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2014年8月31日日曜日

2014年8月の教員不祥事報道

 今日で8月も終わりです。「楽しかった夏休みも・・・」と言いたいところですが,もう2学期が始まっている学校もあるのですよね。

 今月,私がネット上でキャッチした教員不祥事報道は26件です。夏休み中ですが,いろいろ新聞を賑わせてくれました。わいせつが多いのはいつものことですが,「土曜授業止めろ」という脅迫,フェイスブックへの不適切投稿などの事案も見受けられます。

 SNSは,個々の教員が自らの思いや実践を発信するのはいいツールですが,使い方を誤らないよう,注意していただきたいと思います。*自戒を込めて申します。

 明日から9月です。また暑さがぶり返すそうですが,気温の変化が激しい日が続かと思われます。季節の変わり目,みなさま,ご自愛くださいますよう。

<2014年8月の教員不祥事報道>
高校総体引率中に駅で盗撮の疑い 秋田の教諭逮捕(8/2,産経,秋田,高,男,42)
同僚女性の頭や顎殴り罰金命令の小学校教諭(8/6,読売,岐阜,小,男,38)
バイクの少年2人死亡=車と衝突、小学校教諭逮捕(8/6,時事通信,東京,小,男,47)
盗撮容疑で書類送検、51歳の教頭を懲戒免職処分(8/7,TBS,神奈川,高,男,51)
体罰3教諭ら訓告、県教委発表 交通違反3人は戒告(8/8,山形新聞,山形,体罰:中男40代,小女50代,特男30代,交通違反:小女50代,中男50代,高男50代)
教諭が保護者の前で男児に「窓から飛び降りてもらう」と発言
 (8/12,読売,長崎,小,男,40代)
暴行の教諭、理由は「今後の交際のあり方で…」(8/13,読売,愛知,高,男,39)
「衝動抑えられなかった」盗撮容疑で小学校教諭を懲戒免職処分
 (8/13,産経,京都,小,男,28)
「窓から飛び降りるか」教諭発言、児童引き倒す(8/14,読売,静岡,小,男,41)
“土曜授業やめろ”脅迫、教諭逮捕(8/19,日本テレビ,千葉,小,男,49)
バスに乗り遅れた校長、盗んだ?自転車で出勤(8/19,読売,東京,小,男,53)
 県立高校教諭、不適切な投稿 自身のフェイスブックに
 (8/21,大分合同,大分,高,男,40代)
静岡県教委、50代男性教諭を懲戒免 知人女性にわいせつ行為
 (8/22,産経,静岡,中,男,50代)
佐賀の中学教諭、酒気帯び容疑で逮捕 接触事故後に逃走(8/22,朝日,佐賀,中,男,43)
女子高校生にわいせつ容疑 姫路、部活顧問逮捕(8/23,神戸新聞,兵庫,高,男,63)
体罰の男性教諭、戒告に 岡山県教委、懲戒処分を発表(8/23,産経,岡山,中,男,35)
・同上(個人情報紛失:岡山,高,女,44)
わいせつ容疑で中学教諭逮捕=路上で女子高生触る―
 (8/26,時事通信,神奈川,中,男,25)
小2男児に体罰 横浜市教委が男性教諭を懲戒処分
 (8/26,神奈川新聞,神奈川,小,男,54)
日立一高へ爆破予告 男性教諭を懲戒免職(8/26,産経,茨城,高,男,60)
17歳少女に売春させた疑い、小学教諭を逮捕(8/26,読売,愛知,小,男,24)
教え子にキス、デート誘う 男性教諭を免職(8/27,埼玉新聞,埼玉,高,男,24)
水着女性を盗撮した疑い 愛知県立高教頭を逮捕(8/27,朝日,愛知,高,男,50)
わいせつ高校教諭を懲戒免職 現金盗んだ職員、成績改ざんの教諭も処分
 (8/28,埼玉新聞,埼玉,成績改ざん:高男35)
引率教諭「敗退」と勘違い…中学相撲で不戦敗に(8/29,読売,三重,中)
石川県金沢市の40代の高校教諭が10代少女にみだらな行為
 (8/31,日本テレビ,石川,高,男,40代)

2014年8月29日金曜日

『青空文庫で社会学』

 横浜国立大学の渡部真教授より,『青空文庫で社会学』をお送りいただきました。お弟子さんの小池高史氏との共著です。
http://clartepub.shop-pro.jp/?pid=77783016


 渡部先生は教育社会学・犯罪社会学の研究者であられ,青少年の逸脱行動に関する書籍や論文を数多く発表されています。1979年の「青年期の自殺の国際比較」(『教育社会学研究』第34集),82年の「高校間格差と生徒の非行的文化」(『犯罪社会学研究』第7号)などは,私にとって大きなインパクトがありました。

 前者では,α値という指標をもとに青年層の自殺の国際比較が行われています。青年の自殺率の絶対水準を観察するだけでは不十分で,所与の社会において,青年層にどれほど自殺が集中しているかを吟味しないといけない。こういう視点から,青年の自殺率が全体の何倍かを表すα値が,比較の指標として用いられています。

 後者は,階層構造内で位置を異にする複数の高校を取り上げ,各々の高校内でどのような下位文化(サブカルチャー)が支配的かを明らかにしたものです。生徒に対するアンケート調査のデータを数量化Ⅲ類にかけ,階層構造内で下位の学校ほど,非行に親和的なカルチャーが蔓延していることが実証されています。

 渡部先生の文章は読みやすく,私はとても好きです。聞けば,東大の大学院にて,わが師匠・松本良夫先生の教えを受けられたとのこと。こういう共通の地盤があるためかしらん。私にすれば,兄弟子とも言い得るお方。*不遜な言い方をお許しください。

 近年では,『ユースカルチャーの現在-日本の青少年を考えるための28章-』(2002年),『現代青少年の社会学-対話形式で考える37章-』(2006年)などの単著を出しておられます。特徴は,2人の人物の対話(dialog)という形式で書かれていること。

 渡部先生も書かれていますが,ダイアローグは,自分の考えを分かりやすくはっきりと伝えるのに適しているそうです。なるほど,いかに研究者であれ,日常会話では小難しい言葉は使いませんからね。かといって,腑抜けた居酒屋談義のようなものではなく,豊富な資料やデータを引き合いにして,学問的な議論が行われています。

**********
 今回謹呈いただいた『青空文庫で社会学』も,同じつくりになっています。渡部先生と小池氏による対話形式です。本書では,目ぼしい文学作品を素材にした議論が行われています。取り上げられているのは,青空文庫(著作権切れの文学全集)に入っているものであり,誰でも読めるそうです。この点もいいですねえ。
http://www.aozora.gr.jp/

 目次をみると18の章が盛られており,章ごとに,太宰や鴎外などの作品が掲げられています。これだけだと,文学作品の解説本と間違われそうですが,それらを通してどういうテーマについて議論するのかが,キーワードで示されています。クーリングアウト,社会統制,近代,階級文化など,社会学の重要タームも盛りだくさん。

 各章の内容は完結しており,どの章から読んでもいいとのことですので,私はまず,8章「ある自殺者の手記(モッパーサン)」から読ませていただきました。キーワードは「自殺・動機」です。

 架空の自殺者の手記を載せた短編小説(1884年)ですが,それから読み取れる自殺の原因(希望が失せた孤独,倦怠,消化不良,思い出)が,デュルケムのいう自己本位的自殺と通じるところがあるそうです。

 デュルケムの『自殺論』が公刊されたのは1897年ですが,急激な産業化により,人々の連帯が喪失しつつあった当時の西欧社会の危機は,統計のみならず文学にも表れていたのですなあ。

 自己本位的自殺は,社会の統合が弱まることで起こるとされた自殺タイプです。「人はいかなる集団にも属さずして,自分自身を目的として生きることはできぬ」とデュルケムは述べていますが,こうした自己本位的状況が,上記の作品の遺書にも綴られていると。

 同時代のフランスを生きたデュルケムとモッパーサンは,「まったく異なった方法で自己本位的状態の事を考えた」(本書104ページ)のだと言えます。また,「社会学者は自殺統計を利用し,文学者は自分の内面を見つめ個人的手記という形をとった。結局,最後は同じような結論を得ている」(同)ことになります。

