2012年7月12日木曜日

大学への編入学

ちょっと話題を変えましょう。わが国の学校教育では,「編入学」という制度が設けられています。「学校を卒業した者が,教育課程の一部を省いて途中から履修すべく他の種類の学校に入学すること」です(文部科学省)。編入先では,途中年次からの入学となります。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111315.htm

 どの学校への編入が多いかというと,ほとんどが大学です。大学に編入できるのは,①短期大学卒業者,②高等専門学校卒業者,③専修学校専門課程修了者,とされています(学校教育法)。

 高卒時点では,一つの専攻を短期間で学びたいと短大に進学したが,その後,勉学をもっと深めたくて4大に行きたい,と思う者もいるでしょう。しかし,4大の1年次から入り直すのは,時間的にも金銭的にも大変です。編入制度を使えば,短大での2年間の学習の上に,4大の3・4年次の学習をうまく積み上げることができます。

 編入学制度は,高等教育機関の間での移動可能性(Mobility)を保証する機能を果たしています。この制度の利用者はどれほどいるのでしょう。この点は,文科省の白書などでは紹介されていないようです。当局の原資料にあたって,数を明らかにしてみました。

 同省の『学校基本調査報告』(2011年度)によると,同年度中の大学編入学者の内訳は,短大からが5,839人,高専からが2,769人,専修学校からが1,977人となっています(夜間大学への編入者含む)。合計すると,10,585人なり。

 この数字の性格を知るために,過去からの推移をたどってみます。文科省の上記資料では,大学への編入学者の数が,1983年度より計上されています(専修学校からの数は,1999年度より計上)。この年以降の推移をグラフ化すると下図のようです。


 大学への編入学者は,1990年代にかけて大きく増えています。ピークは,2000年度の18,031人です。その後は減少傾向にあり,2011年度の10,585人に至っています。

 なお,グラフをみてお分かりかと思いますが,最近の減少の主要因は,短大からの編入者が減っていることです。2000年度は14,388人でしたが,2011年度は5,839人となっています。3分の1近くにまで萎んでいるのです。

 しかるにこれは,短大の卒業者そのものが減っていることによります。近年の短大の苦境は広く知られています。編入者が卒業生に占める比率(編入率)を出すと,短大は,ここ10年は9%ほどで推移しています。短大と高専の編入率の推移を折れ線グラフで示しておきます。


 編入率にすると,一貫して増加の傾向です。現在値は,短大でほぼ1割,高専でほぼ3割。これらの学校の卒業後の進路において,大学への編入のウェイトが小さいものではないことがうかがわれます。

 先にもいいましたが,今の短大は大変な苦境に立たされています。学生数も激減しています。2年間しか学べない(遊べない)・・・。当の学生にすれば,こういう思いがあるのでしょう。教育を受けさせる保護者は,わが子には4年間しっかり学ばせたい,と考えるのでしょう。少子化(兄弟数減少)により,保護者のこうした思いはますます強くなっているものと思われます。

 しかるに,在学期間が短いことは,短大の長所と捉えることもできるでしょう。考えてみれば,4大で興味を持てない勉強に4年間も付き合うのは苦行です。それに耐えられず中退してしまう者も多くいます。

 その点,短大の場合,2年間で集中して学んでみて,もう勉強とおさらばしたいと思ったら就職,もっと学びたいと思ったら4大に編入すればよいわけです。

 短大では,大きなリスクを冒すことなく,自分の適性を見極める(目標を定める)期間を享受することができる,という見方も可能です。短大の卒業生には,多くの選択肢が用意されています。今回のデータでみたように,4大への編入可能性だって広がってきています。もしかしたら,国立大学への編入という「学歴ロンダリング」も容易であったりして・・・。

 『短大ファーストステージ論』(東信堂,1998年)という本があります。短大を,さまざまな道に進む前の第一段階(ファーストステージ)とみなす考え方が提起されています。短大のこうした側面を見直し,今こそ,それを強調すべきであると思います。

 話をちょっと広げると,高卒後の教育(中等後教育:Post Secondary Education)を担う機関は大学だけではありません。短大,各種の職業訓練機関,省庁所管の大学校など,きわめて多様な機関があります。専門の研究者であっても,その全貌を把握している者はそう多くはないでしょう。

 となれば,実際の進路指導に当たっている現場の先生方の状況は推して知るべし。「大学,短大,専門 or 就職」という4択しか頭にない人も多かったりして。

 中等後教育機関の間の移動可能性は開かれています。袋小路というケースはありません。進路指導の先生方は,18歳の生徒に対し,多様な選択肢を提示してほしいものです。そのためには,知識が必要になります。

 教職課程の「進路指導論」の授業では,わが国の複雑極まる中等後教育の構造に関する内容も盛り込むべきなのだろうな。しかるに,ネット上のシラバスをざっとみた限りでは,そういう内容はあまり取り上げられていないようです。手元の標準テキストをみても然り。これって一体・・・。