみると,値はかなり多様です。結果をどうお見せしようか迷いますが,5%区分で塗り分けた地図(東京の島嶼部は除く)をご覧に入れましょう。
百聞は一見に如かず。細かいコメントは控えますが,東京は全体的に色が濃くなっていますね。23区のほとんどは黒色(20%超)です。一方,千葉はといえば,15%を超える地域はありません。213市区町村中の最大値は,東京の某区の38.2%でした。およそ5人に2人が就学援助受給者です。
このような地域差がなぜ生まれるのでしょう。常識的に考えられるのは,子どもを義務教育学校にやるのもままならない貧困層が多い地域ほど,就学援助受給率が高い,ということです。
この点を確認してみましょう。各地域の住民の富裕度を測る代表的な指標は所得ですが,住民1人あたり所得のような指標を市区町村別に得ることはできません。そこで,次善の策として,税務統計を使ってみます。
文科省の上記データセットから,課税対象となった所得の総額を市区町村別に知ることができます。私が住んでいる多摩市の場合,2,720億5,400万円です(2009年度)。同年の納税義務者数は7万943人。したがって,納税義務者1人あたりの課税対象所得額は383.5万円となります。この値が高い地域ほど,住民の富裕度が高いと考えてよいでしょう。
私はこの指標を213市区町村について出し,各々の就学援助受給率との相関をとってみました。下図は相関図です。なお,1人あたりの課税対象所得額が際立って高い3区(東京都内)は,図には含めていないことを申し添えます。
相関係数は+0.325であり,統計的に有意な正の相関です。むむ。これはどういうことでしょう。課税対象所得額が高い地域(富裕地域)ほど,就学援助受給率が高い傾向が検出されました。常識的に考えれば,両指標は負の相関を呈するはずなのですが・・・。
住民の富裕度を計測する指標として,1人あたりの課税対象所得額はマズかったということでしょうか。しからば,母子・父子世帯が一般世帯総数に占める比率(一人親世帯率)を充ててみるとどうでしょう。出所は,2010年の『国勢調査』です。
213市区町村のデータを使って,一人親世帯率と就学援助受給率の相関係数を出すと-0.133です。これは無相関と判断されます。一人親世帯が多い地域ほど就学援助受給率が高い,という傾向はみられません。
むーん。首都圏の213市区町村のデータでみる限り,貧困と就学援助の関連は明確ではありません。となると,先の地図でみたような地域差は,各市区町村の就学援助認定基準の違い,というような要因によるものでしょうか。
2009年10月26日の朝日新聞に,「就学援助,自治体で格差」と題する記事が載っていますが,そこでは,このような見方がとられています。就学援助制度の周知や啓発に熱心に取り組んでいる自治体もあれば,そうでない自治体もあるとのこと。
http://www.asahi.com/edu/tokuho/TKY200910260123.html
記事で紹介されている調査結果によると,小規模な自治体ほど,この種の活動の徹底の度合いが低いそうです。「小規模な自治体では,援助を受けるべき児童や生徒の捕捉ができていない。底抜け状態」といわれています。
なるほど。ここで使っている213市区町村のデータから,人口と就学援助受給率の相関係数を出すと+0.293であり,有意な正の相関です。上記の新聞記事に即していうと,就学援助制度の周知に熱心な大規模自治体ほど,就学援助受給率が高い,ということになります。
また記事によると,財政が厳しい自治体では,援助の認定基準が引き上げられる,制度の周知活動がなおざりにされるなどの傾向があるそうな。こうみると,上記の相関図は別の視点から読めます。税収が多く,財政が相対的に豊かな地域ほど,就学援助の認定基準を緩和し,周知活動も徹底することから,就学援助受給率が高くなると。上記マップの黒色(受給率2割超)の地域には,東京の港区のような,1人あたり課税対象所得額が1千万を超える地域も含まれます。
ここで明らかにしたことを総括すると,就学援助制度はうまく機能していないのではないでしょうか。貧困家庭の救済という,本来の機能が全うされているなら,貧困指標と就学援助受給率との間には明瞭な正の相関関係がみられるはずです。しかし現実はそうではなく,制度運用者のさじ加減がモノをいうような状況になっています。上記新聞記事中の言葉を借りると,「就学援助制度がうまく活用されていない」状況です。
