2012年9月11日火曜日

都道府県別の就学援助受給率

 9月7日の記事で申しましたが,『都道府県別・市町村別の教育・社会・経済指標データセット』という電子資料を,文科省より提供いただきました。県別,市町村別に,さまざまな教育指標のほか,教育と関連する各種の社会経済指標も計算することができるスグレモノです。

 最近10年ほどの時系列推移も出ているので,関心のある指標の推移を,地域別にたどることも可能です。

 さあ,このお宝をどう活用したものでしょう。手始めに,47都道府県の就学援助受給率が最近どう変化してたかを明らかにしてみました。

 就学援助とは,義務教育学校の就学年齢(学齢)の子がいる保護者のうち,生活保護法が定める要保護者,ならびにそれに準じる程度に生活が困窮していると認められる準要保護者に対し,学用品費などが援助される制度です。

 就学援助受給率とは,就学援助の対象者の子弟(要保護児童生徒,準要保護児童生徒)が,公立の小・中学校の児童生徒のうちどれほどを占めるか,という指標です。県別のトレンドをみる前に,まずは全国の傾向を追ってみましょう(下表)。指標の計算過程についてイメージを持っていただくため,分子,分母のローデータも漏れなく提示いたします。


 分子の就学援助受給者数は,最近10年間において,106万人から155万人へと増えました。公立小・中学生あたりの比率(受給率)にすると,9.7%から15.3%に上昇しています。今日では,小・中学生の約7人に1人が就学援助を受けていることになります。

 上表は全国の傾向ですが,変化の様相は,都道府県によって異なります。私は,上記のデータセットの統計をもとに,最近10年間の就学援助受給率の変化を,都道府県ごとにたどってみました。グラフにすると,47本の曲線が描かれることになりますが,それは煩雑ですので,ベタな一覧表の形で結果を提示します。資料としてご覧いただければと存じます。


 細かいコメントはしませんが,全県中の最大値は大阪,最小値は静岡,というように固定されています。各県の値の高低は,義務教育学校に通うこともままならない貧困児童生徒の量を示していますが,就学援助の認定基準が自治体によってかなり異なる可能性があることもお含みおきください。この点については,9月6日の記事をご覧いただければと思います。

 ちなみに,この10年間の増加倍率が最も大きいのは,福島で2.29倍です(4.6%→10.6%)

 上記の表を作成するのはかなり大変そうにみえるかもしれませんが,何のことはありません。文科省の上記データセットにおいては,各種のローデータがエクセルファイルに入っています。よって,県別の就学援助受給率に必要な分子(要保護,準要保護児童生徒数)と分母(公立小・中学生数)をコピペし,割り算をするだけで,直ちに目的を達成できました。所要時間10分。これは便利!

 これで終わりというのは芸がないので,2010年の県別数値を地図化しておきましょう。10%未満,10%以上15%未満,15%以上20%未満,20%以上,という4つの階級を設けて,各県を塗り分けてみました。黒色は,20%(5人に1人)を超える県です。北海道,東京,大阪,広島,山口,高知,および福岡が該当します。


 これからも随時,上記データセットから地域別の諸指標の変化を計算し,資料としてご覧に入れようと存じます。ただし,私は気まぐれですので,約束が履行されるかどうかは分かりません。データセットをご希望の方は,文科省生涯学習政策局調査企画課に申請なさってください。簡単な手続きにて,無償でブツを送ってくれます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/1322611.htm

2012年9月9日日曜日

大学卒業者の無業者率,死亡・進路不明率

 8月30日の記事では,大学院博士課程修了者の無業率,死亡・進路不明率を明らかにしました。この記事に興味をもってくださる方が多いようですが,博士課程修了者は,数的にはごくわずかです。文科省の『学校基本調査(高等教育機関編)』によると,2011年春の修了生は16,248人。同世代の100人に1人というところでしょう。

 それに比べて,同年春の大学卒業者は552,358人と,それよりもはるかに多くなっています。34倍です。それもそのはず。今日,大学進学率は50%を超えています。博士課程修了者は100人に1人ほどでしょうが,大学卒業者は2人に1人です。

