2015年1月31日土曜日

2015年1月の教員不祥事報道

 月末恒例の教員不祥事報道の整理です。今年も継続いたします。今月,私がネット上でキャッチした報道は19件です。年始めのためか,やや少なめでした。*赤字の事案は,ある方の情報提供で知りました。感謝申します。

 ただ,児童の顔に落書き,校長がいじめ相談に「死ねば対応」など,初耳の事案も見受けられます。わいせつと体罰が多いのは,毎月のことです。

 昨日は都内でも雪が降りました。今日は晴れましたが,風が冷たかったですね。明日から2月,寒い日はまだ続きます。風邪などひかれませぬよう。

<2015年1月の教員不祥事報道>
窃盗容疑で中学教諭逮捕=同僚の机から現金(1/7,神奈川,時事通信,中,男,27)
強制わいせつ容疑で都立高校教諭を逮捕(1/7,埼玉新聞,東京,高,男)
中学生にみだらな行為の疑い、小学校臨時教諭逮捕(1/9,TBS,神奈川,小,男,23)
羽島の小学教諭逮捕 少女の裸動画、送信疑い(1/10,岐阜新聞,岐阜,小,男,30)
酒気帯び運転容疑、中学教諭を逮捕 浜松(1/13,静岡新聞,静岡,中,女,39)
教え子着替え盗撮の高校教諭懲戒免職(1/14,東奥新聞,青森,高,男,26)
生徒に頭突きで顔面骨折、中学教諭を処分(1/16,西日本新聞,鹿児島,中,男,44)
女子生徒にわいせつ 高校教諭ら3人を処分
 (1/16,神奈川新聞,神奈川,わいせつ:高男27,中男39,体罰:中男30)
いじめ相談に校長「死ねば対応」 大阪・守口の中学校(1/16,共同通信,大阪,中)
公金横領(新潟市,市による公開,高,男,43)
児童顔に落書き 教諭がいじめ(1/22,琉球新報,沖縄,小,40代)
停職1カ月 死亡事故起こした県立高の教諭(1/22,静岡新聞,静岡,高,男,30)
LINEで生徒3人に「好き」 都教委、中学教員を処分
 (1/24,朝日,東京,不適切発言:中男41,万引き:特女39,窃盗:中男26,わいせつ:中男49,暴言:高58,体罰:小男49)
小学校の男性講師、男児8人にセクハラ 堺市教委が懲戒免職処分(1/24,産経新聞,大阪,小,男,24) 
スカート内撮影 横浜市教委が男性教諭を処分(1/27,神奈川新聞,神奈川,小,男,40)
女子児童にわいせつ、撮影も=小学校教諭を懲戒免職
 (1/30,時事通信,兵庫,小,男,30代)
乙訓高野球部監督が体罰 夏の京都大会で準優勝の経験も(1/30,京都,高,男,47)
監督が体罰、辞任 流経柏高ラグビー部(1/31,千葉日報,千葉,高,男,53)
盗撮目的で勤務先の中学女子トイレ侵入容疑 講師逮捕(1/31,朝日,愛知,中,男,30)

2015年1月30日金曜日

世帯構造内の貧困分布

 世帯は生計の基本的な単位ですが,それには単身世帯,核家族世帯,3世代世帯など,いくつかのバリエーションがあります。

 厚労省の『国民生活基礎調査』では,こうした世帯類型ごとの年収分布が明らかにされています。ありがたいことに,単身世帯は男性と女性に分けられています。最近よくいわれる,単身女性の貧困というような現象がみられるでしょうか。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html

 例によって,各世帯タイプの量の比重も睨み合わせた図をつくってみました。まずは,グラフの元データをみていただきましょう。原資料の年収カテゴリーを簡略化しています。


 赤字は最頻値ですが,世帯タイプによって位置が違っています。単身世帯は200万未満が最多ですが,女性の単身世帯では,全体の実に6割をも占めています。この層がマイノリティーかというと,決してそうではありません。全世帯の12.3%,およそ8分の1です。

 それでは,恒例の図を掲げましょう。縦幅で年収分布,横幅で各層の量を表しています。現代日本における,世帯構造内の貧困分布図です。


 注目すべきは黒色の領分ですが,単身世帯では大きな幅を利かせています。男性単身世帯では4割,女性単身世帯では6割です。

 この中の少なからぬ部分は高齢の単身世帯でしょうが,若年の単身世帯に限ると,黒色の比重はもっと上がるのではないでしょうか。年齢までを統制できませんが,よくいわれる貧困が社会の特定の層に集中している様相は読み取れるかと思います。

 1月22日の記事でも申しましたが,大切なことは,こうした層ごとの観察を怠らないことです。

2015年1月28日水曜日

年功賃金の産業比較

 トヨタ自動車が,年功賃金体系を若年層に手厚い仕組みに変更する方針を打ち出しています。若手に責任感を持たせる,彼らの定着を促すうえでも,効果があると期待されます。
http://news.yahoo.co.jp/pickup/6147548

 「何歳であるか」よりも「何ができるか」を重視する能力給への移行は,昔に比べたら進んでいるのでしょうが,まだ広く普及しているとはいえないでしょう。

 このことは,入職して間もない20代と定年間際の50代の年収を比較すると,よく分かります。2012年の『就業構造基本調査』をもとに,男性正社員の両年齢層の年収分布表をつくると,以下のようになります。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 20代354万人,50代481万人の年収分布ですが,中央の相対度数をみると,分布の型が大きく違っています。20代のモードは300万円台ですが,50代は700万円台です。平均年収を出しても,20代は321万円であるのに対し,50代は637万円にもなります。倍近くの差です。

 両群の年収分布がどれほどズレているかは,右端の累積相対度数をグラフにすることで可視化されます。横軸に20代,縦軸に50代の累積相対度数をとった座標上に,14の年収階層を位置づけ,線でつないでみました。年功賃金の度合いを示す,年功ローレンツ曲線です。


 ほう,曲線の底がかなり深くなっていますね。それもそのはず。何せ,年収600万以上が20代では18%なのに対し,50代では51%をも占めるのですから。

 上図の曲線の深さによって,両群の年収格差,すなわち年功賃金の度合いが教えられるのですが,それを数値で表してみましょう。計算するのは,ジニ係数です。対角線と曲線で囲まれた面積を2倍した値です。この値を計算すると,0.677にもなります。

 ジニ係数が高いと判断される目安は0.4ですが,それを大きく上回っています。それだけわが国では,年功賃金は未だに色濃い,ということです。

 さて,この年功ジニ係数を産業別に計算したらどうでしょう。年齢重視の年功賃金が幅を利かせていのはどの業種か。予想としては,公務員などは値がメチャ高いことでしょう。私は,先ほどと同じやり方にて,20の産業の年功ジニ係数を明らかにしました。


 予想通り,トップは公務員です。年功ジニ係数は0.971!日経デュアルの記事でも書きましたが,まさに「人の価値は年齢によって決まるシステム」ですね。しかるに財政が逼迫し,職員の高齢化も進む中,この制度をいつまで維持できるかは未知数です。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3559

 ほか,公によって担われる度合いの高い教育やライフライン業も,年功賃金が色濃くなっています。新興産業の情報通信業(IT)は,年齢関係なしの実力の世界と聞きますが,以外に年功ジニ係数が高いのですね。金融・保険業も・・・。

 反対に,自然を相手にする農林漁業では,年功賃金の性格は比較的薄いようです。漁業はわずか0.147であり,20代と50代の年収分布にほとんど差がありません。最近,若者を積極的に募集している業種ですが,ガンバリに応えてくれる業種といえましょうか。運輸・郵便業の年功ジニ係数が小さいのはなぜでしょう。トラックで稼ぐも腕次第,ということでしょうか。

 「何歳であるか」よりも「何ができるか」に重きを置く能力給への移行が推奨されていますが,それがどれほど具現されたかは数値で「見える化」できます。産業別の値も随時公開し,各業界のインセンティヴを高めていくことも求められるでしょう。

