10月も今日で終わりです。恒例の教員不祥事報道の整理をします。今月,私がネット上で把握した不祥事報道は39件でした。毎晩寝る前に,「教諭/講師/校長/教頭 and 処分/逮捕」(24時間以内指定)でググって記事を探しています。ヒマ人です。
わいせつや体罰が多いのはいつものことですが,今月は窃盗や詐欺などの財産犯が目立つような気がします。学校の先生は収入が安定していそうですが,それゆえに融資などが一発で通り,ついつい借りすぎちゃうのでしょうか。
また8月21日の講演の後で聞いた話によると,教員はストレスのあまり,パチンコにハマる人が多いとのこと。なるほど,教員の財産非行を説明する要素は結構ありそうです。
明日から11月。ブログの背景を紅葉景色にいたします。
<2015年10月の教員不祥事報道>
・女子高生にわいせつ、市民に暴行…(10/1,産経,兵庫,中,男,29)
・集団強姦容疑で32歳小学教諭を書類送検(10/2,産経,大阪,小,男,32)
・いす投げ、生徒けが 大阪市立中教諭に停職処分(10/2,産経,大阪,中,男,33)
・酒気帯び事故で高校教諭逮捕(10/3,NHK,埼玉,高,男,32)
・泥酔者のバッグを盗んだ疑い、小学校臨時教諭の男逮捕(10/6,TBS,千葉,小,男,29)
・中学講師 わいせつ容疑で逮捕 (10/6,NHK,奈良,中,男,38)
・洛南高校附属小の教諭を逮捕(10/7,NHK,滋賀,小,男38,男53)
・無免許運転で高校校長摘発 「飲酒で免許取り消し」と説明
(10/8,産経,北海道,高,男,57)
・また教師!!女子高生のスカート内を盗撮で現行犯逮捕(10/8,産経,京都,高,男,24)
・盗撮の疑いで小学教諭逮捕(10/9,日経,千葉,小,男,42)
・中学教諭を盗撮容疑で逮捕(10/13,NHK,新潟,中,男,45)
・北九州市教育委員会 体罰などで教諭2人を懲戒処分
(10/13,テレビ西日本,福岡,中男2名)
・家出中の少女を自宅に泊め、みだらな行為 常勤講師を懲戒免職
(10/13,産経,愛媛,中,男,24)
・元交際女性にストーカー、都立高校の女教諭逮捕(10/14,産経,東京,高,女,53)
・側頭部を繰り返し打ち、生徒にけが(10/15,読売,鹿児島,中,男,29)
・県立高教諭、体罰で減給処分(10/15,毎日,石川,高,男,60)
・男性教諭が生徒に暴言「ぶっ殺すぞ」学校内で飲酒も
(10/16,日刊スポーツ,秋田,高,男,40代)
・知人の教諭夫婦を辞めさせようとする文書を、教育機関などに送り続けた
(10/16,中京テレビ,山梨,小,女)
・自転車かごのかばんを盗む…大阪府教委の非常勤講師を逮捕
(10/18,産経,大阪,高,男,66)
・生徒にキス、「娘のようにハグ」…教諭2人を懲戒
(10/19,産経,東京,ハグ:中男29,わいせつ:高男59)
・SNS通じ高1少女を買春の疑い 千葉県立高教諭を逮捕(10/20,朝日,千葉,高,男,30)
・酒気帯び容疑の教頭を停職処分 速度違反の教諭は減給
(10/20,朝日,愛知,酒気帯び:小男57,スピード違反:中男30)
・懲戒免職:窃盗容疑逮捕の講師を 千葉市教委(10/20,毎日,千葉,小,男,29)
・他校の教諭のかばんから財布盗む 高校教諭懲戒処分
(10/20,神戸新聞,兵庫,高,男,35)
・盗撮容疑の小学校長、懲戒免職処分に(10/21,毎日,千葉,小,男,53)
・売春クラブ主催の都立中教諭逮捕 女子高生あっせん容疑
(10/21,朝日,東京,都立中,男,27)
・児童に暴行した罪で小学教諭に略式命令(10/21,河北新報,岩手,小,男,42)
・教え子に学校内でみだらな行為 愛知県警、中学教諭逮捕
(10/23,中日新聞,愛知,中,男,30)
・顔が近づき…女子高生にキス、抱き付き 男性教諭を処分
(10/24,埼玉新聞,埼玉,高,男,34)
・「遅刻しそう」高速147キロ、女性教諭を戒告(10/24,読売,香川,小,女,24)
・中学校長らが隠れたばこ、校舎ぼやで教員が消火(10/24,読売,福岡,中男58)
・18歳未満にわいせつ 男性教諭を懲戒免職(10/27,産経,茨城,中,男,32)
・保険金詐取で和歌山市立小の女性講師を懲戒免職
(10/27,和歌山放送,和歌山,小,女,29)
・小学校担任、テスト実施や採点サボる 講師減給、依願退職
(10/27,産経,大分,小,男,24)
・2人の関係ばらす」LINEで脅迫、知人女性に性的関係迫る
(10/29,産経,宮崎,高,男,27)
・授業中誤ってわいせつ画像映す 50代小学校教頭を処分へ
(10/30,産経,山口,小,男,50代)
・養護学校教諭 窃盗疑いで逮捕 (10/31,NHK,兵庫,男,56)
・中学教諭 酒気帯び運転容疑(10/31,NHK,鹿児島,中,男,32)
・定期試験の問題がLINEで拡散、男性講師が漏らしたと解雇
(10/31,産経,大阪,高,男)
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2015年10月31日土曜日
2015年10月29日木曜日
1961年生まれ世代の男性の生涯賃金推定
生涯賃金。字のごとく,一生のうちに得られる賃金がナンボかです。1億とか2億とか,いろいろな数字が飛び交っていますが,統計で分かる相場値はどれくらいなのでしょう。厚労省の『賃金構造基本統計』の原資料にあたって,自分の手で計算してみました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
生涯賃金を出すには,特定の世代の稼ぎを追跡する必要があります。早い人は中学校を出てすぐ働き始めますから,スタートは15歳,ゴールは定年前の59歳がよいでしょう。この現役期間を通じて,稼ぎの総決算がナンボだったかをみるわけです。
上記の厚労省資料には,標準労働者の所定内月収と年間賞与額が1歳刻みで出ています。そういう細かい統計は,1976年版の資料からとられているようです。観察のスタートは15歳ですが,この年に15歳であったのは,1961(昭和36)年生まれ世代です。この世代の男性を観察対象としましょう。
やり方は簡単です。1976年の15歳の年収,77年の16歳,78年の17歳・・・というように,当該世代の各年齢時の年収の合算するだけです。年収は,所定内月収を12倍した値に年間賞与額を足して推し量ります。
ちなみに,本資料に載っている1歳刻みの月収・年間賞与額は,標準労働者のものです。学校卒業後直ちに就職し,調査時点も同じ会社に勤めている者です。雇用の流動化が進んでいる現在にあっては,必ずしも「標準」とはいえまんせんが,この世代が就職したのは,70年代後半から80年代初頭ですので,まあ標準とみてもよいでしょう。
なお,厚労省の『賃金構造基本統計』は2014年版までしか出ていません。よって,1961年世代の場合,53歳時点までしか追跡できませんが,それ以降の54~59歳までは,最新の2014年版に載っている数値を使います。よって,この部分は仮定値であることに留意ください。
では,結果をみていただきましょう。計算のイメージを持っていただくため,各年齢時点の年収をもれなく掲げます。言い忘れましたが,原資料の数値は学歴別に出ていますので,学歴ごとに追跡しています。
どの学歴群も,加齢とともに年収が高くなりますが,学歴差も大きくなります。25歳時をみると,中卒が269万円,高卒が279万円,大卒が290万円だったのが,53歳時では順に622万円,724万円,978万円と,中卒と大卒では350万円以上の開きが出ます。学歴社会ニッポンの可視的な表現です。
ここでの関心は現役期間の稼ぎの総決算ですが,右欄の年収累積をみるとそれが分かります。低学歴者のほうが早く働き始めるので,若い頃は,「中卒>高卒>大卒」となっています。
大学生のみなさん,ごらんなさい。あなた方が大学で勉強している間,中卒者は985万円(15~21歳),高卒者は654万円(18~21歳)稼いでいるのですよ。みなさんは,こういう稼ぎ分を放棄して,大学で学んでいるわけです。授業料とは別個に,こういう費用(機会費用)も払っていることになります。それを取り戻せるよう,しっかり勉強しましょうね。
まあ現実には,スタートの遅れ分を大卒者は取り戻せるようで,37歳の時点で中卒と高卒を追い越し,その後ぐんぐん差をつけていきます。
定年直前の59歳時点の累積総額はどうなっているか。これが現役時の生涯賃金です。右欄の一番下をみると,中卒が1.91億円,高卒が2.19億円,大卒が2.61億円となっています。退職金を含みませんが,これが現役期間の稼ぎの総額と見積もられます。巷でよくいわれる額と近似しており,違和感はありません。しかし,高卒と大卒の段差が大きいですね。
15~59歳までの稼ぎの累積変化をグラフにしておきましょう。下図のように,きれいな曲線になります。
さて,年収を規定する要素としては,性別や学歴に加えて,あと一つ大きなものがあります。企業規模,大企業か中小企業かです。厚労省の資料でもこの点が認識されており,企業規模別に集計表が分かれています。大企業(1000人以上),中企業(100~999人),小企業(10~99人)という分類です。
私は同じやり方で,これら3群ごとに,学歴別の生涯賃金を出してみました。下表は,計算の結果です。
どの学歴グループでも,現役時の生涯賃金は大企業ほど高くなっています。同じ大卒男性でも,大企業勤務者の生涯賃金(2.898億円)は小企業の1.4倍です。
むろん学歴差もありますが,「大卒/中卒」と「大企業/小企業」の倍率を比べると,微差ではありますが,後者のほうが高いようです。学歴か企業規模かと問うならば,後者の効果が大きいとみられます。
ある方が,「ジョブ型雇用ではなくメンバーシップ型雇用」の証左だと言っておられましたが,言いえて妙だと思います。
労働者が自分のスキルを売りにして複数の会社を渡り歩く欧米では,こうはならないでしょうね。こういうところにも,日本の特性が出ているような気がします。
今回分かった注目の数字は,2.61億円。大卒男性の現役時代の生涯賃金です。私のような無精者は,逆立ちしても,こんな大金は稼げそうにありません。これは1961年生まれ世代男性の試算値ですが,最近の世代は,稼ぎは減っていることと思います。
世代を下って,私の世代(1976年生まれ)の試算もしたいのですが,私らはまだ39年しか生きていませんので,まだまだ待たないといけません。
10月もそろそろ終わりです。朝晩は冷え込んできました。体調を崩されませぬよう。
2015年10月27日火曜日
大学院博士課程修了者の大学教員採用率
昨日,表記タイトルのデータをツイッターでアップしたところ,見てくださる方が多いようなので,ブログにも載せておきます。博士課程修了者数と新規学卒の大学本務教員採用者数を,照合して算出したものです。ここでいう大学には,短大は含みません。