 今日では,多くの若者にとって,学校から職業への移行(Transition from School to Work)を期待されるのは,大学卒業時点(22歳の時点)であるとみてよいでしょう。世人,とりわけ子を持つ親御さんが関心をお持ちなのは,大学卒業者の進路(行く末)がどうなのか,ということではないでしょうか。

 今回は,大学卒業者について,上記の記事と同じ分析をしてみようと思います。大学卒業者の場合,博士課程修了者ほどの惨状は観察されないでしょうが,どれほどの無業者率,死亡・進路不明率が出てくるでしょうか。また,細かい学科別にみるとどうでしょうか。この点に関するデータをご覧に入れようと存じます。

 まずは,2011年春の大学卒業者55万2千人の進路構成を概観することから始めましょう。2011年調査では,7つの進路カテゴリーが設けられています。その構成を円グラフにしました。


 就職が61.6%と多くを占めます。この中には非正規就職も含まれますが,今日の大卒者の就職率は6割ですか。進学は12.8%です。ほとんどが大学院への進学者でしょう。

 次に,おめでたくない部分に目をやると,⑤と⑥と合わせた無業者が19.4%います。約2割。なるほど。新聞等で,大卒者の5人に1人が無業といわれますが,それに合致する数字です。死亡・進路不明者は2.4%,実数にすると,13,541人。このうち,死亡者というのはほぼ皆無でしょうが,就職失敗を苦にした大学生の自殺が取りざたされているご時世です。もしかしたら,侮れない数かもしれません。仮に1%だとしたら135人,0.1%だとしたら13人となります。

 5人に1人が無業,42人に1人が死亡・進路不明。これが大卒者全体の傾向です。では,博士課程修了者の場合と同様,細かい学科別の数字を出してみましょう。私は,大卒者の無業者率と死亡・進路不明率を,63の専攻ごとに明らかにしました。下記サイトの表77より必要な数字を採取し,率を計算しました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037175&cycode=0

 下図は,横軸に無業者率,縦軸に死亡・進路不明率をとった座標上に,63の学科をプロットしたものです。縦長の図になっていますが,これは,学科名を書き込むスペースをとるためのもので,他意はございません。ブログの幅の関係上,ヨコには伸ばせないので,タテに伸ばした次第です。


 点線は,大学卒業者全体でみた比率を示唆します。右上には,音楽,美術,デザインといった芸術系の学科が位置しています。音楽学科卒業者の場合,無業率は37.7%,死亡・進路不明率は6.9%です。5人に2人が無業,14人に1人が死亡・進路不明です。ゲージュツの道は厳しい。

 中央付近よりも右上には,人文科学系や社会科学系の学科が群がっています。赤色は人文系のメイン3学科,緑色は社会系のメイン3学科です。数が多い文学関係学科卒業生の場合,無業率は26.0%,死亡・進路不明率は3.5%。約分すると,4人に1人が無業,29人に1人が死亡・進路不明ということになります。

 法学・政治学関係学科卒業生は,博士課程修了生と同様,死亡・進路不明率が高いのですが(4.5%),これは,司法試験浪人の存在ゆえでしょうか。しかし,この手の輩は,上記円グラフの⑥のカテゴリーに含まれるような気もしますが,どうなのでしょう。

 それはさておいて,図の左下には,理系の学科が多く位置しています。無業率,死亡・進路不明率とも低い「安泰」ゾーンです。まあ,理系の場合,大学院に進学する者が多いこともあるでしょうが。

 いかがでしょう。8月30日の図は,同世代の100人に1人にしか関係のないものですが,今回の図は,同世代の2人に1人が関係するものです。とくとご覧ください。

 ちなみに,学科は度外視して,47の都道府県を上記マトリクス上に散りばめると,どういう図柄になるでしょう。大卒者の無業率が県によってかなり異なるのは,昨年の2月8日の記事でみた通りですが,死亡・進路不明率という軸も加味した2次元の上で,47都道府県の大卒者の状況を評価するのもまた一興です。後の課題といたします。

