2021年12月4日土曜日

社会科教員の女性比率

  ジェンダー平等という言葉が,今年の流行語になりました。関心が高まっているのは,これまで不問にされていたこと,肌感覚のレベルで何となく認識されているだけのことが,客観的なデータで可視化されているからだと思います。

 そのデータの最たるものは,国別のジェンダー平等指数です。日本の国際的な位置が無様なのは毎年のことで,分野別にみると政治分野がとくに酷い。国会議員など,政治家の女性比率が著しく低いことを思うとさもありなんです。最近知ったのですが,若者参画意欲にも性差があります。「政策決定に参画したいとは思わない」と考える20代の率は,男性では44%ですが,女性では63%なり(内閣府『我が国と諸外国の若者の意識調査』2018年)。他国では,ここまで大きな性差はありません。

 これがなぜかについて,女子は頭を押さえつけられて育つとか,政治の話を女子がすると変な目で見られるとか,世間一般で言われることを強調しても,あまり生産的ではありません。井戸端談義ではなく,データで可視化でき,かつ政策で変えることができるような要因に注目することが望ましい。

 ここでは,進路選択を控えた女子生徒が目にする職業モデルについて考えてみます。政治や経済について語る女性,具体的に言うと,学校で社会科を教える女性教員です。こういうロールモデルに多く接するならば,女子生徒の政治的関心も高くなるでしょう。はて,社会科教員の女性割合は,現状でどれほどなのでしょうか。おそらく低いと思われますが,具体的なパーセンテージはあまり目にしませんよね。

 文科省の『学校教員統計』に,各教科を担当している教員の割合が出ています。2019年の高校のデータを見ると,本務教員のうち,国語を担当している教員の割合は男性で9.0%,女性で19.2%となっています(こちらのサイトの表55)。ベースの本務教員数は,男性が15万2446人,女性が7万1592人ですので,先ほどの比率をかけて実数にすると,国語担当教員は男性が1万3720人,女性が1万3746人と見積もられます。ほぼ半々ですね。

 では,他の教科はどうか。同じやり方で,各教科の担当教員の実数を男女別に推計し,性別構成のグラフにすると以下のようになります。タテの点線は,全教員でみた女性割合です(32.0%)。


 国語はちょうど半々ですが,教科によって違いますね。男性より女性が多い教科は,音楽,書道,家庭,福祉で,それ以外は男性が多し。よく知られれていることですが,数学や理科教員の女性比率は低くなっています。理系に進む女子を増やすにあたって,これをどうにかしないといけないことは,前から繰り返し申してきました。

 しかし,もっと女性比率が低い教科があります。何と何と,公民ではないですか。公民を教える高校教員のうち女性は14.0%で,どの教科よりも低くなっています。このデータをツイッターで発信したところ,「これは知らんかった」と驚かれましたが,私もそうです。政治や経済について説く女性のロールモデル,学校で女子生徒になかなか見せられない。こういう現実が,データで露わになりました。

 日本よりジェンダー平等が進んでいる海外ではどうでしょう。国際比較は中学校段階でしかできませんが,アメリカの中学校の社会科担当教員に占める女性の割合は61.8%で,日本の26.1%よりだいぶ高くなっています(OECD「TALIS 2018」)。中学校教員全体の女性比率は,アメリカが65.8%,日本は42.2%。アメリカの社会科教員の女性比率は全教員と接近してますが,日本はさにあらず。全教員の女性比率は42.2%なのに,社会科教員だと26.1%でしかない。このズレに,社会科教員に女性がなりにくいことが表れています。

 以下は,主な7か国のデータです。個票データに当たらずとも,こちらのサイトのリモート集計で作れます。ドイツは,「TALIS 2018」には参加してません。


 全教員の女性比と,社会科教員の女性比がどれほどズレているかですが,日本以外の国では接近していますね。女性が社会科教員になりやすい度合いは,後者を前者で割った値で測られます。男女で均等ならば,表のaとbの値は等しくなり,よって1.000となるはずです。日本は0.618で,通常の期待値(1.000)をかなり下回っています。