 私などはつい数字ばかりに頼ってしまいますが,人間の深奥が自由に描かれた文学というのも,重要な資料(データ)ですねえ。本書の「おわりに」には名言があり,線を引き付箋を貼ってしまいました。

・「二流の社会学者の本を読むよりも,一流の文学作品を読んで,常識にとらわれることなく,人間や社会を見る目を養ってほしい」(作田啓一,本書209ページ)。
・「社会学は自然科学から学ぶほどには文学から学んでこなかった」(同上)。
・「文学は人間のもっとも深いところから発信される,第一級の情報である」(210ページ)。

 私は,「社会をモノのように扱うべし」(デュルケム),「コントは社会学を物理学たらしめようとした」というような言を座右の銘にしていますが,上記の3つ目を加えようかしらん。人には好み(得手不得手)がありますが,こういう情報も使えるようになれたらな,と思います。

 『青空文庫で社会学』は,渡部先生のブログ「ユースカルチャーの社会学」をベースに作られたものだそうです。毎月半ばくらいに,内容が更新されています。今後も継続され,ある程度たまったらまた活字化されるのでしょう。
http://sociologyofyouthculture.blogspot.jp/

 文学を素材にした,渡部・小池流の青年社会学。私とは真逆のアプローチですので,大いに勉強になります。今後の展開に期待しております。

2014年8月28日木曜日

職業別の生涯未婚率(国勢調査版)

 未婚化の指標として注目される生涯未婚率ですが,官庁統計をフル活用することで,さまざまな属性別の数値も出すことができます。2月9日の記事では,職業別の率を計算したのですが,この記事は多くの方に読まれました。

 今回は,基幹統計である『国勢調査』に依拠して,同じ資料をつくってみようと思います。全国民を対象とした悉皆調査である『国勢調査』をもとに,職業と結婚に関する,より精度の高いデータをつくってみましょう。前回と類似の結果が得られるかを確認する,「追試」の意味合いも含めます。

 2010年の抽出詳細集計の中に,「職業(中分類)×性別×年齢×従業上の地位×配偶関係」の多重クロス表があります。下記サイトの表7です。私はこの表のデータを用いて,正規職員の職業別の生涯未婚率を計算しました。前回と同様,正規・非正規の量の影響を除くため,正規職員に限定します。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001050829&cycode=0

 生涯未婚率の概念ですが,字のごとく,生涯未婚のままでとどまる者の出現率のことです。統計上は,50歳時点の未婚率とされます。この年齢以降は,結婚する者はそうはいないだろう,という仮定を置くわけです。

 5歳刻みの年齢統計からこの指標を算出する場合,40代後半と50代前半の率を平均するという便法がとられます。全職業をひっくるめた男性正規職員でいうと,40代後半の未婚率は15.8%,50代前半のそれは11.6%ですから,この2つを均して生涯未婚率は13.7%となります。へえ,正社員の男性でも,およそ7人に1人が生涯未婚なのですね。女性はもうちょっと高く,16.9%です。

 これらは正社員全体の生涯未婚率ですが,職業によって値は大きく変異します。私は56の職業について,正規職員男女の生涯未婚率を明らかにしました。下の表は,ベタの一覧表です。上位10位は赤色,上位5位には黄色マークをつけています。


 どうでしょう。同じ正社員でも,生涯未婚率は職業によってかなり違います。男性は,サービス職や労務職で率が高くなっています。しかるに女性のほうは,専門・技術職の生涯未婚率が高し。女性の美術系アーティストの生涯未婚率は,実に43.6%にもなります。

 女性の記者・編集者の率も高いな(39.6%)。未婚の女性編集者さん,私も幾人か存じ上げております。技術者や法曹も高いですね。

 大まかにいうと,女性は稼ぎのある職業ほど未婚率が高く,男性はその逆のようです。先日の日経デュアル記事にて,年収と未婚の関連をみたのですが,そこでの知見と符合しているように思います。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2945

 この点についての解釈は,上記の日経記事をみていただくこととし,上表のデータをグラフにしましょう。私は「視覚人間」ですので,これをつけないと気が済みませぬ。横軸に男性,縦軸に女性の生涯未婚率をとった座標上に,男女双方の率が分かる52の職業を散りばめてみました。点線は,全職業の値です(男性13.7%,女性16.9%)。


 右下には「男性>女性」の傾向が強い職業であり,左上にあるのはその反対ですが,先ほど指摘したように,前者はサービス職や労務職が多く,後者は専門・技術職や芸術家が多くなっています。ピンク枠内の3職に注目。

 男女とも生涯未婚率が高い職業としては,事務用機器操作員が検出されます。パソコン操作員とかですが,不定期のメンテナンスなど,仕事時間が不規則なので,家庭を持つのが難しいのかしらん。

 左下をみると,さすがといいますか,公務員の未婚率は低いですねえ。教員も然り。保健医療職もこのゾーンにありますが,女性の医師に限定すると,生涯未婚率はべらぼうに高くなります。*2月9日の記事をご覧ください。

 先の記事では,『就業構造基本調査』(2012年)の結果を使いましたが,今回は,最も信頼度の高い『国勢調査』をもとに,同じデータを作成(再現)してみました。似た作業を反復するのはあまり面白くありませんが,こういう「追試」もたまには必要かなと思っております。

2014年8月26日火曜日

バブル図でみる大卒者の進路

 2014年度の『学校基本調査』の速報集計結果が公表されていますが,今年春の大卒者の進路はどうだったのでしょう。私は,正負の2指標を計算してみました。正規職員(正社員)への就職率と無業・不詳率です。計算方法は以下の通り。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 ・正規就職率=(正規就職者数+臨床研修医)/(卒業生-大学院・専修学校等進学者)
 ・無業・不詳率=(無業者+不詳・死亡者)/卒業生

 正規就職率ですが,医学部の場合はキャリアが研修医から始めることが一般的ですので,このカテゴリーも分子に加えます。分母のほうは,就職の意志がない進学組は除外することとします。無業・不詳率は,進学でも就職でもない「その他」と進路不詳・死亡のカテゴリーの割合です。

 今年春の大卒者は56万5,571人ですが,先ほどの2指標を算出すると,正規就職率が77.2%,無業・不詳率が13.4%となります。就職率はメディアでは90%超とか報じられますが,正社員に限定すると8割弱というところです。無業・不詳者は,およそ7人に1人。こちも肌感覚に合っています。

 これは卒業生全体の値ですが,専攻ごとにみるとかなりのバリエーションがあります。下表は,10の大まかな専攻系列別のデータです。


 正規就職率ですが,看護や医学などの保健系で高くなっています。医療人材への需要が高まっている近況を思うと,さもありなんです。工学や農学も8割超。やはり理系は強いですねえ。

 人数的に最も多い社会科学は78.6%,人文科学は71.1%であり,教育や芸術はもっと下に位置します。教育系が芳しくないのは,教員採用試験の浪人組が多いためでしょう。芸術系にあっては,正規就職率は半分未満。就職せず,アーティストを目指す学生も多いと思われます。

 右側の無業・不詳率は,これのほぼ裏返しです。人文系の無業率は17.1%,芸術系では実に27.5%なり。まあこの中には,留学準備とかに勤しんでいる者も含まれることでしょう。

 さて,上表のデータをグラフにしようと思います。いつも通り,2次元の座標の上に10の専攻をプロットしますが,今回は一工夫加えて,各専攻の卒業生の量も表現してみましょう。芸術系がぶっ飛んだ位置になるでしょうが,この専攻は量的にはマイノリティーです。願はくは,こういう情報も視覚化してみたい。

 このねらいに即したグラフ技法として,バブル図というものがあります。ドットの大きさにて,それぞれの層の量を表現するものです。ブツをみていただきましょう。


 社会科学系が19万4千人と最も多いので,円が最も大きくなっています。正規就職率が低く,無業・不詳率が高い芸術は,数の上では少数派。円が小さいですね。

 右下の保健や工学は,人数的にも結構いるんだな。卒業生に対する需要のある専攻ですが,近年,これらの道に進む学生も増えています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/08/blog-post_7.html