2012年9月7日金曜日

都道府県・市町村別の教育・社会・経済指標データセット

 統計資料の紹介です。やや長ったらしい名前ですが,『都道府県・市町村別の教育・社会・経済指標データセット』というものが,文科省より提供されています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/1322611.htm

 詳細は上記サイトをご覧いただければと思いますが,タイトルのごとく,県別・市町村別に,各種の教育・社会・経済指標が掲載されています。前回の記事では,就学援助受給率を都道府県別に出したのですが,元データは,本資料より得ました。

 下の写真は,分子として用いた,要保護児童生徒数の部分です。


 写真から分かると思いますが,最近10年間ほどの時系列データも載っています。これは便利!。その気になれば,各都道府県ごとに,最近の就学援助率の推移をたどることができます。

 ほかにも,有用なデータが満載です。教育や子どもの発達と関連すると思われる,各種の社会・経済指標の計算に必要な数値もついています。前回の記事では,市区町村別の課税所得額,一人親世帯率を計算しましたが,分子・分母のローデータは,この資料からコピペしました。

 データがエクセルに収められているので,入力の手間はかかりません。必要なデータをコピペして,割り算などをするだけで,目的の指標を計算することができます。

 欲しいですか?欲しいでしょう。そういう方は,文科省生涯学習政策局調査企画課に電話すれば,利用申請書を送ってくれます。それに必要事項を記入し,送付するだけでOK。3~4日ほどで現物(CD-R)が送られてきます。費用は,申請書送付代(80円切手)のみ。データセットそのものは無償。これはオトクです。


 申請者には,上の写真のようなブツが送られてきます。これで,マクロな地域データを使った,さまざまな分析が自前で行えるようになります。修業中の大学院生の方に申したいのですが,安易にアンケートなどをしようと考える前に,まずは,こういう既存データをしゃぶり尽くすことが大切です。本データセットは,研究のみならず,調査関係の授業の教材にも使えるでしょう。

 私が上記サイトをみて,本データセットの入手方法を電話で問い合わせたところ,担当者は「??」という反応でした。おそらく,利用申請が少ないのではないかと思われます。これはモッタイナイ。入手希望の方は,文科省生涯学習政策局調査企画課にお電話を。

2012年9月6日木曜日

首都圏の市区町村別の就学援助受給率

 学齢(6~14歳)の子を持つ保護者は,当該の子を義務教育学校に就学させるこを義務づけられています。これを就学義務といいます。

 しかし,この義務を履行するには,何かとお金がかかります。公立の小・中学校の場合,授業料はタダですが,各種の学用品,給食費,諸行事参加費(遠足,修学旅行・・・)など,結構物入りです。このご時世ですので,こうした費用負担ができないという親御さんもいることでしょう。*教育費の内訳については,5月31日の記事をご覧ください。

 そこで学校教育法第19条は,「経済的理由によつて,就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては,市町村は,必要な援助を与えなければならない」と定めています。これがいわゆる,就学援助です。

 就学援助の対象となるのは,生活保護法が定める要保護者,およびそれに準じる程度に生活が困窮していると認められる準要保護者です。その子ども(学齢)は,要保護児童生徒,準要保護児童生徒と呼ばれます。

 近年,就学援助を受けている要保護・準要保護児童生徒が増えてきています。2001年では106万人でしたが,2010年現在では155万人です(文科省『都道府県・市町村別の教育・社会・経済指標データセット』2012年)。この10年間で,就学援助受給者が約1.5倍に増えたことになります。

 2010年の公立小・中学校の全児童生徒数は1,014万人ほどですから,学齢の子どもの15.3%(7人に1人)が就学援助を受けている計算になります。以下では,この値を就学援助受給率ということにしましょう。

