2015年2月25日水曜日

パソコンを持たない若者

 私は大学で調査統計の授業(3年生対象)を持っていますが,エクセルで簡単な棒グラフを作れない学生さんが結構いることに驚いています。

 話を聞くと,「エクセルなんて,1年時のコンピュータ活用の授業以来,全然開いていない。きれいさっぱり忘れた」とのこと。それどころか,パソコンに触れることもあまりないのだそうです。じゃあ,彼らの生命線ともいえるネットはどうしているのかというと,言わずもがなスマホなどの小型機器です。仲間との通信,買い物,情報収集などはこれで十分。

 私などはその逆で,ケータイもスマホも持ちませんが,卓上のパソコンは必需品です。ネットはスマホでもできますが,私は目が悪いので,小さい画面はきつい。それに生業であるデータ分析や原稿執筆は,パソコンでないとどうにもなりません。

 私は,若者のデジタル事情について興味を持ち,データで実態を明らかにしてみました。国際比較によって,わが国の状況を相対化してみました。今回は,その結果をみていただこうと思います。

 内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年度)では,対象の13~29歳の若者に対し,所有しているデジタル端末について尋ねています。デスクトップパソコン,スマホなどの機器を提示し,持っているものを選んでもらう形式です。「あなたが持っているデジタル端末を次の中から選んでください」というワーディングですので,自分専用のものであると解されます。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 下の表は,それぞれの機器の選択率(所有率)をまとめたものです。各国の年齢層ごとの所有率です。黄色は最も高い国,青色は最も低い国を意味します。なお,以下のデータは,内閣府にローデータを申請し,私が独自に作成したものであることを申し添えます。


 ケータイ・スマホは,さすがにどの社会でも所有率が高くなっています。日本のように,年中スマホをいじくる若者が他国にどれほどいるのかは知りませんが,客観的な所有率は国を問わず9割を超えています。

 タブレット,ノート,デスクトップパソコンは国際差が結構あり,日本の若者の所有率は低くなっています。タブレットとデスクトップは最下位,ノートは下から2位です。その一方で,携帯ゲーム機はどの社会の若者よりも持っています。

 なるほど,「エクセルなんてここ2年ほど開いたことがない。パソコンなんて触れない」という,学生さんの言葉も分かるような気がしてきました。まあ,パソコンはデスクトップかノートのどちらかがあればいいのですが,両方とも持っていない者はどれほどいるのでしょう。

 上記調査のローデータを加工して,ノートとデスクトップの双方を選んでいない,つまりどちらも持っていない者を取り出し,全体に占める比率を出してみました。下の図は,7か国の出現率の年齢曲線です。


 昨日,ツイッターでも発信した図ですが,ちょっと衝撃的です。日本の13~15歳(≒中学生)では,7割がデスクトップもノートも持っていません。他国の1~2割とは大違いです。義務教育段階での情報教育の熱意度が,社会によって違うことの表れでしょうか。

 まあ,自分専用のパソコンを持たずとも,自宅にある家族共用のを使っている者もいるでしょう。最後に,この部分をも排した,パソコンを使わない者の比率を計算してみましょう。

 用いるのは,OECDの「PISA 2012」のデータです。この国際調査でも,各種のデジタル機器の所有状況を尋ねています。こちらは「自宅にあるか?」という尋ね方です。選択肢は,①「自宅にあり,私はそれを使う」,②「自宅にあるが,私は使わない」,③「自宅にない」の3つです。デスクトップとノートの双方について,②もしくは③と答えた生徒の割合を出してみました。
http://pisa2012.acer.edu.au/downloads.php

 日本の15歳生徒の場合,これに該当するのは1198人であり,対象生徒全体の18.9%に相当します。自宅にて,まったくパソコンに触れない生徒の比率の近似値とみてよいでしょう。この比率を国際ランキング図をつくると,下図のようになります。


 日本は43か国の中で4位です。米英仏が調査対象から漏れていますが,先進国の中でトップであるとみてよいでしょう。

 わが国は,若者のパソコン離れが国際的にみても進んでいることを知りました。2012年10月21日の記事では,日本の15歳生徒のコンピュータスキル(自己評定)が世界で最も低いことをみたのですが,「謙虚な回答をした生徒が多いから」という理由だけではないのかもしれません。

 若者のパソコン離れ,情報スキルの低下は議論になっているようです。これは「世代の差」で片づけてよい問題ではないと思います。高度情報社会を生き抜く上で,情報を収集する,データを分析する,文章を書く,それを発信するというのは必須のスキルであり,学習指導要領の上でも,こうした情報活用能力を身につけさせることと定められています。高校では,情報科という必修教科もあります。
http://matome.naver.jp/odai/2141302174505795301

 これらのスキルを体得するにあたってパソコンはなくてはならないものですが,わが国の青少年の非所有率(非使用率)がここまで高いのは,情報教育への熱心度という点で他国と差をつけられている状況の可視的な表れともいえます。

 今回のデータをもって,補助金でも交付して,若者の全てにパソコンを持たせるべきだと主張するのではありません。そんなことをしても,使わない者は使わず,宝の持ち腐れになるのが関の山。問題にすべきは,高度な情報処理技術の必要を感じない状況に若者が置かれていることでしょう。高度情報社会という社会状況が厳としてあることは,誰もが認めるはず。日本の若者はそれと隔絶されている,言い換えるなら「生きた」社会参画の機会を与えられていない・・・。こうした状況の表現として,今回のデータは読むべきであると思います。