ページ

2019年10月31日木曜日

年収と情報機器の所持率

 国立青少年教育振興機構は,2年おきに『青少年の体験活動等に関する実態調査』をしています。最新は2016年度調査で,個票データも公開されています。申請すれば,CD-ROMで送ってもらえます。

 調査対象は,小学校1~6年生,中学校2年生,高校2年生で,小学生については保護者調査も実施されてます。家庭の年収もバッチリ訊いています(問14)。調査設計に,教育社会学者が加わっているのでしょうね。ここの前理事長は,千葉大名誉教授の明石要一先生でした。

 個票データを使って,各設問への回答を,家庭の年収とクロスさせてみると面白い。保護者調査の問11にて,スマホ,・パソコン等の機器(専用)を,子どもに持たせているかと問うています。日本の子ども・若者の情報機器所持率が低いのは分かっていますが,家庭環境との相関はまだ明らかにしてませんでした。

 おそらくは,裕福な家庭ほど所持率は高いだろう。中学生や高校生ではそういう階層差は小さいだろうが,小学生,とりわけ低学年の児童ではそれが大きいのではないか。私はこういう仮説をもって,データを分析してみました。結果は,昨晩にツイッターで発信した通りです。意外な結果ゆえか,見てくださる方が多くなっています。

 ただ,小学校1年生の児童を家庭の年収階層(7階層)で分けたら,サンプルが少なくなるのではないか,という疑問が寄せられています。そうですね。最も低い200万未満と,最も高い1200万以上の層は100人を割ります。

 ここでは,小学校1年生と2年生の低学年サンプルを取り出して,年収別の所持率を出してみます。これだと,どの群も200人以上の母数を確保できます。下の表は,スマホ,タブレット,パソコンの所持率の階層差です。正確には,低学年のわが子に,当該の機器(専用)を持たせている保護者のパーセンテージです。


 昨日,ツイッターで流したデータと近似しています。スマホの所持率をみると,費用がかかるので年収と比例するかと思いきや,そうではありません。

 200万未満の層が19.3%と最も高く,600~700万円台の階層まで低下し,その後反転して上昇する「U字」型になっています。低学年児童のスマホ利用層は,貧困層と富裕層に割れているようです。

 私はこのデータをみて,どこかで聞いた「貧困層ではスマホ育児が多い」説を思い出しました。子どもに構う時間的・精神的余裕が親になく,四角い物体を子どもに持たせて,ひとまず黙らせると。富裕層の用途は,これとは違います。現職の小学校の先生は,「年収低い層が子どもを手っ取り早く黙らせるために持たせるか,年収の高い層がより能力を伸ばすために持たせるか」の違いだと言われています。
https://twitter.com/sunostrism/status/1189523005795233792

 エグイ言い方ですが,的を射ているような気がします。あとは,親が子どもと接する時間とリンクしているようにも思えます。貧困層には一人親世帯などが多く,富裕層にはバリバリの共稼ぎ夫婦が多し。こういう家庭が,わが子との連絡手段ないしは安否確認の手段としてスマホを持たせていると。

 タブレットは,スマホに比して,貧困層ほど所持率が高い傾向が明瞭です。

 「だからどうした?」という話ですが,親の監督もなく,幼少期より一人で電子機器に見入ることで目が悪くなる,ないしは姿勢が悪くなるといった,健康不良には注意をしたいものです。こういう要素も,家庭環境による子どもの健康格差につながっているといえるでしょう。

 なお,家庭の年収階層を問わず,専用のパソコンを子に持たせる保護者はわずかしかいません。低学年のデータだからだろと思われるかもしれませんが,中学年,高学年でみても,数値はほぼ一緒です。高学年の富裕層でようやく5%になる程度です。

 多くの親が,インターネットは検索して情報を得るためのツールと思ってるのでしょうね。それならデカイPCなんて不要で,スマホで十分。こういう考えなんでしょうか。ネットで得た原情報を加工し,創作物を生み出し発信する。こういう用途が頭に浮かぶ親御さんが少ないようで,残念な気がします。これからの時代で求められる姿勢は,「創作」と「発信」で,そのために不可欠なツールがPCだと思うのですが…。

 教育のICT化が遅れており,PCが必須の環境が用意されてないこともあるでしょう。北欧の諸国では,PCがないと宿題もできません。

 今回のデータはシンプルなものですが,いろいろな課題を演繹できるものかと思います。


********************

 インターエデュという会社のサイト記事にて,私のブログコンテンツが不正利用されていました。27日の朝に,地方の高校の先生から「この記事の県別大学進学率,文科省資料には出てらず,舞田さんがブログで出しているものじゃないですか」と情報提供がありました。

 先方に確認したところ,非を認めたので,記事の削除および謝罪の告知をしてもらいました。
https://www.inter-edu.com/article/uni-research/uni-research181205/
 
 1年前の記事で,執筆者や当時の担当編集者はもう会社にいないので,事の経緯は定かでないという回答ですが,私がブログで出している県別大学進学率は,文科省の資料に載っているものだと勘違いしたのでしょうか。でも,私が計算したデータということをブログには書いているのですがね。まあ,悪意はなかったと解釈しておきましょう。

 1年間の営利利用ですので,意地の悪い人なら使用料を相当吹っ掛けるのでしょうが,私は少額の請求にとどめました。謝罪と対応がしっかりしたものでしたので。

 やったことは結果的には「盗用」でけしからんことですが,問題が発覚した後の動きは満点です。ミスは仕方ありません。大事なのは,事が起きてからの対応です。よほど酷い事案でない限り,誠意ある謝罪と普通の対応をしてくれれば,私は事を荒げたりはしません。

