2011年7月9日土曜日

社会病理現象の量の約分

 私は,非常勤先の武蔵野大学にて,「社会現象を数でとらえる-数でみる経済・社会-」という授業を担当しています。名のごとく,数字を使って,世の中の諸現象を客観的に把握する訓練を積んでいただこう,という授業です。
http://syllabus.musashino-u.ac.jp/mu_syllabus_pub/exec/pub/preview?syllabusNo=20110000000000078511&subSyllabusNo=0&gyear=2011

 授業の中で,現在の日本の自殺者数は年間3万人超…などということを話すのですが,このような生の頭数を提示しても,学生さんはいまいちピンとこないようです。ましてや,年間に起こる犯罪の件数がおよそ170万件といったところで,その量的規模のリアリティが彼らに伝わるはずもありません。あまりに数が膨大すぎるのでしょう。

 そこで,この大きな数を約分してみます。自殺者が年間3万2千人とすると,1日あたりの自殺者数は,これを365で除して,約88人となります。さらに約分して,1時間あたりの人数を出すと約4人です。「今の日本では,1日あたり88人が自殺する。つまり,1時間につき4人が自らを殺めるのだぞ」という説明をすると,「うへえ」という驚嘆の声が返ってきます。

 ある現象が時間的に偏りなく生じるという仮定を置くものですが,これは使えると思い,さまざまな社会病理現象の数の約分表を,教材としてつくってみました。以下の表です。件数(人数)の数字は,警察庁や文科省の統計から得ました。
警察庁サイト:http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm
文科省サイト:http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016708


 左端のロー・データを,1日あたり,1時間あたりの数に換算しています。先ほど述べたように,犯罪は年間およそ170万件認知されているのですが,これを約分すると1時間あたり194件,もっと約分すると1分間に3件の事件が起きていることになります。まあ,大半がコソ泥のような軽微なものでしょうが。しかし,殺人,強盗,放火,およびレイプのような凶悪犯も,1日につき3件起きているのですねえ。学生さんの反応は,ここでも「うへえ」でした。

 ほか,少年が被害者となる犯罪が1時間につき31件,児童虐待が同じく1時間につき5件起きていることがうかがわれるのも,痛ましい限りです。

 下段の少年の問題行動に目を移すと,深夜徘徊や無断外泊などの不良行為で補導される少年が1時間につき116人,1分間に2人出ていることが注目されます。今問題になっているいじめは,1時間に8件です。また,少年の自殺は数が少ないと思っていましたが,それでも1日に1件,前途ある命を自ら断つという悲劇が起きていることになります。

 上記の資料を授業で配布する際は,左端の生の件数だけを記載しておき,約分の作業は,学生さん自身にやっていただきました。一同が電卓を叩いて黙々と約分作業に取り組む風景は,なかなか壮観です。パチパチ…という音が,数分間,教室に響き渡ります。私の授業の3分の1は,こういうものです。