新規学校卒の大学教員採用者は,多くが博士課程修了者とみてよいでしょう。よって,上記の後者を前者で除せば,博士課程修了者の大学教員採用率の近似値が出せます。分子は文科省『学校教員統計』,分母は同省『学校基本調査』で拾うことができます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/1268573.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm
私は,大学院重点化政策がしかれる前の1989年度と,2013年度の統計を比べてみました。専攻によって様相は異なると考えられるので,専攻別の数値も出しました。下の表は,結果の一覧です。
1989年度の博士課程修了者は5576人,新卒の大学本務教員採用者は1626人。よって,この年の大学教員採用率は29.2%となります。およそ3割。
しかし四半世紀を経た2013年度では,この値は6.1%まで下がっています。それもそのはず。分母(a)が増えているのに対し,分子(b)は減っているのですから。前者は90年代以降の大学院重点化政策,後者は少子化により採用ポストが減っているため。新卒時の断面ですが,近年の大学教員市場の閉塞化が,はっきりと可視化されています。
これは全体の傾向ですが,専攻別にみても同じです。家政系の率が高いのは,学部卒や修士卒の採用も多いためでしょう。人文・社会系は減少幅が大きく,人文科学は28.4%から4.9%,社会科学系は41.4%から7.3%への下落です。大学院重点化政策前は,社会系ドクターの4割は,修了と同時に専任ポストをゲットできていたのですね。最近では,14人に1人。変わったものです。
社会科学専攻の変化の様相を,視覚化しておきます。分子・分母の量を,正方形の面積で表した図です。
先ほども書きましたが,上記の表は,修了時点の断面を観察したものです。近頃は,非常勤講師やポスドクなど非正規からキャリアをスタートし,数年後に専任職を得るパターンが一般化していますので,その影響もあるかと思います。
また,大学教員以外の職に就く者が増えていることも考えられます。そもそも,90年代以降の大学院重点化政策は,それを想定してなされたものでした。産業界から,高度な人材に対する需要が高まるであろうと。
それは,『学校基本調査』の進路統計からも分かります。博士課程修了の就職者のうち,科学研究者,大学・短大教員以外の職に就いた者の割合を計算してみました。『学校基本調査』の進路統計の就職者には,非正規就職者も含まれます。
全体や理系ではさほど変わってませんが,人文社会系や教育系では増えているではありませんか。社会科学では,17.5%から41.8%へと,倍以上にアップしています。『学校基本調査』の原統計をみると,「その他専門・技術職」というカテゴリーの比重が増えているのですが,具体的にどういう職かは分かりません。大学教員を諦めて予備校講師になる,という院生も増えているのかも。
大学院は研究者養成を主たる機能としていますが,これから先は,そればかりを強調していては,己の存在意義を分かってもらえそうにありません。機能の拡張・多角化が求められます。研究職以外の高度専門職養成機能,リカレント学生の受け入れなど,生涯学習社会のセンターとしての機能・・・。いろいろ想起されますよね。
この点については,雑誌『教育』2014年12月号に書きました。拙稿「データでみる大学院のいま」。興味ある方は,ご覧いただけますと幸いです。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40020481256
新規学校卒の大学教員採用者は,多くが博士課程修了者とみてよいでしょう。よって,上記の後者を前者で除せば,博士課程修了者の大学教員採用率の近似値が出せます。分子は文科省『学校教員統計』,分母は同省『学校基本調査』で拾うことができます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/1268573.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm
私は,大学院重点化政策がしかれる前の1989年度と,2013年度の統計を比べてみました。専攻によって様相は異なると考えられるので,専攻別の数値も出しました。下の表は,結果の一覧です。
1989年度の博士課程修了者は5576人,新卒の大学本務教員採用者は1626人。よって,この年の大学教員採用率は29.2%となります。およそ3割。
しかし四半世紀を経た2013年度では,この値は6.1%まで下がっています。それもそのはず。分母(a)が増えているのに対し,分子(b)は減っているのですから。前者は90年代以降の大学院重点化政策,後者は少子化により採用ポストが減っているため。新卒時の断面ですが,近年の大学教員市場の閉塞化が,はっきりと可視化されています。
これは全体の傾向ですが,専攻別にみても同じです。家政系の率が高いのは,学部卒や修士卒の採用も多いためでしょう。人文・社会系は減少幅が大きく,人文科学は28.4%から4.9%,社会科学系は41.4%から7.3%への下落です。大学院重点化政策前は,社会系ドクターの4割は,修了と同時に専任ポストをゲットできていたのですね。最近では,14人に1人。変わったものです。
社会科学専攻の変化の様相を,視覚化しておきます。分子・分母の量を,正方形の面積で表した図です。
先ほども書きましたが,上記の表は,修了時点の断面を観察したものです。近頃は,非常勤講師やポスドクなど非正規からキャリアをスタートし,数年後に専任職を得るパターンが一般化していますので,その影響もあるかと思います。
また,大学教員以外の職に就く者が増えていることも考えられます。そもそも,90年代以降の大学院重点化政策は,それを想定してなされたものでした。産業界から,高度な人材に対する需要が高まるであろうと。
それは,『学校基本調査』の進路統計からも分かります。博士課程修了の就職者のうち,科学研究者,大学・短大教員以外の職に就いた者の割合を計算してみました。『学校基本調査』の進路統計の就職者には,非正規就職者も含まれます。
全体や理系ではさほど変わってませんが,人文社会系や教育系では増えているではありませんか。社会科学では,17.5%から41.8%へと,倍以上にアップしています。『学校基本調査』の原統計をみると,「その他専門・技術職」というカテゴリーの比重が増えているのですが,具体的にどういう職かは分かりません。大学教員を諦めて予備校講師になる,という院生も増えているのかも。
大学院は研究者養成を主たる機能としていますが,これから先は,そればかりを強調していては,己の存在意義を分かってもらえそうにありません。機能の拡張・多角化が求められます。研究職以外の高度専門職養成機能,リカレント学生の受け入れなど,生涯学習社会のセンターとしての機能・・・。いろいろ想起されますよね。
この点については,雑誌『教育』2014年12月号に書きました。拙稿「データでみる大学院のいま」。興味ある方は,ご覧いただけますと幸いです。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40020481256
2015年10月24日土曜日
年齢層別の貧困率の国際比較
貧困率。いわずとも知れた指標です。国内の年収の中央値の半分に満たない世帯で暮らす人間が,全体の何%いるかです。
年収の中央値の半分ですが,最近の日本でいうと,おおよそ200万円ちょっとというところです。このライン(貧困線)に満たない年収の世帯に属する人間は,貧困者と判定されます。この相対的貧困者が全国民に占める割合(相対的貧困率)は,だいたい15%,6~7人に1人といわれています。
これは国民全体の数値ですが,この意味の貧困率は,年齢層によって違います。子ども,青年,壮年,中年,そして高齢者。こういう年代別の数値は,あまり見かけません。国別データとなると,なおさら。
しかし,有効な貧困対策を打ち立てるには,こういう細かいデータの観察も必要でしょう。希少な資源をどこに重点的に振り当てるかを考えるにあたっても,ぜひとも見ておきたいデータです。
OECDの「Income Distribution Database(IDD)」というサイトにて,それを知ることができます。データベースをちょっと操作することで,各国の年齢層別の貧困率を呼び出すことができます。
http://www.oecd.org/social/income-distribution-database.htm
私は,2009年のデータを採集しました。やや古いですが,日本の最新の数値が2009年となっていますので,他国もこれに合わせました。オーストラリア,メキシコ,ロシアの3国は2009年の数値がないので,翌年の2010年のデータを拾っています。
下に掲げるのは,35か国の年齢層別の貧困率です。繰り返しますが,年収が中央値の半分に満たない世帯で暮らす者が全体の何%かです。最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。赤字は上位5位です。
日本の貧困率は,76歳以上の高齢層が最も高くなっています。22.8%で,35か国の中で5位です。その次の要注意層は,18~25歳の青年層です(18.7%)。近年の青年層の貧困化を思うと,さもありなんですね。
しかし青年層の貧困率がもっと高い国があり,トップはノルウェーです。スウェーデンやデンマークも上位に入っています。高福祉社会ですが,若者にかかる税金が重いのでしょうか(今回の国際統計は,税引き後の年収に依拠して算出されています)。
チリ,イスラエル,スペイン,トルコ,ロシアなどでは,0~17歳の子どもの貧困率が最も高くなっています。子どものいる世帯に,資源の再配分の重きを置くべき社会です。
イスラエルとメキシコは赤字がたくさんで,国民の貧困化が激しいようです。その逆は,北欧のデンマーク。
子どもの貧困率ですが,全体でみたら日本は15.7%,およそ6人に1人ですが,一人親世帯に限ると50%を超えます。2人に1人で,これは世界トップです。わが国では,両親のいる標準家庭を前提に諸々の制度設計がされているので,一人親世帯は困難に直面するのでしょう。一人親世帯の貧困化が最も進んだ社会。この点は,押さえておくべきかと思います。詳細は,4月8日の日経デュアル記事にて書きました。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=4972
お隣の韓国ですが,高齢層の貧困率がメチャ高です。この国は,66歳以上というようにカテゴリーがまるまっていますが,45.5%で飛びぬけています。高齢者の2人に1人が貧困と判定されるわけです。
