2020年11月30日月曜日

2020年11月の教員不祥事報道

  11月の今日で終わりでした。毎月恒例の教員不祥事報道の整理です。よく毎月続けるもんだと思われるかもしれませんが,「研修の資料作りの参考になります」と,ある教育委員会の人に言われたことがあり,奮起して続けています。

 今月,私が把握した報道は60件です。とても多く,この水準に達したのはだいぶ久々のように思えます。毎月のことですが,多くはわいせつや性犯罪です。なぜ教師はわいせつ行為を走るか。今朝の朝日新聞に,その心理を説いた興味深い記事が出ています(「教員のわいせつ行為,心理に迫る」)。

 記事で言われているのは,越えてしまう「4つの壁」と,これまで処分を受けたわいせつ教員の4類型です。引用させていただきましょう。

 4つの壁:動機の壁,良心の壁,機会の壁,被害者の抵抗の壁

 4類型:てなづけ型,救済者願望型,性暴力型,盗撮型

 4つの壁は,奈良大学の今井由樹子教授が言われていることです。まず性欲が高じて動機を壁を越え,「これも指導のうち,スキンシップだ」などと,良心の壁も飛び越えてしまう。密室で2人きりになるのはたやすいので機会の壁も難なく越え,教師・生徒の地位関係から被害者の抵抗の壁も打ち壊せる。今井教授が言われるように,教師の場合,3番目と4番目の壁は,他の職業に比して低いとみられます。

 加害教員の4類型は,長野県教委が過去の処分者を類型して編み出したものです。生徒の心を巧みに自分に向けさせる「てなづけ型」,困っている生徒を助けたいと思うあまり一線を越えてしまう「救済者願望型」,力の弱い子どもに迫る「性暴力型」,そしてスマホを使った現代ならではの「盗撮型」。この類型をもとに危険度チェックリストを発案し,県内の公立学校教員に,自己チェックを促しているとのこと。

 わいせつ教員の心の内が明らかになるのはよいことで,対策にも大きく寄与することでしょう。ですが,人が良からぬことに傾きやすくなるのは,生活態度が不安定化することによります。教員の過重労働は,それをもたらす典型要因です。根因の除去として,まずもって教員の働き方改革を断行しないといけません。

 明日から師走です。2020年最後の月,無事に新年が迎えられますように。


<2020年11月の教員不祥事報道>

自転車盗んだ教諭を停職 川崎市教委

 (11/2,神奈川新聞,神奈川,小,男,30)

学校でも わいせつ行為の小学校講師再逮捕(11/2,NNN,愛知,小,男,50)

勤務先小学校の図書盗んだ疑い、教諭逮捕

 (11/2,神奈川新聞,神奈川,小,男,32)

香美の中学教諭が生徒に「最低」発言(11/3,毎日,高知,中,男,40代)

児童に「塾に行ってるのに分からないの」、教諭発言は「不適切」

 (11/4,読売,熊本,小)

酒気帯び運転の疑い・臨時採用の高校教諭を逮捕

 (11/6,テレビ山口,山口,高,男,67)

ソフトボール部顧問が女子生徒にわいせつ行為

 (11/6,京都新聞,京都,高,男,61)

教諭に蹴られて小3骨折・入院、市教委(11/6,朝日,熊本,小,男,40代)

強制わいせつ小学校教諭懲戒免職(11/6,NHK,福井,小,男,27)

交際女性と無理心中図る 中学校教員逮捕(11/7,日本テレビ,岐阜,中,男,22)

オートバイの56歳、乗用車と衝突で死亡 車を運転していた高校教諭を逮捕

 (11/7,産経,神奈川,高,男,43)

体罰と暴言で男性教諭処分 県教委、停職1カ月

 (11/9,神奈川新聞,神奈川,高,男,53)

少女に体液、教頭逮捕 神奈川県警、暴行容疑で

 (11/9,共同通信,神奈川,小,男,57)

児童ポルノ容疑で小学校教諭逮捕 女子高生にわいせつ画像送らせる

 (11/10,時事通信,山梨,小,男,30)

勤務時間中にタバコ、教頭「吸っていない」とウソ

 (11/10,読売,大阪,中男60)

レトルトカレーやチーズ等6164円相当を…高校の51歳男性教師がスーパーで万引き

 (11/10,東海テレビ,愛知,高,男,51)

中学教諭が個人情報入った『USB紛失』 生徒105名分のテスト答案用紙のデータ

 (11/10,長野放送,長野,中,男)

中学校教諭を淫行の疑いで逮捕(11/10,NHK,香川,中,男,28)

教師運転の普通車にはねられ高齢男性死亡 松山市教委が臨時校長会開催へ

 (11/11,テレビ愛媛,愛媛,中,男,60)

