2021年3月22日月曜日

コロナのダメージの分布

  春らしく暖かくなってきました。しかし私は花粉が辛く,医者にもらった薬を毎日飲んでいます。夕食後に飲む薬には,やや強めの睡眠剤も入っているので,よく眠れていいです。

 コロナ禍が変わらず猛威を振るっていますが,それが社会に及ぼした影響を可視化できるデータが公表されてきています。最もいいのは,自殺者の数です。自殺統計には,警察庁と厚労省のものがありますが,細かい属性別の数を知れるのは後者です。先日,2020年の厚労省統計が公表されました。「地域における自殺の基礎資料」というものです。

 自殺日に基づく年間自殺者ですが,2019年では1万9974人でしたが,2020年では2万907人に増えています。年間自殺者が前年に比して増えたのは,リーマンショック以来だそうです。性別にばらすと,増えているのは女性です(男性は微減)。女性の自殺者は,6052人から6993人に増えています。

 自殺者の数は男性が多いですが,前年と比した増加率は女性で高し。この事実から,コロナによるダメージは,女性で大きいのは明らかです。非正規の雇止め,巣ごもり生活に伴う役割増加など,様々なことが言われています。先日の朝日新聞記事によると,女性研究者の論文生産数が,コロナが渦巻いて以降減っているそうです。家庭での役割が増加したためとのこと。

 コロナは,日本社会の矛盾を「これでもか」というくらい,露わにしてくれます。ジェンダー不平等は,その最たるものですよね。昨年の自殺増加が,もっぱら女性であることに,それははっきりと表れています。

 年齢を絡めると,以下のようになります。上記の資料から2019年と2020年の数字を採取し,整理しました。


 ここで注意したいのは,自殺者の絶対数よりも,前年と比した増加率です。右端の数値がそれですが,80歳以上を除く全年齢層で,男性より女性で高くなっています。とくに高いのは,未成年と20代の女性です。未成年女子は,215人から311人へと増えています。1.5倍の増です。

 右端の倍率を,折れ線グラフで視覚化すると以下のようです。ツイッターで発信したところウケていますので,ここに再掲いたします。


 2020年の自殺者数は,前年の何倍か? まさにコロナによるダメージの指標(measure)といえるものですが,若い女性で高くなっています。コロナが社会のどの部分に影響を与えたかが,はっきりと見て取れます。中高年男性では自殺は減っていることから,コロナのダメージは,社会の弱い層に凝縮しているようで何とも痛々しい…。

 若い女子の自殺増加。コロナの影響ゆえであるのは明白ですが,具体的事情について,友人と会えない孤独だとか,将来の見通しが暗くなったとか,果ては巣ごもり生活による性被害の増加とか,様々なことが言われています。

 なるほど,どれももっとものように思えますが,憶測では心もとないので,データで正確さをちょっとばかり期してみましょう。参照するのは,自殺の動機統計です。これは,警察庁の自殺統計に出ています。それぞれの動機カテゴリーに当てはまる自殺者数を計上しています(遺書等から動機が判明した者に限る)。複数の動機に当てはまる自殺者もいますので,数値は延べ数です。

 ダメージを受けている20歳未満を取り出し,男子と女子に分け,2019年と2020年の動機別自殺者数を対比すると,以下の表のようになります。


 2020年になって自殺の増加が著しい女子に注目すると,家庭問題,健康問題,学校問題に関わる自殺の増加率が高くなっています。より細かい小分類でいうと,家庭問題は「親子関係の不和」,健康問題は「うつ病等の精神疾患」です。巣ごもり生活で,親子がいがみ合うことが多くなっているためでしょう。

 さて,際立って増加率が高い学校問題ですが,細目をみると,「進路の悩み(入試以外)」という動機の自殺が11人から31人に増えています。数としては少ないですが,この手の悩みが女子高校生の間で広がっているとみられます。やはり,将来展望閉塞が大きいようです。

 中高年層では,自殺率は失業率と非常に強く相関しますが,若年層では将来展望不良と強く相関する。これは前に,データで示したことがあります。前途ある若者は,見通しの暗さを苦にするものです。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/09/post-94451.php

 男子では,「進路の悩みに」による自殺は2019年から20年にかけて減ってます。しかし女子ではかなり増えている。コロナによる将来展望閉塞には,性差があることに注意しないといけません。考えてみれば,「コロナで家計が悪化したんで,大学進学を諦めろ」と言われるのは,男子より女子で多いでしょう。

 しかし今では,大学等の学費無償,給付奨学金支給など,支援は充実してきています。夜間の課程は,学費も安いです。進路とは,ある意味「情報戦」です。一人で思いつめる(途方に暮れる)ことがないよう,相談を促し,こういう手立てもあると情報提供をすることが求められます。

 コロナ自殺は,若い女子に集中している。このファクトを詰めてみると,将来展望閉塞という事情が大きいことがうかがわれます。それは,当人を孤立させることなく,大人がきちんと目配りすれば防げる性質のものでもあります。教師は,いろいろな進路の選択肢(生き方)に関する知識を得ておくことです。