 7か国だけでは心もとないので,比較の対象をもっと増やしましょうか。以下に掲げるのは,データが得られる48か国について,女性教員輩出度(上記の表の右端)を算出したものです。社会科教員の女性比が,全教員の女性比の何倍か。高い順に並べています。


 女性が,社会科教員にどれほどなりやすいかの指標(measure)です。20の国で1.0を超えていますね。男性よりも女性が,社会科教員になる傾向がある国。首位のニュージーランドは,全教員の女性比率は65.4%ですが,社会科担当教員のそれは72.7%です。

 その対極にあるのは日本で,算出された値は0.618と,48か国の中で最も低くなっています。女性が社会科教員になりにくい国,女子生徒に,政治や経済について説く女性のモデルを見せられない国です。そもそも社会科教員の女性比率が26.1%などというのも,国際標準からすれば異常で,上表の48か国のうち45か国で50%(半数)を越えています。

 こうなるともう,アファマーティブ・アクションの考えのもと,教員採用試験でも,社会科教員への女性の採用者数を意図的に増やす策も必要かもしれません。政治分野でのジェンダー平等を促進するというビジョンにおいてです。

 中高では教科担任制なんですが,各教科について教壇で説く教員の性別構成は,生徒の職業志向に少なからず影響を及ぼす「隠れたカリキュラム」と言えます。最初のグラフで,高校の教科別の教員の性別構成を示しましたが,これが社会の職業構成ときっかり対応してるんですよね。高校生にとって,ロールモデルの影響は大きい。

 ジェンダー不平等の要因はたくさんあり,大きくは社会の文化といった抽象度の高い次元に還元されますが,まずは,政策で変えやすい次元にまで降りてみることです。学校の教員のジェンダーアンバランスはその最たるもので,まずはこの部分から人為的に変えるべきかと思うのですが,どうでしょうか。

 しかし何と言いますか,他国と比較すると,自国の状況が「自然なこと,仕方ないこと」と割り切ってはいけないことが分かりますね。これぞ国際比較の意義で,止めることはできません。

2021年11月26日金曜日

母子世帯の生活保護減少の謎

  生存権の最後の砦の生活保護ですが,時代と共に受給世帯は増えてきています。

 厚労省『被保護者調査』によると,1995年度の受給世帯数(月平均)は約60万世帯でしたが,10年後の2005年度に100万世帯を超え,2014年度には160万世帯に達しました。平成の「失われた20年」にかけて,生活に困窮する世帯が増えたためです。

 しかしそれ以降は横ばいです。コロナ禍の昨年は増えただろうと思われるかもしれませんが,2019年度は162万7724世帯,20年度は162万9522世帯で,ほんの微増にとどまっています。困り果てている人は間違いなく増えているはずですが,生活保護の受給世帯数はほとんど変わっていない。2019年7月から2021年7月までの受給世帯数のグラフ(月単位)を描くと,ほぼ真っ平です。最近の生活保護の機能不全については,先週のニューズウィーク記事で書きました。

 ここで書くのは,その続きです。生活保護を受給している世帯は,類型別にみると,①高齢者世帯,②母子世帯,③障害者・疾病者世帯,④その他の世帯,に分かれます。この4つのタイプごとに保護受給世帯の推移をみると,近年において明らかに減少傾向の世帯があります。母子世帯です。

 1995年度の受給世帯数(月平均)を100とした指数のグラフを描くと,以下のようになります。生活保護受給世帯総数,そのうちの母子世帯のカーブです。母子世帯とは,母親と18歳未満の子からなる世帯をいいます。


 2010年頃までは,ほぼ同じペースで増えていましたが,母子世帯の保護受給世帯は2012年をピークに減少傾向です。2012年度は11万4122世帯でしたが,2020年度は7万5646世帯と,3割以上減じています。2019年度は8万1015世帯だったので,コロナ禍であっても,6.7%減ったことになります。母子世帯だけね。

 コロナでダメージを被ったのは女性です。販売やサービス産業で非正規雇用女性の雇止めが激増し,困窮しているシングルマザーは増えているはず。常識的に考えれば,母子世帯の生活保護受給世帯は増えるはずですが,現実はそうでなく横ばいどころか減少です。減少ペースも,コロナ前と変わっていません。