就学援助の実施主体は市町村ですが,市町村が負担した援助費用の半分は国が補助する定めとなっています。しかるに,2005年度以降,準要保護者に対する援助費用の国庫補助は廃止されました。就学援助の対象者は,要保護者と準要保護者ですが,数的には後者が多くを占めます,このような改革は,各市区町村にとって痛手になっているのではないでしょうか。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/05010502/017.htm
貧困指標と就学援助率の無相関(逆相関)という奇妙な傾向が,最近に固有のものなのかどうか。この点を追究することが今後の課題です。過去の市区町村別の援助受給率を計算するための資料が見当たらないのですが,見つかり次第,手がけてみようと思っています。
2012年9月4日火曜日
専攻別にみた博士課程修了生の惨状(補正)
8月30日の記事では,大学院博士課程修了生の無業者率,死亡・進路不明率を細かい専攻ごとに出したのですが,この記事をみてくださる方が多いようです。
いただいたコメントやツイッター上でのつぶやきを拝見したところ,上記記事の分析には,いくつかの不備があることに気づきました。また,不適切な解釈もあります。今回は,その補正をしようと思います。
文科省の『学校基本調査』では,博士課程修了生(単位取得退学者含む)の進路状況が調査されています。そこにて設けられている進路カテゴリーは,以下のようです。8月30日の記事でも紹介しましたが,重複を厭わず再掲いたします。
①:進学
②:正規就職
③:非正規就職
④:臨床研修医
⑤:専修学校・外国の学校等入学
⑥:一時的な仕事
⑦:左記以外の者
⑧:死亡・進路不明
先の記事では,無業者率(⑥~⑧の者の比率)と進路・死亡不明率(⑧の者の比率)を計算したのですが,後者が前者の内数に含まれるのはおかしなことです。⑧は,3月修了生のうち,『学校基本調査』の調査時点(5月)までの間に死亡が確認された者,あるいは進路が不明という者のことです。よって無業者と確定した者ではありません。
今回は,⑥と⑦の者の比率をもって,無業者率ということにします。死亡・進路不明率は,先の記事と同様,⑧の者の比率です。
では,2011年3月の修了生(単位取得退学者含む)について,無業者率と進路・死亡不明率を,専攻ごとに再計算してみます。データ・ソースは,下記サイトの表86です。2012年3月修了生のデータも公表されていますが,こちらは速報値ですので,細かい専攻ごとの数値はまだ公表されていません。よって前年の統計を用います。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037176&cycode=0
下図は,修了生数が100人超の30の専攻を,無業者率と死亡・進路不明率のマトリクス上に位置づけたものです。点線は,博士課程修了者全体でみた比率です。
図の形状は,8月30日の記事のものと変わりありませんが,無業者率の水準が異なっています。無業者率が最も高いのは,人文科学系のその他(文学,史学,哲学以外の専攻)の47.9%です。縦軸の死亡・進路不明率の最高値は,法学・政治学の29.2%です。
ただ,法学・政治学専攻の進路不明率の高さは,司法試験浪人が多いためではないか,という疑いが持たれます。しかし,司法浪人という者は上記進路カテゴリーの⑦に含まれるような気もします。いや,そういう人の多くは,進路届けそのものを出さないのでしょうか・・・。
それはさておいて,横軸と縦軸の双方から評価すると,やはり,文学,史学,そして法学・政治学専攻の惨状が際立っています。とある方は,ツイッター上で「史学」を「死学」と表現されていましたが,うまいなあと思いました。
さて,8月30日の記事と同じく,傾向を手短なフレーズでまとめましょう。博士課程修了者全体では,4人に1人が無業者,10人に1人が死亡・進路不明者です。しかし,2人に1人が無業者,3人に1人が死亡・進路不明者,という専攻もあります。
あと一点,2012年3月修了生の統計では,細かい専攻ごとの数字が公表されていないのですが,これはまだ速報の段階であるからで,正式発表の統計では,おそらく専攻別のデータも出されると思います。先の記事では,当局が隠ぺいを図っているのではないかと邪推しましたが,それは取り消したいと思います。