 西俊明,およびタナカキミアキは初動を間違えたので,あんな大ごとになったのです。

 タナカキミアキの一昨日の動画を見たら,「私は生き残るためなら手段を選ばない人間だ」と言っています。ほう,ずいぶん正直ですね。あなたを多少知る身として,納得です。

 島倉さんという人が「著作権について認識が甘すぎるユーチューバーに喝!」という動画を出しています。名前は出されてませんが,誰のことやら。5分30秒あたりから,スゴイことが言われています。怖いなあ。

 タナカさん,無職になって,これから「手段を選ばない形で」這い上っていくそうです。「手段を選ばない」はいいですが,ルールはちゃんと守らないといけません。

2019年10月26日土曜日

いじめの公私比較

 子どもの問題行動が,13~15歳の思春期に多発するのはよく知られています。中学生のステージです。中学校の多くは公立ですが,最近は私立の生徒も増えてきています。東京では,中学生のおよそ4人に1人が私立校の生徒です。

 その私立校に関連する,興味深い記事を見かけました。10月23日の京都新聞ウェブ版のもので,「私立校のいじめ対応に不満,どうすれば? 指導機関なく『治外法権』との声も」と題する記事です。
https://this.kiji.is/559542111595529313?c=39546741839462401

 中身については後で触れますが,いじめというのは,問題行動の中でも量的な把握が最も難しい。可視性が低く,客観的な基準がありません。学校がいじめの把握にどれほど本腰を入れるか,すなわち認知の姿勢にも影響されます。

 ここで問いたいのは,学校の「認知の姿勢」です。中学校の公立と私立を比較し,上記の京都新聞記事の内容と絡め,問題提起をさせていただきましょう。

 いじめの基本的な統計は,いじめの認知件数です。文科省児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』にて計上されています。また毎年実施される『全国学力・学習状況調査』では,「いじめはどんな理由があってもいけない」という項目への意見を問うています。これに対し,否定的な回答をした生徒の率は,いじめの容認率と読めます。

 この2つの数値がどうであるかを,公立と私立で比べてみます。年による変化があるので,ここ数年のデータを確認してみます。



 一番上のいじめ認知件数をみると,2018年度では公立が9万3921件,私立が2841件となっています。公立が圧倒的に多いですが,中学校は大半が公立ですので,これは当然とみられるかもしれません。

 そこで生徒千人あたりの数にしてみると(中段),公立は31.5件,私立は11.9件となります。生徒数を考慮しても,公立のほうが多いですね。公立は私立の約3倍です。わが子に中学受験をさせようとしている親御さんは,「だから公立には行かせたくないんや」と思われるでしょうか。

 しかるに下段のいじめ容認率をみると,公立が4.5%,私立が7.0%で,こちらは私立のほうが高くなっています。2018年度だけでなく,どの年度でも同じです。幼少期からの受験勉強による人格の歪み等,要因はいろいろあり得ますが,それは置いておきます。

 いじめの認知件数は公立の方が多いが,生徒のいじめ容認率は私立の方が高い。うーん,私立では統計に表れていない「暗数」が多そうですね。

 2018年度の私立中3年生のいじめ容認率は7.0%ですが,この比率を同年度の私立中学生徒数にかけると1万6683人(b)となります。いじめを容認する生徒の推定数です。2018年度の統計に出ている,私立中のいじめ認知件数は2841件(a)。統計上のいじめ認知数は,いじめを容認する生徒数の17.0%でしかありません(a/b)。飛躍を承知で言うと,実際に起きているであろういじめの真数の2割も拾えてないことになります。

 公立中学校のデータで同じ値を計算すると70.0%となります。公立では私立に比して,いじめがかなり把握されているようです。その差は4.1倍です。

 これは2018年度の試算結果ですが,偶然なんでしょうか。2012年度からの推移をご覧いただきましょう。



 統計上のいじめ件数が,いじめを容認する生徒数の何%かという「いじめ把握度」は,どの年度でも私立より公立で高くなっています。その差が広がる傾向にあるのも注目。公立は,17年度から18年度にかけて大幅に増えていますが,教育委員会の指導もあり,いじめの摘発に本腰が入れられるようになっているのでしょう。

 私立のいじめ把握度は低いのですが,生徒募集に影響が出るので,学校がいじめ認知に積極的でないことも考えられます。いじめ被害を訴え出ても,なあなあで済ませてしまう,本腰の対応をしない…。

 問題のある生徒は退学させてしまえばいいという考えなのか,私立校では,この手の問題への対応に関する研修が,公立に比して不十分だという声もあります。
https://twitter.com/free_andpeace/status/1187753398373892100

 冒頭で紹介した京都新聞記事では,私立校のいじめ対応には不満が多いことがいわれています。公立校なら教育委員会が強く指導できるのですが,私立はそうはいきません。指導の権限は,設置者の学校法人にありますが,しょせん内輪の間柄ですので,ちゃんとした対応がとられるかはちょっと怪しい。

 そこで私立学校についても,外部の指導機関が必要なのではないか,というのが同記事で言われている提言です。学校法人の自浄作用にだけ期待するのは無理筋というもの,その通りだと思います。

 私立校であっても,国が定めた法律や指針を遵守する義務があります。いじめ防止対策推進法第22条では,「当該学校の複数の教職員,心理,福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織」を置くこととされていますが,私立校では,こういう組織がちゃんと設置されているか。いじめ防止対策推進の実態を,公私別に明らかにする調査をしてみる必要もあるでしょう。