 そもそも,この10年ほどで全体の傾向と乖離して,母子世帯の保護受給世帯だけが明らかに減少傾向であるのも不可解です。母子世帯をターゲットにして,生活保護の削減が図られているのではないか。京都府の亀岡市では,こういう疑いをもって,市民団体が調査に乗り出すとのことです(京都新聞,10月26日)。ぜひ,真相を明らかにしてほしいと思います。

 母子世帯の生活保護受給世帯が減っている(減らされている?)ことと関連し,提示しておきたいデータがあります。子どもの貧困率が,2人親世帯と1人親世帯でどう違うかです。貧困率とは,年収が全世帯の中央値の半分に満たない世帯が何%かです。

 OECDの「Family Database」から,18歳未満の子がいる世帯の貧困率を,2人親世帯と1人親世帯に分けて知ることができます。以下の表は,日本を含む43の国を高い順に並べたものです。


 日本の子どもの貧困率は,2人親世帯は11.2%ですが,1人親世帯は48.3%と半分近くになります。その差は40ポイント近くで,日本は両者の差が大きい社会です。貧困が1人親世帯に集中する度合いが高い国と言っていいでしょう。

 日本のシングルの親はフルタイム就業がしにくい,賃金が激安(とくに女性)。1人親世帯の貧困率の高さは,こういう要因によると考えられていますが,知られざる別の可能性も見えてきました。これが,母子世帯への公的扶助を意図的に削減することでもたされているなら,それこそ大問題です。子どもの貧困がつくられていることになります。

 困り果てている人が増えているのに,我が国の生活保護の受給世帯総数は横ばいで(定員制?),母子世帯の限ると明らかな減少傾向がある(狙い撃ち?)。近年の生活保護の運用実態について,外部による厳格な検証が入るべきです。その先陣を切った,京都府亀岡市の市民団体には敬意を表します。

2021年11月4日木曜日

社会に不満だが,政治参画はしたくない

  衆院選が実施されました。投票率は55%で,戦後で3番目に低い低い水準だったそうです。年齢層別のデータはまだ公表されてませんが,前回(2017年)の結果から推測するに,20代は3割ほどでしょう。

 豊かな国・日本では,若者は社会への不満を持ってないのかというと,そんなことはありません。内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識調査』(2018年)によると,日本の20代で「自国の社会に不満がある」と答えたのは49.3%と,半分弱います。アメリカの33.5%やイギリスの39.5%よりも,だいぶ高し。

 年功序列の日本では,若者は能力に関係なく低い給与で働かされます。最近ではあまりに安くなっていて,実家を出ることもできぬほど。高齢化の進行で税金もガッポリ取られ,自分たちが高齢期に達した頃には,年金すらもらえない可能性もある。日本のユースが,社会に不満を持つのは道理です。

 こうした状況を変える合法的な手段は政治参画ですが,日本の若者はその意欲も低い。上記の調査によると,日本の20代の53.7%が「主権者として,国の政策決定に参加したくはない」と答えています。アメリカ(23.6%)やイギリス(27.3%)よりも高し。

 社会の不満が高い一方で,政治参画への参加は忌避する。厄介なのは,この2つが重なってしまうことです。こういう若者が,全体の何%いるか。上記調査の個票データを使って,明らかにしてみましょう。個票データは,コチラのページから申請すれば送ってくれます。

 社会への満足度を問うた設問は問25,政策決定への参加希望を問うた設問は問24-2です。日本の20代サンプルを取り出し,この2つの設問への回答をクロスすると,以下のようになります。


 合計680人の未加工データです。この表から,以下の3つの数値が得られます。

 社会への不満がある者の率
 =(208+127)/680=49.3%
 政策決定に参加したくない者の率
 =(210+155)/680=53.7%
 両方に当てはまる者の率
 =(87+44+24+39)/680=28.5%

 社会への不満があるが,政策決定には参加したくない。こういう人が,日本の20代では28.5%(4人に1人)ですか。思う所を書く前に,上記の3グループの量的規模が視覚的に分かるグラフを載せましょう。

