2017年1月31日火曜日

2017年1月の教員不祥事報道

 年が明けたと思ったら,もう1月はおしまいです。早いですねえ。

 恒例の教員不祥事報道の整理ですが,今月,私がネットでキャッチした教員不祥事報道は30件ジャストです。年初のためか,ちょっと少なめです。

 今月中旬に裁判を起こしました。「舞田は負けたら,相手の弁護士費用も請求されて破産だ」とかぬかしている輩がいますが,おバカさんですねえ。「訴訟費用は原告の負担とする」という判決が下りても,その中には,相手の弁護士費用は含まれません。

 ただ,訴状に貼った印紙代(今回だと1万3000円)と民事予納金(6000円)はあなたの負担ですよっていうだけです。だいたい,負けたら相手の弁護士費用も負担しないといけないとなったら,怖くて訴訟なんて起こせたものじゃありません。

 むろん,相手に経済的ダメージを与える意図で,素人がみても法的根拠がないと分かる事案で訴えた場合などは,話は別です。こういう明らかな嫌がらせ訴訟の場合は,被告の弁護士費用も請求されることがあります。*こういうケースは,訴状審査で撥ねられると思いますけど。

 明日から2月です。昨日と違い,今日は寒かったですね。日は長くなりましたが,暦の上ではまだ冬です。背景を2月バージョンに変えます。

 そうそう。中小企業診断士の西*明さん。すっかり仕事が減っているためか知りませんが,おヒマなようですねえ。口頭弁論に来られますか。あなたの顔は特徴があるので,すぐ分かるかと思います。お会いできたらいいな,と思っています。あなたにすれば,今回の裁判の行方がどうなるか,気が気でないでしょう。

<2017年1月の教員不祥事報道>
交際相手宅の窓壊した疑いで中学教諭を逮捕、奈良(1/2,産経,奈良,中,男,49)
児童の情報含むメールを誤送信 県立学校の教諭(1/6,下野新聞,栃木,特)
女性宅にわら人形置いた?名古屋の高校講師逮捕(1/7,産経,愛知,高,男,37)
講師が襟絞め、3生徒を気絶させる 「女子に嫌がらせ」と指導
 (1/8,西日本新聞,福岡,中,男,30代)
小学校教頭を3度目逮捕 滋賀、女性に強要未遂容疑(1/11,京都新聞,滋賀,小,男,50)
「デスノートに名前を書くぞ」 小学校講師が児童に発言(1/12,朝日,福島,小,男,30代)
窃盗で逮捕 所沢市公立小学校教諭が懲戒免職処分(1/13,テレ玉,埼玉,小,男)
中学臨時講師の男逮捕 改正ストーカー規制法、県内初適用
 (1/14,秋田魁,秋田,中,男,23)
小学校教諭 強制わいせつ容疑 (1/15,NHK,北海道,小,男,42)
飲酒運転の教諭を停職処分に(1/17,NHK,鹿児島,男)
<剣道部顧問>竹刀で殴り、女子部員入院(1/19,毎日,千葉,中,男,39)
教え子に淫行容疑…福岡の私立高教諭逮捕(1/19,産経,福岡,高,男,41)
教え子の女子高生と性的関係 20代講師懲戒免職(1/20,朝日,愛知,高,男,20代)
酒気帯び容疑で中学校教諭を現行犯逮捕、民家の石垣に車ぶつける
 (1/20,産経,宮崎,中,男,35)
盗撮で逮捕の教頭免職 神戸市教委(1/20,産経,兵庫,小,男,55)
出張費不正受給:沼津と伊東の2教諭を懲戒処分(1/21,毎日,静岡,高男40代2名)
セクハラ教頭を減給処分(1/21,NHK,福岡,小,男)
児童福祉法違反容疑:国語準備室でわいせつ行為(1/23,毎日,茨城,高,男,46)
銭湯で男子生徒を盗撮 容疑で私立中講師の56歳男逮捕 (1/23,産経,兵庫,中,男,56)
体罰:男性教諭を減給処分 県教委(1/24,毎日,長崎,小,男,51)
教諭が日教組出身議員のチラシを児童に配布 市教委が処分検討
 (1/25,NHK,神奈川,小,男,60代)
女子中学生の頭部、小型ストーブで殴る 男性臨時講師を減給処分
 (1/25,産経,兵庫,中,男,30)
体罰で男子児童骨折 男性教諭を停職1カ月(1/26,産経,茨城,小,男,44)
教諭の男、「ボコボコに」と同僚女性に傷害容疑(1/26,読売,福岡,小,男,38)
事故不申告、人身事故の教諭戒告 県教委処分(1/26,秋田魁,秋田,小,女,40代)
10代女性の胸触った疑い 35歳美術講師を逮捕 (1/26,日刊スポーツ,静岡,男,35)
懲戒免職:盗撮の男性教諭を処分 県教委(1/26,毎日,山形,小,男,25)
パチンコ店で財布盗む 岐阜の高校教諭停職(1/26,CBCテレビ,岐阜,高,男,53)
<仙台教諭暴言>男性教諭を懲戒処分(1/28,河北新報,宮城,中,男,53)
窃盗し逃走、交番前で転倒…御用(1/28,産経,東京,小,男,25)

2017年1月30日月曜日

事実に基づいた教育論を

 学研アソシエという会社から,『学研・進学情報』という小冊子が刊行されています(月刊)。全国で進路指導に当たっている,高校の先生向けの情報誌です。

 明後日発売の3月号の2~5ページに,私が受けたインタビュー記事が掲載されています。「事実に基づいた教育論を」というテーマです。


 上記のテーマで話をしてくれる識者を探していたところ,私に白羽の矢が立ったとのこと。とくに,ニューズウィークの連載記事に興味を持ってくださったようで,興味深いトピックを先方でリストアップしてもらい,それぞれについて,データ作成者の私がコメント(解説)するという形式です。

