2021年7月27日火曜日

悩みを相談しない

  夏も本場,学校も夏休みに入ったみたいで,登下校の小学生とすれ違うこともなくなりました。

 夏休みといえば「宿題」ですが,私も,ここ毎日「宿題」をやっている感覚です。社会科の教員採用試験の要点整理集の改訂で,あとちょっとで世界史が終わるところです。カレンダーに予定を書き込んで,そのペースに沿ってやっています。私は,物事を計画的に仕上げていくのは性に合っています。

 朝から夕刻まで,この宿題の日々で,ツイッターやブログの更新が少なくなってますが,ツイッターに上げた図表のネタを書いておきましょう。タイトルのごとく,悩みを相談しない日本の若者についてです

 コロナ禍で辛い日々が続いてますが,困りごとや悩みは相談することが大切。自分で抱え込み,先行きを勝手にシュミレートして,自分と対話しても碌な答えは出てきません。客観的(楽観的)な見方ができる他人に,きちんと言語化してはき出すこと。これに尽きます。

 ところがデータで見ると,日本の子ども・若者には,これをしない人が多い。2018年の内閣府の国際意識調査で,13~29歳の子ども・若者に対し,「悩みがあっても,誰にも相談しない」という項目に,当てはまるか否かを問うています。「はい」と答えた人の率をグラフにすると以下のごとし。男性と女性に分け,年齢層ごとのパーセンテージをつないだものです。


 日本の折れ線(赤色)は,他国より高い位置にあります。とくに男性は顕著です。悩みがあっても,人に相談しない人の率が高くなっています。20代後半の男性は33%,女性は21%です。

 前にデータを出しましたが,「人に迷惑をかけるな」と言い聞かされて育ってますからね。とくに男子は,「弱音を吐くべからず」という有形・無形の圧力を感じ取っているのでしょう。

 こういう国民性を意識してか,政府の『自殺対策白書』では,学校において「SOSの出し方教育」を行うことを推奨しています。困った時は遠慮せずSOSを出しなさい,一人で抱え込んではいけません,ということです。

 自己責任論や根性論にとらわれて,SOSを出せない子どものメンタルもほぐさないといけませんが,同時に,「SOSの受け止め方」も問わねばなりますまい。当の子どもは,相談したところで説教をされるだけ,事態がかえって悪化するだけと思っているのかもしれません。

 子どもの場合,悩みの相談相手としては,親や教師が想起されますが,日本の10代に「悩みを誰に相談するか」を問うと,これらを選ぶ子の率は低くなっています。代わりに高いのは…? 以下のグラフを見てください。


 日本の子は,友人に相談するという回答の率が他国と比して高くなっています。言い方がキツイですが,親や教師はあまり頼りにされていないのかもしれません。「親や先生に相談したって…」と思っているのかもしれないですね。

 文科省の自殺対策の手引では,悩みの相談相手として友人が多きな位置を占めることを認識し,悩みをしっかり受け止める「傾聴」の仕方を生徒に教えるべき,と指摘しています。結構なことですが,教師や親にも手ほどきが要るのではないでしょうか。子どもが相談してきた時,話を決して遮ったりせず,まずはじっくりと聞くことです。

 来年度から成年年齢が18歳に下げられることに伴い,消費者被害の増加も懸念されます。今以上に,ためらうことなく悩みを相談できる環境をつくらないといけません。責任,自由に加えて支援の3点を。

 「悩み上がっても,誰にも相談しない」。こういう傾向を,国民性や文化(これとても,上の世代が下の世代に植え付けているのですが)のせいだけにせず,子どもを取り巻く周囲の「SOSの受け止め方,気付き方」の問題ともみるべきでしょう。

2021年7月16日金曜日

県庁所在地の基礎生活費

  日経新聞WEB版に「地方移住,こんなはずでは,増える支出に落とし穴」という記事が出ています。内容は推して知るべし。生活費が安くなるからと移住したもの,光熱・水道費や自動車関連費がかさんで,かえって支出が増えてしまった,という体験談です。

 そうですねえ。東京からの移住の場合,住居費は確実に安くなるでしょうが,光熱・水道費は上がりそうです。田舎はプロパンガスが多いですが,都市ガスより高いですからね。水道も,維持費の関係で田舎では割高です。自動車の費用は言うまでもません。公共交通網が発達している東京と違って,地方では車は必須です。維持費がバカになりません。

 データで総決算の比較をすると,どうなるでしょう。『家計調査』に,2人以上世帯の年間支出額平均が47都道府県の県庁所在地別に出ています。2020年のデータは,コチラの統計表です。私は,①住居費,②光熱・水道費,③鉄道・バス費,④自動車関連費の4つを,各県の県庁所在地別に呼び出しました。③を入れたのは,都市部では自動車は要らずとも,公共痛交通機関の費用が要ると考えるからです。

 手始めに,東京23区と,私の郷里の鹿児島市を比べてみましょうか。背比べの積み上げグラフにすると以下のごとし。


 住居費は鹿児島市が安いですが,自動車関連費用がかかります。しかしトータルでみると,鹿児島市の方が安いですね。上記は2人以上世帯の年間支出額ですが,平均世帯人員は東京23区が2.97人,鹿児島市が2.92人ですので,家族サイズを考慮しても鹿児島市のほうが割安です。

 郷里をひいきするのではないですが,きたれ,鹿児島へ。生活費が安いのに加え,食べ物も美味い!

 しかし47都道府県の県庁所在地のデータを眺めると,東京区部より割高なエリアも見受けられます。以下は一覧表です。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。住居費は東京がマックスですね。光熱・水道費は寒い北国で高くなっています。鉄道・バス費は都市部で高く,自動車関連費はその逆です。

 47都道府県の県庁所在地の基礎生活費は,4つの費目の合算を平均世帯人員で割った値で測れます。東京区部は,4つの費目の合算は81.25万円で,世帯人員は2.97人ですので,1人あたりの基礎生活費は27.36万円となります。鹿児島市は24.62万円です。

 47都道府県の県庁所在地の数値を,高い順に並べると以下のようになります。


 東京がマックスではないですね。上位というのでもなく,中よりちょっと上という位置です。首位は住居費と自動車費がともに高い福岡市で,その次は鳥取市です。鳥取市では車関連の支出が多い(年額55.8万円)。

 右下をみると,関西圏では基礎生活費が安上がりですね。京都市は19.14万円で,福岡市の半分くらいです。学生の街ですが,これは2人以上世帯のデータに基づく数値なんで,単身学生は除外されています。

 冒頭の日経新聞でも言われてますが,移住しようとしているエリアのデータを調べてみるのもいいでしょう。

 地方の郡部では,光熱・水道費や自動車費がもっと高くなると思われます。随所で言われていますが,移住はまず地方都市からで,それを経てから郡部に移るという2ステップを踏んだほうがよさそうです。郡部には「濃すぎる人間関係」という,別のコストもありそうですしね。

 『家計調査』からササっとこしらえたデータですが,生活費が「都市>地方」とは単純には言えないようです。

2021年7月9日金曜日

洋服への支出減少

  コロナが渦巻いて久しいですが,それが社会にどういう影響を与えたか,可視化できるデータが溜まってきています。

 私はこれまで,社会病理学を専攻する立場から自殺者数に注目してきました。コロナ前の2019年と2020年を比較すると自殺者は増えています。性別にみると,男性では微減ですが,女性では増加です。さらに年齢も加えると,若い女性で増加率が高くなってます。女子高生では1.8倍です。データと背景の考察はコチラの記事で。

 なお,総務省の『家計調査』も使えます。お金をどれほど使っているか,どういう品目に使っているかです。コロナになってから外出自粛が要請されるようになり,経済停止により家計も厳しくなっているとみられます。こういう条件が出てくると,家計はどう変わるか。

 まずは使うお金の額です。上記の資料によると,2人以上世帯の消費支出額(年間平均)は,2019年は352万547円,2020年は333万5114円となっています。コロナ禍になってから減ってますね。しかし観察のスパンをもっと広げると,今世紀初頭の2000年では380万7937円です。平成不況で収入が減っているためか,消費に使うお金も長いスパンでみて減ってきています。世帯の高齢化の要因もあるでしょうが。

 中学の社会科で習うレベルですが,生活が苦しくなると必須度の高い品目への支出は維持ないしは増える一方で,そうではない品目(奢侈品)への支出は減ります。前者の代表格は食費で,後者としては,たとえば洋服なんかはどうでしょう。

 トータルの消費支出額,食費,および洋服の支出額の変化をグラフにしてみます。2人以上世帯の年額平均で,始点の2000年を100とした指数にしています。コチラの統計表からデータを作成しました。

 今世紀になって,新自由主義政策の影響もあってか国民の生活は苦しくなり,それゆえ消費支出額は減っています。2019年から2020年の減り幅が大きく,コロナの影響も出ています。具体的な額は上述の通りです。

 食費はというと,こちらは増えていますね。消費支出全体に占める割合(エンゲル係数)もアップしており,消費が必須品に偏るようになっている,すなわち生活が苦しくなっていることが,この点からも汲み取れます。

 さてあと一つの洋服への支出額ですが,こちらは消費支出全体よりも速いスピードで減少しており,コロナの影響もよりハッキリ出ています。2000年では8万243円でしたが,2019年は5万9473円,2020年は4万3886円です。

 洋服は,外界の温度変化(暑さ,寒さ)への適応という機能もありますが,おしゃれや見栄のツールとしての機能もあり,時代につれてこちらが強くなってきています。収入が減り,かつコロナで人と会えなくなっているとなったら,この財への支出が減るというのは道理です。

 生活が苦しくなったらどうなるか? この20年間の変化ですが,教科書セオリーがはっきり可視化されるものですね。中学の社会科の資料集にでも載せていただきたいグラフです。

 洋服への支出額ですが,47都道府県別の変化も見ておきましょう。県別のデータは2007年からとれます。2007年と2020年の県別データを高い順に並べ,左右に並べてみます。県別のデータも,上記リンク先の統計表で得られます。