 ツイッターでも発信した,正方形の面積図です。日本の特徴を知るため,アメリカの図との対比にします。


 青色が社会に不満,赤色が政治参加忌避の量的規模で,緑色のゾーンが両者の重なりです。社会への不満があるが,政策決定には参加したくない。アメリカの20代では9.6%ですが,日本ではその3倍の28.5%であると。

 内閣府調査の対象は7か国ですが,他国のパーセンテージも示しておきましょう。

 日本=28.5%
 韓国=19.7%
 アメリカ=9.6%
 イギリス=14.6%
 ドイツ=12.2%
 フランス=18.5%
 スウェーデン=17.2%

 日本が最も高くなっています。社会への不満は持ちつつも,それを変える政策決定への参加は欲しない。日本の若者は厳しい状況に置かれていますが,ひたすら現状を耐え忍び,それが限度に達し,自らを殺めてしまう者もいる。日本の20代の死因首位は自殺で,こういう社会は他に類を見ません。

 さらに怖いのは,腹の底の不満(マグマ)が,非合法の方向を向いてしまうことです。暴動やテロなどですが,昨今続発している,若者による無差別刺傷事件をみると,その兆候が感じられます(小田急,京王線事件)。

 図の緑色のゾーンが広まるのは,恐ろしいことだと思います。日本の若者は,なぜ政治参画を欲しないか。よく言われることですが,日本人は幼少期から「出しゃばるな」と,頭を押さえつけられながら育ちます。学校でも校則でがんじがらめで,変に異議を申し立てると碌なことがない。こういう状況が継続することで,「従っていたほうがまし,政は偉い人に任せよう」というメンタルが植え付けられます。

 学校というのは実社会のミニチュアで,日本の学校では児童会・生徒会活動など,民主主義の主権者としての振る舞い方を学ぶカリキュラムも組まれています。こういう場において,校則について協議してもよいでしょう。よくない所は,話し合いで変える。大事なのは,こういう経験をさせることです。校則を,主権者教育の題材として使うことができればしめたもの。

 教科である公民教育の役割も大きい。政治参画によって社会は変えられることを,具体的な事例でもって示す必要があります。政治参画の手段は投票だけでなく,陳情や署名なども含まれ,生徒が馴染んでいるSNSはそのツールとして機能します。SNSに書き込んだ思いが政治家の目にとまり,政策の実現につながった例もあり。案外,生徒はこういうことも知らぬものです。

 社会への不満(思い)を,政治的関心に昇華させる。これができていないのが,日本の若者の特徴といえます。

2021年10月7日木曜日

教員給与の相対水準(2019年)

  戦前の教員養成は,師範学校で行われてました。学費は無償で,生活費も支給。勉強が好きでも,家が貧しくて,旧制中学等の上級学校に進学できない子どもの受け皿として機能していました。

 その上,卒業後の教員就職率はほぼ100%。至れり尽くせりの感があります。

 しかるに,それでも生徒の集まりはよくありませんでした。理由は,教員の待遇がものすごく悪かったからです。私は2012年頃,図書館通いをして,戦前の教員問題の新聞記事を収集していましたが,「食物さへ十分でない」「弁当はパン半巾」「結核死亡率高し」「一家離散」といったタイトルの記事がわんさと出てきました。教員になるのを強いられた青年が自殺する事件も起きていました。

 戦後になっても,本業の給与だけでは食えず,同僚や教え子に見つからぬかとビクビクしながら,靴磨きのバイトに精を出す教員もいました。高度経済成長期でも,民間と比した薄給は明らかで,「デモシカ教師」という言葉が流行ったのはよく知られています。

 これではいけないと,70年代に教員の待遇を改善する法律ができ,状況は次第に改善されてきました。昔のように,絶対的貧困の状況に置かれる教員はいません。ですが,民間と比してどうなのかということは,データであまり明らかにされていません。目下,教員不足を解消するため,教員を魅力ある職業にするという方針が掲げられてますが,給与はどうかというのも無視できぬ要素です。

 教員の給与は,文科省の『学校教員統計』に出ています。最新は2019年ですね。このページの表26から,公立小学校本務教員の平均月収が分かります。諸手当は含まない本俸です。2019年6月の公立小学校男性教員の平均月収は34.9万円です。当然,全国一律ではなく自治体によって違います。元資料には,47都道府県別の数値が出ています。