 このグラフを手書きで作成するとなると,ドットが置かれる点を中心とした円をコンパスで描くことになります。学生さんにやらせてみるのもいいかもな。

 「グラフにする時はきちんとを書け」。よく言われることですが,帯グラフの場合は,棒の幅でそれを表現することが可能であり,散布図の場合は上図のように円の大きさを使うことができます。後者がバブル図と呼ばれるものであり,エクセルで簡単に作図できます。今回は,その事例の紹介でした。

 8月も最後の週になりました。もうすぐ秋です。季節の変わり目,体調を崩されませぬよう。

2014年8月24日日曜日

予備校生の減少(補正)

 大手三大予備校の一つ,代々木ゼミナールが全校舎の7割を閉鎖するそうです。少子化により,生徒を集めるのが困難になったとのこと。大学も大変ですが,予備校はもっと大変ですね。

 状況が厳しいことは,予備校の生徒数の推移をたどってみるとよく分かります。2012年3月1日の記事にてそれをしたのですが,そこにて観察したのは,各種学校に分類されている予備校の生徒数です。しかるに予備校の形態は多様で,大きな所は専修学校に括られますし,東進ハイスクールのように,株式会社が運営している予備校もあります。

 文科省の『学校基本調査』では,専修学校各種学校に属する予備校の生徒数を知ることができます。前者は,「受験・補修」を行う専修学校です。各種学校の学科分類では,「予備校」というカテゴリーがありますので,その数値を使います。

 株式会社立の予備校の生徒数は分かりませんが,上記の2つを押さえれば,大よその近似値は把握できるでしょう。先日公表された2014年度の統計によると,同年5月時点の専修学校の予備校生徒数は26,940人,各種学校のそれは21,450人です。両者を足して48,390人,5万人弱というところです。

 この数値はどう変化してきたのでしょう。ネット上では,1992(平成4)年の資料まで遡れますので,この年からの推移を明らかにしました。


 やはりというか,予備校の生徒数は減少していますね。1992年では18万5千人でしたが,2014年現在では4万8千人にまで減っています。3分の1以下に減です。

 予備校の組成の変化にも注目。以前は各種学校の予備校が多かったのですが,近年では専修学校タイプのほうが多くなっています。小規模校が淘汰されたのか,あるいは専修学校に昇格したのか,その事情は知りませんが,総体として生徒数が減少していることには変わりありません。

 なるほど。代ゼミの苦境も分かろうというものです。しかし,その原因は18歳人口の減少だけではありますまい。予備校を使う生徒が少なくなった,ということもあるかと思います。予備校生の多くは浪人生ですが,最近,自宅で勉強する「宅浪」が増えているといいますしね。

 この点を統計で可視化してみましょう。私は1995年に大学に入りましたが,この年の浪人経由の大学入学者は18万8,052人です。彼らのうち,予備校通いしていた者はどれほどいるかですが,前年(1994年)の5月時点の予備校生徒数は15万7,672人です。

 よって,この年の浪人入学者の場合,予備校依存度は,後者を前者で除して0.838という数値で測られます。浪人生の8割ほどが予備校を使っていた,ということです。だいたい肌感覚に合う数値ですが,この依存度は年々下がってきています。


 始点の1993年の浪人入学者では,ほぼ全員が予備校通いしていたと推測されますが,今日では7割を切っています。分子には,浪人生以外の現役生も含まれますから,浪人生の実際の利用率はもっと低くなると思われますが,予備校離れが進んでいることは確かなようです。

 「大学進学人口の減少」+「予備校離れ」のダブルパンチ。なるほど,代ゼミの7割閉鎖という決断も,さもありなんです。この記事を書き終えて,昨日の報道記事を再読してみると,うんうんと頷かされます。

 代ゼミの件もあって,前にやった「予備校生の減少」の記事を見てくださる方が多いのですが,それには専修学校の分を加えていませんでしたので,今回,補正を行った次第です。

2014年8月21日木曜日

生涯未婚率の地域構造のジェンダー差

 わが国では未婚化が加速度的に進んでいますが,その程度を測る指標として,生涯未婚率というものがあります。字のごとく生涯未婚のままにとどまる者の出現率であり,統計上は50歳時点の未婚率とされます。この年齢以降は,結婚する者はほとんどいないであろう,という仮定に立つわけです。

 5歳刻みの統計から計算する場合,40代後半と50代前半の未婚率を均すという便法がとられます。私が住んでいる多摩市の男性でいうと,前者が22.0%,後者が17.2%ですから,この平均をとって生涯未婚率は19.6%となる次第です(2010年,『国勢調査』)。5人に1人が生涯未婚。私もその一人になるかしらん・・・。

 それはさておき,首都圏(1都3県)の男女の生涯未婚率地図をつくってみて,「はて?」という現象を見つけました。今回は,それをご報告しようと思います。

 私は,首都圏243市区町村の男女の生涯未婚率を計算しました。用いたのは,2010年の『国勢調査』のデータです。男女とも大きな地域差がありますが,まずはその分布をみていただきましょう。


 5%刻みのヒストグラムですが。男性は高いほうに,女性は低いほうに多く分布していますね。女性は「5%以上10%未満」の階級が最も多いですが,男性は「20%以上25%未満」が最頻階級(Mode)となっています。よくいわれることですが,生涯未婚率は男子のほうが高いようです。

 さて,243市区町村の生涯未婚率を地図化したのですが,私がつくったのは,率そのものの地図ではありません。各地域の値が全分布のどこに位置するかという,相対水準の指標をマップにしました。男女を同列の基準で比較できるようにするためです。

 採用した指標は,みなさんもよくご存じの偏差値です。全体の中の位置を知るにはこれがベスト。平均値が50,標準偏差が10になるように,それぞれのデータを換算します。それぞれのデータをX,平均値をμ,標準偏差をσとすると,計算式は以下のごとし。

 偏差値=10(X-μ)/σ+50

 多摩市の男性の生涯未婚率を偏差値にしてみましょう。この場合,X=19.6,μ=22.0,σ=3.9ですから,上の式にこれらを代入して,偏差値は43.8となります。全分布の中では「中の下」というところですね。同市の女性は49.8であり,ちょうど中間あたりです。

 首都圏243市区町村の男女の生涯未婚率を偏差値に換算して,地図にすると,下図のようになります。生涯未婚率の相対水準のマップです。45未満,45以上50未満,50以上55未満,55以上の4階級を設けて塗り分けてみました。


 いかがでしょう。男女で模様が違いますね。濃い色(55以上)の分布に着目すると,男性はまばらですが,女性は明らかに都心部に集中しています。大雑把にいうと,男性は農村部で高く,女性は都市部で高いという,逆の傾向すら見受けられます。

 女性の生涯未婚率が都心で高いことについては,都心の物価高によるともいえますが,男性にあっては様相が異なることから,そればかりを強調するわけにもいきますまい。

 先日の日経デュアルにて,「未婚率と年収の関係」という記事を書いたのですが,そこで明らかにしたのは,稼ぎのない男性は結婚できない,女性はその反対という傾向です。こういう個人単位のデータと,今回のマクロな地域データは連動しているような気がします。都心には,バリバリのキャリアウーマンが多いですし。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2945

 生涯未婚率の地域構造が性によって違っていることも,わが国の(偏狭な)ジェンダーを可視化した,一つの素材であるように思います。

2014年8月19日火曜日

夏の夕空

 今日の散歩で撮った写真です。自宅近くの記念館通りより。


 休暇中は自宅に篭りっきりなのですが,朝夕の散歩を日課にしています。息抜きと運動の2つの機能を託しています。

2014年8月18日月曜日

大学生文化の国際比較

 人間の意識や行動の拠り所となる文化には,大きな全体文化と同時に,その中に含まれる複数の下位文化があります。後者はサブカルチャーと呼ばれるものであり,社会を構成する下位集団ごとに固有の性格を呈しています。

 代表的なサブカルチャーとしては,たとえば青年文化(youth culture)があります。いつの時代でも青年は,上の世代からしたら理解不能な独自の文化を創造します。それはしばしば世代対立を引き起こすのですが,当人らにすれば,うざったい年長者の支配や干渉から自分たちを守る保護膜の機能も果たしています。また,社会への適応に疲れ切った青年たちの「逃避」の場としての機能も有しています。