この儒教社会では,子が親の面倒をみる伝統があったので,高齢者は収入がなくともやっていけました。しかし最近,それが急速に崩れているといいます。しからば国による社会保障はというと,それはほぼ未整備。よって,生活苦にさらされる高齢者が増えているのでしょう。下記ツイートの図にみるように,韓国の高齢者の自殺率は激高です。
https://twitter.com/tmaita77/status/657529734771769345
韓国の高齢人口比率(65歳以上人口率)は11%ほどですが,もっと高齢化が進めば,社会の根幹が揺らぐ事態になるでしょう。しかし,高齢化レベルの点でいうと,日本のほうがはるかに進んでいます。それでいて,高齢者の貧困率が2割を超えているのですから,問題が深刻なのは,わが国も同じです。
上表の高齢者の貧困率を,高齢化レベル(高齢人口率)と関連付けて表現してみましょう。各国の高齢人口率は,国連の人口推計サイトより得ました。2010年の推計値です。これを横軸に据えます。
http://esa.un.org/unpd/wpp/
縦軸に据える高齢者の貧困率は,66歳以上の貧困率です。韓国が66歳以上にまるまっていますので,他国もそれに合わせます。2010年の65~74歳と75歳以上人口の比重を勘案して,66歳以上の貧困率に計算し直しました。
こういう布置図になります。高齢者の貧困率が高い韓国やオーストラリアも大変ですが,高齢層の量を勘案すると,右上の社会,とりわけ日本も事態が厳しいのは同じです。右下のヨーロッパ型への移行が求められます。右側へのシフト(高齢化)は不可避ですが,タテにどう動くかは,国の政策にかかっています。
今回の国際統計から,貧困対策の重点層が,社会によって異なっていることが知られます。社会は,様々な層からなります。全体観察の後に必要なのは,こうした部分観察です。
年収の中央値の半分ですが,最近の日本でいうと,おおよそ200万円ちょっとというところです。このライン(貧困線)に満たない年収の世帯に属する人間は,貧困者と判定されます。この相対的貧困者が全国民に占める割合(相対的貧困率)は,だいたい15%,6~7人に1人といわれています。
これは国民全体の数値ですが,この意味の貧困率は,年齢層によって違います。子ども,青年,壮年,中年,そして高齢者。こういう年代別の数値は,あまり見かけません。国別データとなると,なおさら。
しかし,有効な貧困対策を打ち立てるには,こういう細かいデータの観察も必要でしょう。希少な資源をどこに重点的に振り当てるかを考えるにあたっても,ぜひとも見ておきたいデータです。
OECDの「Income Distribution Database(IDD)」というサイトにて,それを知ることができます。データベースをちょっと操作することで,各国の年齢層別の貧困率を呼び出すことができます。
http://www.oecd.org/social/income-distribution-database.htm
私は,2009年のデータを採集しました。やや古いですが,日本の最新の数値が2009年となっていますので,他国もこれに合わせました。オーストラリア,メキシコ,ロシアの3国は2009年の数値がないので,翌年の2010年のデータを拾っています。
下に掲げるのは,35か国の年齢層別の貧困率です。繰り返しますが,年収が中央値の半分に満たない世帯で暮らす者が全体の何%かです。最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。赤字は上位5位です。
日本の貧困率は,76歳以上の高齢層が最も高くなっています。22.8%で,35か国の中で5位です。その次の要注意層は,18~25歳の青年層です(18.7%)。近年の青年層の貧困化を思うと,さもありなんですね。
しかし青年層の貧困率がもっと高い国があり,トップはノルウェーです。スウェーデンやデンマークも上位に入っています。高福祉社会ですが,若者にかかる税金が重いのでしょうか(今回の国際統計は,税引き後の年収に依拠して算出されています)。
チリ,イスラエル,スペイン,トルコ,ロシアなどでは,0~17歳の子どもの貧困率が最も高くなっています。子どものいる世帯に,資源の再配分の重きを置くべき社会です。
イスラエルとメキシコは赤字がたくさんで,国民の貧困化が激しいようです。その逆は,北欧のデンマーク。
子どもの貧困率ですが,全体でみたら日本は15.7%,およそ6人に1人ですが,一人親世帯に限ると50%を超えます。2人に1人で,これは世界トップです。わが国では,両親のいる標準家庭を前提に諸々の制度設計がされているので,一人親世帯は困難に直面するのでしょう。一人親世帯の貧困化が最も進んだ社会。この点は,押さえておくべきかと思います。詳細は,4月8日の日経デュアル記事にて書きました。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=4972
お隣の韓国ですが,高齢層の貧困率がメチャ高です。この国は,66歳以上というようにカテゴリーがまるまっていますが,45.5%で飛びぬけています。高齢者の2人に1人が貧困と判定されるわけです。
この儒教社会では,子が親の面倒をみる伝統があったので,高齢者は収入がなくともやっていけました。しかし最近,それが急速に崩れているといいます。しからば国による社会保障はというと,それはほぼ未整備。よって,生活苦にさらされる高齢者が増えているのでしょう。下記ツイートの図にみるように,韓国の高齢者の自殺率は激高です。
https://twitter.com/tmaita77/status/657529734771769345
韓国の高齢人口比率(65歳以上人口率)は11%ほどですが,もっと高齢化が進めば,社会の根幹が揺らぐ事態になるでしょう。しかし,高齢化レベルの点でいうと,日本のほうがはるかに進んでいます。それでいて,高齢者の貧困率が2割を超えているのですから,問題が深刻なのは,わが国も同じです。
上表の高齢者の貧困率を,高齢化レベル(高齢人口率)と関連付けて表現してみましょう。各国の高齢人口率は,国連の人口推計サイトより得ました。2010年の推計値です。これを横軸に据えます。
http://esa.un.org/unpd/wpp/
縦軸に据える高齢者の貧困率は,66歳以上の貧困率です。韓国が66歳以上にまるまっていますので,他国もそれに合わせます。2010年の65~74歳と75歳以上人口の比重を勘案して,66歳以上の貧困率に計算し直しました。
こういう布置図になります。高齢者の貧困率が高い韓国やオーストラリアも大変ですが,高齢層の量を勘案すると,右上の社会,とりわけ日本も事態が厳しいのは同じです。右下のヨーロッパ型への移行が求められます。右側へのシフト(高齢化)は不可避ですが,タテにどう動くかは,国の政策にかかっています。
今回の国際統計から,貧困対策の重点層が,社会によって異なっていることが知られます。社会は,様々な層からなります。全体観察の後に必要なのは,こうした部分観察です。
2015年10月22日木曜日
夫の家事・家族ケア分担率の国際比較
今年初めの日経デュアル記事にて,共働き夫婦の夫の家事分担率の都道府県比較をしたのですが,国際比較ができないものかと,前々から思っていました。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=4493
ISSP(国際社会調査プログラム)の「家族とジェンダーに関する調査・第4回」(2012年)にて,対象者に自分とパートナーの家事時間を聞いているではありませんか。ローデータがありますので,個人単位の分布と平均値を出すことができます。後述のようにサンプルが多くとれないのですが,試算結果としてご報告します。
http://www.issp.org/index.php
この調査では,週当たりの家事時間と家族ケア時間を対象者に尋ねると同時に(Q16a,16b),パートナーのそれも問うています(Q17a,17b)。私は,自分もパートナーも有業である,25~54歳の夫の回答に注目しました。生産年齢の,共働き夫婦の夫に対象を絞った次第です。
日本の場合,上記の問い(Q16a~17b)の全てに有効回答を寄せた夫は,58人です。条件を細かく設定したのでサンプルが少なくなりましたが,この58人について,家事・家族ケア分担率を計算してみました。当人の時間とパートナーの時間の合算に占める,当人の時間の比重です。
他の主要国(米・英・西独・仏・瑞典)についても,同じ条件の夫を取り出し,家事・家族ケア分担率の分布をとってみました。サンプル数は,米が67,英が57,西独が107,仏が149,瑞典が98です。お隣の韓国は,サンプル数が50を割りましたので,分析から除いています。
少ないケース数ではありますが,共働き夫婦の夫の家事・家族ケア分担率(以下,家事分担率)の分布は,下図のようになっています。
他国に比して,日本は家事分担率が低い人が多いようです。最も多いのは,10%台となっています(赤色)。
しかし他国はそうではなく,米は40%台,英独は30%台,仏瑞は50%以上,つまり半分以上自分がしている旦那さんが最多です。
以上は分布ですが平均値(average)を出すと,日本の58人は24.3%です。アメリカは40.4%,イギリスは41.1%,西ドイツは34.9%,フランスは42.5%,スウェーデンは43.5%となります。DUAL夫婦の夫の家事分担率は,日本では2割ちょいですが,欧米では4割ほどが普通のようです。違うものですねえ。
これら6か国以外の平均値も出してみました。下図は,値が高い順に並べたランキング図です。分析対象のサンプル数が50を超える国に限っていることを申し添えます。
わが国の24.3%は,ダントツの最下位です。夫の分担率が4割という国が多く,最高の中国では48.8%とほぼ半分です。この大国では,夫婦とも同じくらいの割合で家事・家族ケアを分担するのが普通のようです。
中国が北欧を凌駕しているというのは,初めて知りました。女性のフルタイム就業率が高いので,夫婦で公平に分担しようということなのでしょう。中国では,基本的に料理は夫がするのだそうです。
http://www.news-postseven.com/archives/20131101_222679.html
今回の統計は,妻の就業形態の差を反映しているともいえます。しかし,パート就業の妻が多いことを差し引いても,日本の共働き夫婦の夫の分担率は,低いと言わざるをえません。
なぜ日本の夫は家事をしないかについては諸説がありますが,私は,男女の家事スキル格差という点に関心を持ちます。夫に手伝う意思があっても,スキルが低く戦力にならず,妻が一手に担うことになる。これは,学校における家庭科教育にかかわる問題でもあります。
中高における家庭科の男女共修実施前の世代と後の世代でどう違うか。夫の年齢別の分析もしたいところですが,サンプルがとれないので,それは叶いません。国内の『社会生活基本調査』でも,そこまではできないようです。問題意識のメモとして記しておくこととします。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=4493
