2016年4月24日日曜日

都道府県別の保育士・介護職員の年収

 『日経デュアル』にて,保育士の給与とやりがいについて論じた拙稿が公開されています。時宜にかなったテーマであるためか,読んでくださる方が多いようです。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=8317

 この記事の図3にて,保育士の離職率の都道府県地図を掲げ,各県の離職率は,保育士の給与の相対水準と相関していると書きました。地方では,保育士の年収は全職種の8割ほどだが,東京や大阪のような大都市では6割,下手したら半分。こうした待遇の違いも,保育士の離職率と関連していると。

 この箇所に関心をもった,ある保育園の園長さんから,「県別の保育士の年収を知りたい」というリクエストをいただきました。これについては,本ブログで前に紹介したことがありますが,最新のデータをご覧に入れましょう。ついでに,保育士と並んで需要が増している介護職員の年収も出してみます。

 資料は,2015年の厚労省『賃金構造基本統計』です。この資料には,同年6月の月収(①)と,前年(2014年)の年間賞与額(②)が職種別に掲載されています。短時間労働者を除く,一般労働者のデータです。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 ①を12倍した値に②を足せば,推定年収が出てきます。保育士は①が21.9万円,②が60.3万円ですから,推定年収は323.3万円となります。介護職員は316.1万円です(安い・・・)。

 ちなみに,同じやり方で全職種の推定年収を出すと489.2万円です。よって,これを1.0とした相対水準にすると,保育士は0.661,介護職員は0.646となります。保育士と介護職員の年収は,全職種の6割くらいであると。

 これは全国の値ですが,保育士と介護職員の年収とその相対水準は,県によって大きく違っています。下表は,算出された推定年収と,全職種を1.0とした場合の相対水準の一覧表です。黄色は最高値,青色は最低値を意味します。


 どうでしょう。保育士の年収は201.5~383.3万円,介護職員は250.7~403.3万円のレインヂが観察されます。

 しかるに,県によって一般的な収入水準が違いますので,保育士と介護職員の待遇の良し悪しを知るには,右側の相対水準を見るのがよいでしょう。全職種の年収を1.0とした場合,どれくらいになるかです。

 保育士の収入の相対水準をみると,最高の秋田では全職種の9割ほどですが,最低の鳥取では半分ほど。これは苦しい。東京も0.566で,保育士の待遇の悪さが際立っています。介護職員のレインヂは0.613~0.804で,保育士に比して待遇のバラツキは小さくなっています。

 この値はおそらく,各県の保育士や介護職員の求人倍率や離職率などと相関しているのではないでしょうか。すぐ出せる値を紹介すると,保育士の年収の相対水準は,平均勤続年収と+0.5687という相関関係にあります(1%水準で有意)。待遇の良し悪しと職場定着の因果関係を推測させるデータですね。

 上表の右欄の相対水準値をグラフにしておきましょう。下図は,横軸に保育士,縦軸に介護職員の年収の相対水準値をとった座標上に,47都道府県を配置したものです。


 図の見方はお分かりですね。右上は,重要な福祉職の待遇が相対的に良好な県,左下はその逆です。

 保育士や介護職員の薄給は,イヤというほど指摘されますが,細かい地域別にみると様相が違っています。この手のデータも公開し,地域レベルでの状況改善につなげていきたいものです。