 若者が多い都市部で高い傾向かなと思いますが,最低値は両年とも沖縄ですね。年中暖かく,軽装だからでしょうか。

 ご自分の県の値をみていただければと思いますが,注目いただきたいのは表の色つき範囲です(薄い色は5万円台,濃い色は6万円以上)。2007年ではほとんどの県が5万円以上で,36の県で6万円を超えていました。それが2020年では,5万以上が11県,6万以上は3県しかありません。

 上記のデータは地図化してツイッターにあげています。コメントにもありますが,こういうマップも,国全体が貧しくなっていることの可視化です。洋服を買う量が減っているのか,それとも安いやつで済ませているのか,そこまでは判別できません。

 あと一つのデータを示しましょう。洋服といってもいろいろありますが,中でも減り幅が大きいのは,スーツ関連です。背広,ワイシャツ,ネクタイへの年間支出額はどう変わったか。最初のグラフと同じく,2000年の値を100とした指数のグラフにします。


 すごい減りっぷりですね。ネクタイに至っては,この20年間で8割の減少です(1595円→307円)。クールビズとやらで,夏場,ネクタイをする頻度が減っているのもあるでしょう。

 収入の減少で,以前は老舗で高級品を買っていたのが,最近は安いやつで済ませるようになっているのもあるでしょうが,働き方の変化も大きいでしょう。今はオフィスでもカジュアル化が進んでますし,雇用労働自体が減ってきています。

 お金の使い方の変化にも,時代の変化がハッキリ表れるものです。

2021年7月6日火曜日

非正規公務員の悲惨

 今年は梅雨入りが遅く,7月になっても雨の日が続いています。蒸しますが,いかがお過ごしでしょうか。

 昨日,「非正規公務員の過半数が年収200万未満」という記事(NHKサイト)を見かけました。ある団体による大規模調査の結果です(1252人が回答)。それによると,661人(52.8%)が年収200万未満と回答したとのこと。働く貧困層,それも「官」の世界で働く,いわゆる官製ワーキングプアです。

 今や「官」の世界も非正規化が進んでおり,非正規の比重は小さくありません。生活苦や正規との格差への不満を訴える声が看過できなくなり,大規模調査に踏み切った,ということでしょうか。改革を促す貴重なデータであると思います。

 なお公務員の収入は,官庁統計でも分かります。毎度使っている『就業構造基本調査』です。有業者の年間所得分布を,産業分類別に知ることができます。コチラの統計表です(2017年)。

 「公務」というカテゴリーの有業者を取り出し,正規雇用と非正規雇用に分けて,年間所得の分布をとってみます。ジェンダー差もみるため,性別も入れましょう。母数は男性正規が154万人,女性正規が42万人,男性非正規が11万人,女性非正規が27万人です。


 左は正規,右は非正規ですが,分布の違いが明瞭です。正規では所得200万未満はほんのわずかですが,非正規では大半です。男性では56.0%,女性では76.7%です。上記の団体の調査で男女込みで52.8%とのことですが,官庁統計の数値はそれよりも高くなっています。

 上表の公務員とは産業分類が「公務」の人で,教員,警察官,図書館司書,児童福祉士などは入っていません。多くが役所の職員かと思いますが,こういうフツーの公務員に限ると,非正規のプア化の状況がハッキリと出ます。

 上記の分布から中央値(median)を計算すると,男性正規が588万円,女性正規が467万円,男性非正規が186万円,女性非正規が137万円となります。ちょうど真ん中の人たちですが,非正規は男女とも200万円に届きません。

 地域別にみると,もっと悲惨な値も出てきます。上記でリンクをはった統計表では,「地域」という変数もあります。これを入れれば,47都道府県別に,非正規公務員の所得分布を呼び出せます。それをもとに,各県の非正規公務員の所得中央値を算出してみました。

 県別にバラすと人数が少なくなるので,男女込みにしています。まあ非正規公務員では女性が多いので,ほぼ女性の傾向を反映していると読んでいいかと思います。下表は,高い順に並べたものです。


 どの県も200万円に及びません。それどころか,150万円にも届かない県が多数です(色付き)。全国値は149万円。濃い色は140万円未満で,最下位の鹿児島では114.8万円です。私の郷里ですが,生活が成り立つレベルではないですね。

 上の表から,全国どこにおいても,非正規公務員はプアであることが分かります。

 非正規公務員は女性が多く,夫の扶養内で就業調整してる人がたくさんいるんじゃないの,という疑問もあるでしょうか。別の統計表にて,公務員の週間就業時間の分布をとってみると,そうでもないようです。


 就業時間が分かる公務員のデータですが,正規も非正規も,最頻階級は35~42時間ですね。非正規も,フルタイム就業の人が最も多くなっています。35時間以上のフルタイム就業の割合は全体の35.6%,3人に1人です。

 お店のパートとは違い,公務員となると,非正規もそこそこ労働時間が長いことが知られます。専門的な業務も多く,無給の残業をしている非正規の人もいるのではないでしょうか。にもかかわらず,年間所得は先ほどみたように200万,地域によっては150万にも達しません。ブラック労働撲滅の旗振りをする「官」の世界でこうであるとは,開いた口がふさがりません。

 冒頭のNHK記事によると,役所の非正規職員は,今では会計年度任用職員というみたいです。ボーナスも支給されるなど待遇改善もされているようですが,まだまだ不十分であることは政府も認めています。

 フレキシブルな働き方が求められる中,非正規雇用者の待遇改善は急務。いや,そもそも「正規・非正規」なんていう区分が他国に例を見ないおかしなものであって,職務内容や労働時間に依拠して給与が決まる,素直なシステムに変革すべきです。それと最も隔たってるのが「官」の世界であるとは,何とも皮肉なこと。

 改革が必要なのは,データでも明らかです。

2021年6月16日水曜日

男性の育児休業

  育児・介護休業法が改正され,男性の育休取得が後押しされることになりました。制度の細かい変更事項については,厚労省のホームページに譲りましょう。

 こういう法改正は,世の中の声(世論)に押されてのことであるのは,疑いようがありません。それほどまでに,日本のパパの育休取得状況は酷い。育休取得を申し出た男性社員に対し,「男が育休だと?ふざけんな」という怒号が全国の会社で飛び交っています。

 いわゆる会社(上司)の無理解ですが,これを正さない限り,法を変えても,男性の育休取得促進は難しいのでは,という懸念も出ています。私もそう思いますが,男性の育休取得を阻んでいる要因としては,もっと大きなものがあります。

 それは後述するとして,まずは男性の育休取得の実態をデータで可視化しましょう。ここでお出しするデータの特徴は,他国と比較することです。

 内閣府の『少子化社会に関する国際意識調査』(2020年度)では,20~40代の子持ちの有配偶男性に対し「直近の子が生まれた時,出産・育児に関する休暇をとったか」,同じ条件の女性に対し「直近の子が生まれた時,あなたの配偶者は出産・育児に関する休暇をとったか」と問うています。「とった」と答えた人に対しては,その期間も尋ねています。

 日本のデータをみると,「とった」と答えた人の割合は17.9%で,取得した休暇の期間は「2週間未満」が82.3%と大半で,「6か月以上」という長期は6.2%しかいません。

 育休とりましたか? とった人はその期間を答えてください。二段階(枝分かれ)設問ですが,上記の結果をグラフでどう表現したものでしょう。できれば一つで視覚化したい。対象者全体を正方形に見立て,横軸で育休の取得の有無(とった,とらなかった),縦軸で育休期間を示しましょう。

 以下は,調査対象の4国の結果を,この方式で図示したものです。


 どうでしょう。横軸をみると,日本のパパの育休取得率が低いことが知られます。上述のように日本は17.9%ですが,フランスは58.6%,ドイツは63.0%,スウェーデンに至っては86.7%です。すごい違いですね。

 次に縦軸を見ると,日本の育休期間は2週間未満が多くを占めますが,他国はもっと長く,スウェーデンでは半分近くが半年以上の長期です。これも「!」ですね。グラフで見ると,日本の情けなさが露わになります。「こんなだから,日本は少子化が進むんでねえの」という声が聞こえてきそうです。

 はて,どうしてこんな状況になっているのか。育休をとらなかった男性,夫が育休をとらなかった女性にその理由を複数回答で訊いた結果をみると,日本では,1位が「業務が繁忙で休めなかった」(39.4%),2位が「出産・育児の休暇制度がなかった」(37.4%),3位が「休むことによる減収が怖かった」(26.2%)です。上司の無理解より,こうした理由が大きくなっています。

 2番目は何なんでしょう。「育休の制度がない」って,法律では規定されていることなんですが。おそらく自分の勤務先の会社にない,就業規則に書いてない,ないしは育休取得を申し出たところ「そんな制度はウチにはない」「法律の育児休業は大企業に適用されるもので,ウチみたいな零細企業にはない」とか言われたのでしょうか。

 こんな思い込みを持たされているとしたら恐ろしい。法で定められている育児休業は,全ての労働者に適用されるものです。人が属する集団(社会)にはレベルがありますが,全体社会のきまり(法律)よりも,自分が属する小社会(会社)の決まりが優先されると思っているのでしょうか。

 所属集団の流動性が低い日本では,こういう思い込みが蔓延っています。ウチ社会とソト社会の敷居が高いことに由来する,と言ってもいいでしょう。たとえば学校での教師の暴力(体罰)は等閑視されますが,一般社会の刑法に即せば立派な暴行罪(傷害罪)です。学校の外で子どもを叩いたら即110番。しかし学校という部分社会の内部では,全体社会のきまり(法)は適用されない。こういう治外法権の小社会では,世間一般の感覚では理解しがたい「ブラック校則」も幅を利かせています。

 ウチの会社には育休制度なんてない。こういう思い込み(刷り込み)は,子どもの頃より,世間ずれした学校での決まり(校則)を絶対視するよう強いられてきたことによるかもしれませんね。

 しかし状況は変わってきていて,文科省がブラック校則を見直すよう通知を出しましたし,学校での教師の体罰も警察沙汰になるようになってきました。ウチ社会とソト社会の敷居も崩れつつあります。これが進み,労働者が冷静・適正な判断ができるよう願ってやみません。