ISSP(国際社会調査プログラム)の「家族とジェンダーに関する調査・第4回」(2012年)にて,対象者に自分とパートナーの家事時間を聞いているではありませんか。ローデータがありますので,個人単位の分布と平均値を出すことができます。後述のようにサンプルが多くとれないのですが,試算結果としてご報告します。
http://www.issp.org/index.php
この調査では,週当たりの家事時間と家族ケア時間を対象者に尋ねると同時に(Q16a,16b),パートナーのそれも問うています(Q17a,17b)。私は,自分もパートナーも有業である,25~54歳の夫の回答に注目しました。生産年齢の,共働き夫婦の夫に対象を絞った次第です。
日本の場合,上記の問い(Q16a~17b)の全てに有効回答を寄せた夫は,58人です。条件を細かく設定したのでサンプルが少なくなりましたが,この58人について,家事・家族ケア分担率を計算してみました。当人の時間とパートナーの時間の合算に占める,当人の時間の比重です。
他の主要国(米・英・西独・仏・瑞典)についても,同じ条件の夫を取り出し,家事・家族ケア分担率の分布をとってみました。サンプル数は,米が67,英が57,西独が107,仏が149,瑞典が98です。お隣の韓国は,サンプル数が50を割りましたので,分析から除いています。
少ないケース数ではありますが,共働き夫婦の夫の家事・家族ケア分担率(以下,家事分担率)の分布は,下図のようになっています。
他国に比して,日本は家事分担率が低い人が多いようです。最も多いのは,10%台となっています(赤色)。
しかし他国はそうではなく,米は40%台,英独は30%台,仏瑞は50%以上,つまり半分以上自分がしている旦那さんが最多です。
以上は分布ですが平均値(average)を出すと,日本の58人は24.3%です。アメリカは40.4%,イギリスは41.1%,西ドイツは34.9%,フランスは42.5%,スウェーデンは43.5%となります。DUAL夫婦の夫の家事分担率は,日本では2割ちょいですが,欧米では4割ほどが普通のようです。違うものですねえ。
これら6か国以外の平均値も出してみました。下図は,値が高い順に並べたランキング図です。分析対象のサンプル数が50を超える国に限っていることを申し添えます。
わが国の24.3%は,ダントツの最下位です。夫の分担率が4割という国が多く,最高の中国では48.8%とほぼ半分です。この大国では,夫婦とも同じくらいの割合で家事・家族ケアを分担するのが普通のようです。
中国が北欧を凌駕しているというのは,初めて知りました。女性のフルタイム就業率が高いので,夫婦で公平に分担しようということなのでしょう。中国では,基本的に料理は夫がするのだそうです。
http://www.news-postseven.com/archives/20131101_222679.html
今回の統計は,妻の就業形態の差を反映しているともいえます。しかし,パート就業の妻が多いことを差し引いても,日本の共働き夫婦の夫の分担率は,低いと言わざるをえません。
なぜ日本の夫は家事をしないかについては諸説がありますが,私は,男女の家事スキル格差という点に関心を持ちます。夫に手伝う意思があっても,スキルが低く戦力にならず,妻が一手に担うことになる。これは,学校における家庭科教育にかかわる問題でもあります。
中高における家庭科の男女共修実施前の世代と後の世代でどう違うか。夫の年齢別の分析もしたいところですが,サンプルがとれないので,それは叶いません。国内の『社会生活基本調査』でも,そこまではできないようです。問題意識のメモとして記しておくこととします。
2015年10月20日火曜日
食の生態学
所違えば天気が異なるのと同様,食べるものも違います。それを体系的に観察すると,「食の生態学」なんていう学問もできるのではないでしょうか。
生態学とは,生物と環境の関連を扱う学問ですが,社会学の一部問として人間生態学というのがあります。「人間と制度の空間的・時間的な分布の過程ないしは構造を,体系として捉える」ことを目指す領域です(『社会学小辞典』有斐閣,1997年,484ページ)。下位分野として都市生態学や犯罪生態学などがありますが,食の生態学というのも成り立つのではないか,と思います。
それだけ,食には地域的なバラエティーがあるのです。今回は国内の47都道府県のデータを使って,その一端を描いてみようと思います。
総務省『家計調査年報』には,主な品目別に,1世帯あたりの年間支出額が掲載されています。各県の県庁所在地のデータも分かります。私は,原表(下記サイトの表11)から6品目の数値を採集しました。下表はその一覧です。47都道府県中の最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しています。
この表のデータを使って,3つの図表をつくってみました。順にご覧に入れましょう。まずは,納豆の年間支出額の都道府県地図です。4つの階級を設け,それぞれの県を濃淡で塗り分けてみました。
東高西低の図柄ができています。いろいろな食材の地図をつくってみましたが,地域性が最もクリアーなのは,まぎれもなく納豆です。
冬は雪で閉ざされる北国において,保存食として納豆が重宝されてきたのは,よく知られていること。近畿は真っ白ですが,あっさり嗜好の関西人は,どうもあの「ネバネバ」に抵抗があるみたいです。
次に,魚か肉かという,大雑把なタイプ分類をしてみましょう。年間支出額が「魚>肉」の県を魚派,その逆を肉派とします。上記の表によると,東京は魚より肉の支出額が多いので,肉派となります。私の郷里の鹿児島もそうです。
魚派を青,肉派をピンクで塗った地図にすると,下図のようになります。
東北は魚,西南は肉というように,おおむねきれいに分かれています。地理的ロケーションによって,こうも明瞭に分かれるのですねえ。
ただ例外もあり,若者の多い首都圏は肉派が多くなっています。西でも島根,山口,高知,佐賀は魚派です。高知が魚派というのは,よくわかる。九州では唯一,佐賀県民が魚を好んでいます。
最後に,食費全体に占める,外食費・調理品費のウェイトを計算してみましょう。単身化もあって,食の外部化・簡素化・省力化が進んでいますが,数値でみて,その比重はどれほどなのでしょう。上表の外食費と調理品費の合算を,食費全体で除して,外食・調理品依存率を県ごとに出してみました。下表は,そのランキング表です。
全国値でみると33.1%,ちょうど3分の1となっています。食全体の3分の1が,外食ないしは調理品(弁当やレトルトなど)で賄われていると。
しかし県別にみると,千葉の40.7%から青森の25.0%までのレインヂがみられます。上位5はいずれも都市県ですが,単身の若者が多いためでしょう。ちなみに私などは,この外食・調理品依存率がおそらく60%は超えると思います。今日は出勤日ですが,晩は駅前の中華料理屋で食べてくるつもりです。
『家計調査年報』の原表から,各地域の「食」の特色がいろんな角度から分かります。ここでお見せしたのは,ほんの一部です。「本県が一番!」の食材のリストを作ることもできます。精緻につくれば,食べ物の商売をしようという方の参考資料にもなるでしょう。
何度もいいますが,政府統計は国民の共有財産です。存分に活用しましょう。
2015年10月17日土曜日
若者の政府不信の国際比較
選挙年齢が20歳から18歳に引き下げられましたが,その意図は,若者の声をもっと政治に反映させよう,ということでしょう。
少子高齢化でただでさえ若者が少ないのに,彼らの投票率は低いものですから,投票所に足を運ぶ人間の年齢構成は完全な「逆ピラミッド」型になっています。高齢者によって選ばれた政治家が,高齢者のための政治をする。こんな感じでしょうか。
若者の投票率が低い原因としては,「行くのが面倒,かったるい」ということもあるでしょうが,政府に対する不信も大きいでしょう。
ISSPの2010年の環境意識調査では,「たいてい,政府の人間のすることは正しいと信じられる」という項目に対する反応を調べています(Q5a)。各国の20代の若者のうち,「そう思わない」ないしは「全くそう思わない」と答えた者の比率を出し,ランキングにすると下図のようになります。
*ISSP調査では,ドイツは東西に分けて回答が集計されています。フランドルとは,ベルギー内の地域です。イスラエルは,ユダヤ人とアラブ人に対象が分けられています。
日本の若者の政府不信率は86.0%,世界でトップです。他の先進国を大きく引き離しています。東欧も不信率が高いようですが,四半世紀前に社会がひっくり返ったことに対する不信(懐疑)が尾を引いているのでしょうか。不信率が最も低いのは,直接民主制をしいているスイスです。
ちなみに日本は,政府不信率の世代差が大きいことも特徴です。若者と高齢者の断絶の大きさは,こういう所にも出ています。それを「見える化」してみましょう。横軸に60歳以上の高齢者,縦軸に20代の若者の不信率をとった座標上に,34の社会をプロットしてみました。
実斜線は均等線ですが,多くの国がこれよりも上にあり,高齢者より若者の政治不信が強いことが知られます。しかし,アメリカやイスラエル(ユダヤ人)のように,どの逆の社会もあります。
「高齢者<若者」の世代差ですが,その程度は国によって違っています。実斜線からの垂直方向の距離で測られますが,日本はそれがマックスです。高齢者の不信率が55.5%であるのに対し,若者は86.0%,政府に対する不信の世代差が最も大きい社会です。
高齢者によって選ばれた為政者による,高齢者のための政治。こういう構図が続いてきたことに対する,「いじけ」の表れといえましょうか。
ところで,有意差ではありませんが,主要国の20代のデータを細かく分析すると,次のような傾向が出てきます。日本では,政府に不信を持っている群の選挙投票率が,そうでない群よりも低くなっています(直近の選挙に投票したか,という設問への回答による)。しかしながら,欧米諸国ではその反対なのです。政府に不信を抱いている若者のほうが,そうでない者のよりも選挙に行く率が高くなっています。
日本では「今の政府はダメ,もう放っておこう」ですが,海外では「今の政府はいかん,変えねば」となる。虐げられた現状の打開を求めるにあたって,内を向くか,外を向くかの違いです。前に,殺人率と自殺率の関連を手掛かりに,日本人の国民性は「内向型」と性格づけたことがありますが,それと通じているように思えます。
「籠る」ではなく「変える」。こういう方向転換がないと,事態はいつまでたっても同じまま。選挙年齢が18歳に下がったことに伴い,高校での政治教育により重点が置かれるそうですが,動けば変わるということを,具体的な先人の事例をもって,エネルギーにあふれた若人に教える必要があるのではないかと思います。