 最近,「女性の活躍 見える化サイト」なるものを内閣府が設けていますが,これなども,同じねらいを持った取り組みであると思われます。推奨する動きの程度を数値で可視化する。分野を問わず,とても重要なことといえましょう。
http://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/mierukasite.html

2015年1月27日火曜日

新卒就職者の非正規化

 タイトルをみて,「ああ,『学校基本調査』の進路統計の分析だな」と思われ方も多いでしょうが,本調査で正規・非正規の就職者数が別個にカウントされるようになったのは,つい最近のことです。

 よって,よくいわれる「新卒就職者の非正規化」というトレンドもあまり可視化されていないのですが,『就業構造基本調査』のデータを使って,それが可能であることに気づきました。

 2012年の同調査では,卒業年と初職のクロス表が公表されています(下記サイトの表167です)。この表から,各年の卒業者が,最初にどういう形態の職に就いたのかを知ることができます。卒業後しばらくしてから就職する者もいますが,ここでは「卒業後1年未満の間に就職した者」に限ることとします。大半が,卒業後直ちに職に就いた新卒就職者とみてよいでしょう。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search

 私はこの方式で,高卒と大卒の新卒就職者の初職変化を明らかにしました。正規が何%,非正規が何%というデータです。ジェンダー差も見るため,男女で分けました。では,2×2の4つの面グラフをご覧ください。1983~2012年の30年間の変化図です。


 時とともに,非正規雇用の領分が広がってきています。大卒男子でみると,1983年の非正規率はたった3.6%でしたが,2012年の卒業者では実に25.3%,4分の1にも達しています。高卒ではもっとすごく,男子で26.4%,女子では35.7%です。

 私は1999年の卒業生で,いわゆるロスジェネといわれる世代ですが,私なんかの頃よりも非正規比重が増えているのだなあ。まあ最近では,事態はちょっとばかし改善しているのでしょうけど。

 以上は高卒と大卒の図ですが,他の学校卒業者はどうかという関心もあるでしょう。6つの学歴カテゴリーの初職内訳図をつくってみました。1983年と2012年の断面図を並べてみます。下に掲げるのは,男性の図です。


 どの群でも非正規の比重が増してきています。最近の大学院卒では2割ほどが非正規ですが,オーバードクター問題の深刻化の表れでしょうか・・・。

 別に,初職が正規雇用からスタートしないといけないという決まりはありません。諸外国では,キャリアは非正規からスタートし,徐々に正規に移行していくのが通例であると聞きます。今回みたのは,卒業直後の時点の静態図ですが,問題とすべきは,その後において非正規から正規への移動可能性がどれほど開かれているかです。

 上記サイトの表167では,初職と現職の関係も明らかにされています。初職が非正規であった者のうち,どれほどが現在正規に就いているか。その比率は過去に比してどう変わってきているか。回を改めて,検討してみたい課題です。

2015年1月25日日曜日

職業別の離・死別者率

 昨年の2月9日の記事では,職業別の生涯未婚率を出したのですが,『国勢調査』の抽出詳細集計のデータから,離別・死別者の割合も計算することができます。さすがは国の基幹統計,スゴイですね。

 私は,30~40代の正社員男女の離・死別者率を職業別に明らかにしてみました。この年齢では,多くが離婚を経験した離別者でしょう。職業別の離婚率というのも,いささかタブーな感じがするテーマですが,現実はどうなのでしょうか。

 2010年の『国勢調査』によると,30~40代の男性正規教員30万8560人のうち,離・死別者は6420人となっています。よって,離・死別者率は2.1%となります。女性教員の値は4.9%と,男性より高くなっています。インテリの女性は離婚しやすいと,何かの本で読んだことがありますが,そうなのでしょうか。

 他の職業の離・死別者率も出してみましょう。以下に掲げるのは,働き盛りの正規職員男女の離・死別者率です。下記サイトの表7より,必要な数字を採取して作成しました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001050829&cycode=0


 表の上のほうをみると,管理職の女性は離・死別者率(≒離別者率)が高くなっています。管理的公務員は11.6%,その他管理職は15.8%,およそ7人に1人です。それと,保健医療従事者(医師など)の率も高いですね。先の記事でみたように,バリバリのキャリアウーマンは未婚率が高いのですが,離婚率も然り??

 なお,値がもっと高い職業もあり,女性の介護職や清掃職では2割以上が離・死別者率です。これは,当該職業の女性の離婚確率が高いというのではないでしょう。夫と離婚した後,生計を立てるために当該の職に就く女性が多いのだとみられます。

 女性の数値は読み方に注意が要りますが,男性の場合は,それぞれの職業の離婚確確率の高さとみてよいのではないでしょうか。男性の離・死別者率をみると,ホワイトカラー職よりも,ブルーカラーや農林漁業職で高くなっています(赤字は上位5位)。マックスは,自動車運転職の8.6%です。

 トラック,バス,タクシー等の運転手ですが,給料が低く,勤務時間が不規則であるという条件が,家族解体の引き金となってしまうのかしらん。ちなみに女性の同職は,33.4%(3人に1人)が離・死別者です。主婦だった女性が,離婚後直ちに就ける職ではないように思いますが,男女ともに,働き盛りの正社員の離婚率が高い職業とみてよいのでしょうか。

 上表のデータをグラフ化しましょう。横軸に男性,縦軸に女性の離・死別者率をとった座標上に,男女の値が分かる55の職業をプロットしてみました。


 男女とも離・死別者率が高い自動車運転職は,右上のかっ飛んだ位置にあります。未婚率と違って,男女の率はおおむね相関しており,ブルーカラー職で高く,ホワイトカラー職で低い傾向に性差はないようです。

 先ほど述べたように女性の場合は読み方に注意が必要ですが,男性は,各職業の離婚確率のメジャーとみてよいでしょう,

 自動車運転職のダントツの高さ。この職業の大変さはよく報じられるところですが,業界の方は,今回のデータをどのようにご覧になるでしょうか。働き盛りの正社員のうち,離・死別者(≒離婚を経験した離別者)が何%いるか。官庁統計から算出された,一つの事実として提示しておきたいと思います。

2015年1月22日木曜日

飢餓経験の分布

 日本は飢餓とは無縁の国と思われていますが,最近にあっては,そうでもないことがしばしば指摘されています。餓死の報道に接することはよくありますし,統計でみても,「食料の不足」が原因の死亡者(餓死者)は存在します。

 死には至らずとも,飢餓状態で苦しんでいる人,十分な食料がない状態で過ごしている人まで射程に入れれば,相当の数にのぼるのではないでしょうか。格差社会化,孤族化というような,近年のわが国の社会変化を考えると,こういう懸念が持たれます。

 実は,最新の『世界価値観調査』(2010~14年)において,この点がダイレクトに尋ねられています。「この1年間,十分な食料がない状態で過ごしたことがある」という項目を提示し,4段階で頻度を答えてもらう設問です。
http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp

 日本の回答者2443人(16歳以上)のうち,この項目に「しばしばある」ないしは「時々ある」と答えた者は121人となっています。よって,飢餓経験率は5.0%と算出されます。国民20人に1人です。

 この比率を人口の概数(1億2千万人)に乗じると,600万人となります。ほう,結構な数ですね。東京都の人口の約半分が飢えを経験していることになります。ネグリジブル・スモールではありません。

 これは国民全体の数値ですが,問題とすべきは,飢餓経験が社会的にどのように分布しているかです。おそらくは,社会的な不利益を被りやすい層に多く分布していることでしょう。

 私は,年齢と学歴という軸で国民を9つの層に分かち,各層の飢餓経験率を計算してみました。日本は世界でも有数の学歴社会ですが,低学歴層ほど飢餓経験率は高いことでしょう。また,年齢という基本属性も重要であり,最近は若者の貧困がよくいわれていますが,そういう傾向がみられるか。このような関心においてです。

 以下に,計算の原表を掲げます。


 年齢3カテゴリー,学歴3カテゴリーをクロスして9つの群を設定し,各群の飢餓経験率を出しています。予想通り,若年層ほど,低学歴層ほど経験率が高いですね。30歳未満の義務教育学校卒の群では,該当者の17.9%(6人に1人)が飢餓を経験しています。