中学校の教師が電車内で痴漢行為したとして懲戒免職

 (11/11,関西テレビ,大阪,中男36)

教室で小学女児の体触った疑い 58歳教諭逮捕

 (11/11,時事通信,茨城,小,男,58)

小学校教諭、中1男子生徒に性的暴行(11/12,読売,千葉,小,男,29)

強豪校の卓球部顧問が体罰、暴言 岡山の山陽学園中高

 (11/12,秋田魁,岡山,中高,男,30代)

わいせつ誘拐容疑で私立高校の教諭の男を逮捕

 (11/13,岡山放送,香川,高,男,38)

飲酒運転で縁石に乗り上げる事故 県立高校の51歳男性教諭を懲戒免職

 (11/13,長野放送,長野,高,男,51)

体罰で高校と小学校の教諭処分(11/13,NHK,福岡,高男42,小男27)

高校教諭 私的流用で懲戒免職(11/13,NHK,広島,高,男,29)

「もう11時やけん帰るぞ」と少女を車で誘拐、ホテルに連れ込もうとした高校教諭逮捕(11/14,読売,香川,高,男,38)

居酒屋で女性に抱きつく”暴行”中学校講師を逮捕

 (11/15,九州朝日放送,福岡,中男28)

部活で生徒に不適切な言動 中学校男性教諭を懲戒処分

 (11/16,岩手放送,岩手,中,男,57)

知人女性のスマホ壊し腹蹴る 容疑で支援学校教諭逮捕

 (11/16,産経,大阪,特,男,33)

教諭が児童の口に粘着テープ、授業中「静かにできぬなら貼る」と宣言し実行

 (11/17,読売,秋田,小)

「昼寝したので酒は抜けていると」"酒気帯び運転"60代中学校男性教師を停職3か月

 (11/17,北海道ニュース,北海道,中,男,60代)

16歳少女にみだらな行為疑い中学教諭逮捕

 (11/17,神奈川新聞,愛知,中,男,26)

体罰と暴言で男性教諭処分 県教委、停職1カ月

 (11/18,神奈川新聞,神奈川,高,男,51)

児童ポルノ所持 教諭を懲戒処分(11/18,NHK,高知,特,男,50代)

教え子の女子生徒にわいせつ行為 30歳の公立中学校男性教員を懲戒免職

 (11/19,チバテレ,千葉,中,男,30)

スカート内盗撮の男性教師を停職6カ月、わいせつ画像をツイッター投稿の男性教師は減給処分(11/19,静岡朝日テレビ,盗撮:中男29 わいせつ動画:小男32)

秋田商業高校の男性教諭 酒気帯び運転で停職6カ月

 (11/19,秋田テレビ,秋田,高,男,47)

盗撮容疑など逮捕の教員2人免職

 (11/19,NHK,埼玉,盗撮:高男40,わいせつ:中男22)

13歳未満の少女に性的暴行…逮捕された34歳中学教師が懲戒免職

 (11/20,石川テレビ,石川,中,男,34)

飲酒後運転し事故の徳島県立高元教頭 処分後に依願退職

 (11/20,徳島新聞,徳島,高,男,52)

PTA費流用幼稚園教頭懲戒免職(11/20,NHK,和歌山,幼,男,54)

三重県立高男性教諭が失職、長女に暴行傷害、刑確定で

 (11/21,伊勢新聞,三重,高,男,43)

女子生徒にわいせつ容疑 横浜市立中学教諭を逮捕

 (11/21,神奈川新聞,神奈川,中,男,25)

大阪の商業施設で女子高生を盗撮した疑い 兵庫の中学校教師を逮捕

 (11/22,関西テレビ,兵庫,中,男,23)

「指導から大きく逸脱」「情状酌量の余地ない」部活中に体罰の教諭を懲戒免職

 (11/24,神戸新聞,兵庫,中,男,50)

上越地方の小学校60代女性講師 速度超過違反で懲戒処分

  (11/24,上越妙高タウン情報,小,女,60代)

交際していた17歳少女にLINEでわいせつ行為教える 中学校教諭を懲戒免職

 (11/25,神戸新聞,兵庫,中,男,23)

ボランティア学生から現金をだまし取ったとして教諭を懲戒免職

 (11/25,関西テレビ,大阪,中,男,49)

勤務先の小学校教室にスマホ設置、児童の着替え姿を撮影

 (11/26,読売,栃木,小,男,26)

不適切会計処理、女生徒にセクハラ、女性に無理やりキス 横浜市教委、3教職員を懲戒処分(11/26,神奈川新聞,不適切会計:小男54,わいせつ:小男28,セクハラ:高男)