 さて,この15.3%というのは全国統計でみた就学援助受給率ですが,地域別にみると値はかなり変異します。2010年の都道府県別の受給率を出すと,最低の5.6%(静岡)から最高の28.1%(大阪)まで,大きな開きがあります。静岡では18人に1人ですが,大阪は4人に1人です。

 ここまでは,新聞等のメディアでもよく報じられるところですが,都道府県よりも下った市区町村別にみると,もっと広い分布がみられることと思います。この点を明らかにするのが,今回の課題です。

 各県内の市区町村別の要保護・準要保護児童生徒数が分かる資料がないものかと探したところ,文科省『平成21年度・要保護及び準要保護児童生徒数について(学用品費等)』というものを見つけました。何と何と,全県内の市区町村別の数字が漏れなく掲載されているではありませんか。また,分母として使う,公立小・中学校児童生徒数も併せて載っています。これはスゴイ!。

 私はこの資料をもとに,首都圏(埼玉,千葉,東京,神奈川)の213市区町村の就学援助受給率を計算しました。このように細かい地域ごとにみると,値はかなり多様です。結果をどうお見せしようか迷いますが,5%区分で塗り分けた地図(東京の島嶼部は除く)をご覧に入れましょう。


 百聞は一見に如かず。細かいコメントは控えますが,東京は全体的に色が濃くなっていますね。23区のほとんどは黒色(20%超)です。一方,千葉はといえば,15%を超える地域はありません。213市区町村中の最大値は,東京の某区の38.2%でした。およそ5人に2人が就学援助受給者です。

 このような地域差がなぜ生まれるのでしょう。常識的に考えられるのは,子どもを義務教育学校にやるのもままならない貧困層が多い地域ほど,就学援助受給率が高い,ということです。

 この点を確認してみましょう。各地域の住民の富裕度を測る代表的な指標は所得ですが,住民1人あたり所得のような指標を市区町村別に得ることはできません。そこで,次善の策として,税務統計を使ってみます。

 文科省の上記データセットから,課税対象となった所得の総額を市区町村別に知ることができます。私が住んでいる多摩市の場合,2,720億5,400万円です(2009年度)。同年の納税義務者数は7万943人。したがって,納税義務者1人あたりの課税対象所得額は383.5万円となります。この値が高い地域ほど,住民の富裕度が高いと考えてよいでしょう。

 私はこの指標を213市区町村について出し,各々の就学援助受給率との相関をとってみました。下図は相関図です。なお,1人あたりの課税対象所得額が際立って高い3区(東京都内)は,図には含めていないことを申し添えます。


 相関係数は+0.325であり,統計的に有意な正の相関です。むむ。これはどういうことでしょう。課税対象所得額が高い地域(富裕地域)ほど,就学援助受給率が高い傾向が検出されました。常識的に考えれば,両指標は負の相関を呈するはずなのですが・・・。

 住民の富裕度を計測する指標として,1人あたりの課税対象所得額はマズかったということでしょうか。しからば,母子・父子世帯が一般世帯総数に占める比率(一人親世帯率)を充ててみるとどうでしょう。出所は,2010年の『国勢調査』です。

 213市区町村のデータを使って,一人親世帯率と就学援助受給率の相関係数を出すと-0.133です。これは無相関と判断されます。一人親世帯が多い地域ほど就学援助受給率が高い,という傾向はみられません。

 むーん。首都圏の213市区町村のデータでみる限り,貧困と就学援助の関連は明確ではありません。となると,先の地図でみたような地域差は,各市区町村の就学援助認定基準の違い,というような要因によるものでしょうか。

 2009年10月26日の朝日新聞に,「就学援助,自治体で格差」と題する記事が載っていますが,そこでは,このような見方がとられています。就学援助制度の周知や啓発に熱心に取り組んでいる自治体もあれば,そうでない自治体もあるとのこと。
http://www.asahi.com/edu/tokuho/TKY200910260123.html

 記事で紹介されている調査結果によると,小規模な自治体ほど,この種の活動の徹底の度合いが低いそうです。「小規模な自治体では,援助を受けるべき児童や生徒の捕捉ができていない。底抜け状態」といわれています。

