2011年2月15日火曜日

せんせいの学歴

 私は,教員養成系大学の出身ですが,入学時のオリエンテーションの際,次のように言われた記憶があります。「これからの教師には,大学院卒の学歴が求められるようになります。なぜなら,保護者のほとんどが大卒だからです」。当時はあまりピンときませんでしたが。今思うと,なるほどという感じです。

 エミール・デュルケムは,教師にとって不可欠な資質は,道徳的権威(l'autorité morale)であると言っています。卑俗な言い方ですが,こうした権威を裏付けるのは,教師が,子どもや保護者よりも多く学んでいる,という客観的な事実であるといえましょう。

 かつて,進学率が低く,国民の学歴水準が低かった時代には,大学出の教員の言動には,何やら威光のようなものが感じられました。ところが,進学率が急上昇した今日にあっては,そのようなことは望むべくもありません。同じ大卒の保護者は,教員と対等の立場でガンガンもの申してきますし,あれこれと口出ししてきます。このことは,教員の自律性を侵害し,彼らの苦悩の大きな原因となっているのではないでしょうか。

 昨年12月25日の朝日新聞によると,精神疾患で休職に追い込まれる教員の割合は,都市部ほど高いそうです。この点に関する解釈として,久冨善之教授は,「教員より学歴が高い保護者が多く,学校への要望が厳しいことも,率を引き上げているのではないか」と指摘しています。

 現在,教員養成の期間を4年から6年に延ばし,教員志望の学生には修士の学位を取ってもらおう,という案が出ています。教員の学歴水準を保護者よりも一段高くしよう,という意図が込められています。

 さて,現時点において,教員のうち,大学院を出ている者はどれほどいるのでしょうか。ここでは,小学校教員についてみてみようと思います。文科省『学校教員統計調査』には,教員の学歴の統計が掲載されています。2007年でいうと,小学校教員のうち,大学院を出ている者は3.0%です。あまり高くはありませんが,約4半世紀前の1983年の0.3%よりは大きく伸びています。


 この比率を年齢層別にみると,上図のようです。最近の20代後半から30代前半では,5%を超えています。なお,40代や50代のような中高年層でも率が上がってきています。現職のまま,大学院に入学し,学位を取得する道もあるからです。2010年の調査の結果を加えれば,図の右上の高率ゾーンはもっと広がっていることでしょう。

 中学校や高校についても,同じ統計をつくってみたら面白いと思います。これらの中等教育機関では,院卒教員の比率はもっと高いことでしょう。