小学教諭 女子トイレ侵入か逮捕(11/26,NHK,埼玉,小,男,30代)

16歳少女にわいせつ行為~男性教諭を懲戒免(11/27,RKB毎日,福岡,小男33)

女児盗撮の小学校講師免職 温泉更衣室で

 (11/27,共同通信,静岡,小,男,41)

小学教諭、万引き容疑で逮捕 本12冊「後で払うつもり」と否認

 (11/30,毎日,東京,小,男,32)

通勤中の電車内で痴漢行為した疑い 小学校の教師を逮捕

 (11/30,関西テレビ,兵庫,小,男,24)

女子高校生のスカートの中を盗撮 容疑で県立高校教員の男逮捕

 (11/30,新潟放送,新潟,高,男,46)

女性教員スマホで盗撮、少なくとも10回繰り返す 川崎の市立小総括教諭を懲戒免職(11/30,神奈川新聞,神奈川,小,男,54)

2020年11月26日木曜日

同居者の有無による自殺率

  今年10月の自殺者は2000人を超えました。「日本は,たった1ヶ月の自殺者数が,1月以降のコロナ死者数を上回っている」と,海外メディアから驚かれています。2~10月のコロナ死者数は1765人ですから,確かにそうですね。

 前年同月に比して1.5倍近くに増えましたが,先日公表された厚労省の詳細統計によると,増加率は男性より女性で高くなっています。男性は1.26倍(992人→1246人)なのに対し,女性は1.9倍の増です(435人→826人)です。

 女性の中で見ると,20~40代の女性では2倍以上に増えています。10月の自殺者2000人越の衝撃を解剖してみると,コロナは若年・壮年女性の生に影を落としていることが知られます。女性は非正規雇用が多いので,まずは雇止めによる経済苦が考えられます。夫が在宅時間が増えたことによる,DV被害なんていう事情もあるでしょう。また,女性は男性よりも対面で人間関係を結んでいるとみられるが,それが一気に失われ,強い孤独感を感じているからではないか,とも言われています。

 「自殺とは孤独の病」とはよく言ったものです。人間は社会的な生き物で,持っておいたほうがいい資本には,お金や財といった経済資本のほか,言葉を交わして精神の安定を得る関係資本も含まれます。平たく言うと人間関係ですが,会社勤めではない在宅仕事で,かつ家族持ちでもないので,私はこの面の資本が乏しいです。

 同世代の作家の雨宮処凛さんが書かれていますが,コロナ禍に伴う不安は,話し相手がいない一人暮らしだと,よからぬ方向へと膨らみ「妄想」に転化しがちです。私はよく分かるのですが,一人だと考えがどんどんマイナス方向に流れていくのですよね。客観的な立場から,「そんなことないよ」「考えすぎだよ」と言ってくれる人がいない

 こういうわけですので,コロナ禍による自殺の危機は,同居者の有無によっても異なるとみられます。2015年の『国勢調査』のデータで,10歳以上の国民を同居者ありの人と,同居者なしの人に分けると,前者が9798万人,後者が1738万人ほどです。7人に1人が単身者なんですね。

 厚労省の自殺統計(上記リンク先)によると,2015年中の自殺者で,同居者ありの人は1万6244人,同居者なしの人は7333人です。自殺者では,同居者がいない単身者が3割を占めています。これだけでも,単身者のほうが自殺に傾きやすいことは明白ですが,ベース人口10万人あたりの自殺者数(自殺率)にすると,同居ありが16.6,同居なしが42.2となります。同居人がいない人の自殺率は,そうでない人の2.5倍です。やはり孤独は仇になるようですね。

 同居者の有無による自殺率の差は,年齢層(ライフステージ)によっても違っています。下表は,年齢層別の自殺率を計算したものです。分母の人口は『国勢調査』,分子の自殺者数は厚労省の自殺統計から得ました。


 どの年代でも,単身者の自殺率のほうが高くなっています。単身者の自殺率は40~50代で高く,同居人のいる人の自殺率の3倍以上です。40代では,同居人ありが17.1,同居人なしが53.6という具合です。

 生活費のこと,老後のことなど,いろいろ悩みが押し寄せるステージですが,一人暮らしだと話し相手がいないので,悪い方へ悪い方へと考え,妄想は膨らむばかり。コロナ禍の今,こうした悩みはさらに重くのしかかっていますが,独り身の中高年は要注意層といえるかもしれません。

 なお性差もあります。上表と同じデータを男女別に作成し,各年齢層の自殺率をつないだ折れ線グラフにすると以下のごとし。


 独り身の中高年の辛さは,男性で際立っています。(結婚できていない)単身の中高年男性は学歴や所得が低い,といった不利な条件があるためかもしれませんが,それを引いてもスゴイ差です。