 最初に,教育学の中でも異彩を放っている,教育社会学の「事実学」としての性格についてお話ししました。

 そのあと,高校階層構造の「トラッキング」現象,リケジョの国際比較,若者の冒険志向,リカレント教育,教育格差,といった問題についてお話ししています。そんなの随所で語られているよ,と思われるかもしれませんが,独自に作成したデータを引き合いにしているのがウリです。

 最後に僭越ながら,進路指導に当たっておられる高校の先生方へのメッセージを述べさせていただきました。

 私は正直,インタビューというのは苦手です。師匠譲りの口下手に加え,話があちこち飛んでしまうきらいがあるのですが,学研のライターさんが,私が言わんとしていることを実に上手くまとめてくださっています。さすがはプロですねえ。感心!

 編集後記に,うれしいことを書いてくださっているので,紹介させていただきましょう。


 明後日の2月1日に発売です。全国の高等学校には配送されるそうですが,一般の方は,電子書籍(キンドル)で読んでください,とのこと。たったの108円です。

 大学生のブラックバイトに関する,大内裕和教授のインタビュー記事もオモロイ。興味ある方はぜひ,キンドルでお読みください。

2017年1月27日金曜日

教員の長時間勤務率の国際比較

 教員の悲惨な勤務実態を明らかにした調査レポートが,次々に公表されています。たとえば連合総研の調査によると,小・中学校教員の7割は週60時間以上勤務で,この割合は民間の他業種に比してダントツで高いとのこと。

 週60時間といたら,週5日勤務と仮定すると1日12時間。法定の1日あたりの労働時間は8時間ですから,週あたりの残業時間は(12-8)×5=20時間,月あたりにすると80時間,過労死ラインを超えます。

 こんな働き方をしている教員が7割もいると。子どもにとっても,悪いモデルになるでしょう。

 他国もそうなのでしょうか?いや,そんなわけはありません。OECDの国際教員調査「TALIS 2013」のローデータから,中学校教員の週間勤務時間分布を知れます。フルタイム勤務の教員のうち,週60時間以上勤務している者は何%か。この比率の国際比較をやってみました。

 勤務時間が判明する全教員でみると,週60時間以上勤務者の割合は,日本の49.6%からフィンランドの1.0%まで幅広く分布しています。日本では半分ですが,北欧のフィンランドではほぼ皆無であると。スゴイ違いですねえ。

 しかし,様相は年齢によって違います。以下に掲げるのは,32か国の年齢層別の長時間勤務者率です。


  どの年齢層でも,週60時間以上働いている教員の割合は日本が最も高くなっています。20代では67.0%と,7割近くになります。若手では,こんなにも多くの教員が過労死レベルの働き方をしていると。

 日本は率の高さに加え,年齢差が大きいことも特徴のようですが,昔ながらの年功序列のようなものが生きているのでしょうね。今問題になっている部活指導も,若手に多く降ってくるでしょう。

 20代の若手について,長時間勤務者率のランキングのグラフを作ると,実に衝撃的です。


 日本は,2位のシンガポールを大きく引き離してダントツ。国際的な標準から大きく外れた,病理のレベルに至っています。

 次期学習指導要領の目玉はアクティブ・ラーニングですが,AL型の授業の準備には手間がかかります。教えることの専門職たる教員が,本来の業務(授業)に集中できるようにすべく,部活指導のような業務から,彼らを解放しないといけません。

 下位のヨーロッパ諸国では,教員の職務の境界がさぞ明確なのでしょうね。それは,教員が専門職として確立されていることと同義です。

 わが国では,教員の社会的性格が未だに曖昧なまま。「準専門職(semi-profession)」という苦肉の表現があてがわれたりしています。教員自身は,自分たちを専門職と思っているのに,現実には「何でも屋」のようなことをさせられる。教員の苦悩の源泉は,こういう立ち位置の曖昧さにあるともいえるでしょう。

 長時間勤務を是正するのは小手先の手段ですが,もっと根源的には,教員という職業の社会的性格を定かにすること。後者の大きな課題も,絶えず認識しておかないとなりますまい。

2017年1月24日火曜日

収入格差が大きい職業は?

 私は,「プレジデント・オンライン」で連載記事を書いています。編集者さんより,「メインの読者層はビジネスマンなんで,職業別のいろいろなデータを出してもらえばウケますよ」というアドバイスをもらいました。
http://president.jp/category/c00547

 職業は社会で果たしている役割ですが,人間のアイデンティティの源泉で,当人の意識や行動をも強く規定しています。大きな声では言えませんが,収入や威信にも傾斜がつけられています。社会学的にみても,重要なキー変数です。

 まあ言われずとも,職業別の年収,労働時間,さらには趣味など,いろいろな観点からデータを出してきました。まだ手を付けてない「穴」はないかと思案していたところ,今日たまたま,文筆家は収入格差が大きい,という趣旨のツイートをみかけました。

 おお,そうだ。職業別の収入格差はまだ明らかにしていませんでしたね。平均年収ばかりが注目されますが,それぞれの職業内部の収入格差という視点もオモロイ。収入格差が大きい職業は? タイトルの問いに答えるデータを出してみましょう。

 毎度使っている『就業構造基本調査』では,職業別の年収分布が明らかにされています。2012年調査の原表は,下記サイトの表35です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search