2021年5月31日月曜日

じょうごグラフ

 知られざること,ないしは誰もが肌で感じていることをデータで可視化して示すのが,私の商売です。同時に可視化の方法,データの表現技法にも気を配るようにしています。

 エクセルに「じょうごグラフ」というツールがあります。横方向の棒(バー)で量を表現するのですが,通常の棒グラフと違うのは,バーがセンタリングされていることです。グラフの様が,大きい口から小さい口へと液体を流し込む「漏斗」に似ていることから,じょうごグラフと言われます。

 今や広く知られているデータも,このグラフで表現してみると結構インパクトがあります。たとえば,人口の年齢構成です。


 左は『国勢調査』の初年の1920(大正9)年,右は将来推計がとれる最も遠い年次の2065年のデータです。140年の隔たりがありますが,人口の年齢構成の変化はあまりにも大きい。1920年では0~4歳が最多でしたが,2065年では一番上の85歳以上が最も多くなっています。双方とも13%ほどで,人口ピラミッドの型がひっくり返っていることが知られます。

 その人口ピラミッドを,じょうごグラフで表現してみます。2つの年次の年齢%をじょうごグラフにして,重ね合わせます


 下が厚く上が細いピラミッド型から,その反対の逆ピラミッド型に変わります。グラフをセパレートではなく,重ねてみるとインパクトありますねえ。

 2065年といったら,今から44年後,私は90歳近くになっています(そんなに生きてないでしょうが)。人口の4人に1人が,今でいう75歳以上の後期高齢者。ドローンが空を飛び,AIロボットが闊歩し,外国人も街に溢れ返っていることでしょう。

 あと一つ,労働者の年間所得分布を同じ図法で表してみると面白い。1000人以上の大企業に勤務している従業員のデータです。男性と女性に分けると,分布にものすごい差があります。男性にあっては23%が所得800万以上ですが,女性はたった1.7%です。その代わり女性では,所得200万未満が53%と半分以上を占めます。同じ大企業なのに,とてつもない差です。

 男女の所得分布(%値換算)を,上記と同じ「じょうごグラフ」で表現し,重ねてみると以下のようになります。


 何も言いますまい。「搾取」という語が真っ先に浮かびます。大企業の利潤は,女性の安い労働力に支えられていると。

 人口の年齢ピラミッド,労働者の所得ピラミッド…。普通は,ヨコの棒グラフでヒストグラム形式で表すのですが,じょうごグラフというニュータイプのグラフを使うと,インパクトあるものに仕上がりますね。

 今後もいろいろ試行錯誤を重ね,表現技法のバリエーションを増やしていこうと思います。

2021年5月23日日曜日

大卒者の出身県定着率

  大学進学率は時代と共に高まり,今では同世代を半分(50%)を超えます。地域格差は大きいものの,地方でも進学率は高まってきています。47都道府県の大学進学率は本ブログで毎年出しています。2020年版は,コチラの記事をご覧ください。

 さて,地方の親の関心事は,都会の大学に出したわが子が帰ってきてくれるかです。行政にしても,東京や大阪の有力大学に進学した生徒が,将来地元に帰ってきて,地域の発展に尽くしてくれるかは,大いに関心があるところでしょう。

 私は鹿児島県の出身で,高3のクラスの半分以上が県外の大学に進学したと記憶してますが,どれくらい戻ってきているのでしょう。私みたいに帰ってない者もいれば,今や県庁の管理職になって,郷土にバリバリ尽くしている人もいます。たとえば,バスケ部のキャプテンだったUくん・・・。

 2017年の総務省『就業構造基本調査』によると,同年10月時点において,鹿児島県に住んでいる大学・大学院卒の40代前半男性は1万5700人です(★コチラの統計表)。

 2017年の40~44歳というと,私の世代ですが,1992~96年に大学に進学にした世代です。鹿児島県の高校出身の大学入学者(男子)は,1992年春が4270人,93年春が4519人,94年春が4219人,95年春が4375人,96年春が4467人となっています。(文科省『学校基本調査』)。5年間の合算は2万1850人ですね。上の世代の入学者(浪人経由者)も含んでますが,当該世代からも同数の浪人経由者が出ると仮定しましょう。

 この世代の鹿児島出身男子からは,高卒時に2万1850人(a)の大学進学者が出ているのですが,40代前半になった2017年時点で,同県に住んでいる大卒男性は1万5700人(b)です。2つの数値に隔たりがあるのは,都会の大学に進学したが戻っていない,ないしは地元の大学(鹿児島大など)を出た後,他県に就職したという人がいるためです。

 大卒者のどれほどが地元に定着しているか? この度合いは,上記のbをaで割って出すことができます。%にすると71.9%ですね。当該世代の大卒者の自県定着率と呼んでおきましょう。鹿児島県の私の世代の男子だと,こんな感じです。

 東京だと,92~96年の都内高校出身の男子大学入学者は19万4655人,2017年の都内在住の40~44歳男性の大学・大学院卒者は29万9400人です。他県から都内の大学に進学してくること,他県からの大卒者が就職時にどっと流れ込んでくることから,大卒者の量はうんと膨れ上がります。

 私は同じやり方で,各県出身の大卒者の自県定着率を計算してみました。47都道府県について,私の世代の男子と女子の数値をはじき出しました。結果の一覧は以下です。


 2017年の40~44歳,すなわち私の世代の試算値です。高卒時(1992~96年)の各県出身の大学進学者数と対比して出した結果です。

 都市部では膨らんで,地方では萎むというのが道理です。しかしその程度は,県によってまちまちです。大卒者の自県定着率が60%未満の数値に,青色のマークをしました。定着率が最も低いのは,男性は長崎の50.8%,女性は秋田で49.9%ですね。

 都会の大学に行った人が戻ってこない,自県の大卒者が県外就職してしまう。このどっちが大きいのかは分かりませぬが,自県出身の大卒者の半分ほどしか県内にとどまっていないというのは,才能の流出が大きいのだなと思わされます。大卒者の受け皿がない,という事情があってもです。

 性差をみると,「男性<女性」の県が多くなっています。女性の場合,自県大学進学率,自県内就職率が高いためでしょう。しかしその反対の県もあり,私の郷里の鹿児島をみると,男性が71.9%,女性が55.2%と,「男性>女性」の度合いが最も大きくなっています。大卒者の自県定着率,男性と女性の差が大きいのですねえ。

 都会の大学を出た女子は帰ってきづらいのか,県内の大学を出た女子が出て行ってしまうのか。大卒の女性への眼差しについて,ニューズウィーク日本版に試論を載せましたので,リンクをはっておきましょう。

 各県出身の大卒者のどれほどが,40代になって自県に住んでいるか。試算値の提示です。

2021年5月16日日曜日

政令市格差

  前に何かの記事で,「ヨコハマ格差」という言葉を目にしたことがあります。横浜市内の区別の平均年収を提示してです。

 横浜市は国内最大の政令市で,面積も三浦半島全体より広し。この大都市を一括りにして論じるのは,いかにもおかしい。横浜市内には18の区がありますが,世帯の年収を区ごとに出してみるとかなりの差があります。

 県よりも下った細かい地域レベルの世帯年収は,総務省の『住宅土地統計』で知れます。★コチラの統計表では,9区分による世帯年収分布が明らかにできます(2018年)。私は横浜市内の普通世帯(主世帯)の年収分布中央値を区別に計算し,昨日,ツイッターで発信しました。

 大都市内部の格差は興味深いということで,多くの方が見てくださり,「他に見てみたい政令市はあるか?」と問うたところ,名古屋市,仙台市,大阪市など,多くのリクエストが寄せられました。この記事にて,まとめてお答えいたしましょう。

 私は国内の21の政令市について,普通世帯の年収分布の中央値を区別に計算しました。元の資料は,上記リンク先の統計表です。度数分布から中央値を出すやり方については,本ブログで何度も説明していますので,ここでは触れません。

 まずは,全体の構造を俯瞰できる図をご覧いただきましょう。各政令市の区別の世帯年収中央値を,縦軸の目盛りに沿って位置付けたグラフです。


 最も高いのは,横浜市の都筑区で622万円となっています。都内のマックスの千代田区をも上回るのですね。横浜市の区別の世帯年収中央値は,最高の622万円から最低の374万円までの開きがあります。これぞ「ヨコハマ格差」,この大都市の住民を一概に論じられそうにはありません。

 では,具体的な数値を見ていただきましょう。まずは札幌市から浜松市までです。各政令市の区別の中央値を,高い順に並べています


 札幌市は,中央区の年収が高いかと思いましたが,単身学生とかが多いため,全世帯でみると中ほどなのでしょうか。今回の分析では,世帯主の年齢まで統制できないのがネックです。

 東京23区はさもありなんですね。川崎市は,麻生区が2位ですか。私は多摩市に住んでいた頃,この区を通る小田急多摩線を使っていましたが,車窓をみると,小奇麗な家が碁盤の目のように並んでいました。

 次に,名古屋市から熊本市までです。


 どうでしょう。各区の経済力は,住民の健康指標や子どもの学力などと強く相関していると思われます。前にやったところ,大阪市内24区の経済力と寿命なんかは,とても強く相関していましたね。
https://tmaita77.blogspot.com/2018/04/2015.html

 今回のデータは,世帯の年齢層を統制できていない,ラフな全世帯の年収中央値ですが,経済力を媒介にした不平等の可視化に,いくぶんかは使えるかもしれません。あまり明らかにされていない政令市内部の格差として,データをみていただければと思います。

2021年5月14日金曜日

所得と貯蓄のクロス

 気温が上がってきました。今日の横須賀のマックスは25度,半袖を着て,久里浜の床屋に行ってきました。

 さて生活のゆとり(富裕度)の指標としての所得については,いろいろな角度から分布や中央値を明らかにしてきました。しかし入ってくるおカネ,収入面をみるだけというのでは不十分です。いざという時への備え,湯浅誠さんの言葉でいうと「溜め」がどれほどあるかも,合わせて見ないといけません。