 この群はサンプルの上では28人であり,全体(2389人)の中では完全にマイノリティーです。こうした全体の中での位置,文脈をも同時に観察しなければなりますまい。

 ここで,例の面積図が役に立ちます。9つの群の量的規模を四角形の面積表現し,飢餓経験率に応じて,3段階で塗り分けた図をつくってみました。


 どうでしょう。若年の低学歴層に飢餓経験が集中している様が見てとれます。抽象度を上げていうと,少数の層に困難が凝縮されているとでもいえましょうか。少子高齢化,高学歴化が著しく進んだ現代日本における,飢餓経験の分布図です。

 日本は,生存が脅かされるようなことはない社会であるといわれます。たしかに,飢餓率や犯罪被害率のような指標の低さは,世界でもトップレベルです。しかしそれは国民全体でみた話であり,社会的な層ごとに観察すると,違った様相が見出されることがしばしばです。

 日本は豊かな社会ですが,それだけに,少数の不利な層の状況が見えにくいともいえるでしょう。貧困や福祉に関わる施策のエビデンスになるのは,国民全体の貧困率が*%というようなデータだけではありません。階層別のデータも備わることで,より説得力が高いものになります。

 全体を眺めた後は,部分(層)に「分」かつ。全体を「分」けて解「析」する。これが分析の原義です。

2015年1月20日火曜日

1コマの意味

 昨日で後期の授業が終わりました。これから,冬・春休みです。まあ私の場合,年中休みのようなものですが,ブログを書いたり,新刊の構想をしたりして過ごそうかな,と思っています。家に篭りっぱなしというのは精神衛生上よくないので,週1のペースで国会図書館や統計図書館通いもしようかと。

 さて私は大学の非常勤講師をしているのですが,編集者さんとの会合の席で「ぶっちゃけ,大学の講師の給料ってどれくらいなんですか?」と聞かれることがあります。普通のリーマンなら月収額を答えるのでしょうが,非常勤講師の給与は受け持った授業数(コマ数)の関数ですので,「1コマ**円」と答えるのが慣例です。

 そこで私は指を3本立てて,「1コマ3万ってとこが相場です」と答えます。しかし,この意味を勘違い(誤解)なさる方が多い。これを聞いた,ある若い編集者さんは,少し興奮した様子でまくし立てました。

 「へえ,1回の授業が3万ってことですよね。じゃあ月額は3×4=12万,授業を3,4つ受け持てば,余裕で月30~40万になるじゃないですか。すごいですねえ」。

 私は呆れを通り越して,ちょっとした憤りを感じつつ,1コマの意味を説明しました。われわれの業界でいう「1コマ**円」とは,月当たりの額です。よって「1コマ3万」というのは,90分の講義4回分の給与月額という意味です。だからおあいにく様,授業を4コマ持ったとしても,月収はせいぜい12万くらいということになります。

 私が語気を強めたこともあったでしょうが,相手は「ぐうの音」も出ないという感じでした。そしてこう呟きました。「実は,私の上司で大学で非常勤で教えないかと打診されている人がいるんです。出版社希望の学生が多いので,ジャーナリズム関係の講義をしてくれって。・・・でもそうなんですか。勉強になりました。伝えておきます・・・」。

 おそらくその上司の人は,「手当は1コマ**円」いうような言い回しで打診されているのでしょう。でも考えてみれば,「1コマ3万円」と言われた場合,それは1回90分あたりの対価だと考えるのが普通かもしれませんね。仮にも大学教員が,3万円で1カ月も働くなどと考える人のほうが少数派でしょう。

 実際,こういう勘違いをして酷い目にあった方もおられるようです。首都圏大学非常勤講師組合は『控室』という機関誌を出しているのですが,以前の号には,非常勤講師の悲惨な体験談がたくさん載っていて面白いです(最近はそれがなくて残念)。

 1997年1月19日号に「バカにするな!-1コマの意味を理解していて本当に良かった-」という記事が載っています。筆者は,とある児童文学者の方。
http://hijokin.web.fc2.com/hikaeshitsu/anteroom0006.html

 1コマ2万7千円の講義を3コマ頼まれたのですが,提示された額を1回90分あたりの謝礼額と誤解してしまったようです。よって,2万7千×3コマ×4週間=32万4千円の月収を想定していたのですが,支払われた額はその4分の1。明細をみて飛び上がり,事務に電話して,1コマの正確な意味を教えてもらったのこと。

 その後,母校から「1コマ2万円で講義をしないか」と話がきますが,よほど頭にきたのでしょう。「バカにするな!」という強い文面ではね付けています。まさに,「1コマの意味を理解していて本当に良かった」ですね。

 こういう話は,掘ればいくらでも出てくるのではないでしょうか。今日の午後,この話題をツイッターでボソボソ呟いたところ,「知らんかった。勉強になった」というリプもありました。
https://twitter.com/katsuyatakasu/status/557417215780065280

 最近は,社会人に非常勤を依頼する大学も多くなっていることと思います。「対価は1コマ**円です」。依頼の定型文句はコレでしょうが,ここでいう「1コマ」とはどういう意味合いか。先ほどの編集者氏の上司さんも,この点をご存じないのでは・・・ これは知らしめる必要があるかなと思い,本記事を書いた次第です。

2015年1月19日月曜日

共働き世帯の夫の家事分担率分布

 先週の木曜に公開された日経デュアルの記事では,幼子がいる共働き世帯の夫の家事分担率を出したのですが,関心を持ってくださる方もおられるようです。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=4493

 しかし,これはあくまで平均値であり,夫の家事分担率がどのように分布しているかも知りたくなります。全然していない0%の夫もいれば,欧米並みの3~4割,中には半分(50%)以上の夫もいることでしょう。今回は,6歳未満の子がいる共働き世帯の夫の家事分担率分布を明らかにしてみようと思います。

 総務省『社会生活基本調査』(2011年)の公表統計の中に,共働き夫婦の1日あたりの家事時間階級をクロスさせた表があります(下記サイトの表64)。19の時間階級が設定されていますが,10時間以上の階級はまとめて以下の14階級としました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001040666&cycode=0

 ①なし (0.0分)
 ②30分未満 (15.0分)
 ③30分~ (37.5分)
 ④45分~ (52.5分)
 ⑤1時間~ (90.0分)
 ⑥2時間~ (150.0分)
 ⑦3時間~ (210.0分)
 ⑧4時間~ (270.0分)
 ⑨5時間~ (330.0分)
 ⑩6時間~ (390.0分)
 ⑪7時間~ (450.0分)
 ⑫8時間~ (510.0分)
 ⑬9時間~ (570.0分)
 ⑭10時間以上 (660.0分)

 夫14×妻14の196セルがあるわけですが,(   )内の階級値を使うことで,各セルに含まれる夫婦の夫の家事分担率を計算しました。たとえば,夫が⑤で妻が⑨の夫婦の場合,家事分担率は,90/(90+330)=21.4%となります。夫婦とも①の世帯は,家事分担率が計算できませんので分析から除外します。

 私はこのやり方で,6歳未満の子がいる共働き夫婦の家事分担率の分布を出してみました。平日は1917世帯,土曜は2091世帯,日曜は2130世帯の分布です。以下に,5%刻みの相対度数分布表を掲げます。


 曜日を問わず,家事を全然しない夫(0%)が最も多くなっています。平日は59.9%,土曜は43.2%,日曜は34.2%です。

 その一方で,欧米並みに3割以上家事をこなしている夫も少しはいます。その比重は,平日で13.9%,土曜で31.9%,日曜では40.4%,5人に2人なり。

 上表の分布を簡略化したグラフも載せておきましょう。表の14カテゴリーを5カテゴリーにまとめ,タテの帯グラフにしてみました。


 平日から土曜,日曜になるにつれ,家事を全然しない夫は減り,代わって家事メンが増えてきます。といっても,夫の分担率0%の比重が目立つのは,何ともさびしい。夫婦とも正社員の世帯のデータでみたら様相はまた異なるでしょうが,これがわが国のデュアル世帯の家事分担の現状図です。

