2023年11月18日土曜日

失業と自殺の相関の国際比較

  先日ツイッターで出したグラフについて,「元データがどういうものか,イメージしにくい」という声がありますので,ここで詳細を書いておきます。

 当該のグラフは,男性の失業率と自殺率の時系列データから算出した相関係数を,国ごとに棒グラフにしたものです。日本は+0.9を超えていて,主要国では断トツ。米国は+0.073で無相関,フランスやスペインに至ってはマイナスです。

 失業率は,15歳以上の労働力人口に占める完全失業者の割合です。働く意欲のある人のうち,職に就いておらず,せっせと職探しをしている人が何パーセントかです。出所は,ILOの統計データベースで,「Unemployment rate sex and age (%) - annual」という表にて,各国の男性の失業率の長期推移を,国別に呼び出せます。

 自殺率は,人口10万人あたりの年間自殺者数です。ソースは,WHOの「Mortality Database」で,「Self-inflicted injuries」という死因による死亡者数が,10万人あたりの人数に換算された数値が出ています。

 私はこの2つの資料から,男性の失業率と自殺率の推移を,国別に明らかにしました。観察期間は,1990~2020年の30年間です。日本とスペインについて,採取したデータを漏れなく示すと以下のようになります。


 黄色マークは観察期間中の最大値,青色は最小値です。日本の失業率は低く,30年間であまり動いていませんが,自殺率は変化の幅が大きくなっています(20.4~36.5)。対してスペインは,失業率は大きく揺れ動いているものの,自殺率はほぼフラットです。

 しかしスペインは失業率がメチャ高で,2桁はデフォルト。それでも自殺率は日本よりだいぶ低し。2つの国のコントラストが浮き出ています。

 上記の30年間のデータをもとに,男性の失業率と自殺率の相関関係をみてみます。下図は横軸に失業率,縦軸に自殺率をとった座標上に,各年のドットをプロットした散布図です。赤色は日本,青色はスペインです。


 日本は,失業率が高い年ほど自殺率も高いという,明瞭なプラスの相関関係がみられます。対してスペインは無相関。失業率は大きく揺れ動いているにもかかわらず,自殺率はほぼフラットです。

 両軸が因果の関係にあるとは限りませんが,「失業⇒生活苦⇒自殺」という経路を想定するのは容易いでしょう。日本は,それが非常に強い社会のようです。

 上記は2つの国の比較ですが,分析対象の国をもう少し増やしてみましょう。欧米主要国について,最初の表と同じようなデータをそろえ,相関係数を算出しました。8か国の相関係数を棒グラフにすると,以下のようになります。ツイッターで発信したグラフはこれです。

 瑞典はスウェーデン,西はスペインです。


 主要国の比較ですが,どうでしょうか。失業と自殺が強く関連する社会もあれば,そうでない社会もある。数としては後者が多く,日本の特異性が際立ちます。全世界でみても,失業が最も重くのしかかる社会ではないでしょうか。

 背景として,大きく3つが考えられるでしょう。一つは,日本男性の生活が仕事一辺倒になっていること。自我の拠り所にもなっていて,それを失うことのダメージは計り知れない。日ごろから家庭や地域での暮らしをないがしろにしているので,職場に代わる,自我を安定させるための集団も見いだせない。

 2つ目は,社会保障が不備であること。中高年男性が失職した場合,再就職が容易でなく,貯金がない,頼れる親族がいないという場合でも,生活保護を受けるのも難しい。上のグラフをみると,フランスでは相関係数がマイナスにふれていて,失業率が高い時期ほど自殺率が低い,という傾向すらあります。失業保険が手厚く,若者もガンガン生活保護を受けると聞きますが,そういう要因でしょうか。

 最後は,性役割分業です。日本は「男は仕事,女は家庭」という性役割分業が強く,女性に家事や育児・介護等の負荷がかかる一方で,男性には「一家の稼ぎ手」という役割が強く期待されます。それを遂行できないと,一家が直ちに生活苦に陥り,周囲からの目線も厳しく,当人も自責の念にかられ,最悪の結果になってしまう。

 簡単に言えば,生活(役割)の偏り,社会保障の不備,ということです。これには国ごとの濃淡がありますが,日本は際立って「濃」であることが,失業と自殺の相関関係から知られます。

 日本社会の「病」。治療の余地は大ありです。