2021年10月7日木曜日

教員給与の相対水準(2019年)

  戦前の教員養成は,師範学校で行われてました。学費は無償で,生活費も支給。勉強が好きでも,家が貧しくて,旧制中学等の上級学校に進学できない子どもの受け皿として機能していました。

 その上,卒業後の教員就職率はほぼ100%。至れり尽くせりの感があります。

 しかるに,それでも生徒の集まりはよくありませんでした。理由は,教員の待遇がものすごく悪かったからです。私は2012年頃,図書館通いをして,戦前の教員問題の新聞記事を収集していましたが,「食物さへ十分でない」「弁当はパン半巾」「結核死亡率高し」「一家離散」といったタイトルの記事がわんさと出てきました。教員になるのを強いられた青年が自殺する事件も起きていました。

 戦後になっても,本業の給与だけでは食えず,同僚や教え子に見つからぬかとビクビクしながら,靴磨きのバイトに精を出す教員もいました。高度経済成長期でも,民間と比した薄給は明らかで,「デモシカ教師」という言葉が流行ったのはよく知られています。

 これではいけないと,70年代に教員の待遇を改善する法律ができ,状況は次第に改善されてきました。昔のように,絶対的貧困の状況に置かれる教員はいません。ですが,民間と比してどうなのかということは,データであまり明らかにされていません。目下,教員不足を解消するため,教員を魅力ある職業にするという方針が掲げられてますが,給与はどうかというのも無視できぬ要素です。

 教員の給与は,文科省の『学校教員統計』に出ています。最新は2019年ですね。このページの表26から,公立小学校本務教員の平均月収が分かります。諸手当は含まない本俸です。2019年6月の公立小学校男性教員の平均月収は34.9万円です。当然,全国一律ではなく自治体によって違います。元資料には,47都道府県別の数値が出ています。


 東京は33.1万円,私の郷里の鹿児島は37.0万円ですね。大都市より地方が高いことに疑問を持たれるかもしれませんが,これは年齢構成の違いによります。団塊世代の退職により,都市部では若い新採教員が増え,一気に若返っていますからね。平均年齢(見積もり)は,東京は35.9歳,鹿児島は43.5歳なり。

 これを,同年齢の大卒男性労働者の平均月収と比べます。同じく2019年の厚労省『賃金構造基本統計』のデータを使いましょう。公立小学校男性教員の平均月収は34.9万円で,平均年齢は39.7歳(上表)。こちらのページの表1によると,30代後半の大卒男性労働者の所定内月収は37.7万円。小学校教員の月収は,同条件の労働者全体をちょっと下回ります。

 これは全国値に基づく比較ですが,県ごとの比較もしたい。県別の男性労働者の給与は,全学歴のものしか得られません(このページの表1)。そこで,全国値の「大卒/全体」倍率を適用し,各県の大卒男性の給与を推し量ります。30代後半だと,全国の大卒男性の月収は37.7万円,全学歴の男性は32.8万円なんで,倍率は1.147となります。これを,各県の30代後半男性の月収にかけるわけです。

 以下の表は,このやり方で推計した,47都道府県の大卒男性労働者の平均月収です。 


 最初の表によると,東京の公立小学校男性教員の月収は33.1万円で,平均年齢は35.9歳。上記の表によると,東京の30代後半大卒男性の月収は46.3万円。うーん,東京の教員給与は,民間の7割ほどしかないのですね。

 秋田だと,小学校男性教員の月収は39.1万円で,平均年齢は47.4歳(最初の表)。40代後半の大卒男性労働者の月収は36.8万円。秋田では,教員給与が同条件の労働者全体をやや上回ります。

 このやり方で,公立小学校の男性教員の月収を,同条件の労働者全体と比較しました。前者が後者の何倍かという倍率を出し,高い順に並べると以下のようになります。全国値だと,34.9万円/37.7万円=0.925です。


 どうでしょう。最高は岩手の1.16倍,最低は東京の0.715倍です。教員給与が民間を上回るのは倍率が1.0を超える県ですが,その数は13県です(赤色)。青色の14県では,教員給与が民間より10%以上低くなっています。

