2012年7月5日木曜日

現代の世相の暗いイメージ①

「現在の世相をひとことで言えば,暗いイメージとしては,どのような表現が当てはまると思いますか?」。内閣府が毎年実施する『社会意識に関する世論調査』の中に,このような設問があります。いくつか選択肢を提示し,複数選択で答えてもらうものです。
http://www8.cao.go.jp/survey/index-sha.html

 私は,以下の2つの選択肢を選んだ者の比率が,1990年代以降どう変化してきたのかを跡づけてみました。

 「暗い」
 「不安なこと,いらいらすることが多い」

 90年代以降,日本社会に暗雲が立ち込めてきたことは,多くの人が認めるところです。世相を「暗い」と感じる人間が増えてきていることでしょう。また,国民の間に不安やイライラがつのってきているであろうことも容易に想像できます。

 下図は,1990年から2012年までの選択率の変化を,隔年でたどったものです。


 「暗い」の選択率はデコボコしていますが,大局的には増加傾向です。伸びが顕著なのは90年代の後半です。「98年問題」に象徴されるように,わが国の経済状況が大きく悪化した時期と重なっています。2008年から10年にかけての増加は,リーマンショックの影響によるものでしょう。

 「不安,イライラ」の選択率は,1994年から96年にかけてグンと上がります(17.9%→27.4%)。両年の間の95年には,恐ろしい出来事が2つありました。1月の阪神大震災,3月のオウムサリン事件です。こうしたことが,人々の不安を掻き立てたことと思われます。以後,この項目の選択率は3割前後で推移しています。

 次に,年齢層別の様相を観察してみましょう。久々に,「時代×年齢」の社会地図の登場です。それぞれの年における各年齢層の選択率を,色の違いから読み取ってください。まずは,「暗い」を選択した者の比率です。


 90年代の後半にかけて,全般的に高率ゾーンに移行してきます。今世紀以降では,黒色の膿(選択率15%以上)も目立っています。10年前では,黒色は主に中高年層の部分にありましたが,最近では,若年層にまで広がってきています。

 現在の世相を「暗い」と感じる者が,年齢を問わず増えていることが知られます。このことは,社会全体に暗雲ムードが立ち込めていることと同義です。


 続いて,「不安,イライラ」の様相です。こちらも,全般的に怪しい色が広がってきています。
2004年から10年では,若年層の部分に黒色の膿がみられます。この時期では,20代から30代前半の若者の4割近くが,世相の暗部を「不安,イライラ」に見出していたようです。

 リーマンショックによる派遣切りなどが問題化した頃です。若者の「不安,イライラ」が急増したというのも合点がいきます。2008年の6月には,東京の秋葉原で,26歳の派遣労働者による無差別殺傷事件も起きました。

 最近は,この項目の選択率がちょっと下がっていますが,先月の10日,大阪で37歳の無職男性による通り魔事件が起きています。人々,とりわけ若者の間に蔓延する「不安,イライラ」は相当のものです。

 上図の模様は,格差社会化に象徴される,現代日本社会の病理を表現しているものとも読めるでしょう。色が濃い部分が病巣です。

 次回は,別の項目の選択率をみてみます。