酷暑が続いた7月も終わりです。先週末に暑さが和らいだものの,今週になってまたぶり返しています。8月は,西日本で酷暑になるとの予報が出ています。大阪府知事が要望を出しているそうですが,甲子園はもうナイターですね。
今月,私が把握した教員不祥事報道は57件です。暑さでネジが飛んでしまったのか,いつもよりも多めです。無理な運動指導により,生徒を熱中症で死亡させてしまった事案が見受けられます(赤字)
一昔前と今では,夏の暑さのレベルが違います。高温注意報が出た日は体育の授業は中止,スポーツ大会はナイターにするといった配慮が求められるようになりつつあります。学校の教室にエアコンも必須です。生活保護世帯のエアコン購入費用を補助する動きが出ていますが,子どもたちが,「健康で文化的な最低限度」を下回る環境で勉強を強いられるというのは,いかにもクレイジーです。
2020年のオリンピックも懸念されます。戦中の学徒動員のごとく,若き学生をボランティアで駆り出すそうですが,死人がでないかどうか…。時期をずらすことができないのでしょうか。
明日から8月です。明日,税金の口座振替の手続きにちょっと出かける予定です。WK用に買った麦わら帽子をかぶっていきます。
<2018年7月の教員不祥事報道>
・中3女子のスカート内盗撮 幼稚園教師を逮捕
(7/2,ABCテレビ,兵庫,幼,男,27)
・酒気帯び疑い教諭逮捕 通勤中の運転、匿名の110番
(7/2,産経,鹿児島,特,男,48)
・知人女性にわいせつ疑い、中学教諭逮捕(7/3,産経,兵庫,中,男,59)
・高校講師が万引 駐車中の車に複数回運び入れる(7/3,産経,茨城,高,男,43)
・お釣りを盗んだ疑い 教諭逮捕(7/3,NHK,岡山,中,男,31)
・女子児童にわいせつ疑い講師逮捕(7/4,NHK,大阪,小,男,31)
・中学教諭が生徒7人に体罰 顔や頭に平手、3人不登校に
(7/4,朝日,兵庫,中,男,30代)
・茨城県立高教諭を逮捕、知人女性を暴行しようとした疑い
(7/4,産経,茨城,高,男,46)
・勘違いで教諭失職…校長を戒告処分 滋賀県教委
(7/5,産経,滋賀,小,男,58)
・小学教諭に停職6カ月 飲酒運転と万引の疑い
(7/5,千葉日報,千葉,小,男,31)
・覚醒剤所持で音楽担当の女教諭逮捕「自分で使うつもりだった」
(7/6,産経,福岡,小,女,43)
・教え子の体触ったわいせつ教諭を懲戒免職 愛知県教委
(7/6,サンスポ,愛知,中,男,57)
・選挙行政議会:バイク102キロ走行の教諭を戒告処分
(7/8,毎日,大分,男,42)
・男性高校教諭、脅迫メール送り停職2カ月(7/9,産経,三重,高,男,50)
・児童ポルノDVD所持の教諭を処分 教諭は依願退職
(7/10,CBCニュース,岐阜,中,男,56)
・わいせつ行為 講師2人を免職(7/11,NHK,栃木,小男23,中男26)
・職員室で物色 教諭を逮捕(7/12,NHK,鳥取,高,男,38)
・体罰などで県立高校教諭減給処分(7/12,NHK,宮城,高,男,31)
・女子トイレ侵入の男性教諭を免職処分(7/12,埼玉,産経,中,男,27)
・中学校で教諭が生徒の顔を平手打ちの体罰
(7/12,山梨,日テレ,中,男,30代)
・生徒にわいせつ…教諭4人懲戒免職
(7/13,神奈川,日テレ,高男36,高男24,高男24,無免許運転:中男35)
・小学校臨時講師 飲酒運転で摘発(7/13,日テレ,大分,小,男)
・部活顧問「校舎の周り80周走れ」 男子生徒が熱中症に
(7/14,朝日,滋賀,中,男,31)
・県教委、教諭2人を懲戒処分 軽傷人身事故
(7/14,山形新聞,山形,中男40代,高女50代)
・中学教諭が酒気帯び運転容疑逮捕(7/15,NHK,長野,中,男,54)
・行政ファイル:わいせつ行為をした県立高校教諭を停職処分
(7/15,毎日,広島,高,男,44)
・わいせつ容疑で小学校教諭逮捕=女児に体触らせる
(7/17,時事ドットコム,熊本,小,男,46)
・児童に体罰 小学校教諭を戒告(7/17,NHK,岩手,小,男,47)
・女児にわいせつ疑い、浜松市立小教員逮捕(7/18,静岡新聞,静岡,小,男,56)
・飲酒した友人が運転する車に同乗 奈良県立高校の非常勤講師を停職処分
(7/18,産経,奈良,高,男,23)
・教え子にみだらな行為、愛知元中学講師の男を逮捕
(7/18,日刊スポーツ,愛知,中,男)
・群馬県教委:音楽教師を懲戒免職 備品楽器を売却
(7/18,毎日,群馬,高,男,46)
・教諭が男子児童の胸蹴り戒告処分(7/19,NHK,兵庫,小,男,27)
・埼玉県立飯能高校教諭を逮捕、強制わいせつ容疑(7/20,産経,埼玉,高,男,26)
・<体罰>教諭2人懲戒処分 炎天下ランニングで生徒一時重体
(7/20,毎日,東京,特,男,32・33)
・静岡の中学講師が痴漢容疑 菊川署逮捕(7/20,静岡新聞,静岡,中,男,28)
・生徒の首絞め失神 教諭ら処分(7/20,テレビ大分,大分,中,男,59)
・静岡の住居侵入:不起訴の教諭を停職処分(7/21,毎日,静岡,高,男,55)
・11年7カ月無免許運転教諭に停職6カ月
(7/21,山陽新聞,岡山,無免許運転:中男52,置き引き:中男30代)
・ラグビー合宿中…教諭が酔って高3部員の頭をふみつけけがさせる
(7/24,MBSニュース,和歌山,高,男)
・中学校教諭が飲酒運転で逮捕(7/24,NHK,三重,中,男,42)
・中学教諭がスカート内を盗撮、容疑で逮捕(7/25,サンスポ,東京,中,男,29)
・副校長、同僚へ強制わいせつ疑い 横浜学園高、20代女性教諭に
(7/25,共同通信,神奈川,高,男,61)
・トイレ盗撮の支援学校教諭を懲戒免職処分
(7/25,日刊スポーツ,北海道,特,男,41)
・宮古島市教委 中学教諭酒気帯びで謝罪(7/25,琉球放送,沖縄,中,男,48)
・津市立中学校の教師が酒気帯び運転容疑、懇親会帰り逮捕
(7/25,中京テレビ,三重,中,男,42)
・中学教諭が盗撮容疑 田園都市線、被害女性の母ら取り押さえる
(7/26,神奈川新聞,東京,中,男,29)
・駅のエスカレーターで盗撮 府立高校講師を逮捕
(7/26,産経,大阪,高,男,33)
・女子生徒を旅行に誘った教諭ら4人を懲戒処分
(7/27,産経,大阪,誘い:特男58,体罰:高男40,暴言:高男44,無断欠勤:高女63)
・少女にわいせつ 小学校講師免職(7/27,NHK,福岡,中,男,23)
・住居侵入未遂の小学校教員、停職1年 福岡市教委
(7/28,日経,福岡,小,男,37)
・女子生徒に「アホ」ツイート 神奈川の中学教諭を厳重注意
(7/28,神奈川新聞,神奈川,中,男,48)
・万引容疑で高校講師の女逮捕 兵庫・西宮(7/28,サンスポ,兵庫,高,女,56)
・体罰:市立高男性教諭を戒告処分 福岡市教委(7/28,毎日,福岡,高,男,56)
・小学校講師が16歳にわいせつ 滋賀、容疑で逮捕
(7/29,京都新聞,滋賀,小,男,27)
・小学校教頭を逮捕 ひき逃げで女性死亡の疑い(7/29,NHK,埼玉,小,男,54)
・窃盗疑いで中学教諭逮捕 職員室金庫から(7/30,日経,愛知,中,男,38)
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2018年7月31日火曜日
2018年7月29日日曜日
職業別の生涯未婚率(2017年)
2017年の『就業構造基本調査』のデータ分析にのめり込んでいます。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html
この調査の目玉は有業者の所得を調べていることですが,配偶関係も調査項目に入っています。調査対象の有業者が未婚か既婚かも分かるわけです。
職業とのクロスをとれば職業別の未婚率も出せるわけで,その統計表も公開されています。統計表02500です。性別と年齢も統制できます。e-statにて,「性別 × 職業 × 年齢 × 配偶関係」のクロス表を作るといいでしょう。
私の年齢層(アラフォー)に注目しようかと思いましたが,世間の関心の高い生涯未婚率を出してみようと思います。字のごとく,生涯未婚のままにとどまる人の割合ですが,統計上は50歳時点の未婚率とされています。この年齢以降,結婚する人はほぼ皆無であろう,という仮定に立つわけです。
5歳刻みの統計表から出す場合,40代後半と50代前半の未婚率を平均します。男性有業者でいうと,40代後半の未婚率は22.8%,50代前半は17.3%ですので,生涯未婚率は20.1%となります。女性有業者の生涯未婚率はちょっと下がって14.7%です。
男性労働者の5人に1人,女性労働者の7人に1人が,生涯ずっと未婚のままにとどまると見込まれます。私も,そのうちの一人になりそうです。
しかるに生涯未婚率は職業によって違っており,性差が逆転する職業も数多くあります。今回の主眼は,それを明らかにすることです。上記の統計表から,68の職業(中分類)の生涯未婚率を計算できます。以下は,その一覧表です。職業大分類に依拠して,敷居の線を引いています。
母数が少なすぎて率を出せなかったセルは「**」としています。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値ですが,男性は1.2%~59.1%,女性は0.0%~40.8%の分布幅です。
男性の鉄道運転手の生涯未婚率はわずか1.2%ですか。公共性の高い仕事で安定してますからね。女性の美術家・デザイナー・写真家・映像撮影者の生涯未婚率は40.8%。アーティストの未婚率が高いのは想像できますが,男性の18.3%と比すと性差が大きくなっています。
どういう職業で生涯未婚率が高いかは,男女で異なるようです。赤字は25%(4分の1)を超える数値ですが,男性はブルーカラー(労務)職,女性は専門職で生涯未婚率が高い傾向にあります。
女性の研究者,技術者,アーティストの生涯未婚率は高いですね。家庭との両立が難しいからか,十分な収入を得られるので結婚の必要を感じないからか…。
二次元の散布図にすると,職業ごとのジェンダー差が読み取りやすくなります。横軸に男性,縦軸に女性の生涯未婚率をとった座標上に,それぞれの職業のドットを配置しましょう。
斜線は均等線で,これより上にあるのは,生涯未婚率が「男性<女性」である職業です。ほとんどが専門職ですね。医師や教員もこのタイプです。右下は「男性>女性」の度合いが高い職業ですが,多くは労務職となっています。
5年前の2012年データを使って同じデータを作ったことがありますが,傾向は同じですねえ。高度専門職の女性の未婚率が高いこと(家庭との両立困難性)は変わっていないようです。医師の未婚率の性差が縮まっているのは注目点ですが。
さて,上記のグラフから,女性は収入が高い職業で生涯未婚率が高く,男性はその逆であることがうかがわれます。それも可視化しておきましょう。
最初の表の右端には,女性が男性より何ポイント高いかという性差を掲げています。この差分が,それぞれの平均所得とどう相関しているか。横軸に後者,縦軸に前者をとった座標上に,両方が分かる64の職業を散りばめてみます。平均所得は,同じ資料の職業別の所得度数分布(200日以上の規則的就業をしている者)から,階級値を使って割り出したものです。
所得が高い職業ほど,生涯未婚率の性差(男性<女性)が大きい傾向が見受けられます。相関係数は+0.5928です。所得がぶっ飛んで高い医師を外れ値として除外すると,+0.6231までアップします。
所得の低い男性,所得の高い女性で未婚率は高い。
これは個人単位のデータからも分かることで,所得階層別の未婚率カーブを性別に描くと「X」型になります(男性は右上がり,女性は右下がり)。上記の職業単位のデータは,同じことを表現しているだけです。
女性の社会進出が叫ばれ,高度専門職の女性比率も高まっていますが,それは未婚化・少子化という副作用をもたらしてしまうものなのでしょうか。女性の社会進出と少子化の克服は,両立させ得ない「トレード・オフ」の関係なのでしょうか。
そんなことはありますまい。高度専門職の女性比率が高い欧米では,日本よりも出生率が高い国はほとんどですので。職務との両立を可能ならしめる条件が整っているからでしょう(保育所,育休,テレワーク,フレックスタイム…)。日本で推奨されているような三世代同居とは違います。
職業別の未婚率に,こうも明瞭なジェンダーが出てくるのは,おそらく日本の特徴ではないかとみられます。女性のハイタレントの活用と少子化の克服は,両立し得ないことではありますまい。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html
この調査の目玉は有業者の所得を調べていることですが,配偶関係も調査項目に入っています。調査対象の有業者が未婚か既婚かも分かるわけです。
職業とのクロスをとれば職業別の未婚率も出せるわけで,その統計表も公開されています。統計表02500です。性別と年齢も統制できます。e-statにて,「性別 × 職業 × 年齢 × 配偶関係」のクロス表を作るといいでしょう。
私の年齢層(アラフォー)に注目しようかと思いましたが,世間の関心の高い生涯未婚率を出してみようと思います。字のごとく,生涯未婚のままにとどまる人の割合ですが,統計上は50歳時点の未婚率とされています。この年齢以降,結婚する人はほぼ皆無であろう,という仮定に立つわけです。
5歳刻みの統計表から出す場合,40代後半と50代前半の未婚率を平均します。男性有業者でいうと,40代後半の未婚率は22.8%,50代前半は17.3%ですので,生涯未婚率は20.1%となります。女性有業者の生涯未婚率はちょっと下がって14.7%です。
男性労働者の5人に1人,女性労働者の7人に1人が,生涯ずっと未婚のままにとどまると見込まれます。私も,そのうちの一人になりそうです。