 収入格差が大きい職業・・・。そうですねえ,文筆家はもちろんそうですが,芸術家もさぞ格差が大きいでしょう。音楽家・舞台芸術家の年収分布を整理すると,下表のようになります。


 低収入層ほど多いピラミッド型になっています。合計9万2200人のうち,年収200万未満が3万6700人。何と何と,年収200万未満のプアが全体の4割をも占めている。ゲージュツの道は厳しいですねえ。

 では,収入格差はどうでしょう。16の年収階層の人数と,各層が手にした富量の分布を照合してみます。富量は,階級値を人数に乗じた値です。年収300万円台の階級に属する人の年収は,一律に中間の350万円とみなします。この場合,この階層が手にした富の量は,350万円×8800人=220億円となります。

 この要領で16の階層の富量を出し合算すると,3355億円なり。これが音楽家・舞台芸術家が手にした富の総量ですが,この巨額の富が各階層にどう配分されているか。

 真ん中の相対度数の黄色マークをみてください。これによると,人数では6.4%しか占めない年収1000万以上の層が,全富量の24.3%,4分の1近くをもせしめています。右側の累積相対度数をみると,偏りはもっとクリアーで,人数では6割近くを占める年収300万未満の層には,全富の22.2%しか届いてません。

 ミュージシャンの富ってのは,一部の稼げる人間によってのみもたらされているのですねえ。上表のデータを使って,年収ジニ係数を出すとどうなるか。下図は,横軸に人数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に,16の年収階層のドットを配置し,線でつないだ曲線です。年収ローレンツ曲線と名付けておきましょう。


 この曲線の底が深いほど,人数と富量の階層分布のズレが大きいこと,すなわち年収格差が大きいことを示唆します。われわれが求めようとしている年収ジニ係数は,色付きの面積を2倍した値です。

 色付き面積は0.2476ですので,年収ジニ係数はこれを2倍して,0.4952となる次第です。計算方法の詳細は,下記記事をご参照あれ。
http://tmaita77.blogspot.jp/2011/07/blog-post_11.html

 ジニ係数は一般に,0.4を超えると大きいと判断されます。0.5に迫るというのは,相当なものでしょう。常識的にも頷けますけど,音楽家・舞台芸術家は,収入格差が大きい職業のようです。最初の表のピラミッド型年収分布からも分かりますが,稼げるのは一部だけ。そんな世界ですな。

 このやり方で,68の職業の年収ジニ係数を計算してみました。下表は,その一覧です。


 黄色マークは,ジニ係数が0.45を超える職業です。先ほどみたミュージシャンのほか,外勤事務従事者や販売職も高いですね。農業や漁業も。仕事を取れるか,モノが売れるか。実力重視の度合いが高いためでしょう。

 ビル管理人や清掃業の内部格差が大きいのは,非正規雇用の比重が高いためと思われます。

 青色マークはジニ係数が0.2に満たない,収入格差が小さい職業です。管理的公務員と鉄道運転従事者・・・。これは分かりますよね。公共性の高い仕事ですので。

 教員の年収ジニ係数は,0.2880ですか。教員の多くは公務員であるためでしょう。しかし,大学教員に限ったら値がメチャ高であるのは間違いありますまい。身分格差と形容されるような,専任教員と非常勤教員の給与格差。

 非常勤教員も含めた広義の大学教員の年収ジニ係数を出したら,0.7から0.8くらいいくんじゃないかなあ。

 前に明らかにしましたが,大学教員の非常勤比率はどんどん増えてきています。薄給を厭わない無職博士の増加と,人件費を抑制したい大学の思惑という,2つの条件がマッチングしているためです。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/09/blog-post_25.html

 不吉な予感ですが,あと数年後には,大学のキャンパス内で凄惨きわめる無差別殺傷事件が起きるのではないか・・・。大学関係者で,こんな杞憂を持っているのは,私だけではないでしょう。

 表の右側には,参考として各職業の平均年収を添えています。平均年収と年収ジニ係数の相関は,マイナスです。収入格差が大きい職業は,全体の年収水準も低い傾向。簡単にいえば,一部の人しか稼げない,ということです。

 年収ジニ係数が大きい職業の年収分布を描くと,下が厚く上が細い「ピラミッド型」になるケースが多数。最初の表でみた,音楽家・舞台芸術家などはその典型例です。

2017年1月20日金曜日

大卒女性のすがたの国際比較

 先日,ツイッターにて,「大卒有業者の正規職員率」のグラフを発信したところ,たくさんの方が見てくださいました。年齢を上がるにつれて,男女の乖離がどんどん大きくなっていく,同じ大卒といえど,女性はどんどん非正規に追いやられる・・・。この様が,見事なまでに描かれているためでしょう。
https://twitter.com/tmaita77/status/820566840237662208

 ここに,再掲しておきます。


 言わずもがな,結婚や出産,さらには介護などがネックになるため。女性のハイタレントの浪費ですが,これは日本の特徴なのか。社会学をやっている人間なら,こういう問いが出てきます。

 『世界価値観調査』にて,高等教育卒業の女性のフルタイム就業率を出せないことはないですが,年齢を統制すると,多くの国でサンプルが少なくなり,傾向が不安定になります。

 そこで何かいいデータはないかと探していたところ,OECDの国際学力調査「PISA 2012」にて,対象の15歳生徒に対し,母親の就業状態(地位)を尋ねていることに気づきました。カテゴリーは,①フルタイム就業,②パートタイム就業,③失業,④その他(主婦等),です。

 PISA調査は大規模調査ですので,サンプル数は全然大丈夫。日本は6千人超!なり。

 15歳生徒の母親ですから,そうですねえ,だいたい40歳くらいでしょうか。この問いの回答から,40歳くらいの既婚・子持ち女性のフルタイム就業率の国際比較ができます。学歴も訊いていますので,大卒の母親に限った比較も可能です。