 わが国の学校では,私立校が結構なシェアを占めます。この部分が「治外法権」であっていいはずはありません。

2019年10月23日水曜日

ゼロ円借家の増加

 ドイツの首都ベルリンで,賃貸住宅の家賃の引き上げを5年間禁止する法案がまとまったそうです。人口増加により,この10年間で家賃が倍増し,市民から悲鳴が上がっているとのこと。
https://digital.asahi.com/articles/ASMBR12R4MBQUHBI019.html

 人口が増えているのは,日本の首都の東京も一緒です。日本全体の人口は減少の局面に入って久しいですが,東京は増え続けています。それゆえか,賃貸の家賃もアップしています。都内23区の家賃地図を描くと,色が濃くなっており,2018年の都心3区(千代田,中央,港)では,月家賃の中央値が10万円を超えます。収入が減っているのに家賃は増える。キツイことです。

 その一方で家賃激安,いやタダ(0円)の賃貸も増えています。総務省の『住宅土地統計』では,借家に住む世帯の月家賃の分布が分かるのですが,家賃0円の借家に住む世帯は2013年では35万9700世帯でしたが,2018年では40万5600世帯に増えています。

 家賃ゼロ円の借家というのは,①親戚同士のタダ貸し,②別荘のタダ貸し,③空き家の放出(ハウスキーパーの雇用),といった事情が考えられます。①と②は前からあったことと思いますので,近年の増分は主に③ではないかなと推測します。

 堀江貴文さんは著書『疑う力』(宝島社)において,「家賃はいらないから,空き家に住んでハウスキーパーをやってくれ,と懇願される時代がやってくる」と予言されています。家というのは,人が住まないと荒みます。景観が悪くなるばかりじゃなく,倒壊の危険が増したり,犯罪の温床になったりもします。それなら,タダでもいいから人に住んでもらったほうがいい。こう考える家主や自治体が出てきても不思議ではないです。

 借家世帯全体に占めるゼロ円借家の率は,2013年では2.01%,2018年では2.22%となっています(家賃不詳の世帯は分母から除外)。都道府県別に計算すると,もっと高い値も出てきます。2013年と18年のランキングをみていただきましょう。


 3%以上は青色,2%台は水色のマークを付しました。この5年間で,ゼロ円借家が全国的に広がっているのが見て取れます。

 2013年では,岩手・福島・宮城のゼロ円借家率がべらぼうに高くなってますが,東日本大震災の仮設住宅等でしょう。2018年では,熊本と岩手が5%を超え,和歌山・三重・青森は4%台となっています。熊本は16年の震災の影響とみられます。岩手は,大震災の傷跡がまだ癒えてないのでしょうか。

 私の郷里の鹿児島は,18年のゼロ円借家率は3.9%と算出されています。人口減に悩む郡部,とりわけ離島部が空き家を放出しているのではないかと思われます。

 鹿児島は南北に長く,県全体を一括りにするのはナンセンスなんですが,ゼロ円借家率が市町村レベルでも出せます。全国の区市町村のゼロ円借家率を計算したところ,率が高い地域があるわあるわ…。「ホントかよ」と,目を疑う数値も出てきます。以下に掲げるのは,ゼロ円借家の率が10%(1割)を超える自治体です。家賃不詳を除く借家世帯の中でのパーセンテージです。


 セロ円借家の率が1割を超える自治体は47,2割超えは11あります。首位は熊本の益城町で67.9%です。16年の熊本地震の影響とみらます。被害が最も甚大だったエリアです。岩手の山田町,陸前高田市は,東日本大震災の影響がまだ残っているものとみられます。

 こういう特殊事情とは無縁ながらも,ゼロ円借家の率が高い自治体も多し。神奈川県の三浦市が21.0%で上位に位置しています。私が住んでいる横須賀市の隣で,三浦半島の南端に位置します。

 神奈川県内ではダントツの高さです(横須賀市は2.4%)。ここ5年間の伸びが大きいのも注目で,2013年では3.5%だったのが,18年では上述のとおり21.0%にもなっています。

 人口減少に悩み,消滅の危機すら言われている自治体ですが,空き家の大放出などの政策をしているのか。一昨日,三浦市の都市計画課に電話で尋ねたところ,「そういうのは,心当たりがないですね」という回答。「知り合いにタダ貸ししてるんじゃないですか」という推測も聞きましたが,そういうのは以前からあったはず。しかるに,当市のゼロ円借家率の上昇が著しいのは,ここ数年のことです。

 市内の油壷には別荘も多いので,別荘のタダ貸しの増加もあり得ますかね。私としては,借り手のつかない物件ないしは空き家をタダ貸しする不動産屋が増えているのかなと思うのですが,こういうことは役所に聞いても分かりません。地元の大手不動産屋(ウスイホームあたり)に聞くのがいいでしょうか。

 ともあれ,三浦市のゼロ円借家率20%,という統計的事実(fact)を強調しておきましょう。食い物は美味く,海アリ畑アリで風景はきれい,横浜や都内にも京急1本でアクセス可能(始発で座れる)。さらにゼロ円借家も多く,生活の基礎経費も浮く! 移住を募るに際して,こういう点をアピールすればいいのになと感じます。

 「住」は生活の基盤です。この部分のコストが浮くとなったら,若い世帯などはコロッとくるでしょう。高いローンを組んでマイホームを建てても,災害で流されたり潰れたりしたらおしまい。変動の激しい時代に,居を固定する考えは,私にはないです。堀江さんが言うように,タダで家を借りれる時代が本当にくるのではないか。借家住まいを続ける決心をして,色々な地域を移り住むのも面白い。