しかるに生涯未婚率は職業によって違っており,性差が逆転する職業も数多くあります。今回の主眼は,それを明らかにすることです。上記の統計表から,68の職業(中分類)の生涯未婚率を計算できます。以下は,その一覧表です。職業大分類に依拠して,敷居の線を引いています。
母数が少なすぎて率を出せなかったセルは「**」としています。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値ですが,男性は1.2%~59.1%,女性は0.0%~40.8%の分布幅です。
男性の鉄道運転手の生涯未婚率はわずか1.2%ですか。公共性の高い仕事で安定してますからね。女性の美術家・デザイナー・写真家・映像撮影者の生涯未婚率は40.8%。アーティストの未婚率が高いのは想像できますが,男性の18.3%と比すと性差が大きくなっています。
どういう職業で生涯未婚率が高いかは,男女で異なるようです。赤字は25%(4分の1)を超える数値ですが,男性はブルーカラー(労務)職,女性は専門職で生涯未婚率が高い傾向にあります。
女性の研究者,技術者,アーティストの生涯未婚率は高いですね。家庭との両立が難しいからか,十分な収入を得られるので結婚の必要を感じないからか…。
二次元の散布図にすると,職業ごとのジェンダー差が読み取りやすくなります。横軸に男性,縦軸に女性の生涯未婚率をとった座標上に,それぞれの職業のドットを配置しましょう。
斜線は均等線で,これより上にあるのは,生涯未婚率が「男性<女性」である職業です。ほとんどが専門職ですね。医師や教員もこのタイプです。右下は「男性>女性」の度合いが高い職業ですが,多くは労務職となっています。
5年前の2012年データを使って同じデータを作ったことがありますが,傾向は同じですねえ。高度専門職の女性の未婚率が高いこと(家庭との両立困難性)は変わっていないようです。医師の未婚率の性差が縮まっているのは注目点ですが。
さて,上記のグラフから,女性は収入が高い職業で生涯未婚率が高く,男性はその逆であることがうかがわれます。それも可視化しておきましょう。
最初の表の右端には,女性が男性より何ポイント高いかという性差を掲げています。この差分が,それぞれの平均所得とどう相関しているか。横軸に後者,縦軸に前者をとった座標上に,両方が分かる64の職業を散りばめてみます。平均所得は,同じ資料の職業別の所得度数分布(200日以上の規則的就業をしている者)から,階級値を使って割り出したものです。
所得が高い職業ほど,生涯未婚率の性差(男性<女性)が大きい傾向が見受けられます。相関係数は+0.5928です。所得がぶっ飛んで高い医師を外れ値として除外すると,+0.6231までアップします。
所得の低い男性,所得の高い女性で未婚率は高い。
これは個人単位のデータからも分かることで,所得階層別の未婚率カーブを性別に描くと「X」型になります(男性は右上がり,女性は右下がり)。上記の職業単位のデータは,同じことを表現しているだけです。
女性の社会進出が叫ばれ,高度専門職の女性比率も高まっていますが,それは未婚化・少子化という副作用をもたらしてしまうものなのでしょうか。女性の社会進出と少子化の克服は,両立させ得ない「トレード・オフ」の関係なのでしょうか。
そんなことはありますまい。高度専門職の女性比率が高い欧米では,日本よりも出生率が高い国はほとんどですので。職務との両立を可能ならしめる条件が整っているからでしょう(保育所,育休,テレワーク,フレックスタイム…)。日本で推奨されているような三世代同居とは違います。
職業別の未婚率に,こうも明瞭なジェンダーが出てくるのは,おそらく日本の特徴ではないかとみられます。女性のハイタレントの活用と少子化の克服は,両立し得ないことではありますまい。
2018年7月27日金曜日
40代前半夫婦の所得の見積もり
7月14日の記事では,40代前半男性の所得がバブル期に比してかなり下がっていることを明らかにしました。中央値でみると,1992年では524万円でしたが,2017年では472万円です。この四半世紀で,50万円以上減っています。
http://tmaita77.blogspot.com/2018/07/40.html
何度も書きますが,大学卒業時に超氷河期だったロスジェネがこのステージに達したことによるでしょう。ロスジェネ効果です。
この世代も,子どもがもうすぐ高校や大学に進学しますが,その費用の負担はキツイというものです。男性(夫)だけの稼ぎで,子どもを2人大学にやるのは難しいと思われます。「共働きでないとやっていけない」という声が各地で上がっています。だからこそ,幼子がいる親は,血眼になって保活に取り組むのです。
これから子どもを高校や大学にやる,40代前半の夫婦の所得が,妻の就業タイプによってどう違うかを明らかにしてみましょう。材料として,以下の3つのグループの所得の中央値を計算します。
A:40代前半の有配偶の正規雇用男性
B:40代前半の有配偶の正規雇用女性
C:40代前半の有配偶の非正規雇用女性
これらを使って,正社員夫婦の所得(A+B),夫正規・妻非正規の夫婦の所得(A+C),夫正規・妻無業の夫婦の所得(Aのみ),を割り出せます。
2017年の『就業構造基本調査』より,上記の3群の所得分布を得ました(都道府県編,人口・就業に関する統計表02300)。原資料では,配偶関係のカテゴリーが「総数」と「未婚」となってますので,前者から後者を引いた数を有配偶者とみなします。離別者や死別者も含まれちゃいますが,40代前半ではわずかとみていいでしょう。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html
所得が分かるのは,Aが267万人,Bが98万人,Cが161万人です。以下の表は,これら3群の所得の度数分布を,累積相対度数の形に整理したものです。所得階層の区分は,原資料によります。
中央値は,下から積み上げた累積相対度数が50ジャストの値です。男性正規は500万円台,女性正規は300万円台,女性非正規(パート等)は100万円台前半の階級に含まれることが分かります。
按分比例を使って,中央値を割り出しましょう。
男性正規:
按分比=(50.0-42.6)/(61.1-42.6)=0.402
中央値=500万円+(100万円×0.402)=540.2万円 … A
女性正規:
按分比=(50.0-40.6)/(61.5-40.6)=0.452
中央値=300万円+(100万円×0.452)=345.2万円 … B
女性非正規:
按分比=(50.0-48.5)/(77.2-48.5)=0.052
中央値=100万円+(50万円×0.052)=102.6万円 … C
40代前半の有配偶者のデータですが,中央値はこうなりました。一部のやり手に影響される平均値はもっと高くなりますが,中央値はこんなものでしょう。これらを組み合わせて,夫婦の所得の3パターンを推し量ることができます。
夫も妻も正社員の夫婦 = A+B = 885.4万円
夫は正規・妻は非正規(パート等)の夫婦 = A+C = 642.8万円
夫は正規・妻は無業(主婦)の夫婦 = A = 540.2万円
子ども2人を大学にやるのは600万円はないとキツイといいますが,最後の専業主婦世帯はこれを下回っています。妻がパートの世帯は,かろうじて超えるというところ。子どもが18歳になる,40代後半から50代前半になればもっと上がるかもしれませんが,年功賃金が薄れている今,その保証はありません。
ちなみにこれは全国の数値で,地域別にみれば様相は違っています。所得に地域差があるのは,誰もが知っていますよね。私の郷里の鹿児島は,所得水準が低いので,夫婦が正社員でないと子を2人大学になんてやれない,といわれます。
私は,上記のA~Cを都道府県別に計算し,40代前半夫婦の所得の3パターンを県ごとに出してみました。以下は,その一覧表です。600万円を超える数値は赤字,800万円以上には黄色マークをつけています。
正社員夫婦でみると全県で600万円を超えますが,妻がパートになると19県に減り,主婦世帯となると2都県しかなくなります。28の県では,夫婦との正社員の共働きでないと,子を2人大学にやるのはキツイと。
余談ですが,沖縄の正社員夫婦の所得(623万円)が,東京の主婦世帯(676万円)に及ばないというのは驚愕ですね…。
右端をみると,主婦世帯では600万円を切る県が大半で,500万円にも満たない県も少なくありません。男性の腕一本で家族を養える時代など終わっている,というべきでしょう。
こんなわけですので,乳幼児がいる親御さんが必死に保活に取り組むというのはよく分かります。しかるに,保育園に入れるかどうかは運に左右される部分も大です。ラッキーな夫婦は,数百万円の妻の稼ぎを失わなくて済み,不運な夫婦はそれを奪われてしまう。
保育園に入れず妻が離職を強いられた世帯は,子どもの大学の学費を減免したらどうか,という気にもなります。ツイテないロスジェネには慰謝料を与えたらどうかという,過激な提言もありますけど。
https://twitter.com/hayashi_r/status/924804950101696512
昨日・今日になり,暑さが和らぎましたね。しかし30℃に達しているのは間違いなく,これを涼しいと感じてしまうのは,感覚が狂っていることの証左です。慣れって恐ろしいものです。
http://tmaita77.blogspot.com/2018/07/40.html
何度も書きますが,大学卒業時に超氷河期だったロスジェネがこのステージに達したことによるでしょう。ロスジェネ効果です。
この世代も,子どもがもうすぐ高校や大学に進学しますが,その費用の負担はキツイというものです。男性(夫)だけの稼ぎで,子どもを2人大学にやるのは難しいと思われます。「共働きでないとやっていけない」という声が各地で上がっています。だからこそ,幼子がいる親は,血眼になって保活に取り組むのです。
これから子どもを高校や大学にやる,40代前半の夫婦の所得が,妻の就業タイプによってどう違うかを明らかにしてみましょう。材料として,以下の3つのグループの所得の中央値を計算します。
A:40代前半の有配偶の正規雇用男性
B:40代前半の有配偶の正規雇用女性
C:40代前半の有配偶の非正規雇用女性
これらを使って,正社員夫婦の所得(A+B),夫正規・妻非正規の夫婦の所得(A+C),夫正規・妻無業の夫婦の所得(Aのみ),を割り出せます。
2017年の『就業構造基本調査』より,上記の3群の所得分布を得ました(都道府県編,人口・就業に関する統計表02300)。原資料では,配偶関係のカテゴリーが「総数」と「未婚」となってますので,前者から後者を引いた数を有配偶者とみなします。離別者や死別者も含まれちゃいますが,40代前半ではわずかとみていいでしょう。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html
所得が分かるのは,Aが267万人,Bが98万人,Cが161万人です。以下の表は,これら3群の所得の度数分布を,累積相対度数の形に整理したものです。所得階層の区分は,原資料によります。
中央値は,下から積み上げた累積相対度数が50ジャストの値です。男性正規は500万円台,女性正規は300万円台,女性非正規(パート等)は100万円台前半の階級に含まれることが分かります。
按分比例を使って,中央値を割り出しましょう。
男性正規:
按分比=(50.0-42.6)/(61.1-42.6)=0.402
中央値=500万円+(100万円×0.402)=540.2万円 … A
女性正規:
按分比=(50.0-40.6)/(61.5-40.6)=0.452
中央値=300万円+(100万円×0.452)=345.2万円 … B
女性非正規:
按分比=(50.0-48.5)/(77.2-48.5)=0.052
中央値=100万円+(50万円×0.052)=102.6万円 … C
40代前半の有配偶者のデータですが,中央値はこうなりました。一部のやり手に影響される平均値はもっと高くなりますが,中央値はこんなものでしょう。これらを組み合わせて,夫婦の所得の3パターンを推し量ることができます。
夫も妻も正社員の夫婦 = A+B = 885.4万円
夫は正規・妻は非正規(パート等)の夫婦 = A+C = 642.8万円
夫は正規・妻は無業(主婦)の夫婦 = A = 540.2万円
子ども2人を大学にやるのは600万円はないとキツイといいますが,最後の専業主婦世帯はこれを下回っています。妻がパートの世帯は,かろうじて超えるというところ。子どもが18歳になる,40代後半から50代前半になればもっと上がるかもしれませんが,年功賃金が薄れている今,その保証はありません。
ちなみにこれは全国の数値で,地域別にみれば様相は違っています。所得に地域差があるのは,誰もが知っていますよね。私の郷里の鹿児島は,所得水準が低いので,夫婦が正社員でないと子を2人大学になんてやれない,といわれます。
私は,上記のA~Cを都道府県別に計算し,40代前半夫婦の所得の3パターンを県ごとに出してみました。以下は,その一覧表です。600万円を超える数値は赤字,800万円以上には黄色マークをつけています。
余談ですが,沖縄の正社員夫婦の所得(623万円)が,東京の主婦世帯(676万円)に及ばないというのは驚愕ですね…。
右端をみると,主婦世帯では600万円を切る県が大半で,500万円にも満たない県も少なくありません。男性の腕一本で家族を養える時代など終わっている,というべきでしょう。
こんなわけですので,乳幼児がいる親御さんが必死に保活に取り組むというのはよく分かります。しかるに,保育園に入れるかどうかは運に左右される部分も大です。ラッキーな夫婦は,数百万円の妻の稼ぎを失わなくて済み,不運な夫婦はそれを奪われてしまう。
保育園に入れず妻が離職を強いられた世帯は,子どもの大学の学費を減免したらどうか,という気にもなります。ツイテないロスジェネには慰謝料を与えたらどうかという,過激な提言もありますけど。