 私は,63の国について15歳生徒の母親のフルタイム就業率を計算し,高い順に並べてみました。左は母親全体,右は大卒の母親に限ったデータです。下記サイトでのリモート集計によりますので,%値が粗い整数値であることをお許しください。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 以下の表は,「母親がフルタイム就業」と答えた生徒の比率のランク表です。無回答や母親がいない生徒は分母から除いて率を出してます。


 まず左の全体をみると,日本は37%で,63か国中47位です。低いですねえ。色をつけた主要国の中では最下位です。

 しかるに大卒の母親に限ると順位はもっと下がり,57位まで落ち込みます。相対的な傾向ですが,高学歴の層に限ると,日本の女性の社会進出の遅れがいっそう際立ちます。他の社会に比して,女性のハイタレントが活用されていない,ということです。

 その分,パートや主婦が多いのですが,この部分も加味した,国際的な構造図を描いてみましょう。横軸にパート就業・主婦,縦軸にフルタイム就業の比率をとった座標上に,63の社会を位置づけてみました。大卒の母親のすがたの国際比較図です。「瑞」とは,スウェーデンをさします。


 2つの指標はほぼ表裏ですので「ナナメ」の配置ですが,左上は高学歴女性の社会進出が進んだ国で,右下はその逆です。斜線より下は,フルタイムよりパート・主婦が多い社会なり。

 日本は右下にあり,宗教的な理由で女性の社会進出が制限されている,イスラーム諸国と同レベルです。欧米の主要国から大きく外れています。

 まえに,『日経デュアル』の記事にて,30~40代女性全体のデータで,同じようなグラフを作ったことがありますが,そのグラフでは,日本はちょうど中ほどでした。しかし高学歴層に限ると,上図の通り,右下に位置してしまっている。女性の社会進出の制限は,高学歴層でとりわけ顕著であることになります。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=5728

 左上には,旧共産圏の社会が多いですね。これは,国民皆労働の伝統が強いためではないでしょうか。

 日本の女性の社会進出の制限はよく知られていますが,国際比較でみると,高学歴層でそれが顕著である。せっかくの女性のハイタレントを活用できないでいる社会。それがここでのファインディングです。

 こういうデータをみると,子ども期・青年期の教育よりも,待機児童対策やリカレント教育推進に資源を投じたほうがいいように思えてきますねえ。前者に力を入れたところで,そこで育てたマンパワーはどうせ活用されないのですから。

 これは冗談として,日本が相当の「ムダ」をしている社会であることは,間違いないように思えます。

2017年1月17日火曜日

訴状を提出

 本日、東京地裁に民事の訴状を出してきました。事件の詳細については書けませんが、裁判の初体験です。


 裁判というと、お金がかかるイメージがありますけど、それは弁護士を雇うからであって、自分でやるならば、全然そうではありません。

 今回の訴訟でいうと、訴状正本に貼った印紙代が1万3000円、民事予納金が6000円です。後者は、被告に訴状を送る郵送料などに充てるもので、余ったら戻ってきます。合計で、2万円にも達しませんでした。

 一番骨が折れるのは、訴状の作成ですが、訴状の書き方の手引き本はいろいろ出てますし、ネット上にもサンプルがゴロゴロ転がっています。それらを参考に、自分なりに認めてみました、枚数は、A4で3枚です。

 私は、三浦和義さんの『本人訴訟必勝マニュアル・弁護士いらず』太田出版(2007年)を主に参考にしました。本人訴訟で何度も勝訴した経験のある人物の著書で、訴状のお手本も多く載ってます。
http://www.ohtabooks.com/publish/2007/08/08203002.html

 訴状の記載事項については、以下の公的説明のサイトがいいでしょう。
http://www.courts.go.jp/saitama/saiban/tetuzuki/minji/

 これから、被告から答弁書が出され、法廷での口頭弁論という流れになるかと思います。結果はどうであれ、こういう経験ができることにワクワクしています。

 むろん、いきなり訴訟に踏み切ったのではなく、相手方との交渉の機会は持ちました。しかし残念ながら、問題解決の方途は見出せませんでした。そこでやむなく、法的措置をとった次第です。

 やってみると、裁判というのは簡単に起こせます。アメリカは訴訟社会で、ちょっとしたことでガンガン訴えるといいますが、裁判をやってもらうのは、納税者の国民の権利です。

 乱訴は感心しませんが、最終手段としてなら致し方ありません。私はいろいろトラブルを起こす人間ですが、問題解決のオプションが広がりました。結果は二の次で、実際に提訴を経験し、「自分でもできるんだ」という自信をつけるのも狙いです。

2017年1月14日土曜日

数学嗜好と数学学力

 先日,プレジデント・オンラインの記事にて,15歳生徒の数学嗜好スコアの国際比較をやってみました。数学嗜好を測る設問(8つ)への回答を合成して作ったスコアの平均値です。資料は,OECDの国際学力調査「PISA 2012」なり。
http://president.jp/articles/-/21065

 日本の生徒の平均スコアは最下位。世界で最も「数学ギライ」の国であることが分かってしまいました。対して,インドネシア,ペルー,メキシコといった発展途上国ではスコアは高くなっています。

 言わずもがな,このスコアの高低は,それぞれの社会の数学教育のレベルにもよるでしょう。日本では内容が高度ですが,途上国ではさにあらず。簡単な内容なので,多くの生徒は自信満々。数学嗜好と数学学力は別の次元の話で,後者は日本のほうがはるかに高くなっています。

