2022年8月27日土曜日

奨学金利用率の地域差

  米国では,奨学金返済に苦しんでいる人を救うべく,1人あたり1万ドル,借入額をチャラにするそうです。日本円にして120万円くらいでしょうか。私も現在返済中ですが,これをやってくれたらどんなに有難いことかと思います。

 昔に比して大学進学率が上昇し,高等教育の機会が幅広い階層に開かれたといいますが,奨学金という名の借金を負わせることで,それが進められてきたのも事実です。よくないことに,有利子の比重も増しています。

 私の頃は,大学生の奨学金利用率は1割ほどで,ほとんどが無利子だったのですが,今では利用者数が膨れ上がり,無利子より有利子の枠が多くなっています。返済義務のない給付型も創設されましたが,利用者数では貸与型が大半を占めています。

 今の大学生は,どれほど奨学金を利用しているのでしょう。日本学生支援機構のHPに当たってみると,この点の情報は公開されています(コチラです)。2020年度の大学学部学生の給付人員は,給付型が20万2030人,第一種貸与型(無利子)が34万6508人,第二種貸与型(有利子)が53万8880人です。同年5月時点の大学学部学生数は262万3572人(文科省『学校基本調査』)。

 これらの情報を表に整理すると以下のごとし。


 奨学金を利用している大学生は,給付,無利子貸与,有利子貸与の合算でみて108万7418人。複数のタイプを重複利用する学生もいますので,延べ数であることに留意してください。まあ,そういう学生は少数でしょうから,奨学金を使っている学生の頭数の近似数とみてもよいでしょう。

 全学生に占める割合は,41.4%となります。最近では,大学生の4割(5人に2人)が奨学金を使っているのですね。そのうちの半分は,有利子の貸与です。奨学金と呼べた代物ではなく,まぎれもなく「ローン」です。

 学生支援機構のHPでは,47都道府県別の給付人員も公表されています(集計方法は,学校の所在地による)。分母となる全学生数は,『学校基本調査』をみれば分かります。

 私はこれらの情報をもとに,大学学部学生の奨学金利用者率を都道府県別に計算してみました。奨学金を利用している学生(給付,無利子貸与,有利子貸与の合算)が,全学生の何%かです。以下の表は,47都道府県の数値を高い順に並べたものです。


 大学学部学生のうち,奨学金を使っている人が何%かですが,地域差がありますね。最高は沖縄の66.1%,最低は滋賀の17.9%です。滋賀では,自宅から京都の大学に通う学生が多いのでしょうか。

 首都圏でも,奨学金を使っている学生は比較的少なくなっています。自宅から通うことが容易であることもあるでしょう。

 その一方で,奨学金の利用者率が50%を超える県が20あります。私の郷里の鹿児島は53.2%で,沖縄,青森,宮崎は6割超えです。所得水準が低いので,奨学金を借りないと進学が叶いにくいのでしょう。都市部の大学に出た場合は,下宿費用も加算されますしね。

 上表のランキングを眺めていると,各県の所得水準と相関しているように思えますが,どうなのでしょう。2017年の総務省『就業構造基本調査』から,45~54歳(大学生の親年代)の男性有業者の所得分布を県別に出せます(コチラの統計表)。これをもとに中央値を計算すると,東京は633万円ですが,沖縄は332万円。倍近くの差です。

 こういう経済条件の差が,学生の奨学金利用に投影されていないか。横軸に親年代の所得中央値,縦軸に大学生の奨学金利用者率(上表)をとった座標上に,47都道府県のドットを配置すると以下のようになります。


 右下がりの負の相関関係が観察されます。父親年代の所得が低い県ほど,奨学金の利用率が高い傾向です。相関係数は,マイナス0.71861にもなります。

 地方(出身)の学生の奨学金利用率が高い事情は,上に述べたようなことだと思いますが,借金を負わせて(無理をして)進学させてるんだな,という思いを禁じ得ません。

 大学進学率50%超,高等教育のユニバーサル段階に達している日本ですが,(田舎の)学生に借金を負わせることで成り立っていると。地方は所得水準も低いので,卒業後に返していくのも大変です。数百万の借金を背負っていることは,結婚の足かせにもなるでしょう。前から申していますが,奨学金の利用増加は,未婚化・少子化にもつながっていると思うのです。

 高等教育の機会を若者に開くのはいいですが,家計(私費)依存の形でそれを推し進めると,国にとっても個人にとってもよからぬことになる。私費依存の教育拡張の病理です。高等教育への公的支出の対GDP比は,日本は諸外国と比して低いのはよく知られています。真のスカラシップ(給付型)を拡張する余地は大有りです。

 並行して,貸与型の奨学金は「学生ローン」と名称変更すべきです。これだけでも,安易な借り入れを防止することができます。奨学金という美名で釣って借金を負わせるなど,国のすることではありません。実際に勘違いする人もいて,(下の)私大で教えていた時,「奨学金って返すんですか?」と,真顔で驚く学生に会ったことがあります。

 今回は,地域別の大学生の奨学金利用者率を試算してみました。県によっては,大学生の5割,6割が数百万の借金を背負って社会に出ていく事態になっていると。若者が借金漬けになっているような地域では,希望も未来もあったものではありません。

 米国のような奨学金の一部チャラ政策をしてみるのもいい。それで足かせが外れ,婚姻率の上昇にもなればしめたものです。