https://twitter.com/hayashi_r/status/924804950101696512
昨日・今日になり,暑さが和らぎましたね。しかし30℃に達しているのは間違いなく,これを涼しいと感じてしまうのは,感覚が狂っていることの証左です。慣れって恐ろしいものです。
2018年7月23日月曜日
ニュース雑感
酷暑が収まりません。今日の東京は40度を超えたとのこと。久々に上京しようと思ったのですが,取りやめて正解でした。
新聞やヤフーニュースは酷暑を報じる記事ばかりで気が滅入るのですが,昨日,うれしいニュースを2つ見つけました。ここに書き留めとこうと思います。いずれも昨日(7/22)のWeb版の記事です。
**********
1)通販の配達「玄関前に置くだけ」来春に本格開始:読売新聞
日本郵便が,玄関置き便を本格スタートするのだそうです。私が前から望んでいたことが具現化される見通しで,うれしく思います。これで,再配達が大きく減るでしょう。人手不足に苦しむ宅配業界の負担も軽減され,トラックから排出されるガスも削減されます。
盗難が心配という方も多いでしょうが,日本よりずっと治安の悪いアメリカでも,宅配便は玄関置きというのがデフォルトみたいですね。
日本郵便では,受け手が通常便か玄関置き便かを選択するシステムを構想しているようです。後者の費用をちょっと安くすれば,選択率も大いに上がると思われます。ネットの買い物では不思議なもので,たかが100円,200円の差も,大きく感じられるのですよね。
私は,玄関横に停めている自転車のカゴに入れてくれればOKです。私の場合,ネットで取り寄せる荷物の9割は玄関置きでいいものです。盗られて困るものは,通常便で頼めばいいだけのこと。年に1回か2回,あるくらいですけど。
大手のヤマトをはじめ,他社にも広がってほしいと願います。
**********
2)「倒産が命奪う」自殺3万人時代、企業救った魂の弁護士:朝日新聞
「自殺は個人の心の問題だと言われています。でも平成という時代は,自殺の増え過ぎが経済と関係しているかも,と気づかせてくれました」(記事冒頭より引用)。
うーん,社会学を学んでいる学徒の端くれとして,うれしい言葉です。心理主義の時代といわれ,カウンセラーは引っ張りだこ。こうなって久しいのですが,自殺の心理面だけでなく,社会的側面にもスポットを当てるべきと常に思っています。
鬱病のような心の病も,生活苦や人間関係の喪失(欠如)といった,客観的な生活条件に由来する部分が小さくないのですから。
たとえば,失業率と自殺率が非常に強く相関するのはよく知られています。以下に掲げるのは,男性の失業率と自殺率の長期推移です(1953~2015年)。前者は,15歳以上の男性労働力人口に占める完全失業者の割合です(年度平均)。後者は,男性人口10万人あたりの自殺者数です。
双方とも,官庁統計に計算済みの数値が出ています。それをコピペして,グラフにしただけです。
両者の共変関係が明らかです。気持ち悪いくらい,同調しています。これが因果関係とは限りませんが,とりわけ男性の場合,「失業→自殺」という因果経路は容易に推測されるところです。
不遜ですが,一気に涼しくなるようなグラフですねえ…。
こうした共変関係は,50代の男性に限るとより明瞭になります。私は前に,自殺率と生活不安指標の時系列的関連を分析したことがありますが,若年層では生活展望不良,中高年層では失業率が最も強く自殺率と関連しています。さもありなんですよね。
https://ci.nii.ac.jp/naid/40016941572
私が前に試算したところによると,失業率が1%上がると,自殺者が2380人増えると予測されます。(単純な一次式による推計)
https://tmaita77.blogspot.com/2016/06/blog-post_24.html
国際データが得られないので検討不可能なのですが,失業と自殺がここまで強く同調するのって,日本の特徴かもしれません。発展途上国では,こういう現象はありますまい。失職したって,相互扶助や贈与といった非貨幣経済で生きていけるのですから。
話が逸れましたが,自殺の社会的側面を知るには,このグラフが一番じゃないかなと思います。
まだまだ酷暑が続く見通しだそうです。なるべく外に出たくないのですが,ちょっと買い物に行かないといけません。今の時間なら何とか出れそうなので,近所のドラッグストアまで自転車を走らせます。
新聞やヤフーニュースは酷暑を報じる記事ばかりで気が滅入るのですが,昨日,うれしいニュースを2つ見つけました。ここに書き留めとこうと思います。いずれも昨日(7/22)のWeb版の記事です。
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1)通販の配達「玄関前に置くだけ」来春に本格開始:読売新聞
日本郵便が,玄関置き便を本格スタートするのだそうです。私が前から望んでいたことが具現化される見通しで,うれしく思います。これで,再配達が大きく減るでしょう。人手不足に苦しむ宅配業界の負担も軽減され,トラックから排出されるガスも削減されます。
盗難が心配という方も多いでしょうが,日本よりずっと治安の悪いアメリカでも,宅配便は玄関置きというのがデフォルトみたいですね。
日本郵便では,受け手が通常便か玄関置き便かを選択するシステムを構想しているようです。後者の費用をちょっと安くすれば,選択率も大いに上がると思われます。ネットの買い物では不思議なもので,たかが100円,200円の差も,大きく感じられるのですよね。
私は,玄関横に停めている自転車のカゴに入れてくれればOKです。私の場合,ネットで取り寄せる荷物の9割は玄関置きでいいものです。盗られて困るものは,通常便で頼めばいいだけのこと。年に1回か2回,あるくらいですけど。
大手のヤマトをはじめ,他社にも広がってほしいと願います。
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2)「倒産が命奪う」自殺3万人時代、企業救った魂の弁護士:朝日新聞
「自殺は個人の心の問題だと言われています。でも平成という時代は,自殺の増え過ぎが経済と関係しているかも,と気づかせてくれました」(記事冒頭より引用)。
うーん,社会学を学んでいる学徒の端くれとして,うれしい言葉です。心理主義の時代といわれ,カウンセラーは引っ張りだこ。こうなって久しいのですが,自殺の心理面だけでなく,社会的側面にもスポットを当てるべきと常に思っています。
鬱病のような心の病も,生活苦や人間関係の喪失(欠如)といった,客観的な生活条件に由来する部分が小さくないのですから。
たとえば,失業率と自殺率が非常に強く相関するのはよく知られています。以下に掲げるのは,男性の失業率と自殺率の長期推移です(1953~2015年)。前者は,15歳以上の男性労働力人口に占める完全失業者の割合です(年度平均)。後者は,男性人口10万人あたりの自殺者数です。
双方とも,官庁統計に計算済みの数値が出ています。それをコピペして,グラフにしただけです。
両者の共変関係が明らかです。気持ち悪いくらい,同調しています。これが因果関係とは限りませんが,とりわけ男性の場合,「失業→自殺」という因果経路は容易に推測されるところです。
不遜ですが,一気に涼しくなるようなグラフですねえ…。
こうした共変関係は,50代の男性に限るとより明瞭になります。私は前に,自殺率と生活不安指標の時系列的関連を分析したことがありますが,若年層では生活展望不良,中高年層では失業率が最も強く自殺率と関連しています。さもありなんですよね。
https://ci.nii.ac.jp/naid/40016941572
私が前に試算したところによると,失業率が1%上がると,自殺者が2380人増えると予測されます。(単純な一次式による推計)
https://tmaita77.blogspot.com/2016/06/blog-post_24.html
国際データが得られないので検討不可能なのですが,失業と自殺がここまで強く同調するのって,日本の特徴かもしれません。発展途上国では,こういう現象はありますまい。失職したって,相互扶助や贈与といった非貨幣経済で生きていけるのですから。
話が逸れましたが,自殺の社会的側面を知るには,このグラフが一番じゃないかなと思います。
まだまだ酷暑が続く見通しだそうです。なるべく外に出たくないのですが,ちょっと買い物に行かないといけません。今の時間なら何とか出れそうなので,近所のドラッグストアまで自転車を走らせます。
2018年7月22日日曜日
いじめの学年別認知件数の変化
子どもの問題行動の代表格のいじめですが,近年,認知件数が大幅に増えています。
「6歳ぐらいの子どもや低学年の児童は語彙が少ない。体が熱い,歩くのが遅い,動きが鈍いなど普段と様子が違う場合は,すぐ涼しい室内で休ませてほしい」と,小児科医は指摘しています(7月21日,朝日新聞)。
https://www.asahi.com/articles/ASL7N5HZBL7NOIPE01Q.html
この伝でいうと,低学年の担任には,経験豊かなベテラン教員を充てるという配慮も必要かもしれません。私の小1・小2時の担任は,定年間際のベテラン女性教師でした。
上記のいじめのデータを見る限り,低学年の子が発する(拙い)サインが,以前よりは感知されるようになっているのかもしれません。
文科省『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査』によると,小・中・高・特別支援学校のいじめ認知件数は,2010年度では7万7360件でしたが,2016年度では32万3143件となっています。6年間で4.2倍の増です。
これをもって,今の子どもは悪くなっている,陰湿になっているなどと,単純な解釈をする人は少ないでしょう。いじめ自殺の続発など,問題の深刻化を受け,いじめの把握に本腰が入れられるようになっているためです。2013年には,いじめ防止対策法も制定されました。
いじめの認知件数は,学年別にも集計されています。私は,教員採用試験の書籍を執筆している関係上,毎年このデータを見るのですが,最近になって傾向の変化がみられます。以下の表は,2010年度と最新の2016年度のデータです。
赤字はピークです。ちょっと前の2010年度では,いじめの認知件数は,中学校1年生で最多でした。これをもって「中1ギャップ」などと言われています。
ところが2016年度では,小学校2年生で最も多くなっています。いじめの認知件数はどの学年でも増えていますが,低学年ほど増加が顕著で,小2では9倍,小1では12倍にもなっています。
右端の数値は,熊本県のアンケート調査による,いじめの被害経験率です。2017年11~12月にとられたデータで,「今の学年で,いじめられたことがある」と答えた児童・生徒の比率です。自己申告ですので,いじめの現実態に近いと考えていいでしょう。
児童・生徒の自己申告によるいじめ被害率は,おおむね低学年ほど高く,小1~小3では2割を超えます。ほう,文科省のいじめ統計の学年カーブは,現実に近くなっているようですね。
グラフにすると分かりやすいでしょう。折れ線はいじめ認知件数,棒はいじめ被害率です。前者は左軸,後者は右軸で読んでください。
2010年度の認知件数は,自己申告のいじめ被害率の学年変化との齟齬が大きかったのですが,2016年度では,両者の傾向が近似するようになっています。
低学年の児童は,いじめの被害を言葉にして訴えるのも難しいでしょうが,最近になって,それが上手く拾われるようになっているのでしょうか。だとしたら,いじめの「暗数」も減っていることになりますね。
幼い子どもの声には,慎重に耳を傾けないといけません。7月17日,愛知県の小1児童が熱中症で死亡する事故がありましたが,灼熱下の校外学習で,「疲れた」という言葉を頻発していたのだそうです。これが当人なりに発した,熱中症のサインでした。
https://www.asahi.com/articles/ASL7N5HZBL7NOIPE01Q.html
この伝でいうと,低学年の担任には,経験豊かなベテラン教員を充てるという配慮も必要かもしれません。私の小1・小2時の担任は,定年間際のベテラン女性教師でした。
上記のいじめのデータを見る限り,低学年の子が発する(拙い)サインが,以前よりは感知されるようになっているのかもしれません。
2018年7月20日金曜日
家賃の中央値の変化
前々回の記事では,40代前半男性の所得中央値を出しました。1992年は524万円,2017年は472万円で,50万円以上減っています。都道府県別にみると,500万円を超えるのは,2017年ではたった5県しかありません。「失われた25年」の表れです。
このように収入はかなり減っているのですが,支出のほうはどうでしょう。食費や遊興費などは節約もできますが,税金や保険料,住居費などはそうはいきません。毎月定額払わないといけない固定支出です。
今回は,生活の基盤である「住まい」を維持するための費用を見てみようと思います。住居は持家と借家(賃貸)に分かれ,前者では住宅ローン,後者では家賃という固定費用がかかります。後者の家賃については,総務省『住宅土地統計』にて詳細なデータを得られます。
前々回の所得と同じく,90年代初頭の頃と最近のデータを比べてみましょう。原資料には借家世帯の平均家賃月額が出ていますが,代表値としての精度(信頼度)が高い中央値を算出します。まずは,借家世帯の家賃月額の分布を整理することから始めましょう。
家賃が分かる借家世帯は,1993年は1550万世帯,2013年は1797万世帯です。持家が「負動産」になるという認識が広まっているためか,20年前に比して借家に住む世帯が増えています。
真ん中の相対度数(%)をみると,分布が高いほうにシフトしています。家賃4万円未満の借家に住んでいる世帯は,1993年では50.2%と半分を超えていましたが,2013年では18.4%(5分の1)です。最頻階級(Mode)も,3万円台から5万円台に移っています。
