2021年4月13日火曜日

家族の世話で勉強できない生徒

  昨日から,メディアが足並みを揃えて報じているニュースがあります。そう,ヤングケアラーの初の公的調査の結果が発表されたのです。

 ヤングケアラーとは,幼き介護(看護)者のことで,家族の世話をしている子どもをいいます。病気の親・祖父母の介護をしている子,幼い弟妹の世話をしている子などがイメージされます。

 子どもの頃,よく読んだ「キャプテン翼」の日向小次郎は母子世帯で,小さい弟妹の世話をしつつ,新聞配達や屋台のバイトで家計を助けていました。小学校高学年にしてです。カッコいいなあと,子ども心に思った人は,私の世代には多いはずです。この人物の強さの源泉は,こうした環境で培われたハングリー精神でした。

 しかしこの少年の場合,明らかに勉学に支障が出ているレベルです。家族のケアは子どもの人間形成にプラスの効果をもたらしますが,それも程度問題で,学業に支障が及ぶというのはNGです。

 このほど公開されたヤングケアラー調査では,そうした問題状況にある子どもの量的規模を明らかにしています。国が三菱UFJの研究所に委託し,昨年末から今年初頭にかけて中高生を対象に実施された調査です。結果報告のレポートは,厚労省審議会のサイトでみれます。中学校2年生(5558人)を対象とした調査では,以下の数字が出たと報告されています。

 世話している家族がいる … 5.7%

 うち,宿題や勉強をする時間がない … 16.0%

 いずれもメディアで大々的に報じられたデータです。この2つを使って,調査対象となった中学校2年生の組成図を描くと以下のようになります。


 横軸は,世話している家族がいるか否かです。いる生徒は上述のように5.7%で,右側の群が該当します。このグループのうち,宿題や勉強の時間もないという生徒は16.0%で,縦軸の比重でこれを表します。

 世話をする家族がいるヤングケアラーで,かつ勉強の時間もとれないという生徒は,図の赤色のゾーンということになります。全数ベースの比率は,5.7%と16.0%をかけ合わせて0.91%ということになります。110人に1人です。

 2020年5月時点の中学生の数は321万人ほどです(文科省『学校基本調査』)。上記の比率をこの全数にかけると,結構な数になりそうですね。はて,家族の世話のために勉強もできないという生徒は,見積もり数でどれくらいいるか。以下に,掛け算の結果を示します。全日制高校2年生(7407人)の回答をもとにした,高校生の結果も添えます。


 中学生321万人のうち,世話している家族がいるヤングケアラーは5.7%,このうち勉強の時間もないという生徒は16.0%,現実の母数にこの比率を適用すると,家族ケアで勉強もできないという中学生は2.93万人と見積もられます。高校生は1.61万人で,合わせて4.5万人ほどにもなります。

 家族の世話で勉強に支障が出ている中高生は4.5万人。こんなにいるのですね。法が定める健やかに育つ権利,教育をうける権利を侵害された子どもたちです。人為的な支援が必要であるのは明らかで,今後,国の審議会で具体策を提言するのだそうです。埼玉県では既に,ケアラーの支援条例を独自に定めています。

 ただ,支援というのは,当事者から「SOS」がないと発動しにくいもの。しかし上記の調査結果をみると,自分をヤングケアラーと自覚している者は少なく,他人に相談するほどのことではないと思い込んでいる生徒が多いのです。これでは支援の網を張っても,そこから落ちてしまいます。「あなた方は困難な状況にある」ってことを,意図的に分からせる必要もありそうです。

 近年の子どもの自殺防止策の目玉が,「SOSの出し方教育」であることも,思い出しておきましょう。