わが国に特徴的な病理は,若者の政府不信率がべらぼうに高いことに加えて,それが「内こもり」とつながってしまっていることです。諸外国では,政府不信の炎(怒り)が改革志向に向かうことと対照的。20代の86%という不信の剣を,社会変革の方向に仕向けたいものです。
2015年10月15日木曜日
壮年男性の体格の国際比較
秋も深まってきましたが,いかがお過ごしでしょうか。食欲の秋,スポーツの秋,芸術の秋・・・。秋を言い表すタームはいろいろありますが,私の場合,1番目はなるべく抑えて,2番目に力点を置かないといけません。如何せん,太り気味なものでして。
ご存じの方が多いかと思いますが,身長と体重から肥満度を割り出す簡便な尺度があります。それは,BMIです。Body Mass Indexの略称で,体重(kg)を身長(m)の二乗で除して出します。2つの数値を入力すれば,値を自動的に出してくれるサイトもあります。
http://www.health.ne.jp/check/bmi.html
私は身長が177cm(1.77m),体重が75kgですので,BMIは23.9と算出されます。これをどう評価するかですが,BMIが25.0を超えると肥満と判定されるそうです。むうう,私はこのラインに近づきつつあります。反対に18.5に満たない人は,「やせ過ぎ」と判定されます。
これは,舞田敏彦という39歳のオトコの例ですが,同年代の男性のBMI分布はどういうものでしょう。自分の位置を知りたくなります。また他国では,どうなっているか。ハイカロリーの食事の米国では,BMIが高い人が多いのではないか,と思われます。
今回は,30~40代男性のBMI分布の国際比較をしてみようと思います。別名,肥満の国際比較です。ISSP(国際社会調査プログラム)が2009年に実施した,健康に関する調査のデータを使います。ローデータのファイルを開くと,個々のサンプルについて,身長と体重が掲載されています。これをもとに30~40代男性のBMIを出し,その分布を明らかにしてみました。
http://www.issp.org/index.php
まずは,日本と米国の分布をみていただきましょう。下図には,BMIを算出できたサンプルの分布が描かれています。日本は191人,米国は233人の分布曲線です。
日本は21.0~21.9,米国は23.0~24.9の階級にピークがあります。やはり米国のほうが高いゾーンに多く分布していますね。
さてBMIが25.0を超えると肥満と判定されるのですが,これに該当する者の割合は日本が31.4%,米国では71.7%です。前者では壮年男性の3割が肥満ですが,後者の大国では7割にもなります。よくいわれますが,肥満大国です。
調査対象となった他国の分布もみてみましょう。各国の30~40男性を「やせ(18.5未満)」,「普通(18.5以上25.0未満),「肥満(25.0以上)に分け,これら3群の組成を帯グラフにしてみました。肥満者の比重が高い順に33か国を並べています。
なおISSPの国際調査では,ドイツは対象者が西と東に分かれています。西ドイツ,東ドイツとあるのは,そのためです。ワロンとフランドルは,ベルギー内の地域です。
アメリカがトップですね。東欧の社会も,働き盛りの男性の肥満率が高し。しかしまあ,黒色の領分が大きく,33か国中25か国で,壮年男性の肥満率が半分を超えています。
アジア諸国は,肥満率は相対的に低いようです。日・韓・中はおよそ3割,最下位のフィリピンは2割にも達しません。肉食の欧米に比したら,やはりこうなりますか。
私としては,ブラジルやアルゼンチンのような南米社会の肥満率に興味を持ちます。草履のようなステーキをバクバク食べる国民ですが,もしかしたらアメリカよりも高いのでは・・・。ISSPの調査対象になっていないのが残念です。
最後に,自分のBMIが国内の分布でどの辺りかを知る目安を得ておきましょう。私のBMIは23.9ですが,肥満ラインの25.0には達していませんが,日本国内の壮年男性の中でみると,どの辺りに位置するのか。
これを知るには,分布の累積相対度数分布を描くのが便利です。相対度数を低い階級から積み上げた(累積した)グラフです。日本とアメリカのカーブは,下図のようになります。
50%はちょうど半分で,75%は上位4分の1の位置です。日本をみると,半分のラインは22.5,上位4分の1のラインは25.5くらいでしょうか。私のBMI値(23.9)は,半分よりは高い位置にあります。BMIが25.5を超えると上位4分の1以内,27.0を超えると上位10%以内に入るという感じです。
当然,米国は,それぞれのラインはもっと高くなります。BMI27.0は日本では上位10%以内の肥満者ですが,米国では全体のちょうど中ほどです。
今回の統計で,自分のBMI値の絶対水準,国内での相対水準を知ることができました。肥満ライン(25.0)の一歩手前であること,国内の同年代男性の半分より上であることに,少しばかりの危機感を抱きます。
体格のコントロールが必要ですが,無理なダイエットはしないつもりです。その分,体を動かす。よく動き,よく食べる。この方向で行きたいと思います。毎朝の50分ウォークも定着してきました。出勤日は駅まで歩いています。駅構内でも,なるべく階段を使っています。無理のないペースで,徐々にレベルを引き上げていくつもりです。
ご存じの方が多いかと思いますが,身長と体重から肥満度を割り出す簡便な尺度があります。それは,BMIです。Body Mass Indexの略称で,体重(kg)を身長(m)の二乗で除して出します。2つの数値を入力すれば,値を自動的に出してくれるサイトもあります。
http://www.health.ne.jp/check/bmi.html
私は身長が177cm(1.77m),体重が75kgですので,BMIは23.9と算出されます。これをどう評価するかですが,BMIが25.0を超えると肥満と判定されるそうです。むうう,私はこのラインに近づきつつあります。反対に18.5に満たない人は,「やせ過ぎ」と判定されます。
これは,舞田敏彦という39歳のオトコの例ですが,同年代の男性のBMI分布はどういうものでしょう。自分の位置を知りたくなります。また他国では,どうなっているか。ハイカロリーの食事の米国では,BMIが高い人が多いのではないか,と思われます。
今回は,30~40代男性のBMI分布の国際比較をしてみようと思います。別名,肥満の国際比較です。ISSP(国際社会調査プログラム)が2009年に実施した,健康に関する調査のデータを使います。ローデータのファイルを開くと,個々のサンプルについて,身長と体重が掲載されています。これをもとに30~40代男性のBMIを出し,その分布を明らかにしてみました。
http://www.issp.org/index.php
まずは,日本と米国の分布をみていただきましょう。下図には,BMIを算出できたサンプルの分布が描かれています。日本は191人,米国は233人の分布曲線です。
日本は21.0~21.9,米国は23.0~24.9の階級にピークがあります。やはり米国のほうが高いゾーンに多く分布していますね。
さてBMIが25.0を超えると肥満と判定されるのですが,これに該当する者の割合は日本が31.4%,米国では71.7%です。前者では壮年男性の3割が肥満ですが,後者の大国では7割にもなります。よくいわれますが,肥満大国です。
調査対象となった他国の分布もみてみましょう。各国の30~40男性を「やせ(18.5未満)」,「普通(18.5以上25.0未満),「肥満(25.0以上)に分け,これら3群の組成を帯グラフにしてみました。肥満者の比重が高い順に33か国を並べています。
なおISSPの国際調査では,ドイツは対象者が西と東に分かれています。西ドイツ,東ドイツとあるのは,そのためです。ワロンとフランドルは,ベルギー内の地域です。
アメリカがトップですね。東欧の社会も,働き盛りの男性の肥満率が高し。しかしまあ,黒色の領分が大きく,33か国中25か国で,壮年男性の肥満率が半分を超えています。
アジア諸国は,肥満率は相対的に低いようです。日・韓・中はおよそ3割,最下位のフィリピンは2割にも達しません。肉食の欧米に比したら,やはりこうなりますか。
私としては,ブラジルやアルゼンチンのような南米社会の肥満率に興味を持ちます。草履のようなステーキをバクバク食べる国民ですが,もしかしたらアメリカよりも高いのでは・・・。ISSPの調査対象になっていないのが残念です。
最後に,自分のBMIが国内の分布でどの辺りかを知る目安を得ておきましょう。私のBMIは23.9ですが,肥満ラインの25.0には達していませんが,日本国内の壮年男性の中でみると,どの辺りに位置するのか。
これを知るには,分布の累積相対度数分布を描くのが便利です。相対度数を低い階級から積み上げた(累積した)グラフです。日本とアメリカのカーブは,下図のようになります。
50%はちょうど半分で,75%は上位4分の1の位置です。日本をみると,半分のラインは22.5,上位4分の1のラインは25.5くらいでしょうか。私のBMI値(23.9)は,半分よりは高い位置にあります。BMIが25.5を超えると上位4分の1以内,27.0を超えると上位10%以内に入るという感じです。
当然,米国は,それぞれのラインはもっと高くなります。BMI27.0は日本では上位10%以内の肥満者ですが,米国では全体のちょうど中ほどです。
今回の統計で,自分のBMI値の絶対水準,国内での相対水準を知ることができました。肥満ライン(25.0)の一歩手前であること,国内の同年代男性の半分より上であることに,少しばかりの危機感を抱きます。
体格のコントロールが必要ですが,無理なダイエットはしないつもりです。その分,体を動かす。よく動き,よく食べる。この方向で行きたいと思います。毎朝の50分ウォークも定着してきました。出勤日は駅まで歩いています。駅構内でも,なるべく階段を使っています。無理のないペースで,徐々にレベルを引き上げていくつもりです。
2015年10月11日日曜日
父母ともパートでいい
ISSPの第4回「家族とジェンダー役割に関する調査」のローデータ分析にのめり込んでいます。興味深い設問が満載。
Q11aにて,「子どもが学校に上がるまでの間は,父母はどういう選択をするのが最も望ましいか?」と尋ねています。主要国の回答を集計したところ,「ほう」というグラフになりましたので,ここに掲げようと思います。
18歳以上の国民の意見分布ですが,予想通りといいますか,「父フルタイム就業&母主婦」ないしは「父フルタイム就業&母パート就業」という回答が幅を利かせています。
しかしスウェーデンだけは,「父母ともパート就業」という回答(紫色)が最も多くなっています。発想が違いますねえ。
われわれの感覚だと,「幼子がいるからって,何で女性が家庭に押し込められないといけないのだ。彼女らもフルタイムで働けるようにしよう」となるのですが,この北欧国では「手のかかる子がいるというのに,何で男性がガツガツ働かないといけないのか。子が学校に上がるまでは,父母ともパートでいいではないか」となるのでしょう。