 東京は33.1万円,私の郷里の鹿児島は37.0万円ですね。大都市より地方が高いことに疑問を持たれるかもしれませんが,これは年齢構成の違いによります。団塊世代の退職により,都市部では若い新採教員が増え,一気に若返っていますからね。平均年齢(見積もり)は,東京は35.9歳,鹿児島は43.5歳なり。

 これを,同年齢の大卒男性労働者の平均月収と比べます。同じく2019年の厚労省『賃金構造基本統計』のデータを使いましょう。公立小学校男性教員の平均月収は34.9万円で,平均年齢は39.7歳(上表)。こちらのページの表1によると,30代後半の大卒男性労働者の所定内月収は37.7万円。小学校教員の月収は,同条件の労働者全体をちょっと下回ります。

 これは全国値に基づく比較ですが,県ごとの比較もしたい。県別の男性労働者の給与は,全学歴のものしか得られません(このページの表1)。そこで,全国値の「大卒/全体」倍率を適用し,各県の大卒男性の給与を推し量ります。30代後半だと,全国の大卒男性の月収は37.7万円,全学歴の男性は32.8万円なんで,倍率は1.147となります。これを,各県の30代後半男性の月収にかけるわけです。

 以下の表は,このやり方で推計した,47都道府県の大卒男性労働者の平均月収です。 


 最初の表によると,東京の公立小学校男性教員の月収は33.1万円で,平均年齢は35.9歳。上記の表によると,東京の30代後半大卒男性の月収は46.3万円。うーん,東京の教員給与は,民間の7割ほどしかないのですね。

 秋田だと,小学校男性教員の月収は39.1万円で,平均年齢は47.4歳(最初の表)。40代後半の大卒男性労働者の月収は36.8万円。秋田では,教員給与が同条件の労働者全体をやや上回ります。

 このやり方で,公立小学校の男性教員の月収を,同条件の労働者全体と比較しました。前者が後者の何倍かという倍率を出し,高い順に並べると以下のようになります。全国値だと,34.9万円/37.7万円=0.925です。


 どうでしょう。最高は岩手の1.16倍,最低は東京の0.715倍です。教員給与が民間を上回るのは倍率が1.0を超える県ですが,その数は13県です(赤色)。青色の14県では,教員給与が民間より10%以上低くなっています。

 ボーナスも含めた年収だと違うかもしれませんが,月収の比較だとこんな感じです。おおよそ,教員給与が民間より高いとは言えなそうですね。

 教員の待遇改善を考えるデータにしていただけたらと思いますが,教員を「魅力ある職業」に映じさせるならば,教員になるための経済的障壁をなくすのも手です。教員養成大学の学費を無償にする,ないしは教員になったら奨学金の返済を免除するなどしたらどうでしょう。

 いずれも,過去において為されていたことです。冒頭で書いたように戦前の師範学校の学費は無償でしたし,90年代初頭までは,教育公務員になったら日本育英会(現・日本学生支援機構)の奨学金の返済は免除されていました。

 全国一律でなくとも,こういう実験をする国立大学が出てきたら面白い。もしかしたら,優秀な学生がどっと押し寄せるかもしれません。わが母校,教員養成の老舗の東京学芸大学が先陣を切ってみたらどうでしょう。

 前に,ニューズウィーク記事で書いたことありますが,日本は,優秀な学生を教員に引き寄せるのに成功しています。労働時間がメチャ長く,給与もさほど高くないのに,これは軌跡と言っていいかもしれません。教員という崇高な仕事への憧れでしょうか。しかし,こういう感情によりかかるやり方は綻びを見せつつあります。

 優秀な若者を教員に引き寄せるにはどうしたらいか。経済的な困窮が広がっている今,行政がやってみるべきことは多そうです。

2021年9月28日火曜日

性犯罪の何%が裁判になるか?

  性犯罪に関する法改正が議論されています。細かい内容は各紙の報道に譲りますが,基底的な問題意識は,性犯罪がきちんと裁かれていないのではないか,ということです。いわゆる「暗数」が非常に多いことも,よく知られています。

 こういう現実を印象や肌感覚ではなく,データで可視化する(固める)のは意義あることでしょう。そこで,タイトルのような問いを立ててみます。性犯罪の何%が裁判になるか?