 先日の日経デュアル記事では平均値を示しましたが,平均値に比べて高いか低いかという二者択一ではなく,最初の分布表をもとに,全体の中でご自身の状況がどの辺りに位置するのかを読みとっていただきたいと思います。

 たとえば,平日に4割の家事を引き受けている旦那さんは,全体の上位8%に位置しています。2割のパパさんは,全体の上位5分の1です。

 今回の分布データは,末子の年齢別に作成することも可能です。0歳の乳児がいる世帯ではどうか,イヤイヤ期の1~2歳の子がいる世帯ではどうか・・・。公的統計から,こうした診断表を作成することもできます。随時,手掛けていきたい仕事の一つです。

2015年1月17日土曜日

『教職教養・よく出る過去問224』(2016年度版)

 実務教育出版より,拙著『教職教養・よく出る過去問224』が刊行されました。今年夏実施の2016年度採用試験への対策に使っていただける過去問集です。
http://jitsumu.hondana.jp/book/b185408.html


 52のテーマ(教育原理24,教育史2,教育法規16,教育心理10)を設けて,各テーマに関わる典型過去問を盛り込んでいます。試験での出題頻度が高く,かつ広範な知識を吸収できる良問を精選しました。その数,総計で224。タイトルのごとく,「よく出る過去問224」です。

 なお,各自治体において,それぞれのテーマに関わる問題が過去5年間(2010~14年度試験)で何回出題されたかが分かる,出題傾向分析表も載せています。こんな感じです。


 「5」は過去5年間で5回,「4」は4回出題されていることを意味します。上記は教育法規の一部ですが,首都の東京では,憲法,学校保健,懲戒,教職員,および服務の法規が必出であるようですね(5年間で5回出題!)。

 ヨコにみると,「教員の服務」の問題が,多くの自治体で必出(5)ないしは頻出(4)であることも分かります。公務員としての教員が遵守すべき服務ですが,教員の不祥事が続発しているので,この事項はしっかり知っておいてほしい,という願いからでしょう。

 このデータから,自分が受験する自治体の頻出テーマを知り,それに絞った学習をすることができます。その後で,徐々に射程を広げていくとよいでしょう。去年の2015年度試験用では11の自治体のデータしか載せられませんでしたが,今回の2016年度試験用では全自治体のデータを掲載しております。

 ちなみに本書は,『教職教養らくらくマスター』と構成が対応しています。たとえば,最頻出の服務については,この本の224~227ページにて要点が整理されています。らくらくマスターで要点を押さえた後,本書に盛られている典型過去問を解く。このサイクルを繰り返すことで,試験を突破する実戦力が確実に身につくかと思います。
http://jitsumu.hondana.jp/book/b178347.html

 教職教養は校種・教科を問わず,全受験者に課される必須科目ですが,この2冊を併用し,合格の栄冠を勝ち取っていただきたいと存じます。

2015年1月16日金曜日

子育て期の女性のすがた

 最近,面積図にハマっているのですが,今回はこの図法により,各国の子育て期の女性のすがたを表現してみようと思います。このステージの人間のすがたがどうであるかは,お国柄がよく出ています。

 資料は,2010~14年に実施された『世界価値観調査』です。16歳以上の国民にいろいろな価値観を尋ねた調査ですが,対象者の基本的な属性も明らかにされています。私は,従業上の地位(employment status)の回答分布に注目しました。
http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp

 下の表は,子がいる30~40代女性の回答分布です。日本を含む6か国のデータです(英仏は調査対象でないようです)。無回答ないしは無効回答は除外しています。


 有業3カテゴリー,無業2カテゴリーが設けられています。無業者の「その他」とは,求職中の失業者や学生などです。

 赤色は最頻値ですが,日本と韓国は専業主婦が最も多く,他の4国はフルタイム就業が最多となっています。北欧のスウェーデンに至っては,フルタイム就業が全体の66%を占め,主婦はたったの1人しかいません。

 上表の5カテゴリーの組成を面積図で表してみましょう。有業者と無業者の比重をヨコ幅でとり,タテ幅を使って,前者の3カテゴリー,後者の2カテゴリーの幅を表現しました。


 子育て期の女性のすがたは,社会によって大きく異なっています。日本とスウェーデンが対極にあり,その間に残りの4国が位置している感じでしょうか。

 フルタイム就業と専業主婦の成分量に注目するとよいと思いますが,この2つは,子育て期の女性に対し,社会進出のチャンスがどれほど開かれているかを教えてくれるメジャーといえます。

 上記調査の対象は54か国ですが,フルタイム就業者率と専業主婦率のマトリクス上に,それぞれの社会を散りばめることで,女性の社会進出度の国際比較図が出来上がります。日本は専業主婦率が33%,フルタイム就業者率が30%ですが,国際的な布置図の中での位置はどの辺でしょうか。下図をご覧ください。


 左上は,フルタイム就業が多く,専業主婦が少ない社会。つまり,子がいる女性の社会進出度が高い社会です。北欧や旧共産圏の国々が位置しています。右下はその逆ですが,イスラーム社会が多いですね,これは,女性はあまり外に出ないという文化的要因によるでしょう。

 点の斜線は均等線であり,この線より上にある場合,専業主婦よりフルタイム就業者が多いことになります。米独はこのラインを越えていますが,日韓はあとちょいというところです。

 まあわが国も,80年代や90年代の頃に比せば,左上にシフトしてきているのでしょうが,早く斜線のラインを越えればいいなと思います。いや,これから先にあっては,そのことが社会の維持・存続の基本的な条件となるでしょう。

 上記のマトリクスにおける,日本の位置変化に注意を払っていきたいところです。それによって,男女共同参画社会に向けた施策の効果が可視化されることにもなります。今回は,2010年近辺の断面図をお見せした次第です。

2015年1月14日水曜日

年収と購読新聞の関連

 国立青少年教育振興機構の『子どもの読書活動の実態とのその影響・効果に関する調査研究』(2013年)のローデータを眺めていたら,「世帯年収」と「よく読む新聞」という変数がありましたので,両者をクロスしてみました。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/72/

 その結果をグラフにしたものをツイッターで発信したところ,見てくださる方が多いようなので,ブログにも載せておこうと思います。まずは実数の原表をご覧いただきましょう。双方の設問に有効回答を寄せた,20~60代の成人5209人の分布表です。


 ヨコの年収分布は,下が厚く上が細いピラミッド型です。母集団の構造がよく反映されています。各層がどの新聞をよく読んでいるかをみると,年収が最も低いⅠの層では全体の4割近くが「あまり読まない」と答えています。

 しかし,年収が上がるにつれ回答の分布は変わっていき,年収1000万超の層では朝日新聞をよく読んでいる者が最多です。1500万超の階層(Ⅵ)では,3割ほどが朝日新聞をよく読んでいるようです。

 これは両端の様相ですが,Ⅰ~Ⅵへとシフトするにつれ,回答の構造はどう変わるか。上記の原表のデータをグラフ化してみましょう。ツイッターに載せた図と同じというのでは芸がないので,ちょっと工夫をします。ここでは,Ⅰ~Ⅵの各階層の量も表現することとします。数字をみてお分かりのように,リッチなⅤやⅥの階層は量的にはわずかですしね。

 よく読む新聞の分布をタテ,各階層の量をヨコの幅で表現すると,以下のような図になります。


 年収が上がるほど,新聞をあまり読まない人間は減ってきます。それと,よく読む新聞の組成も変化するようで,富裕層ほど,朝日新聞をよく読む者の比率が高くなっています。日経新聞も同じ傾向を呈しています。

 なるほど,各紙の読者の平均年収を調べたニュース記事がありますが,それと一致しています。
http://news.ameba.jp/20140916-86/

 これを見て思うところありという方も多いでしょう。みなさんの議論の参考資料として,ここに展示しておきたいと思います。

2015年1月12日月曜日

職業別のブラック度の可視化

 総務省『就業構造基本調査』では,就業者の年間就業日数と週間就業時間のクロス表が公表されています。2012年の正規職員(正社員)のデータは,以下のようになっています。規則的就業でない者が多い年間200日未満就業者を除いた,3092万人の分布表です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 数の上では,「年間200~249日就業」×「週35時間以上43時間未満就業」の者が541万人と最も多くなっています。このセルだけで,全体の17%ほどを占めます。