8月30日の記事に対し,コメントやツイッターにて,多くのご指摘をいただきました。感謝申します。
いただいたコメントやツイッター上でのつぶやきを拝見したところ,上記記事の分析には,いくつかの不備があることに気づきました。また,不適切な解釈もあります。今回は,その補正をしようと思います。
文科省の『学校基本調査』では,博士課程修了生(単位取得退学者含む)の進路状況が調査されています。そこにて設けられている進路カテゴリーは,以下のようです。8月30日の記事でも紹介しましたが,重複を厭わず再掲いたします。
①:進学
②:正規就職
③:非正規就職
④:臨床研修医
⑤:専修学校・外国の学校等入学
⑥:一時的な仕事
⑦:左記以外の者
⑧:死亡・進路不明
先の記事では,無業者率(⑥~⑧の者の比率)と進路・死亡不明率(⑧の者の比率)を計算したのですが,後者が前者の内数に含まれるのはおかしなことです。⑧は,3月修了生のうち,『学校基本調査』の調査時点(5月)までの間に死亡が確認された者,あるいは進路が不明という者のことです。よって無業者と確定した者ではありません。
今回は,⑥と⑦の者の比率をもって,無業者率ということにします。死亡・進路不明率は,先の記事と同様,⑧の者の比率です。
では,2011年3月の修了生(単位取得退学者含む)について,無業者率と進路・死亡不明率を,専攻ごとに再計算してみます。データ・ソースは,下記サイトの表86です。2012年3月修了生のデータも公表されていますが,こちらは速報値ですので,細かい専攻ごとの数値はまだ公表されていません。よって前年の統計を用います。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037176&cycode=0
下図は,修了生数が100人超の30の専攻を,無業者率と死亡・進路不明率のマトリクス上に位置づけたものです。点線は,博士課程修了者全体でみた比率です。
図の形状は,8月30日の記事のものと変わりありませんが,無業者率の水準が異なっています。無業者率が最も高いのは,人文科学系のその他(文学,史学,哲学以外の専攻)の47.9%です。縦軸の死亡・進路不明率の最高値は,法学・政治学の29.2%です。
ただ,法学・政治学専攻の進路不明率の高さは,司法試験浪人が多いためではないか,という疑いが持たれます。しかし,司法浪人という者は上記進路カテゴリーの⑦に含まれるような気もします。いや,そういう人の多くは,進路届けそのものを出さないのでしょうか・・・。
それはさておいて,横軸と縦軸の双方から評価すると,やはり,文学,史学,そして法学・政治学専攻の惨状が際立っています。とある方は,ツイッター上で「史学」を「死学」と表現されていましたが,うまいなあと思いました。
さて,8月30日の記事と同じく,傾向を手短なフレーズでまとめましょう。博士課程修了者全体では,4人に1人が無業者,10人に1人が死亡・進路不明者です。しかし,2人に1人が無業者,3人に1人が死亡・進路不明者,という専攻もあります。
あと一点,2012年3月修了生の統計では,細かい専攻ごとの数字が公表されていないのですが,これはまだ速報の段階であるからで,正式発表の統計では,おそらく専攻別のデータも出されると思います。先の記事では,当局が隠ぺいを図っているのではないかと邪推しましたが,それは取り消したいと思います。
8月30日の記事に対し,コメントやツイッターにて,多くのご指摘をいただきました。感謝申します。
2012年9月3日月曜日
私にとってのブログ
総務省情報通信政策研究所が,『ブログの実態に関する調査研究』という報告書を公刊しています。公刊年月は,2009年3月です。
http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/seika/houkoku.html
この調査では,ブログを運営しているブロガーに対して,ブログを更新する動機やブログの利用スタイルについて尋ねています。私も一応,ブロガーですので,調査対象者になったつもりで,設問に回答してみました。
まずは,ブログの更新動機です。14の項目を提示して,それぞれの重要度を5段階で自己評定することが求められています。私の回答は以下の通りです。