 その意味で,青年文化を統制や取り締まりの対象としてみるだけではなく,それが創造されるのを見守り,時には支援するという構えも必要になります。

 さて青年層として,ひとまず10代後半から20代前半あたりを想定すると,主要先進国では,多くが高等教育機関に通っています。その代表格は大学ですが,そこに通う学生の間でどういう文化が形成されているか。国ごとにどう違うか。今回は,大学生文化の国際比較を手掛けてみようと思います。学生支援の在り方を考える上でも,必要な作業といえるでしょう。

 方法は,7か国(日・韓・米・英・独・仏・瑞)の大学生を対象とした数量調査の分析によります。用いるのは,内閣府の『我が国の諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年度)のデータです。この調査では,13~29歳の若者の意識や行動をいろいろ尋ねているのですが,大学生サンプルを取り出し,分析対象とします。その数,7か国合計で1,299人です。

 どういう分析手法をとるかですが,文化というのは包括的な概念ですので,意識や行動の設問を2つや3つクロスして,タイプを析出するというような方法は通用しません。ここでは,数量化Ⅲ類という手法を使います。複数の設問の回答(アイテム)から相関の高いものを集め,それをもとに対象者の特性を分かつ軸を析出する技法です。

 私は,数量化Ⅲ類に投入するアイテムとして,以下の20を考えました。10の設問に対する2種の答えです(10×2=20)。


 満足度,場面別充実度,心理障害,および将来展望という4つの大枠のもと,10の設問をピックアップしました。各設問とも4段階で肯定度を尋ねる形式ですが,肯定(1)と準肯定(2)を「肯定」,準否定(3)と否定(4)を「否定」に括ります。

 7か国1,299人の大学生のデータを使って,上記の20アイテムを投入した数量化Ⅲ類を行いました。軸は2軸まで析出しました。この2軸の累積寄与率は39.5%です。


 2つの軸の上には,関連の高いアイテムが盛られています。アイテムのスコアは,軸上の位置を表すものです。上表には,スコアが上位5位と下位5位のアイテムを掲げています。これをもとに,Ⅰ軸とⅡ軸がどういう特性を分かつ軸かを考えてみましょう。

 まずⅠ軸ですが,プラスの方向には,満足度が高く,精神面で健康なことを示すアイテムが並んでいます(6位はスポーツ充実:肯定,8位は勉強充実:肯定)。逆のマイナス方向には,勉強や仲間関係が充実していない,満足度が低い,希望がない,というアイテムがあります。これらのことから,このⅠ軸は,生活が充実(+)と不充実(-)を分かつ軸であると解釈します。

 次にⅡ軸をみると,プラス方向には4つの面の充実度が全て否定,しかし就職のような心配事はない。憂鬱やぼっちも否定です(6位,7位)。マイナス方向は反対に,勉強やスポーツに充実を感じるが,就職の心配があり,憂鬱やぼっち感もある。これらのことから,このⅡ軸は,図太さ(+)と神経質(-)を分かつ軸であると解しましょう。

 この2軸をクロスすることで,大学生文化の4類型ができあがります。下図をご覧ください。アイテムスコアをもとに,投入した20アイテムを座標上に位置づけています。


 第1象限(充実×図太い)は「マイウェイ型」,第2象限(不充実×図太い)は「離脱型」,第3象限(不充実×神経質)は「病質型」,第4象限(充実×神経質)は「過剰適応型」と命名します。ネーミングが適当か分かりませんが,ひとまずこうしておきましょう。

 7か国の大学生1,299人は,自身の回答(10アイテム)に付与されたスコアを合算し,両軸の上での位置が確定することで,上図の座標のどこかにプロットされることになります。第1象限の場合は「マイウェイ型」,・・・第4象限の場合は「過剰適応型」ということになります。

 1,299人のタイプ分布は,マイウェイ型が25.4%,離脱型が19.0%,病質型が24.6%,過剰適応型が30.9%です。ほう,右下のタイプが最多なのですね。勉強もスポーツもバリバリするが,内心は相当無理をしている,さびしい・・・。こんな学生がマジョリティーなのだなあ。

 これは7か国全体の分布ですが,国ごとにみると様相は違っています。下図は,国別のタイプ分布です。カッコ内はサンプル数です。


 日本は病質型が最も多くなっています。全体の半分近くです。勉強に意義を見いだせず,憂鬱・ぼっち感を呈し,就職が心配・・・。なるほど,こういう学生さん,多いものなあ。私の感覚ですが,さもありなんです。

 離脱型も7か国で最も多いことに注目。勉強やスポーツなど,あらゆる面に充実感を見いだせないが,当人は何とも思っていない。最近の退学率の高まりを思うと,こちらもちょっと頷けます。

 一方,諸外国ではマイウェイ型や過剰適応型が多いですね。イギリスでは,45.5%がこのタイプです。締め付けられるからかなあ。

 ちなみにジェンダー差をみると,日本の離脱型は男子のほうが多くなっています(男子34.6%,女子24.8%)。病質型と過剰適応型は,女子のほうがやや多し。これも分かりますな。

 以上,試行的に国別の大学生のタイプ構成をあぶり出してみましたが,各国の大学のクライメイトに通じるところもあるかと思います。日本の学生文化は放っておいたらあまりいい方向にはいかないようなので,意図的な働きかけも必要でしょう。私としては,もう少しマイウェイ型が多くなってほしいな,と思います。

 今回みた学生のタイプ構成,およびそこから醸し出される下位文化は,大学のタイプ(ランク)によっても異なるはずです。この点もぜひ知りたいのですが,そこまでは手が及びません。武内教授らの研究で,明らかにされているのかな。『キャンパスライフの今』(玉川大学出版,2003年)があるのですが。

 今回は大学生の類型をしてみましたが,機会をみつけて,中高生のそれも解剖してみようと思っています。同じ内閣府調査で分析可能です。いやあ,ローデータが手元にあるって素晴らしい。

2014年8月17日日曜日

家庭の富裕度と学歴展望の関連

 またもや「言わずとも知れた」テーマですが,この点についても,公的調査の統計をもとにデータをつくっておこうと思います。

 わが国の大学の学費はバカ高なのですが,そうである以上,大学まで行きたいと考える子どもの率は,家庭の経済状況によって異なるでしょう。中学生にもなれば,家庭の状況を薄々察して,「自分はここまでかな」という見切りをつける生徒も少なくないと思われます。

 用いるのは,内閣府の『小・中学生の意識に関する調査』(2013年度)です。児童・生徒とその親を対象とした調査であり,今回の主題に関するデータをつくることができます。ローデータが手元にありますので,自前のデータ操作も可能です。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/junior/pdf_index.html

 分析の対象は,中学生618人です。家庭の経済状況,最終学歴展望など,必要な設問全ての有効回答が揃っている生徒です。まずこの618人を,家庭の経済的ゆとり度によってグループ分けすることから始めましょう。「あなたのご家庭の生活は経済的にどの程度のゆとりがありますか」という問いに対する,母親の回答分布は以下のようになっています。

 ①:かなりゆとりがある ・・・ 6人
 ②:多少はゆとりがある ・・・ 182人
 ③:あまりゆとりがない ・・・ 236人
 ④:ほとんどゆとりがない ・・・ 194人

 ①と②を足して「富裕層」,③を「中間層」,④を「貧困層」としましょう。こうすると,富裕層が188人,中間層が236人,貧困層が194人となり,人数的にもバランスがよくなります。

 本題に入る前に,この3群によって,学校の授業の理解度がどう違うかをみてみましょう。「学校の授業がよく分かっている」という項目に対する,自己評定の分布です。カッコ内はサンプル数を表します。


 「あてはまる」という強い肯定の比率は,家庭に経済的ゆとりがある群ほど高くなっています。中学校にもなれば授業内容も高度化し,塾や家庭教師をつけられる生徒,落ち着いて勉強できる環境がある生徒が有利になるといいますが,それをうかがわせるデータです。