 まさにわが身なんで,よく分かります。繰り返しますが,一人暮らしだと,悩みを同居人に話して精神の安定を得たり,妄想が膨らむのを客観的な立ち位置から阻止してももらえません。まあ今は,ネット相談なんてのもできますが,人間はやはりアナログ動物です。

 同居の家族がいなくとも,誰でも利用できる,公的な相談機関はあります。私はこれまで,著作権侵害などの問題には一人で対処してきました。しかしこの夏,初めて弁護士に相談してみて,「他人に相談すると,こんなに楽になれるんだ」と実感しました。

 私は「人の縁」はとても薄く,生活保護申請で「親族に連絡しますが,いいですか?」と聞かれても,誰に連絡がいくのか,自分でも分からないくらいです。両親はもういませんし,親代わりで育ててくれた叔父も2015年に亡くなりました。まさに「ぼっち」なんですが,それなら,見知らぬ外部の人に相談できるようなればいい。

 困ったら「相談できる人間」になりたいと思います。簡単なようですが,これを履行できる人間は多くないのが現実です。「恥」の文化といいますか,日本の働き盛りの自殺率が高い原因は,こういうところにもあるといえるでしょう。

2020年11月19日木曜日

15歳生徒の在籍学年

  秋晴れの日が続いていますが,いかがお過ごしでしょうか。気温も上がり,今日の昼の横須賀は24度,冷房をつけたいくらいです。

 来年春に刊行される『速攻の教育時事・2022年度版』の執筆に着手しました。字のごとく,最新の教育時事を短期間で受験者さんに知っていただこう,という本です。教育時事のフォローのため,現職教員の方も手に取っていただけているようで有難し。書いている私にとっても勉強になります。

 目玉は,来年1月に公表予定の中央教育審議会答申「令和の日本型学校教育の構築を目指して」です。現在,素案まで公表されていますので,ひとまずこれをもとに執筆をしています。

 令和の学校で実現すべき子どもの学びは,「個別最適な学び」と「協働的な学び」からなります。後者は,人との関係やリアルの体験を通して学ぶ集団学習で,日本の学校が得意とするところです。しかし今後は,前者も重要になってきます。外国人の子や発達障害児など,児童生徒の背景が多様化すると同時に,感染症拡大防止のため,自宅でのICT学習の比重も高まっています。個々のレベルに応じた,個のペースでの学びです。

 答申では,履修主義と修得主義を組み合わせることも提言されています。履修主義は,対象の集団に一定の期間で同じ教育を施すもので,形式的な教科の履修でもって,自動的に進級は認められます。修得主義は,課程の内容の修得度を重視し,そのレベルに応じて異なる教育内容を供するため,原級留置や飛び級なんかも頻繁になされます。

 先の2つの学び類型と対照させると,履修主義は協働的な学び(集団),修得主義は個別最適な学び(個)とリンクしているのは明らかです。上述のように,個別最適な学びの必要性が高まっているので,修得主義の要素も入れていかねばならないと。

 修得主義の場合,内容の修得度が重視されますので,成績が振るわない子の原級留置(落第)は少なくありません。逆にできる子は,高度な内容を履修すべく,飛び級なんてのも認められます。

 これらは日本の義務教育では皆無ですが,他国ではあるんですよね。国際学力調査「PISA」の対象は15歳ですが,在籍学年が標準学年か,それよりも下か上かの分布をとると,以下のようになります。「PISA 2018」の結果報告書5巻のデータから作ったグラフです。


 日本の場合,「PISA」に参加しているのは全員が高校1年生,つまり15歳生徒の標準学年ということになります。しかし他国をみると,標準学年より下の子もいれば,その逆も結構います。前者は落第,後者は飛び級の経験者ですね。

 オランダ,スロバキア,オーストリア,コロンビアでは,落第経験者が4割ほどですか。コロンビアでは,児童労働も関わっていそうです。OECD加盟国以外は省きましたが,ブラジルでは59.2%,6割の生徒が「標準より下」となっています。落第が全然普通の国です。

 チェコ,ルクセンブルク,ドイツでは飛び級が多くなっています。ドイツでは,できる子には「進級してもいいよ」と声をかけるのだそうです。振るわない子には,「落第してゆっくりやりなさい」と,今の学年をもう一度やることを促す。否定的なレッテル貼りの性格はありません。