 なるほど。ここで使っている213市区町村のデータから,人口と就学援助受給率の相関係数を出すと+0.293であり,有意な正の相関です。上記の新聞記事に即していうと,就学援助制度の周知に熱心な大規模自治体ほど,就学援助受給率が高い,ということになります。

 また記事によると,財政が厳しい自治体では,援助の認定基準が引き上げられる,制度の周知活動がなおざりにされるなどの傾向があるそうな。こうみると,上記の相関図は別の視点から読めます。税収が多く,財政が相対的に豊かな地域ほど,就学援助の認定基準を緩和し,周知活動も徹底することから,就学援助受給率が高くなると。上記マップの黒色(受給率2割超)の地域には,東京の港区のような,1人あたり課税対象所得額が1千万を超える地域も含まれます。

 ここで明らかにしたことを総括すると,就学援助制度はうまく機能していないのではないでしょうか。貧困家庭の救済という,本来の機能が全うされているなら,貧困指標と就学援助受給率との間には明瞭な正の相関関係がみられるはずです。しかし現実はそうではなく,制度運用者のさじ加減がモノをいうような状況になっています。上記新聞記事中の言葉を借りると,「就学援助制度がうまく活用されていない」状況です。

 就学援助の実施主体は市町村ですが,市町村が負担した援助費用の半分は国が補助する定めとなっています。しかるに,2005年度以降,準要保護者に対する援助費用の国庫補助は廃止されました。就学援助の対象者は,要保護者と準要保護者ですが,数的には後者が多くを占めます,このような改革は,各市区町村にとって痛手になっているのではないでしょうか。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/05010502/017.htm

 貧困指標と就学援助率の無相関(逆相関)という奇妙な傾向が,最近に固有のものなのかどうか。この点を追究することが今後の課題です。過去の市区町村別の援助受給率を計算するための資料が見当たらないのですが,見つかり次第,手がけてみようと思っています。

2012年9月4日火曜日

専攻別にみた博士課程修了生の惨状(補正)

 8月30日の記事では,大学院博士課程修了生の無業者率,死亡・進路不明率を細かい専攻ごとに出したのですが,この記事をみてくださる方が多いようです。

 いただいたコメントやツイッター上でのつぶやきを拝見したところ,上記記事の分析には,いくつかの不備があることに気づきました。また,不適切な解釈もあります。今回は,その補正をしようと思います。

 文科省の『学校基本調査』では,博士課程修了生(単位取得退学者含む)の進路状況が調査されています。そこにて設けられている進路カテゴリーは,以下のようです。8月30日の記事でも紹介しましたが,重複を厭わず再掲いたします。

 ①:進学
 ②:正規就職
 ③:非正規就職
 ④:臨床研修医
 ⑤:専修学校・外国の学校等入学
 ⑥:一時的な仕事
 ⑦:左記以外の者
 ⑧:死亡・進路不明

 先の記事では,無業者率(⑥~⑧の者の比率)と進路・死亡不明率(⑧の者の比率)を計算したのですが,後者が前者の内数に含まれるのはおかしなことです。⑧は,3月修了生のうち,『学校基本調査』の調査時点(5月)までの間に死亡が確認された者,あるいは進路が不明という者のことです。よって無業者と確定した者ではありません。

 今回は,⑥と⑦の者の比率をもって,無業者率ということにします。死亡・進路不明率は,先の記事と同様,⑧の者の比率です。

 では,2011年3月の修了生(単位取得退学者含む)について,無業者率と進路・死亡不明率を,専攻ごとに再計算してみます。データ・ソースは,下記サイトの表86です。2012年3月修了生のデータも公表されていますが,こちらは速報値ですので,細かい専攻ごとの数値はまだ公表されていません。よって前年の統計を用います。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037176&cycode=0