 ボーナスも含めた年収だと違うかもしれませんが,月収の比較だとこんな感じです。おおよそ,教員給与が民間より高いとは言えなそうですね。

 教員の待遇改善を考えるデータにしていただけたらと思いますが,教員を「魅力ある職業」に映じさせるならば,教員になるための経済的障壁をなくすのも手です。教員養成大学の学費を無償にする,ないしは教員になったら奨学金の返済を免除するなどしたらどうでしょう。

 いずれも,過去において為されていたことです。冒頭で書いたように戦前の師範学校の学費は無償でしたし,90年代初頭までは,教育公務員になったら日本育英会(現・日本学生支援機構)の奨学金の返済は免除されていました。

 全国一律でなくとも,こういう実験をする国立大学が出てきたら面白い。もしかしたら,優秀な学生がどっと押し寄せるかもしれません。わが母校,教員養成の老舗の東京学芸大学が先陣を切ってみたらどうでしょう。

 前に,ニューズウィーク記事で書いたことありますが,日本は,優秀な学生を教員に引き寄せるのに成功しています。労働時間がメチャ長く,給与もさほど高くないのに,これは軌跡と言っていいかもしれません。教員という崇高な仕事への憧れでしょうか。しかし,こういう感情によりかかるやり方は綻びを見せつつあります。

 優秀な若者を教員に引き寄せるにはどうしたらいか。経済的な困窮が広がっている今,行政がやってみるべきことは多そうです。

2021年9月28日火曜日

性犯罪の何%が裁判になるか?

  性犯罪に関する法改正が議論されています。細かい内容は各紙の報道に譲りますが,基底的な問題意識は,性犯罪がきちんと裁かれていないのではないか,ということです。いわゆる「暗数」が非常に多いことも,よく知られています。

 こういう現実を印象や肌感覚ではなく,データで可視化する(固める)のは意義あることでしょう。そこで,タイトルのような問いを立ててみます。性犯罪の何%が裁判になるか?

 犯人を法廷に立たせるには,①警察が被害届を受理して捜査に踏み切ること,②犯人が検挙されること,③検察が起訴すること,という3段階を経ないといけません。この3つの関門を通過する率を出し,かけ合わせることで,上記の問いへの答えが得られます。

 まずは①です。2019年1~2月に法務省が実施した『第5回犯罪被害実態(暗数)調査』によると,16歳以上の女性1771人のうち,過去5年間に性犯罪(強制性交,強制わいせつ)の被害に遭ったという人は30人です。被害経験率は1.69%。

 総務省の『住民基本台帳人口』によると,2019年1月1日時点の16歳以上の女性人口は5701万451人。先ほどの比率をかけると,2014~18年の5年間において,性犯罪の被害に遭った女性は96万5733人と見積もられます。推定被害女性数です。

 警察庁の『犯罪統計書』によると,2014~18年の強制性交,強制わいせつの認知事件数は3万7314件。先ほどの推定被害女性数に占める割合は3.86%です。低いですねえ。被害者の大半は警察に行かず泣き寝入り。勇気を出して訴え出ても,「よくあること,証拠がないので難しい」と突っぱねられることも。

 次に②です。警察が捜査に踏み切った事件のうち,どれほどが犯人検挙に至るか。警察庁の同資料によると,2014~18年の強制性交,強制わいせつの検挙件数は2万6645件です。上述の認知件数で割って,性犯罪の検挙率は71.41%となります。

 最後に③です。検挙された犯人は検察に送られますが,このうちの何%が起訴されるか。法務省の『検察統計』を紐解くと,2014~18年の強制性交,強制わいせつの起訴人員は8861人,不起訴人員は1万3823人です。起訴率は,両者の合算に占める起訴人員の割合で39.06%となります。

 これは,他の罪種に比して低い部類です。性犯罪は物証が得にくいためでしょう。近年,(訳のわからない)無罪判決も相次いでいることから,検察も起訴をためらうようになっているのかもしれません。

 これで,①~③の関門の通過率が得られました。太い赤の数字です。この3つをかけ合わせると,「性犯罪の何%が裁判になるか?」という問いへの答えは,1.08%となります。実際に起きている推定事件数の1.08%,93件に1件しか裁判になっていないと。