 修得度に関係なく,皆が同じ内容ではなく,個に応じた内容の提供を目指す。日本でもこれから重視されるべき,「個別最適な学び」と通じますね。

 参考までに,OECD加盟国以外の国も含め,標準学年に在籍している15歳生徒の率を示しましょう。以下の表は,78か国を高い順に並べたものです。


 前のグラフでみたように,日本は100%です。標準より下,上の子は1人たりともいません。落第,飛び級ゼロの純粋年齢主義(履修主義)の社会です。しかし数値には幅があり,アメリカは73.6%,中国の上海は58.2%で,50%を割る国も10存在します。発展途上国が多いですが,おそらく児童労働の影響かと思います。

 日本のすがたは普遍的ではない,むしろ世界の中で見ると特異である。国際データでこのことを実証し,これまでの常識にとらわれない改革の足掛かりを供するのが私の商売ですが,子どもの進級のさせ方なんかは,日本の色が非常によく出ます。

 日本でも高校段階では落第はちょっとだけありますが,義務教育では皆無です。制度上は,小・中学校でも「平素の成績」を考慮して進級を決めることになってますが(学校教育法施行規則57条),年齢主義規範が強く,保護者の理解も得られぬとのことで,現実には無条件で進級させられています。ヨーロッパでは,「内容をちゃんと修得してないのに進級させるのは可哀想」なんですが,日本では「飲み込みが不十分だからといって,下の学年の子と机を並べさせるなんて可哀想」となるんですね。

 しかし先ほど書いたように,日本でも「個別最適な学習」の観点から,修得主義の要素を入れざるを得なくなっています。その策は,落第や飛び級といったハードなものだけではありません。特別な時間での前学年の内容反復学習,長期休暇中におけるICTでの補修など,術は色々あります。

 とはいえ,落第や飛び級についても,斬新的な実験はなされてもよいかと個人的には思います。さしあたり,教育課程特例校での実験とかはどうでしょう。そのことが,学校だけでなく企業社会全般に染みついている,日本的年齢主義を変える端緒になるようにも思うのです。

2020年11月17日火曜日

福祉産業の闇

  社会福祉法人の理事長から性被害やハラスメントを受けたとして,女性職員が訴える事件が起きています。東京税理士会でも同種の告発が起きています。

 こうやって明るみになる事件は稀で,実態としては数えきれないくらい起きていると推測されます。その背景として,就業者の多くは女性であるにもかかわらず,経営者は男性で占められている,という福祉産業の構造が挙げられています。立場上弱い人が強い人から被害を受ける,失職や報復を逸れ,なかなか被害を訴えられない,訴えても相手にされない…。こういう現実があるようです。

 就業者(現場要員)の多くは女性,しかし経営者の多くは男性。こうした歪みを統計で可視化するのは難しくありません。上記の社会福祉法人は障害者福祉事業を主に行っているようですが,当該産業の就業者の男性比は37.9%ですが,管理職に限ると70.1%を占めています(2015年,『国勢調査』)。この2つの対比から,管理職が男性に偏しているのは明らかです。

 管理職の男性偏り度は,管理職の男性比が,就業者全体の男性比の何倍かで数値化できます。2015年の『国勢調査』の抽出詳細集計から,253の産業のデータを出せます。管理職の男性偏り度が大きい20の産業をピックアップすると以下のようです。


 管理職の男性偏り度が上位20位の産業です。福祉(赤字),小売業,病院といった業界ですね。これらの産業で働く人は女性が多いのですが,管理職に絞ると男性が多いと。

 首位の児童福祉産業では,就業者全体では7.9%でしかない男性が,管理職では56.9%をも占めています。男性から管理職が出るチャンスは,通常の7.21倍であるのが知られます。ものすごい偏りです。保育所や幼稚園をイメージすると,分かるような気がしますね。保育士や教諭は女性が大半にもかかわらず,法人理事や園長は男性が多いと。

 この産業がどういう事態になっているかを,円グラフで視覚化すると以下のようになります。


 偏りが明瞭ですよね。もはや人為的な是正が必要なレベルです。上表にリストアップされた産業では,権力関係に基づく性的ハラスメントが頻発していないか,従業員へのアンケートなどを行って点検する必要があるでしょう。

 先ほどの表から,危険度が大きいのは福祉産業であることが分かりますが,地域による違いもあります。対策の音頭を取るのは地方自治体であることが多いと思いますので,『国勢調査』から分かる都道府県別のデータをお見せしておきます。

 産業中分類の「社会保険・社会福祉・介護事業」について,就業者の男性比と管理職の男性比を都道府県別に出し,後者が前者の何倍かを計算しました。以下の表は,47都道府県を高い順に並べたランキングです。


 福祉産業の管理職の男性比は,就業者全体の男性比の何倍か。都道府県別にみると,1.93倍から5.22倍の分布幅があります。最も高いのは福井県で,通常からした5倍以上の偏りです。奇遇にも,上位3位は北陸県となっています。