 高齢化が進む中,家主も「老人には貸せません」なんて言ってられなくなります。ITによる安否確認網で,孤独死リスクも減らせるようになるでしょう。

 住める家(空き家)が大量にある時代です。こういう時代では,ハコを新たに作るのではなく,既存のハコを活かす。それは,社会や環境に対してもやさしいことだと思います。

2019年10月22日火曜日

東京への通勤圏を知る

 昨日,データえっせいαの初回記事を公開しました。テーマは,オーバードクター・非常勤講師問題です。現役の非常勤講師の方に購入いただき,「問題の全体像が見えた」というコメントをいただきました。

 こちらの本ブログも廃れないよう,更新してまいります。

 2018年の『住宅土地統計』のデータが公表されましたが,この資料のウリは,市区町村レベルで世帯所得分布が分かるほか,借家世帯の家賃分布も知れることです。三浦市のデータをみたところ,当市の借家世帯の21%が家賃ゼロ円であることを知りました。

 三浦半島の南端で,人口減少が激しく,消滅の危機すらいわれる自治体ですが,こういうことをアピールすればいいのになと思います。「食い物は美味く,風景はきれいで,東京への通勤圏で生活費は浮く!」。私はツイッターで,こうつぶやきました。

 これに対し,「三浦市は東京への通勤圏じゃない,片道90分はかかるじゃん」という反論がきました。はてそうなのか,始発の三崎口駅から座って品川まで行けるし,都内への通勤者は結構いるのでは。私はこう思い,データを調べてみました。

 基幹統計の『国勢調査』には,就業者の従業地のデータも出ています。2015年の統計によると,三浦市在住で都内23区に通勤する男性は790人。同市の男性雇用労働者(8162人)に占める割合は9.7%となります。蓋を開けてみると,都内への通勤者は1割もいません。市外通勤にしても,大半が横須賀市や横浜市止まりのようです。

 私が住む横須賀市だと,男性の勤め人の都内23区通勤者率は12.3%。すっ飛ばす京急が通っているので,もっと多いかと思いきや,こんなもんなんだなあ。神奈川県内の33自治体のデータを計算し,高い順に並べると以下のようになります。当該自治体在住の男性雇用労働者のうち,都内23区への通勤者が何%かです。


 多摩川をはさんで,東京と隣接する川崎市ではほぼ半分です。鎌倉市や逗子市が横浜市より高いのは驚きですね。横須賀線が通っているとはいえ,時間がかかると思うのですが。ああ,横浜市は市内通勤者が多いためかもしれません。

 上野東京ラインが通っている茅ヶ崎市や藤沢市も比較的高し(といっても2割ほどですが)。横須賀市の12.3%は,藤沢市より10ポイントほど低くなっています。品川からの距離は,藤沢も横須賀中央も同じくらいだったような。大磯町が平塚市より高く,距離と直線的に比例しているのではなさそうです。

 東京への通勤圏は,距離や時間で割り出されることが多いのですが,実際に通っている人の割合も,一つの判断材料になるでしょう。上記は神奈川県内の33市町村のデータですが,首都圏のお住まいの方は,自分の自治体はどうかという関心もあるかと存じます。

 私は1都3県の市町村別に,男性の勤め人の東京23区通勤者比率を計算しました。私が前に住んでいた東京都多摩市は43.6%です。京王と小田急がダブルで乗り入れており,サービス向上(時間,運賃)を競っていますので高いですね。

 以下に掲げるのは,10%刻みで塗り分けたマップです。


 何%以上をもって,東京への通勤圏とみなすかは皆さんの判断に委ねます。三浦市はむろん,横須賀市も東京への通勤圏というのは難しいかな。だからといって,当該市の魅力が減じるわけではありません。

 千葉県の一宮市に薄い色がついています。都心からだいぶ離れていますが,上総一ノ宮駅から特急や快速を使えば,片道90分くらいで行けるみたいです。サーファーの移住が多い街と聞きます。仕事と趣味を両立できる,強みがありますね。

 上野東京ラインなど,高速交通網が発達してきてますので,昔と比して,色付きのゾーンは広まっているとみられます。企業の本社中枢の都心集中は相変わらずで,東京への通勤圏かどうかが,「選ばれる街」の重要条件とされがちです。私のような非勤め人はそんなのは度外視ですが,勤め人はそうはいかない。

 ちょっと古いデータですが,お昼休みの雑談のネタにでもしていただければと思います。次回は,ゼロ円借家について書きます。2013年から18年にかけて,ゼロ円借家,増えています。

2019年10月18日金曜日

有料note「データえっせいα」を始めます

 台風が去ったものの,曇天のすっきりしない日が続いていますが,いかがお過ごしでしょうか。風水害の被害に遭われた方には,心よりお見舞い申し上げます。

 タイトルに書きましたが,有料note「データえっせいα」を始めます。特定のテーマをやや深堀した記事を収録します。

 このブログでデータ分析の記事を書き溜めていますが,どうも雑多な細切れのトピックを書き散らすような感じで,「上」に積み上がりません。大きなテーマの構成につながる素材(布石)を置くという点で,意義あることだとは思いますが,それだけでは面白くない。

 これらを束ね,ある程度深みのある話を盛った記事も書いてみたい。そこで,有料noteを始めることを思い立ちました。有料だと,いいものを作ろうというインセンティブにもなります。昨晩,noteに新規登録し,記事を収録するマガジン「データえっせいα」を作りました。
https://note.mu/tmaita77


 お金をいただく以上,そこそこの分量で,読み応えのあるものに仕立てます(価格を高く設定するつもりはないですが)。今日の午前中に,初回の記事執筆に着手しましたが,図表6つ,字数は6000字くらいになる見込みです。

 初回のテーマを何にしようか迷いましたが,5月の朝日新聞記事が結構注目されましたので,オーバードクター問題・大学非常勤講師問題にすることにしました。まさに私は当事者であり,思う所はいろいろあります。最新のデータを交え,話をさせていただこうと思います。