 2019年の厚労省『国民生活基礎調査』にて,年間所得階級と貯蓄額階級のクロス表の形で,世帯数を呼び出すことができます。★こちらのページの表160です。


 私は原資料の表を,「所得階級13 × 貯蓄階級12」の形に整理し,各セルに該当する世帯数をグラフで可視化してみました。最近ツイッターでよく出している,ドットグラフです。ドットの大きさを使って,2変数のクロス表のデータを表現します。

 ツイッターでも出しましたが,ブツを見ていただきましょう。


 横軸は所得,縦軸は貯蓄額の階級で,この2つの組み合わせの各セルに該当する世帯数が,ドットの大きさで表されています。

 ぱっと見,所得が少なく貯蓄も少ない困窮世帯(左下)が多いことが分かります。所得300未満,貯蓄200万未満の世帯(緑の枠囲い)は全体の15.1%に該当します。7世帯に1世帯です。その一方で,右上の富裕世帯(所得たっぷり,貯蓄ガッツリ)も結構あります。社会の富の格差も見取れますね。

 所得が少なくが貯蓄はたくさんある世帯は,リタイアしている高齢世帯でしょう。

 赤マルは,所得・貯蓄とも100万未満の世帯で,生活困窮のレベルが甚だしく,生活保護の対象のレベルです。全体の3.2%に相当し,2019年1月時点の全世帯数(5853万世帯)にかけると,実数で187万世帯ほどと見積もられます。

 現実の生活保護受給世帯数はどうかというと,2019年の1か月平均でみて約164万世帯です(厚労省『被保護者調査』)。うーん,やっぱり日本の生活保護は困窮世帯を十分に掬えて(救えて)いないようです。日本の生活保護の捕捉率の低さは,よく指摘されること。

 あと一つ特記すべきこと。「日本で一番多い世帯は?」という問いへの答えです。上記のグラフのドットサイズから,答えは「所得100万円台,貯蓄ゼロの世帯」ということになります。単身非正規の若者,ないしはカツカツの暮らしをしている高齢者世帯でしょう。強烈な現実です。

 これでは経済も回らないというもの。これでいて企業の内部留保が過去最高というのですから,開いた口がふさがりません。モノが売れなくなり,必ずや自分たちにも跳ね返ってきます。

 所得と貯蓄のクロスで,日本の世帯数分布を可視化してみると,怖い現実が露わになりますね。できれば年齢層別に出して,若年層,中年層,高齢層でドットの色分けもしたいところです。

2021年4月29日木曜日

夫婦の所得組み合わせ

 共稼ぎの夫婦が増えていますが,夫と妻がどれほど収入を得ているかは多様です。私くらいの年代だと,正社員の夫が400~500万ほど稼いで,妻はパートで就業調整してマックスで100万ちょっと。こんな夫婦が多数でしょうか。

 しかし両者の稼ぎが対等,ないしは妻が夫を上回るという夫婦も存在するでしょう。夫婦の稼ぎの組み合わせというのも,多くの人が興味をもっている所です。

 毎度使っている『就業構造基本調査』に,この点を知れる統計表があります。最新の2017年調査だと,★コチラの統計表です。共稼ぎ世帯の数を,夫と妻の所得階級別に知ることができます。この2つをクロスすることで,目的のデータが得られます。


 年代は子育て年代に絞ることとし,妻が35~44歳の世帯を分析対象としましょう。この年代の世帯で,夫と妻の所得の双方が分かる共稼ぎ世帯は約360万5200世帯です。

 「9×9」の81のセルに該当する世帯(夫婦)の数を,視覚的なグラフで表してみます。以下のグラフです。横軸は夫,縦軸は妻の所得階級で,双方をクロスした各セルに該当する夫婦の数を,円のドットの大きさで表しています。


 真ん中の下あたりが多くなっています。一番ドットが大きい,すなわち該当の夫婦が多いのは,夫が所得400万未満,妻が100万未満という組み合わせです(23万1300世帯)。

 私くらいの年代だと,男性正社員の所得中央値は500万円弱で,妻はパートで就業調整しているでしょうから,納得の結果です。子育ての最中ですが,夫婦の合算で大よそ600万円弱。子を2人,私学に通わせるとなったらキツイでしょうね。教育費を理由に,出産をためらう夫婦が多いのはよく知られていること。「安い」ニッポンは,少子化にも影を落としています。

 右上,黄色囲いは夫婦とも700万円以上「パワーカップル」です。その数は3万3400世帯で,全体の0.9%に相当します。

 ドットの色分けですが,青色は「夫>妻」,緑色は「夫≒妻」,赤色は「夫<妻」という夫婦です。夫の稼ぎが多い青色が全体の84.3%とマジョリティを占めます。対等は9.3%で,夫より妻が稼ぐ夫婦(赤色)は6.5%となっています。

 しかし何と言いますか,妻の稼ぎの寄与度は小さいですね。上述しましたが,最も多いのは「夫400万円台,妻100万未満」の夫婦です。ツイッターで流しましたが,地方では,夫婦二馬力の稼ぎが東京の一馬力に及ばない県が大半です。東京の一馬力の方がいいと,地元へのUターンをためらう家庭もあるとのこと。

 妻は,夫の扶養の範囲内で就業調整するためですが,配偶者控除制度ってのは,女性の労働力を押さえ込んでいるなと思います。人手不足の時代だというのに。この制度は,妻の稼ぎが少ない世帯を救済しようという意図のものですが,今では女性の稼ぎを押さえ込むことに貢献しています。いつまでも残しておいていいものかどうか…。

 最近では,妻の正社員として働いている世帯も増えています。上記のデータを,妻が35~44歳の正規職員という夫婦に絞るとどうなるでしょう。このグループだと,夫と妻の双方の所得が分かる共稼ぎ世帯は130万8900世帯です。先ほどの全体の3分の1ほどですね。このグループのデータで,上記の同じグラフをつくってみました。


 妻が正社員の夫婦ですので,先ほどの全体図と比して,分布がタテの上方にシフトしています。最も多いのは,「夫400万円台,妻200万円台」です。うーん,正社員でも妻の稼ぎの最頻階級は200万円台。家事・育児が足かせになるのでしょうか。

 右上のパワーカップルの率は2.1%です。青色の「夫>妻」は65.0%,緑色の「夫≒妻」は19.6%,赤色の「夫<妻」は15.4%となります。妻の稼ぎが夫と対等以上の夫婦は,全体の3分の1ですね。

 お見せした2つのグラフですが,どういう印象を持たれるでしょうか。女性の能力がフェアに活用されている事態を想定すると,左上の赤色のドットがもっと大きくなっているはずかと思うのですが。

 フルタイムで働いている有配偶女性に,自分の稼ぎと夫の稼ぎを比べてもらうと,「対等」ないしは「自分の方が多い」という回答が多くなっています。以下の表は,25~54歳の既婚フルタイム就業女性のうち,夫と対等以上の収入がある人の率です。2012年のISSP調査の個票から作成しました。


 何もいいますまい。日本の状況が普遍的でも何でもない,むしろ特異なんだということを見取ってほしいと思います。中高生にもこういうデータを見せて,自分が日頃目にしている光景が万国共通ではないことを,しっかりと分からせてほしいです。

2021年4月22日木曜日

有業者の所得ピラミッド

 4月も下旬,気温が上がってきました。今日の東京のマックスは27度で,熱中症への注意を呼び掛けるニュースも出ています。GW前にして,「熱中症」という言葉が出てくるようになったかという思いです。

 さて,ツイッターで発信したグラフが注目を集めています。凝ったものではありません,日本で働いている人の年間所得の分布図です。100万ごとに区切った階級に該当する人の数を,ヨコの棒グラフでピラミッド状で表したグラフです。男性と女性で分け,従業地位の3区分(自営,非正規雇用,正規雇用)でバーを塗り分けています。

 元データは,2017年の『就業構造基本調査』から得たものです。★コチラの統計表にて,「性別×所得×従業地位」の3重クロスをしました。ネット上で,こういうオリジナルの集計もできるようになり,便利になったものです。


 所得の階級を100万円刻みにし,男性と女性に分けてグラフを作ります。左に男性,右に女性のグラフを置いた対称にすると,ジェンダーの差が見やすくなります。ブツをご覧いただきましょう。


 どうでしょう。私の第一印象は,全体的に「安い」んだなあです。男性でも,最頻階級は200万円台です。

 女性にあっては,下が厚く上が細い,見事なピラミッド型になっています。全体の6割近くが200万未満です。扶養の範囲内で調整している既婚女性が多いのでしょうが,それにしても安い。販売やサービス(介護など)といった職業の給料が安いのもあります。これらのエッセンシャルワークは,安い女性非正規で支えられている現実があります。ある方がツイッターで,「女性活躍=コスト削減」と言われてますが,言い得て妙です。

 社会は,右下の安い女性労働力に支えられている。大企業従業員に絞ったグラフでみると,「左上=男性,右下=女性」というコントラストがより際立ちます。

 繰り返しますが,日本の労働者は「安い」。こうしたコストカットが効いてか,企業の内部留保は過去最高だそうですが,国民の購買力が下がり,モノが売れなくなり,結局は自分たちに返ってきます。アイリスオーヤマの社長さんも言われてますが,大変な今こそ,企業は内部留保をはき出し,従業員を守るべきなのです。

 さて,上のグラフをみて,自分の稼ぎは全労働者の中のどの辺だろう,という関心もおありでしょう。その目安を出しておきましょう。出てきた結果には,結構驚かされます。以下の表は,男女,自営・非正規・正規をひっくるめた全有業者(6408万人)の所得分布です。


 一番の関心は,ど真ん中の中央値(median)がナンボかです。累積%が50ジャストの値ですが,黄色の「250~299万円」の階級に含まれることが分かります。上位20%値(累積%=80)は赤色,上位10%値(累積%=90)は青色の階級に属します。