右端の累積相対度数をみると,求めようとしている中央値(Median)は,1993年は3万円台,2013年は5万円台の階級に含まれていることが分かります。中央値は,全体を高い順に並べた時ちょうど真ん中にくる値,累積相対度数が50ジャストの値です。
按分比例を使って,この値を推し量りましょう。本ブログをずっと読まれている方は,もう慣れっこですよね。
1993年:
按分比=(50.0-33.2)/(50.2-33.2)=0.987
中央値=3万円+(1万円×0.987)=3.99万円
2013年:
按分比=(50.0-46.1)/(62.9-46.1)=0.233
中央値=5万円+(1万円×0.233)=5.23万円
借家世帯の家賃の中央値は,1993年は3.99万円,2013年は5.23万円と見積もられます。この20年間で,フツーの借家世帯の家賃は1万2000円ほど上がっています。所得は下がる一方で,家賃という基礎経費は上がる。なるほど,多くの人が生活の逼迫を感じるのは道理です。
言わずもがな,家賃は地域によって大きく違っています。地方より都会で家賃が高いのは,誰だって知っています。『住宅土地統計』には,借家世帯の家賃分布が都道府県別に出ています。上記と同じやり方にて,47都道府県の借家世帯の家賃月額の中央値を計算してみました。下の表は,高い順に配列したものです。
どの県でも家賃中央値は上がっています。両年のランキング表を「鳥の目」で眺めてみると,列島・家賃高騰化とでも言い得る現象が明らかです。1993年では家賃中央値4万円を超えるのは7県でしたが,2013年では40県です。5万円を超える県も,3県から10県に増えています。
2013年では東京は7.15万円,神奈川は6.64万円。中央値でコレです。申すまでもないですが,私のアパートの家賃はこれよりもずっと安くなっています。神奈川県内でも,横須賀市は安し。
上記の都道府県データを地図にしない手はありますまい。ドラスティックな変化を浮き彫りにすべく,4万円以上の県に色を付けた簡素なマップにしましょう。
前々回の所得マップは薄くなっているのに,支出の代表格の家賃マップは濃くなっています。繰り返しますが,生活の逼迫を感じる人が多くなるわけです。
収入と家賃を照らし合わせることで,生活のゆとり度を測る指標が出てきます。一昨日公開のニューズウィーク日本版記事では,借家世帯の「家賃/年収」比を出しました。分母は下がり,分子は上がっているのですから,この値は上昇しています。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/07/20-52.php
アベノミクスの虚を暴露している,生活苦の条件をあぶり出していると,多くの方に読まれたようで,ヤフートピックス「経済」にも選ばれました。
とりわけ若年世帯は酷いもので,京都や東京の若年借家世帯では,「家賃/年収」比が半分にもなります。単身学生が多いためでしょうが,勤め人の場合,家賃を払うために働いているようなものです。
ここまで家賃が重くのしかかるとなると,実家を出て世帯を構えることは困難で,親元にパラサイトせざるを得ません。若者の自立支援の意味でも,「住」に対する公的支援が欠かせないでしょう。公的な住宅手当が手厚い国ほど,世帯形成率が高いというデータもあります(藤田孝典『貧困世代』講談社新書,2016年,160ページ)。
それは未婚化・少子化に歯止めをかけ,世帯形成の際に必要な家電の消費を促すなど,景気の刺激することにもつながります。
景気の話が出ましたが,収入が減る一方で,税金や保険料,住居費が増えるとあっては,人々の財布の紐は固くなろうというものです。少子高齢化のなか,増税や保険料アップは止むを得ませんが,「住」に対する支援を増やす余地はあると思います。
人間の生活の基盤は住居で,この部分を保障されることで,人は大いに安心できます。若者に生活支援金を支給すべしという案がありますが,住居費(家賃)に用途を限定したお金を与えるべきだと思います。若気の至りで,使い方を誤ることもありませんし。
上記の藤田氏も,「住宅こそ最大の福祉政策」と主張されています。
このように収入はかなり減っているのですが,支出のほうはどうでしょう。食費や遊興費などは節約もできますが,税金や保険料,住居費などはそうはいきません。毎月定額払わないといけない固定支出です。
今回は,生活の基盤である「住まい」を維持するための費用を見てみようと思います。住居は持家と借家(賃貸)に分かれ,前者では住宅ローン,後者では家賃という固定費用がかかります。後者の家賃については,総務省『住宅土地統計』にて詳細なデータを得られます。
前々回の所得と同じく,90年代初頭の頃と最近のデータを比べてみましょう。原資料には借家世帯の平均家賃月額が出ていますが,代表値としての精度(信頼度)が高い中央値を算出します。まずは,借家世帯の家賃月額の分布を整理することから始めましょう。
家賃が分かる借家世帯は,1993年は1550万世帯,2013年は1797万世帯です。持家が「負動産」になるという認識が広まっているためか,20年前に比して借家に住む世帯が増えています。
真ん中の相対度数(%)をみると,分布が高いほうにシフトしています。家賃4万円未満の借家に住んでいる世帯は,1993年では50.2%と半分を超えていましたが,2013年では18.4%(5分の1)です。最頻階級(Mode)も,3万円台から5万円台に移っています。
右端の累積相対度数をみると,求めようとしている中央値(Median)は,1993年は3万円台,2013年は5万円台の階級に含まれていることが分かります。中央値は,全体を高い順に並べた時ちょうど真ん中にくる値,累積相対度数が50ジャストの値です。
按分比例を使って,この値を推し量りましょう。本ブログをずっと読まれている方は,もう慣れっこですよね。
1993年:
按分比=(50.0-33.2)/(50.2-33.2)=0.987
中央値=3万円+(1万円×0.987)=3.99万円
2013年:
按分比=(50.0-46.1)/(62.9-46.1)=0.233
中央値=5万円+(1万円×0.233)=5.23万円
借家世帯の家賃の中央値は,1993年は3.99万円,2013年は5.23万円と見積もられます。この20年間で,フツーの借家世帯の家賃は1万2000円ほど上がっています。所得は下がる一方で,家賃という基礎経費は上がる。なるほど,多くの人が生活の逼迫を感じるのは道理です。
言わずもがな,家賃は地域によって大きく違っています。地方より都会で家賃が高いのは,誰だって知っています。『住宅土地統計』には,借家世帯の家賃分布が都道府県別に出ています。上記と同じやり方にて,47都道府県の借家世帯の家賃月額の中央値を計算してみました。下の表は,高い順に配列したものです。
どの県でも家賃中央値は上がっています。両年のランキング表を「鳥の目」で眺めてみると,列島・家賃高騰化とでも言い得る現象が明らかです。1993年では家賃中央値4万円を超えるのは7県でしたが,2013年では40県です。5万円を超える県も,3県から10県に増えています。
2013年では東京は7.15万円,神奈川は6.64万円。中央値でコレです。申すまでもないですが,私のアパートの家賃はこれよりもずっと安くなっています。神奈川県内でも,横須賀市は安し。
上記の都道府県データを地図にしない手はありますまい。ドラスティックな変化を浮き彫りにすべく,4万円以上の県に色を付けた簡素なマップにしましょう。
前々回の所得マップは薄くなっているのに,支出の代表格の家賃マップは濃くなっています。繰り返しますが,生活の逼迫を感じる人が多くなるわけです。
収入と家賃を照らし合わせることで,生活のゆとり度を測る指標が出てきます。一昨日公開のニューズウィーク日本版記事では,借家世帯の「家賃/年収」比を出しました。分母は下がり,分子は上がっているのですから,この値は上昇しています。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/07/20-52.php
アベノミクスの虚を暴露している,生活苦の条件をあぶり出していると,多くの方に読まれたようで,ヤフートピックス「経済」にも選ばれました。
とりわけ若年世帯は酷いもので,京都や東京の若年借家世帯では,「家賃/年収」比が半分にもなります。単身学生が多いためでしょうが,勤め人の場合,家賃を払うために働いているようなものです。
ここまで家賃が重くのしかかるとなると,実家を出て世帯を構えることは困難で,親元にパラサイトせざるを得ません。若者の自立支援の意味でも,「住」に対する公的支援が欠かせないでしょう。公的な住宅手当が手厚い国ほど,世帯形成率が高いというデータもあります(藤田孝典『貧困世代』講談社新書,2016年,160ページ)。
それは未婚化・少子化に歯止めをかけ,世帯形成の際に必要な家電の消費を促すなど,景気の刺激することにもつながります。
景気の話が出ましたが,収入が減る一方で,税金や保険料,住居費が増えるとあっては,人々の財布の紐は固くなろうというものです。少子高齢化のなか,増税や保険料アップは止むを得ませんが,「住」に対する支援を増やす余地はあると思います。
人間の生活の基盤は住居で,この部分を保障されることで,人は大いに安心できます。若者に生活支援金を支給すべしという案がありますが,住居費(家賃)に用途を限定したお金を与えるべきだと思います。若気の至りで,使い方を誤ることもありませんし。
上記の藤田氏も,「住宅こそ最大の福祉政策」と主張されています。
2018年7月18日水曜日
40代前半男性の所得の診断表
前回は,40代前半男性の所得の中央値を出しました。とても多くの方にご覧いただき,「職業別の未婚率」の記事を抜いて,本ブログのPV首位に一気に躍り出ました。90年代初頭に比して,所得が大幅にダウンしていることに驚かれたのでしょう。「自分もロスジェネなんでよく分かる」という声も多数でした。
中央値(Median)というのは,値を高い順に並べたとき,ちょうど真ん中にくる値のことです。これより上なら半分より上,下なら半分より下,ということになります。2017年の40代前半男性の所得中央値は472万円ですが,私の所得はこれを下回っています。
「自分の所得は半分より下」。これは分かり切ったことですので,さして驚きませんが,さすがに下位10%にも満たないとなると,気心も変わってきます。逆に中央値を上回っている人は,上位25%や10%のラインを超えているかしら,という関心があるでしょう。
今回は,中央値とは別の分布値も出してみようと思います。そうですねえ。全体を6つのゾーンに分かつ,下位10%値,下位25%値,中央値,上位25%値,上位10%値を出してみましょうか。これにより,自分の所得が全体のどの辺かを知れる,やや詳細な診断表を作れます。
中央値と同じく,他の4つの値も按分比例を使って計算できます。2017年の『就業構造基本調査』から,40代前半男性有業者(439万人)の所得分布を採取し,相対度数・累積相対度数の形に整理すると,以下のようになります。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html
真ん中の相対度数(%)をみると,中ほどが厚いきれいなノーマル分布です。最も多いのは,所得400万円台となっています。一昔前の人からすれば「こんなに少ないの?」という印象でしょうが,今の当事者のわれわれからすれば何の違和感もありません。
右端の累積相対度数から,下位10%値(累積相対度数=10)は200万円台前半,下位25%値(25)は300万円台,中央値(50)は400万円台,上位25%値(75)は600万円台,上位10%値(90)は800万円台の階級に含まれることが知られます。
では按分比例を使って,目的の値を割り出しましょう。
下位10%値:
按分比=(10.0-7.9)/(14.4-7.9)=0.324
下位10%値=200万円+(50万円×0.324)=216.2万円
下位25%値:
按分比=(25.0-20.9)/(37.4-20.9)=0.250
下位25%値=300万円+(100万円×0.250)=325.0万円
中央値:
按分比=(50.0-37.4)/(55.0-37.4)=0.717
中央値=400万円+(100万円×0.717)=471.7万円
上位25%値:
按分比=(75.0-70.0)/(80.7-70.0)=0.466
上位25%値=600万円+(100万円×0.466)=646.6万円
上位10%値:
按分比=(90.0-88.1)/(92.5-88.1)=0.439
上位10%値=800万円+(100万円×0.439)=843.9万円
こんな感じです。私の所得は中央値より低いのは前回の記事で分かりましたが,ここにて,さらに2つのライン(下位10%値,下位25%値)を得ることができました。うーん,自分の相対位置がより詳しく分かりました。
これは全国の分布値ですが,言わずもがな,地域によって大きく違います。鹿児島で上位10%に入っていても,東京では中央値よりちょっと上という所ではないでしょうか。私は双方の生活を知っていますので,この温度差はよく分かります。
同じやり方を適用し,47都道府県ごとに,40代前半男性の5つの所得分布値を出してみました。以下に,一覧表を掲げます。黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。
地域によって全然違いますね。所得600万円のアラフォー男子は,沖縄ではスターですが,東京では真ん中よりちょっと上という所です。沖縄で真ん中の人(290万円)は,東京ではプアの部類です。
「私は全国の基準では**だが,今住んでいるX県では**だな」という読み方をすると,面白いでしょう。以下のようなグラフにして,自分の所得のヨコ線を引いてみるといいと思います。