 福井県は,福祉産業の就業者の男性は17.6%ですが,管理職に限ると91.7%が男性であると。これは県として,是正のアファーマティブアクションをとるべきではないでしょうか。具体策として,管理職の男性比を適正範囲に制限することが考えられます。たとえば,就業者全体の男性比の0.5~2.0倍の範囲内にする,というのはどうでしょう。

 最初の表によると,児童福祉産業の就業者の男性比は7.9%ですので,この基準だと,管理職の男性比は3.9%から15.8%の範囲でないといけません。しかし現実は56.9%であると。これは常軌を逸しており,人為的な是正が求められるレベルであるというのは,多くの人が頷くところでしょう。

 福井県の福祉産業従事者の男性比は17.6%なんで,管理職の男性比の適正値は8.8%から35.2%までとなります。ですが現実は91.7%,繰り返しますが,県として是正のアファーマティブアクションが要請される所以です。

 これから重要性を増す福祉産業ですが,性暴力やハラスメントがまかり通るようなことがあってはなりません。それを防ぐうえでまずなすべきは,研修でくだくだと道徳を説くことではなく,人的配置のジェンダー的偏りを直すことです。

2020年11月10日火曜日

体罰の許容度

  2013年初頭に大阪の高校で体罰自殺事件が起き,以降,学校現場での体罰が社会問題化しています。私の頃なら不問に付されていた行為もガンガン懲戒処分の対象となり,最近では警察沙汰になる頻度も増しています。

 学校は,治外法権が認められる「聖域」ではなくなりつつあるようです。学校の外の道で子どもを叩いたら即110番ですが,こういう一般社会のルールが容赦なく適用されるようになっていると。小・中学校でも,条件つきでスマホの持ち込みが認められるようになりましたが,動画でバッチリ証拠を撮り,生徒自らが通報するようになるかもしれません。

 意識の上では,体罰に対する日本人の目線は厳しいものとなっています。2017~20年実施の『第7回・世界価値観調査』では,子どもを叩くことへの許容度を10段階で問うていますが,日本人(18歳以上)の回答平均値は1.30となっています。9割近くの人が最低の「1」を選んでいますね。

 データが分かる48か国の許容度平均を高い順に並べると,以下のようになります。上記リンク先のリモート集計で,数値はすぐに出せます。


 子どもを叩くことへの意識ですが,国によってかなり違っています。最高の6.01から最低の1.22までの分布幅です。

 左上の上位をみると,発展途上国が多くなっています。体罰意識は,大よそ経済発展のレベルと相関しているようにも見えます。日本は下から2番目で,意識の上ではかなり啓発されているようです。あくまで口先の意識表明で,実際の行動がどうであるかは分かりません。子どもの体罰被害率といった指標では,順位構造がガラッと変わる可能性もあります。

 上記は18歳以上の成人の回答結果ですが,次に問うべきは,どの層で体罰許容度が高いかです。毎度言いますが,全体を見た後は層別に見る,これはデータ観察のイロハです。年齢層別にみてみると,暴力を容認する意識がどうやって形成されるかが,うっすらと見えてきます。

 私は上記調査の個票データを使って,日本人サンプルを10歳刻みの年齢層別に分け,体罰の10段階許容度の分布を出し,平均値を計算しました。ジェンダー差も気になったので,男女別の集計もしました。以下は,結果をグラフにしたものです。


 許容度の絶対水準は群を問わず低いですが,ここで見たいのは相対水準です。体罰許容度は年齢が上がるほど高い,という傾向ではなく,50代で最も高くなっています。この年齢層では性差も大きくなっています。

 教育史の素養がある人はピンとくるでしょう。今の50代といったら,学校が荒れに荒れた70年代後半から80年代初頭に思春期で,秩序維持のため,ものすごい体罰を受けた世代です。とくに男子はそうでしょう。育った時代背景の影響(傷跡)が出ているようで,何とも痛々しい。

 子ども期に体罰を頻繁に受けた子は,暴力を容認するようになる。体罰は世代連鎖する。よく言われることですが,それを傍証するデータのように思えてなりません。その理由については様々なことが言われています。それをくだくだと引用するのは容易いですが,私の言葉で2つの点を書いておきます。

 まずは,体罰を受けると,理性をつかさどる脳の前頭前野が委縮することです。子どもを叩くと脳が縮む。理性の制御が効かなくなりますので,ちょっとしたことで手を上げるようになります。