 按分比例を使って,3つの値を推し量りましょう。本ブログを長くご覧の方は,もう慣れっこですよね。

中央値:
 按分比=(50.0-45.9)/(53.9-45.9)≒0.5110
 中央値=250+(50×0.5110)≒276万円

上位20%値:
 按分比=(80.0-77.8)/(84.8-77.8)≒0.3183
 上位20%値=500+(100×0.3183)≒532万円

上位10%値:
 按分比=(90.0-89.5)/(93.0-89.5)≒0.1354
 上位10%値=700+(100×0.1354)≒714万円

 日本の全有業者の所得の中央値は276万円,上位20%値は532万円,上位10%値は714万円と出ました。この3本のポールを立てた場合,あなたはどのゾーンに属しますか。715万円以上の稼ぎがある人は,上位1ケタのトップ層に属することになります。

 これは男女ひっくるめた場合の数値ですが,男性と女性では条件が違うので,両性で分けたほうが診断の目安としてはいいでしょう。私は全有業者,男性有業者,女性有業者の所得分布をもとに,下位10%値,下位20%値,…中央値,…上位20%,上位10%値を計算しました。結果をまとめると以下のようになります。


 9本のポールを立てましたが,あなたはどのポールの間にありますか,中央値は超えてますか…。私は,男性の中央値(379万円)に及びません。

 女性の中央値は174万円で,上位20%値(339万円)は,男性の中央値にも及ばず。女性にあっては,460万以上の稼ぎがあれば「スター」の部類です。

 上記の表は,ご自身の立ち位置を知る「診断表」としてお使いくださればと思います。自分と同年代の正社員のデータが見たいという方は,冒頭でリンクをはった統計表(★)に飛んでいただき,同年代の「正規職員」の所得分布表を呼び出し,表を作ってみてください。ツイッターをされているなら,私のアカウントにメッセージください。拡散させていただきます。

2021年4月13日火曜日

家族の世話で勉強できない生徒

  昨日から,メディアが足並みを揃えて報じているニュースがあります。そう,ヤングケアラーの初の公的調査の結果が発表されたのです。

 ヤングケアラーとは,幼き介護(看護)者のことで,家族の世話をしている子どもをいいます。病気の親・祖父母の介護をしている子,幼い弟妹の世話をしている子などがイメージされます。

 子どもの頃,よく読んだ「キャプテン翼」の日向小次郎は母子世帯で,小さい弟妹の世話をしつつ,新聞配達や屋台のバイトで家計を助けていました。小学校高学年にしてです。カッコいいなあと,子ども心に思った人は,私の世代には多いはずです。この人物の強さの源泉は,こうした環境で培われたハングリー精神でした。

 しかしこの少年の場合,明らかに勉学に支障が出ているレベルです。家族のケアは子どもの人間形成にプラスの効果をもたらしますが,それも程度問題で,学業に支障が及ぶというのはNGです。

 このほど公開されたヤングケアラー調査では,そうした問題状況にある子どもの量的規模を明らかにしています。国が三菱UFJの研究所に委託し,昨年末から今年初頭にかけて中高生を対象に実施された調査です。結果報告のレポートは,厚労省審議会のサイトでみれます。中学校2年生(5558人)を対象とした調査では,以下の数字が出たと報告されています。

 世話している家族がいる … 5.7%

 うち,宿題や勉強をする時間がない … 16.0%

 いずれもメディアで大々的に報じられたデータです。この2つを使って,調査対象となった中学校2年生の組成図を描くと以下のようになります。


 横軸は,世話している家族がいるか否かです。いる生徒は上述のように5.7%で,右側の群が該当します。このグループのうち,宿題や勉強の時間もないという生徒は16.0%で,縦軸の比重でこれを表します。

 世話をする家族がいるヤングケアラーで,かつ勉強の時間もとれないという生徒は,図の赤色のゾーンということになります。全数ベースの比率は,5.7%と16.0%をかけ合わせて0.91%ということになります。110人に1人です。

 2020年5月時点の中学生の数は321万人ほどです(文科省『学校基本調査』)。上記の比率をこの全数にかけると,結構な数になりそうですね。はて,家族の世話のために勉強もできないという生徒は,見積もり数でどれくらいいるか。以下に,掛け算の結果を示します。全日制高校2年生(7407人)の回答をもとにした,高校生の結果も添えます。


 中学生321万人のうち,世話している家族がいるヤングケアラーは5.7%,このうち勉強の時間もないという生徒は16.0%,現実の母数にこの比率を適用すると,家族ケアで勉強もできないという中学生は2.93万人と見積もられます。高校生は1.61万人で,合わせて4.5万人ほどにもなります。

 家族の世話で勉強に支障が出ている中高生は4.5万人。こんなにいるのですね。法が定める健やかに育つ権利,教育をうける権利を侵害された子どもたちです。人為的な支援が必要であるのは明らかで,今後,国の審議会で具体策を提言するのだそうです。埼玉県では既に,ケアラーの支援条例を独自に定めています。

 ただ,支援というのは,当事者から「SOS」がないと発動しにくいもの。しかし上記の調査結果をみると,自分をヤングケアラーと自覚している者は少なく,他人に相談するほどのことではないと思い込んでいる生徒が多いのです。これでは支援の網を張っても,そこから落ちてしまいます。「あなた方は困難な状況にある」ってことを,意図的に分からせる必要もありそうです。

 近年の子どもの自殺防止策の目玉が,「SOSの出し方教育」であることも,思い出しておきましょう。

2021年4月4日日曜日

広義の失業率

  新年度が始まりました。入社式で,希望にあふれた若者の姿がテレビに映ってますが,3月末で雇い止めに遭い,「今後どうしたものか」と途方に暮れている人もいるかと思います。コロナ禍で生活不安が広がっている今,決して少なくはないはずです。

 コロナによる生活不安の広がりを可視化する指標として,私はこれまで自殺者の数を使ってきました。極限状況まで追い込まれた人の数ですが,メディアでは,これの数段手前の困窮状態の人の数に注目されることが多いようです。代表格は失業率です。

 失業率とは砕いて言うと,働く意欲のある人のうち,職に就けないでいる人が何%かです。まさに生活困窮度の指標と言えるでしょう。分子には,調査に先立つ一週間以内に,ハロワにいくなど具体的な求職活動を行った人が充てられます。官庁統計でいう失業者とは,こういう意味です。

 しかし,働く意欲があるのに職に就けないでいる人を,このように限定してよいでしょうか。働きたいと思いつつも,様々な事情から求職活動ができない人もいます。上記の当局の定義だと,こういう人たちは失業者とはカウントされません。ある論者は,こうして漏れている人を潜在失業者と呼んだりしています。

 生活困窮の広がりをみる指標としての失業率を出す場合,このような潜在部分も掬わないとなりますまい。以下の図は,2017年の『就業構造基本調査』から作図した,15歳以上人口(1億1千万人ほど)の組成図です。

 働いている有業者と,働いてない無業者の比は大よそ「3:2」です。有業者は,従業地位でみると正規雇用,非正規雇用,それ以外の自営等に分かれますが,近年では非正規雇用の比重が増しています。よく言われるように,今では働く人の3割が非正規です。

 右側の無業者は,働く意欲がある人と,それがない人(⑥)からなります。前者は,調査に先立つ一週間以内に求職活動をした求職者(④)と,それをしなかった非求職者(⑤)に分かれます。官庁統計で採用されている,一般的な失業率の算出式は以下です。狭義の失業率と呼んでおきます。

 狭義の失業率=④/(全体-⑥)

 分子は求職活動をした人で,分母は,全数から働く意欲がない就業非希望者(⑥)を除いた数を充てます。

 しかし先ほど述べたように,「働く意欲のある人のうち,職に就けないでいる人が何%か」という意味合いの失業率にするには,上図の⑤も分子に加えるべきでしょう。調査前の一定期間に求職活動をしなかった(できなかった),というだけで,働く意欲はある人たちですので。私が提唱する,広義の失業率は以下の式で出します。

 広義の失業率=(④+⑤)/(全体-⑥)

 上図の①~⑥の数値を使って2つの失業率をはじき出すと,15歳以上人口の狭義の失業率は4.5%,広義の失業率は11.4%となります(2017年10月時点)。違いますねえ。言わずもがな,生活困窮度を測る失業率としては,潜在量も含めた後者のほうがベターです。

 働く意欲のある人のうち,職に就けないでいる人は11.4%。これは15歳以上人口の数値ですが,年齢によってかなり違っています。上記の2つの失業率を年齢層別に計算し,折れ線グラフにすると以下のようです。


 青線は,ハロワ通い等をしている求職者を分子にした狭義失業率,オレンジ色は求職者と非求職者を分子とした広義失業率です。

 2つの失業率の差は,10代と高齢層で大きくなっています。10代では,狭義では15.1%ですが,広義では32.1%です。失業率が3割超えというのは,ものすごいですね。働きたくても求職活動すらできない人が多いということですが,10代では,求職活動をしない理由の最多は「通学」です。学業と仕事の両立は,簡単ではない現実があるようです。

 グラフの右側をみると,60歳を超えると,年齢が上がるにつれ狭義と広義の失業率の乖離が大きくなってきます。70歳以上を切り取ると,求職者は20万人ほどですが,求職活動できないでいる非求職者は100万人を超えます。前者だけを見ていては,事態を読み違えるというものです。

 年金だけでは生活できない,働いて生活費を得たい。こういう意向は高齢者の間で広がっていると思いますが,就労意欲のある70歳以上(120万人)のうち,求職活動できているのは20万人ほどだけと。残りの100万人ですが,求職活動をしない(できない)理由として多いのは,「高齢のため」「病気・けがのため」といったものです。高齢なので採用されないだろうという,諦めの気持ちもあるでしょう。履歴書から性別欄をなくす動きが出ていますが,年齢欄も廃止してほしいものです。

 あと一つ注目したいのは,30代のあたりで広義の失業率がペコっと上がっていることです。求職したくてもできない,幼子を抱えた女性の存在ゆえでしょう。25~44歳の有配偶女性を取り出すと,求職者は56万人,非求職者は118万人にもなります。前者を分子にした狭義の失業率は6.4%ですが,両者の合算を分子にした広義失業率は19.7%です。働きたいと思っているママの5人に1人が職に就けないでいると。