 また,家庭と学校の文化的距離という「文化的再生産」の視点からも解釈できるでしょう。学校で教えられる抽象的な教授内容に親和的なのは,蔵書などの文化財が多くある(とみられる)富裕層の子弟であると思われます。

 では,本題です。3つの階層群によって,最終学歴展望がどれほど異なるか。「あなたは,将来どの学校まで行きたいと思いますか」に対する,生徒の回答分布を比べてみます。傾向のジェンダー差がみられますので,男子と女子で分けたグラフをみていただきましょう。


 大学までの志望者を強調しましたが,中学生の大学進学志望率も,家庭の経済状況ときれいに相関しています。しかしその程度は,男子よりも女子で高いようです。女子の場合,階層が下がるにつれて10ポイント以上,ガクン,ガクンと落ちていきます。

 経済的ゆとりがない家庭では,進学は男子優先,女子は行かせられない。どこぞの昔話のようですが,現代日本でも,こういう実情があることを思わせる図柄です。学力にそれほど大きな男女差があるとは思えませんし・・・。

 中学生にもなれば,生徒自身もそうした家庭のクライメイトを感じ取っている。こういうことでしょうか。

 昨年の9月13日の記事では,県別・性別の大学進学率を出したのですが,進学率のジェンダー差が大きい県もみられました。北海道では,男子45.8%,女子32.7%であり,その差は1.4倍にもなります(2013年春)。おそらくは,上図のような傾向がより一層顕著なことでしょう。

 先の記事では,「地方に埋もれた才能の浪費」という問題を指摘しましたが,「女子の才能の浪費」という古くて新しい問題も付け加えておきましょう。

 学業成績とのクロスもとれればこの問題がもっとクリアーになるのですが,それは叶いません。女子の場合,大学進学志望率の最大の規定因は成績(能力)ではなく,家庭の経済状況であったりして。この問題を吟味できるデータがないかしらん。

 さて,お盆休みも今日で終わり。明日からまた通常の一週間ですね。私は生活に変化なしですが,がんばりましょう。

2014年8月15日金曜日

母の就業と子のジェンダー意識の関連

 「何をいまさら」というテーマですが,誰もが利用可能な公的調査の結果を使って,この問題に関するデータをつくっておこうと思います。

 用いるのは,内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年度)です。先日,ローデータを入手しましたので,自分の関心に沿う独自の集計も可能です。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 私は,13~19歳(以下,10代)の伝統的性役割観への意見が,母親の就業状態によってどう変わるかを明らかにしました。伝統的性役割観とは,「男は外で働き,女は家庭を守るべし」というものです。調査では,「賛成」「反対」「わからない」の3択で答えてもらっています(問15)。

 この設問への回答が,母親の就業状態によってどう違うか。日本の10代サンプル508人を,母がフルタイム就業の者,パート・バイト就業の者,その他(専業主婦等)の者に仕分け,回答の分布を比べてみました。

 下図は,結果を図示したものです。A群は母がフルタイム就業の群,B群はパート・バイト就業の群,C群はその他(主婦等)の群です。カッコ内はサンプル数を表します。


 予想通りといいますか,10代少年のジェンダー意識は,母親のすがたにかなり影響されています。反対の比率をみると,A群:54.5%,B群:35.8%,C群:28.2%というように,母がフルタイムで働いている群ほど高くなっています。

 子は親の背中を見て育つといいますが,やっぱりモデルの効果って大きいのかなあ。「働く母のすがたを見て育つ → 伝統的性役割観の否定」。こういう経路があるかと。仮にそうだとしたら,上図のような差は男子よりも女子で大きいことが予想されますが,実態はどうなのでしょう。

 私は男子と女子に分けて,上記と同じグラフをつくってみました。男子のサンプル数は,A群が45人,B群が121人,C群が108人です。女子は順に,A群が54人,B群が111人,C群が69人です。A群が少なくなりますが,分析に耐えない数ではないでしょう。


 男子と女子の別でみても,反対(赤色)の比重は,A群>B群>C群という傾向です。でもその程度は,女子のほうが格段に大きくなっています。女子の反対率は,母親が主婦等の群では30.4%であるのに対し,母がフルタイムで働いている群では68.5%にもなります。倍以上の差です。

 10代のジェンダー意識に影響するのは,母親のすがただけではありませんが,それが一つの大きな規定要因になっているとはいえそうです。殊に,女子にあってはそうです。役割取得の模索期にある思春期・青年期の女子にとって,同性(母親)のモデルの効果は大きいことが知られます。

 現在における女性の社会進出の有様は,未来にも投影されそうです。今回つくったようなグラフも,政府の『男女共同参画社会白書』に載せていただきたいと思います。

2014年8月13日水曜日

児童相談の年齢曲線

 全国の児童相談所には,虐待をはじめとした,各種の児童相談が多数寄せられます。2012年度の1年間で寄せられた相談件数は36万4,999件。1日あたり千件にもなります。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/38-1.html

 0~17歳の児童に関わる相談の件数ですが,1歳刻みの細かい件数も知ることができます。最も多いのは,14歳の児童に関わる相談であり,その数2万6,798件。全体の7.3%を占めます。各年齢の相談件数が全体に占める割合を出し,それらをつないだ折れ線を描くと,下図のようになります。児童相談の年齢分布曲線です。


 中間がとんがったノーマルカーブではなく,大よそ「2こぶ」のラクダ型ですね。ピークは,3歳と14歳。ほう,発達心理学でいう第一次反抗期と第二次反抗期に符合します。前者は,自我が芽生えた幼児がそれまでの親の全面的な支配に抵抗しだす時期であり,後者は,青年期の入り口に差し掛かった子どもが親からの独立を志向し出すことによります。

 こういう「難しい」時期ですので,困惑した親御さんからの相談が多くなる,ということでしょう。子育てを一通り終えられた経験のある方にすれば,まさに「あるある」ではないでしょうか。

 ところで,児童相談と一口にいっても,さまざまな種類があります。虐待相談,非行相談,性格行動相談,いじめ相談・・・。これらの種類ごとに,上図のような年齢曲線を描くとどうなるでしょう。私は,メジャーな8つの相談の年齢曲線をつくってみました。

 性格行動
 育児・しつけ
 いじめ
 非行
 不登校
 虐待
 障害
 適性

 以下の①~⑧は,それぞれの曲線です。どの年齢に多いかという,曲線のが分かればいいので,目盛は省いています(横軸は年齢です)。


 ①~⑧が,どの種類の相談の曲線か分かりますか。教育学や発達心理学の素養がある方なら,だいたいピンとくるのではないでしょうか。答えは,下記URLの日経デュアル記事にてご確認ください。拙稿「児童相談から分かるヤバい年齢-2つのピーク-」です。私なりの考察も添えています。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2332

 私見ですが,教員採用試験ではこういう問題を出すといいと思います。子どもの心理や問題行動の理解を試すのにもってこいです。昔の偉人の学説を問うのもいいですが,現代日本の子どもの現実態をちゃんと知っているか。こういう点も重要かと。

 私が出題者になったら,問題用紙はグラフだらけになるかな。教職課程の授業では,この種の統計の問題をガンガン出しています。「あの先生の試験ではグラフがよく出るよ」。こんな噂も立てられています(笑)。

 後期は教職の授業があるのですが,初回で,学生さんにやらせてみようかな。前期に教育心理学を受講しているはずなので,その知識を拝見といきましょう。

 今週はお盆休みですね。お付き合いのある編集者諸氏も,今日からお休みだそうです。よい休暇をお過ごしください。

2014年8月11日月曜日

少年問題の変遷

 佐世保の女子高生殺害事件の加害者は16歳の女生徒だったのですが,この事件をきかっけに,「今の子どもはおかしい」という不安が広がっています。しかるに,少年の凶悪犯罪は実数でみても率でみても昔のほうが多かったことは,犯罪学を少しかじった人間なら,誰しも知っていること。

 今回は,少年の問題行動指標の長期変化をたどってみようと思います。問題行動には,人を殺める・殴るなどの反社会的なものもあれば,社会的存在たる人に非ざる非社会的なもの,さらには,現存の社会から離脱する脱社会的なものまで,多様なバリエーションがあります。