私がブログを更新するのは,既存統計を自分なりのやり方で加工・分析し,知り得た知見を発信するためです。いってみれば,私設出版社です。アフィリエイトでお金を稼ぐとか,知り合いを増やすとかいうことは,あまり意図していません。
次に,ブログの利用スタイルです。こちらは,10の項目が提示されています。それぞれの重要度を,思うがままに自己評定してみました。
「誰に向けて書くか」,「何を書くか」という枠組みで項目が構成されているようです。私は,「世間一般」に向けて記事を書いています。自分向けの覚書のようなこともたまに書きますが,特定の他者を想定することは滅多にありません。
書く内容のメインは,データに基づいた「事実」です。「ジニ係数の求め方」というような,知識やノウハウを開陳することもあります。心情や意見を前面に出すことはあまりないです。
まとめると,私にとってのブログとは,「世間一般に向けた,研究成果発信のためのツール」というところでしょうか。多くのブログは,身辺雑記がメインの日記的なものが多いようですが,本ブログにはそのような意味合いをあまり持たせていません。むろん,無味乾燥な数字ばかりでは味気ないので,写真入りの日記を書くこともありますが・・・。
なお,私はブログを実名で書いていますが,全体的傾向からみれば,それはとてもイレギュラーなケースのようです。上記調査の回答分布をみると,実名でブログを書いているブロガーはたったの2%です。「教師のホンネ」というような,ちょっとヤバい内容を書くのなら実名はためらわれますが,自分のことを知ってもらいたい,旗揚げをしたい,という意図があるのなら,実名のほうがよいと思っています。
潮木守一先生は,インターネット時代の到来のことを,「ポスト・グーテンベルク革命」と形容されています。グーテンベルク革命によって印刷術が生まれ,情報が紙媒体で出回るようになりました。しかし,その後(post)の革命は,情報をインターネット上で発信することを可能にしました。ブログというのは,そのためのツールです。
この恩恵は,一部の人間だけではなく,万人にもたらされています。ブログは,誰もが無料で簡単に開設することが可能です。特別な知識やスキルがなくとも,日々,記事の内容を手軽に更新することができます。オリジナルな創作物を生み出すことを業とするクリエイター(研究者含む)が,この恩恵を利用しない手はありますまい。
上記の総務省調査によると,2008年1月現在において,ネット上で開設されている国内ブログの数は1,690万ほどだそうです。ごく単純に考えると,国民7人につき1人がブロガーということになります。今後,この数はますます増えていくことでしょう。
何かハマっていることがあるという人,ぜひともブログを始めようではありませんか。「我ここにあり」と,世間に旗揚げするチャンスです。しかし,あまり凝り過ぎて,二次元の世界の住人にならないよう,ご注意ください。
http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/seika/houkoku.html
この調査では,ブログを運営しているブロガーに対して,ブログを更新する動機やブログの利用スタイルについて尋ねています。私も一応,ブロガーですので,調査対象者になったつもりで,設問に回答してみました。
まずは,ブログの更新動機です。14の項目を提示して,それぞれの重要度を5段階で自己評定することが求められています。私の回答は以下の通りです。
私がブログを更新するのは,既存統計を自分なりのやり方で加工・分析し,知り得た知見を発信するためです。いってみれば,私設出版社です。アフィリエイトでお金を稼ぐとか,知り合いを増やすとかいうことは,あまり意図していません。
次に,ブログの利用スタイルです。こちらは,10の項目が提示されています。それぞれの重要度を,思うがままに自己評定してみました。
「誰に向けて書くか」,「何を書くか」という枠組みで項目が構成されているようです。私は,「世間一般」に向けて記事を書いています。自分向けの覚書のようなこともたまに書きますが,特定の他者を想定することは滅多にありません。
書く内容のメインは,データに基づいた「事実」です。「ジニ係数の求め方」というような,知識やノウハウを開陳することもあります。心情や意見を前面に出すことはあまりないです。
