2012年10月15日月曜日

教員の転職・就業休止希望率

 私は,2009年度から10年度まで,武蔵野大学現代社会学部で卒業論文ゼミを担当しました。総勢36名の学生さんを送り出しましたが,みなさん,どうしているのやら。

 中には,メールで近況を知らせてくれる人もいます。「結婚しました」というような吉報もあれば,そうでないものもあり,数としては,後者のほうが多いように思います。その多くが,今の仕事を「ヤメタイ」というものです。

 詳しい事情をここで紹介することはできませんが,職場不適応を起こしている人が多いな,という印象です。もしかすると,私のパーソナル・インフルエンスが遠因として作用しているのかもしれませんが・・・。

 さて,学校の教員の場合,どれほどが「ヤメタイ」と思っているのでしょうか。朝日新聞教育取材チームの『いま,先生は』岩波書店(2011年)を引くまでもなく,現在,学校のセンセイは大変です。教員の危機の量を測る指標として,本ブログでは,離職率や精神疾患罹患率を分析してきた経緯がありますが,総務省の『就業構造基本調査』から,転職希望率,就業休止希望率のような指標を計算できることを知りました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2007/7.htm

 『就業構造基本調査』でいう教員は,法で定める1条学校の教員のほか,専修・各種学校等の教員をも含みますが,母集団の組成からして,大半が小・中・高校の教員であるとみてよいでしょう。
 
 2007年度の本調査結果から,調査時点(10月1日)において,転職ないしは就業休止を希望している教員の数を知ることができます。用語解説によると,転職希望者とは,「現在就いている仕事を辞めて,他の仕事に変わりたい」と思っている者です。就業休止希望者は,「現在就いている仕事を辞めようと思っており,もう働く意思のない者」とのこと。

 正規雇用されている男性教員について,転職希望者と就業休止希望者の数を年齢層別に整理しました。また,両者の合算値が全体に占める比率も出してみました。なお,60歳以上の高齢教員は,分析から除外しています。


 まず全体の数値をみると,教員64万人のうち,転職もしくは就業休止を希望している教員はおよそ4万人となっています。比率にすると6.5%,約15人に1人です。

 しかし,この比率は年齢層によって異なり,入職して間もない20代前半の若年教員では,転職希望率は12.0%にもなります。8人に1人が「ヤメタイ」と思っているわけです。申しておきますが,これは正規教員の数値であり,時間講師のような非正規教員は含みません。

  右端の転職・就業休止希望率は加齢ともに低下し,定年間際の50代になると再び増加うする傾向です。しかし,20代前半の値が飛びぬけていることが注目されます。

 以上は男性教員の傾向ですが,女性教員ではどうでしょう。また,教員の特徴を把握するには,他の職業との比較も必要です。このような要求に応える統計図をつくってみました。下図は,就業者全体,専門・技術職,そして教員の3カテゴリーについて,上表の指標を性別・年齢層別に出したものです。言うまでもないことですが,教員は専門・技術職の一つです。


 教員の転職・就業休止希望率は,おおむね,就業者全体や専門・技術職全体よりも低いようです。ですが,教員の場合,20代前半と後半の落差が大きいことが特徴です。また,50代になると率の上昇具合が高いことも注目されます。

 教員の場合,各種の危機や困難が,入職したての時期と退職間際の時期に集中する度合いが高いといえるかもしれません。そういえば,7月23日の記事で出した年齢層別の病気離職率も,似たような傾向を呈していました。

 20代前半の危機は,慣れない職場に対する戸惑いや動揺という点から解釈できるでしょう。50代の高齢教員については,体力の衰えというようなことに加えて,教員を取り巻く状況が近年になって激変していることに対する不適応の表れとも読めます。

 まあ,こうしたことは,多かれ少なかれどの職業でも同じでしょうが,教員の場合,それが殊に強いのではないか,と推察されます。最近やや緩和されているとはいえ,教員の年齢ピラミッドをみると,下の若年層の部分がやせ細っています。そのことは,若年教員が孤軍奮闘しなければならないような状況を準備しているともいえます。8年前に起きた,静岡県磐田市の新任女性教員の自殺事件の背景には,このようなことがあったそうです。

 ところで,若年層と高年層に挟まれた中年層は安泰かというと,そういうことではありません。この層の場合,実践家から管理者への役割変更というような,ライフコース上の危機が待ち構えています。この点については,紅林伸幸教授が指摘されています(「教師のライフサイクルにおける危機」油布佐和子編『教師の現在・教職の未来』教育出版,1999年)。

 さて,今年(2012年)は,5年に1度の『就業構造基本調査』の実施年ですが,教員の転職・就業休止希望率のカーブはどうなっていることでしょう。結果が公表されるのを,期して待ちたいと思います。