2019年12月12日木曜日

パソコン使用率の国際比較

 ウィンドウズ7のサポート期間がもうすぐ終わります。私は,ノートPCは7なんですが,買い替える必要があるようです。私はいつもデスクトップを使っており,ノートは滅多に使わないので,富士通のワケあり品でもいいかなと思っています。

 私の場合,PCは必須で,これがないと仕事もできませんが,PCの所持率(使用率)は若い層ほど下がり,青少年では惨憺たる数字になっています。先日,OECDが結果を公表した「PISA 2018」では,15歳の生徒にPCの使用状況を問い,①「自宅にあり,自分も使う」,②「自宅にあるが使わない」,③「自宅にない」から選ばせています。

 日本の①の回答比率を拾うと,デスクトップPCが37%,ノートPCが35%です。デスクトップのほうが高いのは意外ですが,家族で共用しているのでしょう。アメリカの数値は順に57%,73%となっています。ICT先進国のデンマークは40%,94%で,ほぼ全ての生徒がノートPCを使うと答えています。大半が自分専用でしょうね。

 日本の15歳のPC使用率(自宅)は,デスクが37%,ノートが35%と出ましたが,対象国全体ではどの辺なんでしょう。学校での使用率も訊いていますので,こちらも見てみます。下表は,50か国の使用率一覧です。下記サイトのリモート集計で出しましたので,粗い整数値になっていることをご容赦ください。
https://pisadataexplorer.oecd.org/ide/idepisa/


 ぱっと見,日本の生徒のPC使用率は,国際的にみて低いことが知られます。ノートの使用率は自宅・学校とも最下位で,発展途上国にも劣ります。

 学校での使用率も高くないですね。教育のICT化の後進国と度々言われますが,最新の国際調査のデータからも,それが露骨に分かっちゃいます。教育のICT化とは,授業でICT機器を使い,教授活動を効率ならしめることだけからなるのではありません。庶務連絡や提出物のやり取り等をネット経由でするなど,校務のICT化をも包摂します。これが進むなら,教員の過重労働もだいぶ緩和されるはずなんですが…。

 デンマークなど,教育のICT化が進んだ国では,生徒や親にとってはPCは必須でしょう。これがないと宿題も出せませんし,庶務連絡もチェックできません。デンマークの生徒のほぼ全員が,自宅で(専用の)ノートPCを使うというのは,分かる気がします。

 上記の国別データは資料としてみていただければと思いますが,グラフで視覚化もしておきましょう。日本の自宅でのPC使用率がどういう位置になるかを,見える化しましょうか。横軸にデスク,縦軸にノートの使用率をとった座標上に,50か国を配置します。


 ツイッターでも発信しましたが,強烈ですね。日本は,途上国以下の水準にあります。今朝の日経新聞で,日本の労働者の給与が安くなっていることに触れ,世界でデジタル革命が進むなか,日本は取り残されていく恐れがある,という趣旨の記事が出てましたが,既に取り残されている感があります。

 スマホの使用率に限れば,日本の生徒も高いでしょう。というか,多くの生徒が「スマホで十分,PCなんて必要ない」と考えているかもしれません。SNSで仲間と交信し,イベント情報やニュース等をチェックするならスマホで十分,どうして机に向かって座ってPCなんて開く必要があるのか,と。

 うーん,情報を受動的に消費するだけならスマホで十分なのですが,情報を加工したり,創作物を生み出したりするとなると,PCが要ると思うのですよね。ある方がツイッターで,日本では「RT文化」が蔓延っているのではないか,と言われています。少数の人の意見(創作物)を,多数の人が無批判にシェア(追随)する,という文化です。若者の多くは,後者なのかもしれません。ボケーとタイムラインを眺めて,RTボタンをタップするだけ…。こんなことを続けていたら,頭はトウフになってしまいます。

 情報の消費者(追随者)ではなく,情報の生産者になるべし。言わずもがな,これからの社会で勝ち組となるのは後者です。現状を見る限り,日本の若年層でこれをやっているのはわずかしかいません。ちょっと頑張るだけで,他を抜きんでることができます。今がチャンス,若者よ,奮起されよ。この点については,前に日経DUAL記事でも書きました。

 まあ日本でも生活様式のICT化が進んでいるのは確かで,以前に比したら子どものPC使用率も上がっているのではないか,と思われるかもしれません。しかしデータをみると,そうじゃないのですよね。日本の15歳生徒のPC使用率を,2009年と2018年で比べると以下のようになります。


 デスク,ノートとも,「自宅にあり,自分も使う」の回答比率が下がっているではないですか。一方,「自宅にあるが,自分は使わない」の比重が増しています。

 これはどういうことか。職場の必要に迫られて親はPCを買って使っているが,子どもは使っていない,ということか。学校は旧態依然の「紙文化」のままだし,子どもはPC使う必要に迫られませんしね。上記のデータは,社会のICT化の趨勢から,学校だけが取り残されていることを示唆しているのかもしれません。デューイの「学校は陸の孤島である」という言い回しが思い出されます。

 この9年間で世の中のICT化が大きく進んだはずなのに,日本の15歳のPC使用率は低下傾向。何とも奇妙ですが,こういう国って他にあるのでしょうか。他国の時系列データも出してみました。紹介するのは,33か国の自宅でのノートPC使用率の変化です。2009~18年の伸び幅が大きい順に各国を並べています。


 2009年時点で使用率が低かった国では,大きく伸びています。中国のマカオでは,19%から71%に激増です。この大国の勢いを感じます。韓国も23%から63%にアップ。北欧の諸国は2009年時点でだいぶ高い水準でしたので,伸び幅は小さくなっています。上述しましたが,デンマークの2018年の使用率は94%です。

 33か国中32か国で使用率が伸びているのですが,下がっている国が一つだけあります。日本です。48%から35%へと13ポイントダウン。2009年時点では中国や韓国,発展途上国よりも高かったのですが,2018年では追い抜かれてどん尻になっています。

 国際的な潮流に逆行しているのは,日本だけ。これは怖いことだと思います。世界規模デジタル革命が起き,イノベーションを競うようになる中,日本だけが取り残されるようになります。手のひらサイズのスマホをいじくるだけで,満足させている場合ではありますまい。子どもをして,ICTを積極的な用途で使うことに仕向けるべきです。

 そのための一歩は,PCに触れさせること。PCを必須ならしめる環境を用意することでしょう。まずは学校の校務を徹底的にIT化し,PCがなければ庶務連絡も分からず,提出物のやり取りもできない。こういう環境を意図的に作り出すことです。

 子ども1人にPC1台という方針が示されていますが,そんなふうにバラまきをしたところで,用途がなければ,子どもはそれに自ら触れることはしません。財源は学校のICT化に費やすべきで,PCは各家庭で用意いただく。困窮家庭の場合は,就学援助の範疇で支給(貸与)する。

 荒療治かもしれませんが,それが必要なほど日本が危機的な傾向にあることは,今回のデータからお分かりになるかと存じます。