 有料note「データえっせいα」の記事配信は,月に1回の予定です。あまり力を入れすぎると,こちらの本ブログ「データえっせい」が廃れてしまいますので。ご心配なく,長きにわたって育ててきた本ブログを朽ち果てさせるようなことはしません。面白いデータの紹介,新規性あるデータの試作・試論など,引き続き高い頻度で更新していきます。

 「データえっせいα」の初回記事は,10月21日の午前中に公開の予定です。その折は告知いたしますので,興味ある方は,ご購読いただけますと幸いです。

2019年10月13日日曜日

広島疎開記

 12日に大型の台風19号が関東地方を襲いました。河川沿いで浸水の被害多数と報じられています。被害に遭われた方には,心よりお見舞い申し上げます。

 私は,台風が襲来する11~12日の間,西の広島県に疎開していました。非常食,水,断水時用トイレ等のグッズは揃え,停電対策もぬかりなく行い,自宅で息をひそめて台風が去るのを待とうと思っていたのですが,先日の15号と19号のデカさを比較したニュースをみて,震え上がりました。
https://twitter.com/tmaita77/status/1182309123649503233

 先月9日の午前2時頃に,台風15号が横須賀を直撃したときは,アパートがヨコに揺れました。外に出ようにも出れず,このまま天井が落ちてくるのを待つのかと,非常に怖い思いをしました。これよりもさらにスゴイのがきたら…。いても立ってもいられなくなりました。10日から11日に日付が変わった頃です。

 西に逃れよう。強風圏から外れる岡山以西の宿を探したところ,山陽新幹線の東広島駅前の宿をとれました。11~12日の2泊です。11日のお昼前に生協が届くのを待って,スマホ,貴重品,今書いている本のゲラ,着替えをリュックに詰め込んで出発。新横浜まで出て,東広島までの自由席券を買い,ちょうど滑り込んできた,のぞみの博多行きに飛び乗りました。

 平日の昼間だし座れるだろうと思いましたが,これが甘かった。のぞみの自由席は,16両中3両しかなく,新横浜にきた時点で,立っている乗客が多数。仕方なくデッキの手すりにもたれて,ドアの窓越しに,高速で流れる景色に見入っていました。

 名古屋,京都,新大阪…。降りる乗客は少なく,座ることができません。もう限界だと,岡山でこだまに乗り換えました。こちらはガラガラ。しかし各駅停車で,停まるたびに,のぞみの通過待ちをしますので,結構イライラします。ゆったりできますので,時間のある人にはいいでしょうね。PCを広げて仕事をしているビジネスマンもいました。

 17時40分頃に,目的の東広島駅に到着。広島の一つ手前です。広島入りしたのは,2002年の教育社会学会以来でした。


 台風の強風圏から外れてますので,風はありませんでした。赤い夕空が広がっていたのが印象的です。


 ホテルにチェックインし,岡山まで立ち通しだった足を休めました。夕食は,無料で提供されるカレーライス。近くのセブンで唐揚げ棒を買ってきて,唐揚げカレーにしたら結構美味い。

 ノートパソコンを借りることができなかったので,仕事は断念。11日の夜は,これから来る台風関連のニュースをずっと見ていました。

 いよいよ台風が襲来する12日。テレビでは,朝から関東地方の大変な様子が報じられています。広島は安全ですので,隣の広島市街まで行って観光しようかと思いましたが,風が思いのほか強し。それに,こんな日に遊び惚けるのは不謹慎な気がしたので,宿で過ごすことにしました。

 お金が浮いたので,お昼は,近くの専門店で最高級のお好み焼きとビール。本場の広島のお好み焼きは美味しかった。使われるそばやソースからして違います。

 午後は3時くらいまで昼寝をして,駅で帰りの新幹線の切符(指定席)を買い,夕方からはテレビにくぎ付けです。台風が上陸し,ものすごい豪雨に見舞われている神奈川県の箱根町。横須賀は大丈夫か,自宅のある長井地区は大丈夫かと,スマホで停電状況等もチェックしました。際立った被害があれば,ツイッター上に画像が上がるはずだと,「横須賀 台風」の語で何度も検索をかけましたが,幸いそれは出てきませんでした。

 そうこうしているうちに夜は更け,ぐっすり眠ろうと,缶ビールを3本空け,床につきました。

 翌日の13日。台風が去り,雲一つない青空が広がりました。しかしテレビをつけると,河川氾濫による浸水被害のニュースのオンパレードで,心を痛めました。

 7時45分頃にチェックアウトし,東広島を8時3分に出る新幹線で帰宅開始。福山で東京行きののぞみ号に乗り換え。今度は指定席なんで,ゆっくりできました。新幹線の指定券って520円なんですよね。行きとは全然違う快適さで,窓越しに流れる風景に見入っていました。

 12時14分に新横浜に到着。こちらは,台風一過で気温が上がっていました。横浜線で東神奈川まで行くも,京浜東北線は完全に復旧しておらず,仲木戸駅から京急に乗りました。東神奈川と仲木戸って,すぐ近く,というかほぼつながっているのですね。

 京急もダイヤが大幅に乱れてましたが,普通で横浜まで行き,そこから快特で三崎口まで帰ってこれました。東広島からの所要時間,6時間ジャストです。


 バスでわが町長井まで戻ってきましたが,見渡したところ,目だった傷跡はないようでした。自宅もほぼ無傷。近くのおばさんに「どうでしたか」と尋ねたところ,「こないだと違って,全然大したことなかったよ」という回答。お金と時間を費やした疎開は,空振りでしたが,うれしい空振りです。

