2011年5月31日火曜日

教員の精神疾患①

 以前,5回にわたって,教員の離職率に関する記事を書きました。離職率は,教員の脱学校兆候や職場不適応の多寡を測る指標として設定したものです。今回は,教員という仕事のキツさ,大変さの程度を測ってみようと思います。教職受難といわれる現在,この側面にも目を向けることが必要かと思います。

 文科省の統計から,精神疾患で休職した教員の率を知ることができます。5月7日の記事で,この指標の悪口を並べ立てたのですが,文科省のサイトや『教育委員会月報』を丹念にみてみると,精神疾患による休職者数についても,細かい属性別に明らかにされていることを知りました。また,1980年代半ば辺りまでさかのぼって,休職者の率を出せることも分かりました。今回と次回にかけて,精神疾患による教員の休職率を分析してみようと思います。

 文科省のサイトの統計によると,2009年度間において,精神疾患で休職した公立学校(小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校)の教員は5,458人です。同年の公立学校の本務教員数は916,929人です。よって,精神疾患による休職率は,前者を後者で除して,6.0‰となります。167人に1人です。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/1300256.htm

 私は,1986年度から2009年度までの率の推移を明らかにしました。各年度の休職者数(分子),本務教員数(分母)とも,文科省のサイトや『教育委員会月報』のバックナンバーより得ています。なお,全国の推移線と同時に,大都市の東京のそれも明らかにしています。


 精神疾患による教員の休職率は,1986年では1.1‰でした。10年を経た1995年でも1.3‰です。上昇するのはその後であり,2000年には2.4‰,2005年には4.5‰となり,2009年の6.0‰に至っています。1990年代半ば以降,教職の危機状況が濃厚になってきたことがうかがえます。

 次に,東京の休職率をみると,どの年度でも,全国値より高くなっています。90年代半ば以降上昇する傾向は全国と同じですが,東京の場合,2002年以降,値がグンと伸びていることが特徴です。2002年度の率は3.0‰であったのが,2009年度では9.0‰と,3倍にもなっています。

 この時期,都市部において,学校に理不尽な要求を突きつける「モンスター・ペアレント」が問題化したといいますけれども,そのことの反映でしょうか。東京都教育委員会が,モンスター・ペアレントに関する実態調査の結果を公にしたのは,2008年9月のことです。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/pr080918j.htm

 2009年度における,公立学校教員の,精神疾患による休職率を県別に出すと,上位5位は,沖縄(11.7‰),大阪(9.4),東京(9.0),広島(8.8),大分(8.1),です。下位5位は,低い順に,兵庫(2.4),山梨(2.7),群馬(2.8),茨城(2.9),および秋田(3.2)です。下に,地図を示します。


 申しておくべきことは,精神疾患による休職率と都市性との間にリニアな相関関係はない,ということです。5月10日の記事でみたように,小学校の若年教員の離職率は,高学歴人口が多い県ほど高い,という傾向がありました。そういう県では,住民の要求水準が厳しい,ということだと思われます。ですが,ここでみている休職率は,各県の高学歴人口率とは無相関でした。

 上記の休職率は,性質を異にする全学校種を一括したものであるためかもしれません。離職率のように,小学校なら小学校だけの休職率が県別に分かれば,何かしらクリアーな傾向が出てくるかもしれません。

 次回は,性別,学校種別,職種別,そして年齢層別の統計をみてみようと思います。*8月29日の記事では,精神疾患を理由とした教員の離職率を明らかにしています。よろしければ,こちらもご参照ください。