 私は,このような枠組みを念頭に,少年の問題長行動を測る指標(measure)として8つを考えました。①殺人率,②強盗率,③性犯罪率,④傷害率,⑤窃盗率,⑥詐欺率,⑦長期欠席率,⑧自殺率,です。①~⑥は反社会的逸脱,⑦は非社会的逸脱,⑧は脱社会的逸脱に対応すると考えます。メジャーな反社会的逸脱については,対人犯罪(①~④)と,遊び的な要素がありながらも社会の秩序を揺るがすもの(⑤~⑥)を取り上げました。

 それぞれの指標の計算方法について説明します。①~⑥は,各罪種の少年の検挙・補導人員(触法少年含む)を10代人口で除した値です。分子には10歳に満たない年少児童も含まれますが,数としてはごくわずかですので,問題ないでしょう。③の性犯罪とは,強姦とわいせつを指します。分子は『犯罪白書』(2011年度),分母は総務省『人口推計年報』から得ました。
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/58/nfm/mokuji.html

 ⑦の長期欠席率は,中学生の年間50日以上欠席者が,生徒全体の何%いるかです。1999年以降は年間30日以上欠席者の数しか分かりませんが,前年の1998年の「50日以上欠席者/30日以上欠席者」の比(9.3倍)を適用して,50日以上欠席者の数を推し量りました。分子・分母とも,出所は文科省『学校基本調査』です。

 ⑧の自殺率は,10代の自殺者数を当該年齢人口で除した値です。2010年でいうと,10代の自殺者は514人,10代人口は1,203万人ほどですから,10万人あたりの自殺率は4.3となります。分子は厚労省『人口動態統計』,分母は総務省『人口推計年報』より採取しました。

 私は,少年問題を可視化する8つの指標を,1950年から2010年の60年間について計算しました。下の表は,推移の一覧です。指標によって単位が異なることに留意ください。観察期間中の最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。


 細かくて見づらいかもしれませんが,黄色マーク(max)の分布に注意すると,戦後初期の1950年代前半に4つあります。殺人や強盗のような凶悪犯罪のほか,今問題になっている詐欺少年も当時のほうがはるかに多かったようです。中学生の長欠もこの頃がマックスでした。

 時代をちょっと下って60年代になると,性犯罪や傷害といった暴力犯罪がピークを迎えます。時代は高度経済成長期。当時は,10代後半少年は学生・生徒と勤労少年に二分され,都市部にあっては,地元組と地方からの上京組(集団就職者等)が混在していました。こうした異質な群の同居・接触に伴うコンフリクトの表れだったのではないかとみられます。

 少年犯罪の最も多くを占める窃盗のピークは1981年。非行第3のピークを迎える83年のちょっと前です。この頃になると,派手な暴力犯罪はなりを潜め,スリルを求めて店先の商品を失敬するというような「遊び型」の非行が多くなります。当時は,私服警備員を商店に多く配備するなど,少年の万引きをきつく取り締まったために,検挙・補導人員が跳ね上がったという,統制側の要因があったことにも注意しましょう。「少年の万引き増→統制強化→万引き増→統制強化」というようなループです。

 おっと,あと一つ自殺がありました。10代少年の自殺率のピークは1955年(昭和30年)。映画「三丁目の夕日」で美化される時代ですが,そういうイメージとは裏腹に,少年にとっては「生きづらい」時代であったようです。戦前・戦後の新旧の価値観が入り混じっていた頃ですが,両者に引き裂かれ,生きる指針に困惑した少年(青年)も多かったことでしょう。当時の自殺原因の首位は,「厭世」というものでした。世の中が「厭」になったということです。今と違って,スケールが大きいですね。

 以上が8指標の長期推移ですが,これらを総動員して,各時期の少年問題の様相を多角プロフィールの形で描いてみようと思います。同列の基準で処理できるように,それぞれの指標の値を1.0~5.0までのスコアに換算します。観察期間中の最高値(黄色)を5.0,最低値(青色)を1.0とした場合,どういう値になるかです。

 殺人率でいうと,最高は1951年の2.6,最低は1980年の0.3です。一次関数の考え方に依拠して,(2.6,5.0)と(0.3,1.0)を通る直線の式を求めると,Y=1.7628X+0.499となります。よって,各年の殺人率の相対スコア値は,実値をXに代入すれば求まることになります。

 このやり方で,各年の8指標の値を1.0~5.0までのスコアに換算しました。下表は,大よそ10年間隔の年次のスコア一覧です。


 スコア3.0以上4.0未満は赤字,4.0以上はゴチの赤字にしていますが,昔のほうがヤバかったようです。1960年は,8つのうち4つ(半分)が太い赤字になっています。この頃の少年は激しかったのですなあ。

 上表のデータを視覚化してみましょう。問題行動の8極のチャート図にしてみました。終戦後から現在までの7つの時点における,少年問題の断面図をご覧ください。


 始点の1952年では詐欺と長欠が突出していますが。1960年になると右向きの風が吹き,性犯罪と傷害が出っ張ります。今から半世紀以上前の断面図ですが,他の時期に比して,図形の面積が大きいですね。

 1970年になると図形の面積は小さくなり,80年では窃盗の極が尖った型になります。暴力型から遊び型という,非行のシフトです。

 バブル期の90年では窃盗の極も凹み,図形が最も小さくなります。私が14歳だった頃ですが,私の世代って大人しかったんだなあ。

 しかし世紀の変わり目の2000年になるや,強盗や傷害といった暴力犯罪が一気に増えます。この頃,「キレる子ども」なんて言われたよなあ。当時の非行の担い手は,80年代半ば生まれの「メグ・カナ世代」。多感な思春期とITの普及期がもろに重なった世代です。

 2010年になると,図形はまた萎み,長欠の項だけが突き出た型になります。学校に行かないことが,100%人に非ざる行いだとは思いません。情報化が進んだ現在では,学校という四角い空間だけが教育を独占できると考えるのは誤まりでしょう。2010年の図形は,現存のシステムに修正を促す警告と読むべきではないでしょうか。

 最後に,8つの指標のスコアを均した値の推移図を掲げておきます。いろいろな角度の指標を合成した,少年問題の深刻度の総合スコアです。


 まあ,こんな感じになるでしょうね。昔のほうが大変だったのですよ,やっぱり。複数の指標を動員した,少年問題の変遷の可視化作業でした。

2014年8月9日土曜日

貧困と虫歯・肥満の相関

 前に,東京都内23区の統計を使って,子どもの学力・体力と貧困指標の相関を明らかにしました。子どもの能力の社会的規定性があることの可視化です。

 これらは,学力格差・体力格差というような言い回しで世間に広く知られていますが,健康状態についても,社会経済条件と結びついた格差が見受けられます。いわゆる,健康格差というものです。

 今回は,同じく都内23区の地域データを用いて,この現象があることを実証してみようと思います。私は,都内23区の公立小学生について,虫歯率と肥満率を明らかにしました。前者は未処置の虫歯がある児童の比率であり,後者は学校医によって肥満傾向と判断された児童の比率です。

 資料は,2013年度の『東京都の学校保健統計書』です。本資料に掲載されている数値をもとに,上記の2指標を地区別に計算しました。健康診断の受診者ベースの比率です。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/gakumu/kenkou/karada/25tghokentokei.htm

 原資料には,学年別の数値が載っていますが,低学年(1・2年),中学年(3・4年),高学年(5・6年)の段階ごとの指標値を算出しました。たとえば千代田区でいうと,低学年の健診受診者は754人,うち未処置の虫歯保有者は79人ですから,当該区の低学年児童の虫歯率は10.5%となります。

 下の表は,各区の段階ごとの虫歯率と肥満率を整理したものです。肥満率の単位は‰(千人あたり)であることに留意ください。黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。


 同じ大都市にあっても,代表的な健康不良の指標の値は,区によって大きく違っています。地域差の規模を表す標準偏差(S.D)をみると,虫歯率は低学年ほど大きく,肥満率はその反対です。

 さて,ここでの関心事は,上表の地域別の数値が,経済指標とどう相関しているかです。私は,各地域の住民の富裕度を測る指標として,一人あたり住民税課税額を採用しました。2012年度の値であり,『東京都税務統計年報』に計算済みの値が掲載されています。この指標は,逆に読めば住民の貧困度の表現とも読めます。