 あと一つは,体罰を愛情表現と歪んで認知してしまうことです。暴力を受けたことを肯定的に捉えないと生きづらいためで,一種の防衛機制と言ってもいいかと思います。かくして,自分が愛情と信じるところの体罰を,わが子にもしてしまう。体罰の世代連鎖とはこういうことで,体罰とは暴力を未来に波及させることに他なりません。

 教職員の体罰は学校教育法で禁じられ,保護者の体罰も今年4月の児童虐待防止法で禁じられました。

 コロナ禍による巣ごもり生活で,親子が密室で共にいる時間が増え,よからぬことが起きやすくなっています。子がいる親の包摂(インクルージョン)を,身近な地域社会において進めていくべきです。

 兵庫県の明石市が実践している,おむつ宅配による見守りなどは妙案だと思います。今は,宅配による買い物が増え,訪問式のサービスも増えていますが,それをもって,外部の人間と接する機会の創出に利用してもいいでしょう。「届ける,訪問する」のついでに,ちょっとした目配りをするだけでも,インクルージョンの発端になるのです。

2020年11月6日金曜日

ツイッター,ロックされる

  昨日の夕方にツイートした内容が,利用規約違反に当たるとのことで,アカウントをロックされました。

 通知メールにある対処ページに飛び,ケータイの電話番号を入力し,SMSで送られてくる認証コードを入力。その後,「問題のツイートを削除しろ」と表示されますので,従えばロック解除されます。

 しかしペナルティーとして,解除後12時間は,「ツイート・リツイート・いいね」ができない,という利用制限が課されます(以下のようにカウントダウンが始まります)。

 別に大したことではありませんが,ツイート(つぶやき)ができない昨晩は,お腹が痛くなりました。夕飯もあまり食べれませんでした。「もの言わぬは腹ふくるるわざなり」ってやつでしょうか。

 いや,これはもう「ツイッター廃人(ツイ廃)」の域に達しているのかもしれません。

2020年11月4日水曜日

フルタイム就業女性の家事時間

  昨日の朝日新聞に,「専業主婦にならないで」と呼び掛ける,中国の校長先生の記事が出ていました。いろいろ物議をかもしているようですが,非自発的にマミートラックに水路づけられる女子たちを見かねてのことだったようです。

 中国は,国民皆労働の伝統が強い共産主義を反映してか,女性の就業率は高いように思います。久々に,各国の女性のすがたのデータをいじってみたくなりました。既婚の生産年齢女性のうち,フルタイム就業者は何%か,主婦は何%かです。この対極の2カテゴリーの率をみれば,全体図は掴めます。

 データは,最新の2017年のISSP調査です。サンプルが多い『世界価値観調査』のデータも使えますが,主要国が対象から漏れてますので,ISSPのデータを使います。私は個票データを使って,パートナーのいる25~54歳女性のサンプルを取り出し,週35時間以上のフルタイム就業者の率,専業主婦の率を計算しました。

 下図は,2つの指標のマトリクスに,データが得られた29か国のドットを散りばめたものです。


 横軸と縦軸はほぼ表裏なんで,ナナメの配置になります。点斜線は均等線で,このラインより下にあるのは,フルタイム就業者より主婦が多い国です。インド,フィリピン,タイというアジアの3国ですね。

 日本も,80~90年代の頃は斜線よりも下だったのでしょうが,最近はこのラインをかろうじて越えています。2017年のISSPデータでは,25~54歳の既婚女性の24.5%が主婦,36.8%がフルタイム就業者です。女性の社会進出の進展とともに右下から左上に動いていく構図で,今後も,それは続くでしょう。

 29か国の布置図でみると,日本の女性の社会進出度は中の下くらいですね。日本よりも左上の社会は多く,冒頭でふれた中国の他,欧米主要国は日本より進んでいます。一番左上には,北欧や東欧の国が位置しています。専業主婦はほぼ皆無で,大半がフルタイム就業者です。スウェーデン(瑞)では「主婦」という概念がなく,就労も職探しもしないでいると,「あんた,どうやって生きてるの?」と聞かれるそうです。

 日本は,主要先進国の中では最も後ろを行っている,ということを押さえましょう。日本の既婚女性のフルタイム就業を阻むのは,まず保育所の不足です。都市部では幼子の預け先がなく,不本意ながら家庭に縛り付けられている女性が多し。雇用の流動性がないので,正社員の職を辞した後,再び正社員としてカムバックするのも容易ではありません。よく知られている女性の「M字」労働力率カーブですが,谷から再び盛り返すのは,主に非正規雇用の増加によります。子育てが一段落した後の就労は,主にパート労働がメインだと。