 この現実がどういうものかを,グラフで表すと以下のようになります。ちゃんと裁かれる事件はほんの一握り,いや一つまみということが,視覚的に分かりますね。


 これでは法治国家ではなく,放置国家です。法改正により,こうした酷い実態が変わることを切に願います。

2021年9月25日土曜日

普通に働いて,これはない

 秋らしく,少し涼しくなってきました。私は今日,近くの医院で2回目のワクチンを打ってきました。ひとまず,コンプリートです。ワクチン接種証明書ももらえ,地元の提携店で見せると割引を受けられるそうです。ありがたや。

 さて,ふと目にしたNHKのニュースによると,コロナ禍の影響で,フリーランスの働き方を選ぶ人が増えているとのこと。正社員として勤めていた先の仕事が減っているためでしょう。あるいは,自宅でPCを使った副業をしてみて,これは本業でいけるかもしれない,という展望を持った人もいるかもしれません。

 しかし,そうは甘くないのが現実。フリーランスのフリーは自由,ランスは兵隊という意味で,元々の意味は「自由兵」ですが,フリーとは「不利ー」で,何の保障もない「不利兵」と揶揄する言い方もあります。上記のNHK記事でも,フリーランスの保護するセーフティネットの整備が不可欠と指摘されています。

 給与も悲惨をきわめています。データで示しましょう。

 資料は,毎度使っている『就業構造基本調査』(2017年)です。コチラの統計表から,有業者の年間所得分布を従業地位別に呼び出せます。正規雇用者,非正規雇用者,そしてフリーランスのデータを出してみます。フリーランスとは,従業地位が「雇人のいない業主」のことです。

 なお労働時間も入れられますので,普通に働く人だけを取り出してみましょう。年間の就業日数が250~299日,週の就業時間が43~48時間という人に限定します。月に22日,1日あたり8~9時間ほど働いている人達です。あと一つ,性別も組み込み,男性と女性に分けます。言わずもがな,稼ぎには大きな性差があるからです。


 全体を100とした%値ですが,どうでしょう。赤字は最頻階級で,男性正規は300万円台,非正規・フリーは200万円台,女性正規は200万円台,非正規は100万円台,フリーは100万円未満です。

 これは,家計補助やお小遣い稼ぎの短時間労働は含んでいません。月22日,1日8~9時間ほど働いているフルタイム就業者のデータです。それでこの有様とは,少ないなあという印象です。最近よく言われる「安いニッポン」が数字で出ています。

 フリーランスをみると,男性の31.6%,女性の72.4%が200万円に達しないプア,フルタイム・ワーキングプアです。フリーランスは労働時間の際限がなくなりがちで,かつ給与の未払いなども横行しています。こういう搾取に遭いやすいのは,とりわけ女性のフリーランスです。

 上記の分布から中央値(median)を計算してみましょうか。本ブログを長くご覧の方は,分布から中央値を出すやり方はご存知かと思いますが,久しぶりですので,算出方法を説明します。男性のフリーランスを例にします。


 真ん中の%分布は,最初の表と同じです。右端はそれを累積したもので,中央値(累積%=50)は,所得200万円台の階級に含まれることが分かります。按分比例を使って,それを割り出します。以下の2ステップです。

 按分比=(50.0-31.6)/(56.3-31.6)=0.7437
 中央値=200万円+(100万円×0.7437)=274.4万円

 フルタイムで働く男性フリーランスの所得中央値は,274万円と出ました。同じやり方で,他のグループの所得中央値を算出すると以下のようになります。

 男性正規 = 420.3万円
 男性非正規 = 259.5万円
 男性フリーランス = 274.4万円

 女性正規 = 297.1万円
 女性非正規 = 204.1万円
 女性フリーランス = 137.7万円

 日本において,普通に働く労働者の年間所得中央値です。「1日8~9時間働いて,これはないやろ」って感じです。

 言い忘れましたが,『就業構造基本調査』の用語解説によると,年間所得は税引き前のだそうです。つまり手取りの額はこれよりもっと少ないことになります。開いた口がふさがりません。

 これでいて,税金や住居費(家賃)等の基礎生活費は増えているのですから,国民の生活は実に苦しい。私自身,何の後ろ盾もないフリーランスの働き方をしてますが,身をもって感じます。国保なんかは本当に重いです。会社員の方には分からんでしょうね。

 その一方で,企業の内部留保は過去最高と聞きます。某企業の社長さんが言われてますが,こういう時期こそ,内部留保を取り崩し,従業員に還元すべし。ここまで給与が安いと,国民の購買力が下がり,モノが売れなくなります。海外からも労働力が来なくなります。商品を売る,必要な労働力を確保する,この2つの面において,痛手を被ることになります。要するに,自分たちに返ってくるのです。