まとめると,私にとってのブログとは,「世間一般に向けた,研究成果発信のためのツール」というところでしょうか。多くのブログは,身辺雑記がメインの日記的なものが多いようですが,本ブログにはそのような意味合いをあまり持たせていません。むろん,無味乾燥な数字ばかりでは味気ないので,写真入りの日記を書くこともありますが・・・。
なお,私はブログを実名で書いていますが,全体的傾向からみれば,それはとてもイレギュラーなケースのようです。上記調査の回答分布をみると,実名でブログを書いているブロガーはたったの2%です。「教師のホンネ」というような,ちょっとヤバい内容を書くのなら実名はためらわれますが,自分のことを知ってもらいたい,旗揚げをしたい,という意図があるのなら,実名のほうがよいと思っています。
潮木守一先生は,インターネット時代の到来のことを,「ポスト・グーテンベルク革命」と形容されています。グーテンベルク革命によって印刷術が生まれ,情報が紙媒体で出回るようになりました。しかし,その後(post)の革命は,情報をインターネット上で発信することを可能にしました。ブログというのは,そのためのツールです。
この恩恵は,一部の人間だけではなく,万人にもたらされています。ブログは,誰もが無料で簡単に開設することが可能です。特別な知識やスキルがなくとも,日々,記事の内容を手軽に更新することができます。オリジナルな創作物を生み出すことを業とするクリエイター(研究者含む)が,この恩恵を利用しない手はありますまい。
上記の総務省調査によると,2008年1月現在において,ネット上で開設されている国内ブログの数は1,690万ほどだそうです。ごく単純に考えると,国民7人につき1人がブロガーということになります。今後,この数はますます増えていくことでしょう。
何かハマっていることがあるという人,ぜひともブログを始めようではありませんか。「我ここにあり」と,世間に旗揚げするチャンスです。しかし,あまり凝り過ぎて,二次元の世界の住人にならないよう,ご注意ください。
2012年9月1日土曜日
不登校・高校中退とニートの関連
2009年5月16日の毎日新聞によると,高校中退者や中学時の不登校経験者がニートになる確率は,同世代人口全体の「7倍」にのぼるとのことです。
しかるに,計算の仕方がややラフな印象を受けたので,原資料にあたって数字を採取し,私なりに再計算してみました。上記の数字と違う結果が出ましたので,ご報告しようと思います。
内閣府『高校生活及び中学生活に関するアンケート調査』(2009年3月)では,2004年度に高校を中退した者,および同年度の中学校3年生で不登校状態にあった者の現況を調査しています。上記の毎日新聞記事は,本調査の結果を参照して書かれています。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/school-life/html/index.html
サンプル数は,高校中退者が168人,中3時の不登校者が109人。調査時点(2009年2~3月)において,「仕事にはついておらず,学校にも行っていない」というニート状態の者の比率は,以下のようです。
①:高校中退者 ・・・ 20.8%
②:中学校3年時の不登校者 ・・・ 16.5%
この数字を一般群と比較しようと思います。毎日新聞の記事では,2007年の『就業構造基本調査』のデータが使われていますが,私は2010年の『国勢調査』を用いることとしました。こちらの場合,細かい年齢別(1歳刻み)のニート率が計算できます。それゆえ,世代を精緻に揃えた比較が可能です。
2004年度の高校中退者(15~18歳)は,2010年には20代前半になっていると考えられます。2004年度の中3不登校者(14~15歳)は,2010年では20~21歳というところでしょう。それぞれの年齢層について,ニート率を計算しました。『国勢調査』でいうニートとは,非労働力人口のうち,家事も通学もしていない者のことです。非労働力人口の「その他」というカテゴリーの数字です。結果は,以下のごとし。
③:20代前半のニート率 ・・・ 1.2%
④:20~21歳のニート率 ・・・ 1.2%
①と③を比べることで,高校中退者がニートになる確率が同世代全体の何倍かが分かります。中学校3年時の不登校者の相対リスクは,②と④を比較することで知られます。割り算をすると,高校中退者がニートになる確率は同世代全体の17.3倍,中学校3年時の不登校経験者は13.8倍です。