 冷蔵庫以外,軒並み外しておいた電気コードをつなぎ,土埃で汚れた玄関,アイホン,表札を拭き,一休み。週末にする予定だった掃除を半分済ませると,もうすっかり夕方。近くの高台から,台風一過の夕日をカメラに収めました。


 ソレイユの丘の観覧車(左下)と,相模湾がお分かりでしょうか。わたしはやっぱりこの地が好きで,帰ってきて落ち着きます。

**********

 以上,広島への疎開記でした。しかし,台風がくるたびに遠方に疎開していては,お金がもちません。普通は,ヤバいと思ったら地元の学校の体育館等に設けられる避難所に駆け込むのでしょうが,避難所暮らしはどうなのでしょう。とりわけ女性にとっては酷だという話をよく聞きます。
https://twitter.com/mypippichan/status/1183198366546587648

 災害の死亡者(率)は,いつも男性より女性が多いのですが,もしかすると,女性は避難所を忌避しがちであるからか…。トイレは少なく,盗難や性犯罪の被害と背中合わせ。自宅も危険なら,避難所の体育館も同じくらい危険といえるかもしれません。女性にとっては。

 私としても,盗難の被害は怖い。アパートが潰れた時に困るので,貴重品は全部持っていくことになるでしょうが,その管理をどうするか。貴重品を入れた巾着袋は服の中に入れるか,触れたらブザーが鳴る仕掛けにするか…。いろいろ策を凝らさないといけません。

 ツイッターで,災害避難所の国際比較が流れてきたことがありますが,海外では,全然違うのですよね。仕切り,プライバシーの確保…。災害大国の日本が追随する余地,大有りです。

 どんな時も命を守るのが先決。大きな台風がくると分かった時点で,疎開者が安く泊まれる素泊まりの宿が各地でたくさん用意されるといいと思います。災害が予測される土地からは事前に離れる。しごく当然のことです。

2019年10月6日日曜日

能力よりもジェンダーがモノをいう国

 「学力が収入に直結する社会 家の蔵書量が多いほど高学歴が多い」という記事を見かけました。
https://www.moneypost.jp/587237

 紹介されているのは,子ども期に家の蔵書量が多かった群ほど,高学歴の率が高いというデータです。早稲田大学の橋本健二教授が,SSM調査のデータから導かれたものです。橋本先生は以前,練馬の武蔵大学におられ,お招きを受け,2013年度の後期に「不平等の社会学」を担当させていただいたことが思い出されます。

 蔵書という文化資本が多い家庭で育った子は,学力が高くなり,高学歴を得て,高収入の職業(地位)に就ける。分かりやすい因果経路です。塾通い等の費用を賄えるかという経済資本(家庭の所得)に注目されることが多いですが,子どもの認知面の学力に影響するのは,経済資本よりも文化資本であると思われます。

 ところで,私が関心を持ったのは上記記事タイトルの前段です。「学力が収入に直結する社会」。これも誰もがピンとくることですが,データで可視化されているのを見たことはないですね。

 ホワイトカラー労働が増えている現在では,認知面の学力が職務遂行能力と近似する度合いが高まっており,学力と収入の相関関係は,当人の能力がモノをいう「メリトクラシー」の度合いを見て取るメルクマールであるといえます。

 この2変数の相関関係は,OECDの国際成人学力調査「PIAAC 2012」から明らかにできます。調査対象の16~65歳の成人を,数学的思考力の習熟度レベルに依拠して3つのグループに分け,現在年収の分布を比較してみます。

 数学の習熟度に基づくグループ分けですが,日本のサンプルの分布をみるに,レベル3未満を「低群」,レベル3を「中群」,レベル4~5を「高群」と括ると,量的にバランスがよくなります。

 このやり方で日本の成人有業者を3群に分け,年収の分布をとってみます。年収には性別(ジェンダー)が強く影響しますので,この変数は統制したほうがいいでしょう。下図は,男性と女性に分けて,数学学力と年収のクロス分析をした結果です。下記サイトのリモート集計から導きました。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/


 数学学力が高い群ほど,年収が高い傾向にあります。年収は「有業者全体の中でどのくらいの位置と思うか」という問いに答える自己評定ですが,参考にはなるでしょう。

 男女とも,きれいな右下がりの模様が描かれており,ハイタレントの人ほど稼ぎが多いという,メリトクラシーの社会になってはいるようです。厳密にいえば,横軸の学力とて,育った家庭環境といった生得要因の影響を受けていますので,100%そうとはいえませんが…。

 それにグラフを見てみると,稼ぎを規定する要因は,当人の学力だけではないことが知られます。女性では学力レベルに関係なく,青色のプア(下位25%未満)が幅を利かせています。

 よく見ると,女性の高学力グループ(右端)よりも,男性の低学力グループ(左端)のほうが,収入が高いではありませんか。年収上位25%以上の人(稼ぐ人)の割合は,前者では19%ですが,後者では26%となっています。

 女性の場合,家計補助のパート勤務が多いからでしょう。正社員であっても,収入の高いポジションは男性に占有されがちです。女性のハイタレントが浪費されているんだなあ,という感想を抱くのはあまりにも容易い。

 女性の高学力群は,男性の低学力群よりも稼ぎが少ない。これが日本の現実なんですが,こういう社会って他にあるんでしょうか。「PIAAC 2012」は国際調査なんで,他国のデータも作れます。各国のサンプルからこの両群を取り出し,年収が上位25%以上の人の率を計算しました。下表は,データが得られた21か国の中での対比です。