 国際データにて,両者の相関図を描くと,逆相関の傾向になっています。


 左上は,高度な内容を課され,多くの生徒が自信を失っている社会。右下は,内容が平易で,生徒が自信を持てている社会。こんなふうに性格づけることができるでしょうか。

 個人単位の因果の話ではありませんが,社会レベルのデータでみた場合,数学を好む度合いと数学の現実の学力水準は,逆相関の関係にあります。シンガポールのように,両方が高い水準にある,好ましい社会もありますが。

 しかし,左上と右下の社会のどっちがいいのかしら。

 高度な内容を課して,全体として高い学力水準を実現していますが,多くの生徒が自信を剥奪されている。高度な理系学力を鍛えても,それを活かして理系職を希望する生徒が出てこない(とくに女子)。これが日本の現状でしょう。

 変動が激しい社会で重要なのは,新たなことを積極的に学んでいこうという「関心・意欲・態度」です。日本では,学力の「現在値」が高くても,将来での躍進可能性を示す「未来値」は低いのではないか。

 この問題ははっきり認識されており,次期学習指導要領の目玉である「アクティブ・ラーニング」は,後者を鍛えるための戦略であることは,言うまでもありません。

2017年1月13日金曜日

中年期からでも参入しやすい職業

 私は40歳ですが,今もらっている仕事だけで食えなくなったら,どうするか。美味しい賄いも出ることだし,H屋でアルバイトでもしようかしらん。

 ちゃんとした正規雇用の仕事に就こうとしたら,選択肢はかなり限られるでしょうね。如何せん,もう40歳ですので。

 私は教員免許状を持っていますが,たとえば,高校教員になれるチャンスはどれくらい開かれているか。厚労省の『賃金構造基本統計』では,「職種×年齢×経験年収」のクロス集計がなされています。短時間労働者を除く,一般労働者のデータです。ほぼ正規職員に近いとみてよいでしょう。

 2015年の同統計によると,経験年数0年(1年未満)の男性の高校教員は1300人。このうち,40歳以上の者は160人となっています。新米の教員のうち,40歳以上の割合は12.3%ですか。少ないですね。多いのは,大学を出て間もないピチピチの20代でしょう。

 しかしタクシー運転手の場合は違っていて,経験年数が1年に満たない男性の新米運転手のうち,40歳以上が84.2%も占めています。中年期からでも参入しやすい職業といえるでしょう。確かに,そんなイメージはあります。

 他の職業についても,同じ値を計算してみました。経験年数1年未満の男性新米労働者のうち,40歳以上の中高年の割合です。割り算のベースが100人に満たない職業は,分析対象から外しました。計算に使った数値は,下記サイトの表3から得ています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001058843&cycleCode=0&requestSender=estat


 値が高い順に並べたランキング表です。トップは,自家用乗用自動車運転者で99.6%なり。この職業では,新米のほぼ全てが40歳以上です。いわゆる,お抱え運転手ですが,若い頃からの積み上げ(キャリア)は要しないでしょう。

 2位は大学教授ですが,教授昇進の年齢が大抵40歳以上であることによります。最近は,民間で長期のキャリアを積んだ社会人畑出身の教授も多くなっていますしね。

 守衛や用務員などは,定年後に始める人も多し。

 表の左上の職業は,中年期からでも比較的参入しやすい職業ですが,右下はその反対です。青色の職業は,新米のうち40歳以上は皆無。左官などは昔ながらの徒弟制で,若い頃からの「たたき上げ」がモノをいう伝統が生きているのでしょうか。

 40歳までニートだった者が,比較的就きやすい職業の目安になるでしょうか。新米の一般労働者(≒正規職員)のうち,40歳以上の中高年の割合を職業別に計算してみた結果でした。

2017年1月11日水曜日

著作物の使用条件

 先週の金曜,某出版社より,ニューズウィークWeb版に出した記事の図表を使わせてほしい,という連絡がきました。下記記事の図1「幼子の世話は,最初に誰がすべきか」です。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/post-4532.php

 2月に刊行予定の新刊に使いたい,図表は原版を参考に新たに作り直すとのことでした。つまり,改変を施す,ということです。

 こういう依頼がくると喜ぶ人が多いのでしょうが,私はその逆です。またトラブルに巻き込まれ,嫌な思いをするのではないかと,憂鬱になります。

 私は,以下の3つの条件で使用を許諾すると返事しました。

 1)使用料をお支払いいただくこと。額は相談。
 2)事前に,該当箇所のゲラをお見せいただくこと。
 3)本が刊行されたら,一部お送りいただくこと。

 昨日,先方からリプがありました。「条件を検討した結果,許諾申請は取り下げる」とのことです。使用料をよこせだの,ゲラを見せろだの言ったので,不快に思ったのでしょう。

 しかるに,どれも当たり前の要求です。まず1)ですが,商業出版という営利事業に他人の著作物を使う場合は,使用料を払うのが普通です。

 先週発売された雑誌『プレジデント』に,私が計算した「職業別の時間給」のデータが転載されていますが,使用料はきっちりとお支払いいただきました。
https://twitter.com/tmaita77/status/818670778199613440

 学校の授業の教材に使うとか,入場料を徴収しない講演会の資料に使うとかの場合は,この限りではありません。こういう非営利の活動に使うというなら,使用料を請求したりはしません。しかし,営利目的の利用の場合は話が別です。

 2)の条件は,クレジット・出典の記載が適切であるかを確認するためです。先方の依頼メールに,「先生のお名前,記事名,媒体名を明記する」と書いてありましたが,私はゲラを見せていただくことにしています。