自分が属する,40代前半男性の所得水準の診断表を作ってみました。資料として使っていただければと存じます。
大学の統計学の授業で,皆でコラボして,この手の作品を作るのもいいと思います。私は経験上知ってますが。カネの話となると,学生は目の色を変えて熱心に取り組むものです。
按分比例は中高生でも理解できる概念ですので,学校の総合的な学習の時間の題材としてどうでしょうか。
取り上げる題材というのは大事です。中学校の数学で,初歩的な度数分布の単元の際,面白くもない架空のテストの点数分布なんて出しても,生徒の目は引けません。自分の将来に直に関わる職業別の年収分布などを出すといいでしょう。そのデータは,官庁統計から簡単に引き出せます。教師たる者,政府統計サイト「e-stat」の使い方はマスターしておきたいものですね。
https://www.e-stat.go.jp/
今日も酷暑です。熱中症にはお気を付けください。
中央値(Median)というのは,値を高い順に並べたとき,ちょうど真ん中にくる値のことです。これより上なら半分より上,下なら半分より下,ということになります。2017年の40代前半男性の所得中央値は472万円ですが,私の所得はこれを下回っています。
「自分の所得は半分より下」。これは分かり切ったことですので,さして驚きませんが,さすがに下位10%にも満たないとなると,気心も変わってきます。逆に中央値を上回っている人は,上位25%や10%のラインを超えているかしら,という関心があるでしょう。
今回は,中央値とは別の分布値も出してみようと思います。そうですねえ。全体を6つのゾーンに分かつ,下位10%値,下位25%値,中央値,上位25%値,上位10%値を出してみましょうか。これにより,自分の所得が全体のどの辺かを知れる,やや詳細な診断表を作れます。
中央値と同じく,他の4つの値も按分比例を使って計算できます。2017年の『就業構造基本調査』から,40代前半男性有業者(439万人)の所得分布を採取し,相対度数・累積相対度数の形に整理すると,以下のようになります。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html
真ん中の相対度数(%)をみると,中ほどが厚いきれいなノーマル分布です。最も多いのは,所得400万円台となっています。一昔前の人からすれば「こんなに少ないの?」という印象でしょうが,今の当事者のわれわれからすれば何の違和感もありません。
右端の累積相対度数から,下位10%値(累積相対度数=10)は200万円台前半,下位25%値(25)は300万円台,中央値(50)は400万円台,上位25%値(75)は600万円台,上位10%値(90)は800万円台の階級に含まれることが知られます。
では按分比例を使って,目的の値を割り出しましょう。
下位10%値:
按分比=(10.0-7.9)/(14.4-7.9)=0.324
下位10%値=200万円+(50万円×0.324)=216.2万円
下位25%値:
按分比=(25.0-20.9)/(37.4-20.9)=0.250
下位25%値=300万円+(100万円×0.250)=325.0万円
中央値:
按分比=(50.0-37.4)/(55.0-37.4)=0.717
中央値=400万円+(100万円×0.717)=471.7万円
上位25%値:
按分比=(75.0-70.0)/(80.7-70.0)=0.466
上位25%値=600万円+(100万円×0.466)=646.6万円
上位10%値:
按分比=(90.0-88.1)/(92.5-88.1)=0.439
上位10%値=800万円+(100万円×0.439)=843.9万円
こんな感じです。私の所得は中央値より低いのは前回の記事で分かりましたが,ここにて,さらに2つのライン(下位10%値,下位25%値)を得ることができました。うーん,自分の相対位置がより詳しく分かりました。
これは全国の分布値ですが,言わずもがな,地域によって大きく違います。鹿児島で上位10%に入っていても,東京では中央値よりちょっと上という所ではないでしょうか。私は双方の生活を知っていますので,この温度差はよく分かります。
同じやり方を適用し,47都道府県ごとに,40代前半男性の5つの所得分布値を出してみました。以下に,一覧表を掲げます。黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。
地域によって全然違いますね。所得600万円のアラフォー男子は,沖縄ではスターですが,東京では真ん中よりちょっと上という所です。沖縄で真ん中の人(290万円)は,東京ではプアの部類です。
「私は全国の基準では**だが,今住んでいるX県では**だな」という読み方をすると,面白いでしょう。以下のようなグラフにして,自分の所得のヨコ線を引いてみるといいと思います。
自分が属する,40代前半男性の所得水準の診断表を作ってみました。資料として使っていただければと存じます。
大学の統計学の授業で,皆でコラボして,この手の作品を作るのもいいと思います。私は経験上知ってますが。カネの話となると,学生は目の色を変えて熱心に取り組むものです。
按分比例は中高生でも理解できる概念ですので,学校の総合的な学習の時間の題材としてどうでしょうか。
取り上げる題材というのは大事です。中学校の数学で,初歩的な度数分布の単元の際,面白くもない架空のテストの点数分布なんて出しても,生徒の目は引けません。自分の将来に直に関わる職業別の年収分布などを出すといいでしょう。そのデータは,官庁統計から簡単に引き出せます。教師たる者,政府統計サイト「e-stat」の使い方はマスターしておきたいものですね。
https://www.e-stat.go.jp/
今日も酷暑です。熱中症にはお気を付けください。
2018年7月14日土曜日
40代前半男性の所得中央値
2017年の『就業構造基本調査』の結果が公表されました。昨日の14:30でしたが,私は10分ほど前からパソコンの前にへばりついて,今か今かと待っていました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html
このブログでは幾多の官庁統計を分析していますが,『就業構造基本調査』は最も活用しているものの一つです。この調査の目玉は有業者の所得を調査していることで,所得をキーにしたクロス集計表も多数アップされています。性別・年齢層別の所得分布,所得階層別の未婚率など,いろいろなことを明らかにできます。
本調査でいう所得とは,「賃金,給料,手間賃,諸手当,ボーナスなど過去1年間に得た税込みの給与総額」をいいます(用語解説)。税引き後の年収とは区別される概念です。
私は,2017年のデータが公表されたら,今の自分の世代の所得がどうなっているかをまず明らかにしたいと考えていました。私の世代は,2017年では40代前半になっています。原資料の度数分布表に当たって,40代前半男性の所得分布を整理してみました。今の特徴を浮き彫りにすべく,過去との比較もします。そうですねえ。バブル末期の1992年と比べましょうか。
所得が分かる40代前半男性有業者は,1992年では521万人,2017年では439万人ほどです。この人たちの年間所得分布を整理すると,以下のようになります。カテゴリーがちょっと粗いですが,1992年の原統計の区分に依拠しています。
バリバリの働き盛りの男性ですが,この四半世紀で所得分布に変化が見られます。500万超の層が減り,代わって低所得層が増えています。所得200万未満には灰色をつけましたが,この層の割合は,1992年では4.8%でしたが,2017年では7.9%となっています。ワーキング・プアが微増しています。
この分布から,フツーのアラフォー男性の所得がナンボかを,一つの代表値で可視化しましょう。高い順に並べた時,ちょうど真ん中にくる人の所得がいくらかという,中央値がベストです。右端の累積相対度数から,1992年は500~600万円台,2017年は400万円台の階層に含まれることが分かります。
按分比例を用いて,累積相対度数が50ジャストの値を推し量りましょう。
1992年:
按分比=(50.0-46.3)/(77.0-46.3)=0.120
中央値=500万円+(200万円×0.120)=524.1万円
2017年:
按分比=(50.0-37.4)/(55.0-37.4)=0.717
中央値=400万円+(100万円×0.717)=471.7万円
はじき出された所得中央値は,1992年が524万円,2017年が472万円です。この四半世紀で,40代前半男性の所得中央値は50万円以上減ったことが知られます。蛇足ですが,私の所得は2017年のメディアンに遠く及びませんね。
これは全国値ですが,労働者の所得は地域によって大きく違います。47都道府県別にみると,この四半世紀でどの県も所得が減っていますが,全県の動きを上から俯瞰(ふかん)すると,列島貧困化と呼ぶべき現象が浮かび上がります。上記と同じやり方で全県の40代前半男性の所得中央値を出し,高い順に配列すると,以下のようになります。
1992年では20県の所得中央値が500万円を超えていましたが,2017年ではそういう県はわずか5県です。最近では,西の大都市の大阪もこのラインを超えていません。
その代わり低所得の県が増えており,最近ではアラフォー男子の所得中央値が400万円にも満たない県が11県あります。これはキツイ。子育てどころではありません。これは税引き前の所得ですので,税引き後の年収でみたらもっと悲惨な事態になっています。
上記の表で濃い色を付けた県を地図上で可視化しましょう。昨日,ツイッターでも発信したマップです。再掲します。
アベノミクスの効果だ,ロスジェネに対する無策の結果だ,政府はロスジェネに慰謝料を払うべきだ,というリプが付いていますが,当事者の一人として,こうも言いたくなります。
2017年の40代前半といえば,私の世代,世紀の変わり目の超氷河期に大学を出たロスト・ジェネレーションです。今回のデータは,この世代が40代前半のステージに達したことの影響が大きいでしょう。新卒時に正規就職が叶わず,ずっと非正規に滞留したままの人,キャリアや昇給が順調に行っていない人が多いのですから。
この点については繰り返し書いてきましたが,少し上の団塊ジュニアと同様,この世代も人数的に多いのですので,管理職のポストが足りず,昇進が頭打ちになっていることもあるでしょうね。一昔前のアラフォーは,課長や部長の役職につく人も少なくなかったと思いますが,最近はそうではないと。
また,長らく続いてきた年功賃金が崩壊していることもあるでしょう。ざっと考えて,世代の要因,企業の人事管理の変化の要因,という2つに大別できるかと思います。
現実がこんなですので,今までと同じく,子育て・教育の費用を家計任せにするというのは無理というものです。政府もやっとこれに気づき,幼児教育・高等教育の費用の無償化が図られることになりましたが,対象を大きく絞った制度設計で十分といえるかどうか…。
今回みたのは男性個人の所得ですが,世帯年収の変化でみたら,様相は違うかもしれません。共働きが増えていますしね。同年代の世帯所得も出して,男性個人の所得と対比させたら,妻の稼ぎ寄与度が出てくるかも。以前に比して,増えていることは間違いないでしょう。男性の腕一本で妻子を養える時代など終わっていることは,今回のデータからよく分かります。
毎度,同じようなデータを出していますが,自分の世代的な恨みの可視化と同時に,時代は変わっていることを,「これでもか」というくらいしつこく訴えたいからです。それに,やり過ぎはないと考えています。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html
このブログでは幾多の官庁統計を分析していますが,『就業構造基本調査』は最も活用しているものの一つです。この調査の目玉は有業者の所得を調査していることで,所得をキーにしたクロス集計表も多数アップされています。性別・年齢層別の所得分布,所得階層別の未婚率など,いろいろなことを明らかにできます。
本調査でいう所得とは,「賃金,給料,手間賃,諸手当,ボーナスなど過去1年間に得た税込みの給与総額」をいいます(用語解説)。税引き後の年収とは区別される概念です。
私は,2017年のデータが公表されたら,今の自分の世代の所得がどうなっているかをまず明らかにしたいと考えていました。私の世代は,2017年では40代前半になっています。原資料の度数分布表に当たって,40代前半男性の所得分布を整理してみました。今の特徴を浮き彫りにすべく,過去との比較もします。そうですねえ。バブル末期の1992年と比べましょうか。
所得が分かる40代前半男性有業者は,1992年では521万人,2017年では439万人ほどです。この人たちの年間所得分布を整理すると,以下のようになります。カテゴリーがちょっと粗いですが,1992年の原統計の区分に依拠しています。
バリバリの働き盛りの男性ですが,この四半世紀で所得分布に変化が見られます。500万超の層が減り,代わって低所得層が増えています。所得200万未満には灰色をつけましたが,この層の割合は,1992年では4.8%でしたが,2017年では7.9%となっています。ワーキング・プアが微増しています。
この分布から,フツーのアラフォー男性の所得がナンボかを,一つの代表値で可視化しましょう。高い順に並べた時,ちょうど真ん中にくる人の所得がいくらかという,中央値がベストです。右端の累積相対度数から,1992年は500~600万円台,2017年は400万円台の階層に含まれることが分かります。
按分比例を用いて,累積相対度数が50ジャストの値を推し量りましょう。
1992年:
按分比=(50.0-46.3)/(77.0-46.3)=0.120
中央値=500万円+(200万円×0.120)=524.1万円
2017年:
按分比=(50.0-37.4)/(55.0-37.4)=0.717