 普通に働けば普通の暮らしができる社会を。もっと具体的に言えば,「1日8時間の労働で,普通の暮らしができる社会」が望まれます。選挙の公約でよく聞きますが,日本の現状は程遠く,時代と共に遠ざかってすらいます。

 この秋,衆院選が実施されますが,この基本がマニフェストに盛られているか。私が真っ先に注目するのはココです。

2021年9月1日水曜日

家庭の通信環境の不足

  久々の更新になります。9月になり,急に涼しくなりました。今後の週間予報をみても,30度を超える真夏日にバックすることはなさそうです(横須賀市)。初秋です。

 今年4月実施の『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。去年はコロナの影響で中止でしたが,今年は実施されたようです。詳細な資料は,国立教育政策研究所のホームページで見れます。

 例年通り,新聞では平均正答率の都道府県順位に注目されてますが,私はあまり興味を持ちません。教科の学力調査の他に,児童生徒や学校を対象とした質問紙調査も実施されていて,こちらのほうに興味深い設問が盛られています。昨年4月以降,コロナ禍にどう対処したか,どういう教育活動を行ったかなどです。感染症拡大のような異常事態が起き,学校はどうなったか,どういう課題が浮き出てきたか。大事なのは,この経験データ(fact)をちゃんと総括することです。

 周知のとおり,昨年は全国の学校が臨時休校を迫られました。それに伴い,オンライン授業などが導入されたのですが,なかなか一筋縄ではいかなかったようです。円滑な実施を妨げたのは,十分な通信環境がない家庭が少なくないこと。これを受け,今年の質問紙調査(学校対象)では,2020年4月以降のコロナに伴う臨時休校中,家庭でのICT学習に際して,課題となったことを問うています。

 ①家庭の端末(PC等)が不足,②家庭の周辺機器(ウェブカメラ等)が不足,③家庭の通信環境(無線LAN等)が不足,ということが,オンライン教育の足かせになった学校はどれほどか。小学校の回答分布を図示すると,以下のようになります。


 公立,国立,私立に分けて分布を示しました。量的に圧倒的に多い公立をみると,支障として「当てはまる」と答えた学校の率(赤色)は,家庭の端末の不足が48.0%,家庭の周辺機器の不足が52.0%,家庭の通信環境の不足が41.5%,となっています。

 なるほど,メディアで報じられた通り,PCがない,ウェブカメラがない,Wi-fiがない家庭が多く,困り果てたという学校が多いようです。義務教育の公立小学校には,社会の全ての階層の子どもが通っていますが,赤色が半分近くまで垂れている様に,子どもの貧困の広がりが出ているようです。

 しかし,ごく限られた階層(約1%)の子弟が通う国私立小となると,様相は違っていて,家庭の端末・機器・通信環境の不足がネックになったという学校は,公立と比して少なくなっています。身もふたもないですが,通っている児童の階層構成の違いが出ていますね。ホンマもんのICT格差です。とはいえ,私立といえど,「当てはまる」ないしは「やや当てはまる」と答えた学校の率は小さくはないですが。

 いわずもがな,小学生の99%は公立の児童ですので,深めたいのは公立校のデータです。上図は全国の結果ですが,地域による違いもあります。家庭の端末不足,機器不足,通信環境不足が支障になった学校のパーセンテージを,47都道府県別に出してみると,これがまた一様でない。以下に載せるのは,「当てはまる」と答えた公立小学校の割合の一覧です。高い順に並べています。


 どうでしょう。端末の不足がネックになった学校の率は66.3%~33.9%,機器の不足は70.8%~38.9%,通信環境の不足は65.8%~23.3%のレインヂがあります。

 50%超の数字には色をつけましたが,情報機器の不足で困ったという学校が半分を超える県は35県にもなります。Webカメラとかは高価ですからね。これがないという家庭は少なくないでしょう。経済的に余裕のない家庭は,たやすく持てるものではありますまい。

