2013年9月14日土曜日

都道府県別の大学収容力

 前回は,県別の大学進学率を出したのですが,同世代の2人に1人が進学という全国的状況とは裏腹に,大学進学率には甚だしい地域差があることを知りました。観察されたレインヂは,71.3%(東京)~33.9%(岩手)です。

 このような地域差が生じるにあたっては,各県の所得水準の違いが大きいでしょうが,自県に大学がどれほどあるかも重要なファクターです。大学進学にはただでさえ莫大な費用がかかりますが,自宅から通える範囲に大学がない場合,下宿のコストも上乗せされます。二重負担です。

 わが国では大学が都市部に偏在していますが,このことは,大学教育の供給量の著しい地域格差をもたらしています。今回は,この点を数値で可視化してみることにいたしましょう。

 分析する地域単位は都道府県です。私は,各県の18歳人口に対し,自県内の大学入学枠がどれほど用意されているか,という指標を計算することにしました。研究者の間では,大学収容力と呼ばれています。

 私の郷里は鹿児島ですが,2013年の春に,同県内の6大学に入学した者は3,672人です(文科省『学校基本調査』)。これが供給量ですが,それを求める18歳人口はというと,3年前の2010年春の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数をとって,18,462人と見積もられます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 よって今年の当県では,18歳人口18,462人に対し,3,672個の大学入学枠(イス)が供されたと見立てることができます。比率にすると19.9%,5人に1個なり。これが,今年の鹿児島県の大学収容力です。

 私はこの値を全県について出し,一覧表にしました。分母(需要量)と分子(供給量)の数値も掲げます。収容力の最高値には黄色,最低値に青色のマークをし,50%(2人に1個)を越える数値は赤色にしています。


 東京と京都では,算出された収容力が100%を越えています。これらの都府では,18歳人口全員が座っても,まだイスが余る勘定です。それもそのはず。全国782の大学のうち,138大学(17.6%)が都内に立地しているのですから。

 マックスは京都の138.5%ですが,京都も,人口比を勘案すれば多くの大学が設置されていると判断されます。前回の記事をみて,「京都の進学率が高いのが意外」とツイッターでつぶやいていた方がおられましたが,上表をご覧になられていいかがでしょうか。

 赤色の数値をみると,収容力が50%を越えるのは,ほとんどが大都市県や地方中枢県ですね。大学立地の都市部偏在が如実に反映されています。

 上表にみられる,大学収容力の県間格差の様相を地図で可視化しておきましょう。10%の区分で,それぞれの県を塗り分けてみました。現代ニッポンの大学教育供給量の格差地図です。


 この地図を,前回の大学進学率地図と並べてみると,模様がよく似ていることに気づきます。横軸に大学収容力,縦軸に大学進学率(浪人込み)をとった座標上に,47都道府県を位置づけると,下図のようになります。大学進学率の計算方法については,前回の記事をご覧ください。


 東京と京都がかっ飛んだ位置にありますが,大学収容力が高い県ほど大学進学率が高い傾向が明瞭です。相関係数は+0.7967であり,前回みた県民所得との相関よりも強くなっています。

 東京と京都を外れ値として除いて相関係数を出すと+0.6830となりますが,これでもかなり強い相関と判断されます。

 ちなみに,大学収容力と進学率の関連の強さは,男子と女子ではちょっと違っています。前回の記事では,各県の性別の大学進学率を出しましたが,大学収容力との相関係数は,男子で+0.744,女子で+0.824です。

 女子の大学進学率は,男子にもまして,自県内の大学教育供給量と強く相関しています。おそらく女子の場合,保護者が自宅外に出すのをためらう傾向が強い,ということでしょう。私の頃も,親が県外に出してくれないと嘆いていた女子生徒がいたよなあ。

 あと一ついうなら,大学が少ない(ない)地域では,大学で学ぶとは何ぞや,大学生とはどういう存在かというようなイメージを生徒が持ちにくい,ということもあるのでは。ロールモデルの欠如です。想像ですが,これなんかも女子のほうが強いのではないかしらん。

 まあ,あまりこの点を強調すると,大学進学率の地域差なんて,各県の文化や価値観の違いだ,というオチになってしまいますが,100%そうということは断じてありません。観察される統計上の差は,高等教育の私学依存・大都市偏在という構造条件に由来するものであり,単なる差ではなく,「格差」問題としての性格を多分に持っているのだと思います。

 ところで,今回出した大学収容力は県単位のものですが,どの県も大きな内部地域差を内包しています。県を一括りにした収容力が高いといっても,それは県庁所在地に限った話であり,郡部の生徒にすればゼロも同然。これが現実です。

 この点を考慮するには,分母に各県の面積を据えた,大学供給量密度のような指標を出すのも一つの手です。この場合,北海道や鹿児島とかは,値が格段に小さくなるでしょう。各県の面積は『日本統計年鑑』とかに載っています。上記一覧表のbを,これで除せばいいわけです。興味を持たれた方は,計算してみてください。私もやってみますが。