 犯人を法廷に立たせるには,①警察が被害届を受理して捜査に踏み切ること,②犯人が検挙されること,③検察が起訴すること,という3段階を経ないといけません。この3つの関門を通過する率を出し,かけ合わせることで,上記の問いへの答えが得られます。

 まずは①です。2019年1~2月に法務省が実施した『第5回犯罪被害実態(暗数)調査』によると,16歳以上の女性1771人のうち,過去5年間に性犯罪(強制性交,強制わいせつ)の被害に遭ったという人は30人です。被害経験率は1.69%。

 総務省の『住民基本台帳人口』によると,2019年1月1日時点の16歳以上の女性人口は5701万451人。先ほどの比率をかけると,2014~18年の5年間において,性犯罪の被害に遭った女性は96万5733人と見積もられます。推定被害女性数です。

 警察庁の『犯罪統計書』によると,2014~18年の強制性交,強制わいせつの認知事件数は3万7314件。先ほどの推定被害女性数に占める割合は3.86%です。低いですねえ。被害者の大半は警察に行かず泣き寝入り。勇気を出して訴え出ても,「よくあること,証拠がないので難しい」と突っぱねられることも。

 次に②です。警察が捜査に踏み切った事件のうち,どれほどが犯人検挙に至るか。警察庁の同資料によると,2014~18年の強制性交,強制わいせつの検挙件数は2万6645件です。上述の認知件数で割って,性犯罪の検挙率は71.41%となります。

 最後に③です。検挙された犯人は検察に送られますが,このうちの何%が起訴されるか。法務省の『検察統計』を紐解くと,2014~18年の強制性交,強制わいせつの起訴人員は8861人,不起訴人員は1万3823人です。起訴率は,両者の合算に占める起訴人員の割合で39.06%となります。

 これは,他の罪種に比して低い部類です。性犯罪は物証が得にくいためでしょう。近年,(訳のわからない)無罪判決も相次いでいることから,検察も起訴をためらうようになっているのかもしれません。

 これで,①~③の関門の通過率が得られました。太い赤の数字です。この3つをかけ合わせると,「性犯罪の何%が裁判になるか?」という問いへの答えは,1.08%となります。実際に起きている推定事件数の1.08%,93件に1件しか裁判になっていないと。

 この現実がどういうものかを,グラフで表すと以下のようになります。ちゃんと裁かれる事件はほんの一握り,いや一つまみということが,視覚的に分かりますね。


 これでは法治国家ではなく,放置国家です。法改正により,こうした酷い実態が変わることを切に願います。

2021年9月25日土曜日

普通に働いて,これはない

 秋らしく,少し涼しくなってきました。私は今日,近くの医院で2回目のワクチンを打ってきました。ひとまず,コンプリートです。ワクチン接種証明書ももらえ,地元の提携店で見せると割引を受けられるそうです。ありがたや。

 さて,ふと目にしたNHKのニュースによると,コロナ禍の影響で,フリーランスの働き方を選ぶ人が増えているとのこと。正社員として勤めていた先の仕事が減っているためでしょう。あるいは,自宅でPCを使った副業をしてみて,これは本業でいけるかもしれない,という展望を持った人もいるかもしれません。

 しかし,そうは甘くないのが現実。フリーランスのフリーは自由,ランスは兵隊という意味で,元々の意味は「自由兵」ですが,フリーとは「不利ー」で,何の保障もない「不利兵」と揶揄する言い方もあります。上記のNHK記事でも,フリーランスの保護するセーフティネットの整備が不可欠と指摘されています。

 給与も悲惨をきわめています。データで示しましょう。

 資料は,毎度使っている『就業構造基本調査』(2017年)です。コチラの統計表から,有業者の年間所得分布を従業地位別に呼び出せます。正規雇用者,非正規雇用者,そしてフリーランスのデータを出してみます。フリーランスとは,従業地位が「雇人のいない業主」のことです。