 左上の青色の網をかけたゾーンは,およおそ法律の規定に合致するホワイト就業者です(年間200~249日・週43時間未満)。その数は596万人,全体の19.3%なり。法定の働き方をしている正社員は,およそ5人に1人ということになります。

 その一方で,法律なんぞクソ喰らえのメチャクチャな働き方をしている者もいます。右下のブラックゾーンです。年間300日以上・週60時間以上働いているブラック就業者ですが,その数は114万人,全体の3.7%ほどです。これに隣接するゾーンは,グレーゾーンと性格づけることができます。

 それでは,上記の表のデータを視覚化してみましょう。タテの週間就業時間は3カテゴリー(a~c)に簡略化し,3×3の領分の比重図にしてみました。正社員全体の図に加えて,私が興味を持つ5つの職業の図もつくってみました。管理公務員,医師,教員,介護サービス,そして飲食調理です。


 ヨコのA~Cは年間就業日数の3区分,タテのa~cは週間就業時間の3区分です。「A×a」はホワイト,「C×c」はブラックの領分を意味します。

 全正社員3092万人の図は「まあ,こんなものだろう」という感じですが,職業ごとにみると色が出ていて,医師ではブラックゾーンが広くなっています。ブラック就業者率は27.1%で,4分の1を超えます。後でも触れますが,これは全職業の中で最高です。医師の過労がよくいわれますが,さもありなんです。

 キツイといわれる飲食,多忙が社会問題化している教員も,ブラックないしはグレーの比重が大きいですね。対して,さすがといいますか,右上の公務員は,法定のホワイトの領分が広くなっています。介護サービス職のホワイトの比重が高くなっていますが,給与という軸を据えたら,図柄はガラリと変わると思われます。

 以上は5つの職業の図ですが,他の職業はどうか。2012年の『就業構造基本調査』から67の職業のデータを得ることができますが,これら全部の組成図を書くことはできません。そこで,左上のホワイト就業者と右下のブラック就業者の比率を出し,この2変数のマトリクス上に,それぞれの職業を散りばめてみました。


 左上にあるのは,ホワイトが少なくブラックが多い「ブラック職業」,右下に位置するのはその反対の「ホワイト職業」といえます。

 先ほどみた医師と宗教家が左上のかっ飛んだ位置にありますね。宗教家は,昼夜問わずの布教活動などによるとみられます。

 飲食調理,芸術家,バスやタクシーなどの自動車運転手も斜線より上にあり,「ブラック>ホワイト」の職業であることが知られます。教員も,あとちょっとでこのラインを超えるところ。教員定数削減の方針が打ち出されましたが,あと数年したら,教員もブラック職業の仲間入りを果たすかもしれません。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG08HBM_Y5A100C1CR8000/

 私は最近,それぞれの成分量を面積で表現する図法にハマっています。ヨコ(X)とタテ(Y)に加えて,Zの軸を加味することもできます。たとえば,転職・就業休止希望率(ウツリタイ・ヤメタイ)率の水準で,上図の9つの領分を塗り分けてもよいでしょう。おそらくは,右下に膿ができることと思います。

 師匠の松本良夫先生は,「出身階層×最終学歴」の面積図をつくり,それぞれの領分を非行少年の出現率で塗り分けた図を公表されています。言わずもがな,「Bカラー家庭出身×中卒」の群の非行率が飛びぬけて高い傾向です。時代が経つにつれ,この層がマイノリティー化するに伴い,この傾向がどんどん顕著になるという発見もされています。困難の凝縮化現象です。

 面積図。社会現象の可視化にあたって,有効なツールであると思います。

2015年1月11日日曜日

文系と理系の年収比較

 「文系と理系,どっちが有利なの?」 こういう問いをよく聞きます。日経デュアル誌にて,大卒者の専攻別の正社員率を明らかにしたことがありますが,当該の記事がよく読まれているそうです。結果は,理系が圧倒的に有利(とくに女子)というものでした。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3276

 今回はもっと,卑俗なテーマを追及してみましょう。年収はどれほど違うかです。性別,学歴,職業などによる年収差は嫌というほど分析されていますが,学校時代に学んだ専攻ではどうちがうか。文系出身者と理系出身者でみて,稼いでいるのはどちらか。

 国立青少年教育振興機構の『子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究』(2013年)のローデータをもとに,上記の問いに答えるデータをつくってみました。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/72/

 この調査は,読書の頻度と生活意識の関連を明らかにすることを主眼としていますが,20~60代を対象とした成人調査では,細かい属性を尋ねています。学歴,年収,さらには最終学校での専攻まで問うています。これらの変数を多重クロスにかけることで,目当ての分析をすることが可能です。

 私は,大卒男性のサンプル(60代は除外)を取り出し,在学時の専攻と現在年収の関連を明らかにしました。専攻は,人文科学と社会科学を文系,理学,工学,農学を理系としました。取り出されたサンプル数の総計は,文系が575人,理系が336人です。

 これらを4つの年齢層に分かち,それぞれの年収分布をとってみました。下表は,構成比によるの分布表です。サンプル数は,<  >内に示しています。


 どうでしょう。グラフでないので分かりにくいかもしれませんが,どちらかといえば理系の方が高いゾーンに多く分布しています。私の年齢層の30代では,最頻の階級が2つもズレています。差が最も大きいのは40代のようで,年収750万超の者の比率は,文系では19.4%ですが,理系では29.6%と,10ポイント以上も開いています。

 上記の分布を,一つの代表値で簡約してみましょう。各階級の中間の値(階級値)を使って,平均値を計算します。*年収1500万超の階級は,ひとまず一律2000万円と仮定しましょう。

 得られた平均値を折れ線グラフにすると,下図のようです。


 加齢とともに「理>文」の差が広がり,働き盛りの40代では45万円の差がつくに至ります。しかし引退間際の50代では逆転し,文系のほうが高くなります。社長さんとかが多くなるのでしょうか。

 あまり明らかにされたことのない,文系出身か理系出身かによる年収の違いは,こんな感じです。まあ,通説が確認されたってとこでしょうか。

 上記の調査では,対象の成人に,回顧形式の設問をいろいろ投げかけているのですが,大学時代どれほどマジメに勉強したか,という問いも入れてほしかった・・・。大学時代の過ごし方の差が,成人後の人生にどう影響するか。とても重要なテーマです。大学教育の抜本改革が議論されている今日にあってはなおのこと。

 子ども期の過ごし方と成人後の人生の関連。特定の個人を追跡する調査が望ましいのですが,回顧形式の調査法でも,ある程度のことは明らかにできます。今回用いた『子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究』の成人調査では,子ども時代の読書頻度や体験の豊かさなども尋ねています。さしあたり,これを十分にしゃぶり尽くそうかと。

 こういう作業は,できるだけ多くの人による,多様な視点からなされることが望ましいでしょう。上記のリンク先から,ローデータの申請の手続きをすることができます。申請書を送ると,ソッコーでエクセルファイルのローデータが送られてきます。向こうも,データを使ってほしいのでしょうね。有志の方は,今すぐ申請されたい。

2015年1月10日土曜日

自尊心の凝縮化現象

 前々回の記事では,勉強の得意度と自尊心の関連を明らかにしました。小4と高2のデータを比べたのですが,高2になると,ごく一部の勉強の得意な層だけが高い自尊心を保持し,他の大多数の層がそれを剥奪される傾向がみられました。

 自尊心の基盤が勉強のでき具合だけに収束してしまう,憂うべき現象ですが,自尊心の多寡を規定する要因は他にもあるでしょう。スポーツができるか,友達がどれほどいるかなど・・・。今回は,勉強の対である運動の得意度という変数も組み込んで,自尊心の分布を明らかにしてみようと思います。

 前々回と同じく,国立青少年教育振興機構の『青少年の体感活動等に関する実態調査』(2012年度)のデータを使います。あいにく,運動ないしはスポーツの得意度を直に尋ねた設問はないのですが,「体力には自身がある」という項目への反応を問う設問がありますので,これに対する回答をもって,運動の得意度の指標といたしましょう。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/84/

