2011年11月20日日曜日

指導が不適切な教員

文科省の『教育委員会月報』(第一法規)を定期購読しています。先日届いた,2011年11月号によると,2010年度間に「指導が不適切」と認定された教員の数は208人だそうです。

 当局の定義によると,指導が不適切な教員とは,「知識,技術,指導方法その他教員として求められる資質,能力に課題があるため,日常的に児童等への指導を行わせることが適当ではない教諭等のうち,研修によって指導の改善が見込まれる者であって,直ちに後述する分限処分等の対象とはならない者」とされています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/08022711/003.htm

 2007年の教育公務員特例法の改正により,指導が不適切と認定された教員は,指導の改善を図るための研修(指導改善研修)を受けることが義務づけられています(第25条の2)。この研修を経ても,指導の改善が不十分と認定された場合は,任命権者により,「免職その他必要な措置」が講じられます(第25条の3)。

 冒頭の資料によると,指導が不適切と認定された教員の数は,以下のように推移しています。公立学校(小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校)の統計です。


 最近10年間の統計ですが,ピークは2004年度の566人であり,その後は減少の傾向です。2010年度の数字は,さして多いものとは判断されません。

 2010年度間の認定者のうち,同年度に指導改善研修を受けた者は140人です(残りは次年度以降の研修対象者)。この140人にどういう裁定が下されたかをみると,現場復帰が62人,研修継続が30人,退職等が35人,その他が3人,となっています。

 研修対象者の現場復帰率は44.3%です。残りの半分以上が職場復帰を果たし得ず,退職等の形で職を辞した者が25%(4分の1)います。このほど導入された指導改善研修は,受講しさえすればよいというような形式的なものではなく,それなりに厳格に運用されていることがうかがれます。

 指導が不適切と認定されると,いろいろと厄介なようです。はて,こうした不名誉の烙印を押される確率は,どういう属性の教員で高いのでしょうか。年齢別でいうと,ケツの青い若年教員で認定率が高いような気がします。

 私は,冒頭の資料から,2010年度間の認定者数を,学校種別,性別,および年齢層別に明らかにしました。それを,それぞれの属性カテゴリーのベース(本務教員数)で除して,認定率を計算しました。ベースの数字は,同年度の文科省『学校基本調査』より得ました。

 下表は,公立学校の教員について,指導が不適切と認定された者の出現率を出したものです。年齢層別のベースの数字(a)は,60代と管理職(校長,副校長,教頭)を除いていますので,合計と一致しないことを申し添えます。


 まず,2010年度の認定者数208人が,公立学校全体の本務教員数のどれほどに相当するかをみると,10万人あたり23.1人です。約分すると,4,329人に1人。近年の自殺率(≒10万人あたり25人)と同じくらいの水準です。低いのですねえ。

 教員の属性別ではどうでしょう。学校種別では,中等教育学校を別にすると,中学校の出現率が最も高くなっています。性別では,男性が女性の3倍以上です。

 下段の年齢層別の箇所に目をやると,先の予想に反して,指導が不適切な教員の出現率は,年齢が上がるほど高くなっています。50代の出現率(44.1)は,20代の4倍以上であり,他のどの属性の率をも凌駕しています。

 6月3日の記事でも書きましたが,教員をとりまく近年の状況変化(教員評価の導入,住民の学校参画・・・)に対し,最も戸惑いを抱いているのは,長年異なる状況下で教職生活を営んできた50代の教員なのではないかと思われます。

 自分のやり方に固執するあまり,結果として,「指導が不適切」という烙印が・・・。こういうケースも少なくないのではないかと思います。

 私が非常勤をしている某大学では,学生の授業評価(意見,改善要望含む)に対する,教員のリプライをまとめた冊子が,学生ラウンジ等に置いてあります。それをみると,年輩の教授ほど,「回答の必要を認めず」,「学生のほうに問題があるのではないか」,というような(反発的な)コメントが多いように感じます。

 うーん。こうみると,上記の年齢層別のデータも,さもありなん,という感じです。まあ私も,性格はかなり頑固で,人の意見に素直に耳を傾けるタイプではないで,気をつけないといけないなあ,と自戒するところです。

 一つ,興味があるのは,上記の出現率を学歴別にみるとどうかです。指導が不適切と認定される確率は,大学院卒の教員と学部卒の教員とでは,どちらが高いのでしょうか。もしかすると,前者のほうが高かったりして。また,教員養成系大学卒業者と一般大学卒業者とで,どう違うかも気になります。大学(院)における教員養成の効果を検証する上でも,こうしたデータの公表を望むものです。