中央値=400万円+(100万円×0.717)=471.7万円
はじき出された所得中央値は,1992年が524万円,2017年が472万円です。この四半世紀で,40代前半男性の所得中央値は50万円以上減ったことが知られます。蛇足ですが,私の所得は2017年のメディアンに遠く及びませんね。
これは全国値ですが,労働者の所得は地域によって大きく違います。47都道府県別にみると,この四半世紀でどの県も所得が減っていますが,全県の動きを上から俯瞰(ふかん)すると,列島貧困化と呼ぶべき現象が浮かび上がります。上記と同じやり方で全県の40代前半男性の所得中央値を出し,高い順に配列すると,以下のようになります。
1992年では20県の所得中央値が500万円を超えていましたが,2017年ではそういう県はわずか5県です。最近では,西の大都市の大阪もこのラインを超えていません。
その代わり低所得の県が増えており,最近ではアラフォー男子の所得中央値が400万円にも満たない県が11県あります。これはキツイ。子育てどころではありません。これは税引き前の所得ですので,税引き後の年収でみたらもっと悲惨な事態になっています。
上記の表で濃い色を付けた県を地図上で可視化しましょう。昨日,ツイッターでも発信したマップです。再掲します。
アベノミクスの効果だ,ロスジェネに対する無策の結果だ,政府はロスジェネに慰謝料を払うべきだ,というリプが付いていますが,当事者の一人として,こうも言いたくなります。
2017年の40代前半といえば,私の世代,世紀の変わり目の超氷河期に大学を出たロスト・ジェネレーションです。今回のデータは,この世代が40代前半のステージに達したことの影響が大きいでしょう。新卒時に正規就職が叶わず,ずっと非正規に滞留したままの人,キャリアや昇給が順調に行っていない人が多いのですから。
この点については繰り返し書いてきましたが,少し上の団塊ジュニアと同様,この世代も人数的に多いのですので,管理職のポストが足りず,昇進が頭打ちになっていることもあるでしょうね。一昔前のアラフォーは,課長や部長の役職につく人も少なくなかったと思いますが,最近はそうではないと。
また,長らく続いてきた年功賃金が崩壊していることもあるでしょう。ざっと考えて,世代の要因,企業の人事管理の変化の要因,という2つに大別できるかと思います。
現実がこんなですので,今までと同じく,子育て・教育の費用を家計任せにするというのは無理というものです。政府もやっとこれに気づき,幼児教育・高等教育の費用の無償化が図られることになりましたが,対象を大きく絞った制度設計で十分といえるかどうか…。
今回みたのは男性個人の所得ですが,世帯年収の変化でみたら,様相は違うかもしれません。共働きが増えていますしね。同年代の世帯所得も出して,男性個人の所得と対比させたら,妻の稼ぎ寄与度が出てくるかも。以前に比して,増えていることは間違いないでしょう。男性の腕一本で妻子を養える時代など終わっていることは,今回のデータからよく分かります。
毎度,同じようなデータを出していますが,自分の世代的な恨みの可視化と同時に,時代は変わっていることを,「これでもか」というくらいしつこく訴えたいからです。それに,やり過ぎはないと考えています。
2018年7月9日月曜日
アラフィフの睡眠時間の中央値
睡眠は欠かせないものですが,皆さんはどれくらい寝てますか。分刻みでスケジュールをこなす堀江貴文さんは,1日6時間しっかり寝て,クリアーな頭で仕事に臨むのだそうです(『多動力』幻冬舎)。
私は6時間でも足りないですねえ。大よそ11時前に寝て,7時前に起きる「8時間」睡眠です。寝付けなかったり,朝早く目が覚めたりした場合は,昼寝をして補充します。
日本人の睡眠時間のデータとして,総務省『社会生活基本調査』の平均睡眠時間がよく引き合いに出されます。男女の年齢曲線を描くと,40~50代の女性が一番寝ていないことが知られます。2016年の40代女性の平均睡眠時間は432分です(1日あたり)。
「みんな7時間も寝てるの?信じられない」という感想を持たれるでしょう。一部の際立って高い値に全体が釣り上げられてしまう。平均の罠です。願わくは,平均という代表値に丸める前の分布から観察したいものです。
2016年の『国民生活基礎調査』に,それを叶えてくれるデータが載っています。カテゴリーがやや粗いですが,性別・年齢層別の度数分布が出てますので,それを面グラフにすると以下のようになります。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html
私は8時間寝てますが,40代前半男性では,こういう人は1割もいません。働き盛りですからねえ。ちょっと申し訳ない気分になってきます…。
色をつけたのは睡眠時間が6時間に満たない人たちですが,男女とも40代後半から50代前半に山があります。当該年齢層の女性では,こうした寝不足の人が半分以上を占めます。高校生の子の弁当づくりなど,早起きを強いられるのでしょう。老親の介護も始まり,育児+介護のダブルケアを課される年代でもありますが,その負荷は男性より女性で大きいと。
上記のグラフから,アラフィフ女性の睡眠時間の中央値は6時間に満たないことが分かります。平均値とは違い,リアリティがあります。統計資料に載っている計算済の平均値ではなく,ちゃんと分布を観察してみるものですね。
上記の分布をもとに,アラフィフ女性の睡眠時間の中央値を計算してみましょう。以下の表は,原資料から作成した8328人の度数分布表です。
右端の累積相対度数から,中央値は300~359分(5時間台)の階級に含まれることが分かります。はて,中央値(=累積相対度数50ジャスト)に該当するのは何分か。按分比例を使って推し量りましょう。以下の2ステップです。
①:按分比=(50.0-13.3)/(52.8-13.3)= 0.929
②:中央値={ 300分+(0.929 × 60分)}= 355.8分
アラフィフ女性の睡眠時間の中央値は,356分(5時間56分)と見積もられます。全員を高い順に並べたとき,ちょうど真ん中にくる人の睡眠時間です。普通のアラフィフ女性の睡眠時間は5時間56分。平均値よりはるかに頷ける数値です。
ちなみに同年齢の男性の睡眠時間中央値は,366分(6時間6分)となっています。女性より10分長し。
これは全国値ですが,地域差も大きくなっています。通勤時間が長い都市部では睡眠時間が短いであろうことは,想像がつくでしょう。私は同じやり方で,45~54歳男女の睡眠時間の中央値を都道府県別に計算してみました。男女の数値と性差の一覧をご覧ください。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。男性は355~386分,女性は347~370分の分布幅になっています。男性の最低は神奈川,女性は奈良です。通勤・通学時間が長い都市部は,短時間睡眠の傾向があります。
奈良のアラフィフ女性の睡眠時間は5時間47分。夫や子どもの遠距離通勤・通学のゆえ,遅寝・早起きを強いられるのでしょうか。
右端の性差をみると,どの県も男性より女性の睡眠時間が短くなっています。赤字はその差が15分超。ゴチ赤字は20分超ですが,中国と九州はイタイですね。男女の睡眠時間格差が大きい。「男尊女卑」という,陳腐なレッテル貼りが復活しそうです。
さて,超多忙のホリエモンでも1日6時間は寝るそうですが(冒頭),表をみると360分を下回る数値が結構あることに気づきます。アラフィフの睡眠時間中央値が6時間に満たない県に色を付けた地図にすると,身震いする模様になっています。
寝不足県の可視化です。男性は6県ですが,女性だと32県にも達します。スゴイですねえ。流行りの言葉を借りると,睡眠負債大国といえましょう。これが積もりに積もたら,健康が害されることは必至です。
あいにく時系列比較はできませんが,過去に比して色が濃くなっていると思われます。『社会生活基本調査』に出ている,睡眠時間の平均値は下がっていますので。今後,人手不足の進行と,晩婚化によるダブルケアの増加により,色付きの県は増えていくかもしれません。一国の総寝不足化です。
寝不足のクラクラした頭で仕事する…。労働生産性の向上が至上命題になっていますが,これでは逆向してしまうでしょう。労働者の休息時間を確保するための「勤務間インターバル制」の導入が推奨されていますが,南欧流の昼寝(シエスタ)の慣行も考えたらいかがでしょう。
従業員が寝不足で事故を起こした場合,過失責任が企業に課される判決も出ています。企業も,睡眠負債の解消に本腰を入れて取り組まないといけない時期にきています。
国際比較をできないのが残念ですが,国の半分以上が「寝不足色」で染まるような国は多くないでしょう。
私は6時間でも足りないですねえ。大よそ11時前に寝て,7時前に起きる「8時間」睡眠です。寝付けなかったり,朝早く目が覚めたりした場合は,昼寝をして補充します。
日本人の睡眠時間のデータとして,総務省『社会生活基本調査』の平均睡眠時間がよく引き合いに出されます。男女の年齢曲線を描くと,40~50代の女性が一番寝ていないことが知られます。2016年の40代女性の平均睡眠時間は432分です(1日あたり)。
「みんな7時間も寝てるの?信じられない」という感想を持たれるでしょう。一部の際立って高い値に全体が釣り上げられてしまう。平均の罠です。願わくは,平均という代表値に丸める前の分布から観察したいものです。
2016年の『国民生活基礎調査』に,それを叶えてくれるデータが載っています。カテゴリーがやや粗いですが,性別・年齢層別の度数分布が出てますので,それを面グラフにすると以下のようになります。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html
私は8時間寝てますが,40代前半男性では,こういう人は1割もいません。働き盛りですからねえ。ちょっと申し訳ない気分になってきます…。
色をつけたのは睡眠時間が6時間に満たない人たちですが,男女とも40代後半から50代前半に山があります。当該年齢層の女性では,こうした寝不足の人が半分以上を占めます。高校生の子の弁当づくりなど,早起きを強いられるのでしょう。老親の介護も始まり,育児+介護のダブルケアを課される年代でもありますが,その負荷は男性より女性で大きいと。
上記のグラフから,アラフィフ女性の睡眠時間の中央値は6時間に満たないことが分かります。平均値とは違い,リアリティがあります。統計資料に載っている計算済の平均値ではなく,ちゃんと分布を観察してみるものですね。
上記の分布をもとに,アラフィフ女性の睡眠時間の中央値を計算してみましょう。以下の表は,原資料から作成した8328人の度数分布表です。
右端の累積相対度数から,中央値は300~359分(5時間台)の階級に含まれることが分かります。はて,中央値(=累積相対度数50ジャスト)に該当するのは何分か。按分比例を使って推し量りましょう。以下の2ステップです。
①:按分比=(50.0-13.3)/(52.8-13.3)= 0.929
②:中央値={ 300分+(0.929 × 60分)}= 355.8分
アラフィフ女性の睡眠時間の中央値は,356分(5時間56分)と見積もられます。全員を高い順に並べたとき,ちょうど真ん中にくる人の睡眠時間です。普通のアラフィフ女性の睡眠時間は5時間56分。平均値よりはるかに頷ける数値です。
ちなみに同年齢の男性の睡眠時間中央値は,366分(6時間6分)となっています。女性より10分長し。
これは全国値ですが,地域差も大きくなっています。通勤時間が長い都市部では睡眠時間が短いであろうことは,想像がつくでしょう。私は同じやり方で,45~54歳男女の睡眠時間の中央値を都道府県別に計算してみました。男女の数値と性差の一覧をご覧ください。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。男性は355~386分,女性は347~370分の分布幅になっています。男性の最低は神奈川,女性は奈良です。通勤・通学時間が長い都市部は,短時間睡眠の傾向があります。
奈良のアラフィフ女性の睡眠時間は5時間47分。夫や子どもの遠距離通勤・通学のゆえ,遅寝・早起きを強いられるのでしょうか。
右端の性差をみると,どの県も男性より女性の睡眠時間が短くなっています。赤字はその差が15分超。ゴチ赤字は20分超ですが,中国と九州はイタイですね。男女の睡眠時間格差が大きい。「男尊女卑」という,陳腐なレッテル貼りが復活しそうです。
さて,超多忙のホリエモンでも1日6時間は寝るそうですが(冒頭),表をみると360分を下回る数値が結構あることに気づきます。アラフィフの睡眠時間中央値が6時間に満たない県に色を付けた地図にすると,身震いする模様になっています。
寝不足県の可視化です。男性は6県ですが,女性だと32県にも達します。スゴイですねえ。流行りの言葉を借りると,睡眠負債大国といえましょう。これが積もりに積もたら,健康が害されることは必至です。
あいにく時系列比較はできませんが,過去に比して色が濃くなっていると思われます。『社会生活基本調査』に出ている,睡眠時間の平均値は下がっていますので。今後,人手不足の進行と,晩婚化によるダブルケアの増加により,色付きの県は増えていくかもしれません。一国の総寝不足化です。
寝不足のクラクラした頭で仕事する…。労働生産性の向上が至上命題になっていますが,これでは逆向してしまうでしょう。労働者の休息時間を確保するための「勤務間インターバル制」の導入が推奨されていますが,南欧流の昼寝(シエスタ)の慣行も考えたらいかがでしょう。
従業員が寝不足で事故を起こした場合,過失責任が企業に課される判決も出ています。企業も,睡眠負債の解消に本腰を入れて取り組まないといけない時期にきています。
国際比較をできないのが残念ですが,国の半分以上が「寝不足色」で染まるような国は多くないでしょう。
2018年7月6日金曜日
授業で教科書や電卓を使うか?