 下図は,修了生数が100人超の30の専攻を,無業者率と死亡・進路不明率のマトリクス上に位置づけたものです。点線は,博士課程修了者全体でみた比率です。


 図の形状は,8月30日の記事のものと変わりありませんが,無業者率の水準が異なっています。無業者率が最も高いのは,人文科学系のその他(文学,史学,哲学以外の専攻)の47.9%です。縦軸の死亡・進路不明率の最高値は,法学・政治学の29.2%です。

 ただ,法学・政治学専攻の進路不明率の高さは,司法試験浪人が多いためではないか,という疑いが持たれます。しかし,司法浪人という者は上記進路カテゴリーの⑦に含まれるような気もします。いや,そういう人の多くは,進路届けそのものを出さないのでしょうか・・・。

 それはさておいて,横軸と縦軸の双方から評価すると,やはり,文学,史学,そして法学・政治学専攻の惨状が際立っています。とある方は,ツイッター上で「史学」を「死学」と表現されていましたが,うまいなあと思いました。

 さて,8月30日の記事と同じく,傾向を手短なフレーズでまとめましょう。博士課程修了者全体では,4人に1人が無業者,10人に1人が死亡・進路不明者です。しかし,2人に1人が無業者,3人に1人が死亡・進路不明者,という専攻もあります。
 
 あと一点,2012年3月修了生の統計では,細かい専攻ごとの数字が公表されていないのですが,これはまだ速報の段階であるからで,正式発表の統計では,おそらく専攻別のデータも出されると思います。先の記事では,当局が隠ぺいを図っているのではないかと邪推しましたが,それは取り消したいと思います。

 8月30日の記事に対し,コメントやツイッターにて,多くのご指摘をいただきました。感謝申します。

2012年9月3日月曜日

私にとってのブログ

 総務省情報通信政策研究所が,『ブログの実態に関する調査研究』という報告書を公刊しています。公刊年月は,2009年3月です。
http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/seika/houkoku.html

 この調査では,ブログを運営しているブロガーに対して,ブログを更新する動機やブログの利用スタイルについて尋ねています。私も一応,ブロガーですので,調査対象者になったつもりで,設問に回答してみました。

 まずは,ブログの更新動機です。14の項目を提示して,それぞれの重要度を5段階で自己評定することが求められています。私の回答は以下の通りです。


 私がブログを更新するのは,既存統計を自分なりのやり方で加工・分析し,知り得た知見を発信するためです。いってみれば,私設出版社です。アフィリエイトでお金を稼ぐとか,知り合いを増やすとかいうことは,あまり意図していません。

 次に,ブログの利用スタイルです。こちらは,10の項目が提示されています。それぞれの重要度を,思うがままに自己評定してみました。


 「誰に向けて書くか」,「何を書くか」という枠組みで項目が構成されているようです。私は,「世間一般」に向けて記事を書いています。自分向けの覚書のようなこともたまに書きますが,特定の他者を想定することは滅多にありません。

 書く内容のメインは,データに基づいた「事実」です。「ジニ係数の求め方」というような,知識やノウハウを開陳することもあります。心情や意見を前面に出すことはあまりないです。

 まとめると,私にとってのブログとは,「世間一般に向けた,研究成果発信のためのツール」というところでしょうか。多くのブログは,身辺雑記がメインの日記的なものが多いようですが,本ブログにはそのような意味合いをあまり持たせていません。むろん,無味乾燥な数字ばかりでは味気ないので,写真入りの日記を書くこともありますが・・・。

 なお,私はブログを実名で書いていますが,全体的傾向からみれば,それはとてもイレギュラーなケースのようです。上記調査の回答分布をみると,実名でブログを書いているブロガーはたったの2%です。「教師のホンネ」というような,ちょっとヤバい内容を書くのなら実名はためらわれますが,自分のことを知ってもらいたい,旗揚げをしたい,という意図があるのなら,実名のほうがよいと思っています。

 潮木守一先生は,インターネット時代の到来のことを,「ポスト・グーテンベルク革命」と形容されています。グーテンベルク革命によって印刷術が生まれ,情報が紙媒体で出回るようになりました。しかし,その後(post)の革命は,情報をインターネット上で発信することを可能にしました。ブログというのは,そのためのツールです。