 児童の家庭のリソース不足がネックになった学校の率は,地方で高く,都市県で低い傾向もあります。3つの肯定率とも,各県の県民所得と有意なマイナスの相関係数が出ます。県単位のデータから演繹するのは難しいですが,子どもの貧困が影を落としている可能性もあるでしょう。東京都内の区別のデータが出せれば,もっとはっきりしたことが言えそうですが,私の手では叶いません。個票データが手元にあるお偉いさん,ぜひ分析してみてください。貧困世帯へのICT支援の必要性を支持する,揺るぎないエビデンスになります。

 地方の郡部では,ウェブカメラ等の機器の普及率も低そうです。しかし,こうした機器を必要としているのは,田舎の子どもたちです。空間を越えた遠隔教育の行う上で必須のアイテムです。前から言ってますが,とくにへき地にあっては必須の学用品と捉え,用意できない家庭には,就学援助の範疇で支給ないしは貸与すべきかと思います。文科省も認識してきるようで,援助費目として「オンライン学習費」が加えられてはいますが。

 コロナ禍によって,教育の情報化を進める上での課題がくっきりと浮かび上がりました。家庭のリソース不足はその最たるもの。「1人1台端末」のGIGAスクール構想など手は打たれていますが,令和の時代の学校教育を国際水準にキャッチアップさせていくには,人為的な支テコ入れをもっとしないとなりますまい。

2021年7月27日火曜日

悩みを相談しない

  夏も本場,学校も夏休みに入ったみたいで,登下校の小学生とすれ違うこともなくなりました。

 夏休みといえば「宿題」ですが,私も,ここ毎日「宿題」をやっている感覚です。社会科の教員採用試験の要点整理集の改訂で,あとちょっとで世界史が終わるところです。カレンダーに予定を書き込んで,そのペースに沿ってやっています。私は,物事を計画的に仕上げていくのは性に合っています。

 朝から夕刻まで,この宿題の日々で,ツイッターやブログの更新が少なくなってますが,ツイッターに上げた図表のネタを書いておきましょう。タイトルのごとく,悩みを相談しない日本の若者についてです

 コロナ禍で辛い日々が続いてますが,困りごとや悩みは相談することが大切。自分で抱え込み,先行きを勝手にシュミレートして,自分と対話しても碌な答えは出てきません。客観的(楽観的)な見方ができる他人に,きちんと言語化してはき出すこと。これに尽きます。

 ところがデータで見ると,日本の子ども・若者には,これをしない人が多い。2018年の内閣府の国際意識調査で,13~29歳の子ども・若者に対し,「悩みがあっても,誰にも相談しない」という項目に,当てはまるか否かを問うています。「はい」と答えた人の率をグラフにすると以下のごとし。男性と女性に分け,年齢層ごとのパーセンテージをつないだものです。


 日本の折れ線(赤色)は,他国より高い位置にあります。とくに男性は顕著です。悩みがあっても,人に相談しない人の率が高くなっています。20代後半の男性は33%,女性は21%です。

 前にデータを出しましたが,「人に迷惑をかけるな」と言い聞かされて育ってますからね。とくに男子は,「弱音を吐くべからず」という有形・無形の圧力を感じ取っているのでしょう。

 こういう国民性を意識してか,政府の『自殺対策白書』では,学校において「SOSの出し方教育」を行うことを推奨しています。困った時は遠慮せずSOSを出しなさい,一人で抱え込んではいけません,ということです。

 自己責任論や根性論にとらわれて,SOSを出せない子どものメンタルもほぐさないといけませんが,同時に,「SOSの受け止め方」も問わねばなりますまい。当の子どもは,相談したところで説教をされるだけ,事態がかえって悪化するだけと思っているのかもしれません。

 子どもの場合,悩みの相談相手としては,親や教師が想起されますが,日本の10代に「悩みを誰に相談するか」を問うと,これらを選ぶ子の率は低くなっています。代わりに高いのは…? 以下のグラフを見てください。


 日本の子は,友人に相談するという回答の率が他国と比して高くなっています。言い方がキツイですが,親や教師はあまり頼りにされていないのかもしれません。「親や先生に相談したって…」と思っているのかもしれないですね。

 文科省の自殺対策の手引では,悩みの相談相手として友人が多きな位置を占めることを認識し,悩みをしっかり受け止める「傾聴」の仕方を生徒に教えるべき,と指摘しています。結構なことですが,教師や親にも手ほどきが要るのではないでしょうか。子どもが相談してきた時,話を決して遮ったりせず,まずはじっくりと聞くことです。