国が違えば,慣習や文化が大きく違います。国際比較の面白みは,自国で常識と信じて疑われないことを,相対化できることです。
学校での授業スタイルにも違いが見受けられます。IEAの国際学力調査「TIMSS」に興味深い設問がありますので,国ごとの単純集計のグラフをご紹介しましょう。元データは,下記サイトのリモート集計で簡単に作れます。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
まずは,授業で教科書を使うかです。日本は,国の検定教科書の使用が義務付けられており,全国のどの学校でも教科書をメインにした授業がなされていますが,他国はどうなのか。
中学校2年生の数学担当教員に尋ねた結果をみてみましょう。選択肢は,「授業の基礎として使う」,「授業の補足として使う」,「使わない」の3つです。無回答・無効回答は除いた,これら3つの構成比をビジュアル化します。
「授業の基礎として使う」というオーソドックスな回答比率が少ない順に,回答のあった42か国を並べました。
教科書ベースの授業が支配的な国が多くなっています。日本では,83%の数学教員がこういう授業をしている,と答えています。
しかし上のほうを見ると,「授業の補足として使う」ないしは「使わない」という回答のほうが多い国もあります。イギリスやアメリカはそうです。カバンもさぞ軽いのでしょうね。日本みたいに,「重すぎるランドセル」で腰痛になる子どもなんて皆無でしょう。
日本では,教育内容は学習指導要領できっちり決められており,これに盛られた内容は必ず教えないといけません。ただ,それらを消化した後で,プラスアルファの内容を追加することは許されます。私立では,そういう授業をする学校も多いでしょうね。
グラフをみると,日本でも「教科書は補足」「使わない」という回答が2割弱いますが,多くが私立学校の教員ではないかと思われます。公私の比較をしたいのですが,「TIMSS」では,学校の設置主体を訊いてないので,それは叶いません。
教科書を使う授業は普遍的にあらず。この点を押さえました。次に,数学の授業で生徒に電卓を使わせるかです。3桁や4桁の四則演算を紙と鉛筆でガリガリとやる日本の子どもをみて,海外の人は目を丸くするそうですが,データをみると,日本の常識は世界の非常識です。
先ほどと同じく,中学校2年生の数学担当教員の回答をみてみましょう。生徒は電卓を「自由に使える」,「制限つきで使える」,「使えない」の3択です。最初の回答比率が高い順に,回答のあった37か国を配列しました。
電卓を自由に使わせている国が結構あります。シンガポールや香港では,8~9割の教員が「自由に使わせている」と答えています。対して,日本は6%だけ。お隣の韓国は3%です。
シンガポール,香港,日本,韓国,台北。これらは「TIMSS 2015」の中2の数学平均点の上位5位ですが,前2者と後3者では,正答率が高い問題に違いがあるような気がしますね。
まあ日本でも,「制限付きでOK」という回答は結構ありますので,機械的な答え合わせや,思考を要する難題を解くに際しては,電卓を使わせているのかもしれません。小学校のうちは,基礎的な計算能力も鍛えないといけませんが,発達段階を上がるにつれ,考えることのほうに重点を移したいものです。電卓は,思考に集中するためのツールです。
国ごとの電卓使用と数学学力の間には,一部の国を除くと,プラスの相関関係が見受けられます。
https://twitter.com/tmaita77/status/1014857979336650752
21世紀の今では,電卓を叩いて結果を紙に転記するというのも,いささかナンセンスです。家計簿や費用管理などは,エクセル等の表計算ソフトでする時代。その初歩を,学校の授業で取り上げるべきかと思います。
ただ,初心(原理)を分からせるうえでは,手作業は有益です。私は調査法の授業で,クロス集計を昔ながらのカードでさせていました。そのあとで,エクセルのような飛び道具を使わせると。「苦労・手間=いいこと,尊いこと」という思い込みはいけませんが,それを完全に捨て去ることは間違いだと思います。
学校での授業スタイルにも違いが見受けられます。IEAの国際学力調査「TIMSS」に興味深い設問がありますので,国ごとの単純集計のグラフをご紹介しましょう。元データは,下記サイトのリモート集計で簡単に作れます。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
まずは,授業で教科書を使うかです。日本は,国の検定教科書の使用が義務付けられており,全国のどの学校でも教科書をメインにした授業がなされていますが,他国はどうなのか。
中学校2年生の数学担当教員に尋ねた結果をみてみましょう。選択肢は,「授業の基礎として使う」,「授業の補足として使う」,「使わない」の3つです。無回答・無効回答は除いた,これら3つの構成比をビジュアル化します。
「授業の基礎として使う」というオーソドックスな回答比率が少ない順に,回答のあった42か国を並べました。
教科書ベースの授業が支配的な国が多くなっています。日本では,83%の数学教員がこういう授業をしている,と答えています。
しかし上のほうを見ると,「授業の補足として使う」ないしは「使わない」という回答のほうが多い国もあります。イギリスやアメリカはそうです。カバンもさぞ軽いのでしょうね。日本みたいに,「重すぎるランドセル」で腰痛になる子どもなんて皆無でしょう。
日本では,教育内容は学習指導要領できっちり決められており,これに盛られた内容は必ず教えないといけません。ただ,それらを消化した後で,プラスアルファの内容を追加することは許されます。私立では,そういう授業をする学校も多いでしょうね。
グラフをみると,日本でも「教科書は補足」「使わない」という回答が2割弱いますが,多くが私立学校の教員ではないかと思われます。公私の比較をしたいのですが,「TIMSS」では,学校の設置主体を訊いてないので,それは叶いません。
教科書を使う授業は普遍的にあらず。この点を押さえました。次に,数学の授業で生徒に電卓を使わせるかです。3桁や4桁の四則演算を紙と鉛筆でガリガリとやる日本の子どもをみて,海外の人は目を丸くするそうですが,データをみると,日本の常識は世界の非常識です。
先ほどと同じく,中学校2年生の数学担当教員の回答をみてみましょう。生徒は電卓を「自由に使える」,「制限つきで使える」,「使えない」の3択です。最初の回答比率が高い順に,回答のあった37か国を配列しました。
電卓を自由に使わせている国が結構あります。シンガポールや香港では,8~9割の教員が「自由に使わせている」と答えています。対して,日本は6%だけ。お隣の韓国は3%です。
シンガポール,香港,日本,韓国,台北。これらは「TIMSS 2015」の中2の数学平均点の上位5位ですが,前2者と後3者では,正答率が高い問題に違いがあるような気がしますね。
まあ日本でも,「制限付きでOK」という回答は結構ありますので,機械的な答え合わせや,思考を要する難題を解くに際しては,電卓を使わせているのかもしれません。小学校のうちは,基礎的な計算能力も鍛えないといけませんが,発達段階を上がるにつれ,考えることのほうに重点を移したいものです。電卓は,思考に集中するためのツールです。
国ごとの電卓使用と数学学力の間には,一部の国を除くと,プラスの相関関係が見受けられます。
https://twitter.com/tmaita77/status/1014857979336650752
21世紀の今では,電卓を叩いて結果を紙に転記するというのも,いささかナンセンスです。家計簿や費用管理などは,エクセル等の表計算ソフトでする時代。その初歩を,学校の授業で取り上げるべきかと思います。
ただ,初心(原理)を分からせるうえでは,手作業は有益です。私は調査法の授業で,クロス集計を昔ながらのカードでさせていました。そのあとで,エクセルのような飛び道具を使わせると。「苦労・手間=いいこと,尊いこと」という思い込みはいけませんが,それを完全に捨て去ることは間違いだと思います。
2018年7月3日火曜日
都道府県別の平均歩数
今日は,先月に受けた健康診断の結果を聞いてきました。年に一回受けるよう促される,横須賀市の特定健診です。
結果は異状なし。去年は胸部健診で引っ掛かり,悪玉コレステロール値も高すぎという判定だったのですが,今年の診断シートは異常値(赤字)なしでした。腹囲も5センチ縮まってうれしい。まあ,まだ出っ腹であることに変わりはなく,お腹を凹ませるよう指導されましたが…。
去年の秋に保健指導を受けてから,毎日の夕刻,1時間半ほどウォーキングをしているのですが,その成果かなと思います。海あり坂ありの横須賀は,ウォーキング(ジョギング)コースがたくさんあります。海風に吹かれながら歩くのは心地いい。
自宅仕事の自営業は「座りっぱなし」になりがちですが,それだと体力は低下する一方です。毎日一定時間は運動しないといけません。
https://twitter.com/hifumix_0123/status/977476063801393153
それが仕事にいい影響をもたらすこともしばしばで,ウォーキング中にデータ分析のアイディアがふっと浮かぶことがよくあります。先日取り寄せたスポーツ用のウエストポーチに,財布,スマホ,メモ帳,ペンを入れて出かけます。
歩くのも立派な運動です。政府も国民がどれほど歩いているかに関心があるようで,厚労省の『国民健康栄養調査』では,成人男女の1日あたりの平均歩数が算出されています。年によっては,都道府県別の集計表も出ています。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
ツイッターでは2012年の都道府県地図を発信しましたが,ここでは最新の2016年データを見てみましょう。20~64歳男女の1日の平均歩数です。原資料に年齢調整済の数値が出ています。*熊本は震災のため,データがありません。
一番下の全国値をみると,男性が7779歩,女性が6776歩となっています。男性のほうが外に出る機会が多いためでしょう。
地域差も大きく,男性は5647~8762歩,女性は5840~7795歩という分布です。男性のマックスは大阪,女性は神奈川なり。赤字は8000歩超ですが,首都圏,中京圏,近畿圏と,見事に大都市圏で歩数は多くなっています。
3つの階級を設けて,各県の男性の平均歩数を地図に落とすと,以下のようになります。太平洋ベルトが濃い,きれいな模様です。
「都会は歩く」。ツイッターで書きましたが,こういう傾向があるようです。公共交通網が発達しているので,移動は電車やバスが主流ですが,乗り換えやら広い駅構内やら,意識には上がらずとも結構歩いているものです。
対して地方はクルマ社会で,遠方のみならず,100メートルほどの距離しかないコンビニに行くのにも車を使ってしまう。私は,鹿児島と東京の生活を知っていますので,このコントラストはよく分かります。私の叔父(故)は,上京してくるといつも,「東京は歩かされるなあ」と苦笑していました。
上記の表には,1000世帯あたりの自動車保有台数も載せましたが,この指標と成人男女の平均歩数の間には,有意な負の相関関係が観察されます。車の普及度が高い県ほど,平均歩数が少ないと。
あまり車に依存し過ぎるのは考え物でしょう。加齢に伴い,やがては運転できなくなります。家族の意向で強制的に免許を返納させられ,鬱になってしまう高齢者がいるそうですが,こういうケースは地方に多いのではないでしょうか。車がサンダル(下駄)のような感覚になっていると,こういうことが起きる。車の用途を見つめ直し,近場に行くときは歩きたいものです。
クルマ依存というのも,スマホ依存に劣らず恐ろしい兆候です。
結果は異状なし。去年は胸部健診で引っ掛かり,悪玉コレステロール値も高すぎという判定だったのですが,今年の診断シートは異常値(赤字)なしでした。腹囲も5センチ縮まってうれしい。まあ,まだ出っ腹であることに変わりはなく,お腹を凹ませるよう指導されましたが…。
去年の秋に保健指導を受けてから,毎日の夕刻,1時間半ほどウォーキングをしているのですが,その成果かなと思います。海あり坂ありの横須賀は,ウォーキング(ジョギング)コースがたくさんあります。海風に吹かれながら歩くのは心地いい。
自宅仕事の自営業は「座りっぱなし」になりがちですが,それだと体力は低下する一方です。毎日一定時間は運動しないといけません。
https://twitter.com/hifumix_0123/status/977476063801393153
それが仕事にいい影響をもたらすこともしばしばで,ウォーキング中にデータ分析のアイディアがふっと浮かぶことがよくあります。先日取り寄せたスポーツ用のウエストポーチに,財布,スマホ,メモ帳,ペンを入れて出かけます。
歩くのも立派な運動です。政府も国民がどれほど歩いているかに関心があるようで,厚労省の『国民健康栄養調査』では,成人男女の1日あたりの平均歩数が算出されています。年によっては,都道府県別の集計表も出ています。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
ツイッターでは2012年の都道府県地図を発信しましたが,ここでは最新の2016年データを見てみましょう。20~64歳男女の1日の平均歩数です。原資料に年齢調整済の数値が出ています。*熊本は震災のため,データがありません。
