2017年4月14日金曜日

男性のWLBと出生率の相関

 WLBとは,「ワーク・ライフ・バランス」の略称です。和訳すると「仕事と生活の調和」で,今やこのフレーズを知らない人はいないでしょう。

 この理念がどれほど具現されているかは社会によって違っていますが,この尺度の上に諸国を並べた場合,おそらくは日本は低い位置に来るでしょう。

 WLBの具現度の指標(measure)としてはいろいろ考案されていますが,ISSPの『家族と性役割の変化に関する調査』(2012年)の個票データを使って,独自に指標を作ってみました。25~54歳の男性有業者のうち,家事・家族ケア時間が仕事時間より長い人の割合です。

 生産年齢の有業オトコで,こんな人は滅多にいないとは思いますが,%を出すとどれほどでしょう。上記の調査では,週当たりの①家事時間,②家族ケア時間,③仕事時間を尋ねています。日本の25~54歳の有業男性で,この3つの全てに有効回答を寄せているのは218人です。

 この218人のうち,家事・家族ケア時間(①+②)が仕事時間(③)より長い人は5人で,比率にすると2.3%しかいません。43人に1人,予想はしていましたが少ないですねえ。

 しかしこれは日本のデータであり,国ごとに同じ指標を出すと,値にはバリエーションがあります。下図は,調査対象の38か国を高い順に並べたランキングです。


 働き盛りのオトコで,仕事よりも家事・家族ケアをやっている人なんてわずかしかいない。これが日本の状況(常識)ですけど,世界を見渡せば,%値が高い社会もあるじゃありませんか。

 インド,フィリピン,ベネズエラでは3割です。これらの国では男性は怠け者で,女性がバリバリ働くという話をよく聞きますが,家事・家族ケア時間と仕事時間の対比から出されるWLB指標が高いのは事実です。

 欧米の主要国も日本よりは高し。その日本はといえば,38か国の中で見事に最下位となっています。ぐうの音も出ませんが,自国の常識が世界で普遍的であるなどと思ってはいけません。

 実はこの指標は,それぞれの国の出生率と相関しています。総務省統計局の『世界の統計 2017』という資料から,2013年近辺の合計特殊出生率を採取し,上記の%値と絡めてみました。両方の数値が分かる,28か国の相関図です。


 仕事より家事・育児をする男性が多い国ほど,出生率が高い傾向にあります。相関係数は+0.6226で,1%水準で有意です。

 これが因果関係を意味するとは限りませんが,夫が家事をする夫婦ほど,第2子以降の出生率が高い,という調査レポートはよく目にします。女性の負担が小さくなるわけですから,男性(夫)のWLBと出生率アップの関連は想像に難くありません。

 上記の図は,そのマクロ的な表現とみてもいいかもしません。

 現実問題として,男性の家事・家族ケア時間と仕事時間を逆転させるのは不可能でしょうけど,両者の比重を改善する余地はあるでしょう。夫と妻の家事・家族ケアの分担率も然り。前に,ニューズウィーク記事で報告しましたが,日本の男性の分担率は世界で最下位です。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/03/post-4607.php

 こういう状況を改善するのは,社会の維持・存続に関わる至上命令ともいえるステージに達しています。労働時間の短縮には,生活の便利性のレベルが下がること(24時間営業の縮小……)が伴いますが,そんな副作用を気にしている場合ではありません。いい加減,便利になりすぎた生活を見直す段階に,わが国は来ているのです。