女性が男性にキャッチアップするのではなく,ベクトルが逆なわけです。
煩瑣になるので主要7国の帯グラフしか載せませんが,アイスランド,ノルウェー,スイスでも,「父母ともパート就業にすべし」という回答が相対的におおくなっています(2割超)。
女性の社会進出ばかりでなく,男性の「家庭進出」も促されないといけません。後者の進展が前者の条件になるのですから。
自分たちが慣れ親しんでいる常識が相対視される。だから国際比較は面白い。やめられません。
2015年10月9日金曜日
ジニ係数の国際比較(2012年)
ISSP(国際社会調査プログラム)は,毎年40か国ほどの国民を対象に,特定の主題に関する意識を調査しています。
http://www.issp.org/index.php
現在データが公開されている最新のものは,2012年の第4回「家族とジェンダー役割に関する調査」です。この調査の属性項目をみると,属する世帯の年収を尋ねているではありませんか。『世界価値観調査』のように,社会の中でどの辺りかを自己評定させる形式ではなく,前年(2011年)の年収の実額を聞いています。
データは,度数分布の形で国ごとに知ることができます。私はこれを使って,各国内部における富の格差の大きさを測る,ジニ係数を計算してみました。国民の富の格差が大きい国はどこか,日本は他国と比してどうか,という関心からです。これをみるには,個々人の収入ではなく,共に暮らし,生計を同じくする世帯(household)の収入分布に注目するのがよいかと思います。
わが国を例に,計算のプロセスを説明いたしましょう。
日本では,1084人の国民が,自分が属する世帯の年収を答えています。左端の人数はその分布ですが,年収200万円台の世帯で暮らす者が167人と最多です。中間ではなく,低い層に山があります。貧困単身世帯などが増えているためでしょう。
人数の右隣の富量とは,それぞれの階級が得た富の総量です。各階級の世帯年収を中間の値(階級値)とみなすと,年収200万円台の世帯の167人は,167×250万=4億1750万円の富をゲットしたわけです。12の階級の富量を合算すると,60億7200万円なり。
さて,この巨額の富が各階級にどう配分されているかですが,真ん中の相対度数をみると,結構偏っていることが分かります。年収300万未満の世帯の人間には,全富の8.8%しか届いていません(青色)。この層は281人で,人数の上では4分の1を占めるにもかかわらず,です。逆に,人数では1割ほどでしかない年収1000万超の富裕層が,富全体の26.7%をもせしめています(黄色)。
人数と富量の分布のズレは,右端の累積相対度数をみるとクリアーです。赤の数字をみると分かるように,全体の4割を占める年収400万未満の層は,18.1%の富しか受け取っていない。残りの8割の富は,それより上の階層に持っていかれているわけです。
上表にある,人数と富量の分布の隔たりが大きいほど,国民の富の格差が大きい社会ということになります。それは,右端の累積相対度数をグラフにすることで「視覚化」されます。下図は,横軸に人数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に,12の年収階級をプロットし折れ線でつないだものです。これを,ローレンツ曲線といいます。
きれいな弓なりの曲線ですが,この曲線の底が深いほど,人数と富量のズレが大きい,つまり富の格差が大きい,ということになります。われわれが求めようとしているジニ係数は,この曲線と対角線で囲まれた面積(色つき)を2倍した値です。
人数と富の分布が等しい完全平等の場合,ローレンツ曲線は対角線に重なりますので,ジニ係数は0.0となります。反対に極限の不平等状態の場合は,色つきの面積は四角形の半分になりますから,ジニ係数は,0.5×2=1.0となります。したがって,ジニ係数は0.0~1.0の範囲に分布し,現存する社会はこの間のどこかに位置します。
上図から,日本の曲線と対角線で囲まれた面積を求めると,0.1767となります(詳しい計算方法は,2011年7月11日の記事を参照)。よって,日本のジニ係数は,これを2倍して0.3534となります。世帯年収でみた,国民の富の格差のレベルです。
これをどう評価するかですが,一般にジニ係数が0.4を超えると,社会が不安定化するといわれます。日本はこのラインには達していませんが,今後はどうなるやら・・・。2020年にオリンピックが開催される頃は,高齢化や孤族化がもっと進み,この危険水域に届いていしまうかもしれません。そうなったら,この年に来日する多くの外国人を驚かせることになるでしょう。「日本は格差が小さく,安全な国ではなかったのか」と。
ちなみに,南アフリカのジニ係数は0.611にもなります。上図をみればわかるように,この国のローレンツ曲線は底が深くなっています。一部の富裕層が,国全体の富の大部分を占有している,ということです。この社会では,凶悪犯罪が日常的に起きているといいますが,「そうだろうな」と頷かされます。
では,同じやり方で計算した,37か国のジニ係数をみていただきましょう。ISSPの第4回「家族とジェンダー役割に関する調査」の対象は38か国ですが,トルコだけは,世帯年収のデータがないようです。下図は,ジニ係数が高い順に並べたランキング図です。
トップは,オーストラリアで0.649です。この国の事情は存じませぬが,2位は先ほどみた南アフリカ,3位はフィリピン,4位はメキシコと,発展途上国が続きます。これらの社会では富の格差がべらぼうに大きいことは,いろいろな旅行記からも教えられます。
人口大国の中国は6位,その次はフランス,アメリカは10位です。危険水準の0.4を超えているのは,インドまでの13か国となっています。
日本の0.353は,37か国の中では「中の下」というところ。東欧の旧共産圏の社会では,ジニ係数は小さくなっています。なんとなくわかる・・・。
世帯の年収分布から,各国の富の格差の程度を「見える化」してみました。それぞれの社会の性格が見えてきます。参考資料として,ご覧ください。
2015年10月8日木曜日
父親を超えられない社会
「国勢社会調査プログラム」(ISSP)という組織が毎年,特定の主題を据えて国際意識調査をしているのですが,2009年の「社会的不平等」第4回調査と2012年の「家族とジェンダー」第4回調査のローデータを入手しました。
http://www.issp.org/index.php
上記のISSPサイトにて,ローデータが公開されています。氏名,メアド,使用目的を入力するだけで,誰でもダウンロードできます。SASとSPSSのファイルでアップされています。私はSPSSを持ちませんで,昨日大学でDLし,エクセルに変換しました。
私の場合,SPSSよりエクセルのほうが使い勝手がいいのですよね。いろいろ小回りも利くし・・・。このとおり完全に自己流ですので,どっかの研究所の調査員に雇われても,お役に立てそうにありません。
ともあれ自分のパソコンに移しましたので,自由自在にデータを分析できます。2009年の「社会的不平等」第4回調査のファイルには,41か国・55238人の回答データが未加工のまま詰まっています(上の画面)。
興味ある設問が満載で,どこから分析しようかと迷うのですが,私はQ11の設問に興味を持ちました。「今の(最後にしていた)仕事の地位レベルは,14~16歳の頃の父と比べてどうか?」という問いです。仕事に就いている者,もしくは仕事に就いたことがある者に尋ねています。
今の日本のように,発展の山を越えてしまった社会では,「子は親を超えることはできない」とよく言われます。それは本当か?他国ではどうか? 私は,自分の世代(30代男性)の回答を集計してみました。下の図は,主要7か国の帯グラフです。
日本の特異性が際立っています。今の仕事の地位レベルが父よりも低いと考えているのは,他の6か国では2割ほどですが,日本では6割にも達しています。
正直,日本の結果はこうだろうな,という予測はしていました。われわれはロスジェネでもありますし。しかし,他国はそうでないことに驚いています。日本の対象者は,お決まりの「謙虚」な回答をしたのでしょうか。それを差し引いても,この図の模様には唖然とします。
ISSP「社会的不平等」第4回調査の対象は41か国ですが,これら全体の中でみたらどうでしょう。高い(はるかに高い+高い)と,低い(低い+はるかに低い)の回答比率をとってみました。朝日新聞流に,中抜きのグラフにしてみましょう。
ほとんどの国で,青色のバーが緑色より長くなっています。子が父を超えている社会が多い中,その逆の社会は3国だけです(日本,フィンランド,トルコ)。しかし,対象者の6割が「父よりも低い」と答えているのは,まぎれもなくわが国だけ。
日本の対極にあるのが中国です,30代の7割が「父を超えている」と思っています。勢いありますものね,この国は。
日本の状況が,90年代以降の「失われた20年」の産物であるのは明らか。若者に過重な期待をしてはいけない,自分たちと同じ人生行路を彼らが歩めると思ってはいけない。上の世代は,この点を自覚すべきでしょう。
戸梶圭太さんの『西東京市白光団地の最凶じいちゃん・イワオ74』第3巻の最後に,こんなくだりが出てきます(391ページ)。いつまでも一人前になれない孫の直人を,イワオが小馬鹿にしたところ,直人は反論。それに対しイワオは・・・
https://twitter.com/tmaita77/status/644104347366785024
直人「じいちゃんの時代と俺の時代はぜんぜん違うんだよ,就職して彼女作って結婚して子ども作るとか,もう不可能なんだよ,それが現実んなんだよ」
イワオ「なにもそのコースだけが一人前になるってことじゃない。勘違いするな。じゃあ半人前でもいい」。
一人前の見方の変更,場合によっては「半人前」でもいい・・・。上の世代に求められるのは,うざったい説教ではなく,時代状況を見越した,こうした大らかな構えです。それがないと,若者との溝は深まるばかり。自分たちが歩んだコースを,後続世代が子羊のように大人しくついてくると思ってはいけない。
戸梶さんは,今回データで示したような日本の状況を見越していたのでしょう。それへの処方箋を,登場人物の口に語らせるています。この人の慧眼には,感服させられるばかりです。
http://www.issp.org/index.php
上記のISSPサイトにて,ローデータが公開されています。氏名,メアド,使用目的を入力するだけで,誰でもダウンロードできます。SASとSPSSのファイルでアップされています。私はSPSSを持ちませんで,昨日大学でDLし,エクセルに変換しました。
私の場合,SPSSよりエクセルのほうが使い勝手がいいのですよね。いろいろ小回りも利くし・・・。このとおり完全に自己流ですので,どっかの研究所の調査員に雇われても,お役に立てそうにありません。