 稼ぎが多い人の出現率ですが,前述の通り,日本の女性の高学力群ではが19%,男性の低学力群では26%です。前者から後者を引いた値はマイナスになります。

 表を見ると,学力の高い女性の稼ぎがそうでない男性より低い国って,日本,韓国,スロバキアの3国だけのようです。アメリカでは,女性高学力群の数値が男性低学力群より21ポイントも高くなっています。実力主義のお国柄ですね。「ジェンダー < 能力」です。

 国際的にみればこれがスタンダードで,日本は遺憾ながら,それから最も隔たった国であるようです。そういえば,日本の高学歴マザーのフルタイム就業率は,宗教的な統制の強い中東諸国と同レベルなんでした。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/11/post-8805.php

 また,「PIAAC 2012」のデータで検討してみると,日本の生産年齢女性では,フルタイム就業者よりも専業主婦の学力平均点が高いのです。統計的に有意ではないもの,他国には類を見ない独特の傾向です。

 女性のハイタレントが眠ってしまう国。地方の優秀な女子高生が大学に進学できない,という事実もあります。要因を挙げたらキリがないですが,まずなすべきは,女性がフルタイム就業しやすい環境を作ること。増税で得られた財源は,保育士の待遇改善に充て,保育所の受け入れ枠を増やすべきでした。この点は,何度でも申しておきたいと思います。

2019年10月4日金曜日

『特別支援学校らくらくマスター』(2021年度版)

 実務教育出版より,『特別支援学校らくらくマスター』『小学校全科らくらくマスター』の出来本が届きました。来年夏実施の2021年度採用試験に向けて使っていただくものです。10月8日ころ,発売の予定です。


 両方とも,最新の出題傾向に合わせて毎年刊行していますが,特別支援学校のほうは大幅リライトしています。過去5年間の典型過去問を取り寄せ,仕分けし,章やテーマの構成をかなり変えました。

 特別支援学校とは,障害のある子どもの教育を行う学校のことです。2006年までは,養護学校,聾学校,盲学校というように分かれていましたが,2007年度から特別支援学校に一本化されています。障害のある子どもの教育の名称が,特殊教育から特別支援教育に変わったことも注目。障害児は特殊なのではなく,特別のニーズを持つだけの存在です。

 特別支援教育は,通常の学校でも行われます。その主な場は特別支援学級で,軽度の障害のある子どもは,通常の学級に籍を置きつつ,週に何時間か特別の指導を受ける「通級による指導」の対象になります。

 上記の書物は,特別支援学校の教員志望者向けのものですが,通常学校の教員を志す学生さんにも役立つかと思います。小・中・高校にも,特別な支援を要する子はいますので。たとえば,発達障害の子などです。

 最新の『特別支援学校らくらくマスター』は,①特別支援教育の基礎,②特別支援学校,③障害の理解,④障害の診断・検査,⑤時事事項,の5つの章からなります。この5つの章立ての下,合計62の小テーマを盛り込んでいます。


 上記は,最初のテーマ1です。文科省の公的資料をもとに,特別支援教育とは何ぞやを解説しています。重要語句を赤字にし,フィルムで隠した暗記学習ができるようにしています。実際の試験で出る空欄補充問題さながらの学習が可能です。

 お堅い公的資料の原文の紹介がメインになるのはやむを得ないですが,図や表組の整理も多用し,トーンが単調にならないよう工夫を凝らしています。以下は,障害児教育史の重要人物のまとめです。


 既に勉強を始めている方はお分かりでしょうが,特別支援学校の試験では,障害の医学的な事項が出題されます。網膜色素変性といった病名を選択肢なしで書かせる,オージオグラムから平均聴力を計算させる,日常用語を点字で表記させるなど,難易度の高い問題がガンガン出題されます。

 一番の難関はココで,頭を抱えている受験生が多いでしょうが,過去問を眺めてみると,出題元の資料はほぼ決まっています。文科省の『教育支援資料』(2013年)です。問題を作成する側も,医学のプロではないので,こういう資料に頼らざるを得ないようです。出題ミスも怖いですし…。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340250.htm

 上記のリンク先から現物に飛んでみると,視覚障害,聴覚障害,知的障害,肢体不自由といった障害種ごとに,障害の概要や指導方法について詳述しています。『特別支援学校らくらくマスター』では,この公的資料をもとに,障害の概要,求められる合理的配慮,ならびに指導方法の3本立てで整理しています。以下は,視覚障害の概要の部分です。


 私なりに原資料の内容を咀嚼したうえで,内容の配列や盛り方を工夫しています。手前味噌ですが,本書の「障害の理解」のチャプターをきちんと押さえれば,障害の医学事項の問題の8割は正答できるかと思います。赤字をフィルムで隠したドリル学習を反復しましょう。難解な医学書を紐解く必要はないです。

 教員採用試験の本は他社からも多数出ていますが,特別支援学校の試験対策用は,片手の指で数えるほどしか出ていません。この分野の執筆を担当できる人がいないのでしょうか。

 『特別支援学校らくらくマスター』は,その少数の本の中でも,一番売れているようです。アマゾンで「教員採用試験 特別支援学校」で検索すると,最上位のおススメ本として出てきます。


 試験を受験する学生さんだけでなく,特別支援学校の現職の先生にも使っていただいているようでありがたや。ある特別支援学校の教頭先生からは,「内容がコンパクトにまとまっており,毎年,研修のテキストとして使わせてもらっています」という,ありがたいメッセージもいただきました。

 現在は,インクルージョンの時代です。障害のある子の教育を担う特別支援学校の教員,特別支援教育の素養を身に付けた人材への需要は,ますます高まるはずです。教員採用試験の受験者だけでなく,障害児教育の全般を幅広く学びたいという全ての方に,本書を手にとっていただきたく存じます。