 私は,上記調査のローデータを使って,「勉強の得意度」と「体力の自信度」のクロス表をつくりました。4×4の16セルのクロス表です。前々回と同様,小4と高2の表を作成しました。以下に,実数の原表を掲げます。


 私の世代がみてきたアニメには,勉強はできないがスポーツは得意なガキ大将,その逆のモヤシ君がよく描かれていますが,上表のデータによると,勉強の得意度と体力の自信度は,正の相関関係にあります。赤字はタテ方向の最頻値ですが,勉強が不得意な群ほど,体力に自信がない者が多くなると。

 これは私にとっては発見ですが,今回の主眼は,この「勉強×体力」のマトリクス上に,高い自尊感情がどう分布しているかです。換言すると,自尊感情の規定要因として,どちらが大きいかを調べることです。

 私は,4×4の16の群について,「自分がとても好き」と答えた児童・生徒の割合を明らかにしました。たとえば,小4の一番左上の群(A×a)では,214人のうち122人が「とても自分が好き」と考えています。よってこの群の場合,高い自尊心の保持率は,122/214=57.0%です。

 前々回の手法を継承し,まず,16の群の量的規模を表現した比重図を用意しました。次に,それぞれの群の四角形を,上記の比率(高い自尊心の保持率)の水準で塗り分けてみました。40%以上,30%以上40%未満,20%以上30%未満,20%未満の4階級を設け,濃淡の色をつけました。

 こうすることで,各群が置かれた文脈と自尊心の程度を同時に見てとることができます。ブツは,以下です。


 小学校4年生では色つきのゾーンが多いですが,高校2年生になると,自尊率2割未満の白色が大半になります。後者では,左上の「A×a」の群の自尊感情率が82%と飛びぬけて高くなっています。少数の層に自尊感情が凝縮される構造は,ここでも見受けられます。

 なお,勉強と体力の規定力をみると,小4では図の模様がナナメ方向であることから,双方が効いているようです。しかるに高2では,勉強の得意度の影響が大きいようで,勉強がとても得意なA群の箇所に色が集中しています。体力に自信があっても(a群),勉強が不得意な群(C~D)では色はついていません。

 前々回の分析に追加される知見は,以下のごとし。

①:勉強だけでなく,体力に自信がある生徒も,加齢と共に減少する。
②:量的に少ない,勉強・体力共に自信がある群に,高い自尊心が凝縮される傾向がある。
③:自尊心に対する規定力としては,体力の自信度よりも勉強の得意度が大きい。

 とくに②が重要であり,これを「自尊心の凝縮化現象」と命名しておきましょう。日本の思春期・青年期に固有の現象であるのか,大変興味が持たれるところです。

2015年1月9日金曜日

人生の読書遍歴

 「モノやお金は時によって価値が変わるけれど,頭に入れた知識は生涯の肥やしになってくれる。だから,できるだけたくさんの本を読みなさい」。小学校時代の恩師のお言葉です。

 読書が人間形成に大きな影響を与えることにかんがみ,近年の学校現場では,子どもの読書活動推進の取組が盛んです。しかし,子どものみならず大人にとっても読書は大切。とくにわが国の場合,成人期以降は会社という一つの組織に埋没しがちで,合理的な思考を失いがちです。なるべく本を読んで,外部の空気(知識)を吸収しないといけません。

 私は,成人期以降をも射程に入れたロング・スパンの読書率のデータをつくってみました。資料は,国立青少年教育振興機構の『子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究』(2013年)です。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/72/

 本調査は中高生と20~60代の成人を対象としていますが,成人調査において,これまでの人生の各時期にて本を読んだかを尋ねる設問があります。対象者に回顧してもらう形式です。6つのジャンルの本を提示し,読んだものにチェックを入れてもらっています。

 この設問の回答結果を整理し,グラフにしてみました。各時期において,当該ジャンルの本を読んだ者の割合です。回顧形式による,人生の読書遍歴図をご覧ください。


 まず,「ほとんど本を読まなかった」者の率は子ども期にかけて減少し,成人期以降は2割弱で推移します。残りが何らかの本を読んだ者ですが,どういう本が多いかは時期ごとの特徴が出ています。

 幼少期は物語・フィクションが多いですね。ピークは小学校高学年で63%です。このジャンルはどの時期でも一番読まれていますが,読書率の水準は加齢と共に下がってきます。それと対をなしているのは,趣味の本です。一貫して右上がりのタイプ。実用書は,働き盛りの30代がピークでその後は減少します。

 残りの3ジャンル(自然科学,社会学,生き方・人間関係)のピークは,大学生の時期です。一番時間がある時ですものね。自己アイデンティティ確立のため,いろいろなことをするのを許されるモラトリアムの時期。なお,6ジャンルの読書率を累積すると,ピークはこの時期になります。人生で一番本が読まれる時期なり。

 20~60代の対象者に,これまで経てきた時期の読書経験を振り返ってもらった結果ですが,軒並み「右下がり」というような図柄でないことに,ちょっとばかり安堵しました。しかし,絶対水準としてはいかにも低い。良識ある公民たるべく,社会科学書籍の読書率などはもっと上がって然るべきでしょう。

 最近は,公共図書館のサービスも充実してきています。お目当ての本が所蔵されていなくとも,頼めばすぐに取り寄せてくれます。また電子書籍も登場し,昔の名著はタダで自分の端末に入れて,好きなだけ読むことができます。こういう条件を積極的に活用しようではありませんか。

2015年1月8日木曜日

勉強の得意度と自尊心の関連

 日本の子どもは自尊心(self-esteem)が低いといわれますが,その傾向は学年を上がるにつれ強くなります。

 前回の記事で使った,国立青少年教育機構『青少年の体験活動等に関する調査』(2012年度)によると,「今の自分が好きである」という項目に「とてもそう思う」と答えた者の割合は,小4で30.7%,小5で24.1%,小6で20.9%,中2で8.9%,高2で7.3%というように,どんどん下落してきます。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/84/

 小学校と中学校の段差が大きいようですが,高校受験を見据えたテストの連続で,周囲と比した自分の相対位置を思い知らされることが多くなるためでしょう。よって自尊心の程度が,勉強のでき具合に規定される度合いが高まってくるとみられます。

 私は上記調査のローデータを使って,この2つの関連を調べました。発達段階によって関連の仕方がどう違うかもみるため,小4と高2のクロス表をつくりました。下に掲げるのは,何の加工も施していない実数の原表です。


 「勉強の得意度×自尊心の程度」のクロス表です。赤字はタテ方向の最頻値ですが,勉強の得意度が下がるにつれ,下の方に落ちてきます。勉強がとても得意なA群では「自分がとても好き」が最も多いのですが,勉強が全く得意でないD群では「自分が全く好きでない」者が最多であると。高校2年生では,この傾向がより顕著です。

 上表のデータを視覚化してみましょう。群ごとの自尊心の分布をタテの帯グラフにしようと思いますが,ヨコ幅を使って各群の量も表現してみます。


 勉強が不得意な群ほど自尊心が下がる傾向がみられますが,学年を上がるにつれ,A~Dの相対量が変わることにも要注意。高校2年生になると,勉強がとても得意なA群はわずかになりますが,量的に少ないこの群の自尊心が飛びぬけて高くなります。自尊心の占有化とでも形容し得る現象です。

 わが国では,青年期の入口に差し掛かると,ごく一部の勉強が得意な層だけが高い自尊心を保持し,他の大多数の層がそれを剥奪される傾向がみられます。大学進学規範が強い日本の特徴であるように思えますが,他国でも上記のような図柄になるのでしょうか。

 自尊心の基盤というのは,加齢とともに多様化していくのが望ましいのですが,今の日本社会では,それが勉強の得意・不得意に一元化(収束)される傾向にあります。青年期とは,興味・関心・適性が多様化し始める時期と考えると,上図に描かれている様は,一種の病態を表現しているともいえるでしょう。