ともあれ自分のパソコンに移しましたので,自由自在にデータを分析できます。2009年の「社会的不平等」第4回調査のファイルには,41か国・55238人の回答データが未加工のまま詰まっています(上の画面)。
興味ある設問が満載で,どこから分析しようかと迷うのですが,私はQ11の設問に興味を持ちました。「今の(最後にしていた)仕事の地位レベルは,14~16歳の頃の父と比べてどうか?」という問いです。仕事に就いている者,もしくは仕事に就いたことがある者に尋ねています。
今の日本のように,発展の山を越えてしまった社会では,「子は親を超えることはできない」とよく言われます。それは本当か?他国ではどうか? 私は,自分の世代(30代男性)の回答を集計してみました。下の図は,主要7か国の帯グラフです。
日本の特異性が際立っています。今の仕事の地位レベルが父よりも低いと考えているのは,他の6か国では2割ほどですが,日本では6割にも達しています。
正直,日本の結果はこうだろうな,という予測はしていました。われわれはロスジェネでもありますし。しかし,他国はそうでないことに驚いています。日本の対象者は,お決まりの「謙虚」な回答をしたのでしょうか。それを差し引いても,この図の模様には唖然とします。
ISSP「社会的不平等」第4回調査の対象は41か国ですが,これら全体の中でみたらどうでしょう。高い(はるかに高い+高い)と,低い(低い+はるかに低い)の回答比率をとってみました。朝日新聞流に,中抜きのグラフにしてみましょう。
ほとんどの国で,青色のバーが緑色より長くなっています。子が父を超えている社会が多い中,その逆の社会は3国だけです(日本,フィンランド,トルコ)。しかし,対象者の6割が「父よりも低い」と答えているのは,まぎれもなくわが国だけ。
日本の対極にあるのが中国です,30代の7割が「父を超えている」と思っています。勢いありますものね,この国は。
日本の状況が,90年代以降の「失われた20年」の産物であるのは明らか。若者に過重な期待をしてはいけない,自分たちと同じ人生行路を彼らが歩めると思ってはいけない。上の世代は,この点を自覚すべきでしょう。
戸梶圭太さんの『西東京市白光団地の最凶じいちゃん・イワオ74』第3巻の最後に,こんなくだりが出てきます(391ページ)。いつまでも一人前になれない孫の直人を,イワオが小馬鹿にしたところ,直人は反論。それに対しイワオは・・・
https://twitter.com/tmaita77/status/644104347366785024
直人「じいちゃんの時代と俺の時代はぜんぜん違うんだよ,就職して彼女作って結婚して子ども作るとか,もう不可能なんだよ,それが現実んなんだよ」
イワオ「なにもそのコースだけが一人前になるってことじゃない。勘違いするな。じゃあ半人前でもいい」。
一人前の見方の変更,場合によっては「半人前」でもいい・・・。上の世代に求められるのは,うざったい説教ではなく,時代状況を見越した,こうした大らかな構えです。それがないと,若者との溝は深まるばかり。自分たちが歩んだコースを,後続世代が子羊のように大人しくついてくると思ってはいけない。
戸梶さんは,今回データで示したような日本の状況を見越していたのでしょう。それへの処方箋を,登場人物の口に語らせるています。この人の慧眼には,感服させられるばかりです。
2015年10月5日月曜日
社会タイプの国際比較
国際社会調査プログラム(ISSP)は,特定の主題を設けて,毎年,各国の国民を対象とした興味深い調査を実施しています。
http://www.issp.org/index.php
社会的不平等(social inequality)の意識調査はこれまで,1987年,1992年,1999年,そして2009年と,4回にわたって実施されてきています。最新の第4回の調査票を眺めていたところ,面白い設問を見つけましたので,その回答結果の国別比較をしてみようと思います。
どういう設問かというと,社会の地位構造のモデル図を提示して,自分の国はどれに一番近いかを選んでもらう,というものです。社会は,収入や威信を異にする地位の序列構造からなっていますが,すぐ思いつく代表タイプは,下が厚く上にいくにつれ細くなっていく「ピラミッド型」,中間が厚い「中太り型」などでしょう。
この調査では,以下の5タイプを提示して,自分の国はどれに最も近いと思うかを尋ねています。調査対象は,各国の18歳以上の国民です(一部の国は,16歳以上)。
はて,それぞれの国の国民は,どのタイプを最も多く選択しているのでしょう。私は,選択率が最も高かったタイプに,それぞれの国(41か国)を仕分けてみました。下の表は,その結果です。選択率が高い順に,上から並べています。
国民の主観的な選択結果ですが,それぞれの国がどういうタイプの社会かを知る手掛かりとなります。タイプAの選択率が最も高かった国は12,タイプBは19,タイプCは2,タイプDは7でした。逆ピラミッド型のタイプEが最も選ばれた国はありませんでした。
タイプDは中間が厚く上と下が細い,平等度が高い社会ですが,北欧とオセアニアの国々が含まれています。デンマークでは,国民の6割ほどがこのタイプに最も近いと答えています。これらの国が,高税率,福祉先進国であることを思うと,さもありなんですね。
タイプAは,一部のエリートと多数の底辺層に分化している社会です。独裁国家をイメージすればよいでしょうか。なるほど,ウクライナなど旧共産圏の国が多く名を連ねているのは,頷けます。
隣のタイプBは,数的に最も多くなっています。下が厚く,上にいくにつれなだらか減っていく「ピラミッド型」。少数が多数の上に立つのですが,タイプAのように上と下がパッカリ分かれているのではなく,富や威信の配分の傾斜が緩やかであるのが特徴。小幅の社会移動(mobility)の可能性も開かれており,下の不満を抑える巧みな装置も備わっています。現存する多くの社会は,このタイプでしょうね。日本や主要国は,このタイプに収まっています。最後のタイプCは,このBの微変型です。
以上は,最も高い選択率だけに着目した結果ですが,他の回答分布も気になるかと思います。たとえば日本は,全体の38.5%がタイプB(ピラミッド型)に最も近いと答えたわけですが,残りの61.5%の組成はどうなのでしょう。
そこで,5つの選択肢の回答分布をグラフで示しておきます。
デンマークやウクライナなどは,最多の選択率が半分以上を占めています。前者は平等型,後者は分極型というように,社会タイプの性格がはっきりと認識されているようです。
対して日本は,回答が結構分散していますね。Aが11%,Bが39%,Cが26%,Dが20%,Eが4%,という内訳です。社会がどういう構造か見えにくい,それだけ,どういう方向に社会を変えていくかというコンセンサスが得にくい,ということでしょうか。認識の分布は当然,社会の各層によっても異なるでしょう。為政者と庶民で,回答分布がどう違うかも興味が持たれます。
それを明らかにするには細かいクロス集計をしないといけませんが,本調査のローデータは,明後日大学でダウンロードしてきます。それでもって,作業してみることにしましょう。
ISSPは前から使いたいと思っていたのですが,やっと使用法をマスターしました。『世界価値観調査』と並んで,国際比較分析をするための貴重なデータとなってくれそうです。
http://www.issp.org/index.php
社会的不平等(social inequality)の意識調査はこれまで,1987年,1992年,1999年,そして2009年と,4回にわたって実施されてきています。最新の第4回の調査票を眺めていたところ,面白い設問を見つけましたので,その回答結果の国別比較をしてみようと思います。
どういう設問かというと,社会の地位構造のモデル図を提示して,自分の国はどれに一番近いかを選んでもらう,というものです。社会は,収入や威信を異にする地位の序列構造からなっていますが,すぐ思いつく代表タイプは,下が厚く上にいくにつれ細くなっていく「ピラミッド型」,中間が厚い「中太り型」などでしょう。
この調査では,以下の5タイプを提示して,自分の国はどれに最も近いと思うかを尋ねています。調査対象は,各国の18歳以上の国民です(一部の国は,16歳以上)。
はて,それぞれの国の国民は,どのタイプを最も多く選択しているのでしょう。私は,選択率が最も高かったタイプに,それぞれの国(41か国)を仕分けてみました。下の表は,その結果です。選択率が高い順に,上から並べています。
国民の主観的な選択結果ですが,それぞれの国がどういうタイプの社会かを知る手掛かりとなります。タイプAの選択率が最も高かった国は12,タイプBは19,タイプCは2,タイプDは7でした。逆ピラミッド型のタイプEが最も選ばれた国はありませんでした。
タイプDは中間が厚く上と下が細い,平等度が高い社会ですが,北欧とオセアニアの国々が含まれています。デンマークでは,国民の6割ほどがこのタイプに最も近いと答えています。これらの国が,高税率,福祉先進国であることを思うと,さもありなんですね。
タイプAは,一部のエリートと多数の底辺層に分化している社会です。独裁国家をイメージすればよいでしょうか。なるほど,ウクライナなど旧共産圏の国が多く名を連ねているのは,頷けます。
隣のタイプBは,数的に最も多くなっています。下が厚く,上にいくにつれなだらか減っていく「ピラミッド型」。少数が多数の上に立つのですが,タイプAのように上と下がパッカリ分かれているのではなく,富や威信の配分の傾斜が緩やかであるのが特徴。小幅の社会移動(mobility)の可能性も開かれており,下の不満を抑える巧みな装置も備わっています。現存する多くの社会は,このタイプでしょうね。日本や主要国は,このタイプに収まっています。最後のタイプCは,このBの微変型です。
以上は,最も高い選択率だけに着目した結果ですが,他の回答分布も気になるかと思います。たとえば日本は,全体の38.5%がタイプB(ピラミッド型)に最も近いと答えたわけですが,残りの61.5%の組成はどうなのでしょう。
そこで,5つの選択肢の回答分布をグラフで示しておきます。
デンマークやウクライナなどは,最多の選択率が半分以上を占めています。前者は平等型,後者は分極型というように,社会タイプの性格がはっきりと認識されているようです。
対して日本は,回答が結構分散していますね。Aが11%,Bが39%,Cが26%,Dが20%,Eが4%,という内訳です。社会がどういう構造か見えにくい,それだけ,どういう方向に社会を変えていくかというコンセンサスが得にくい,ということでしょうか。認識の分布は当然,社会の各層によっても異なるでしょう。為政者と庶民で,回答分布がどう違うかも興味が持たれます。