 この年代の既婚女性が求職活動すらできない理由の大半は,「出産・育児のため」です。これがいかに重いかは,求職者と非求職者の差に表れています。子がいる女性が職を得るのは難しいといいますが,その度合いを可視化するには,2つの合算を分子にした失業率でみないといけません。

 参考までに地域差もご覧に入れましょう。25~44歳の有配偶女性の広義失業率を都道府県別に計算し,高い順に並べると以下のようになります。


 働きたいと思っているママ年代のうち,職に就けないでいる人が何%かです。ハロワ通い等をしている求職者だけでなく,それすらできないでいる非求職者も分子に入れています。

 13の都府県で20%を超えていますね。ほとんどが都市県ですが,幼子を預ける保育所の不足,いざという時に子を頼める親(祖父母)が近くにいないことなどによるでしょう。共稼ぎが求められる時代の中,上記の表の数値は,子育てファミリーの苦境の指標とも読めると思います。言い換えると,子育ての苦難のレベルです。

 事実,上記の失業率は,各県の出生率と有意な相関関係にあります。横軸に25~44歳の既婚女性の広義失業率,縦軸に合計特殊出生率をとった座標上に47都道府県を配置すると以下のようになります。横軸,縦軸とも2017年のデータです。


 子育て年代の女性の広義失業率が高い,家計維持に必要な収入が得にくい県ほど,出生率が低いという,右下がりの傾向が見受けられます。求職者のみを分子にした狭義の失業率では,浮かびあがらない傾向です。

 子を持つと職に就けない,家計が逼迫する。よって出産を控えよう。こうなるのは道理というものです。今の日本は,出産・子育てに伴う損失が大きくなっています。保育所整備等の必要性について,改めて認識させられます。

 コロナで切られたのは誰か? 答えは女性,非正規女性です。コロナが渦巻いて以降,非正規女性の数はガクンと減っています。しかし女性の失業者は増えていません。これをもって,女性は働く必要がないからだろうと思うべからず。ハロワにやってきた求職者(統計上の失業者)の背後には,求職すらできないでいる潜在失業者が数倍いるのです。昨年の今頃,学校が一斉休校し,小さい子がいる母親は家に縛り付けられる事態になりました。求職どころではありません。

 広義の失業率を提唱します。

2021年3月28日日曜日

社会を変えることの意識

  社会は変わる,だから社会学は面白い。事実,日本という社会も,時代につれて大きく変わっています。19世紀の半ばに封建社会から近代社会に移行し,20世紀半ばには基本的人権を尊重する,国民主権の民主社会になりました。

 ただ日本の場合,欧米と違って,外圧によって社会の変化がもたらされた経緯があります。そういうこともあってか,日本人は「社会を変えよう」という意識が薄い。とくに若者はそうで,主権者教育の充実が必要だ。ソースは失念しましたが,こういう主張を読んだ記憶があります。

 そこでは,内閣府の国際意識調査のデータが引用されていたのですが,それが何かはすぐにピンときます。『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』でしょう。最新の2018年版では,7か国の13~29歳の若者に対し,「私の参加により,変えてほしい社会現象が変えられるかもしれない」という項目への反応を問うています(Q24-e)。

 「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の回答比率をとると,日本は32.5%,アメリカは63.1%です。30ポイント以上の差です。ものすごい違いですね。7か国の数値をグラフにすると,以下のようになります。ジェンダー差もみるため,男子と女子のドットの高低グラフにしてみました。


 日本は他国に比して,各段に低くなっています。社会状況が似ているとされる,お隣の韓国と比してもです。「自分の関与で,社会は変えられる」。こういう意識を持つ若者が少ないことが知られます。ジェンダーの差が大きいことも看過できません。

 最も基底的な要因としては,上述のように,これまでの大きな社会変化がもっぱら外圧でもたらされたことです。民主化を自分たちの手で勝ち取ったことがない。こういう歴史的経緯に由来するクライメイトが,国民の意識を消極的なものにしていると。

 子どもや若者に至っては,上の世代から「出しゃばるでない」と頭を押さえつけられるのが常です。学校生活においても,既成の校則でがんじがらめにされ,自分たちの手でルールを作り,悪い所は話し合って変える,という機会を与えられることもありません。変に異議を申し立てると,「内申に響く」などと脅されます。

 疑似社会としての学校がこうなんですから,「どうせダメ」「従っていたほうがラク」と,「社会は変えられる!」という意識が育まれないのは道理です。無力感です。最近,民間人校長の手腕により,校則を撤廃し,生徒たちの自主性を大いに尊重する学校もちらほら出てきていますが,こういう実践を促していくべきです。

 社会の舵取りを,上の世代にばかり委ねていてはいけない。前に書きましたが,日本の若者の同性愛への寛容度は世界一です。若者は,社会を変えるポテンシャルを十分に有しています。あと必要なのは自信,気概です。同性カップルのパートナーシップを認める条例を最初に制定したのは,若者の街・渋谷区であったことも思い出しましょう。

 このことに関連して,あと一つ,気になるデータがあります。今度は国際比較ではなく,国内の時系列データです。1973年から5年間隔で実施されている,NHKの「日本人の意識調査」にて,義務ではなく権利と思うものを問うた結果です。「憲法によって,義務ではなく権利と定められていると思うものはどれか?」というワーディングです。

 「意見を表明する」「税金を納める」「組合をつくる」という項目を選択した国民の率が,45年間でどう変化したかをグラフにすると,以下のようになります。下記リンク先の書物の,付録26ページの資料によります。


 モノ言わず,手を取り合って団結もせず,黙々と税金を納めるだけの国民…。こういう構図が見て取れます。少子高齢化により,北欧並みの高税金社会もやむを得ない,という意識の高まりかとも思いますが,怖い変化だとも思います。

 ネット社会では,SNS等を介して意見表明するのは重要で,それが政治活動になるのもしばしばです。政治家の目にとまり,社会変革につながることも多々あります。そういう具体的な事例を提示しながら,主権者教育を行う。今後の学校教育において,求められることといえましょう。

2021年3月27日土曜日

雑誌『ケアマネジャー』で連載スタート

  ツイッターでちょっと告知しましたが,雑誌『ケアマネジャー』にて新連載が始まります。中央法規出版から出ている月刊誌です。先ほど,初回の4月号が届きました。発売は本日で,書店にも並んでいることと思います。


 連載の名は「データで見る 日本の高齢化と社会保障」で,2021年度の12回にわたって,超高齢社会を迎えた日本社会の現状を斬っていきます。

 私自身,高齢化の問題には関心を持っております。自分が高齢者のステージに達した頃にはどうなっているかという思いもあり,高齢者の暮らしの実情を,未来予測も含め,さまざまな角度からデータで可視化してきました。本誌の編集長氏の目にそれが止まり,連載にまとめてみませんか,という話になった次第です。現場の人に,マクロな「俯瞰」の視点を持っていただきたい,という願いもあるとのこと。

 見開き2ページのカラーで,与えられた土俵は12回。それを見越して,編集長さんと構成をじっくり相談しました。4月号の初回は,「人口」です。まずは社会の基底的な部分から。高齢化社会・ニッポンのすがたをデータで可視化しました。


 近未来の人口ピラミッドの予測図,世界の中での日本の位置など,提示するデータにはオリジナリティを持たせています。政府の白書の引き写しで済ませるという,横着はしていません。

 これから,住生活,労働,趣味・娯楽,自殺,生きてきた軌跡などのトピックを据え,合計12回の話に仕立てる予定です。これまで作ってきた雑多なデータを体系立てる点で,私にとってもいい機会です。高齢化という社会変化について,考えを深めることもできるなあ。

 送られてきた『ケアマネジャー』という雑誌をみると,福祉・介護の専門職が対象という性格がはっきりと出ています。超高齢社会を支える現場がどうなっているかに加え,社会保障制度の最新事情も知ることができ,とても勉強になります。1年間,タダ読みできるのはありがたい。

 私の連載は,現場から一歩引いた「鳥の目」のものになっています。他の文章に比して,明らかに異彩を放っていますが,こういう試みもいいでしょう。どうぞ,よろしくお願いいたします。

2021年3月22日月曜日

コロナのダメージの分布

  春らしく暖かくなってきました。しかし私は花粉が辛く,医者にもらった薬を毎日飲んでいます。夕食後に飲む薬には,やや強めの睡眠剤も入っているので,よく眠れていいです。

 コロナ禍が変わらず猛威を振るっていますが,それが社会に及ぼした影響を可視化できるデータが公表されてきています。最もいいのは,自殺者の数です。自殺統計には,警察庁と厚労省のものがありますが,細かい属性別の数を知れるのは後者です。先日,2020年の厚労省統計が公表されました。「地域における自殺の基礎資料」というものです。

 自殺日に基づく年間自殺者ですが,2019年では1万9974人でしたが,2020年では2万907人に増えています。年間自殺者が前年に比して増えたのは,リーマンショック以来だそうです。性別にばらすと,増えているのは女性です(男性は微減)。女性の自殺者は,6052人から6993人に増えています。

 自殺者の数は男性が多いですが,前年と比した増加率は女性で高し。この事実から,コロナによるダメージは,女性で大きいのは明らかです。非正規の雇止め,巣ごもり生活に伴う役割増加など,様々なことが言われています。先日の朝日新聞記事によると,女性研究者の論文生産数が,コロナが渦巻いて以降減っているそうです。家庭での役割が増加したためとのこと。

 コロナは,日本社会の矛盾を「これでもか」というくらい,露わにしてくれます。ジェンダー不平等は,その最たるものですよね。昨年の自殺増加が,もっぱら女性であることに,それははっきりと表れています。

 年齢を絡めると,以下のようになります。上記の資料から2019年と2020年の数字を採取し,整理しました。


 ここで注意したいのは,自殺者の絶対数よりも,前年と比した増加率です。右端の数値がそれですが,80歳以上を除く全年齢層で,男性より女性で高くなっています。とくに高いのは,未成年と20代の女性です。未成年女子は,215人から311人へと増えています。1.5倍の増です。