 フルタイム就業は家事・育児との両立が大変,という現実もあります。それはどの社会も同じと思われるかもしれませんが,日本は大変さのレベルがかなり高い国です。週35時間以上,フルタイムで働いているという既婚女性に,「週あたり,家事を何時間していますか」と尋ねた結果を帯グラフにすると,以下のようになります。日本を含む主要7か国の比較です。2012年のISSP調査の個票データから算出した数値によります。


 日韓と欧米の断絶が大きくなっています。日本では,フルタイムで働く既婚女性の半分以上が,週に20時間以上家事をすると答えています。1日3時間くらいですね。ゴチャゴチャするのでマックスの階級を20時間以上にまとめましたが,週30時間以上という回答も,日本では24.7%います。1日4~5時間,フルタイム勤務でこれはキツイ。

 日本は,夫が家事をしませんからねえ。ツイッターでグラフを出しましたが,日本の女性の家事時間分布は,フルタイム就業だろうと主婦だろうとほとんど同じです。つまりは,妻がフルタイムで働いていようが主婦だろうが,夫の家事時間に変わりはないと。この国で既婚女性がフルタイム就業することは,「仕事・家事・育児」のトリプルの負荷がのしかかることと同義で,とても辛いことであるのが知られます。

 最近,若い女性の専業主婦希望率が高まっているという話を聞いた覚えがありますが,フルタイムで働くことの大変さを認識してのことかもしれません。余談ですが,女性の場合,既婚者は未婚者より早死にする傾向があるのですよね(男性は逆)。

 ただ,夫の家事分担を促せばいい,という話でもありますまい。日本では,家事に求められるレベルが高く,家事の総量が無駄に多い,という問題もあります。「男は仕事,女は家庭」という明瞭な性役割分業で社会が築かれる中,家事に求められる水準がすっかり高くなってしまっています。専業主婦が「一汁三菜」の手の込んだ料理で,疲れて帰宅する夫をもてなす。これが高度経済成長期の日々でした。こういう慣行は今も残っていて,女性のフルタイム就業を阻害しています。

 家事の総量の国際比較をしてみましょうか。指標として,夫と妻の家事時間の合算を使うことができます。2012年のISSP調査では,パートナーのいる人に対し,自分とパートナーの週間の家事時間を訊いています。自分が10時間,パートナーが5時間の場合,合算は15時間です。フルタイムで働いている妻の回答分布をグラフにすると,以下のようになります。


 先ほどと同じく7か国の比較ですが,夫婦の家事時間合算,すなわち家事の総量は日本が最も多いようです。30時間以上(1日4~5時間ほど)が全体の4割を占めます。このうちの大半が,フルタイムで働いている妻にのしかかっていることにも注意しないといけません。手の込んだ一汁三菜,こまめな掃除・洗濯など,具体的な光景をイメージするのはあまりにも容易い。

 対して,アメリカやフランスなんかは短いですね。夫婦の合算が週10時間未満(1日2時間未満)が最多です。食事は冷凍,ないしは適当につまんで済ませる,火を使う調理は週末だけ,洗濯は週に1回大型洗濯機(乾燥機)でエンド。弁当も簡素で,日本の親が持たす「キャラ弁」を見せると目をむいて驚きます。家事の総量が違うのです。

 家事の量が少ないだけでなく,フルタイムの共稼ぎとなったら,家事代行やシッターをガンガン使うというのもあるでしょう。

 21世紀は共稼ぎの時代。日本もこういう方向を目指すべきであって,中学校の家庭科の教科書に,手間のかかる伝統料理ばかり載せている場合ではありません。指南すべきは,時短の術です。時代が変わっているのに,教科書が昭和のままでいいわけはありません。

 今回は,女性全体ではなく,フルタイム就業の既婚女性に絞って,家事時間の国際比較をしてみました。日本のワーママの大変な苦労が可視化されたと思います。既婚女性のフルタイム就業率が上がることは,ジェンダー平等の進展の証左として歓迎されがちですが,それは,重い負荷に耐え忍ぶ女性の増加と同義で,手放しに喜べることではありません。令和のワーママは,昭和の専業主婦と同じくらいの家事・育児を課されているとみられますが,これは無理というもの。

 なすべきは,①夫の分担促進,②家事量の削減,③代行利用の推奨ですが,まず手を付けるべきは②です。手始めに,週の夕食の半分,弁当のすべてを冷凍食品にすることから始めてはどうでしょう。火を使う調理は,時間に余裕のある週末だけ。

 私は生協で冷凍食品をじゃんじゃん頼み,セカンドの冷凍庫を買おうかと思案している所ですが,今の冷凍食品はオイシイですよ。生協の場合,塩分も控えめに作られています。すぐにできて,疲れた顔ではなく,余裕のある笑顔で食卓を囲めるというのは,結構なことではありませんか。