 先日,信じられない経験をしたからです。私が某Web誌に書いた記事を紙雑誌に転載したい,という依頼で,依頼のメールに「クレジット・出典を明記します」とありました。

 しかし,念のためゲラを見てみるとビックリ。クレジット表記が「舞田敏彦=文,A=図表作成」となっています。Aとはデザイナーで,私がエクセルで送った図表をちょっとアレンジしただけの人です。

 これでもって,このAという人があたかも図表の著作権者であるかのように書かれるとあっては,たまったものではありません。編集部に抗議して修正してもらいましたが,もしこのまま出版されていたら,大問題になっていたところです。ウェブなら修正ができますが,紙媒体の場合は取り返しがつきません。ゲラを確認して,本当によかったと思います。

 あとひとつ,ゲラを見せてもらう目的は,自分の著作物がどういう使われ方をするかを確認するためです。今回の依頼では,使用にあたって,原版を参考に先方が図表を新たに作り直す(=改変する)とのことでした。その改変が常軌を逸したものではないか,許容の範囲内か。これをゲラで確認したいというのは,著作権者の当然の思いでしょう。

 3)については,他人の著作物を使った作品を,一部謹呈するというのは当然のことです。

**********
 今回,転載許諾を申請してきた出版社さんには,こういう思いが伝わらなかったのでしょうね。私のメールの文面がぶっきら棒だったためかもしれませんけど・・・。

 図表の転載依頼をいただくことが結構ありますが,私がこういう考えの人間であることを,告知しておこうと思います。

2017年1月8日日曜日

231職業の学歴水準スコア

 前回は,68職業の学歴水準を測るスコアを計算してみました。高学歴の職業はどういうものかについて,目星がついたかと思います。

 この記事がウケているようですので,調子に乗って,もうちょっと深めてみましょう。前回は,『就業構造基本調査』のデータを使って,職業中分類(68職業)の学歴水準スコアを出したのですが,基幹統計の『国勢調査』では,もっと細かい職業小分類のデータも得ることができます。

 下記サイトの表13に,2010年の職業小分類と学歴のクロスが出ています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001050829&cycleCode=0&requestSender=search

 性別の影響を除くため,男性に対象を絞りましょう。年齢も統制したいところですが,職業小分類では,年齢まではコントロールできません。今回の分析対象は,15歳以上の各職業の男性就業者です。

 まず全職業の就業者でみると,最終学歴が判明する者は約3058万人。学歴の内訳は,①小・中卒が11.2%,②旧中・高卒が45.4%,③短大・高専卒が10.0%,④大学・大学院卒が33.4%となっています。高齢者も含みますので,高卒が最も多くなっています。昔は,大学進学率は低かったですので。

 前回と同様,就業者の学歴分布をもとに,学歴水準の高低を測るスコアを計算しましょう。①に1点,②に2点,③に3点,④に4点を与えると,全職業の男性就業者の学歴スコアは,以下のようになります。

 {(1×11.2)+(2×45.4)+(3×10.0)+(4×33.4)}/100.0 = 2.656点

 このスコアを,細かい小分類の職業別に計算してみました。231の職業のスコアです。高い順に並べたランキング表を作ってみましたが,長くなりますので,2つに区切ることにします。まずは上位半分,1位から116位までです。


 医師や教員の学歴スコアが高くなっています。これらの職業には大卒学歴が要るので,大卒・大学院卒のスコア(4点)に近くなっています。

 なお『国勢調査』では,大卒と大学院卒のカテゴリーが同一になってますので,院卒の割合はスコアに反映されていません。そのため,研究者や大学教員のスコアは低く出ています。

 コメントは省いて,今度は残りの半分,117位から231位までです。


 以上です。先に述べたように,年齢を統制していませんので,各職業の年齢構成の影響が入っていることに留意してくださいまし。

 『国勢調査』では,西暦が「0」の年の大調査にて,対象者の最終学歴も調査されます。今度は2020年調査ですが,この時には,「大学院卒」というカテゴリーができるのかな。今では「大学・大学院卒」というようにまとめられてますが,大学院進学率が高まっているので,大卒と院卒が分離されることになると思います。そうしたら,もっと精緻に学歴スコアを出せるでしょう。

 細かい小分類でみた,職業別の学歴レベルの比較です。参考資料として,掲載しておきます。

2017年1月6日金曜日

職業別の学歴水準スコア

 今週は火曜から木曜にかけて更新をサボったので,今日2本目の記事を投稿しましょう。

 主題は,タイトルの通りです。職業によって年収は違いますが,学歴水準も異なります。医師のように,高度な職務の遂行上,長期にわたる学び(高学歴)が必要な職業もあれば,そうでない職業もあります。

 そういう機能上の必要がなくとも,自分たちの職業の威信を保持するため,参入資格として高学歴を求めている職業もあります(コリンズ)。2012年の中教審答申で,教員志望者には修士の学位をとらせようという案が出されましたが,これは,教える知識内容の高度化というような,機能上の必要ゆえにあらず。今時,保護者の多くが大卒なので,教員の学歴水準を一段高くして,箔をつけようというだけのこと。

 理由はどうであれ,職業によって学歴水準が大きく違うことは,誰もが知っているでしょう。品のない作業ですが,現実を統計で可視化してみましょう。

 毎度使っている総務省『就業構造基本調査』から,それぞれの職業従事者の学歴構成を知ることができます。年齢と性別の影響を除くため,働き盛りの35~44歳男性に限定して,職業別の学歴構成のデータを採取しました。ソースは,下記サイトの表15です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search