 この恩恵は,一部の人間だけではなく,万人にもたらされています。ブログは,誰もが無料で簡単に開設することが可能です。特別な知識やスキルがなくとも,日々,記事の内容を手軽に更新することができます。オリジナルな創作物を生み出すことを業とするクリエイター(研究者含む)が,この恩恵を利用しない手はありますまい。

 上記の総務省調査によると,2008年1月現在において,ネット上で開設されている国内ブログの数は1,690万ほどだそうです。ごく単純に考えると,国民7人につき1人がブロガーということになります。今後,この数はますます増えていくことでしょう。

 何かハマっていることがあるという人,ぜひともブログを始めようではありませんか。「我ここにあり」と,世間に旗揚げするチャンスです。しかし,あまり凝り過ぎて,二次元の世界の住人にならないよう,ご注意ください。

2012年9月1日土曜日

不登校・高校中退とニートの関連

 2009年5月16日の毎日新聞によると,高校中退者や中学時の不登校経験者がニートになる確率は,同世代人口全体の「7倍」にのぼるとのことです。

 しかるに,計算の仕方がややラフな印象を受けたので,原資料にあたって数字を採取し,私なりに再計算してみました。上記の数字と違う結果が出ましたので,ご報告しようと思います。

 内閣府『高校生活及び中学生活に関するアンケート調査』(2009年3月)では,2004年度に高校を中退した者,および同年度の中学校3年生で不登校状態にあった者の現況を調査しています。上記の毎日新聞記事は,本調査の結果を参照して書かれています。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/school-life/html/index.html

 サンプル数は,高校中退者が168人,中3時の不登校者が109人。調査時点(2009年2~3月)において,「仕事にはついておらず,学校にも行っていない」というニート状態の者の比率は,以下のようです。

 ①:高校中退者 ・・・ 20.8%
 ②:中学校3年時の不登校者 ・・・ 16.5%

 この数字を一般群と比較しようと思います。毎日新聞の記事では,2007年の『就業構造基本調査』のデータが使われていますが,私は2010年の『国勢調査』を用いることとしました。こちらの場合,細かい年齢別(1歳刻み)のニート率が計算できます。それゆえ,世代を精緻に揃えた比較が可能です。

 2004年度の高校中退者(15~18歳)は,2010年には20代前半になっていると考えられます。2004年度の中3不登校者(14~15歳)は,2010年では20~21歳というところでしょう。それぞれの年齢層について,ニート率を計算しました。『国勢調査』でいうニートとは,非労働力人口のうち,家事も通学もしていない者のことです。非労働力人口の「その他」というカテゴリーの数字です。結果は,以下のごとし。

 ③:20代前半のニート率 ・・・ 1.2%
 ④:20~21歳のニート率 ・・・ 1.2%

 ①と③を比べることで,高校中退者がニートになる確率が同世代全体の何倍かが分かります。中学校3年時の不登校者の相対リスクは,②と④を比較することで知られます。割り算をすると,高校中退者がニートになる確率は同世代全体の17.3倍,中学校3年時の不登校経験者は13.8倍です。

 ほほう。毎日新聞の試算結果(7倍)よりも,はるかにスパイシーな数字が出てきました。私は,不登校や高校中退は,れっきとしたオルタナティヴな道であると考えています。それを認めないと,どんな酷いいじめに遭っても学校に行き続けなければならない,というような状態になります。これでは,子どもの自殺者が激増するでしょう。

 しかるに,そうしたオルタナティヴを選択した者の「その後」は,今回のデータでみる限り,芳しいものではないようです。おそらく,さまざまな偏見や不遇にさらされることが多いためと思います。文科省では,不登校生徒の大々的な追跡調査を企画しているようですが,不登校児の「その後」がリアルに解明されることを期待します。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/086/index.htm

 そこにて検出された病理を取り除いていくこと。こういう実践の積み重ねが,「学校化」された子どもの世界に,風穴を開けてくれることと思います。