 入学者を選抜する試験では相対評価も止むを得ませんが,日々の学校生活では,できない子を「無理やり」作り出す相対評価だけでなく,あくまで目標への到達度を重視する絶対評価,さらには当人の以前の状態と比した個人内評価なども,もっとと入れられるべきではないでしょうか。*近年では,こういう方針が推奨されています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/gaiyou/1292163.htm

 これから先,ただでさえ減っていく子ども人口を,学校教育の中で人為的に潰していくような事態は,何としても避けねばなりません。

2015年1月7日水曜日

どれほどヤバい時代を生きてきたか(改)

 前々回の記事では,自殺率で塗り分けた年譜の上に,各世代が生きてきた軌跡線を引いてみたのですが,この図を見てくださる方が多いようです。

 いろいろコメントをいただきましたが,「自殺率は年齢によって異なるので,人口全体の自殺率で色分けするのは乱暴ではないか」という指摘が多々ありました。ごもっともです。現在の大学生の世代は,平成不況の暗黒期を生きてきましたが,乳幼児や児童であった彼らが自殺へと仕向けられたわけではありません。この発達段階では,自殺率はほぼゼロです。

 私は,各時代の年齢層ごとの自殺率で色分けした譜面をつくり,その上に,それぞれの世代が生きた軌跡を描いてみました。こうすることで,各世代が直面した危機をより立体的に知ることができると考えたからです。

 私は,1950~2013年の各年について,5歳刻みの年齢層別の自殺率を計算しました。各層の自殺者数を当該層の人口で除した値です。分子は厚労省『人口動態統計』,分母は総務省『人口推計年報』のものを使いました。

 その一覧表をみて,自殺率の水準として6段階を設定しました。①10万人あたりの自殺率15未満,②15以上20未満,③20以上25未満,④25以上30未満,⑤30以上35未満,⑥35以上,です。これに依拠して,各年・各年齢層のセルを黒の濃淡で塗り分けました。その上に,4つの世代の軌跡線を引いた次第です。

 ブツを以下に掲げます。


 どうでしょう。1950年代では,青年期の箇所に黒色の膿がみられますが,師匠の松本良夫先生の世代(1931~35年生)は,この上をもろに通過しています。青年期に,大きな困難に遭遇した世代です。

 戦前と戦後の価値観が混沌としている世相にあって,青年期の課題である「自己アイデンティティの確立」を達成するのは容易ではなかったと思われます。ちなみに当時の自殺統計をみると,自殺動機のトップは「厭世」です。世の中が厭(いや)になったということです。青年期という時期を,混乱の世の中で過ごしたことの不幸は大きかったといえるでしょう。

 一回り下の団塊世代(黄色)は,50代の時期に不幸に遭遇しています。前世期末から今世紀初頭にかけて,自殺者が毎年3万人を超える事態が続いたのですが,その主な担い手はこの世代であったようです。無慈悲なリストラによる自殺もさぞ多かったことでしょう。

 今の大学生の世代(ピンク色)は,前々回の図では暗黒期を生きてきた印象でしたが,上記の図では白一色です。これは,子どもは滅多に自殺はしないという発達段階的な特性によるものであり,どの時代でも同じです。しかし,平成不況が本格化した「どんより」としたムードの中で人間形成をしてきたのは,この世代の特徴です。「さとり世代」の所以はこういうところに求められると思われます。

 前々回の図の補足版として,掲載しておこうと思います。自殺率ではなく,不慮の事故死率で譜面を塗り分けても面白いですよね。この指標なら,乳幼児期や児童期も,不気味な色で染まるはずです。人生初期の経験が世代によってどう違うかも可視化されるでしょう。

 この「ジェネレーション・グラム」の図法は,いろいろな可能性を秘めています。電車のダイヤグラムの応用ですが,これを世代理解のツールに仕立て上げた松本良夫先生の功績に,改めて敬意を表したいと思います。

2015年1月6日火曜日

好かれない教科

 ヒマをみては,公的機関が何か面白い調査をしていないかとサーチしているのですが,国立青少年教育研究機構が,青少年に関わるいろいろな調査をしているようです。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/

 その中の一つに,『青少年の体験活動等に関する実態調査』(2012年度)があります。主眼は,青少年の体験活動の頻度と生活意識の関連分析のようですが,調査票をみると,いろいろ興味深い設問が盛られています。

 私は,好きな教科を尋ねている設問に関心を持ちました。小学校調査では問9,中学校調査では問10です。9の教科を提示し,自分の好きなもの全てに丸をつけてもらう形式なり。丸をつけた児童・生徒の比率が各教科の「好き」率になりますが,ひねくれ者の私は,その逆の比率に注目してみました。当該の教科を選ばなかった者の率,すなわち「好きでない」率です。

 たとえば,小学校5年生男子のうち,国語に丸をつけた児童は全体の17.4%です。よって残りの82.6%が,当該教科を好んでいないことになります。以下では「好きでない」率ということにしましょう。

 私は,各教科について,小5と中2の男女の「好きでない」率を明らかにしました。下表は,値を整理したものです。(   )内は,中学校の教科名称です。


 どの教科も値が高いですね。まあ,「好きでない=普通+嫌い」ですから,量は多いのでしょうが,ここまでとは思いませんでした。

 なお男女とも,小5から中2になるに伴い,比率が上昇します。女子の家庭科(技術・家庭科)にあっては,「好きでない」率は39.9%から81.0%へと倍増しています。私の頃は,男子は技術,女子は家庭というようにパッカリ分かれていましたが,今は女子も技術をやるのですよね。針や包丁ならいいが,金槌や鋸を握るとなるとちょっと・・・という子が多いのでしょうか。

 あとジェンダーの差にも注目。予想通りといいますか,理数教科を好まない者の率は「男子<女子」であり,中学校になるとその差が開きます。国語や芸術教科を好まぬ者の率は,その反対です。よく言われることですが,教科嗜好のジェンダー差も出ていますね。

 それでは,上表のデータをビジュアル化してみましょう。学年差と性差を同時に見てとれる図をつくってみました。横軸に男子,縦軸に女子の「好きでない」率をとった座標上に,小5と中2の各教科のドットを位置づけ,学年間を線で結びました。

 末尾を小5,先端を中2とした矢印にしています。これで,小5から中2にかけての変化がイメージしやすくなるかと思います。


 ほとんどの教科が右上に動いています。男女とも,「好きでない」の者の率が上がっている,ということです。しかし,その増加幅は教科によって違っていて,家庭科(技術・家庭科)では,矢印が長くなっています。先ほど述べたように,この教科を好かない女子の率が急騰するためです。

 美術や保健体育の矢印も長いですね。小学校から中学校に上がるに伴い,実技系教科の状況が芳しくなくなるようです。しかるに,それは主要教科も同じであり,算数(数学)と理科は,小5の時点で高い「好きでない」率が中2になるとさらにアップし,女子では8割を超えるようになります。

 性差という点でいうと,点の斜線より上にある教科は「男子<女子」,これより下にある教科はその逆ですが,それぞれのゾーンにある教科にはジェンダー色が出ています。

 肌感覚でも分かるように,女子で理数教科を好まない者が多いのですが,全員がそうではありません。理科を好む女子は,小5では36.5%,中2では16.4%います。追及すべきは,こうしたリケジョがどういう環境で育っているかです。

 実は今日,上記の調査のローデータを入手したところです。それぞれの設問の回答を,家庭環境の設問とクロスさせることもできます。保護者の養育態度との関連も興味深い。女子の理系嗜好の要因分析なんていう研究もできるかも。理科が好きか否かを外的基準に立てた,数量化Ⅱ類のようなタッチもいい。課題として記しておこうと思います。

2015年1月4日日曜日

どれほどヤバい時代を生きてきたか

 社会がどれほどヤバいかをみるには,自殺率が一番であると思います。デュルケムはこの指標を使って,19世紀のヨーロッパ社会の病理をえぐり出してみせました(『自殺論』)。

 日本の自殺率の長期推移を描くと,下図のようになります。1900(明治33)年から2013(平成25)までの,100年以上にわたる曲線です。自殺率とは,人口10万人あたりの自殺者数であり,厚労省の『人口動態統計』に,計算済みの数値が掲載されています。