一番下の全国値をみると,男性が7779歩,女性が6776歩となっています。男性のほうが外に出る機会が多いためでしょう。
地域差も大きく,男性は5647~8762歩,女性は5840~7795歩という分布です。男性のマックスは大阪,女性は神奈川なり。赤字は8000歩超ですが,首都圏,中京圏,近畿圏と,見事に大都市圏で歩数は多くなっています。
3つの階級を設けて,各県の男性の平均歩数を地図に落とすと,以下のようになります。太平洋ベルトが濃い,きれいな模様です。
「都会は歩く」。ツイッターで書きましたが,こういう傾向があるようです。公共交通網が発達しているので,移動は電車やバスが主流ですが,乗り換えやら広い駅構内やら,意識には上がらずとも結構歩いているものです。
対して地方はクルマ社会で,遠方のみならず,100メートルほどの距離しかないコンビニに行くのにも車を使ってしまう。私は,鹿児島と東京の生活を知っていますので,このコントラストはよく分かります。私の叔父(故)は,上京してくるといつも,「東京は歩かされるなあ」と苦笑していました。
上記の表には,1000世帯あたりの自動車保有台数も載せましたが,この指標と成人男女の平均歩数の間には,有意な負の相関関係が観察されます。車の普及度が高い県ほど,平均歩数が少ないと。
あまり車に依存し過ぎるのは考え物でしょう。加齢に伴い,やがては運転できなくなります。家族の意向で強制的に免許を返納させられ,鬱になってしまう高齢者がいるそうですが,こういうケースは地方に多いのではないでしょうか。車がサンダル(下駄)のような感覚になっていると,こういうことが起きる。車の用途を見つめ直し,近場に行くときは歩きたいものです。
クルマ依存というのも,スマホ依存に劣らず恐ろしい兆候です。
2018年7月1日日曜日
『わが子に公務員をすすめたい親の本』
実務教育出版より,『わが子に公務員をすすめたい親の本』『自分で考えて動ける子になる モンテッソーリの育て方』の2冊をお送りいただきました。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b359797.html
https://jitsumu.hondana.jp/book/b361230.html
実務教育出版は,公務員受験関連の本を出している老舗出版社で,私も長くお付き合いさせていただいています。最初の本は,この会社の性格が前面に出ています。子どもを公務員にしたい親御さん向けの本です。
筆者の寺本康之さんは,公務員受験の予備校講師をされている方ですが,「元ギャル男かつ元ニート」で,「鳴かず飛ばずの役者」を続け,大学院を教授とケンカして中退したという,なかなか面白い人です(2ページ)。
本書の想定読者は,公務員を志望する学生ではなく,わが子に公務員をすすめたい親御さんのようです。受験では親はいろいろ口出ししますが,就職活動になると「もう大人だから,親の出る幕ではない」と,関わりをしなくなる。私もこれに近い考えで,進路なんて当人が決めるもんだ,と思っています。
しかし筆者はこれに異を唱え,親のアドバイスの重要性を指摘します。本人任せにして道を誤らせ,後悔する親御さんもいますしね。それに,「わが子に公務員になってほしい」という明確なビジョンがあるのなら,親の側から意図的に働きかけて,子どもをゴールに仕向けることも必要なのかもしれません。
本書は,5つの章立てになっています。
1章 公務員はこんなにいい職業だ!
2章 成功する親,失敗する親の違い
3章 知っておきたい公務員試験のウソ・ホント
4章 親が知っておくべき筆記試験のポイントと戦略
5章 親子でできる人物試験対策
1章では,公務員のメリットについて説かれています。「絶対的な安定」「ずっと働きたい女性にオススメ」という節が立てられていますが,そうでしょうね。お給料は民間の大企業並みとのこと。
2012年の『就業構造基本調査』の年収分布表から,就業者全体と公務員の平均年収を都道府県別に計算すると,以下のようになります。公務員は産業分類が「公務」の者で,教員や警察官等は含みません。多くが役所の職員とみてよいでしょう。
どの県でも,公務員の年収は民間をかなり上回っています。黄色は1.4倍超ですが,女性ではほとんどの県で色がついています。佐賀県では,女性正社員全体が268万円であるのに対し,女性正規公務員は469万円と,200万円もの開きがあります。
また公務員では,年収のジェンダー差が小さいのも注目です。
本書では,自分の時間が持てることの利点にも触れられています。生活が仕事一色にならず,自分のやりたいことをする時間が持てるのもいいですよね。「いい仕事をするためには趣味を持て」という,石原前都知事の言葉が紹介されていますが,複数の顔を持つことは,発想を豊かにしてくれます。「仕事の辞め時は,趣味の継続が難しくなった時」という名言がありますが,公務員はそれと最も隔たっているといえましょう。
https://twitter.com/makkuro_ankoku/status/999977177855635456
2章は,親の関わり方ですが,私がウルっときたのは,「子どもと離れて暮らしているとき」の関わり方です。子を遠方に下宿させている家庭も多いでしょうが,20年前の私の頃とは違い,今ではSNSで手軽に連絡を取り合えます。電話よりもずっと安上がりです。
しかるに,手書きの手紙の効能も侮れないとのこと。筆者が,母上からいただいたという直筆の手紙が掲載されていますが(118~119ページ),こういう心のこもった手紙が届くと,「がんばろう」という気になりますよね。
3章は,公務員試験について飛び交っている通説の吟味です。「国家公務員よりも地方公務員が人気」「公務員をめざす子の親は公務員が多い」…などなど。私は,教員養成大学の老舗の東京学芸大学を出ましたが,親が教員という学生が多く,「やっぱり(親から子への)再生産の傾向があるのかな」と踏んでいましたが,多くの公務員志望者と接した筆者の感覚では,必ずしもそうではないとのこと。
公務員試験の勉強法として,「予備校」「学内講座」「独学」の3つが挙げられ,それぞれのメリット・デメリットが説明されていますが,私は独学かな…。それとアルバイトは,面接の話題ネタになるのでやっておいたほうがいい,とのことです。とくに接客系がいいとのこと。役所のサービスの時代ですが,クレームへの対処法などについて,思う所を聞かれることがあるそうな。これは初耳。
4章は,筆記試験対策について。問題作成者が無精をしているのか,前例から大きく逸脱してはいけないという決まりでもあるのか,公務員試験では類似の問題が形を変えて繰り返し出題されます。よって過去問演習が不可欠。と同時に,知識のインプットも欠かせません。この2つの要請を同時に満たす本として,実務教育出版から出されている『スーパー過去問ゼミ』シリーズが挙げられています(略してスー過去)。教育学の本は,私が書いています。
http://tmaita77.blogspot.com/2017/11/blog-post_23.html
5章は,筆記試験の後に待ち構えている面接試験対策。いわゆる人物確認ですが,近年ではこちらの比重が増していると聞きます。考えてみれば,受験生の親は面接官と同世代。格好の練習相手になります。親子での模擬面接など,いろいろできることはあるそうです。
以上,5分ほどパラパラめくってみて「おお」と思ったことの走り書きです。じっくり読めば,教えられることはもっと大でしょう。わが子に公務員をすすめたい親御さんの場合は,なおのことです。願いを成就させるためのバイブルとして,お手にとっていただきたい本です。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b359797.html
https://jitsumu.hondana.jp/book/b361230.html
実務教育出版は,公務員受験関連の本を出している老舗出版社で,私も長くお付き合いさせていただいています。最初の本は,この会社の性格が前面に出ています。子どもを公務員にしたい親御さん向けの本です。
筆者の寺本康之さんは,公務員受験の予備校講師をされている方ですが,「元ギャル男かつ元ニート」で,「鳴かず飛ばずの役者」を続け,大学院を教授とケンカして中退したという,なかなか面白い人です(2ページ)。
本書の想定読者は,公務員を志望する学生ではなく,わが子に公務員をすすめたい親御さんのようです。受験では親はいろいろ口出ししますが,就職活動になると「もう大人だから,親の出る幕ではない」と,関わりをしなくなる。私もこれに近い考えで,進路なんて当人が決めるもんだ,と思っています。
しかし筆者はこれに異を唱え,親のアドバイスの重要性を指摘します。本人任せにして道を誤らせ,後悔する親御さんもいますしね。それに,「わが子に公務員になってほしい」という明確なビジョンがあるのなら,親の側から意図的に働きかけて,子どもをゴールに仕向けることも必要なのかもしれません。
本書は,5つの章立てになっています。
1章 公務員はこんなにいい職業だ!
2章 成功する親,失敗する親の違い
3章 知っておきたい公務員試験のウソ・ホント
4章 親が知っておくべき筆記試験のポイントと戦略
5章 親子でできる人物試験対策
1章では,公務員のメリットについて説かれています。「絶対的な安定」「ずっと働きたい女性にオススメ」という節が立てられていますが,そうでしょうね。お給料は民間の大企業並みとのこと。
2012年の『就業構造基本調査』の年収分布表から,就業者全体と公務員の平均年収を都道府県別に計算すると,以下のようになります。公務員は産業分類が「公務」の者で,教員や警察官等は含みません。多くが役所の職員とみてよいでしょう。
どの県でも,公務員の年収は民間をかなり上回っています。黄色は1.4倍超ですが,女性ではほとんどの県で色がついています。佐賀県では,女性正社員全体が268万円であるのに対し,女性正規公務員は469万円と,200万円もの開きがあります。
また公務員では,年収のジェンダー差が小さいのも注目です。
本書では,自分の時間が持てることの利点にも触れられています。生活が仕事一色にならず,自分のやりたいことをする時間が持てるのもいいですよね。「いい仕事をするためには趣味を持て」という,石原前都知事の言葉が紹介されていますが,複数の顔を持つことは,発想を豊かにしてくれます。「仕事の辞め時は,趣味の継続が難しくなった時」という名言がありますが,公務員はそれと最も隔たっているといえましょう。
https://twitter.com/makkuro_ankoku/status/999977177855635456
2章は,親の関わり方ですが,私がウルっときたのは,「子どもと離れて暮らしているとき」の関わり方です。子を遠方に下宿させている家庭も多いでしょうが,20年前の私の頃とは違い,今ではSNSで手軽に連絡を取り合えます。電話よりもずっと安上がりです。
しかるに,手書きの手紙の効能も侮れないとのこと。筆者が,母上からいただいたという直筆の手紙が掲載されていますが(118~119ページ),こういう心のこもった手紙が届くと,「がんばろう」という気になりますよね。
3章は,公務員試験について飛び交っている通説の吟味です。「国家公務員よりも地方公務員が人気」「公務員をめざす子の親は公務員が多い」…などなど。私は,教員養成大学の老舗の東京学芸大学を出ましたが,親が教員という学生が多く,「やっぱり(親から子への)再生産の傾向があるのかな」と踏んでいましたが,多くの公務員志望者と接した筆者の感覚では,必ずしもそうではないとのこと。
公務員試験の勉強法として,「予備校」「学内講座」「独学」の3つが挙げられ,それぞれのメリット・デメリットが説明されていますが,私は独学かな…。それとアルバイトは,面接の話題ネタになるのでやっておいたほうがいい,とのことです。とくに接客系がいいとのこと。役所のサービスの時代ですが,クレームへの対処法などについて,思う所を聞かれることがあるそうな。これは初耳。
4章は,筆記試験対策について。問題作成者が無精をしているのか,前例から大きく逸脱してはいけないという決まりでもあるのか,公務員試験では類似の問題が形を変えて繰り返し出題されます。よって過去問演習が不可欠。と同時に,知識のインプットも欠かせません。この2つの要請を同時に満たす本として,実務教育出版から出されている『スーパー過去問ゼミ』シリーズが挙げられています(略してスー過去)。教育学の本は,私が書いています。
http://tmaita77.blogspot.com/2017/11/blog-post_23.html
5章は,筆記試験の後に待ち構えている面接試験対策。いわゆる人物確認ですが,近年ではこちらの比重が増していると聞きます。考えてみれば,受験生の親は面接官と同世代。格好の練習相手になります。親子での模擬面接など,いろいろできることはあるそうです。
以上,5分ほどパラパラめくってみて「おお」と思ったことの走り書きです。じっくり読めば,教えられることはもっと大でしょう。わが子に公務員をすすめたい親御さんの場合は,なおのことです。願いを成就させるためのバイブルとして,お手にとっていただきたい本です。