それを明らかにするには細かいクロス集計をしないといけませんが,本調査のローデータは,明後日大学でダウンロードしてきます。それでもって,作業してみることにしましょう。
ISSPは前から使いたいと思っていたのですが,やっと使用法をマスターしました。『世界価値観調査』と並んで,国際比較分析をするための貴重なデータとなってくれそうです。
2015年10月3日土曜日
都道府県別の正規職員の平均年収
9月28日に「いくら稼げる?129職業の年収ランキング」という記事を,『日経デュアル』に載せていただきました。読んでくださる方が多いようです。
年収は職業によっても違いますが,地域によっても違います。地方出身ということもあってか,私はこちらのほうにも関心を持ちます。今回は,正規職員の平均年収を都道府県別に出してみようと思います。性や年齢といった基本変数も組み込みます。
「地域×性別×年収」。こうした細かいデータを出すのが,ここでの作業のオリジナリティーです。
使うのは,2012年の総務省『就業構造基本調査』のデータです。この資料から,各県の正社員の年収分布を性別・年齢層別に知ることができます。この分布のデータを加工して,平均年収を計算した次第です。
東京の30代男性正社員を例にして,原資料の分布からどうやって平均値を計算したのかを説明します。下の表をご覧ください。下記サイトの表23から数字を採取して,作成したものです。
年収が判明する東京の30代男性正規社員は77万人で,その年収分布は表のようになっています。真ん中の400万円台にピークがある,きれいな分布ですね。
この分布を一つの平均値に均すわけですが,度数分布から平均値を計算するには,階級値の考え方に依拠します。各階級の年収を,軒並み中間の値とみなすわけです。年収300万円台は350万円,400万円台は450万円というように。上限のない1500万円以上の層は,ひとまず2000万円と仮定しましょう。
この場合,平均年収は以下の式で求められます。全体を100とした相対度数を使うほうが計算は楽です。
{(25万×0.2人)+(75万×0.1人)+・・・(2000万×0.9人)}/100.0人 ≒ 535.6万円
東京の30代男性正社員の平均年収は,536万円なり。まあ,こんなものでしょうか。このやり方で,都道府県別・性別・年齢層別の平均年収を計算しました。以下に掲げるのは,その一覧表です。全県中の最高値には黄色,最低値には青色マークをしています。上位5位の数値は赤色にしました。
働いて得られる収入は,地域によってかなり違っています。男性をみると,最高値はどの年齢も東京,最低値は軒並み沖縄です。30代でいうと,東京の536万円と沖縄の326万円では210万円の開きがあり,50代になるとその差は358万円にまで拡大します。
エンリコ・モレッティ流にいうと,「年収は住むところで決まる」ですね。この本は米国の実態を明らかにしたものですが,同じテーゼは海を隔てた島国の日本にも当てはまっています。
あと,ジェンダーの差にも注目。同じ正社員,同じ年齢層であっても,年収にはジェンダー差があります。東京の30代でいうと,男性は536万円,女性は418万円で,118万円の開きで,この差は加齢とともに大きくなります。
各県の年齢層別のジェンダー差をわかりやすく「見える化」してみましょう。男性が女性の何倍かという倍率にしてみました。下表は,割り算の結果の一覧です。少数の影響で,上表の整数の割り算で出てくる数値とは違っている個所もあります。
正社員の年収のジェンダー差が最も大きいのは,20代では三重(1.34),30代では大分(1.40),40代では兵庫(1.63),50代では愛知(1.78)です。愛知と三重は赤字が多く,給与の性差が大きい県と評されます。製造業が多いためでしょうか。
年齢が上がるほどジェンダー差は大きくなります。愛知の50代では,男性が686万円,女性が385万円と,1.78倍もの格差になります。
一方,沖縄はジェンダー差が小さくなっています。平均年収は低いのですが,性差が小さいことは注目されます。各県の男女共同参画施策担当者のみなさん,上表のジェンダー倍率一覧表を参考になさってください。
2番目の表に戻りますが,20代男性の平均年収は,最も高い東京でも370万円です。前に電車の週刊誌のつり広告で,「20代女性が結婚相手に求める年収は600万円」というフレーズを見かけましたが,それが叶う確率は限りなくゼロに近いとみてよいでしょう。
著名ブロガーのちきりんさんが,「現実を知ってる人が理想を語るのは意味があるけど,現実を知らない人が理想を語るのは百害あって一利なし」とつぶやいておられます。
その現実を明らかにするための道具がデータです。
2015年10月1日木曜日
首都圏私立大学574学部の初年次退学率分布
読売新聞教育ネットワーク『大学の実力2016』が中央公論新社より発刊されています。大学・学部別にさまざまな情報が掲載されており,これから大学選びをする受験生のバイブルとなっていることでしょう。
http://www.chuko.co.jp/tanko/2015/09/004767.html
生徒は,自分が志望する大学・学部のTP比や退学率などを知ることができるのですが,入学後1年以内の退学率が「3.0%」とあっても,「それって高いの,低いの?」という疑問が出てくるはずです。
まあ,他大学の数値をザーと見れば大体の見当はつきますが,各大学・学部の数値を評価する(位置づける)ための,全体分布図を作ることは無駄ではありますまい。前々回は非常勤教員率でしたが,今回は,入学後1年以内の退学率(初年次退学率)の分布図を作ってみようと思います。
初年次退学率とは,2014年4月入学者のうち,翌年3月までの間に退学した者が何%かです。上記資料に,計算済みの数値が各大学の学部別に掲載されています。首都圏の私立大学の学部のデータを入力し,5%刻みの度数分布にしてみます。
なお単純分布を描くだけでは芸がないので,偏差値によって分布がどう違うかも出してみましょう。一口に大学生といっても,入試難易度によって意識や行動が大きく異なることは,誰もが知っていること。学研教育出版の『大学受験案内2016年度用』を使って,各学部の入試偏差値を調査しました。
http://hon.gakken.jp/book/1130421200
首都圏(1都3県)の私立大学の学部のうち,初年次退学率と偏差値の両方が判明したのは,574学部です。これらの学部を分析対象とします。以下に掲げるのは,度数分布表です。
ランクを問わない全体の分布(右端)をみると,初年次退学率が0.5%以上1.0未満の学部が最も多くなっています。全体の17.6%がこの階級に属しています。
しかし偏差値によって分布は違っており,ランクが下がるほど,黄色マークの最頻階級(Mode)が下のほう,つまり退学率が高いゾーンにずれてきます。分布の幅も広くなってきます。偏差値30台の学部では,初年次退学率が10%を超える学部もあります。10人に1人が,入学後1年を待たずして去るわけです。本命を狙う「仮面浪人」の学生が多いのかもしれませんけど。
上表の分布を簡易な平均値にすると,574学部全体では2.3%です。偏差値群別にみると,偏差値30台の学部の初年次退学率平均は4.2%,40台は2.2%,50台は1.5%,60以上は1.0%となっています。ほう,ランクと退学率の間には明瞭な相関関係がありますね。
最後に,574学部の初年次退学率分布をヒストグラムにしておきましょう。各階級のバーを偏差値の色で塗り分けてみます。
受験生のみなさん,自分が志望する学部の初年次退学率を,この全体図の中で評価してみてください。ランクとの関連も読み取ってください。
偏差値と退学率の関連については前にも書いたことがあり,これについて私が申したいことも書いています。だいぶ前の記事ですが,URLを記しておきます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/01/blog-post_18.html
http://www.chuko.co.jp/tanko/2015/09/004767.html
生徒は,自分が志望する大学・学部のTP比や退学率などを知ることができるのですが,入学後1年以内の退学率が「3.0%」とあっても,「それって高いの,低いの?」という疑問が出てくるはずです。
まあ,他大学の数値をザーと見れば大体の見当はつきますが,各大学・学部の数値を評価する(位置づける)ための,全体分布図を作ることは無駄ではありますまい。前々回は非常勤教員率でしたが,今回は,入学後1年以内の退学率(初年次退学率)の分布図を作ってみようと思います。
初年次退学率とは,2014年4月入学者のうち,翌年3月までの間に退学した者が何%かです。上記資料に,計算済みの数値が各大学の学部別に掲載されています。首都圏の私立大学の学部のデータを入力し,5%刻みの度数分布にしてみます。
なお単純分布を描くだけでは芸がないので,偏差値によって分布がどう違うかも出してみましょう。一口に大学生といっても,入試難易度によって意識や行動が大きく異なることは,誰もが知っていること。学研教育出版の『大学受験案内2016年度用』を使って,各学部の入試偏差値を調査しました。
http://hon.gakken.jp/book/1130421200
首都圏(1都3県)の私立大学の学部のうち,初年次退学率と偏差値の両方が判明したのは,574学部です。これらの学部を分析対象とします。以下に掲げるのは,度数分布表です。
ランクを問わない全体の分布(右端)をみると,初年次退学率が0.5%以上1.0未満の学部が最も多くなっています。全体の17.6%がこの階級に属しています。
しかし偏差値によって分布は違っており,ランクが下がるほど,黄色マークの最頻階級(Mode)が下のほう,つまり退学率が高いゾーンにずれてきます。分布の幅も広くなってきます。偏差値30台の学部では,初年次退学率が10%を超える学部もあります。10人に1人が,入学後1年を待たずして去るわけです。本命を狙う「仮面浪人」の学生が多いのかもしれませんけど。
上表の分布を簡易な平均値にすると,574学部全体では2.3%です。偏差値群別にみると,偏差値30台の学部の初年次退学率平均は4.2%,40台は2.2%,50台は1.5%,60以上は1.0%となっています。ほう,ランクと退学率の間には明瞭な相関関係がありますね。
最後に,574学部の初年次退学率分布をヒストグラムにしておきましょう。各階級のバーを偏差値の色で塗り分けてみます。
受験生のみなさん,自分が志望する学部の初年次退学率を,この全体図の中で評価してみてください。ランクとの関連も読み取ってください。
偏差値と退学率の関連については前にも書いたことがあり,これについて私が申したいことも書いています。だいぶ前の記事ですが,URLを記しておきます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/01/blog-post_18.html