 来年度から成年年齢が18歳に下げられることに伴い,消費者被害の増加も懸念されます。今以上に,ためらうことなく悩みを相談できる環境をつくらないといけません。責任,自由に加えて支援の3点を。

 「悩み上がっても,誰にも相談しない」。こういう傾向を,国民性や文化(これとても,上の世代が下の世代に植え付けているのですが)のせいだけにせず,子どもを取り巻く周囲の「SOSの受け止め方,気付き方」の問題ともみるべきでしょう。

2021年7月16日金曜日

県庁所在地の基礎生活費

  日経新聞WEB版に「地方移住,こんなはずでは,増える支出に落とし穴」という記事が出ています。内容は推して知るべし。生活費が安くなるからと移住したもの,光熱・水道費や自動車関連費がかさんで,かえって支出が増えてしまった,という体験談です。

 そうですねえ。東京からの移住の場合,住居費は確実に安くなるでしょうが,光熱・水道費は上がりそうです。田舎はプロパンガスが多いですが,都市ガスより高いですからね。水道も,維持費の関係で田舎では割高です。自動車の費用は言うまでもません。公共交通網が発達している東京と違って,地方では車は必須です。維持費がバカになりません。

 データで総決算の比較をすると,どうなるでしょう。『家計調査』に,2人以上世帯の年間支出額平均が47都道府県の県庁所在地別に出ています。2020年のデータは,コチラの統計表です。私は,①住居費,②光熱・水道費,③鉄道・バス費,④自動車関連費の4つを,各県の県庁所在地別に呼び出しました。③を入れたのは,都市部では自動車は要らずとも,公共痛交通機関の費用が要ると考えるからです。

 手始めに,東京23区と,私の郷里の鹿児島市を比べてみましょうか。背比べの積み上げグラフにすると以下のごとし。


 住居費は鹿児島市が安いですが,自動車関連費用がかかります。しかしトータルでみると,鹿児島市の方が安いですね。上記は2人以上世帯の年間支出額ですが,平均世帯人員は東京23区が2.97人,鹿児島市が2.92人ですので,家族サイズを考慮しても鹿児島市のほうが割安です。

 郷里をひいきするのではないですが,きたれ,鹿児島へ。生活費が安いのに加え,食べ物も美味い!

 しかし47都道府県の県庁所在地のデータを眺めると,東京区部より割高なエリアも見受けられます。以下は一覧表です。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。住居費は東京がマックスですね。光熱・水道費は寒い北国で高くなっています。鉄道・バス費は都市部で高く,自動車関連費はその逆です。

 47都道府県の県庁所在地の基礎生活費は,4つの費目の合算を平均世帯人員で割った値で測れます。東京区部は,4つの費目の合算は81.25万円で,世帯人員は2.97人ですので,1人あたりの基礎生活費は27.36万円となります。鹿児島市は24.62万円です。

 47都道府県の県庁所在地の数値を,高い順に並べると以下のようになります。


 東京がマックスではないですね。上位というのでもなく,中よりちょっと上という位置です。首位は住居費と自動車費がともに高い福岡市で,その次は鳥取市です。鳥取市では車関連の支出が多い(年額55.8万円)。

 右下をみると,関西圏では基礎生活費が安上がりですね。京都市は19.14万円で,福岡市の半分くらいです。学生の街ですが,これは2人以上世帯のデータに基づく数値なんで,単身学生は除外されています。

 冒頭の日経新聞でも言われてますが,移住しようとしているエリアのデータを調べてみるのもいいでしょう。

 地方の郡部では,光熱・水道費や自動車費がもっと高くなると思われます。随所で言われていますが,移住はまず地方都市からで,それを経てから郡部に移るという2ステップを踏んだほうがよさそうです。郡部には「濃すぎる人間関係」という,別のコストもありそうですしね。

 『家計調査』からササっとこしらえたデータですが,生活費が「都市>地方」とは単純には言えないようです。

2021年7月9日金曜日

洋服への支出減少

  コロナが渦巻いて久しいですが,それが社会にどういう影響を与えたか,可視化できるデータが溜まってきています。

 私はこれまで,社会病理学を専攻する立場から自殺者数に注目してきました。コロナ前の2019年と2020年を比較すると自殺者は増えています。性別にみると,男性では微減ですが,女性では増加です。さらに年齢も加えると,若い女性で増加率が高くなってます。女子高生では1.8倍です。データと背景の考察はコチラの記事で。