 なお労働時間も入れられますので,普通に働く人だけを取り出してみましょう。年間の就業日数が250~299日,週の就業時間が43~48時間という人に限定します。月に22日,1日あたり8~9時間ほど働いている人達です。あと一つ,性別も組み込み,男性と女性に分けます。言わずもがな,稼ぎには大きな性差があるからです。


 全体を100とした%値ですが,どうでしょう。赤字は最頻階級で,男性正規は300万円台,非正規・フリーは200万円台,女性正規は200万円台,非正規は100万円台,フリーは100万円未満です。

 これは,家計補助やお小遣い稼ぎの短時間労働は含んでいません。月22日,1日8~9時間ほど働いているフルタイム就業者のデータです。それでこの有様とは,少ないなあという印象です。最近よく言われる「安いニッポン」が数字で出ています。

 フリーランスをみると,男性の31.6%,女性の72.4%が200万円に達しないプア,フルタイム・ワーキングプアです。フリーランスは労働時間の際限がなくなりがちで,かつ給与の未払いなども横行しています。こういう搾取に遭いやすいのは,とりわけ女性のフリーランスです。

 上記の分布から中央値(median)を計算してみましょうか。本ブログを長くご覧の方は,分布から中央値を出すやり方はご存知かと思いますが,久しぶりですので,算出方法を説明します。男性のフリーランスを例にします。


 真ん中の%分布は,最初の表と同じです。右端はそれを累積したもので,中央値(累積%=50)は,所得200万円台の階級に含まれることが分かります。按分比例を使って,それを割り出します。以下の2ステップです。

 按分比=(50.0-31.6)/(56.3-31.6)=0.7437
 中央値=200万円+(100万円×0.7437)=274.4万円

 フルタイムで働く男性フリーランスの所得中央値は,274万円と出ました。同じやり方で,他のグループの所得中央値を算出すると以下のようになります。

 男性正規 = 420.3万円
 男性非正規 = 259.5万円
 男性フリーランス = 274.4万円

 女性正規 = 297.1万円
 女性非正規 = 204.1万円
 女性フリーランス = 137.7万円

 日本において,普通に働く労働者の年間所得中央値です。「1日8~9時間働いて,これはないやろ」って感じです。

 言い忘れましたが,『就業構造基本調査』の用語解説によると,年間所得は税引き前のだそうです。つまり手取りの額はこれよりもっと少ないことになります。開いた口がふさがりません。

 これでいて,税金や住居費(家賃)等の基礎生活費は増えているのですから,国民の生活は実に苦しい。私自身,何の後ろ盾もないフリーランスの働き方をしてますが,身をもって感じます。国保なんかは本当に重いです。会社員の方には分からんでしょうね。

 その一方で,企業の内部留保は過去最高と聞きます。某企業の社長さんが言われてますが,こういう時期こそ,内部留保を取り崩し,従業員に還元すべし。ここまで給与が安いと,国民の購買力が下がり,モノが売れなくなります。海外からも労働力が来なくなります。商品を売る,必要な労働力を確保する,この2つの面において,痛手を被ることになります。要するに,自分たちに返ってくるのです。

 普通に働けば普通の暮らしができる社会を。もっと具体的に言えば,「1日8時間の労働で,普通の暮らしができる社会」が望まれます。選挙の公約でよく聞きますが,日本の現状は程遠く,時代と共に遠ざかってすらいます。

 この秋,衆院選が実施されますが,この基本がマニフェストに盛られているか。私が真っ先に注目するのはココです。

2021年9月1日水曜日

家庭の通信環境の不足

  久々の更新になります。9月になり,急に涼しくなりました。今後の週間予報をみても,30度を超える真夏日にバックすることはなさそうです(横須賀市)。初秋です。

 今年4月実施の『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。去年はコロナの影響で中止でしたが,今年は実施されたようです。詳細な資料は,国立教育政策研究所のホームページで見れます。

 例年通り,新聞では平均正答率の都道府県順位に注目されてますが,私はあまり興味を持ちません。教科の学力調査の他に,児童生徒や学校を対象とした質問紙調査も実施されていて,こちらのほうに興味深い設問が盛られています。昨年4月以降,コロナ禍にどう対処したか,どういう教育活動を行ったかなどです。感染症拡大のような異常事態が起き,学校はどうなったか,どういう課題が浮き出てきたか。大事なのは,この経験データ(fact)をちゃんと総括することです。

