2015年4月4日土曜日

大卒者の就職率の長期推移

 私のささやかな夢が一つ実現しました。文科省「学校基本調査」のバックナンバーが,ネット公開されたことです。戦後初期の1948年度調査から現在までの統計表が,軒並みアップされています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 前は1993年度までの分しかアップされていませんでしたが,戦後の全てをネット上で見れることになります。エクセルファイルの表ですので,入力の手間もいりません。コピペして,直ちに必要な加工を施すことができます。

 図書館に出向き,あの分厚い冊子の必要箇所をコピーして,それをエクセルに入力していた学生の頃を思うと,感無量です。それが嫌で,日本の古本屋サイトで売られている,「学校基本調査」時系列揃え(30万円!)を買おうかと幾度も迷いましたが,その必要もなくなりました。

 これで,戦後の教育変動を思う存分,明らかにできます。戦後初期の教育の原風景を描いてみるのも面白い。この恩恵を活用していこうと思っております。
https://twitter.com/tmaita77/status/583808552650678272
https://twitter.com/tmaita77/status/583819443811315712

 今回は,このデータを使った戦後の教育変動分析の第一報です。タイトルのごとく,大卒者の就職率の時系列変化です。白書や新聞等で目にするのはせいぜい10年間くらいの推移ですが,戦後60年あまりの長期的視野を据えて,その変化を観察してみたいと思います。

 なお,一般に報じられる就職率は卒業者数ベースの率ですが,この中には大学院進学者など,就職の意志のない学生も含まれますので,それを除く必要があります。ここで報告する就職率の計算式を示しておきます。大学卒業者の進路カテゴリーが時代によって変わっていますので,それに応じて計算方法も変えています。

 1955~1968年 就職率=就職者/(卒業者-進学者)
 1969~2003年 就職率=(就職者+研修医)/(卒業者-進学者)
 2004~2014年 就職率=(就職者+研修医)/(卒業者-進学者-専門学校等入学者)

 医学部卒業生の場合は,キャリアが研修医から始まるのが一般的ですので,これも分子に含めました。就職の意思がない大学院進学者や専門学校入学者は,分母から除いています。このやり方で,就職の意思がある(とみられる)学生をベースとした就職率を計算しました。

 私はジェンダーの差もみるため,男子と女子の2本のカーブを描きました。また,大学卒業者の量のイメージを添えるため,同世代中の大学進学率の変化も背景に添えました。大学進学率は今でこそ50%と半分を超えていますが,今回のデータの始点の1955年ではわずか7.9%でした。トロウ流にいうと,エリート段階とユニバーサル段階の隔たりに相当します。

 下に掲げるのは,これらの情報を盛り込んだグラフです。男女の就職率は左軸,大学進学率は右軸で読んでください。


 まず背景の大学進学率をみると,始点の1955年では1割未満でしたが,高度経済成長期にかけて上昇し,私が生まれた70年代半ばに,4割近くで頭打ちになります。大学進学率が高すぎるということで,大学設置抑制政策が施行されたためです。また,75年に専修学校の制度ができたことも大きいでしょう。

 こういうことがあって80年代は進学率は停滞するのですが,第二次ベビーブームの大波が押し寄せることをにらんで,上記の抑制政策は緩和されます。このことと少子化が合わさり,90年代以降は大学進学率が直線的に増えている次第です。2014年春の18歳人口ベースの大学進学率は51.5%,同世代の2人に1人が大学に行く時代になっているわけです。

 今日では,労働市場に入ってくる新規学校卒業者のマジョリティーは大卒者なのですが,この層の就職率はどう変わってきたのでしょう。図中の2本の折れ線は,上記のやり方で計算した,男女の就職率の推移です。

 アップダウンしていますが,転換点は時代のターニングポイントにも相当します。60年代前半の高度経済成長絶頂期,70年代初頭の成長終焉期,90年代初頭のバブル期,不況が本格化した世紀の変わり目,リーマンショックや震災が起きた2010年前後,こんな感じです。

 大卒者の就職率の上下動は,景気動向と密接に関連していることが知られます。ちなみに私は,どん底近辺の99年の卒業生です。当時の就職戦線の厳しさは,肌身で知っています。学校卒業の時期は選べませんが,われわれは「ついてない世代」,人呼んで「ロスト・ジェネレーション」です。最近は人手不足もあって,バブル期以上の売り手市場だそうですが,そういう報道に接するたびに僻みのような感情も抱いていしまいます。

 なお最近はそうでもないですが,昔はジェンダー差が大きかったのですね。高度経済成長期の只中の60年代前半をみると,男子は9割以上であるのに対し,女子は7割ほどです。企業がつっぱねていたのか,「卒業後は花嫁修業を」という女子学生が多かったのか…。そういえば,70年代の初頭あたりですか,どうせ家庭に入るのだから,多額の税金を費やして女子に高等教育を施すのは無益であるという,女子学生亡国論なんていう議論もありました。

 しかし,70年代後半から80年代にかけて,女子の就職率がぐんぐん上昇します。国際的には79年に女子差別撤廃条約が国連で採択され,国内では86年に男女雇用機会均等法が施行されるなど,男女平等の機運が高まったのと期を同じくしています。

 世紀の変わり目にはジェンダー差はほとんどなく,最近では女子のほうが高いくらいです。日経デュアル誌にも書きましたが,とくに理系女子(リケジョ)は強い。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3276

 あと数年すれば,大卒者の就職率は,高度経済成長期の60年代前半の水準に達するかもしれません。今度は,男女そろって。

 今回は,大学卒業者の就職率の推移を明らかにしてみました。今度は,専攻別(文系/理系)の推移線を描いてみるのもいいですね。「学校基本調査」の原統計のバックナンバーを使って明らかにできる,教育変動の諸相。今後,随時発信していきたいと考えております。