 たとえば,教員と介護サービス従事者の学歴構成は,以下のようになっています。


 右欄の構成比をみると,やはり違うものですねえ。教員は9割上が大学ないしは大学院を出ていますが,介護職では高卒が43.8%と最も多くなっています。

 この分布をもとに,学歴水準の高低を測るスコアを出してみましょう。中卒には1点,高卒には2点,専門卒には3点,短大・高専卒には4点,大卒には5点,院卒には6点のスコアを与えます。この場合,教員の学歴スコアは,以下のようにして出されます。

 {(1×0.1)+(2×3.3)+(3×2.3)+(4×1.2)+(5×64.2)+(6×28.9)}/100.0 = 5.126点。

 教員は大半が大卒以上なので,5点を超えます。対して介護職の学歴スコアを同じやり方で出すと3.110点で,教員よりもかなり低くなっています。

 このやり方で,68の職業(中分類)の学歴水準スコアを計算してみました。以下に掲げるのは,その一覧表です。


 スコアが最も高いのは研究者の5.533点で,最も低いのは包装従事者の1.925点となっています。研究者になるには,大学院卒の学歴が要りますからね。

 それに次ぐのは医師で,3位は先ほどみた教員です。赤字は,スコアが4.5点を超える職業なり。法務従事者や記者・編集者なども,屈指の高学歴の職業です。

 スコアが高い順に並べたランキング表も載せておきます。


  これは学歴ですが,年収なんかはどうなのかなあ。教員は学歴は3位ですが,年収のランクはかなり下になるのでは。

 学歴と収入は完全にリニアに相関するのではなく,インテリでも稼げない職業もあり。教員はその典型で,戦前期では待遇が悲惨を極めていたことはよく知られています。今述べたことは,社会学でいう「地位の非一貫性」という概念に通じます。

 職業別の学歴水準の測定作業でした。

都道府県別の未婚男性の結婚チャンス

 40を過ぎたら結婚はなかなか難しくなるでしょうが,私くらいの中年未婚オトコの結婚チャンスには,地域による違いもあるでしょう。

 2015年の厚労省『人口動態統計』によると,同年中に届け出をした40代男性の初婚件数は3万5555件(①)。2015年の『国勢調査』によると,同年10月時点の40代の未婚男性数は,248万2257人(②)。双方とも,日本人のデータです。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02100104.do?tocd=00200521

 よって,この年の40代未婚男性の結婚チャンスは,①/②=1.432%となります。およそ70人に1人。同じやり方で他の年齢層の結婚チャンスを計算すると,10代が0.173%,20代が4.290%,30代が5.556%,50代が0.296%,60以上が0.079%となります。

 2015年の1年間の結婚率ですので,値がすこぶる低いですが,結婚チャンスの指標にはなるでしょう。上記の分子・分母は,都道府県別に得ることができます。下表は,県別・年齢層別の未婚男性の結婚チャンスの一覧表です。


 黄色マークは全県の最高値,青色マークは最低値,赤字は上位5位です。

 30~40代のトップは,東京なんですね。20代の首位は,わが郷里の鹿児島。こういうデータはあまりないと思いますので,地域別の「結婚しやすさ」の指標として,ここに掲載しておこうと思います。

2017年1月2日月曜日

深夜族

 外食産業で,24時間営業を縮小する動きが広まっているそうです。最大の理由は人手不足ですが,深夜の客が減っていることもあるとのこと。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161226-00000004-jij-bus_all

 2番目の理由は初耳でした。まあ人口の高齢化により,昼型のライフスタイルの高齢者が増えていますから,深夜に出歩く人が減り,客足が遠のいていることはあるかもしれません。

 深夜に出歩いている人の量は知ることはできませんが,深夜に起きている人の量は,統計から割り出せないことはありません。今回は,深夜に起きている人(深夜族)が国民の何%いるか,以前に比して増えているか,それとも減っているか。この点を吟味してみましょう。

 総務省の『社会生活基本調査』では,対象の15歳以上の国民に対し,1日の各時間帯(15分刻み)において,何をしていたかを尋ねています。起きている人の率は,寝ていた者の率を100%から引くことで算出できます。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 2011年の同調査によると,平日の深夜0:00~0:15に寝ていた者の率は82.9%ですから,この時間帯に起きていた者の率は,100-82.9=17.1%となります。深夜0:00~4:00の各時間帯において,起きていた者の比率をこのやり方で出すと,下表のようになります。


 16の時間帯(15分刻み)の平均値をとると,平日は7.8%,土曜が8.7%,日曜が9.3%なり。この値をもって,深夜の時間帯に起きていた者,すなわち深夜族の出現率とみなすことにしましょう。仕事のない土曜や日曜のほうが,平日よりも少し高くなっています。

 なお20年前の1991年のデータから,同じ方法で15歳以上の国民の深夜族出現率を出すと,平日が6.0%,土曜が7.3%,日曜が8.2%となります。

 人口の高齢化により,深夜族は減っているかと思いきや,現実はその逆ですね。人手不足により,深夜までこき使われる若者が増えているためでしょうか。あるいはネットの普及により,夜通しでネットサーフィンなどをする人が増えているのか。

 変化の事情の検討をつけるには,深夜族の率が高まっているのはどの層かを突き止めるのがよいでしょう。人間を分かつ基本属性である,性別・年齢層別に変化の様相をみてみましょう。下図は,深夜族の出現率の年齢曲線(平日)を,1991年と2011年で比べたものです。


 曲線は右下がりで,当然ながら,深夜族の率は若者ほど高くなっています。

 男女とも,曲線が上方にシフトしています。どの年齢層でも深夜族は増えていますが,増加幅は若者で大きいようです。増加ポイントが最も大きいのは,25~34歳の男性で,この20年間で11.4%から17.8%に上昇しています。