 右端の倍率を,折れ線グラフで視覚化すると以下のようです。ツイッターで発信したところウケていますので,ここに再掲いたします。


 2020年の自殺者数は,前年の何倍か? まさにコロナによるダメージの指標(measure)といえるものですが,若い女性で高くなっています。コロナが社会のどの部分に影響を与えたかが,はっきりと見て取れます。中高年男性では自殺は減っていることから,コロナのダメージは,社会の弱い層に凝縮しているようで何とも痛々しい…。

 若い女子の自殺増加。コロナの影響ゆえであるのは明白ですが,具体的事情について,友人と会えない孤独だとか,将来の見通しが暗くなったとか,果ては巣ごもり生活による性被害の増加とか,様々なことが言われています。

 なるほど,どれももっとものように思えますが,憶測では心もとないので,データで正確さをちょっとばかり期してみましょう。参照するのは,自殺の動機統計です。これは,警察庁の自殺統計に出ています。それぞれの動機カテゴリーに当てはまる自殺者数を計上しています(遺書等から動機が判明した者に限る)。複数の動機に当てはまる自殺者もいますので,数値は延べ数です。

 ダメージを受けている20歳未満を取り出し,男子と女子に分け,2019年と2020年の動機別自殺者数を対比すると,以下の表のようになります。


 2020年になって自殺の増加が著しい女子に注目すると,家庭問題,健康問題,学校問題に関わる自殺の増加率が高くなっています。より細かい小分類でいうと,家庭問題は「親子関係の不和」,健康問題は「うつ病等の精神疾患」です。巣ごもり生活で,親子がいがみ合うことが多くなっているためでしょう。

 さて,際立って増加率が高い学校問題ですが,細目をみると,「進路の悩み(入試以外)」という動機の自殺が11人から31人に増えています。数としては少ないですが,この手の悩みが女子高校生の間で広がっているとみられます。やはり,将来展望閉塞が大きいようです。

 中高年層では,自殺率は失業率と非常に強く相関しますが,若年層では将来展望不良と強く相関する。これは前に,データで示したことがあります。前途ある若者は,見通しの暗さを苦にするものです。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/09/post-94451.php

 男子では,「進路の悩みに」による自殺は2019年から20年にかけて減ってます。しかし女子ではかなり増えている。コロナによる将来展望閉塞には,性差があることに注意しないといけません。考えてみれば,「コロナで家計が悪化したんで,大学進学を諦めろ」と言われるのは,男子より女子で多いでしょう。

 しかし今では,大学等の学費無償,給付奨学金支給など,支援は充実してきています。夜間の課程は,学費も安いです。進路とは,ある意味「情報戦」です。一人で思いつめる(途方に暮れる)ことがないよう,相談を促し,こういう手立てもあると情報提供をすることが求められます。

 コロナ自殺は,若い女子に集中している。このファクトを詰めてみると,将来展望閉塞という事情が大きいことがうかがわれます。それは,当人を孤立させることなく,大人がきちんと目配りすれば防げる性質のものでもあります。教師は,いろいろな進路の選択肢(生き方)に関する知識を得ておくことです。

2021年3月14日日曜日

教員の大学院卒率の国際比較

  2012年の中教審答申で,教員の資格要件を大学院卒に引き上げよう,という方針が示されました。教員の資質能力の担保が表向きの理由ですが,審議の議事録をみると,「今は父母の多くが大卒なんで,教員の学歴を一段高くする必要がある」という発言も見受けられます。

 当時から10年ほど経過しましたが,現時点では実現をみていません。大学院まで行くとなると,在学期間の延長により学費が上昇し,教員志望者が減ってしまうのではなか,という懸念がささやかれていましたね。教育実習を1年間にするというのも,現場の負担を考えると現実的でない,という声もありました。こういう事情からか,学部から大学院までを見越した教員養成カリキュラムは構想にとどまっています。

 日本の教員をみるに,大学院を出ている人はわずかしかいません。IEAの国際学力調査「TIMSS 2019」によると,小学校教員の院卒率は5%,小学校校長では13%となっています。国際調査なんで,他国との比較もできます。主要国との背比べのグラフにすると,以下のようになります。


 違いますねえ。韓国とアメリカでは,校長の9割以上が大学院を出ています。おそらくは,管理職になるにあたって,修士ないしは博士の学位が求められるのでしょう。ドイツとフィンランドでは,一般教員もほとんどが大学院卒です。大学院修士課程までは教員養成カリキュラムに組み込まれてますので,自ずとこうなると。

 以上は7か国のデータですが,「TIMSS 2019」の調査対象58か国全体では,日本はどういう位置になるでしょう。横軸に教員,縦軸に校長の院卒率をとった座標上に,各国のドットを配置してみます。


 日本は教員,校長とも数値が低いので,左下の原点付近にあります。対極の右上には,最初のグラフでみたドイツやフィンランドのほか,スロバキア等が位置しています。教員のほぼ全員が大学院卒の国です。

 日本は高学歴化が進んだ社会といいますが,上記のグラフをみると「?」ですね。教員の院卒率は世界で最低水準。大学院卒の教員の職務遂行能力が優れているというエビデンスはないですが,高度な知の証である修士号ないしは博士号もちの教員がもっと増えてもいい,いや増えるべきだという考えが出てくるのは,ごく自然なこと。知の伝達者としての教員のアイデンティティの源泉にもなり得ます。

 そこで冒頭の中教審答申にて,教員をみんな大学院卒にしようという提言が出たわけですが,フィンランドの制度を意識してか,教員養成の期間を4年から6年に延ばそう,という方針が掲げられています。学部4年プラス修士2年です。

 ただ,学びの機会を入職前に集中させるのもどうかなと思います。上述のように,在学期間の長期化に伴う学費負担,長期実習の受け入れ負担のような問題もありますし。思うに,大学院に行くのであれば,現場に出て問題意識を培ってからのほうがいいのではないでしょうか。

 推進策として,既存の大学院修学休業制度を拡充するほか,夏季休暇等を使ってちょっとずつ学べるようにするなど,いろいろ考えられます。アメリカでは,こうした斬新的な学びができるようになっているそうです。これぞ,「学び続ける教員」の姿といえるでしょう。管理職になる年齢では,大半の教員が修士ないしは博士の学位を保持していると(最初のグラフ)。

 日本では,教員は入職後,膨大な業務に忙殺され,学び続けることができないでいます。最近は文科省も教員の働き方改革に本気になってきて,2019年1月の中教審答申では,これまで教員が担ってきた業務の仕分けが示されました。学び続けるための条件は,ゆとりです。教員を「何でも屋」的存在から,教えることに秀でた高度専門職へと脱皮させないといけません。それがどれほど具現しているかは,教員の大学院卒率で測れる面もあります。

 当局もやっと愚を認識してか,教員免許更新制が見直されることになりました。知的職業のアイデンティティとしての学位をとる教員が,もっと増えることを願います。

2021年3月3日水曜日

大学の選抜度と女子学生比率

  暦の上では春になりました。しかし北風の強い,寒い日が続いています。春らしく暖かい日が続くようになるのは,もうちょい先でしょうか。

 昨日の日経新聞によると,東京大学は新執行部(学長,副学長,理事)の9人のうち5人を女性にするとのことです。ねらいは,意思決定に多様な視点を取り入れると同時に,女子学生を増やすことにあるのだそうです。

 東京大学のHPの公表統計によると,2020年5月時点の学部学生数は6257人,うち女子は1214人となっています。女子の率は19.4%,2割にも達しません。東大の学生生活実態調査のバックナンバーによると,2000年11月時点の学部の女性学生比率は17.5%です。この20年間で女子学生率はほとんど変わっておらず,執行部の構造を変えないといけない,ということになったのでしょうか。

 なお全国の大学生の女子比率は45.5%で,偏りはほとんどありません(2020年5月,文科省『学校基本調査』)。あまりいい言葉ではないですが,選抜度の高い大学ほど,女子学生の率が低いのではないか,という仮説が浮かびました。

 これを検証したいのですが,全国の大学を偏差値別に仕分けする気力はありません。ここでは簡便に,①最高峰の東京大学,②旧帝大,③国立大学,④大学全体,という4つの群を設定し,各々の学生の女子比率を出してみます。

 上述のように①は19.4%,④は45.5%です。②の旧帝大は,北大・東北大・東大・名大・京大・阪大・九大の学部学生の女子比率を出します。ソースは,各大学のHPです。③の国立大学のデータは,『学校基本調査』で知れます。

 結果は下表のごとし。2020年5月時点の数値です。

 予想通り,選抜度が上がるにつれ,学生の女子比は下がってきます。大学全体では45.5%,国立大学では36.8%,旧帝大では27.7%,東大では19.4%,という具合です。

 はて,これはどういう事情なのか。戦前期と違って,大学受験のチャンスは両性に等しく開かれています。学生のジェンダー・アンバランスは,入試での合格率の性差なのか,それとも女子の受験生そのものが少ないのか。

 この点を吟味するには,受験者と合格者の性別人数が必要です。東京大学は,後者の男女別の数は公表していますが,前者は非公表です(why?)。西の雄の京都大学は,両方の男女別の数を出していますので,これを使いましょうか。2020年度の学部一般入試の「合格者数/受験者数」を,男女別に示すと以下のようです。

 男子=2147人/5477人=39.2% 

 女子=  578人/1628人=35.5%

 合格率は,男子のほうが4%弱高いですが,有意差のレベルではありません。分母の受験者をみると,男子が5477人で,女子は1628人で,受験する段階で人数に大きな性差が出ています。女子は男子に比して,難関大学にトライする子が少ない(学力は同じであっても)。教育社会学の用語で言うと,事前に「自己選抜」をして降りてしまうと。

 私が高校の頃,九大に行ける力があるのに,「女子だから地元の鹿大にしなさい」と,親に言われていた生徒がいました。こういう圧力は,女子をして自己選抜に向かわしめる典型要因といえます。

 上記の性別データは,京都大学全体のものですが,最難関の医学部医学科に限ると,入試の合格率は男子が43.4%,女子は29.8%と,明瞭に男子のほうが高くなっています。これなどはフェアな競争試験の結果で,理系学力の性差を持ち出したくなる人もいるでしょう(女子の点数を操作していたという,私大医学部のとんでもない不正もありましたが…)。