 手始めに,低学年の虫歯率との相関をとってみましょう。相関図は以下のようになります。


 予想通り,強い負の相関です。住民税課税額が少ない貧困な区ほど,子どもの虫歯が多い傾向が観察されます。相関係数は-0.7401であり,1%水準で有意です。

 家庭の貧困により,歯医者に行けない子どもがいるということがいわれますが,都内23区のにあっては,学齢の子どもの医療費は無償化されているそうですので,こういうストレートな経路だけではないでしょう。子どもの健康に対する保護者の関心が低い,子どもを歯医者に診せるヒマもないほど忙しい一人親世帯が相対的に多いなど,いろいろな事情が想起されます。
http://blog.livedoor.jp/woodgate1313-sakaiappeal/archives/37990672.html

 上図は,低学年の虫歯率との相関ですが,他の学年段階ではどうか。もう一つの指標である肥満率との相関は如何。各段階の虫歯率・肥満率と,一人当たり課税額の相関係数は以下のようになります。


 虫歯率との相関は,段階を上がるにつれ弱くなっていきます。これは,義務的な学校の歯科検診により虫歯が発見され,歯科医を受診する子どもが増えるためでしょう。学校に上がって間もない低学年では,幼児期の生活の違いが反映され,経済条件と結びついた格差が明瞭に出るのだと思われます。

 なお,地区の経済指標は子どもの肥満率とも相関しています。米国では貧困と肥満の関連がよく指摘されますが,わが国でもその一端が見受けられますね。米国のように,階層によって食生活が著しく異なる(貧困層は安価なジャンクフード…)ことはないでしょうが,今問題になっている朝食欠食率などは,家庭環境による差があるかもしれません。朝食を抜くと,昼食時に摂取するカロリーが過剰に蓄積されることから,肥満になりやすいといいます。

 また,運動に対する意識の階層差にも要注意。1月23日の記事でみたところによると,都内23区においては,相対的に貧困な区ほど運動嫌いの子どもが多い傾向があります。

 以上,学力や体力のような能力と同時に,それらよりもプライマリーな位置にある健康の次元にあっても,経済条件と結びついた格差があることが分かりました。近年,学校現場では食育が重視されていますが,ここでみたような健康格差現象の解消にあたっても,その重要性が強調されねばなりますまい。

 ところで今年度より,文科省『全国学力・学習状況調査』の結果が,各県の判断により,市区町村レベルで公表されることが可能となりました。福井県などは,県内の全自治体の結果を公表する方針だそうです。

 全国学力調査では,教科の学力だけでなく,日々の生活実態についても詳しく尋ねています。家族との交流頻度,勉学スタイル,自尊心,将来展望・・・それはもういろいろです。これらの事項が市区町村別に分かれば,今回のような手法により,意欲格差,態度格差というような現象についても吟味できます。

 これらの分析は,県レベルの統計では無理があります。学校別とはいいませんが,市区町村レベルの結果は公表されることを希望します。それは,週刊誌的なランキングだけに使われるものではないのですから。

 さあ,東京都はどういう方針に出るのか。福井に続く,英断(勇断)を期待したいと思います。

2014年8月7日木曜日

専攻別の大学入学者数の変化

 つい先ほど,2014年度の『学校基本調査』の速報結果が公表されました。ホカホカの統計表を眺めていると,やりたいことが次から次へと出てきますが,まずは基本的な分析からいきましょう。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 分析第1弾は,専攻別の大学入学者数の変化です。最近,理系人気が高まっているといいますが(理高文低),それは大学入学者数にも表れているでしょうか。また,性別でみるとどうでしょう。リケジョは増えているのか。

 上記の速報結果から分かる,今年春の大学入学者数は約60万8千人です。10年前の2004年の59万8千人よりもちょっと増えています。この変化を専攻別にみると,表1のようです。


 入学者の増減は,専攻によってまちまちです。右欄には,2014年/2004年の倍率を掲げましたが,人文科学,社会科学,理学,工学といった伝統的な専攻では,入学者が減少をみています。対して増えているのは,保健や学際的な専攻(その他)です。

 医療や看護の保健系は,この10年間で入学者が1.6倍に増えています。スゴイっすね。需要を見越して,看護関連の学科がたくさん新設されたことによりますが,受験生の側も,就職の有利さのような計算をしてのことでしょう。

 次に,男子と女子に分けて変化を観察してみます。はて,リケジョは増えているのか。2014年/2004年の倍率を棒グラフにしてみました。


 点線(100)のラインよりも高い場合,入学者が増えていることを示唆しますが,工学,農学,保健の女子入学者の増が目を引きます。工学と農学は,男子の入学者が減っていることと対照的です。なるほど,この10年間でみて,確かにリケジョは増えているようです。

 しかるに,今みたのは10年前と比した増加倍率であり,絶対量でみたらリケジョはまだまだ少ないことでしょう。最後に,入学者全体に占める女子比もみておきましょう。2004年と2014年の専攻別のパーセンテージを整理しました。


 2014年の理系専攻の数値を赤字にしましたが,10年間で微増というところですね。でも農学なんかは,39.8%から45.1%へと5ポイント以上増えてる。あと数年もすれば,半分に達すると見込まれます。結構なことです。

 ただ,理学や工学の女子比はまだまだ低い。工学の女子比はわずか14.0%です。新潟大学の工学部は,イケメンの写真入りの入学パンフの女子高生に配布しているそうですが,現場もそれなりに危機意識は持っているようです。

 なお,わが国の女子高生の理系志向が他国に比して低いことは,先日公表された,国立青少年教育機構の『高校生の科学等に関する意識調査報告書-日本・米国・中国・韓国の比較-』から知ることができます。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/88/

 私もだいぶ前に,PISA2006のローデータを使って国際比較をしたことがあります。ご覧いただければ幸いです。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/11/blog-post_8.html

 次回は,大学進学率の分析をしようかしらん。2014年春の大学進学率は51.5%であり,昨年の49.9%よりもアップしました。2010年以降低下を続けていた大学進学率が上昇に転じたわけです。でもこれは全体の傾向であり,性差,地域差という視点を据えるとどうか。公表された統計表から計算可能ですので,作業はしてみようと思っています。

2014年8月5日火曜日

教員の病気離職率(2012年度)

 昨日,2013年度の『学校教員統計』の中間結果が公表されました。本調査の教員異動統計から,前年の2012年度の病気離職教員数を知ることができます。字のごとく,病気を理由に教壇を去った教員の数であり,その多くは精神疾患によるものです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/1268573.htm

 この数は,教員の危機状況の指標ともとれます。私は,1979年度から2012年度までの長期推移を跡付けてみました。下の表は,公立の小・中・高校のデータです。


 観察期間中の最低値に青色,最高値に黄色のマークをつけましたが,世紀の変わり目をボトムにして,その後急増しています。小学校は,2006年度から2009年度にかけて370人から609人へと激増をみています。

 2006年12月の教育基本改正,翌年の教育三法改正,さらには09年の教員免許更新制施行など,さまざまな改革が立て続けになされた時期ですが,その帰結であるとしたら何とも皮肉なことです。

 上表に掲げたのは離職教員数の実数ですが,ベースの教員数は時期によって違いますので,不幸にして病気離職に至る確率を知ることはできません。そこで,各年の本務教員数で除して,離職率に換算してみましょう。

 2012年度の公立小学校教員の病気離職者数は,上表にあるように590人ですが,同年5月の公立小学校本務教員数は412,154人と記録されています(『学校基本調査』)。よって,本務教員1万人あたりの病気離職教員数は14.3人となる次第です。この値を病気離職率とします。

 私はこのやり方で,各年度の病気離職率を計算し,折れ線グラフにしてみました。下図をご覧ください。


 中学校教員の離職率は,全国的に学校が荒れた80年代初頭で高かったようですが,その後は低下します。しかし,世紀の変わり目をボトムにして,以後は直線的に上昇。2012年度は,小学校を抜いてトップに躍り出ています。