ほほう。毎日新聞の試算結果(7倍)よりも,はるかにスパイシーな数字が出てきました。私は,不登校や高校中退は,れっきとしたオルタナティヴな道であると考えています。それを認めないと,どんな酷いいじめに遭っても学校に行き続けなければならない,というような状態になります。これでは,子どもの自殺者が激増するでしょう。
しかるに,そうしたオルタナティヴを選択した者の「その後」は,今回のデータでみる限り,芳しいものではないようです。おそらく,さまざまな偏見や不遇にさらされることが多いためと思います。文科省では,不登校生徒の大々的な追跡調査を企画しているようですが,不登校児の「その後」がリアルに解明されることを期待します。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/086/index.htm
そこにて検出された病理を取り除いていくこと。こういう実践の積み重ねが,「学校化」された子どもの世界に,風穴を開けてくれることと思います。
しかるに,計算の仕方がややラフな印象を受けたので,原資料にあたって数字を採取し,私なりに再計算してみました。上記の数字と違う結果が出ましたので,ご報告しようと思います。
内閣府『高校生活及び中学生活に関するアンケート調査』(2009年3月)では,2004年度に高校を中退した者,および同年度の中学校3年生で不登校状態にあった者の現況を調査しています。上記の毎日新聞記事は,本調査の結果を参照して書かれています。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/school-life/html/index.html
サンプル数は,高校中退者が168人,中3時の不登校者が109人。調査時点(2009年2~3月)において,「仕事にはついておらず,学校にも行っていない」というニート状態の者の比率は,以下のようです。
①:高校中退者 ・・・ 20.8%
②:中学校3年時の不登校者 ・・・ 16.5%
この数字を一般群と比較しようと思います。毎日新聞の記事では,2007年の『就業構造基本調査』のデータが使われていますが,私は2010年の『国勢調査』を用いることとしました。こちらの場合,細かい年齢別(1歳刻み)のニート率が計算できます。それゆえ,世代を精緻に揃えた比較が可能です。
2004年度の高校中退者(15~18歳)は,2010年には20代前半になっていると考えられます。2004年度の中3不登校者(14~15歳)は,2010年では20~21歳というところでしょう。それぞれの年齢層について,ニート率を計算しました。『国勢調査』でいうニートとは,非労働力人口のうち,家事も通学もしていない者のことです。非労働力人口の「その他」というカテゴリーの数字です。結果は,以下のごとし。
③:20代前半のニート率 ・・・ 1.2%
④:20~21歳のニート率 ・・・ 1.2%
①と③を比べることで,高校中退者がニートになる確率が同世代全体の何倍かが分かります。中学校3年時の不登校者の相対リスクは,②と④を比較することで知られます。割り算をすると,高校中退者がニートになる確率は同世代全体の17.3倍,中学校3年時の不登校経験者は13.8倍です。
ほほう。毎日新聞の試算結果(7倍)よりも,はるかにスパイシーな数字が出てきました。私は,不登校や高校中退は,れっきとしたオルタナティヴな道であると考えています。それを認めないと,どんな酷いいじめに遭っても学校に行き続けなければならない,というような状態になります。これでは,子どもの自殺者が激増するでしょう。
しかるに,そうしたオルタナティヴを選択した者の「その後」は,今回のデータでみる限り,芳しいものではないようです。おそらく,さまざまな偏見や不遇にさらされることが多いためと思います。文科省では,不登校生徒の大々的な追跡調査を企画しているようですが,不登校児の「その後」がリアルに解明されることを期待します。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/086/index.htm
そこにて検出された病理を取り除いていくこと。こういう実践の積み重ねが,「学校化」された子どもの世界に,風穴を開けてくれることと思います。