 周知のとおり,昨年は全国の学校が臨時休校を迫られました。それに伴い,オンライン授業などが導入されたのですが,なかなか一筋縄ではいかなかったようです。円滑な実施を妨げたのは,十分な通信環境がない家庭が少なくないこと。これを受け,今年の質問紙調査(学校対象)では,2020年4月以降のコロナに伴う臨時休校中,家庭でのICT学習に際して,課題となったことを問うています。

 ①家庭の端末(PC等)が不足,②家庭の周辺機器(ウェブカメラ等)が不足,③家庭の通信環境(無線LAN等)が不足,ということが,オンライン教育の足かせになった学校はどれほどか。小学校の回答分布を図示すると,以下のようになります。


 公立,国立,私立に分けて分布を示しました。量的に圧倒的に多い公立をみると,支障として「当てはまる」と答えた学校の率(赤色)は,家庭の端末の不足が48.0%,家庭の周辺機器の不足が52.0%,家庭の通信環境の不足が41.5%,となっています。

 なるほど,メディアで報じられた通り,PCがない,ウェブカメラがない,Wi-fiがない家庭が多く,困り果てたという学校が多いようです。義務教育の公立小学校には,社会の全ての階層の子どもが通っていますが,赤色が半分近くまで垂れている様に,子どもの貧困の広がりが出ているようです。

 しかし,ごく限られた階層(約1%)の子弟が通う国私立小となると,様相は違っていて,家庭の端末・機器・通信環境の不足がネックになったという学校は,公立と比して少なくなっています。身もふたもないですが,通っている児童の階層構成の違いが出ていますね。ホンマもんのICT格差です。とはいえ,私立といえど,「当てはまる」ないしは「やや当てはまる」と答えた学校の率は小さくはないですが。

 いわずもがな,小学生の99%は公立の児童ですので,深めたいのは公立校のデータです。上図は全国の結果ですが,地域による違いもあります。家庭の端末不足,機器不足,通信環境不足が支障になった学校のパーセンテージを,47都道府県別に出してみると,これがまた一様でない。以下に載せるのは,「当てはまる」と答えた公立小学校の割合の一覧です。高い順に並べています。


 どうでしょう。端末の不足がネックになった学校の率は66.3%~33.9%,機器の不足は70.8%~38.9%,通信環境の不足は65.8%~23.3%のレインヂがあります。

 50%超の数字には色をつけましたが,情報機器の不足で困ったという学校が半分を超える県は35県にもなります。Webカメラとかは高価ですからね。これがないという家庭は少なくないでしょう。経済的に余裕のない家庭は,たやすく持てるものではありますまい。

 児童の家庭のリソース不足がネックになった学校の率は,地方で高く,都市県で低い傾向もあります。3つの肯定率とも,各県の県民所得と有意なマイナスの相関係数が出ます。県単位のデータから演繹するのは難しいですが,子どもの貧困が影を落としている可能性もあるでしょう。東京都内の区別のデータが出せれば,もっとはっきりしたことが言えそうですが,私の手では叶いません。個票データが手元にあるお偉いさん,ぜひ分析してみてください。貧困世帯へのICT支援の必要性を支持する,揺るぎないエビデンスになります。

 地方の郡部では,ウェブカメラ等の機器の普及率も低そうです。しかし,こうした機器を必要としているのは,田舎の子どもたちです。空間を越えた遠隔教育の行う上で必須のアイテムです。前から言ってますが,とくにへき地にあっては必須の学用品と捉え,用意できない家庭には,就学援助の範疇で支給ないしは貸与すべきかと思います。文科省も認識してきるようで,援助費目として「オンライン学習費」が加えられてはいますが。

 コロナ禍によって,教育の情報化を進める上での課題がくっきりと浮かび上がりました。家庭のリソース不足はその最たるもの。「1人1台端末」のGIGAスクール構想など手は打たれていますが,令和の時代の学校教育を国際水準にキャッチアップさせていくには,人為的な支テコ入れをもっとしないとなりますまい。