 自殺率は時期によってかなり違いますが,その水準を5段階に区分してみました。①16未満,②16以上18未満,③18以上20未満,④20以上22未満,⑤22以上,です。この段階分けは,社会の「ヤバい」度レベルとみなせます。

 ⑤の時期に該当するのは,1954~1959年と1998~2011年です。戦後混乱期から高度経済成長期への移行期(激変期),および平成不況が本格化した時期です。歴史的にみて,社会が最も病んでいた時期といえましょう。現在もレベル④であり,予断を許さない状況です。

 これで日本社会の暗雲度を色分けする基準を得ましたが,上記の5段階で塗り分けた年譜の上に,それぞれの世代が生きた軌跡線を引いてみました。師匠の松本良夫先生が属する1931~35年生まれ世代の場合,(0~4歳,1935年)と(60~64歳,1995年)を結んだ直線で表されます。

 松本先生の世代のほか,5つの世代の斜線をも書き込んでいます。各世代がどれほどヤバい時期を生きてきたか。乳幼児期,児童期,青年期といった発達段階を,どういう時代で過ごしたか。これらの点を視覚的にみてとることができます。


 色が濃いほど,自殺率が高いヤバい時代ですが,松本先生の世代(青色)は,ちょうど青年期と重なっています。時代は1950年代の後半。戦前と戦後の新旧の価値観が混在していた頃ですが,こうした不安定な時期に,自己のアイデンティティ(生き方)を確立するのは容易ではなかったこと思います。

 私の世代(緑色)は,ちょうど社会に出る頃,暗雲期に突入します。わが国の自殺率は97年から98年の間に急騰し,自殺者数も3万人台にのったのですが(98年問題),私が大学を出たのは翌年の99年です。人呼んで,ロスジェネなり。

 黄色の団塊の世代は,50代の時期にこの暗雲期を経験しましたが,無慈悲なリストラによる自殺者数を多く出したことでしょう。総決算でみると,自殺者を最も多く輩出したのは,この世代かもしれません。青年期は白色の高度経済成長期でしたが,定年間際の50代は暗雲期。苦も味わっているわけです。この世代を見る眼差しが,ちょっと変わりました。

 一番下のピンク色は,今の大学生の世代ですが,幼少期からブラックの暗雲期を過ごしてきています。この世代は「さとり世代」などといわれますが,現実を悟っているクールなメンタリテは,彼らが育ってきた時代状況と無縁ではないでしょう。

 今回は自殺率でしたが,景気動向指数や失業率で塗り分けた図面の上に,各世代の軌跡を引いてみるのもいいかもしれませんね。前回の学習指導要領の図も合わせて,こういう素材を蓄積することで,異世代間の理解もいっそう深まると思います。

2015年1月1日木曜日

どの学習指導要領で育ったか

 年が明けました。今年もどうぞ,よろしくお願いいたします。

 2015年は戦後70年に当たります。この節目の年のスタートということで,特定の観点から戦後史を振り返ってみようと思います。具体的には,学習指導要領の変遷史の上に,各世代の軌跡を書き込んでみます。タイトルのごとく,それぞれの世代は「どの学習指導要領で育ったか」を可視化する試みです。

 学習指導要領とは教育課程の国家基準ですが,その内容は時代ともに改訂されてきています。大よそ10年間隔です。その変遷史をみると,能力主義の考え方のもと,授業時数や教育内容がうんと増やされた時期もあれば,その逆の時期もあります。後者の学習指導要領で育った世代は,「ゆとり世代」などといわれたりします。

 どの学習指導要領で育ったかは,各世代の人間形成に少なからず影響していることでしょう。学習指導要領をして「国民形成の設計書」となぞらえた論者もいますが,その規定力(拘束性)を侮るわけにはいきません。
http://www.tups.jp/book/book.php?id=224

 教員採用試験を受験予定の方は勉強済みかと思いますが,学習指導要領は以下のように変遷していきています。

 ①1947年版学習指導要領(小・中は47年,高は48年より実施)
 ②1951年版学習指導要領(小・中・高とも51年より実施)
 ③1958年版学習指導要領(小は61年,中は62年,高は63年より実施)
 ④1968年版学習指導要領(小は71年,中は72年,高は73年より実施)
 ⑤1977年版学習指導要領(小は80年,中は81年,高は82年より実施)
 ⑥1989年版学習指導要領(小は92年,中は93年,高は94年より実施)
 ⑦1998年版学習指導要領(小・中は02年,高は03年より実施)
 ⑧2008年版学習指導要領(小は11年,中は12年,高は13年より学年進行で実施)

 私の世代(1976年生まれ)は,⑤の77年版学習指導要領のもとで育ったことになります。今年,杏林大学で教えている1年生の学生さん(95年生まれ)は,⑦の98年版学習指導要領の世代です。

 ①~⑧の学習指導要領の実施期間で塗り分けた図のうえに,それぞれの世代の軌跡を書き込んでみました。私の世代の軌跡は,(83年,小1)と(94年,高3)を結んだ直線で表されます。

 ほか,40年生まれ世代(私の母の世代),48年生まれ世代(団塊の世代),68年生まれ世代(非行世代),84年生まれ世代(メグカナ世代),95年生まれ世代(今の大学1年生)の軌跡線も引いてみました。

 では,ブツをみていただきましょう。


 今の大学1年生は,学校生活のほとんどを⑦のもとで過ごしてきた世代です。ご存じのとおり,ゆとり教育を掲げ,授業時数を3割削減した指導要領ですが,その洗礼をもろに受けた純粋「ゆとり」世代です。

 しかるに,かくいう私も「ゆとり」世代です。⑤の指導要領は,それ以前の能力主義を反省し,「ゆとり」「精選」の方針のもと,授業時数を削減したものでした。社会奉仕や勤労体験学習が重視されたのも特徴です。そういえば,休み中の地域清掃活動などがあったなあ。これが効をなしたのかは知りませんが,私の世代は,総決算でみて最も非行少年が少なかった世代です。
http://tmaita77.blogspot.jp/2011/03/blog-post_11.html

 その一つ上の68年生まれ世代は,逆に非行が最も多かった世代(delinquent generation)なり。80年代初頭の非行の「第3ピーク」は,この世代が主に担ってくれたものでした。児童期を④の能力主義的指導要領のもとで過ごし,思春期になって急に「ゆとり」「精選」に転換されたのですが,それに対する戸惑いがあったのか,タガが外れてしまったのか・・・。こうした急転が,多感な思春期の入口と重なったことも不運であったといえるかもしれません。

 さらに一つ上の48年生まれ世代は,人数的に最も多い団塊の世代。児童期は,法的拘束がなく,授業時間も一律に定められていなかった「ゆるい」指導要領で育ちましたが,思春期以降,締め付けが厳しくなります。能力主義方針のもと,高校職業学科の学科が細分され,差別的な選り分けがなされたのもこの頃です。68年生まれ世代と同じく,多感な時期に指導要領の急転換を経験した世代ですが,学生運動の闘志のルーツはこういうところにあったのではないかという気もします。

 最後に84年生まれ世代ですが,今世紀初頭の「キレる子ども」の主役を演じてくれた世代です。一貫して⑥の指導要領のもとで育ちつつも,10代の時期にネットの普及という大変化を経験した世代。指導要領の上では「社会の情報化への対応」がいわれましたが,この頃の脆弱な情報教育では,青少年をして,情報化社会へと適応させるのは難しかったようです。高校に情報科という教科ができたのは,その後の⑦の指導要領においてでした。

 上図には,私が関心をもつ6つの世代の軌跡線を引いていますが,ご自身の軌跡を書きこんでみるのもいいでしょう。ご家族全員の線を引いてみるのもいい。家族の相互理解を深める,お正月の娯楽としていかがでしょうか。

 なお今回の図は,師匠の松本良夫先生が考案された「ジェネレーション・グラム」という図法に基づいています。昨年の8月7日の記事では,社会的な出来事を書きこんだ図を展示しています。こちらも,異世代理解を深めるためのルールとしてお使いいただけるのではないかと思います。

 それでは皆様,よいお正月をお過ごしください。