2014年3月26日水曜日

大学入学者の地元占有率

 最近,大学進学に際して「地元志向」が強まっているといわれます。不況のため,遠距離通学や下宿の費用を負担するのがキツイという家庭が増えているのでしょう。大学の学費だけでもバカ高なのに,下宿費用まで上乗せとなると,それは大変です。

 今回は,大学進学の地元志向の強まりを統計で可視化してみようと思います。各県内の大学入学者の中で,自県出身者の割合がどれほどいるかに注目してみましょう。いわゆる,地元占有率というやつです。

 まずは時計の針を20年戻して,1993年春の状況から。この年の大学学部入学者は55.5万人ですが,このうち,入った大学と同じ県内の高校出身者は19.8万人です(文科省『学校基本調査』)。よって地元占有率は,35.8%と算出されます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 2013年春について,この意味の地元占有率を出すと42.3%です。なるほど,各県内の大学入学者の占める地元出身者の比重が高まっていますね。

 では,大学入学者の地元占有率の変化を,都道府県別に観察してみましょう。各県内の大学入学者に占める,自県内の高校出身者の比率です。分子と分母の数値も提示いたします。


 黄色マークは最高値ですが,地理的に閉じた沖縄は地元占有率が高いですね。現在では,県内の大学入学者のうち,8割が地元出身者です。

 この20年間の変化をみると,全国的傾向と同様,地元占有率が増加している県がほとんどです。10ポイント以上増には<の記号をつけましたが,東北や北関東の県で地元志向の高まりが顕著であることが知られます。秋田で地元占有率が下がっているのは,国際教養大学ができたことの影響でしょう。

 ≪がついている長野と静岡は,地元占有率が20ポイント以上増です。私立の長野大学を公立化しようという議論がされているようですが,そうなった場合,この比率はもっと高まることでしょう。

 仕上げとして,上表の地元占有率を地図化しておこうと思います。30%未満,30%台,40%台,および50%以上という4階級を設けて,各県の濃淡をつけてみました。


 地図の色が全体的に濃くなってきています。大学進学の地元志向の高まりが,可視化されていますね。ちなみに,各県の大学進学者のうち,自県内の大学に入った者はどれほどかという「地元進学率」でみても,類似の傾向がみられることを付記しておきます。

 大学進学の地元志向の強まりは,不況による家計逼迫というネガティヴな側面から解釈されがちですが,別に悪いことではないでしょう。人口のアンバランスが緩和される契機にもなり得ます。そういえば,先日発刊の『プレジデントファミリー』誌に,こんなことが書いてありました。

 「高い教育費を払って都会の有名大学に進学し,苛酷な就職戦線で疲弊するよりも,地元の国立大学で安く学び,生まれ育った土地で働くほうが幸せだと考えることは,決して悪いことではない。…日本のさまざまな地域でそうした選択をする学生が増えれば,地域の活性化にもつながっていくだろう」。『プレジデントファミリー』2014年3月18日号,93ページより。
http://www.president.co.jp/family/

 そうだろうと思います。今回みたのは大学進学時の地域移動ですが,願はくは,大学卒業時のそれも知りたいものです。地元の大学に入っても,大学を出たら他県に出ていく人もいます。逆に,た県の大学に行っても,卒業したら地元に帰ってくる人もいます。

 『学校基本調査』において,大卒者の就職先の県別統計をつくっていただけないでしょうか。これがあれば,自県定着率やUターン率なども出せ,先ほどの引用文にあるような,未来展望の具現の度合いを可視化することもできます。

 勝手な注文ですが,ぜひとも検討していただきたい事項です。