 こうした中学校教員の危機について,油布佐和子教授は,中学校は仕事の領域が広く,「中1ギャップ」に象徴されるような生徒指導上の課題もあり,教員評価の導入によって失敗できないプレッシャーがあると指摘し,そのうえで,人手不足の解消が必要だと言われています。
http://mainichi.jp/select/news/20140805k0000m040082000c.html

 全くもって,その通りであると思います。国際教員調査(TALIS 2013)にて,わが国の教員が世界一多忙であることが浮き彫りになったことを受け,学校に外部人材(チーム学校)を導入し,教員らの(授業以外の)業務負担を緩和する方針が明示されていますが,今みている離職率のデータも,それを支持しているといえるでしょう。

 ところで,教職危機の指標としての病気離職率をみる場合,どの属性で高いのかも観察しないといけません。2012年度の年齢層別の離職率はまだ出せませんが,2009年度までのトレンドでみると,病気離職率は若年層で高まっています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/11/blog-post_17.html

 はて,2012年度の年齢別離職率はどうなっているのか。6月29日の記事でみたように,長時間勤務は若年教員に多いなど,(量的に少ない)彼らに負担が凝縮されている構造もあります。来年春に公表される確定結果を待って,この点も明らかにすることにいたしましょう。

 ひとまず,教員の病気離職率のカーブを最近まで延ばしたらこうなった,ということをご報告いたします。

2014年8月3日日曜日

教員の多忙化と学習時間の減少

 先日公表された,国際教員調査(TALIS 2013)の結果にて,わが国の教員は世界一多忙であることが分かったのですが,教員の多忙化は国内の時系列統計からも確認されます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/06/blog-post_26.html

 総務省『社会生活基本調査』は,主な生活行動の平均時間を教えてくれるスグレモノですが,職業別の集計表もあり,設けられている職業カテゴリーの一つに「教員」があります。あらゆる教育機関の教員をさしますが,母集団の組成からして,大半が小・中・高の教員とみてよいでしょう。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 私は,教員の睡眠時間と仕事時間がどう変わってきたかを調べました。平日の1日あたりの平均時間です。1986年から2011年までの四半世紀の変化をグラフにすると,下図のようになります。行動者の平均時間です。


 睡眠時間が減り,仕事時間が増えています。2本の曲線が乖離していく傾向が何とも不気味です。1986年では,休息と仕事の時間がほぼ同じだったのですが,2011年ではその差が190分も開くに至っています。

 2011年の睡眠時間は403分(6時間43分),仕事時間は593分(9時間53分)です。仕事時間が有業者全体(505分)を大きく上回っており,設定されている職業カテゴリーの中でみても,技術者の599分に次いで長くなっています。巷で言われる「教員の多忙化」,納得です。

 でも今は夏休み。長期休暇は教員も羽を伸ばし,職務とは関係ない遊びや自己啓発をしていただきたいものです。しかるに,金曜のNHKニュースによると,夏休みにあっても教員は研修等に追われているとのこと。これはまぎれもなく「仕事」に含まれます。
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2014_0801.html

 このように,時期を問わず教員の生活は「仕事」一色に染められているのですが,そのことは,各種の体験活動の減少をもたらしています。スポーツや学習行動等の経験率(過去1年間)は,以下のように推移してきています。いずれも自発的に行うものであり,職場で実施するもの(研修等)は含みません。


 どの行動の経験率もおおむね減少の傾向にあり,自発的なスポーツはこの5年間で5.4ポイントの減,学習・研究は10ポイント近くも低下しています。

 しかし,自由な学習・研究の減少が気になります。教員は子どもを教え導く存在ですが,自らも絶えず学び続けなければなりません。それは研修という形で制度化されていますが,仕事とは距離を置いた「学び」も必要です。

 上記は,調査時点(10月)からした過去1年間の経験率ですが,1日あたりの平均時間もみてみましょう。減少幅の大きい,学習・研究に焦点を当てます。平日・日曜の総平均と行動者平均をとってみました。参考までに行動者率も載せておきます。


 総平均,行動者平均とも減少の傾向にありまね。調査対象日に,自発的な学習・研究を行った者の比率もです。

 教員の生活に占める「仕事」の比重が高まる中,彼らの生活が,ハリのない貧相なものになってきているようです。とくに,専門職のメルクマールである自律的な学習・研究の減少は気になるところです。

 私が中3の頃,1学期の終業式の日に,社会科担当の教員が「お前ら,夏休みは本を読めよ。俺も時間ができるんで,ルソーを読むからな」と言っていました。本当に読んだのかは知りませんが,一昔前の教員は,長期休暇を使って,こういう自由な学習に励んでいたのかもしれません。

 でも今は,夏休みといえど,教員免許更新制だの各種の研修だの,教員は大忙し。黒板とチョークの世界から解放されることはありません。

 私見ですが,長期の休暇くらい,教員らを黒板やチョークの世界から解放し,自身の幅を広げる自由な学習や体験の機会とすることはできないものでしょうか。そのことは,教員に必要とされる「総合的な人間力」(2012年,中教審答申)にもつながるでしょう。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/miryoku/1326877.htm

 職務直結型の研修と同時に,それからは離れた自由な学習・研究も必要です。後者の不足は,ボディーブローのように「じわじわ」と効いてきます。夏休みのような長期休暇は,前者を軽減し,後者を思う存分できる機会にすべきかと思うのです。

2014年8月2日土曜日

青年の自殺率推移の国際比較

 わが国の自殺率は最近は微減の傾向にあるのですが,青年層の自殺率だけは増加しています。この点は,昨年の10月24日の記事でみたのですが,他の社会ではどうなのでしょう。ここ20年ほどの推移の国際比較をしてみようと思います。

 自殺率とは,自殺者数をベース人口で除した値ですが,分子・分母の国際統計は,WHOのサイトから得ることができます。「WHO Mortality Database」というものです。先月にバージョンアップされたばかりで,各国の最新データが掲載されています。
http://apps.who.int/healthinfo/statistics/mortality/whodpms/

 私は,15~24歳の青年層の自殺率が,1990年代以降どう推移してきたのかを明らかにしました。観察したのは,日・韓・米・英・独・仏・瑞の7か国です。各国について分子と分母を揃え,割り算をして自殺率を出しました。90年の日本でいうと,分子の自殺者は1,309人,分母の人口は1,869万人ですから,10万人あたりの自殺者数は7.0人となります。以下では,この値を自殺率ということにします。

 下の表は,算出された自殺率の推移を整理したものです。観察期間中の最高値には黄色,最低値には青色のマークをつけています。


 黄色のマークをみると,欧米4国では90年代前半に位置していますが,日本と韓国は最近です。青年の自殺率は,欧米では減ってきているのに対し,日韓では増えていることが知られます。

 表ではトレンドが分かりにくいのでグラフにしようと思いますが,青年層の場合,分子の自殺者数が多くないので,傾向が安定しません。上表のデータをそのまま折れ線にすると,かなりジグザグする国も出てきます。

 そこで,移動平均法を用いて傾向を均すことにしましょう。移動平均法とは,凹凸の激しいデータを滑らかにする手法です。ある年のデータを均す場合,当該年と前後の年の3年次の平均をとります。たとえば2010年の数値を均す場合は,2009年,2010年,2011年の平均を出すわけです。

 下図は,この方法によって滑らかにした,7か国の青年層の自殺率曲線です。


 大まかにみると,日韓は上昇,米英独仏は低下,瑞はその中間でしょうか。しかし日本は,90年代の初頭では最下位だったのに,この20年間にかけて一気にトップに躍り出ています。「失われた20年」の状況を思うと,さもありなんですね。

 日本の人口全体の自殺率は,97年から98年にかけて激増した後は,ほぼ横ばいです。しかし青年層の自殺率だけは,上図にみるように増加を続けています。社会全体の景気は上向いているといいますが,青年層をとりまく状況はといえば,シューカツ失敗自殺,ブラック企業(バイト)など,暗い話題に事欠かないですしね。

 社会とは,期待される役割を異にするいくつかの層からなっていますが,全体のみならず,こうした層ごとの観察が欠かせないのだなと感じます。上記のデータベースに当たって,壮年層や老年層の自殺率推移の国際比較をするのも,意義ある作業でしょう。