 なお,総務省の『家計調査』も使えます。お金をどれほど使っているか,どういう品目に使っているかです。コロナになってから外出自粛が要請されるようになり,経済停止により家計も厳しくなっているとみられます。こういう条件が出てくると,家計はどう変わるか。

 まずは使うお金の額です。上記の資料によると,2人以上世帯の消費支出額(年間平均)は,2019年は352万547円,2020年は333万5114円となっています。コロナ禍になってから減ってますね。しかし観察のスパンをもっと広げると,今世紀初頭の2000年では380万7937円です。平成不況で収入が減っているためか,消費に使うお金も長いスパンでみて減ってきています。世帯の高齢化の要因もあるでしょうが。

 中学の社会科で習うレベルですが,生活が苦しくなると必須度の高い品目への支出は維持ないしは増える一方で,そうではない品目(奢侈品)への支出は減ります。前者の代表格は食費で,後者としては,たとえば洋服なんかはどうでしょう。

 トータルの消費支出額,食費,および洋服の支出額の変化をグラフにしてみます。2人以上世帯の年額平均で,始点の2000年を100とした指数にしています。コチラの統計表からデータを作成しました。

 今世紀になって,新自由主義政策の影響もあってか国民の生活は苦しくなり,それゆえ消費支出額は減っています。2019年から2020年の減り幅が大きく,コロナの影響も出ています。具体的な額は上述の通りです。

 食費はというと,こちらは増えていますね。消費支出全体に占める割合(エンゲル係数)もアップしており,消費が必須品に偏るようになっている,すなわち生活が苦しくなっていることが,この点からも汲み取れます。

 さてあと一つの洋服への支出額ですが,こちらは消費支出全体よりも速いスピードで減少しており,コロナの影響もよりハッキリ出ています。2000年では8万243円でしたが,2019年は5万9473円,2020年は4万3886円です。

 洋服は,外界の温度変化(暑さ,寒さ)への適応という機能もありますが,おしゃれや見栄のツールとしての機能もあり,時代につれてこちらが強くなってきています。収入が減り,かつコロナで人と会えなくなっているとなったら,この財への支出が減るというのは道理です。

 生活が苦しくなったらどうなるか? この20年間の変化ですが,教科書セオリーがはっきり可視化されるものですね。中学の社会科の資料集にでも載せていただきたいグラフです。

 洋服への支出額ですが,47都道府県別の変化も見ておきましょう。県別のデータは2007年からとれます。2007年と2020年の県別データを高い順に並べ,左右に並べてみます。県別のデータも,上記リンク先の統計表で得られます。


 若者が多い都市部で高い傾向かなと思いますが,最低値は両年とも沖縄ですね。年中暖かく,軽装だからでしょうか。

 ご自分の県の値をみていただければと思いますが,注目いただきたいのは表の色つき範囲です(薄い色は5万円台,濃い色は6万円以上)。2007年ではほとんどの県が5万円以上で,36の県で6万円を超えていました。それが2020年では,5万以上が11県,6万以上は3県しかありません。

 上記のデータは地図化してツイッターにあげています。コメントにもありますが,こういうマップも,国全体が貧しくなっていることの可視化です。洋服を買う量が減っているのか,それとも安いやつで済ませているのか,そこまでは判別できません。

 あと一つのデータを示しましょう。洋服といってもいろいろありますが,中でも減り幅が大きいのは,スーツ関連です。背広,ワイシャツ,ネクタイへの年間支出額はどう変わったか。最初のグラフと同じく,2000年の値を100とした指数のグラフにします。


 すごい減りっぷりですね。ネクタイに至っては,この20年間で8割の減少です(1595円→307円)。クールビズとやらで,夏場,ネクタイをする頻度が減っているのもあるでしょう。

 収入の減少で,以前は老舗で高級品を買っていたのが,最近は安いやつで済ませるようになっているのもあるでしょうが,働き方の変化も大きいでしょう。今はオフィスでもカジュアル化が進んでますし,雇用労働自体が減ってきています。

 お金の使い方の変化にも,時代の変化がハッキリ表れるものです。