 実は私の亡き母は,晩年は重度のリウマチで寝たきりの状態でした。身体障害者手帳の1級も取得していました。私が本書の執筆を引き受けたのは,こういう身の上もあってのことです。

2019年10月2日水曜日

首都圏211区市町村の年収中央値

 2018年の総務省『住宅土地統計』の結果が公表されました。字のごとく住宅や土地に関わる官庁統計ですが,世帯の年収分布を知れるのがウリです。

 そんなの『就業構造基本調査』でも分かるじゃんと言われるでしょうが,『住宅土地統計』では,都道府県よりも下った区市町村別のデータを得ることができます。

 富の地域格差を露わにするのは,私の主な仕事の一つなんですが,都道府県という括りはいかにも大きい。東京都内でもエリアによる差はありますし,私の郷里の鹿児島では,鹿児島市と離島部ではこれまたえらい違いがあります。

 このほど公開された『住宅土地統計』のデータをもとに,首都圏(1都3県)の区市町村別の年収比較をしようと思い立ちました。古いデータで同じ作業を手掛けたことがありますが,ここでは「夫婦+子」の核家族世帯に限定します。各自治体の関係者に,子育て年代の懐具合を知ってもらいたく思います。

 また年収分布の代表値としては,平均値ではなく中央値(median)を使います。全世帯を年収順に並べた時,ちょうど真ん中のくる世帯の年収です。当該自治体のフツーの世帯の年収を知るにはこれがベスト。

 各地域の年収分布から中央値を計算します。私が住んでいる横須賀市を例に,説明しましょう。


 区市町村別・世帯類型別となると,年収階層の区分が粗くなりますが,これは致し方ありません。横須賀市の場合,真ん中が厚いノーマル分布となっています。最も多いのは年収500~600万円台の階級で,累積%が50ジャストの中央値も,この階級に含まれることが知られます。

 按分比例を使って,中央値を割り出しましょう。本ブログを長く見ている方は,もう慣れっこですよね。

 按分比=(50.0-35.4)/(63.3-35.4)=0.523
 中央値=500万円+(200万円 × 0.523)=604.6万円

 横須賀市の核家族世帯(≒子育て世帯)の年収中央値は605万円と出ました。一番上の子が小・中学生の世帯なら,こんな所でしょうか。

 上記の統計資料から,首都圏211区市町村の核家族世帯の年収分布を呼び出せます。私は同じやり方にて,211区市町村の年収中央値を計算しました。平均値なら計算式が一律なんで一発なんですが,中央値は結構手間がかかりました…。

 211区市町村の値をみると,幅広く分布しています。以下に掲げるのは,3つの階級を設けて塗り分けたマップです。


 予想通り,東京の都心部で高年収のエリアになっています。核家族世帯の年収中央値が800万円を越えるのは12の自治体ですが,そのほとんどが都内23区です。

 川崎市の中原区も濃い色ですが,朝の超混雑で有名な武蔵小杉駅がある区ですね。タワマンが雨後の筍のごとく建っているエリアですが,お金のある世帯を引き寄せているのでしょう。

 先ほど出した横須賀市の中央値は605万円なんですが,600万円台の自治体の数は多し(薄い青色)。この階級の下のほうってことは,首都圏の全区市町村の「中よりちょっと下」という位置でしょうか。

 「地図だけでは分からない。自分の自治体の値と,全体の中での位置を知りたい」。こういう要望があるはず。上述のとおり,本記事の狙いは「各自治体の関係者に,子育て年代の懐具合を知って」いただくことです。資料の意味合いをこめ,211区市町村の核家族世帯の年収中央値をご覧に入れましょう。

 高い順に配列したランキングの形で見ていただきます。100万円ごとに区切りの線を引いています。


 首位は千代田区の1160万円,2位は中央区の925万円,3位は港区の923万円となっています。スゴイですね,中央値でこれです。年収600万円ちょい(横須賀市の中央値)では,ちょっとばかり疎外感を抱きそうです。

 年収中央値800万円超の顔ぶれをみると,さもありなんという感じです。文化人の街,東京の武蔵野市もランクイン。

 黄色マークは,私が住んだことのあるエリアです。母校の学芸大がある小金井市は768万円で,住民の富裕度が高い部類です。私は北門近くの安アパートに住んでましたが,ちょっと自転車を走らせると,目を見張るような高級住宅地でした。

 前に住んでいた多摩市は668万円ですか。ジブリ「耳をすませば」のモデル地,聖蹟桜が丘のいろは坂の上は,ブルジョアエリアになっています。聖地巡礼したことがある人はお分かりでしょう。

 言わずもがな,各地域の住民の富裕レベルは,子どもの教育達成と強くリンクしています。都内23区のデータで,学力テストの成績との相関分析をやったことがありますが,それはもうスゴイ相関でした。
https://tmaita77.blogspot.com/2014/07/23.html

 学力テストの結果を評価するにあたっては,各地域の社会経済条件を勘案することも必要です。不利な条件にあるにもかかわらず,高い地域を出している,がんばっている地域の教員を称えましょう。ここでお見せしたデータは,こういう用途に使ってほしいです。

 今回は中央値をお見せしましたが,下位10%値を出せば,就学援助を基準を設定するのにも使えるのではないでしょうか。同じように按分比例を使うことで,度数分布表から割り出せます。

 今回のデータの元としたのは,2018年の『住宅土地統計』の「家族類型(8区分),世帯の年間収入階級(6区分),住宅の所有の関係(2区分)別普通世帯数-全国,都道府県,市区町村」という統計表です。
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003355489

 ダイレクトに飛べるリンクも張っておきます。政策に活かすべく,官庁統計という公共財を大いに利用しましょう。