2018年11月5日月曜日

健診受診率のジェンダー差

 42歳になり,健康面に気を付けないといけなくなりました。そのために欠かせないのは定期的な健康診断ですが,勤め人でない私は,会社がやってくれるわけではありません。年に1回,住んでいる自治体(横須賀市)の健診を受けています。

 横須賀市は熱心で,市民健診や健康イベントの周知はもちろん,前年の国保の利用額についても知らせてきます。「去年,てめえの医療費がこれだけかかったぞ」とね。その額をみると,確かに気が引き締まります。私は去年,歯茎の手術を2回やったので,だいぶお世話になりました。

 言わずもがな,大事なのは予防です。北欧では,歯の定期健診を受けないで虫歯になった場合,治療費は自己負担になってしまうのだそうです。がんが怖いからと,食生活に気を配るのはいいですが,がん検診を受けないのはリスクが高い。健診はちゃんと受けたいものです。

 その健診ですが,編集者さんから「健診の受診率にジェンダー差があるの知っていますか?」と言われました。健診受診率の学歴差はデータを出したことがありますが,もっと基本的な男女差はまだ見ていませんでした。専門家というのは,一般人の素朴な意見(疑問)に足元をすくわれることが多いのですよね。

 2016年の厚労省『国民生活基礎調査』で,過去1年間に健診等を受診したかを訊いています。以下のグラフは,受診したと答えた人の割合の年齢カーブです。「不詳」は分母から除いて率を出しています。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html


 なるほど,どの年齢層よりも,女性より男性の受診率が高くなっています。とくに,働き盛りの年齢層では差が大きくなっています。

 編集者氏がいうには,正社員率の違いの故だそうです。正社員ならば,黙っていても,会社の健診を受けさせられますからね。しかるに,非正規雇用や無職者はさにあらず。当人の意志に委ねられます。健診がいつ・どこで実施されるかという情報にも,アンテナを張らないといけません。費用負担の心配もある。

 女性では,30代前半の陥落が大きくなっています。片時も目が離せない乳幼児がいるステージですが,健診に行く時間もとれないのかもしれません。

 30代の女性は,育児のため家庭に籠ることが多くなります。健診受診率の谷は,その表れといえるでしょう。しかし,その度合いは地域によって違います。30代女性の健診受診率を都道府県別に出し,高い順に並べると以下のようになります。震災のため,熊本県はデータがありません。


 同じ30代の女性ですが,健診の受診率は,73.2%から49.2%までの開き(range)があります。上位県と下位県の顔ぶれを見て,私は即座に,女性の社会進出の度合いと相関しているなと思いました。

 2017年の『就業構造基本調査』から30代女性の正社員率を出し,上表の健診受診率との相関をとってみましょう。正社員率とは,30代女性人口のうち,正規職員である者が何%かです。
 

 結果は予想通りです。おおむね,30代女性の正社員率と健診受診率の間には,プラスの相関関係が見受けられます。相関係数は+0.6904です。

 身体のケアというのも,社会とのつながりの関数なんですよね。それから漏れがちな層には,意図的に手を差し伸べることも求められます。いわゆる,アウトリーチです。

 最近,健康格差という現象に関心が向けられていますが,所得差の前段に位置するジェンダー差にも注意する必要がありそうです。健康寿命という指標に基づくと「男<女」という結果が導き出されますが,出産・育児期や壮年期に焦点を合わせたら,その逆かもしれません。共働き化が進む一方で,育児・介護といった負荷は,未だに女性に偏しています。それでいて,病気を検出する健診の受診率は,ここで見たように女性のほうが低いのです。

 話を広げると,これから先,雇用の非正規化やフリーランス化というように,会社に属さない働き方が増えてきます。会社依存の健康管理のシステムも変わってくるでしょう。「ちゃんと健診を受けてください,でないと,病気になった時,治療費が割高になりますよ」と,自己責任の幅を多少広げることも必要かもしれません。むろん,情報提供や費用負担等の措置は講じた上でです。