 入職して間もないフレッシュマンですが,先に書いたように,昨今の人手不足による過重労働が影を落としているのでしょうか。ネットの普及により,仕事は際限なくどこまでも追いかけてくる。そんな時代の変化を感じさせられます。ネット通販の配達や介護など,24時間にわたる仕事が増えていることもあるでしょう。あるいは,無職者やニートの増加により,昼夜逆転の人間が増えているのか・・・。

 相対変化ですが,国民の生活の深夜化が進んでいることが知られます。人口の高齢化にもかかわらずです。

 最後に,地域差もみておきましょう。上記と同じやり方にて,15歳以上の深夜族出現率を都道府県別に計算してみました。2011年の平日の全国値は7.8%ですが,県別にみると,東京の11.3%から福島の4.4%までの開きがあります。東京は若者が多いので,率が高い。

 下図は,1991年と2011年の都道府県を同じ基準で塗り分けたマップです。


 20年前に比して,地図の模様が濃くなっています。若者が多い都市部で率が高い構造が保たれていますが,今後,全国的にますます色が濃くなるのでしょうか。

 人口の高齢化に伴い,国民の生活の「昼型」化が進んでいるかと思いきや,現実はその反対でした。深夜に働く人がいないと社会が成り立たないのは事実ですが,今回みた「深夜」化は,必ずしも必要でない過剰サービス労働の増加や,国民の生活の乱れを示唆するものともとれましょう。2番目のグラフから分かるように,こうした歪みが若者に集中していると。

 まあ私も,院生の頃までは完全に昼夜逆転の生活でしたが,今はすっかり昼型(朝型)に切り替えています。集中力の要る原稿書きは,頭が冴えている午前中に済ませる。日の出と共に起きる生活っていいな,と感じています。

2017年1月1日日曜日

都道府県別の保育士の時間給

 年が明けました。お正月ですが,私の場合,過ごし方は普段と何ら変わりません。することがないので,ブログでも書きましょう。

 社会的需要が著しく高まっている保育士ですが,この職業が慢性の人手不足に陥っていることの最大の原因は,待遇がよくないこと,ズバリ言えば給与が激安であることはすっかり知られています。

 保育士の給与についてはこのブログで何度も紹介し,都道府県別の年収比較をしたこともあります。今回はもう一歩踏み込み,労働時間を考慮して,保育士の時間給を計算してみようと思います。一般に労働条件は,給与と労働時間の2要素から測られますが,双方を考慮した尺度として,時間給に注目してみようと考えました。

 依拠する資料は,2015年の厚労省『賃金構造基本統計』です。この資料から,以下のA~Dの値を職業別に知ることができます。10人以上の事業所に勤める,短時間労働者を除く一般労働者のデータです。数値は,保育士のものです。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 A 残業代等込みの月収(2015年6月) ・・・ 21.92万円
 B 年間賞与額(2014年) ・・・ 60.30万円
 C 月間の所定内労働時間(2015年6月) ・・・ 171時間
 D 月間の超過労働時間(2015年6月) ・・・ 4時間

 これらを使って,保育士の年収と年間労働時間を割り出すと,次のようになります。

 年収 = 12A+B = (12×21.92)+60.30 = 323.34万円
 年間労働時間 = 12×(C+D) = 12×(171+4) = 2,100時間

 よって時間給は,年収を年間労働時間で除して,1,540円となる次第です。短時間労働者を除く,一般労働者の保育士の時給は1,540円なり。同じやり方で,全職業の一般労働者の時間給を計算すると,2,303円となります。予想通りですが,フツーの職業よりもかなり低いですね。

 しかるに,様相は地域によって違っています。私は,上記のデータを都道府県別に収集し,47都道府県の保育士と全職業の時間給を計算してみました。計算に使った分子(年収)と分母(年間労働時間)にも興味を持たれると思うので,これらの値も掲載した一覧表を掲げます。


 黄色マークは全県の最高値,青色マークは最低値です。保育士の時給をみると,最高は愛知の1879円,最低は鳥取の954円なり。鳥取の値には驚愕しますが,この県は調査対象のサンプルが著しく少なくなっていますので,値に歪みが出ていると思われます。参考程度にとどめてください。

 保育士の時給は,どの県でも全職業より低くなっています。保育士には若手や女性が多いこともありますが,都市部では差が大きいですね。

 東京をみると,保育士の年間労働時間は2088時間と,全労働者(2052時間)よりも働いているにもかかわらず,年収はたった352.9万円。それが時給の違いにもろに反映されています。東京の保育士の時給は1690円で,全体(3039円)の半分ほどです。

 保育士の時給が全職業に比してどうかという,相対倍率も出してみましょう。下表は,「保育士/全職業」の倍率が高い順に都道府県を並べたものです。


 どの県でも,保育士の時給は全体に比して低いのですが,その程度には幅があります。上位5位(赤字)は,全職業の8割には達しています。

 一方,対極の下位の県は悲惨で,大都市の東京の相対倍率は0.556となっています。保育士の時給は,全職業の半分ほどということです。保育士が抱いている相対的はく奪感も大きいことでしょう。

 まあ,年収で出した相対倍率とほぼ同じ結果ではありますが,今回はもう一歩深めて,労働時間を考慮した時間給で同じ分析をしてみました。むろん,他の職業でも可能です。たとえば,教員とかはどうでしょう。教員は,普通の職業に比して高給ですが,労働時間を加味した時間給では,別の面が出てくるかもしれません。面白い結果が出ましたら,ご報告します。

 では,よいお正月をお過ごしください。