 確かに「PISA」などの国際学力調査をみても,理系教科の平均点は日本の場合,「男子>女子」となっています。しかしですね,これとても,思春期・青年期のジェンダー的社会化の影響ともとれるのです。「PISA」と並んで有名な学力調査「TIMSS」は,小4と中2を対象としていますが,算数(数学)で625点以上とった児童生徒の女子比率は,小4では49%,中2では44%,となっています(TIMSS 2015)。

 小4の時点では,算数がバリバリできる児童は男女半々なんです。これが中2になると,44%にちょっと下がります。その後はどうかというと,高1を対象とした「PISA 2018」によると,数学的リテラシーがレベル6以上の生徒の女子比は35%です。そして大学になると,たとえば医学部の女子比率は2割弱という有様です。

 加齢につれて,女子が劣勢になってきますが,「女子が理系なんて…」などというジェンダー・プレッシャーに晒されて,ということも考えられます。

 上に掲げた,選抜度別の大学生の女子比率から話が広がりましたが,こういうファクトを男女の学力差などと解釈せず,日本のジェンダー・クライメイトの中で「つくられる」ものである,という視点が大事かと思うのです。ちなみに前の記事で書きましたが,理系学力が「男子>女子」というのは,国際的にみると普遍的でも何でもありません。むしろ特異です。

 女子の自己選抜,理系教科ができる群の中での女子比率の低下…。これを自然なことと,放置してはなりますまい。ジェンダーの視点から,メスを入れられるべきことです。

2021年2月19日金曜日

所得ピラミッドの塗り分け

  ここ数日,私のツイッターには,不気味な横方向の棒グラフがたくさんアップされています。日本の労働者の年間所得分布図を,色々な観点から塗り分けたグラフです。見てくださる方が多いようですので,製作工程も含め,ブログにも載せておきましょう。

 今の日本では,働く人の大半は,会社や官庁等で雇われて働く雇用労働者です。2017年の総務省『就業構造基本調査』によると,年間所得(税引き前)が分かる雇用労働者は5852万人ほどです。

 100万円刻みの階級のヒストグラムを描くと,以下のようになります。こちらのページの表2300のデータより作図したものです。


 おおよそ,下が厚く上が細いピラミッド型です。稼ぎの分布図というのは,どの時代(国)でも,こういう型になるとみられます。

 最も多い最頻階級(mode)は200万円台です。300万円に満たない人は3064万人で,全体の52.4%を占めます。今の日本では,働く人の半分が所得300万円未満であると。最近よく言われるようになった「安いニッポン」の現実が出ているような気がします。ちなみに中央値(median)を出すと288万円となります。

 上をみると,いっぱしの稼ぎと言われることが多い600万円を超えるのは15.8%,7人に1人です。1000万プレーヤーは197万人で,30人に1人ですか。稼いでいる人というのは,そう多くはないようです。よく言われるようになりましたが,子育てには共稼ぎが求められる時代ですよね。

 さてここからが本題で,上記の真っ白のヒストグラムに色をつけてみます。一口に働く人といっても,属性は多様です。大きくは男性と女性に分かれますし,日本の雇用労働の世界では「正規・非正規」という独自の区分があり,両者の間には不当な待遇差があり,しばしば裁判沙汰になったりします。

 この2つを組み合わせると,男性正規,男性非正規,女性正規,女性非正規,という4つのグループができます。上図の白いピラミッドを,この4グループで塗り分けるのです。エクセルのグラフツールで一発ですが,元となるデータは以下です。上図と同じく,リンクをはったページの表2300から呼び出せます。


 所得が分かる4グループの合計は5491万人で,最初の図の5852万人よりやや少なくなっています。これは,従業地位が不詳の雇用労働者がいるためでしょう。

 素の数字なんで分かりにくいかもしれませんが,男性より女性,正規より非正規の労働者は稼ぎが低い階級に多く分布しています。女性非正規の最頻階級は一番下の100万未満です。というのか,雇われ労働者の数でみて多いのは,所得200万に満たない女性ではないですか。

 配偶者控除の枠内で就業調整をしている既婚女性が多いとみられますが,社会は,安い女性非正規労働に支えられているともいえます。上記の表のデータをグラフにすると,その様が「見える化」されます。最初の真っ白のピラミッドを,4グループで塗り分けた図です。


 ツイッターでも出しましたが,多くの人が肌で感じている現実が,見事に可視化されています。「男性が女性を踏みつぶしている」「労働者の半分は,働くことに希望を持てるか」・・・。こんなコメントが寄せられました。

 安泰といわれる大企業では,男性と女性の位置のコントラストがもっと際立っています。大企業の利潤は,安い女性労働力の搾取で成り立っていると。
https://twitter.com/tmaita77/status/1362196689097003014

 右下の女性労働力には,保育や介護といったエッセンシャルワークの人もいるはず。こういう人たちの給与を上げると同時に,配偶者控除という時代に合わなくなった制度も見直すべし。趣旨は,配偶者の稼ぎが少ない人を救済しようというものですが,現実には,既婚女性の就労を押さえ込む方向に機能しています。人手不足だというのに,こんなことをしている場合ではありますまい。

 日本の所得ピラミッドの裾野は広く,社会は「安い労働力」で支えられていることが知られますが,その「安い労働力」がどういう人かを可視化すると,人為的な是正が必要といえるレベルの理不尽な現実が見えてくるのです。

2021年2月17日水曜日

就職率のからくり

  春も近くなってきました。私は7時前に起き,ラジオ体操をして,主要紙サイトのニュースをチェックします。朝日,NHK,日経,毎日の順です。朝日は有料会員登録(月980円)をして,記事はほぼ見放題です。

 日経も良質な記事が多いので有料登録しようかと思っているのですが,やや費用が高く,二の足を踏んでいます。ひとまず,有料記事を月10本まで読める無料会員登録をしています。

 その日経サイトに,「氷河期の統計,実態を映さず 内定率高く出る傾向に注意」という記事が出ています。「氷河期」「統計」。私が飛びつきたくなる言葉で,すかさずクリック。内容は予想通り,当局の就職内定率のトリックについてです。就職希望者ベースの数値なんで,途中で「もうダメだ」と諦めた学生,音信不通になった学生などは分母から除かれている。だから,氷河期世代の統計でも,就職率が9割超なんていう数字が出るのだと。

 学校卒業者の就職率の公的調査は,文科省・厚労省の「大学等卒業者の就職状況調査」です。10月,12月1日時点の内定率と,4月1日時点の最終就職率が公表されています。私は1999年春に大学を出ました。1999年4月1日時点における,4年制大学卒業者の就職率,および就職希望者率は以下のようになっています。

 就職率=92.0%  就職希望者率=68.3%

 氷河期世代といわれる私の世代ですが,大卒者の就職率は92%。そんなに悪くはないじゃん,という印象を与えられます。そこが問題で,どういう事態であるかを図解すると以下のようになります。


 就職率92.0%というのは,全体の7割弱の就職希望者の中での比率です。就職非希望者は分母からオミットされていて,この中には,途中で「もうダメだ」と諦めた学生も含まれています。上記の日経記事で指摘されている通りです。

 卒業生全体を分母にすると,就職率は,68.3% × 92.0%=62.8%となります。これはリアリティのある数値です。まさに氷河期世代。しかし就職非希望者の中には,就職の意思がない大学院等進学者もいるので,この部分は分母から除くべきでしょう。よって,真正の就職率はもうちょっと高くなるとみられます。

 ここで,文科省『学校基本調査』の出番です。春の大学卒業者の進路が,細かいカテゴリー別に集計されています。1999年3月の大学卒業者について,以下の数値を拾ってみます。

 A)卒業生総数=53万2436人
 B)大学院等進学者数=5万4023人
 C)就職者数=32万72人
 D)臨床研修医数=6450人

 Dの臨床研修医とは,医学部卒業生の多くが最初に進むキャリアですので,これは分子の就職者に足しましょう。分母は,卒業生総数から,就職の意志がない大学院等進学者を引いた数を充てます。

 就職率=(C+D)/(A-B)=68.3%となります。

 これが,1999年春の大卒者の精密な就職率です。7割を切っていて,氷河期世代の就職率としてリアリティがありますね。私はこのやり方で,各年春の大卒者の就職率を計算しました。以下は,1990~2020年の30年間の推移です。


 バブル期で高かったのが,平成不況の深刻化と共に低下し,世紀の変わり目から初頭にかけてボトムになります。7割を割るのは,1999~2004年の卒業生です。世代で言うと,1976~1981年生まれですね。この世代が,真正の氷河期世代,ロスジェネということになります。

 上記の日経記事では,文科省の公表統計では「氷河期の実態が出てこない」と嘆かれていますが,ちゃんと頭を使って算出した就職率だと,氷河期の存在がはっきりと浮き出てきます。現在では40代前半になってますが(私は44歳),この世代への支援が求められます。ロスジェネ限定の採用試験を実施する自治体や官庁が続出っしているのは結構なことです。

 前にニューズウィーク記事で書きましたが,上記の就職率のグラフに,小学校教員採用試験の競争率を重ねてみると,逆の動きになります。民間への就職が厳しかった氷河期では,教員採用試験の競争率がメチャ高だったのです。ピークは2000年度採用試験の12.5倍で,大卒者の就職率が最も低かった年と一致します。

 ロスジェネの中には,優秀であっても,夢破れて教員になれなかった人も多いはず。こういう人たちが再挑戦できるよう,教員採用の門戸も開いてほしいものです。昨今の教員不足の解決に寄与してくれるメシアです。

 就職率から話が広がりましたが,政府の公表統計は信頼できるからと鵜呑みにせず,「これはおかしいな」と思ったら,ちゃんと自分の頭で考えて,現実により接近した指標を考えてみる。ちきりんさんの『自分のアタマで考えよう』は名著ですが,これってホントに大事だと思います。

 コロナの影響で,昨年春の就職率は下落しているかと思いきや,そうではないようです。しかし今年春はどうか分かりません。ロスジェネに続く,第2の悲劇の世代「コロナ・ジェネレーション」が出ないとも限りません。