日常生活にも,それが目に見える形で表れてきました。私は毎日の夕刻,1.5時間ほどウォーキングをし,道中のドラッグストアに立ち寄るのですが,先日目にした光景は凄かった。レジに並んでいた16人の客は,75歳は超えているであろう白髪の老人ばかり。レジ係は高校生バイト2名。逆ピラミッドの社会の現実を見事に表していて,写真に撮りたくて仕方ありませんでした。
私は今アラフォーですが,やがては(数少ない)下の世代の支えられる側になります。私は未婚者で,子どもはいません。人様が苦労して育て上げた子どもたちの世話になるのは,申し訳ない気もします。
そんな思いでいたところ,昨日,荒川和久氏の面白いグラフを目にしました。死亡者の年齢分布を配偶関係別にみたものです。
https://twitter.com/wildriverpeace/status/1230453410471612416
今は平均寿命が男女とも80歳を超え,もうすぐ人生100年の時代が到来すると言われています。しかし未婚男性の年齢層別の死亡者数をみると,ピークは60代後半にあります。私は興味を惹かれ,元資料の『人口動態統計』(2018年)にあたって,未婚男性の年齢層別の死亡者数を拾いました。日本人のデータで,離別者や死別者は含みません。
2018年の未婚男性の死亡者は7万3435人で,年齢層別にみると65~69歳が最も多くなっています。荒川氏のグラフの通りです。右端の累積%から,中央値(median)もこの階級に含まれることが分かります。按分比例で割り出しましょう。
按分比 =(50.0-45.2)/(63.2-45.2)= 0.2674
中央値 = 65歳 +(5歳 × 0.2674)= 66.3歳
未婚男性の死亡者の年齢中央値は66.3歳と出ました。国民全体の寿命よりもだいぶ短いですね。私も,これくらいで逝くのでしょうか。
荒川氏は「未婚男性は社会の世話にならず,ある意味,社会貢献している」と言われていますが,ちょっと気が楽になってきました。同時に,年金を払いたくないなあ,という気持ちも強まってきました。どうせ,恩恵を得ることはないのですから。
有配偶男性は長生きをします。同じ2018年の年齢層別死亡者数から中央値を出すと81.3歳で,未婚男性より15年も長くなっています。スゴイ違いですが,言わずもがな,ノーマルからかけ離れているのは未婚男性のほうです。なぜ短命か。食生活をはじめ,生活習慣がどうしても乱れがちなのが大きいでしょう。私自身,当事者なのでよく分かります。むろん,きちんとしている人もいるでしょうけど。
これは男性のデータですが,女性の数値を計算すると,様相が異なっています。男女の死亡者の年齢中央値を,未婚者と有配偶者で分けて出すと以下のごとし。2018年の『人口動態統計』から算出しました。
男性:
未婚者66.3歳 < 有配偶者81.3歳
女性:
未婚者81.9歳 > 有配偶者78.3歳
男性は未婚者より有配偶者がずっと長生きですが,女性は未婚者のほうが長生きするようです。傾向が男女で逆になっています。
デュルケムの名著『自殺論』では,家族の意味合いが男女で反対であると言い,女性にとって離婚は自殺の抑止因になると主張しています。「離婚を禁じることは,女性を逃げ場のない牢獄に閉じ込めるようなものだ」と。
結婚生活は,女性にとって抑圧的である。19世紀のヨーロッパの自殺統計に基づく知見なんですが,21世紀の東洋の日本にも当てはまりそうですよね。具体的には,どういうことが言えるか。昨日,上記のデータをツイッターで発信したところ,既婚女性の寿命が相対的に短い要因として,脳神経内科の先生が以下の4点を挙げてくださいました。
https://twitter.com/neurology_reha/status/1230464816629739520
・出産
・ストレス
・健診の機会が少なくなる
・受動喫煙
出産は身体への負荷になるでしょう。私の母は70歳で逝きましたが,晩年は重度のリウマチで寝たきりでした。高齢で私を出産後,ほとんど休まずに就労し,家事も一手に担ったことが仇になったようです(父親がだらしない人間でしたので)。
私はこれまで,夫婦の家事分担率のデータを何度も出してきましたが,日本の既婚女性のストレスが尋常でないことは,容易に察せられます。離職を強いられたり,夫の転勤のたびにキャリアや人間関係をリセットされるのも苦痛でしょう。
健診の機会は,結婚・出産で正社員を辞した主婦やパート勤務の場合,勤め先で受けることはできませんので,確かに少なくなるでしょう。自治体の健診に自発的に行こうにも,幼子を抱えている場合,時間が取れないというのもあります。家庭での受動喫煙の害については,言うまでもありません。
未婚者と既婚者の差は,女性より男性で大きくなっています。男性は結婚生活から恩恵を受けている,言い換えれば妻の献身への依存度が高いことが知られます。社会学の巨匠・デュルケムもびっくり,21世紀日本における,結婚生活のインパクトのジェンダー差です。
ヤフーニュースに「出生率0.98 韓国女性に広がる新たな価値観」という記事が出ています。結婚のデメリットが大きすぎ,結婚を忌避する傾向です。それは日本も同じで,未婚化が進むのは自然の理ともいえるでしょう。もう我慢ならんと。
結婚のメリデメのジェンダー差を変えられるか。男性の意識改革で何とかなる部分もありますが,窮屈な法律婚は御免という見方も広がっています。結婚はオワコン。であるなら,少子化に歯止めをかけるには,未婚,事実婚,同性婚,どういうライフスタイルを選ぼうが,子を産み育てられる社会を作るほかありません。