2022年6月21日火曜日

小学校卒の人数

  2020年の『国勢調査』の学歴集計が公表されました。5年間隔で実施される基幹統計調査ですが,西暦の下一桁がゼロの年は学歴も調査されます。

 2020年調査では,小学校卒と大学院卒というカテゴリーが新設されています。時代と共に精緻化されているのは,好ましいことです。メディアでは前者の数が注目され,「小学校卒80万人」という見出しが,大手媒体の記事に踊っています。

 これについて「甘いな」と思うところがありますので,ここにて書かせていただこうと思います。

 まずは原資料から,15歳以上の学校卒業者の学歴回答分布を拾ってみましょう。コチラの統計表で呼び出せます。それによると,小学校卒が80万4293人,中学校卒が1126万41239人,高校・旧中卒が3784万5056人,短大・高専卒が1389万514人,大学卒が1983万9068人,大学院卒が206万874人,不詳が1505万9305人です(合計1億76万3239人)。

 なるほど,小学校卒は確かに80万人ほどです。しかし学歴不詳者も約1506万と,かなりいます。全体の15%ほどです。この中にも,小学校卒の人がいるでしょう。学歴は不詳(回答拒否等)が多いので,この部分をオミットするわけにはいきますまい。

 では,学歴不詳者の中に小学校卒は何人いるか。この点を推し量り,上記の80万4293人に加算する必要があります。いわゆる,不詳補完推計というものです。以下の表をもとに,手順を説明します。


 まずは,学歴回答者(小学校卒~大学院卒の合算)の中で,各学歴カテゴリーの人が何%かを出します。表のb欄がそれで,小学校卒は0.938%です。この割合を学歴不詳者にかけると14万1325人。この数が,学歴不詳者の中での小学校卒と推測されます。

 要するに,学歴回答者の中での割合でもって,学歴不詳者を各学歴カテゴリーに割り振る(按分する)わけです。その数は,表のc欄に示されています。

 よって,統計表で分かっている小学校卒80万4293人に,この割振り分(14万1325人)を足して,最終学歴が小学校卒の人の数は94万5618人と見積もられます。不詳補完推計による,より精緻化した数です。

 統計で分かる小学校卒は約80万人ですが,不詳者の割振り分を足すと95万人ほど。メディアでは「小学校卒80万人」という見出しが出ていますが,「小学校卒およそ100万人」としてもよいかと思います。結構な数ですね。多くは義務教育を終えられなかった高齢者や外国人等ですが,彼らが学ぶ夜間中学の整備が求められる所以です。

 そうした教育機会の整備は,地域レベルでなされるものですので,参考までに都道府県別の数値もお見せしましょう。学歴不詳者の割振り分も足した,不詳補完推計値です。


 多い順に並べていますが,最も多いのは北海道で6万3278人となっています。おおよそ人口規模と比例していますが,新潟,静岡,青森,岩手,沖縄といった県も上位であり,地域性のようなものも見受けられます。

 教育機会を欲している人の数です。各自治体は,こうした情報を把握し,学校の設置の参考にしてほしいと思います。コチラの統計表では,もっと細かく区市町村レベルの数も出せます。

 なお中学校卒も加えると,数はうんと膨れ上がります。最初の表によると,中学校卒(不詳補完推計値)は1324万3384人。東京都の人口より多いですね。今でこそ高校進学率は100%近いですが,昔はさにあらず。1960年代前半,団塊世代が15歳だった頃も6割ほどでした(地方では半分未満)。働きながら定時制高校に通う勤労青年もいましたが,卒業にこぎつけるのは容易ではありませんでした。

 「今からでも高校に…」。こういう思いの人もいるはずです。事実,孫世代の生徒と机を並べる高齢者のニュースはよく見ます。高校に,入学年齢の制限なんてありません。各地で高校統廃合が進んでいますが,教育機会を求めているのは10代の生徒だけにあらず。

 逆ピラミッドの年齢構成の社会では,上の世代も含めた教育計画の立案が求められるところです。それは,ここで出した小・中卒人口のマグニチュード(量)を一瞥するだけで分かります。